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プレス発表資料 2 平成 28 年 10 月 5 日 福島県産海産物の放射性セシウム濃度の低下と沿岸漁業の復興に関する論文を公表しました 福島大学環境放射能研究所和田敏裕准教授を代表とする研究グループは 福島県産海産物の放射性セシウム濃度の低下と沿岸漁業の復興に関する論文を国際誌に公表しました 放射性セシウム濃度の低下傾向が明らかに福島県の沿岸漁業は 震災から 5 年以上が経過した現在においても 東京電力 ( 株 ) 福島第一原子力発電所事故に伴う海産物の放射性物質 ( 特に放射性セシウム :134Cs 137Cs) 汚染の影響により 一部を除き休止を余儀なくされています 本研究では 2011 年 4 月から 2015 年 にかけて福島県が行った緊急時モニタリング検査の 32,492 検体 (180 種 ) および 2012 年 4 月から 2015 年 12 月にかけて東京電力が原発港内および原発から半径 20キロ圏内で行ったモニタリング検査の 5458 検体 (87 種 ) のデータを取りまとめ 魚種別 海域別の放射性セシウム濃度の低下傾向を明らかにしました その結果 特に これまで放射性セシウム濃度の低下が遅いと考えられていた底魚類 ( カレイ類 メバル類など ) においても 原発事故から 5 年目となる 2015 年には ほぼ全ての検体で日本の基準値 (ベクレル/kg) を下回ることを示しました また 福島県のモニタリング結果を受け 2012 年 から行われている試験操業 * の対象海域や対象種が徐々に拡大していることや 国の出荷制限魚種数が減少していることを示しました 国際誌のオープンアクセスとした本論文は 福島県の沿岸漁業の復興が着実にかつ慎重に進められていることを国内だけでなく海外に正しく伝える役割を担うことが期待されます また 本論文では これまで未公表であった福島県のモニタリング検体の採捕位置 ( 緯度 経度 水深 ) を示しており 今後 海洋生物の放射性セシウム汚染履歴のモデルによる再現や検証などに役立つことが期待されます * 試験操業 : 小規模な操業と販売を試験的に行い 安全 安心な水揚 検査体制を確立 するとともに 出荷先での評価と調査して 福島県の本格的な沿岸漁業再開に向けた基 礎情報を得るための操業 1

プレス発表資料 2 概要 福島県で採捕された海産物の放射性セシウム濃度は事故後 5 年で着実に低下した ( 図 1) 2015 年には 基準値を上回った検体はごく僅かであり (0.05%) 多くの検体(89.5%) は検出限界値未満 ( 137 Csで約 7.4 ベクレル /kg) であった 放射性セシウム濃度の低下傾向が遅いと考えられていた底魚類においても 2015 年にはほぼすべての検体で基準値を下回った 事故直後に比較的高い放射性セシウム濃度が認められた原発南部の沿岸浅海域においても放射性セシウム濃度の低下は顕著であった ( 図 2) 原発から半径 20 キロ圏内および原発港内で採捕された魚種の放射性セシウム濃度は着実に低下していた 福島県のモニタリング結果を受け 試験操業の対象海域および対象魚種は拡大している ( 図 3) 誌名 巻号頁 Journal of Environmental Radioactivity, 164 (2016): 312-324 論文名 Effects of the nuclear disaster on marine products in Fukushima: An update after five years 著者及び所属 和田敏裕 1 藤田恒雄 2 根本芳春 3 島村信也 4 水野拓治 3 早乙女忠弘 神山享一 5 成田薫 2 渡邉昌人 3 八多宣幸 6 尾形康夫 3 森田貴己 五十嵐敏 8 1 福島大学環境放射能研究所 2 福島県水産試験場相馬支場 3 福島県水産試験場 4 福島県農業総合センター 5 福島県水産課 6 福島県漁業協同組合連合会 7 水産研究 教育機構中央水産研究所 8 福島県栽培漁業協会 7 5 ( お問い合わせ先 ) 福島大学環境放射能研究所事務室電話 :024-4-2848 mail:ier@adb.fukushima-u.jp 2

