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木村の理論化学小ネタ 熱化学方程式と反応熱の分類発熱反応と吸熱反応化学反応は, 反応の前後の物質のエネルギーが異なるため, エネルギーの出入りを伴い, それが, 熱 光 電気などのエネルギーの形で現れる とくに, 化学変化と熱エネルギーの関

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定義 -2/3 リチウム金属のセル数 NumberOfLithiumMe talcells Integer 1 商品に含まれるリチウム金属のセル数を入力正数 リチウムイオンのセル数 NumberOfLithiumIon Cells Integer 2 リチウムイオンのセル数を入力正数 必須 / リチ

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必要があれば, 次の数値を使いなさい 原子量 O= 標準状態で mol の気体が占める体積. L 問題文中の体積の単位記号 L は, リットルを表す Ⅰ 次の問いに答えなさい 問 飲料水の容器であるペットボトルに使われているプラスチックを, 次の中から つ選び, 番号をマークしなさい ポリエチレン

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EOS: 材料データシート(アルミニウム)

注 ) 材料の種類 名称及び使用量 については 硝酸化成抑制材 効果発現促進材 摂取防止材 組成均一化促進材又は着色材を使用した場合のみ記載が必要になり 他の材料については記載する必要はありません また 配合に当たって原料として使用した肥料に使用された組成均一化促進材又は着色材についても記載を省略す

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リチウムイオン二次電池用のコバルトを含まない正極材料を開発 - 鉄を 20 % 含む酸化物を用いて既存正極材料に近い放電電圧を実現 - 平成 21 年 8 月 17 日 独立行政法人産業技術総合研究所 株式会社田中化学研究所 ポイント 湿式化学製造法により リチウム 鉄 ニッケル マンガンからなる酸化物正極材料を開発 希少金属であるコバルトを含まず 3.5-3.7 V と既存正極 (4.0 V) に近い作動電圧を実現 鉄の活用により 電動車両用リチウムイオン二次電池の省資源化 低コスト化に期待 概要 独立行政法人産業技術総合研究所 理事長野間口有 ( 以下 産総研 という ) ユビキタスエネルギー研究部門 研究部門長小林哲彦 蓄電デバイス研究グループ 研究グループ長辰巳国昭 田渕光春主任研究員 竹内友成主任研究員 先進製造プロセス研究部門 研究部門長村山宣光 結晶機能制御研究グループ秋本順二研究グループ長と 株式会社田中化学研究所 代表取締役田中保 ( 以下 田中化学 という ) 研究開発部解析チーム今泉純一チームリーダーは 共同で 酸化物中全遷移金属量の 20 % に資源的に豊富で安価な鉄を用いた 2 種類のリチウムイオン二次電池用新規コバルトフリー酸化物正極材料 (Li 1+x (Fe 0.2 Ni 0.4 Mn 0.4 ) 1-x O 2 と Li 1+x (Fe 0.2 Ni 0.2 Mn 0.6 ) 1-x O 2 ) を開発した これらは希少金属であるコバルトを含まず また 鉄を多く含むにもかかわらず放電電圧は 3.5-3.7 Vと以前に産総研が開発した酸化物正極材料 (Li 1+x (Fe 0.5 Mn 0.5 ) 1-x O 2 放電電圧 3.0 V) より大幅に改善され 既存の正極材料であるLiNi 1/3 Mn 1/3 Co 1/3 O 2 やLiNi 1/2 Mn 1/2 O 2 の放電電圧 4.0 Vに近づいた これまで資源量や価格面で有利であるが酸化物正極材料への導入は困難とされてきた鉄が活用でき 電気自動車 ハイブリッド車等の電動車両用リチウムイオン二次電池の省資源化 低コスト化につながるものと期待される なお 本技術の詳細は 2009 年 11 月 30 日 ~12 月 02 日に国立京都国際会館にて開催される第 50 回電池討論会で発表される 本成果は 独立行政法人新エネルギー 産業技術総合開発機構 (NEDO) の委託研究 次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発 (Li-EAD プロジェクト ) 高容量 低コスト新規酸化物正極材料の研究開発 ( 平成 19 年度から 21 年度 ) の一環で得られたものである は別紙 用語の説明 参照 - 1 -

