- 木造芝居小屋の音響特性その 3- ながめ余興場 相生座 村国座 呉服座 旧広瀬座の例 ( 有 )YAB 建築 音響設計藪下満 神奈川大学建築学科 寺尾道仁 関根秀久 2010.9.11
調査の目的 邦楽にとって 好ましい音響空間を 伝統芸能を育んだ木造の芝居小屋を通して検討すること 現在では数少なくなった芝居小屋の音響特性をインパルス応答の形で保存すること 木造芝居小屋とは? ここでは 江戸歌舞伎様式の木造建築の芝居小屋で 舞台客席ともに屋根で覆われている小屋のことをいう 明治時代には 全国で数千軒ほどあったと言われているが 現在では使われていないものも含めて全国に数十軒ほどしかない
はじめに 一昨年 昨年に引き続き 芝居小屋の音響調査を行った 今回音響調査を行った芝居小屋とその他ホールは下記の通り 今回調査した芝居小屋 ( 秋田 ) ながめ余興場 ( 群馬 ) 相生座 ( 岐阜 ) 村国座 ( 岐阜 ) 呉服座 ( 愛知 ) 旧広瀬座 ( 福島 ) その他 ( 比較のために測定 ) 鹿角市交流プラザ横浜ふね劇場神奈川大学セレストホール東京歌舞伎座つくば古民家杉田劇場 表. これまでに測定した芝居小屋とその建設年 芝居小屋名 竣工年 鳳凰座文政 10 年 (1827 年 ) 明治 16 年 (1883 年 ) 客席部分大改修 旧金毘羅大芝居金丸座天保 6 年 (1835 年 ) 呉服座 明治 7 年 (1874 年当初戎座 村国座明治 15 年 (1882 年 ) 旧広瀬座明治 20 年 (1887 年 ) 白雲座 常盤座 明治 23 年 (1890 年 )3 月 明治 24 年 (1891 年 )5 月 明治座明治 27 年 (1894 年 ) 相生座明治 28 年 (1895 年 ) 永楽館 明治 33 年 (1900 年 )11 月 八千代座明治 43 年 (1910 年 ) 内子座 明治 43 年 (1910 年 )8 月 大正 5 年 (1916 年 )2 月 嘉穂劇場大正 10 年 (1921 年 ) ながめ余興場昭和 12 年 (1937 年 )
( 秋田県 ) 外観 1 階測定位置図 内観 2 階測定位置図
ながめ余興場 群馬県 外観 1階測定位置図 内観 2階測定位置図
相生座 岐阜県 外観 1階測定位置図 内観
村国座 岐阜県 1階 測定位置図 外観 内観 2階測定位置図
呉服座 愛知県 1階測定位置図 外観 内観 2階測定位置図
旧広瀬座 福島県 外観 内観 1階測定位置図 2階測定位置図
今回の音響調査 芝居小屋以外 東京歌舞伎座 神奈川大学セレストホール つくば古民家 鹿角市交流プラザ 横浜ふね劇場 横浜市磯子区民センター 杉田劇場 撮影 永石秀彦 ふね劇場をのぞく
測定方法と分析方法 1. 測定の項目 残響時間 音圧分布 RASTI 音響インパルス応答 2. 測定方法 舞台上に設置した12面体無指向性スピーカから スイープ正弦波信号 2秒 を放射し 客席で受 音して インパルス応答を求める 受音は マイク1本 およびダミーヘッド 3. 音響シミュレーション 現場で測定したインパルス応答と 無響室で録音した音楽とを重畳し 音響シミュレーションを行う + インパルス応答を測定 鹿角市交流プラザ = 実際に劇場で演奏されたか のような音を作り出す 無響室録音 浄瑠璃常磐津 和英太夫 常磐津三味線 菊与志郎 4. 主観評価 音響シミュレーションを 吹奏楽や管弦楽団の学生 劇場や音楽に関係している 125名に聞いていただき 主観評価によるアンケートを行った
