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令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

令和元年 6 月 4 日 科学技術振興機構 (JST) 北 海 道 大 学 名 古 屋 大 学 東 京 理 科 大 学 電力使用量を調整する経済的価値を明らかに ~ 発電コストの時間変動に着目した解析 制御技術を開発 ~ ポイント 電力需要ピーク時に電力使用量を調整するデマンドレスポンスは その経済

マスコミへの訃報送信における注意事項

平成 28 年 12 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院工学研究科 マンガンケイ化物系熱電変換材料で従来比約 2 倍の出力因子を実現 300~700 の未利用熱エネルギー有効利用に期待 概要 東北大学大学院工学研究科の宮﨑讓 ( 応用物理学専攻教授 ) 濱田陽紀 ( 同専攻博士前期

開発の社会的背景 再生可能エネルギーの大量導入時代を見据えて 光 熱 振動などを利用する発電技術の研究開発が盛んに行われている その一つである熱電発電は 熱電材料 ( 固体 ) を用いて自然熱や未利用廃熱 分散した微小熱を電力として回収する技術であり 省スペース 無振動 長寿命などの長所がある 高効

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

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平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

平成**年*月**日

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< 研究の背景と経緯 > 半導体製造技術により 生体分子と親和性の高いマイクロチップが開発され それらを基盤とした革新的なバイオ分析技術が実現しています その中でも デジタルバイオ計測は マイクロチップを利用して 1 個の生体分子から機能や物性を高感度かつ定量的に計注測できる手法であり Digita

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平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

6. 発表内容 : 東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻の原田達也教授 日髙雅俊大学院 生 木倉悠一郎大学院生 牛久祥孝講師は 市販のパソコンやスマートフォンに標準搭載されている Web ブラウザ上で ディープニューラルネットワーク (DNN) を高速に実行できるソフ トウェアフレーム

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体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

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ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

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平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

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< 研究の背景背景と経緯 再生可能エネルギーなどの分散型電源が大量導入された次世代電力ネットワークでは 発電量の変動が大きいため ネットワーク全体を集中管理することが難しく 発電機を含めた電力ネットワークを分散的に管理することが求められています その中でも 細かい時間単位で電力価格を変動させるリアル

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

記者発表資料

マスコミへの訃報送信における注意事項

記 者 発 表(予 定)

産総研プレス発表資料

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ビッグデータ分析を高速化する 分散処理技術を開発 日本電気株式会社

報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

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領域代表者 : 金井求 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 研究期間 :2017 年 7 月 ~2023 年 3 月上記研究課題では 独立した機能を持つ複数の触媒の働きを重奏的に活かしたハイブリッド触媒系を創製し 実現すれば大きなインパクトを持つものの従来は不可能であった 極めて効率の高い有機合

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

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POCO 社の EDM グラファイト電極材料は 長年の技術と実績があり成形性や被加工性が良好で その構造ならびに物性の制御が比較的に容易であることから 今後ますます需要が伸びる材料です POCO 社では あらゆる工業製品に対応するため 各種の電極材料を多数用意しました EDM-1 EDM-3 EDM

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目次 取組み概要 取組みの背景 取組みの成果物 適用事例の特徴 適用分析の特徴 適用事例の分析結果から見えたこと JISAによる調査結果 どうやって 実践のヒント をみつけるか 書籍発行について紹介 今後に向けて 2

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酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

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Transcription:

