講義の内容 放射線の基礎放射線の単位低線量被曝のリスク放射線防護

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放射線とは 物質を通過する高速の粒子 高いエネルギーの電磁波高いエネルギの電磁波 アルファ (α) 線 ヘリウムと同じ原子核の流れ薄い紙 1 枚程度で遮ることができるが エネルギーは高い ベータ (β) 線 電子の流れ薄いアルミニウム板で遮ることができる ガンマ (γ) 線 / エックス (X) 線

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被ばくの経路 外部被ばくと内部被ばく 宇宙や太陽からの放射線 外部被ばく 内部被ばく 呼吸による吸入 建物から 飲食物からの摂取 医療から 医療 ( 核医学 * ) による 傷からの吸収 地面から 放射性物質 ( 線源 ) が体外にある場合 放射性物質 ( 線源 ) が体内にある場合 * 核医学とは

食品安全委員会はリスク評価機関 厚生労働省農林水産省 食品安全委員会消費者庁等 リスク評価 食べても安全かどうか調べて 決める 機能的に分担 相互に情報交換 リスク管理 食べても安全なようにルールを決めて 監視するルを決めて 2

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講 義 の 内 容 放 射 線 の 基 礎 放 射 線 の 単 位 低 線 量 被 曝 のリスク 放 射 線 防 護

等価線量

放射線の人体への影響

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陰極線を発生させるためのクルックス管を黒 いカートン紙できちんと包んで行われていた 同時に発生する可視光線が漏れないようにす るためである それにもかかわらず 実験室 に置いてあった蛍光物質 シアン化白金バリウ ム が発光したのがレントゲンの注意をひい た 1895年x線発見のきっかけである 2

はじめに 一般社団法人長野県診療放射線技師会では 放射線についての啓発活動をおこなっています その一環として 放射線と被ばくについて理解を深めていただくためにこの冊子を作成しました 放射線についてより理解を深めていただければ幸いです 放射線の種類と性質 放射線にはさまざまな種類があります 代表的な

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2011 年 11 月 25 日 - 低線量被ばく WG 資料 低線量被ばくの健康リスクとその対応 大分県立看護科学大学 人間科学講座環境保健学研究室 甲斐倫明

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防護体系における保守性

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きます そのことを示すのが 半分に減るまでの 半減期 です よく出てくるヨウ素 131 は 8 日で セシウム 137 は 30 年です 半減期を迎えた後は またさらに半分になるまで 半減期 を要することになり これが繰り返されます 2. 放射線の測定 東京工業大学での測定 (1) 放射線の測定放射

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はじめに 放射線 放射能 放射性物質とは 電球 = 光を出す能力を持つ ワット (W) 光の強さの単位 光 ルクス (lx) 明るさの単位 放射性物質 = 放射線を出す能力 ( 放射能 ) を持つ 放射線 ベクレル (Bq) 放射能の単位 換算係数 シーベルト (Sv) 人が受ける放射線被ばく線量の

医療被ばくについて

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目 的 GM計数管式 サーベイメータ 汚染の検出 線量率 参考 程度 β線を効率よく検出し 汚染の検出に適している 電離箱型 サーベイメータ ガンマ線 空間線量率 最も正確であるが シン チレーション式ほど低い 線量率は計れない NaI Tl シンチレー ション式サーベイメータ ガンマ線 空間線量率

第 7 回日本血管撮影 インターベンション 専門診療放射線技師認定機構 認定技師試験問題 Ⅲ 放射線防護 図表は問題の最後に掲載しています 日本血管撮影 インターベンション専門診療放射線技師認定機構

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ガンマ線 (γ 線 ) 簡単に言うと原子核から出てくる電磁波 ( テレビの電波や赤外線 光などの仲間 ) で 電気をもっていません 極めて波長が短く X 線と同じ性質をもっています 詳しくいうと原子核が崩壊したときに必要なくなったエネルギーがガンマ線でアルファ線やベータ線と異なり電荷を持たない放射線

2 チェルノブイリ事故でどんなことが起こったか ( いろんな報告があるが 国連の会議で検討した結果 2008 年に発表された内容による ) ⑴ 緊急作業従事者 134 人が重篤な被ばくにより急性放射線障害を発症した このうち 28 名は致命的な被ばくであった ( 皮膚障害 白内障 ) ⑵ 復興作業員

