放射線の人体への影響

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陰極線を発生させるためのクルックス管を黒 いカートン紙できちんと包んで行われていた 同時に発生する可視光線が漏れないようにす るためである それにもかかわらず 実験室 に置いてあった蛍光物質 シアン化白金バリウ ム が発光したのがレントゲンの注意をひい た 1895年x線発見のきっかけである 2

等価線量

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被ばくの経路 外部被ばくと内部被ばく 宇宙や太陽からの放射線 外部被ばく 内部被ばく 呼吸による吸入 建物から 飲食物からの摂取 医療から 医療 ( 核医学 * ) による 傷からの吸収 地面から 放射性物質 ( 線源 ) が体外にある場合 放射性物質 ( 線源 ) が体内にある場合 * 核医学とは

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放射線とは 物質を通過する高速の粒子 高いエネルギーの電磁波高いエネルギの電磁波 アルファ (α) 線 ヘリウムと同じ原子核の流れ薄い紙 1 枚程度で遮ることができるが エネルギーは高い ベータ (β) 線 電子の流れ薄いアルミニウム板で遮ることができる ガンマ (γ) 線 / エックス (X) 線

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防護体系における保守性

2011 年 11 月 25 日 - 低線量被ばく WG 資料 低線量被ばくの健康リスクとその対応 大分県立看護科学大学 人間科学講座環境保健学研究室 甲斐倫明

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第 7 回日本血管撮影 インターベンション 専門診療放射線技師認定機構 認定技師試験問題 Ⅲ 放射線防護 図表は問題の最後に掲載しています 日本血管撮影 インターベンション専門診療放射線技師認定機構

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講義の内容 放射線の基礎放射線の単位低線量被曝のリスク放射線防護

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食品安全委員会はリスク評価機関 厚生労働省農林水産省 食品安全委員会消費者庁等 リスク評価 食べても安全かどうか調べて 決める 機能的に分担 相互に情報交換 リスク管理 食べても安全なようにルールを決めて 監視するルを決めて 2

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問題 1. 電離放射線障害防止規則において誤っているのはどれか 1. 規制対象は診療における患者の被曝も含まれる 2. 外部被曝による線量の測定は 1 cm 線量当量 及び 70 μm 線量当量について行う 3. 放射線業務従事者はその受ける実効線量が 5 年間につき 100 msv を超えず かつ

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はじめに 一般社団法人長野県診療放射線技師会では 放射線についての啓発活動をおこなっています その一環として 放射線と被ばくについて理解を深めていただくためにこの冊子を作成しました 放射線についてより理解を深めていただければ幸いです 放射線の種類と性質 放射線にはさまざまな種類があります 代表的な

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医療被ばくについて

東電福島原発事故後の放射線防護対策-リスクコミュニケーションの担い手は?-

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報告内容 放射線防護における線量評価の目的 線量の測定 評価の体系 実効線量の概念と線量換算係数の役割 実効線量の評価と放射線モニタリングとの関係 ICRP 2007 年勧告における線量評価に関わる変更点 原子力機構における線量評価研究に関する取り組み まとめ 今後の展望 2

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確定的影響 急性放射線症 急性放射線症の病期 被ばく時 時間経過 嘔気 嘔吐 Gy以上 頭痛 4Gy以上 下痢 6Gy以上 発熱 6Gy以上 意識障害 8Gy以上 無症状 発症期 回復期 (あるいは死亡) 造血器障害 感染 出血 消化管障害 皮膚障害 神経 血管障害 全身にグレイ,ミリグレイ 以上の

ガンマ線 (γ 線 ) 簡単に言うと原子核から出てくる電磁波 ( テレビの電波や赤外線 光などの仲間 ) で 電気をもっていません 極めて波長が短く X 線と同じ性質をもっています 詳しくいうと原子核が崩壊したときに必要なくなったエネルギーがガンマ線でアルファ線やベータ線と異なり電荷を持たない放射線

