日臨外会誌 77( 3 ),657 661,2016 症 例 腹腔鏡下修復術を行った妊娠出産後腹直筋離開の 2 例 大津市民病院外科 中右雅之橘強岡部寛光吉明柳橋健 妊娠 出産による腹直筋離開は, 欧米ではしばしば治療対象となるが本邦では着目されていない. 今回われわれは, 腹部膨隆を主訴とする 2 回の経膣分娩歴のある33 歳, および双子を帝王切開で出産した36 歳の女性の腹直筋離開に対し腹腔鏡下に修復を行った. 両者とも離開部を鏡視下に非吸収糸で縫縮した後 composite meshによる補強を行った. 腹部 CTによる術前 術後 6 カ月の腹直筋間距離 (inter-recti distance: 以下 IRD) を, 臍部頭側 3 cm 臍部中央 臍部尾側 2 cmで計測を行い評価した. 1 例目では IRDは術前 26mm 42mm 20mmから術後は10mm 15mm 10mm と, 2 例目では術前 26mm 32mm 23mmから16mm 9 mm 9 mm と短縮した. 両者とも術後合併症はなく修復に対する満足度は高かった. 妊娠出産後の腹直筋離開に対する本邦での腹腔鏡下修復例の報告はなく, 文献的考察を加え報告する. 索引用語 : 腹直筋離開, 腹腔鏡, 出産後 緒言妊娠 出産による腹壁伸展に伴う産後の腹直筋離開は欧米では広く認知され, 美容上の理由で外科的修復がしばしば行われている 1). しかしながら, 本邦では病態自体にほとんど着目されておらず, 治療報告例もほとんど存在しない. 今回, われわれは妊娠 出産後の腹直筋離開に対し腹腔鏡下に修復した 2 症例を経験したので, 文献的考察を加えて報告する. 症例症例 1 :33 歳, 女性. 主訴 : 臍部を中心とする腹部膨隆. 既往歴 : 特記事項なし. 現病歴 :24 歳で第 1 子を,32 歳で第 2 子をそれぞれ経膣分娩で出産した. 第 2 子出産後 6 カ月を経過しても腹部の膨隆が軽快しないため他院形成外科を受診し, 妊娠による腹直筋離開と診断された. 他院で前方からの修復を勧められたが腹腔鏡下の修復を希望し, 当科に紹介となった. 2015 年 11 月 10 日受付 2016 年 1 月 19 日採用 所属施設住所 520-0840 大津市本宮 2-9 - 9 現症 : 身長 156cm, 体重 43kg. 触診上, 臍部を中心とした縦約 13cm の腹直筋の離開を認めた. 腹部単純 CT(Fig. 1A,B,C): 筋膜は保たれるものの臍部を中心とした腹直筋離開を認める.IRDは開大し, 臍部頭側 3 cm 臍部中央 臍部尾側 2 cmで計測するとそれぞれ26mm 42mm 20mm であった. なお,IRD の正常値は Rath らの報告では臍部で27mm まで,Beerらは未産婦では臍部頭側 3 cmは22mmまで, 臍部尾側 2cmでは16mmまでと報告されている 2)3). 患者には必ずしも修復が必要な状態ではないことを説明したが, 強い修復希望があり腹腔鏡下に修復することとした. Palanivelu ら 4) の鏡視下での離開筋膜の縫合修復の手技を参考とし, 腹腔鏡下に腹直筋筋膜の縫合縫縮を行いメッシュで補強することとした. 手術所見および手術操作 : 右肋弓下鎖骨中線上に12 mmポートを開腹法で造設し 5 mm 斜視鏡を挿入, その後, 左右下腹部外側に 5 mmポート, 恥骨上に 5 mmポートを造設した. 左右腹直筋は臍部を中心に縦約 14cmにわたり離開していた (Fig. 2A). 恥骨上ポートからの視野で, 左右下腹部ポートを用い臍上の離開部を 0 号 V-Loc TM にて連続縫合にて頭側から尾側, 尾側から頭側へと往復し縫合縫縮を行った. 腹壁を用 153
658 日本臨床外科学会雑誌 77 巻 Fig. 1 症例 1 腹部単純 CT:A B Cに術前の,D E Fに術後の, 臍部頭側 3 cm 臍部中央 臍部尾側 2 cmでの腹直筋離開距離を白線で示す. 術前 A B Cで示す離開距離は, それぞれ26mm 42mm 20mmと開大しているが, 術後はD E Fで示すように10mm 15 mm 10mmと短縮がみられる. 手的に圧迫し腹直筋後鞘 前鞘を貫通するように手指先で針を皮下に触知し, 縫合縫縮を行った (Fig. 2B, C). 縫合部にPARIETEX TM COMPOSITE Mesh( 以下 PCO Mesh)20 15cm(Fig. 2D) を貼付し補強した. 術後経過 : 腹直筋筋膜縫合部の疼痛が比較的強かったが,NSAIDsの内服でコントロール可能で術後 5 日目に退院した. 術後約 6 カ月の腹部単純 CT(Fig. 1D,E,F) を示す. 臍部頭側 3 cm 臍部中央 臍部尾側 2 cm で計測すると, それぞれ10mm 15mm 10mmと著明に短縮がみられ, 患者は腹部の状態に非常に満足していた. 術後 1 年経過後も再発はみられていない. 症例 2 :36 歳, 女性. 現病歴 :31 歳で双子を帝王切開にて出産後, 腹部の膨隆が継続し不快感があった. 当院産婦人科を受診し, 当初は腹壁瘢痕ヘルニアの診断で当科紹介となった. 現症 : 身長 161cm, 体重 45kg, 触診で臍部を中心とし縦約 12cm にわたる腹直筋の離開を認めた (Fig. 3). 腹部単純 CT(Fig. 4A,B,C): 筋膜は保たれるものの臍部を中心とした腹直筋離開を認める.IRDは 開大し, 臍部頭側 3 cm 臍部中央 臍部尾側 2 cmで計測すると, それぞれ26mm 32mm 23mm と開大していた. 