プレス発表資料 2,000 134+137 Cs 濃度 (Bq Kg -1 -wet) 10,000 基準値 ( Bq/kg) 1,000 10 1 0 600 900 1 10 1800 事故後日数 1,000 検出限界値未満 ~ 検体数 900 800 700 600 0 > Bq/kgの割合 (%) 検出限界値未満の割合 (%) 400 40 30 20 10 0 0 年 2011 2012 2013 2014 2015 図 1. 福島県産海産物の緊急時モニタリング検査における放射性セシウム濃度 の推移 下図の棒グラフのうち 赤は > Bq/kg を 青は Bq/kg を示す 90 80 70 60 割合 (%) 3

プレス発表資料2 2011 2014 0 0 福島第一原発 0 0 10 10 2012 2015 0 0 0 0 10 10 2013 0 134+137Cs (Bq kg-1-wet) 0 0 0 0 10 0 25 <DL 図2 底魚類の放射性セシウム濃度の時空間分布の推移 4

プレス発表資料 2 種数 90 80 70 60 40 30 20 10 0 沿岸漁業の自粛 試験操業対象種 試験操業 国の出荷制限魚種 2011 2012 2013 2014 2015 2016 図 3. 試験操業対象種数および国の出荷制限魚種数の推移 2016 年 8 月末現在 の試験操業対象種は 83 種に増加した一方 国の出荷制限魚種は 16 種まで低下 している 5

福島県産海産物の放射性セシウム濃度の低下と沿岸漁業復興に関する論文を公表しました Journal of Environmental Radioactivity, 164 (2016): 312-324 和田敏裕 1 藤田恒雄 2 根本芳春 3 島村信也 4 水野拓治 3 早乙女忠弘 5 神山享一 5 成田薫 2 渡邉昌人 3 八多宣幸 6 尾形康夫 3 森田貴己 7 五十嵐敏 8 1 福島大学環境放射能研究所 2 福島県水産試験場相馬支場 3 福島県水産試験場 4 福島県農業総合センター 5 福島県水産課 6 福島県漁業協同組合連合会 7 水産研究 教育機構中央水産研究所 8 福島県栽培漁業協会

概要 5 年間の膨大なデータをもとに海産物の放射性セシウム濃度の推移を評価 福島県の沿岸漁業は 震災から5 年以上が経過した現在においても 東京電力 ( 株 ) 福島第一原子力発電所事故に伴う海産物の放射性物質汚染 ( 特に放射性セシウム : 134 Cs 137 Cs 以下 Cs) の影響により 一部を除き休止を余儀なくされています 2011 年から2015 年にかけて福島県が行ったモニタリング検査 32,492 検体 (180 種 ) および東京電力が2012 年から2015 年に 原発港内および原発から半径 20キロ圏内で行ったモニタリング検査 5458 検体 (87 種 ) のデータを取りまとめ 魚種別 海域別の Cs 濃度の低下傾向を明らかにしました Wada et al. 2013 Cs 日 日 2011 年の状況 (Wada et al. 2013) 魚種別の状況は? 底魚類は? 海域別の汚染状況は? 沿岸漁業の復興状況は?