低線量放射線被曝リスクをめぐる最近の動向

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1981 年 男 全部位 C00-C , , , , ,086.5 口腔 咽頭 C00-C

放射線被ばくによる小児の 健康への影響について 2011 年 5 月 19 日東京電力福島原子力発電所事故が小児に与える影響についての日本小児科学会の考え方 本指針を作成するにあたり 広島大学原爆放射線医科学研究所細胞再生学研究分野田代聡教授の御指導を戴きました 御尽力に深く感謝申し上げます

防護の原則 放射線防護体系 科学的知見の収集 評価 放射線安全基準策定 原子力 放射線安全行政 放射線影響研究放射線安全研究 各国の委員会の報告書 ( 全米科学アカデミー (NAS) 等 ) 国際機関世界保健機関 (WHO) 国際労働機関 (ILO) 経済協力開発機構原子力機関 (OECD/NEA)

1. 原爆被爆者寿命調査 Life Span Study LSS とはいったい何か? 年の国勢調査で広島 崎市内に 1 月時点で住んでいたことが確認された人の中から 選ばれた約 9 万 4000 人の被爆者と 約 2 万 7000 人の 非被爆者 の約 12 万人を対象者として 1

放射線量(マイクロシーベルト)と身を守る対応について.doc

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第 2 章 放射線による被ばく 環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 ( 平成 28 年度版 ) 放射線による被ばく第 2 章

アメリカ ( 原子力施設に対する規制 ) アメリカの原子力施設における規制は 原子力規制委員会 (NRC:Nuclear Regulatory Commission) が定める連邦規則 (10 CFR) 規制指針 (Regulatory Guide) NUREG 等の文書に基づき実施されている 発電

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った 3 ヶ国の政府からの情報をもとに更新し チェルノブイリ事故の健康影響および特別ヘルスケア プログラム (Health Effects of the Chernobyl Accident and Special Health Care Programmes) と題する WHO 報告書をまとめた


はじめに 放射線 放射能 放射性物質とは 電球 = 光を出す能力を持つ ワット (W) 光の強さの単位 光 ルクス (lx) 明るさの単位 放射性物質 = 放射線を出す能力 ( 放射能 ) を持つ 放射線 ベクレル (Bq) 放射能の単位 換算係数 シーベルト (Sv) 人が受ける放射線被ばく線量の

病院避難教材.pptx

北海道医療大学歯学部シラバス

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広く分布した放射性核種による放射線場 ―モンテカルロ計算コードegs5の活用-

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東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故直後の平成 23 年 3 月 17 日には 原子力安全委員会の示した指標値を暫定規制値として設定し 対応を行ってきました 平成 24 年 4 月 1 日からは 厚生労働省薬事 食品衛生審議会などでの議論を踏まえて設定した基準値に基づき対応を行っています 食品

以下 50 音順 アクチニド原子番号 89 の元素アクチニウムを代表として 化学的性質が極めて類似した一連の元素の総称 いずれも放射性元素である これに属する元素は アクチニウム (Ac) トリウム (Th) プロトアクチニウム (Pa) ウラン (U) ネプツニウム (Np) プルトニウム (Pu

放射線の人体に与える影響および 放射線とアイソトープの安全取扱の実際Ⅱ   北海道大学大学院医学研究科  加藤千恵次

1. はじめに 1. 放射能 放射線と聞いた時のイメージは? (1) 怖い (2) 危ない (3) 恐ろしい (4) がんになる (5) 白血病 (6) 毛が抜ける (7) 原爆 (8) 奇形 (9) 遺伝的影響 遺伝障害 (10) 原発 (11) 原発事故 (12) 福島事故 (13) 目に見えな