帝王切開の既往があったが,CT 上筋膜が保たれていることや, 臍部を中心に腹直筋が離開していることから, 腹壁瘢痕ヘルニアではなく妊娠 出産に伴う腹直筋離開と診断した. 患者の強い修復希望があったため, 症例 1 と同様の手技で修復することとした. 手術所見および手術操作 : 症例 1 と同様のポート配置とした. 左右腹直筋は臍部を中心に縦約 13cmにわたり離開していた. 0 号 V-Loc TM にて連続縫合にて頭尾方向に往復するように縫合縫縮し, 縫合部に PCO Mesh 15 10cm を貼付し補強した. 術後経過 : 疼痛以外の問題はなく術後 6 日目に退院した. 術後約 6 カ月の腹部単純 CT(Fig. 4D,E,F) を示す. 臍部頭側 3 cm 臍部中央 臍部尾側 2 cmで計測すると, それぞれ16mm 9 mm 9 mmと著明に短縮がみられ, 修復後の腹部の状態に対する患者の満足度は高かった. 154
3 号 腹直筋離開に対する腹腔鏡下修復 659 Fig. 2 症例 1 腹腔鏡所見 A: 恥骨上ポートから観察した腹直筋離開部 ( 矢頭 ). 臍部を中心に縦約 14cm にわたり離開. B: 腹壁を用手的に圧迫し 0 号 V-Loc TM にて連続縫合. C: 左右腹直筋離開部の縫合修復後. D: 縫合部をPARIETEX TM COMPOSITE Mesh( 以下 PCO Mesh)20 15cm にて補強. Fig. 3 症例 2 腹部写真 : 臍部を中心に縦約 12cm の離開を認める ( 矢頭 ). 考察腹直筋離開 (rectus abdominis diastasis) は左右の腹直筋をつなぐ白線が様々な理由から脆弱化することで発症する. 白線ヘルニアや腹壁瘢痕ヘルニアとの違いは腹直筋離開の原因が, 筋膜自体の伸展によるものであり破綻ではないことにある 1). 特に妊娠出産を契機とする離開が多く, 妊娠後期では66% の女性にみられ, そのうち30-60% は妊娠期間が終了しても腹直筋が離開した状態が継続すると報告されている 5). 欧米では妊娠出産後の腹直筋離開は広く認知され, 外科的治療がなされている 1). しかしながら, 腹直筋離開は真のヘルニアではないため, 腸管の嵌頓などのリスクが低く, 手術適応に関する明確なコンセンサスは存在せず, 美容上あるいは腹壁の脆弱化などの機能的な観点から腹壁形成がなされていることが多い 6)7). 手術手技としては, 前方から比較的大きな皮膚切開による腹直筋筋膜前鞘あるいは筋膜後鞘の縫縮と皮下の脂肪吸引が一般的に行われており, 施設によっては加えてメッシュによる補強が行われることもある 1). 前方か 155
660 日本臨床外科学会雑誌 77 巻 Fig. 4 症例 2 腹部単純 CT:A B C に術前の,D E F に術後 6 カ月の, 臍部頭側 3 cm 臍部中央 臍部尾側 2 cm の腹直筋離開距離を白線で示す. 術前 A B C で示す離開距離は, それぞれ 26mm 32mm 23mm と開大しているが, 術後は D E F で示すように 16mm 9 mm 9 mm と短縮がみられる. らのアプローチでメッシュのみによる修復の報告もみられたが 8), 文献による報告は少なくメッシュのみの治療は一般的ではないと思われた. 腹腔鏡下の修復も報告されており, 腹腔内からの筋膜縫縮やこれに加えてメッシュによる補強も行われているが, 報告例は比較的少ない 4)9). 理由としては治療には一般外科医ではなく, 形成外科医が治療に関わることが多いからではないかと考えられた. 本邦では, 妊娠 出産後の腹直筋離開の治療報告は医学中央雑誌を1985 年から2015 年 8 月まで 妊娠, 腹直筋離開 をキーワードに検索した限りでは該当する報告はなかった. 本邦においては, 妊娠 出産後の腹直筋離開の治療に対する関心や理解がほとんどないのが現状である. しかし, インターネットで検索すると妊娠 出産後の腹直筋離開に悩む患者サイトが少なからずみられ, 潜在的な治療要望は相当数存在するものと考えられる. 症例 1 と 2 の患者には, 必ずしも治療の必要はないこと, 日本ではあまり治療対象となっていないこと, 海外では形成外科医による前方からの腹壁形成が一般 的であることを説明した. しかし, 美容的観点から創部の小さな腹腔鏡下での修復を強く希望したため腹腔鏡下の修復を行った. 両症例ともPalaniveluら 4) の手術手技を参考として腹腔内より離開腹直筋筋膜を縫合し,PCO Mesh で補強した. 離開腹直筋の縫合は体外からの用手的な補助を加えることで比較的容易に行え, さらに V-Loc TM 用いることで連続縫合による糸の緩みもなかった. 手術手技の工夫やこれまでの縫合糸やメッシュなどの改良により, 腹腔鏡下での修復も前方からの修復と同様の確実性が得られるものと思われた. 本邦では, 妊娠 出産後の腹直筋離開に対する腹腔鏡による報告のみならず, 前方からの治療報告もほぼ皆無の状態である. 妊娠 出産後の腹直筋離開に悩む患者の存在を認知し, 適切なインフォームド コンセントのもと治療対象として認識することが必要であると思われた. 結語今回, われわれは妊娠 出産後の腹直筋離開に対する腹腔鏡下修復の 2 症例を経験した. しかし, 疾患そ 156