図 1 今回開発した正極材料 ( 赤 青 ) と以前に開発した正極材料 ( 黒 ) の 5 V 充電後の初期放電曲線 開発の社会的背景 最近 環境問題 省エネルギーに関する意識の高まりから 電気自動車やハイブリッド車に代表される電動車両が注目されている 電動車両用の電源には 主にニッケル- 水素電池が用いられているが 電池重量や体積あたりに貯蔵 放出できる電気エネルギー ( エネルギー密度 ) に優れるリチウムイオン二次電池の採用が始まっている リチウムイオン二次電池は 携帯電話 ノートPC 用として日本の電池メーカーを中心に研究開発や生産が行われてきたことから 諸外国での電池生産が盛んになってきている現在も 技術的には日本が優位に立っている 車載用リチウムイオン二次電池の普及には 安全性確保はもちろん 一層の高性能化と低コスト化が求められる 特に低コスト化のためには正極 負極 電解質などの材料をより安価なものに代替する必要があり 中でもリチウム遷移金属酸化物である正極材料は 多くの材料で希少金属であるコバルトが使用され 電池の構成材料の中でも最も高価なものの一つである そのため 現行のリチウムイオン二次電池に対する性能の低下を抑えながら 原材料 ( 酸化物 ) 価格換算でコバルトの約 1/10 の鉄 約 1/8 のマンガン 約 1/4 のチタン等の安価で資源的に豊富な金属元素からなる正極材料へと代替することが求められている しかしながら安価で高性能な代替正極材料として決定的なものは見いだされておらず その開発が強く望まれている 研究の経緯 産総研は 安価で毒性が低く資源的に豊富な 鉄やチタンをリチウムイオン二次電池の酸化物正極材料に利用するため 鉄やチタンを含むマンガン酸化物の研究を行ってきている (2004 年 - 2 -

10 月 21 日 2004 年 11 月 22 日 2006 年 11 月 6 日プレスリリース ) 鉄含有マンガン酸化物に関しては分析電子顕微鏡等を用いた充放電機構解明も行っており 鉄の働きや 試料の化学組成 作製条件と充放電容量の関係などを見いだしてきている (2008 年 8 月 18 日プレスリリース ) これまで酸化物正極材料に鉄やチタンが利用されてこなかったのは これらの元素を含む材料の充放電特性が 製造プロセス依存性が高く 固相反応等の通常の製造プロセスでは 良好な充放電特性を有するものが得られていなかったためである 特に粒子径制御は重要で 粒子径が小さいものほど放電容量が大きくなることがわかってきた 産総研は 2007 年から共沈物製造プロセスに豊富なノウハウをもつ田中化学と共沈工程などの合成プロセスを工夫することで鉄やチタンをマンガン酸化物に固溶させた新規酸化物正極材料の共同開発を行ってきている 研究の内容 産総研でこれまで開発してきた酸化物正極材料は鉄 マンガン チタンなどを用いており 素材コストや資源の豊富さの点から有利であるが 平均放電電圧が 3.0 V と低く 既存の正極材料である LiNi 1/3 Mn 1/3 Co 1/3 O 2 やLiNi 1/2 Mn 1/2 O 2 の平均放電電圧 4.0 V との差が大きい そこで今回 平均放電電圧向上のために 電池分野で比較的多く用いられているニッケルを 鉄含有マンガン酸リチウム (Li 2 MnO 3 ) 系に導入した ニッケルは 原材料 ( 酸化物 ) 価格換算でコバルトの約 1/2 ~1/3 に相当するコバルトより安価な元素である ニッケル量は全遷移金属あたり 40 % 以下になるように また鉄を全遷移金属量あたり 20 % 以上含むように 以下の 2 種の正極材料を作製した Li 1+x (Fe 0.2 Ni 0.2 Mn 0.6 ) 1-x O 2 (0<x<1/3)( 以下 材料 A という) Li 1+x (Fe 0.2 Ni 0.4 Mn 0.4 ) 1-x O 2 (0<x<1/3)( 以下 材料 B という) 材料 Aは これまで開発してきた鉄含有 Li 2 MnO 3 系 (Li 1+x (Fe y Mn 1-y ) 1-x O 2 固溶体 (0<x<1/3, 0<y<1) に 鉄だけではなく 鉄とニッケルを 1:1 の割合でLi 2 MnO 3 に対する電気化学的活性化元素として導入したものである 材料 Bは 母体となる正極材料を 3 V 級のLi 2 MnO 3 から 4V 級のLiNi 1/2 Mn 1/2 O 2 に変更して鉄を導入したものである 正極材料の製造は 産総研で開発した共沈 - 水熱 - 焼成法を基本とした (1) 共沈工程 : 所定の硝酸鉄 硝酸ニッケル 塩化マンガンの混合水溶液を冷却後 エタノールを加えて不凍化した水酸化リチウム水溶液に滴下する 得られた沈殿を室温で湿式空気酸化して 鉄 -ニッケル-マンガン共沈物を作製する (2) 水熱工程 : 鉄 -ニッケル-マンガン共沈物を 水酸化リチウム 水酸化カリウム 塩素酸カリウムを含む蒸留水に投入し オートクレーブ内 ( 温度 220 圧力約 2 MPa) で 48 時間水熱処理を行う (3) 焼成工程 : 水熱処理した共沈物を水酸化リチウム溶液に分散後 蒸発乾固 粉砕する 電気炉により 700 または 750 大気または窒素気流中で 20 時間焼成し 生成物を粉砕 水洗 ろ過 乾燥して正極材料を製造した この方法により 最も重要な 遷移金属イオンの均一な分布を確保しつつ 比較的低い温度で焼成を行うことが可能となり 結果として高温焼成に伴う粒成長により充放電特性が大幅に劣化する鉄の活用が可能となった 特に共沈工程では 沈殿形成後の湿式空気酸化が高品質な試料の安定製造のための鍵の一つであり 試料全体で均一に行われるように酸化工程を改良した また水熱処理時間を長時間にすることで さらに均質な試料となるようにした さらにこの方法を用 - 3 -