1 放医研は 日本で唯一 世界をリードする かつ 放射線医学の総合的な研究機関 放射線をよく知り 放射線から人の体を守り 放射線により病気を治す

放射線による健康影響の仕組み 低線量の健康影響 問 9 放射線はどのように私たちの健康に影響するのですか? また どの位の量の放射線によって どのような健康影響が出るのですか? p13 問 10 低線量 とはどの位の量の放射線のことを言うのですか? p14 問 11 低線量の健康影響は どこまで解っ

きます そのことを示すのが 半分に減るまでの 半減期 です よく出てくるヨウ素 131 は 8 日で セシウム 137 は 30 年です 半減期を迎えた後は またさらに半分になるまで 半減期 を要することになり これが繰り返されます 2. 放射線の測定 東京工業大学での測定 (1) 放射線の測定放射

QA- 内部被ばくの特徴は どのようなものですか 内部被ばくの特徴として 放射性核種によって特定の臓器に集まりやすいことがあります 特定の臓器についてはこちら * をご参照ください * 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料上巻第 章 ページしかし 体内に取り込まれた放射性物質は代謝によって

抗がん剤を受けられる皆様へ

アウトライン 1.日本診療放射線技師会とは 2.医療被ばく低減に関する主な事業 ①医療被ばく低減施設認定事業について ②レントゲン手帳の運用について ③断参考レベル DRLs2015 の普及について ④放射線管理士認定制度について 3.水晶体投下線量限度の引き下げについて 会員の意見 ①医療被ばく低

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意外に知らない“放射線とその応用”

2 チェルノブイリ事故でどんなことが起こったか ( いろんな報告があるが 国連の会議で検討した結果 2008 年に発表された内容による ) ⑴ 緊急作業従事者 134 人が重篤な被ばくにより急性放射線障害を発症した このうち 28 名は致命的な被ばくであった ( 皮膚障害 白内障 ) ⑵ 復興作業員

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Microsoft Word - 生物_放射線の身体への影響(石井一夫)_査読 docx

別添資料 平成 27 年 9 月 10 日福島県立医科大学 医療被ばく (CT 検査 ) による生体影響に関する発見 研究成果のポイント 1. 1 回の CT 検査 (5.78 msv~60.27 msv) によって染色体異常が誘発されている可能性が示唆された msv 未満の放射線被ば

平成29年度沖縄県がん登録事業報告 背表紙印字

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A 2010 年山梨県がん罹患数 ( 全体 )( 件 ) ( 上皮内がんを除く ) 罹患数 ( 全部位 ) 5,6 6 男性 :3,339 女性 :2,327 * 祖父江班モニタリング集計表から作成 * 集計による主ながんを表示

防護に関する国際組織 放射線防護 国際放射線防護委員会 International Committee on Radiological Protection 放射線防護基本原則具体的方策数値基準 勧告法令制定時の参考情報 を検討 原子放射線の影響に関する科学委員会 United Natioms Sc

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放射線とは

分子 原子 原子核 分子 電子 同じ元素 ( 陽子数が同じ ) で中性子数の違うものを同位体という 今日知られている同位体は3,000 種以上 核には安定なものと不安定なものがある 中性子陽子 図 1 原子核 原子 原子核 原子では原子核の周りを電子が回っている 原子核は陽子と中性子から構成される

はじめに 放射線と放射性物質の違い 放射線 この液体には放射能 ( 放射線を出す能力 ) がある 放射性物質はそこから放射線を 出します 放射性物質 放射線 放射性物質 放射性物質が体に入ると 体に残ったり 移動したりすることがあります 放射線は体に残りません移動しません

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防護一般課程 (10 日間コース ) シラバス 各科目の時間配分とキーワード 講義 放射線防護の原則と安全基準 [90 分 ] 放射線防護の考え方 安全基準の考え方 放射線の物理学 (1)(2) [90 分 x2] 原子構造 放射線と物質との相互作用 単位 放射線計測 (1)(2) [90 分 x2

放射線の種類 電離放射線とは : 物質との相互作用の主要モードが電離である所の放射線電離とは : 電気的に中性の原子が外からエネルギーが与えられて 陽子イオンと自由電子に分離すること ( 間接電離放射線 ) 電離能力の有無 放射線の種類のまとめ 電離放射線 ( エックス線 γ 線 β 線 電子線 陽