福島原発とつくばの放射線量計測

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平成18年度サイエンス・パートナーシップ・プログラム(SPP)

病院避難教材.pptx

第 2 章 放射線による被ばく 環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 ( 平成 28 年度版 ) 放射線による被ばく第 2 章

はじめに 放射線と放射性物質の違い 放射線 この液体には放射能 ( 放射線を出す能力 ) がある 放射性物質はそこから放射線を 出します 放射性物質 放射線 放射性物質 放射性物質が体に入ると 体に残ったり 移動したりすることがあります 放射線は体に残りません移動しません

QA- 内部被ばくの特徴は どのようなものですか 内部被ばくの特徴として 放射性核種によって特定の臓器に集まりやすいことがあります 特定の臓器についてはこちら * をご参照ください * 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料上巻第 章 ページしかし 体内に取り込まれた放射性物質は代謝によって

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放射線被ばくによる小児の 健康への影響について 2011 年 5 月 19 日東京電力福島原子力発電所事故が小児に与える影響についての日本小児科学会の考え方 本指針を作成するにあたり 広島大学原爆放射線医科学研究所細胞再生学研究分野田代聡教授の御指導を戴きました 御尽力に深く感謝申し上げます

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スタート! RI119

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報告内容 放射線防護における線量評価の目的 線量の測定 評価の体系 実効線量の概念と線量換算係数の役割 実効線量の評価と放射線モニタリングとの関係 ICRP 2007 年勧告における線量評価に関わる変更点 原子力機構における線量評価研究に関する取り組み まとめ 今後の展望 2

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東電福島原発事故後の放射線防護対策-リスクコミュニケーションの担い手は?-

分子 原子 原子核 分子 電子 同じ元素 ( 陽子数が同じ ) で中性子数の違うものを同位体という 今日知られている同位体は3,000 種以上 核には安定なものと不安定なものがある 中性子陽子 図 1 原子核 原子 原子核 原子では原子核の周りを電子が回っている 原子核は陽子と中性子から構成される

放射線による健康影響の仕組み 低線量の健康影響 問 9 放射線はどのように私たちの健康に影響するのですか? また どの位の量の放射線によって どのような健康影響が出るのですか? p13 問 10 低線量 とはどの位の量の放射線のことを言うのですか? p14 問 11 低線量の健康影響は どこまで解っ

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問題 1. 電離放射線障害防止規則において誤っているのはどれか 1. 規制対象は診療における患者の被曝も含まれる 2. 外部被曝による線量の測定は 1 cm 線量当量 及び 70 μm 線量当量について行う 3. 放射線業務従事者はその受ける実効線量が 5 年間につき 100 msv を超えず かつ

放射線や放射性同位元素などの安全取扱い ( 基礎 ) 安全取扱 ( 基礎 ) 生命資源研究 支援センター古嶋昭博 放射線に関する基礎 1. 放射線の発生放射性同位元素 : 放射性崩壊 放射能 半減期 X 線の発生 :X 線管 2. 放射線の性質放射線の種類 :α 線 β 線 γ 線 X 線 中性子線

飯舘村におけるホールボディカウンタ結果解析 ( 平成 年度施行分 ) 福島県立医科大学放射線健康管理学講座助手 宮崎真 Ver /03/04

エネルギ-と環境 - 原子力の役割とリサイクル -

首都大学東京

以下 50 音順 アクチニド原子番号 89 の元素アクチニウムを代表として 化学的性質が極めて類似した一連の元素の総称 いずれも放射性元素である これに属する元素は アクチニウム (Ac) トリウム (Th) プロトアクチニウム (Pa) ウラン (U) ネプツニウム (Np) プルトニウム (Pu

放射線の測定について

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1. はじめに 1. 放射能 放射線と聞いた時のイメージは? (1) 怖い (2) 危ない (3) 恐ろしい (4) がんになる (5) 白血病 (6) 毛が抜ける (7) 原爆 (8) 奇形 (9) 遺伝的影響 遺伝障害 (10) 原発 (11) 原発事故 (12) 福島事故 (13) 目に見えな

確定的影響 急性放射線症 急性放射線症の病期 被ばく時 時間経過 嘔気 嘔吐 Gy以上 頭痛 4Gy以上 下痢 6Gy以上 発熱 6Gy以上 意識障害 8Gy以上 無症状 発症期 回復期 (あるいは死亡) 造血器障害 感染 出血 消化管障害 皮膚障害 神経 血管障害 全身にグレイ,ミリグレイ 以上の