1. 放射性セシウム濃度の低下傾向を提示 分析の結果 これまで Cs 濃度の低下が遅いと考えられていた底魚類 ( カレイ類 メバル類など ) においても 原発事故から 5 年目となる 2015 年には ほぼ全ての検体で日本の基準値 ( ベクレル /kg) を下回ることを示しました 既報で 底魚類の Cs 濃度の低下が遅いことは指摘されていた (e.g., Buesseler 2012, Wada et al. 2013) 本報では 原発事故から 5 年が経過し 底魚類でも Cs 濃度が著しく低下したことを示した 理由 : 物理的な減衰 周辺環境やエサ生物の Cs 濃度の低下 成長希釈 世代交代など 2. 福島県の沿岸漁業の復興プロセスの提示 福島県のモニタリング結果を受け 2012 年 から行われている試験操業 * の 対象海域や対象種が徐々に拡大していることや 国の出荷制限対象魚種数が 減少していることを示しました 原発事故に伴う汚染水の影響を直接的に受けた福島県の沿岸漁業の復興プロセスについて モニタリング結果と関連させて報告 慎重にかつ着実に復興! * 小規模な操業と販売を試験的に行い 安全 安心な水揚 検査体制を確立するとともに 出荷先での評価を調査して 福島県の本格的な沿岸漁業再開に向けた基礎情報を得るための操業

134+137 Cs 濃度 (Bq Kg -1 -wet) 1. 放射性セシウム濃度の低下傾向を提示,000 10,000 1,000 10 1 検出限界値未満 ~ 検体数 1,000 900 800 700 600 0 400 0 年 0 600 900 1 10 1800 事故後日数 > Bq/kg の割合 (%) 検出限界値未満の割合 (%) 基準値 ( Bq/kg) 2011 2012 2013 2014 2015 図 1. 福島県産海産物の緊急時モニタリング検査における放射性セシウム濃度の推移 下図の棒グラフのうち 赤は > Bq/kg を 青は Bq/kg を示す 90 80 70 60 40 30 20 10 0 割合 (%) 海産物の Cs 濃度は着実に低下 ( 左図 ) 2015 年に基準値を上回った検体は ごくごくわずか (0.05%) 多くの検体 ( 約 90%) は検出限界値未満 ( 137 Cs で約 7.4 ベクレル /kg) 2016 年には 基準値を上回る検体は出ていない!( 底魚類も )

2011 0 2014 0 底魚類の Cs 濃度の推移 福島第一原発 0 0 10 10 底魚類においても 原発事故から 5 年が経過し Cs 濃度が顕著に低下 2012 0 2015 0 事故直後に比較的高い Cs 濃度が 認められた原発南部の浅海域でも 0 0 低下傾向は顕著 10 10 原発港内でも顕著な低下傾向 2013 0 0 10 134+137 Cs (Bq kg -1 -wet) 0 0 0 0 25 <DL 未公表であった福島県のモニタリング検体の採捕位置 ( 緯度 経度 水深 ) を初めて公開 今後 海洋生物の Cs 汚染履歴のモデルによる再現や検証に役立つことが期待 ( 海外からからも求められていたデータ ) 図 2. 底魚類の放射性セシウム濃度の時空間分布の推移

2. 福島県の沿岸漁業の復興プロセスの提示 種数 90 80 70 60 40 30 20 10 0 沿岸漁業の自粛 試験操業対象種 試験操業 国の出荷制限魚種 試験操業対象種は増加試験操業海域は拡大 2015 年の漁獲量 : 震災前の約 6% 国の出荷制限対象種は減少 慎重に 着実に前へ! 2011 2012 2013 2014 2015 2016 図 3. 試験操業対象種数および国の出荷制限対象種数の推移 2016 年 8 月末現在の試験操業対象種は 83 種に増加した一方 国の出荷制限魚種は 16 種まで低下している

まとめ 原発事故後 5 年間の膨大なモニタリングデータを統合 解析し 福島県産海産物の放射性セシウム汚染状況の推移を定量的に評価 放射性セシウム濃度の低下傾向を提示 ( 底魚類においても顕著 ) 沿岸漁業 ( 試験操業 ) の復興プロセスを明示 国際誌のオープンアクセスとした本論文は 海産物のCs 濃度の推移を正しく伝えるだけでなく 福島県の沿岸漁業の復興が着実にかつ慎重に進められていることを国内だけでなく 海外にも正しく伝える役割を担うことが期待されます J. Environ. Radioact. 誌の Most Downloaded Articles のランキング 1 位に選出 (10 月 5 日現在 ) 本論文が世界中で読まれている証拠!