いることにより材料 A Bともに既存の 4 V 級正極材料であるLiNi 1/3 Mn 1/3 Co 1/3 O 2 やLiNi 1/2 Mn 1/2 O 2 と同様の層状岩塩型 Li 2 MnO 3 構造をとることができるようになった 材料 A( 窒素気流中 750 で焼成 ) の充放電特性のうち 5 V 充電後の放電曲線を図 1 に示す 初期充電容量 349 mah/g 初期放電容量は 255 mah/g 初期平均放電電圧は 3.46 V であった 充放電容量は表 1に示すように 4 V 級の既存正極 (LiNi 1/3 Mn 1/3 Co 1/3 O 2 ) の容量 220 mah/g( 文献値 ) と同程度である また放電電圧も従来開発品 (Li 1+x (Fe 0.5 Mn 0.5 ) 1-x O 2 ) より 0.5 V 高い 材料 B( 窒素気流中 750 で焼成 ) の充放電特性のうち 5 V 充電後の放電曲線を図 1 に示す 初期充電容量 261 mah/g 初期放電容量は 187 mah/g 初期平均放電電圧は 3.67 V であり 充放電容量は表 1に示すように 4 V 級の既存正極 (LiNi 1/2 Mn 1/2 O 2 ) の容量 200 mah/g( 文献値 ) と同程度である また放電電圧も従来開発品より 0.7 V 高い これらの鉄を含む正極材料は 平均放電電圧が若干低いだけで 既存の正極材料と同様の充放電特性を示し また 20 サイクル経過後の充放電曲線の形状が相似形を維持していること 20 サイクル後も 材料 A で初期放電容量の 76 % 材料 B で 65 % を維持していることから 車載用のリチウム二次電池の正極として期待される 表 1 材料 A および B の充放電特性データと既存正極および従来開発品との比較 材料名 初期充放電容量 初期放電平均電圧 材料 A 250 mah/g 以上 3.46 V LiNi 1/3 Mn 1/3 Co 1/3 O 2 220 mah/g 4 V 材料 B 180 mah/g 以上 3.67 V LiNi 1/2 Mn 1/2 O 2 200 mah/g 4 V 従来開発品 250 mah/g 以上 3.0 V 今回開発した正極材料系と他の正極材料の遷移金属組成と平均放電電圧を比較したものを図 2 に示す 横軸は全遷移金属量に対する鉄 マンガン チタンの割合 ( 全遷移金属量からコバルトとニッケルの含有量を差し引いた値 ) であり 低コスト 省資源元素の含有率に対応する 一方 縦軸は初期平均放電電圧であり 4 V 級の既存正極との電位整合性に対応する 今回開発した正極材料は 産総研が従来開発した遷移金属が鉄 マンガン チタンだけの 3 V 級正極材料 ( 従来開発品 ) よりも放電電圧が 0.5V 以上高く より既存正極に近い 一方でニッケルを含むことは低コスト化の阻害要因になるが 既存正極に比べニッケル量は同程度でコバルトを含まず 資源的に最も豊富で安価な鉄を含むため 既存正極の代替材料となる可能性が高い 4 V 級の既存正極から今回開発した 3.5-3.7 V 級に代替することにより 正極材料の低コスト化 省資源化を図りつつ 従来開発品に比較して鉄を含む酸化物正極の早期の実用化が期待できる - 4 -