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広く分布した放射性核種による放射線場 ―モンテカルロ計算コードegs5の活用-

防護の原則 放射線防護体系 科学的知見の収集 評価 放射線安全基準策定 原子力 放射線安全行政 放射線影響研究放射線安全研究 各国の委員会の報告書 ( 全米科学アカデミー (NAS) 等 ) 国際機関世界保健機関 (WHO) 国際労働機関 (ILO) 経済協力開発機構原子力機関 (OECD/NEA)

QA23 一日分の尿ならある程度の被ばく量が推定できると聞き 頑張って子どもの尿を集め 測定してもらいました この測定値から どのように被ばく量を推定するのでしょうか QA24 今回の事故に対してとられている放射線に関する基準は 外国に比べて甘いのではないですか QA25 空

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放射線- 62 -Ⅴ放射能と放射線 懐中電灯 光 光を出す能力 放射能を持つ物質 ( 放射性物質 ) のことを指して用いられる場合もある 放射線に関する単位 放射能の単位 明るさを表わす単位 ルクス (lx) 放射性物質 放射線によってどれだけ影響があるのかを表わす単位 シーベルト

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放射線とは

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東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故直後の平成 23 年 3 月 17 日には 原子力安全委員会の示した指標値を暫定規制値として設定し 対応を行ってきました 平成 24 年 4 月 1 日からは 厚生労働省薬事 食品衛生審議会などでの議論を踏まえて設定した基準値に基づき対応を行っています 食品

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った 3 ヶ国の政府からの情報をもとに更新し チェルノブイリ事故の健康影響および特別ヘルスケア プログラム (Health Effects of the Chernobyl Accident and Special Health Care Programmes) と題する WHO 報告書をまとめた

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1 放射線のホント ってほんとうなの? (中略) 放射線のホント 1 頁甲状腺がんの多発 作業員の肺がん死 被ばくに安全な量はない など 放射線そのものが人々を苦しめています 放射線のホント は放射能影響を風評被害にスリ替えています 放射線のホント 原文を読みながら問題点を考えてみました

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IS(A-3)- 1 - IS 技術情報 (A3) 遮へい計算ソフト IsoShieldⅡ(Standard) の基礎データ核データ表 五十棲泰人株式会社イソシールド IsoShieldⅡ(Basic) には放射性同位元素からの放射線 (α 線 β 線 γ/x 線および内部転換 / オージェ電子 )

福島原発事故はチェルノブイリ事故と比べて ほんとうに被害は小さいの?

1. 原爆被爆者寿命調査 Life Span Study LSS とはいったい何か? 年の国勢調査で広島 崎市内に 1 月時点で住んでいたことが確認された人の中から 選ばれた約 9 万 4000 人の被爆者と 約 2 万 7000 人の 非被爆者 の約 12 万人を対象者として 1

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第90回日本感染症学会学術講演会抄録(I)

放射線量(マイクロシーベルト)と身を守る対応について.doc

意外に知らない“放射線とその応用”

環境発がん物質のリスク評価

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オピニオンリーダーのための熟議型ワークショップ 2012.9.29. 放射線の基礎と防護の考え方 東京大学大学院医学系研究科鈴木崇彦

講義の内容 放射線の基礎放射線の単位低線量被曝のリスク放射線防護

放射線の特徴は? 物質を透過する 線量が大きくなると障害を引き起こす RADIOISOTOPES,44,440-445(1995)

放射線とは? エネルギーです どんな? 原子を電離 励起する または原子核を変化させる能力を持つ エネルギーの形は? ( 粒子線 )α 線 β 線 中性子線 ( 電磁波 光子 )γ 線 X 線 原子が電離するとどうなる? 電子 ( 陰イオン ) が原子からはじき出され 原子がイオン対に分かれます

電子 (-) 放射線 (+) 吸収 核 核 放射線 電離放射線と呼ぶ 原子が電離される 分子 (DNA) であれば結合が切れる化学物質であれば 結合が変わる (3 価 2 価 重合など ) 放射線影響の基本原理