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現 ~ 環境発電への貢献に期待 ~ 1. 発表者 : 山脇柾 ( 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻修士課程 2 年生 ) 大西正人 ( 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻特任研究員 ) 鞠生宏 ( 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻特任研究員 ) 塩見淳一郎 ( 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授 物質 材料研究機構情報統合型物質 材料研究拠点特別研究員 ( 兼務 ) 2. 発表のポイント : ベイズ最適化と熱電物性計算を組み合わせて 熱電変換材料のナノ構造を最適設計することに成功しました 熱電変換技術では 熱電能が大きく 熱伝導度が低い材料が求められており これまでは経験的に構造を探索するアプローチが多くとられていましたが それらの相反する要求を両立して熱電変換性能を最大にするナノ構造の 最適設計 ができるようになりました 様々な熱電変換材料のナノ構造設計に適用できるため 今後 熱電材料の開発における新たな手法として環境発電に貢献することが期待されます 3. 発表概要 : 東京大学大学院工学系研究科の塩見淳一郎教授 ( 物質 材料研究機構情報統合型物質 材 料研究拠点兼務 ) 山脇柾大学院生 大西正人特任研究員 鞠生宏特任研究員の研究グループは JST 戦略的創造研究推進事業において ベイズ最適化 ( 注 1) と熱電物性計算を組み 合わせて熱電変換材料のナノ構造を最適設計することに成功しました 環境発電などの応用に向けて 熱電変換への期待が高まっていますが 変換効率の向上に は 電気伝導率とゼーベック係数 ( 熱電能 注 2) が大きく 熱伝導度が低い材料が必要とな ります ナノ構造化によってこれらの相反する要求の実現を目指した研究が盛んに行われてい ますが これまでの研究には経験的に構造を選択して それを評価するアプローチが多く 構 造を 最適設計 する手法はありませんでした 本研究グループは 機械学習と熱電物性計算を組み合わせることによって パワーファクタ ー ( 注 3) の増大と熱伝導度の低減を同時に達成して熱電変換性能を最適にするナノ構造の設 計手法を確立しました この手法では ベイズ最適化と熱電物性計算を交互に実施することに よって 膨大な候補構造から熱電変換性能が最大になるナノ構造を高い最適化効率で決定する ことができます 有望な熱電変換材料として広く研究されているグラフェンナノリボン ( 注 4) にナノ細孔を導入する問題を例にとってこの手法を適用したところ パワーファクターの 増大と熱伝導度の低減という 一般に相反するものを同時に達成できることを確認しました 得られた最適構造は ナノ細孔が非周期的に並ぶような非直感的なナノ構造であり グラフェ ンナノリボンの性能指数を大幅に向上できる可能性を示しました この手法は対象を選ばず さまざまな熱電変換材料のナノ構造設計に適用できるため 今後 の熱電材料の開発における新たな手法として その性能向上に貢献することが期待されます それによって 低コストで高性能の熱電デバイスが開発され 環境発電などを通じて スマー

ト社会に必要不可決な自立発電技術の発展に貢献することが期待されます 本研究成果は 2018 年 6 月 15 日 ( 米国東部時間 ) に米国科学誌 Science Advances のオン ライン速報版で公開されます 本成果は 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出 ( 研究総括 : 谷口研二大阪大学名誉教授 ) メカノ サーマル機能化による多機能汎用熱電デバイスの開発 の事業 研究領域 研究課題によって得られました 4. 発表内容 : < 研究の背景と経緯 > 例えば IoT(Internet of Things 注 5) などで必要となるセンサーや情報通信デバイスを駆動するために 身の回りにあるエネルギーを電力に変換する環境発電技術の発展が求められています その中で熱電変換技術は 素子の上下に温度差をつけるだけで発電でき 動力部がないことで故障やメンテナンスなどの心配が少ないことから どこにでもある熱エネルギーを利用する技術として有望視されています しかし 実際の応用に向けては材料自体の変換効率が足りず 変換効率を高めるには パワーファクターが大きく 熱伝導度が小さい必要があります この相反する物性を材料内のナノ構造によって独立に制御する研究が盛んに行われていますが これまでの研究は経験的にナノ構造を選択してそれを評価するアプローチのものが多く 経験に頼らずに最適なナノ構造を設計する手法はありませんでした < 研究の内容 > 今回 東京大学の塩見淳一郎教授 ( 物質 材料研究機構兼務 ) 山脇柾大学院生 大西正人特任研究員 鞠生宏特任研究員の研究グループは 機械学習と熱電物性計算を組み合わせることによって 熱電性能を最適にするナノ構造の設計手法を確立しました 本手法では 分子シミュレーションを用いた熱電物性計算とベイズ最適化を用いて機械学習を交互に実施し 膨大な候補構造から熱電変換性能が最大になるナノ構造を高い最適化効率で決定します 機械学習の記述子 ( 注 6) として ナノ構造の最小単位 ( 例えばナノ細孔など ) を採用して 全体の構造をその組み合わせとして考えることで 膨大ではあるが有限の数の候補構造を取り扱いました 初めに 数十個の候補構造をランダムに選択してそれらのゼーベック係数 電気伝導度 熱伝導度を計算し その結果を基にベイズ最適化により熱電変換性能指数 ( 注 7) が見込める次の数十個の候補構造を決定し またそれらの熱電物性を計算します この 候補選択 熱電物性計算 を繰り返してデータを数十個ずつ増やしていき 最良の熱電変換性能指数を持つ構造を同定します 具体例として グラフェンリボンにナノ細孔を開けてナノ構造化する問題に本手法を適用したところ パワーファクターの向上と熱伝導率の低減という 互いに相反する複数の目的を同時に達成できました ( 図 2) 得られた最適構造は 非直感的なナノ構造であり グラフェンナノリボンの熱電変換性能を大幅に向上できる可能性を示しました このように 本成果により 一般に相反する物性を組み合わせた物性を対象に対して 機械学習が有用であることを示すことに成功しました