Transcription:

放射線と環境 放射線の人体への影響と防護 2016 年 6 月 10 日 1. 放射線の人体への影響 2. 放射線防護のための諸量 3. 放射線の防護 4. 低被曝量のリスク推定の困難さ

放射線の人体への影響

直接作用と間接作用 直接作用 : 放射線が生体高分子を直接に電離あるいは励起し 高分子に損傷が生じる場合間接作用 : 放射線が水の分子を電離あるいは励起し その結果生じたフリーラジカルが生体高分子に作用して損傷を引き起こす場合低 LET 放射線 (X 線 γ 線 β 線 ) では間接作用の割合が大きく 1/3 に達する 高 LET 放射線 ( 中性子線 α 線 重粒子線 ) ではほとんどが直接作用

細胞に対する放射線影響 細胞の中で DNA に放射線がヒットすると細胞死が起こりやすい DNA にヒットした場合でも 細胞周期 ( 合成期 分裂期 その間の周期 ) によって細胞死の起こりやすさが異なってくる 多量の細胞に放射線を照射した場合 線量と生存率の間に相関が見られる なお 同じ線量でも低線量率で長時間照射した方が生存率が高い ( 線量率効果 )

組織に対する放射線影響 細胞再生系 ( 分裂系 ): 放射線感受性が高い常に細胞分裂 ( 造血組織 ( 骨髄 ) 腸 皮膚 毛のう 水晶体 睾丸など) 潜在的再生系 ( 条件的再生系 ): 放射線に対して比較的抵抗性損傷時のみ分裂 ( 肝臓 人造 膵臓 甲状腺など ) 非再生系 ( 非分裂系 ): 放射線に対してきわめて抵抗性一度できあがったらほとんど分裂しない ( 神経 筋肉 )

確率的影響と確定的影響

確定的影響 ( 非確率的影響 ) 発がんを除く全ての身体的影響しきい値 ( しきい線量 ) が存在する ( それ以下では影響が表れない

全身被ばくによる急性障害 0~0.25Gy 臨床的症状なし 0.25~0.5Gy リンパ球の一時的減少が検出可能 1~2Gy 放射性宿酔 ( 悪心 吐き気 嘔吐 ) リンパ球の明らか減少 3~6Gy 造血系の障害が主 ヒトのLD 50(60) 4Gy) 急性放射線症がみられる 初期(1~2 時間 ): 放射線宿酔 リンパ球減少 潜伏期( 第 1 週 ): 血液変化以外は自覚症状無し 憎悪期( 第 2~4 週 ): 紅斑 脱毛 口内炎 下痢 出血 など 線量が多いと死亡 少ないと1か月で回復 7Gy 骨髄死 10~50Gy 腸死 ( 平均生存期間は10 日 ) 100~ 数百 Gy 中枢神経死 (1~2 日以内に死亡 ) 数百 Gy 以上 分子死 ( ヒトでは記録無し ) 4Gy 付近が死亡するかどうかの境目と言われている

確率的影響 発がんと遺伝的影響線量に対して影響の発生確率が増加 被爆線量 確率的影響

放射線防護のための諸量

等価線量の導入 同一の吸収線量 (Gy=J/kg) でも放射線の種類やエネルギーにより影響が異なる 人体組織への影響を同一尺度で計量する必要がある 1990 年のICRP 勧告等価線量の導入 H = w D T R TR R H T : 等価線量 [Sv] (J/kg) w R : 放射線加重係数 D TR : 吸収線量 [Gy]

