3-2 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値流行状況の年次推移を 全国的な状況と比較するため 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値について解析した ( 図 2) 全国的には 調査期間の定点あたり患者報告数の年平均値は その年次推移にやや増減があるものの大きな変動は認められなかった 札

Similar documents
pdf0_1ページ目

事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

pdf0_1ページ目

pdf0_1ページ目

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール

3.2013/14シーズンのインフルエンザアップデート(12/25現在)

pdf0_1ページ目

pdf0_1ページ目

とが知られています 神経合併症としては水痘脳炎 (1/50,000) 急性小脳失調症 (1/4,000) などがあり さらにインフルエンザ同様 ライ症候群への関与も指摘されています さらに 母体が妊娠 20 週までの初期に水痘に罹患しますと 生まれた子供の約 2% が 皮膚瘢痕 骨と筋肉の低形成 白

定点報告疾患 ( 定点当たり報告数の上位 3 疾患の発生状況 ) (1) インフルエンザ 第 51 週のインフルエンザの報告数は 1025 人で, 前週より 633 人多く, 定点当たりの報告数は であった 年齢別では,10~14 歳 (240 人 ),7 歳 (94 人 ),8 歳 (

麻しん 2

2019 年 7 月 4 日 ( 木 ) 愛知県保健医療局健康医務部健康対策課感染症グループ担当内田 久野内線 ダイヤルイン 手足口病警報を発令します!! 愛知県では 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 に基づき 県内の小児科を標榜する

pdf0_1ページ目

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

Microsoft Word - WIDR201839

2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

スライド 1

Microsoft Word - WIDR201826

PowerPoint プレゼンテーション

untitled

ロタウイルスワクチンは初回接種を1 価で始めた場合は 1 価の2 回接種 5 価で始めた場合は 5 価の3 回接種 となります 母子感染予防の場合のスケジュール案を示す 母子感染予防以外の目的で受ける場合は 4 週間の間隔をあけて2 回接種し 1 回目 の接種から20~24 週あけて3 回目を接種生

報告風しん

水痘(プラクティス)

syuho_43.xls

02別添:日本脳炎ワクチン接種に関するQ&A[H28.3月版]

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

東京大会と感染症サーベイランス ~ 普段とどこがちがうのか ~ 疾患疫学が変化する可能性 多数の訪日外国人の流入 多くのマスギャザリングイベント 事前のリスク評価に基づいたサーベイランスと対応の強化の必要性を検討する 体制構築の観点から 行政と大会組織委員会の責任範囲と協力体制の構築が必要 国内移動

【資料1】結核対策について

1

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

00【議連提出資料】B型肝炎ワクチンの定期接種化について

< F2D817988C482C682EA94C5817A895E97708E77906A2E6A7464>

Microsoft PowerPoint 最近の性感染症の動向

43w.xdw

<4D F736F F D20926E C5E B8FC797E192E88B CC8DC489FC92E88E9696B D2E646F63>


48小児感染_一般演題リスト160909

Vol. 32 Suppl.II,2017 麻疹 風疹 水痘 流行性耳下腺炎 ( ムンプス ) に関する Q&A の公開にあたって 日本環境感染学会では 平成 21 年 5 月に 院内感染対策としてのワクチンガイドライン第 1 版 を 平成 26 年 9 月に 医療関係者のためのワクチンガイドライン

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

31w.xdw

A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 第 50 週の報告数は 前週より 39 人減少して 132 人となり 定点当たりの報告数は 3.00 でした 地区別にみると 壱岐地区 上五島地区以外から報告があがっており 県南地区 (8.20) 佐世保地区 (4.67) 県央地区 (4.67) の定点当たり報告数は

H30_業務の概要18.予防接種

(地Ⅲ  )

Microsoft Word - 【セット版PDF】131105_H25今冬のインフルエンザ総合対策.docx

事務連絡平成 28 年 2 月 5 日 各都道府県衛生主管部 ( 局 ) 御中 厚生労働省健康局健康課 厚生科学審議会予防接種 ワクチン分科会基本方針部会の審議について 本日開催された厚生科学審議会予防接種 ワクチン分科会基本方針部会における審議の結果 B 型肝炎ワクチンの定期接種化について 以下の

2表05-10.xls

インフルエンサ 及び小児感染症の疾病別推移グラフ 平成 年 京都市 _ 本年 全国 _ 本年 京都市 _ 過去 5 年平均値 全国 _ 過去 5 年平均値 6 インフルエンザ 8 手足口病 RS ウイルス感染症

