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告白 という書物 告白 は 397~400 年頃の著作で 原題はラテン語で Confessiones 動詞の confiteri は 罪を懺悔する 神の恵みを賛美し感謝する という両方の意味がある 懺悔 賛美 感謝という順番が重要 と川添教授 自分が悪いことを認める 悪いところが神の恵みによって正される 助けてくれた神を賛美し 感謝するというわけだ 告白 にはこの 3 つの要素が含まれているという 告白 は全 13 巻からなるが 大きく 3 つに分けられる 第 1~9 巻が過去の自己の告白 第 10 巻が現在の自己の告白 そして 第 11~13 巻が 創世記 冒頭の注釈 創世記 は旧約聖書の第 1 書で 世界と人類の創造などが述べられている 3 つめだけ違和感がありますよね 自叙伝になぜ聖書の注解が含まれるのか と 創世記 冒頭は非常に難解で アウグスティヌスはその後も何度か本を書くほど重要 視していた部分 その注釈を書くことは 自分の聖書への理解度を示すことでもある つ まり 自分自身を語っていることであり ここを含めて自叙伝と呼ぶことは可能です 回心への軌跡 ~ 哲学 マニ教 懐疑主義 32 歳で迎える回心までを 私なりに理解して 7 つのステップに分けています まず第 1 ステップは 感覚的 肉体的 あるいは世俗的欲望にとわれている時期だ 出 世を夢見て当時一番の近道であった修辞学を学び 肉欲に振り回され 観劇への欲求を抑 えきれず 盗むという行為に快楽を覚えた自分を告白している 第 2 ステップは キケロの著作 ホルテンシウス を通しての哲学 ( 知恵への愛 ) への 目覚め この本には 人生において一番大切なことは哲学をすることだと書かれている 自分の人生を 欲望にとらわれた段階から違った境遇へと持っていきたいと思うよう になる この第 1 と第 2 にステップには大きな差がありますね 知恵への欲求を持ったアウグスティヌスは マニ教信者となる これが第 3 ステップ マニ教は 善悪それぞれに神がいるという二元論的世界観を持つ これは非常に合理的 キリスト教には善い神しかいないのに世の中に悪しきことがあふれているのはなぜか という問いに対して 善悪の神が戦っているからだと簡単に説明がつきます 2

しかし第 4 ステップで 懐疑主義に陥る 真理への欲求はマニ教によって満たされたかのように見えたけれど やはり真理など知り得ないのではないかという思いにとらわれるのです ただ 懐疑主義は決してネガティブなものではない と川添教授 懐疑論を表す skepticism は もとのギリシャ語では 探求する の意味 疑念を持ちながらも真理を求め 探求していく態度でもあるのだ 回心への軌跡 ~2 つの邂逅を経て決定的回心へ 第 5 ステップは ミラノ司教であったアンブロシウスとの邂逅である 彼の説教から 聖書の中の神や魂に関する記述について 文字通りの意味ではなく 象徴的に解釈してよ い ということを学んだ 第 6 のステップは 新プラトン主義の書物との邂逅だ 誰しも 在るもの= 物体 が絶対だと思っている しかし 神や魂は目には見えないけれど 在る と言えるもの そうした 物体でないもの の存在を主張する新プラトン主義は その後のアウグスティヌスの哲学的な思想形成に 大きな影響を与えるものだった 同時に回心にとっても重要な出会いでした 物体でない神というものの存在を確信するステップですから いよいよ最後の第 7 ステップだ 実は アウグスティヌスはそこに至ってもなお第 1 ステップを引きずっており 自らそれを 古い意志 と呼ぶ しかし 同時に真理への欲求という 新しい意志 が生まれている 新古の意志がせめぎ合っている時 どこからか 取って読め という言葉が聞こえてきて 側にあった聖書をたまたま開く そこに書かれていたのは何とも神秘的な内容ですが キリスト教的に説明するなら 神が働いた とでも言うのでしょうか そこでようやく決定的な回心に至る 回心は英語で conversion 向き変わる という意 味だ 古い意志を向いていた心が 新しい意志に向き変わる こうしたほうが良いと分か ったことに従って生きるという決意が生じ 生き方 が変わっていくのである 回心後は修辞学教師を辞し 弟子や友人たちと修道院的共同生活を送る さらに ヒッ ポの司教に推されて多忙な生活を送りながらも マニ教論争をはじめドナトゥス派との論 争 ペラギウス論争を繰り広げていく 著作の多くは そうした論争がもとになっている 大きな意味を持つ 3 つの邂逅 3

告白 は実に多くの邂逅にあふれている 人 書物はもちろん 社会環境 心に抱いた疑問 神との出会いもある 邂逅は誰の人生にもあるものだが アウグスティヌスが他と違うのは それらの出会いを自分の中で反省し 吟味して生かした点にある とした上で 川添教授は以下の 3 つの邂逅に注目する まず 1 つめは 父母 との邂逅だ 自分の選択ではないのに なぜこの父母の子どもなのか という疑問は 誰しも感じたことがあるだろう なぜこの時代に生まれたのか もしかり そこで 彼は偶然と必然について考えるわけです 父母がいるから私は存在する ということは必然のように見えるが 根本的には偶然 キリスト教の世界観からすれば 神は自由にこの世界を創造した わけで 理由があって私はここに存在するのではない それでも私は受け入れられ 存在し続けている という思いに至っていく 2 つめは アデオダトゥスの母 との邂逅 アデオダトゥスという息子をもうけた女性とは 15 年以上内縁関係にあったものの 身分の問題から離別し 母の意に叶う少女と婚約する 同女との邂逅が象徴するもの 川添教授によれば 自分の姿との出会い だ 自分の醜さを感じざるを得ない状況に直面しているのです 欲望が自由の足かせとなる状態からどうやって脱することができたのか アウグスティヌスは 自分の力ではない 神が助けてくれたから と自覚するが これこそ決定的な宗教性だ 彼の思想はペラギウス論争の中で明確になっていき 自分の力で善いことができるか という論点において 人間が悪いことをするのは原罪のため それでも善いことができるのは 神が助けてくれるから と主張する 3 つめは 神と自己 との邂逅である 回心後の著書に ただ神と魂とを知りたい という記述がある 魂は自分と置き換えられる 重要なのは 神と魂 の と 神と魂という 2 つのものを別々の方法で知るということではありません アウグスティヌスは多くの邂逅の中で 自分を見つめ 分析することで 自分というものが明らかになった 同時に 自分を越えたところにある神の存在 神の助けを知ることになる 自己の探求によって 自己を超越した神に出会う ということなのでしょう キリスト教の神とは キリスト教の神は人格的な神と言われることが多い その根拠となるのが 英語の 4

personal ラテン語の persona( ペルソナ ) だ キリスト教独自の思想に 唯一の神が父 子 聖霊という 3 つのペルソナを持つ という三位一体がある 3 つのペルソナは独立してあるのではなく お互いが知り合い 関係し合い 理解し合っている そういう神を中心にすることで 人間同士も personal な関係を結ぶことができる 神が結局は 1 つであるように 人間同士もよそよそしい関係ではなく 互いに信じ合い 愛し合えるようになると考える キリスト教の神についての説明で締めくくった川添教授 専門家ではない私の話でしたが 少しでも興味を持ち 告白 を手にとってみたいと いう気持ちになってもらえるとうれしいですね 神の解釈 回心に大きな影響を与えた邂逅 など 後半 になるほどより濃密な話が繰り広げられ 参加者はぐいぐい ひきこまれていった 5