実効線量の導入 同一の等価線量 (Sv) でも臓器 組織の種類により確率的影響の確率が異なる 放射線感受性の異なる臓器 組織に対して線量に重みを付ける 実効線量の導入 H = w H TR, T T R H T,R : 実効線量 [Sv] w T : 組織加重係数 H T : 等価線量 [Sv] 1990 年の ICRP 勧告 組織 臓器 組織荷重係数 生殖腺 0.20 赤色骨髄 結腸 肺 胃 0.12 乳房 肝臓 食道 甲状腺 膀胱 0.05 皮膚 骨表面 0.01 残りの組織 0.05 実効線量は全身にわたる確率的影響のリスクを評価するために用いる

放射線 放射能の発見と利用開始 1895 年に放射線を発見 1898 年に放射性物質 ( ラジウム ) を発見 診断 舌癌治療 間もなく医療応用が始まった

放射線 放射能利用の初期 知識の欠如による障害多発 世間はオーバーレスポンス 1928 年に国際 X 線ラジウム防護委員会 (IXRP) を設立

放射線安全に関する国際機関 国際放射線防護委員会 (ICRP) 国際放射線単位 測定委員会 (ICRU) 国際原子力機関 (IAEA) 国際連合 (UN) 経済協力開発機構 / 原子力機関 (OECD/NEA) その他 (ILO, WHO etc.)

国際放射線防護委員会 (ICRP) 1928 年設立した IXRP が 1950 年に ICRP に改称 最新の科学的知見に基づき放射線防護に関する勧告等を行う約 70 人の学者の組織 ICRP 勧告は各国の法令の基本となっている 1958 年 1962 年 1965 年 1977 年 1990 年 2007 現在の日本の法令は 1990 年勧告に準じている 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律 など

ICRP pub.99 (2004) 原爆被爆者の疫学調査

原爆被爆者の疫学調査 ( 続き ) ICRP pub.99 (2004)

原爆被爆者の疫学調査 ( 続き ) 低線量でのバラつき ( 標準偏差 ) の大きさがリスク推定を困難にしている ただし これをもってしきい値が存在することの証拠とはならないことに注意が必要 ICRP pub.99 (2004)

原爆被爆者の疫学調査 ( 続き ) ICRP pub.99 (2004)

放射線の防護

放射線防護の目的 (1990 年勧告 ) 利益をもたらすことが明らかな行為が放射線被ばくを伴う場合には その行為を不当に制限することなく人の安全を確保すること 確定的影響の発生を防止すること 確率的影響の誘発を制限するためにあらゆる合理的な手段を確実にとること

放射線防護の考え方

放射線防護の 3 原則 1. 行為の正当化放射線被ばくをともなういかなる行為も正味でプラスの便益を生むのでなければ採用してはならない 2. 防護の最適化正当化された行為であってもその被ばくは経済的および社会的要因を考慮に入れながら 合理的に達成できる限り低く保たれなければならない as low as reasonably achievable: ALARA の原則 3. 線量限度個人が受ける線量について 超えてはならない線量限度を設ける 医療被ばくと自然放射線による被ばくを除く ( ただし ラドン 自然放射性物質 飛行機 宇宙飛行による被ばくは職業被ばくにカウントする )

職業被ばくの線量限度の考え方 ( 放射線業務従事者 ) 等価線量を確定的影響のしきい値より十分低く制限する実効線量を確率的影響によるリスクを 容認できるリスク に制限する 18 歳 ~65 歳までを対象実効線量限度の考え方

職業被ばくの線量限度 実効線量の限度 目的 : 職業上の死亡率を年間 10-3 に制限そのために 全就労期間中の総実効線量 <1Sv とする 線量限度 : 5 年間で 100mSv 以下 (1 年あたり平均 20mSv 以下 ) かつ 1 年間で 50mSv 以下 実効線量の制限により 目の水晶体と皮膚を除くすべての組織 臓器に確定的影響を起こさないことは確実であるとされている 等価線量の限度 目的 : 目の水晶体と皮膚の確定的影響を防ぐ 線量限度 : 目の水晶体の等価線量は 1 年間で 150mSv 以下 皮膚の等価線量は 1 年間で 500mSv 以下