放射線の DNA 障害 1 本鎖切断 放射線 2 本鎖切断 DNA 分子を構成する原子を電離 DNA 修復 修復 放射線の障害密度が大きい 欠損

X 線照射によるヒト細胞の DNA の切断 未処理核 4Gy X 線照射 4hr 細胞 : ヒト腸上皮細胞 抗体 :p53-bp1

放射線の特徴 透過性 ( 力 ) と電離作用 透過性 ( 力 ): 電荷 質量 エネルギーによって決まる 電荷を持つ (α β) 直接相手を電離する ( 直接電離放射線 ) 電荷を持たない ( 中性子 電磁波 ) ( 間接電離放射線 ) 電荷が大きい = 相手と相互作用し易い = 奥に進めない = 透過力が弱い 電荷が無い = 相互作用しずらい = 透過力が大きい 相互作用の相手 : 電磁波 相手の軌道電子 * 中性子 小さな原子核 *

放射線の種類と透過力

放射線のエネルギーを止める 放射線を遮へいする それぞれの放射線は 何と相互作用して効率良くエネルギーを失うか? α 線 何とでも相互作用し易い (+2 の電荷 大きな質量 ) 紙一枚でも遮へいできる β 線 相互作用し易いが α 線ほどではない薄い金属 アクリルなどで遮へいする γ 線 相手原子の電子と相互作用する 電子を多く持つ原子と相互作用し易い 原子番号の大きな原子 鉛中性子線 中性子と同じくらいの大きさの原子核と衝突してエネルギーを効率良く失う 陽子 ( 水素の原子核 ) 水

2. 放射線に関する単位 放射能と放射線影響は別々の単位で表される 放射能 (radioactivity) 放射線を出す能力を表す 単位ベクレル (Bq) ( 定義 )1 秒間に何個の原子が壊変 ( 崩壊 ) するか 1 Bq = 1 disintegration/second (dps) 壊変に伴って放射線が出るので 放射線を出す能力を表す

放射線の ( 人体 ) 影響を表す単位 その前に

放射線には (1) ある線量以上受けないと影響 ( 放射線障害など ) が出ない ( 確定的影響 ) (2) 少ない量でも放射線を受けるとがんになる可能性 ( リスク ) がある ( 確率的影響 ) という 2 つの影響がある (1) は ある温度以上のものに触れると火傷をするのに似ている (2) は 車に乗れば ある確率で事故に遭遇する可能性 ( リスク ) があるのと似ている

(1) ある線量以上受けないと影響 ( 放射線障害など ) が出ない ( 確定的影響 ) たとえば 30 のお湯に手を入れても火傷することはない しかし 90 になると火傷してしまう 火傷 ( 障害 ) は与えられたエネルギーに依存する 放射線の場合 障害を起こす最低線量を しきい線量 または しきい値 とよぶ 影響の単位は吸収線量グレイ (Gy) で表す 物質の質量 1kg あたりに吸収されたエネルギーが 1 ジュール (J) のときを吸収線量 1Gy とする 1 Gy = 1J/kg

(2) 少ない量でも放射線を受けるとがんになる可能性 ( リスク ) がある ( 確率的影響 ) たとえば 交通事故でも バイク 自転車 乗用車 電車 飛行機と 利用する移動手段によってリスクの大きさが異なるのに似ている 放射線の場合 放射線の種類によって がんの起こり易さが異なる 放射線の種類 放射線荷重係数 光子 (γ 線 X 線 ) 1 電子 (β 線 ) 1 陽子 2 α 粒子 核分裂片 重い原子核 20 中性子 2.5~22

放射線の種類だけではなく 放射線を受ける側の ( 人体 ) 組織によって放射線に対する感受性 ( 発がんのし易さ ) が異なる 組織 臓器 組織荷重係数 組織 臓器 組織荷重係数 赤色骨髄 0.12 食道 0.04 結腸 0.12 甲状腺 0.04 肺 0.12 皮膚 0.01 胃 0.12 唾液腺 0.01 乳房 0.12 骨表面 0.01 生殖腺 0.08 脳 0.01 膀胱 0.04 残りの 肝臓 0.04 組織 臓器 0.12 がんは どこにできても個体の死につながる影響と考えると 部分的に被曝した場合でも個体としての影響を評価する必要がある この個体への影響評価は実効線量として表す

つまり 放射線による発がんと遺伝的影響は 1 吸収された放射線のエネルギー 2 放射線の種類 3 どこに吸収されたか の 3 つの要因から算出され 単位はシーベルト (Sv) で表される 実効線量 (Sv)= 吸収線量 (Gy)x 放射線加重係数 x 組織加重係数 組織が複数になれば それぞれの合計