ハイリスク患者 免疫抑制者における播種性水痘 悪性腫瘍患者の死亡率は 7-17% 成人 妊婦 新生児 肺臓炎 年齢による水痘の頻度と死亡率 0~4 5~14 15~44 45~64 >65 頻度 ( 対人口

19w.xdw

今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

感染症法の変遷

避するためには 子宮頸がん検診を定期的に受診することが必要不可欠であること 3 HPV ワクチンの長期成績は未だ確認されていないこと このため 将来的に追加接種が必要となる可能性もあること 4 10 歳未満の小児 妊娠中の女性及び高齢者に対する有効性と安全性は確立されていないこと 5 HPV は性行

会計 10 一般会計所管課健康推進課款 4 衛生費事業名インフルエンザ予防接種費項 1 保健衛生費目 2 予防費補助単独の別単独 前年度 要求段階 財政課長内示 総務部長 市長査定 最終調整 予算計上 増減 1 当初要求 2 追加要求等 3 4( 増減額 ) 5( 増減額 ) 6=

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュールの主な変更点 2014 年 1 月 12 日 1)13 価結合型肺炎球菌ワクチンの追加接種についての記載を訂正 追加しました 2)B 型肝炎母子感染予防のためのワクチン接種時期が 生後 か月 から 生直後 1 6 か月 に変更と なりました (

も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

始前に出生したお子さんについては できるだけ早く 1 回目の接種を開始できるように 指導をお願いします スムーズに定期接種を進めるために定期接種といっても 予防接種をスムーズに進めるためには 保護者の理解が不可欠です しかし B 型肝炎ワクチンの接種効果は一生を左右する重要なものですが 逆にすぐに効

鹿児島県感染症発生動向調査事業 感染症のホームページアドレス 咽頭結膜熱の報告数は, 前週と同数の 59 人 ( 定点当たり 報告数 1.09) でした 保

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール 014 年 10 月 1 日版日本小児科学会 乳児期幼児期学童期 / 思春期 ワクチン 種類 直後 6 週 以上 インフルエンザ菌 b 型 ( ヒブ )

鹿児島県感染症発生動向調査事業 ( 内容に関するお問い合わせ : 健康増進課感染症保健係 ) 感染症のホームページアドレス 第 20 週の手足口病の定点当た

の合併症を起こしたことが分かりました そのなかで一番多かったのは肺炎です 合併症を起こした子どもの約半数が肺炎になりました また 発病者の40% 以上が入院し 9 人の子ども達が脳炎になり いまだに後遺症で苦しんでいる子どももいます 2007 年度の麻しん流行においては 子どもたちよりも10 代 2

インフルエンザ(成人)

syuho_51.xls

東京都感染症発生動向調査事業実施要綱

Microsoft Word - 意見募集の結果

Microsoft Word - full_SIDWR

1 月号は以下の情報を掲載しています 1. 茨城県感染症発生動向調査事業に基づく試験検査 検出状況 1) 全数把握疾患 2) 病原体定点依頼検査その他の検査 3) 集団 ( 施設や学校等 ) 事例 月別検出件数 1) 三類 四類 五類 ( 全数把握 ) 2) 五類 ( 定点 ) その他の検査 3)

42w.xdw

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

熊本県感染症情報 ( 第 31 週 ) 県内 170 観測医の患者数 (7 月 28 日 ~8 月 3 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 0 1 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 7 0 ヘルパンギーナ 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

熊本県感染症情報 ( 第 14 週 ) 県内 165 観測医の患者数 (4 月 4 日 ~4 月 10 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 10 8 ヘルパンギーナ 6 5 咽頭結膜熱 A 群溶血性連鎖球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

報告は 523 人 (14. 5) で前週比 9 と減少した 例年同時期の定点あたり平均値 * (16. ) の約 9 割である 日南 (37. 3) 小林(26. 3) 保健所からの報告が多く 年齢別では 1 歳から 4 歳が全体 の約 4 割を占めた 発生状況 ( 宮崎県 ) 定

Microsoft Word - 案1 week14-21

2. 定期接種ンの 接種方法等について ( 表 2) ンの 種類 1 歳未満 生 BCG MR 麻疹風疹 接種回数接種方法接種回数 1 回上腕外側のほぼ中央部に菅針を用いて2か所に圧刺 ( 経皮接種 ) 1 期は1 歳以上 2 歳未満 2 期は5 歳以上 7 歳未満で小学校入学前の 1 年間 ( 年