職業被ばくの線量限度 ( 女性 )

線量限度 : 公衆被ばくの実効線量限度 1 年間で 1mSv 以下 根拠 : 容認できるリスクの判断 ( 死亡率 10 万人に 1 人 ) 自然放射線の変動量を考慮 自然放射線による年間実効線量と同じ線量 ( ラドン除く )

公衆被ばくの等価線量限度 線量限度 : 職業被ばくの 10 分の 1 目の水晶体に対して年 15mSv 皮膚に対して年 50mSv 根拠 : 作業者より被ばく期間が長いため (0 歳から一生涯 ) 集団の中に各組織の放射線感受性が特別に高い小集団が含まれる場合があるため

線量限度と典型的な線量の比較 線量限度 : 20mSv/ 年 ( 職業被ばく ) 1mSv/ 年 ( 一般公衆 ) 医療被ばく ( 線量限度の対象外 ) 胸部レントゲン : 0.3mSv/ 年 ( 平均 ) 胃の検診 : 数 msv/ 年 ( 平均 ) 自然放射線 ( 線量限度の対象外 ): 2.4mSv/ 年 ( 平均 ) 原子力発電所の敷地境界 : 0.05mSv/ 年 ( 基準 )

低被曝量のリスク推定の困難さ

被曝量と発がん確率の関係 発がん確率の増加 例 :20mSv 発がん確率が 0.1% 上がる ( と仮定 ) 自然発生率 (30%) の 1/60 高被曝量では放射線による発がん確率の増加の証拠がある (1Sv あたり 5%) 低被曝量では自然発生率の統計誤差に埋もれて 発がん確率に本当に影響があるのか確認できない 影響がある と仮定して防護する 自然放射線による被曝量 ( 日本人平均 ) 被曝量 [msv]

発がん性物質の例 環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態 ビヨルン ロンバーク著文芸春秋 2003 年

少量摂取 低被曝による晩発性リスク推定の困難さ 少量摂取 低被曝量では統計誤差以下の差しか出ない 少量摂取 低被曝量による発がんリスクは科学的には わからない 今後も分かるかどうか 規制や管理の点では少量摂取でも摂取量とリスクに直線関係を仮定する 少量摂取のリスクを大集団に用いると誰かが必ずがんになることになる それをメディアが報道する 少量でも危険! と解釈される 様々なリスク回避のための適正な政府支出が困難に アルコール コーヒーなども発がん物質を含み 摂取量とリスクに直線関係を仮定すると多数の発がんとなる 放射線も同じ 農薬 環境ホルモン 放射線など 発がん性を ( まじめに ) 考慮しているものほど恐れられがち

余りに小さくて実際の観察が不可能であるようなリスクを定量化し, それに基づいて放射線に関する方針を勧告することは大変難しい 低線量リスクには常に不確実性が伴うであろうし, 我々はこの不確実性と折り合いをつける必要があるだろう (ICRP pub.99, 2004 より抜粋 ) 6 つの提言が出されている 提言 3: 我が国の学術界は 発がん率 がん死亡率に関して放射線量に対する線量反応曲線を推定するための適切な疫学的研究を計画し 政府 自治体の協力の下実施し その他基礎研究との統合的理解を図るとともに その結果を速やかに住民の健康管理に反映させるべきである

放射線防護における線量の基準の考え方

放射線防護のまとめ 放射線防護の目的 有益な行為を不当に制限することなく適切に防護 確定的影響を防止 確率的影響を制限 放射線防護の原則 行為の正当化 ( 正味で利益が必要 ) 防護の最適化 (ALARA の原則 ) 線量限度 線量限度 実効線量年平均 20mSv( 職業 ) 年間 1mSv( 公衆 ) 水晶体の等価線量年 150mSv( 職業 ) 15mSv( 公衆 ) 皮膚の等価線量年 500mSv( 職業 ) 50mSv( 公衆 )

演習