無響室録音の音源 2009年度の無響室録音 曲目 楽器 グルック オルフェオとエブリディーチェ より精霊の フルート ソロ 踊り バッハ 無伴奏バイオリンソナタ パルティータ3番プ バイオリン ソロ レリュード バッハ G線上のアリア バイオリン 1st バイオリン 2nd ビオラ チェロ モーツアルト 弦楽四重奏 第19番ハ長調k.465 不 バイオリン 1st 協和音 バイオリン 2nd ビオラ チェロ 常磐の庭 舟遊び サラシ 篠笛 能管 演奏者 下村奈央 福山晃一 福山晃一 櫻井雅也 村瀬佳幸 新井宏平 櫻井雅也 福山晃一 村瀬佳幸 新井宏平 富田美行 富田美行 2008年度 2007年度の無響室録音 曲名 平家物語 木曽最後 チャイコフスキー くるみ割り人形 より葦笛の踊り ドヴォルザーク 交響曲第9番新世界より 4楽章 ビゼー カルメン よりアルカラの竜騎兵 ベートーベン メヌエット ト長調 青葉の笛 篠笛唄用(改良笛) 七笨調子 常磐津節 三味線音楽 三本調子 将門物語 楽器 朗読 フルート ホルン ファゴット ヴァイオリン 篠笛 浄瑠璃+三味線 演奏者 高橋和久 高岡由実 武知佑香 佐々木彩 高橋奈々 坂本真理 常磐津和英太夫+ 常磐津菊与志郎 昨年までに加え 歯切れのよい篠笛の音楽 不協和音を含むヴァイオリン フルートの曲を 加えた
残響時間周波数特性の比較 最も長い 杉田劇場 音響反射板設置 1.42秒 最も短い つくば古民家 0.42秒 芝居小屋は 0.66秒() から1.1秒程度 歌舞伎座は 空間は約10000m3と大きいが 残響時間は1.06秒と芝居小屋と同じような長さ 2.0 杉田劇場 鳳凰座 白雲座 常盤座 明治座 久良岐 嘉穂劇場 永楽館 金丸座 内子座 八千代座 ながめ余興場 呉服座 相生座 村国座 セレストホール 鹿角市交流プラザ 歌舞伎座 つくば古民家 ふね劇場 旧広瀬座 1.0 0.5 1/3オクターブバンド中心周波数 Hz 8k 6.3k 5k 4k 3.15k 2.5k 2k 1.6k 1.25k 1k 800 630 500 400 315 250 200 160 125 100 80 0.0 63 残響時間 秒 1.5
最適残響時間グラフと残響時間測定結果 最適残響時間グラフに 芝居小屋の測定結果 空席時 を示す 芝居小屋は Knudsen & Harrisの 講堂 推奨曲線の付近に集中 歌舞伎や人形浄瑠璃などを演劇ととらえると 木造芝居小屋は 音声の明瞭な伝達には好まし い空間と言える しかし音楽の演奏という観点では コンサートホールのラインとは離れている 2.50 2.00 1.50 杉田劇場 村国座 1.00 常盤座 久良岐 旧広瀬座 内子座 相生座 嘉穂劇場 歌舞伎座 金丸座 ながめ 永楽館 ふね劇場 白雲座 八千代座 セレ ス トホール 鳳凰座 明治座 0.50 呉服座 つくば古民家 0.00 1 00.0 0 1 0 0 0.0 0 10 0 0 0.0 0 1 0 0 00 0.0 0 客席空間のみで計算
平均吸音率 ほとんどの劇場が0.2 0.3の間にある 残響時間の長い杉田劇場は0.2程度 床が板張の内子座 村国座 相生座 旧広瀬座も 0.2程度 横浜ふね劇場 久良岐能舞台は 平均吸音率は0.2以下 歌舞伎座 金丸座 八千代座 鳳凰座 ながめ余興場などは0.3程度 0.5 鳳凰座 白雲座 常盤座 明治座 久良岐 嘉穂劇場 永楽館 金丸座 内子座 八千代座 ながめ余興場 呉服座 相生座 村国座 セレストホール 鹿角市交流プラザ 歌舞伎座 つくば古民家 ふね劇場 旧広瀬座 0.3 0.2 0.1 8k 6.3k 5k 4k 2.5k 2k 3.15k 1/3オクターブバンド中心周波数 Hz 1.6k 1.25k 1k 800 630 500 400 315 250 200 160 125 100 80 0.0 63 平均吸音率 0.4 杉田劇場