A 農場の自家育成牛と導入牛の HI 抗体価の と抗体陽性率について 11 年の血清で比較すると 自家育成牛は 13 倍と 25% で 導入牛は 453 倍と % であった ( 図 4) A 農場の個体別に症状と保有している HI 抗体価の と抗体陽性率を 11 年の血清で比較した および流産 加療

<4D F736F F D2096BC8CC389AE8E738AB490F58FC78FEE95F E91E631358F542E646F63>

rubella190828

<< インフルエンザ >> 区別 別報告定点当り 2. 平成 3 年 月 29 日 ~ 3 月 4 日 [ 平成 3 年 ~ ] 鶴見神奈川 西 中 南 港南保土ケ谷 旭 磯子金沢港北 緑 青葉都筑戸塚 栄 泉 瀬谷 定点数

Microsoft Word - full_SIDWR

東京都感染症発生動向調査データの解析 - インフルエンザ定点医療機関とインフルエンザ - * * * 灘岡陽子, 原綾子, 池田一夫, * * ** 阿保満, 神谷信行, 矢野一好 Comparative Analysis of Infectious Disease Surveillance Dat

インフルエンサ 及び小児感染症の疾病別推移グラフ 平成 年 京都市 _ 本年 全国 _ 本年 京都市 _ 過去 5 年平均値 全国 _ 過去 5 年平均値 6 インフルエンザ 8 手足口病 RS ウイルス感染症.5 伝染性紅斑 りんご病

11w.xdw

日産婦誌58巻9号研修コーナー

33w.xdw

医療機関における診断のための検査ガイドライン

Microsoft Word - 緊急風疹情報2019年第20週.docx

Microsoft Word - ⟖3104_æfl¹æ�£_Q#A+é•ıç�¥æ·»ä»Ÿã…»æŒ½è¨�çfl¨ï¼›.docx

2012 年同期 (~9 月 19 日 ) と比較すると約 8.5 倍となった 2013 年 1 月 1 日 ~9 月 18 日までに報告された地域 ( 報告数 ) は東京都 (3337) 大阪府(3165) 神奈川県(1639) 兵庫県 (1156) 千葉県(698) 埼玉県(599) の 6 都

<34398FAC8E998AB490F55F DCC91F092CA926D E786C7378>

系統看護学講座 クイックリファレンス 2012年 母性看護学

インフルエンサ 及び小児感染症の疾病別推移グラフ 平成 年 京都市 _ 本年 全国 _ 本年 京都市 _ 過去 5 年平均値 全国 _ 過去 5 年平均値 6 インフルエンザ 8 手足口病 RS ウイルス感染症.6 伝染性紅斑 りんご病

<4D F736F F D2096BC8CC389AE8E738AB490F58FC78FEE95F E91E630398F544E2E646F63>


<< インフルエンザ >> 区別 別報告定点当り. 平成 3 年 2 月 5 日 ~ 3 月 日 [ 平成 3 年 ~ ] 鶴見神奈川 西 中 南 港南保土ケ谷 旭 磯子金沢港北 緑 青葉都筑戸塚 栄 泉 瀬谷 定点数

DPT, MR等混合ワクチンの推進に関する要望書

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

Transcription:

札幌市衛研年報 41, 37-41 (2014) 札幌市における水痘の流行状況について 扇谷陽子花井潤師宮田淳 要旨水痘の感染予防の注意喚起に活用することを目的として 感染症発生動向調査で得られたデータを用いて 1999 年 ~2012 年の札幌市における水痘の流行状況を解析した この結果 札幌市では 例年初夏と冬季に患者報告数が増加すること 定点あたり患者報告数の年平均値が全国的な状況よりやや高い傾向にあること 年齢別患者報告割合について1~4 歳が高いこと 小児科定点調査であるが20 歳代も毎年報告があることが確認された 1. 緒言水痘は 水痘 帯状疱疹ウイルスの初感染により発症する疾患で 約 2 週間の潜伏期間の後 発熱 倦怠感 発疹などの症状で発症する わが国で みずぼうそう と呼ばれているこの疾患は 健康小児の予後は一般的に良好であるが 成人 免疫抑制状態にある患者 新生児 妊婦などで重症化しやすく 1) また 妊娠中の感染は 先天性水痘症候群や周産期水痘など児に重篤な病状を引き起こすことがある 2) ため 感染予防は重要である しかし 感染症発生動向調査の結果 毎年全国で約 100 万人が罹患していると推定 3) されており 札幌市においても毎年多数の患者報告がある そこで 今後の感染予防の注意喚起に活用することを目的として 札幌市における水痘の流行状況を解析したので 概要を報告する 2. 方法 2-1 調査対象期間 1999 年 4 月 ( 第 13 週 )~2012 年 12 月 ( 第 52 週 ) 2-2 調査対象者調査対象期間に感染症発生動向調査において札幌市の小児科定点医療機関 ( 以下 定点 と記載 ) から水痘患者として報告のあった46,769 名を対象と した 2-3 調査項目 (1) 札幌市の報告週別定点あたり患者報告数 (2) 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値 (3) 札幌市の年齢別患者報告割合 2-4 情報の入手先厚生労働省 感染症サーベイランスシステム 及び 感染症発生動向調査事業年報 3. 結果 3-1 札幌市の報告週別定点あたり患者報告数流行する季節と流行時の患者報告数の増加状況を把握するため 札幌市の報告週別定点あたり患者報告数 ( 定点数 :37) の推移について解析した ( 図 1) 札幌市の定点あたり患者報告数は 例年 初夏 (5~7 月頃 ) と冬季 (12~1 月頃 ) に増加し 夏季 (8~ 10 月頃 ) に減少する傾向が確認された 流行時において 2000 2001 2003 2005 2006 及び2011 年に注意報レベル ( 基準値 :4) 4) に至ったが それぞれについて期間は短かった 年次推移について 2009 年と2012 年の初夏を除き 大きな変動は認められなかった - 37 -

3-2 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値流行状況の年次推移を 全国的な状況と比較するため 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値について解析した ( 図 2) 全国的には 調査期間の定点あたり患者報告数の年平均値は その年次推移にやや増減があるものの大きな変動は認められなかった 札幌市は 年次推移については全国と類似していたが 年平均値が2009 年を除いて全国平均より0.1~0.5( 人 ) の範囲でやや高く 調査期間全体を通じると全国の1.15 倍であった 3-3 札幌市の年別年齢別患者報告割合患者報告が多い年齢とリスクの高い年齢の罹患状況とその年次推移を把握するため 年齢別患者割合について解析した ( 図 3 図 4) 年別年齢別患者報告割合は 9 歳以下が97~98% であった 1~4 歳の各年齢が14~20% の範囲にあり それぞれ同様に高かった 小児科定点調査であるが20 歳代について0.1~0.8%(2~29 人 ) の報告があり 1 歳未満について6.3~9.9% (158~430 人 ) の報告があった 年次推移について 各年の各年齢の報告割合に大きな変動は認められず ほぼ同様の割合であった 4. 考察水痘 帯状疱疹ウイルスは感染力が強く 発疹出現 1~2 日前の患者からも排出され 空気感染や飛沫感染により伝播する 1) 水痘は 自然感染により終生免疫を獲得する疾患で 積極的な予防方法の主体はワクチン接種による免疫獲得とされている 5) 水痘ワクチンは 我が国において 任意接種のワクチンとして1987 年から1 歳以上を対象に接種されてきた しかし 出生数に対するワクチンの出荷量を基に推定されてきた接種率は30~40% 程度 6) であり この状況下で 毎年 流行が繰り返されてきた 水痘の流行は 人口密度 暴露リスク 熱に不安定な病原ウイルスの高温多湿な環境下における感染力 環境や社会的要因 または これら要因が複合的に関連する可能性がある 1) とされている また 水痘は 温帯や多くの熱帯地域で 冬や春の涼しく乾燥した時期に流行するとされている 1) 札幌市で水痘が流行する季節 ( 図 1) は 涼しく乾燥した時期で 病原ウイルスの性質に関連する季節性の認められる流行状況であることが確認された 流行状況の全国と札幌市の比較において 札幌市は定点あたり報告数の年平均値がやや高い傾向で推移 ( 図 2) していた 札幌市は北部に位置する都市であることから 冷涼な気候 人口密度 暴露リスク等が複合的に関連した可能性が考えられるが 明確な言及は難しい なお 平均値には 前述した流行に関連する要因以外に 定点における病院と一般診療所の割合等の状況 ( 医療施設特性 ) も関与すると考えられる 仮に 全国と札幌市では必ずしも同様ではない医療施設特性が主たる要因であるとすれば 他の小児科定点把握感染症でも 同様の傾向が認められると推測される しかし 同様な傾向が認められない他の疾患も存在する 7) ことから 医療施設特性の関与は そう大きいものではないと考えている ところで 2009 年と 2012 年に年平均値が全国的な状況とほぼ同様な値となった ( 図 2) これは これらの年の5~7 月の定点あたり患者報告数において例年より少ない傾向 ( 図 1) が認められたことによるものと考えられる これらの時期は 新型インフルエンザ ( 当時 ) の報告や季節性インフルエンザの流行状況 8) に関連して一般的な感染予防法が励行された時期であり 何らかの影響が及ぼされた可能性もある 今後において 幾つかの感染症について 流行状況の相互の推移を注視したいと考えている 年齢別患者報告割合 ( 図 3 図 4) について 報告割合が高い年齢が1~4 歳であったことから 感染予防のためには ワクチン接種対象年齢 (1 歳 ) となったら すみやかに接種することが望ましいと考 - 38 -