放射線 放射能 放射線影響の単位 ( まとめ ) 放射性物質 (radionuclide) 放射線 (radiation) 放射線の種類組織の感受性 エネルギー (ev) 放射能 (radioactivity) Bq( ベクレル :dps) disintegration/sec 吸収線量 Gy( グレイ ) J/Kg 確定的影響 等価線量 ( 組織 臓器 ) 実効線量 ( 全身 ) Sv( シーベルト ) 確率的影響

放射能は放射性原子固有の時間で半減する 放射能が半減するまでの時間を半減期という 例 U-235 7 億年 U-238 45 億年 C-14 5,730 年 C-11 20.4 分 Cs-137 30 年 I-131 8 日

被ばくの形態 外部被曝 ( 線源が体外 ) 内部被曝 ( 線源が体内 ) α 線 β 線 γ X 線 α 線 β 線 γ X 線 中性子線 人体への影響は 何線を出すか エネルギーの大きさは? どこにあるか ( 対外 体内 ) どれくらい長く体内に留まるかで異なる 放射能 ( ベクレル ) が大きいだけでは判断できない

体内被ばくと体外被ばく 体内被ばくの方が体外被ばくより危険ではないか? という質問 シーベルトで表されれば 体外 体内での区別は無い 137 Cs 体外被曝の指標 (1cm 線量等量定数 ) 0.091μSv m 2 /h/10 6 Bq * 体内被曝の指標 ( 実効線量係数 ) 経口 :1.3 μsv/100bq 吸入 :0.67 μsv/100bq このシーベルトで表された数値は実効線量であり 個体への評価である たとえば 137 Cs で汚染された地区に住み 汚染された空気を吸い 汚染された食べ物を食べれば それぞれに寄与する放射能 (Bq) から その合計として被ばく線量を評価することになる * 通常 体外被ばく線量は 直接 測定器によって測定できる

1 回の体内への取り込みからの被ばく線量は 50 年間の放射能残存量の積分値から計算される 預託線量の概念 取り込んだ放射能 RI は実効半減期に従って体内から指数関数的に消失していく 50 年間 ( 子供は 70 歳まで )

ベクレルとシーベルトが分からない 放射能から被ばく線量への換算 131 I: 606 kev のβ 線 364 kevのγ 線半減期約 8 日 実効半減期乳児 4.63 日 5 歳児 5.94 日 成人 7.27 日甲状腺 ( 約 15g) に取り込んだヨウ素の30% が集積体外被曝の指標 (1cm 線量等量定数 ) 0.065μSv m 2 /h/10 6 Bq 体内被曝の指標 ( 実効線量係数 ) 経口 :2.2 μsv/100bq 吸入 :2.0 μsv/100bq 137 Cs: 514 kevのβ 線 662 kevのγ 線半減期約 30 年 実効半減期 1 歳まで9 日 9 歳まで38 日 成人 90 日全身に分布体外被曝の指標 (1cm 線量等量定数 ) 0.091μSv m 2 /h/10 6 Bq 体内被曝の指標 ( 実効線量係数 ) 経口 :1.3 μsv/100bq 吸入 :0.67 μsv/100bq

食品中 137 Cs の暫定規制値 100Bq/kg(4 月 1 日 ~) たとえば 1kg に 100 ベクレルのセシウムを含む魚を 200g 食べたら どのくらいの被曝線量になるか? 137 Cs の消化管からの ( 経口 ) 摂取による線量係数は 1.3 μsv/100bq だから 1.3 5=0.26μSv ( ちなみに 秋田県の玉川温泉の岩場での線量は 1 時間あたり 1.8~2.3 μsv ) 年間 200 回食べれば 52μSv=0.052mSv ( ちょうど胸部レントゲン写真 1 枚分 ) と 計算できる

低線量放射線によるがん発生リスクの考え方 がん発生増加率 自然発生率 +5% 2.4 ( 自然放射線レベル ) 100 200 UNSCEAR 2010 報告書 原子放射線に関する国連科学委員会 報告書の内容 : 日本の原爆被爆者の全ての癌を総合した結果が被曝線量と発がんのリスクの関係を最も明確に示している 発癌のリスクが統計学的に有意に上昇するのは 100 から 200 ミリシーベルト以上である 疫学的な研究では, これらの被曝線量以下で有意な上昇を示すことはないであろう 1,000 (msv)