< 今後の展開 > 本手法は対象を選ばず さまざまな熱電変換材料のナノ構造設計に適用できるため 今後の熱電材料の開発における新たな手法として その性能向上に貢献することが期待されます また 相反する輸送物性を両立することへの要求は 熱電変換材料に限らずさまざまな応用で存在しています 本手法は計算による評価さえできれば どのような物性に対しても原理的に適用できることから ほかの複合機能などをターゲットとしたナノ構造の最適化にも貢献することが期待されます 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Science Advances ( オンライン版の場合 :6 月 15 日 ) 論文タイトル :Multifunctional structural design of graphene thermoelectrics by Bayesian optimization 著者 :Masaki Yamawaki, Masato Ohnishi, Shenghong Ju, Junichiro Shiomi* DOI 番号 :10.1126/sciadv.aar4192 6. 注意事項 : 日本時間 6 月 16 日 ( 土 ) 午前 3 時 ( 米国英国夏時間 :6 月 15 日 ( 金 ) 午後 2 時 ) 以前の公 表は禁じられています 7. 問い合わせ先 : < 研究に関すること> 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授塩見淳一郎 ( しおみじゅんいちろう ) 113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1 Tel:03-5841-6283 Fax:03-5841-0440 E-mail:shiomi@photon.t.u-tokyo.ac.jp <JSTの事業に関すること> 科学技術振興機構戦略研究推進部 102-0076 東京都千代田区五番町 7 K s 五番町 Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064 E-mail:crest@jst.go.jp < 報道担当 > 東京大学大学院工学系研究科広報室 113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1 Tel:03-5841-1790 Fax:03-5841-1790 E-mail:kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp

科学技術振興機構広報課 102-8666 東京都千代田区四番町 5 番地 3 Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432 E-mail:jstkoho@jst.go.jp 物質 材料研究機構経営企画部門広報室 305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1 Tel:029-859-2026 Fax:029-859-2017 E-mail:pressrelease@ml.nims.go.jp 8. 用語解説 : 注 1) ベイズ最適化手法 ベイズ確率の考え方を用いた推論にもとづき 形状のわからない関数を最適化する手法 注 2) ゼーベック係数 熱電変換効果によって生じた電位差 ( 電圧 ) を温度差で割った値であり 発電能を表す 注 3) パワーファクター 電気伝導率とゼーベック係数の 2 乗を掛け合わせたもので 単位温度差あたりの発電電力であ る 注 4) グラフェンナノリボン 炭素原子が六角形格子に配列した物質であるグラフェンをリボン状にしたもの 注 5) IoT Internet of Things の略 もののインターネット さまざまな モノ ( 物 ) がインターネットに接続され情報交換することにより相互に制御する仕組み 注 6) 記述子 予測モデルにおける説明変数 注 7) 熱電変換性能指数 材料のゼーベック係数の 2 乗と電気伝導度と温度を掛け合わせ 熱伝導度で割った値で それ が大きいと熱電変換材料の変換効率が大きくなる

9. 添付資料 : 図 1 機械学習と熱電変換性能計算を組み合わせたマテリアルズ インフォマティクス手法の 概要 図 2 例としてグラフェンリボンに適用した際に得られた最適構造と それによる熱電性能指 数 (ZT) の向上の度合い