えられる また 重症化リスクが高い成人 (20 歳代 ) について 小児科定点調査であり 内科受診者が含まれない状況であっても毎年報告があったことから 成人罹患に対するリスクの周知も必要と考えられる ワクチン接種対象前の1 歳未満について 1~4 歳各年齢の半分程度の割合の報告があった ( 図 4) この年齢は 母親からの移行抗体が減少した月齢において重症化する場合があることが報告されている 9) 定点からの報告数の数倍は存在すると推定される 4) この年齢の罹患を減少させるには 病原ウイルスへの暴露リスクを下げること等が必要と考えられる わが国における水痘ワクチンの定期接種化については 様々な検討がなされてきた 3)10) 平成 26 年 6 月現在 厚生科学審議会の意見聴取 11) を踏まえ 平成 26 年 10 月からの定期接種化が見込まれている状況にある 今後 定期接種化による集団免疫により 重症化リスクのある人の罹患が減少することを期待したい 5. 結語 1999 年 ~2012 年の札幌市における水痘の流行状況を解析し ワクチンの定期接種化以前の状況を把握することができた 今後は 定期接種化以降の流行状況の推移を注視し 感染予防の注意喚起などの啓発に役立てていきたいと考えている 6. 文献 1) Heininger U, Sewaed J : Varicella, Lancet, 368,1365-1376,2006 2) 田中孝明, 中野貴司 : 母子感染防止とその限界水痘, 臨床とウイルス,40(1),61-67,2012 3) 国立感染症研究所 : 水痘ワクチンに関するファクトシート ( 平成 22 年 7 月 7 日版 ) (http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/ 2r9852000000bx23-att/2r9852000000bxqx.pdf) 4) 厚生労働科学研究 ( 新興 再興感染症研究事業 ) 効果的な感染症サーベイランスの評価並びに改良に関する研究 研究班 : 疫学的 統計学的なサーベイランスの評価と改善グループ 研究報告書感染症発生動向調査に基づく流行の警報 注意報および全国年間罹患数の推計 -その9-,2009 5) World Health Organization:WHO position paper on varicella vaccines,weekly Epidemiological Record,73,241-248,1998 6) 国立感染症研究所感染症疫学センター : < 特集 > 水痘 帯状疱疹とそのワクチン, 病原微生物検出情報,34(10),287-288,2013 7) 扇谷陽子, 花井潤師, 宮田淳 : 札幌市における流行性耳下腺炎の流行状況について, 札幌市衛生研究所年報,40,37-41,2013 8) 扇谷陽子, 菊地正幸, 佐藤寛子他 : 札幌市におけるインフルエンザの流行状況, 北海道公衆衛生学雑誌,26(1),48,2012 9) 馬場宏一, 薮内百治, 高橋理明 : 新生児および乳児期の水痘ウイルスに対する免疫, 臨床とウイルス,9(1),22-24,1981 10) 厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会水痘ワクチン作業チーム : 水痘ワクチン作業チーム報告書 (http:// www.mhlw.go.jp/stf/shingi/ 2r98520000014wdd-att/2r98520000016rqn.pdf) 11) 厚生労働省健康局結核感染症課 :2014 年 1 月 15 日第 4 回厚生科学審議会予防接種 ワクチン分科会議事録 (http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000037467. html) - 39 -

- 40 -

- 41 -