低線量放射線によるがん発生リスクの考え方 がん発生増加率 放射線防護 (ICRP) では安全側に考え しきい値の無い直線仮説 を採用 +0.5% 自然発生率 2.4 100 200 (msv) ( 自然放射線レベル )

放射線被曝と日常生活のがんリスク ( 国立がんセンター調べ ) 要因対象比較対象 がんになるリスクの増え方 ( 倍 ) 喫煙 ( 男性 ) 現在の喫煙者非喫煙者 1.6 広島 長崎での放射線被曝 1000 ミリシーベルト被曝無し 1.5 大量飲酒 ( 男性 ) エタノール換算で週 300-449g 時々飲む 1.4 やせ ( 男性 ) BMI:14.0-18.9 BMI:23.0-24.9 1.29 肥満 ( 男性 ) BMI:30.0-39.9 BMI:23.0-24.9 1.22 運動不足 1 日の METs 時が男性 25.45 女性 26.10 1 日の METs 時が男性 42.65 女性 42.65 1.15-1.19 高塩分食品 干物等で 1 日 43g たらこ等で 4.7g 干物等で 1 日 0.5g たらこ等で 0g 1.11-1.15 広島 長崎での放射線被曝 非喫煙女性の受動喫煙 100 ミリシーベルト被曝無し 1.05 夫が喫煙者夫が非喫煙者 1.02-1.03 METs は運動エネルギー消費量が安静時の何倍に当たるかを示す単位 大量飲酒は 1 週間にビールなら大瓶 13-20 本 ワインなら 26-39 杯分

環境基礎疾患ストレス 個人における発がんリスク 大量飲酒 高塩分食 リスクの総和 喫煙 野菜不足 やせすぎ太りすぎ 放射線被ばく

個人の発がんリスク全体の増加 ( 黄色い円の大きさ ) 放射線被ばくのがんリスク 個人の発がんリスク 100 msv 1,000 msv 放射線のみによる発がんリスクの増加

安心や不安はひとりひとりの考え方 人に考えを押しつけられることで解消するものでは無い 知識と知恵で不安を小さくする 世の中にゼロリスクは無い 低線量の被曝を心配するのであれば がんリスク全体の縮小化を考える 野菜不足 運動不足の解消 喫煙量を少なく 線量の把握 漠然とした不安を解消するためには 具体的な数値を確認する 具体的なリスクの大きさを知ることが大切 リスクの ( 大きさ ) を受け入れるためには 具体的な物差しを持つことが必要です 物差しの例 : 健康診断の胸部レントゲン写真 1 枚約 50μSv 年間の自然由来被曝放射線量の変動 1mSv~ 数 msv 程度

放射線の防護の考え方放射線の被ばくはできるだけ避けるのが基本 ICRP( 国際放射線防護委員会 ) の防護基準 1. 被ばくの正当化個人 あるいは社会の利益が放射線の被害を上回るときだけ放射線被ばくが正当化される ( 医療 事故における救助作業など ) 2. 被ばくの最適化基準の設定によって防止できる被害と そのことによって生じる他の不利益の両者を勘案して リスクの総和が最も小さくなるよう最適化した基準をたてること ( 大量の集団避難による不利益 その過程で生じる心身の健康被害など ) 3. 被ばく限度の設定緊急時であれ平時であれ 個人の被ばく線量には限度を設定すること

ICRP2007 年勧告による最適化の目安 ( 急性または年間線量 ) 緊急時救助活動を行う者 500-1000mSv ボランティアによって行われる救助活動に対しては 救命に携わる者のリスクを上回る便益がある場合には 線量を制限しない 緊急時被ばく状況 ( 突発的な非常事態の発生 ) 20~100mSv 現存被ばく状況( 緊急事態が収束に向かっているが 平時より線量が高い ) 1~20mSv 計画被ばく状況 ( 平常時 ) 1mSv/ 年

現存被ばく状況での線量をいかにして受け入れるか リスクの大きさをどう考えるか ( がん ) 検診体制の構築 強化被曝線量の把握 1 日も早い計画被ばく状況 (1mSv/ 年 ) への回帰 困難な場合立入制限区画の設定 小さなリスク ( 潜在的な危険性 ) を受け入れる社会の構築にはリスクコミュニケーションが大切