RASTI 音響反射板を設置した杉田劇場は0.5程度 FAIR) 芝居小屋は0.6 0.75程度 GOOD) 芝居小屋は 音声が明瞭に伝達されることが分かる セレストホール0.7弱 歌舞伎座0.6強 また 床が板張りで残響時間の比較的長い村国座 内子 座などは0.6程度 など残響の短い小屋は0.7強となっている 0.9 0.8 rasti 0.7 0.6 0.5 0.4 鳳凰座 白雲座 常盤座 明治座 杉田劇場 金丸座 内子座 嘉穂劇場 八千代座 永楽館 久良岐能舞台 ながめ余興場 村国座 相生座 呉服座 ふね劇場 つくば古民家 セレストホール 鹿角市交流プラザ 歌舞伎座 旧広瀬座 0.3 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 距離(m) 14.0 16.0 18.0 20.0 22.0 評価 BAD POOR FAIR GOOD EXCELLENT RASTI 0 0.3 0.3 0.45 0.45 0.60 0.60 0.75 0.75 1.0
音響シミュレーション アンケート 昨年の聴感アンケート結果 常磐津三味線 残響の長いホールに比べ 芝居小屋のほうが好ましいとの回答が大多数 篠笛のゆったりとした曲 青葉の笛 芝居小屋よりも 残響の長いホールの方が好ましいという結果が過半数 今回の聴感アンケート 評価対象 芝居小屋 杉田劇場 多目的ホール 音響反射板設置 東京歌舞伎座 使用音源 常磐津三味線 篠笛 青葉の笛 篠笛 常盤の庭 朗読 ヴァイオリン G線上のアリア ヴァイオリン 不協和音 フルート 精霊の踊り 回答者 吹奏楽や管弦楽団の学生 劇場演出空間技術協会のメンバーなど 劇場や音楽関係者125名 楽器別の好ましい空間についての聴感アンケート結果を次に示します
音響シミュレーション アンケート結果 Q.次の楽器では どの劇場が より自然で好ましく聞こえますか 芝居小屋 杉田劇場 音響反射板を設置 東京歌舞伎座の比較 全部合う 0% 合わない 全部合う 0% 杉田劇 場 2% 3% 11% 杉田劇場 15% 歌舞伎 座 87% 31% 合わない 5% 篠笛 青葉の笛 7% 全部合う 1% 歌舞伎 座 15% 杉田劇場 45% 杉田劇 場 68% 合わない 4% 全部合う 2% 杉田劇場 12% 35% 歌舞伎座 47% 歌舞伎座 46% 常磐津三味線 全部合う 5% 合わない 5% 合わない 9% 11% 歌舞伎座 34% 篠笛 常磐の庭 全部合う 4% 11% 合わない 4% 歌舞伎座 杉田劇場 38% 43% 杉田劇 場 1% 合わない 1% 全部合う 0% 歌舞伎 座 55% 43% 朗読 歌舞伎座 杉田劇場 全部合う 合わない ヴァイオリン G線上のアリア ヴァイオリン 不協和音 フルート 精霊の踊り アンケート回答者 吹奏楽や管弦楽団の学生 劇場演出空間技術協会のメンバーなど125名
まとめ 邦楽に好ましい音響空間を芝居小屋を通して検討してきた 結果 朗読および三味線と篠笛などの邦楽器による音楽は 芝居小屋や 歌舞伎座のような 残響の少ない劇場が好ましいと評価された ヴァイオリンやフルートなどの西洋音楽は 杉田劇場のような残響 のあるホールが好ましいと評価された 今後の課題 芝居小屋と歌舞伎座の評価の違いと音響特性の関係 測定点間 および劇場間の比較の音響的基準などについては 検討が必要
謝辞 本研究は 公益社団法人劇場演出空間技術協会 建築部会 木 造劇場研究会 全国芝居小屋会議 神奈川大学との共同で行った ものである 測定に当り 神奈川大学建築学科当時4年生の市川葉明君 松 山由佳君 劇場関係者各位 写真記録では永石秀彦氏 無響室録 音では篠笛の富田美行氏 神奈川大学の管弦楽部の学生の方々 にご協力をいただきました また 本研究に対して ポーラ伝統文化振興財団より助成を賜りま した 記して感謝の意を表します