図 2 今回開発した正極材料の初期放電平均電圧と全遷移金属量に占める鉄 マンガンおよびチタン量の割合の関係と 2 種の既存正極材料や従来産総研が開発した 3 種の正極材料との比較 今後の予定 今後は 安定した試料作製を可能とし 2010 年の早い時期に電池メーカー等産業界へサンプル提供できるようにしたい また さらに鉄含有量の多い試料でも良好な充放電特性が得られるように酸化物の組成や作製条件の研究開発を続ける 用語の説明 遷移金属周期律表において 3A から 7A 8 および 1B 族の元素の総称であるが ここでは周期律表第 4 周期の Sc から Cu までの d 電子数 1 個以上 9 個以下の元素を指している 種々の酸化数を取りやすいこと等からリチウムイオン二次電池正極材料の構成金属として用いられている リチウムイオン二次電池現行の二次電池の中で最も高い作動電圧 (3-4 V) をもち 正極材料にコバルト酸リチウムなどのリチウム含有遷移金属複合酸化物 負極材料として黒鉛系炭素材料 非水系電解液を構成材料とした二次電池 充電時に正極から負極へ 放電時に負極から正極へリチウムイオンが移動することにより電池として作動する 1990 年代初めに日本で実用化され 電池体積あるいは重量当たりに取り出せる電気量 ( エネルギー密度 ) が他の二次電池系に比べ格段に大きいことから 携帯電話 ノートPC 等のモバイル機器の電源として必要不可欠なものとなっている 生産の多くは日本の電池メーカーが行っているが最近は諸外国企業からの追い上げが激しくなっている - 5 -

正極材料電池の + 極側を構成する材料 リチウムイオン二次電池の場合 負極にリチウムイオンを含まない炭素材料を用いるため 正極材料にはコバルト酸リチウム (LiCoO 2 ) ニッケル酸リチウム(LiNiO 2 ) リチウムマンガンスピネル (LiMn 2 O 4 ) 等のリチウムイオンを含む遷移金属酸化物が用いられている 現行電池では ほとんどがコバルト酸リチウムが採用されているが 最近のコバルト原料価格の高騰や電池の低コスト化の要求に応えるため 正極内のコバルト量低減のために LiNi 1/3 Mn 1/3 Co 1/3 O 2 やLiNi 1/2 Mn 1/2 O 2 が検討されている 正極材料の充放電時のリチウムイオン出し入れの量が電池の容量を 出し入れ時の電圧が電池電圧を決定づけるため 正極材料開発はリチウム二次電池の中で特に重要である 放電電圧二次電池の放電時に取り出せる電圧のこと この値が大きいほど性能が良いことを示す ニッケル- 水素電池水酸化ニッケルを正極とし 水素吸蔵合金を負極とし 電解質として水酸化カリウム水溶液を用いた二次電池 リチウム遷移金属酸化物リチウムと遷移金属を陽イオンとし 酸化物イオンを陰イオンとした化合物 リチウムを含み かつリチウム量とともに遷移金属イオン価数が変化しうることから リチウムイオン二次電池正極材料に適している 充放電容量二次電池の充電 放電時に消費したり取り出したりできる電流値と時間の積 (mah あるいは Ah で表記 ) 正極材料に関しては 正極材料重量当たりとして mah/g として表す この値が大きいほど性能が良いことを示す リチウムイオン二次電池正極材料の場合 正極材料から可逆的に脱離 挿入可能なリチウム量に対応している 固相反応構成金属原料 ( 固体 ) を混合して 焼成することを通じて固体間で反応を起こさせることにより目的物質を得る方法 共沈工程 2 種類以上の溶液内の金属イオンを同時に沈殿させて両者の仕込み比率の保たれた均質な沈殿 ( 共沈物 ) を作製する工程 ここでは沈殿を空気酸化により熟成する工程も含めている 固溶体 2 つ以上の成分が均一に溶け合っている固体 化合物とは異なり 組成物質量の比がある範囲で連続的に変わることができる 1 つの成分の原子の間にある空間的なすきまに 他の成分の原子が入り込むタイプと 1 つの成分の原子を他の成分の原子で置き換えたタイプとがある - 6 -

不凍化 溶液を目的温度まで冷却しても凍らないように 目的温度より低い温度においても液体の状態を保つ 溶媒を不凍液として添加しておくこと 湿式空気酸化生成した共沈物を 溶媒から取り出すことなく そのまま空気を吹き込みながら攪拌する操作のこと 水熱工程 2 種以上の原料を含む溶液を密閉容器内に入れ 水の沸点 (100 ) を超える温度で加熱後冷却することにより両者を液相中で溶解 反応析出させて均一な生成物を得る方法 上記の共沈工程で完全に金属イオン分布を均質化できない場合でも本方法でより均質化できる 乾固溶液中に固体を分散させた後 乾燥により溶媒を蒸発させて固めること 層状岩塩型 Li 2 MnO 3 型構造酸化物イオンを介してリチウムを含む遷移金属イオン層とリチウム単独層が交互に積層した結晶構造 充放電時にリチウムイオンの脱離 挿入が容易であるといわれている コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムが有する結晶構造に類似しているが 遷移金属イオン層内にもリチウムイオンが存在し かつ層内で遷移金属イオンが規則配列していることが特徴 電位整合性得られた材料の平均電圧と 目標とする材料の電圧の近さ - 7 -