3 号 腹直筋離開に対する腹腔鏡下修復 661 のものに対する関心自体が低く, 先ずは疾患に悩む患者の存在に目を向けることが必要と考えられた. References 1)Akram J, Matzen SH : Rectus abdominis diastasis. J Plast Surg Hand Surg 2014 ; 48 : 163-169 2)Rath AM, Attali P, Dumas JL, et al : The abdominal linea alba : an anatomo-radiologic and biomechanical study. Surg Radiol Anat 1996 ; 18 : 281-288 3)Beer GM, Schuster A, Seifert B, et al : The normal width of the linea alba in nulliparous women. Clin Anat 2009 ; 22 : 1564-1569 4)Palanivelu C, Rangarajan M, Jategaonkar PA, et al : Laparoscopic repair of diastasis recti using the Venetian blinds technique of plication with prosthetic reinforcement : a retrospective study. Hernia 2009 ; 13 : 287-292 5)Boissonnault JS, Blaschak MJ : Incidence of diastasis recti abdominis during the childbearing year. Phys Ther 1988 ; 68 : 1082-1086 6)Hickey F, Finch JG, Khanna A : A systematic review on the outcomes of correction of diastasis of the recti. Hernia 2011 ; 15 : 607-614 7)Nahas FX : An aesthetic classification of the abdomen based on the myoaponeurotic layer. Plast Reconstr Surg 2001 ; 108 : 1787-1795 8)Emanuelsson P, Gunnarsson U, Stark B : Early complication, pain, and quality of life after reconstructive surgery for abdominal rectus muscle diastasis : a 3-month follow-up. J Plast Reconstr Aesthet Surg 2014 ; 67 : 1082-1088 9)Siddiky AH, Kapadia CR : Laparoscopic plication of the linea alba as a repair for diastasis recti a mesh free approach. J Surg Case Rep 2010 ; doi : 10. 1093/JSCR/2010.5.3 TWO CASES OF LAPAROSCOPIC PLICATION FOR RECTUS DIASTASIS Masayuki NAKAU, Tsuyoshi TACHIBANA, Hiroshi OKABE, Akira MITUYOSHI and Ken YANAGIBASHI Division of Surgery, Otsu Municipal Hospital Postpartum rectus diastasis (RD) is commonly encountered in Western countries and often treated but it is a little-known clinical condition in Japan. We report two cases of postpartum RD. The first case was a 33-year-old woman with a history of two transvaginal deliveries, and the second case was a 36-year-old woman who had twins delivered by caesarean section. In both cases, significant RD was seen and laparoscopic plication was performed with nonabsorbable sutures and composite mesh reinforcement. The inter-recti distance (IRD) was measured preoperatively and 6 months postoperatively 3 cm above the umbilicus, at the umbilicus, and 2 cm below the umbilicus on computed tomography. In the first case, the IRD reduced from 26 mm, 42 mm, and 20 mm, respectively, to 10 mm, 15 mm, and 10 mm, respectively, 6 months after surgery. In the second case, IRD reduced from 26 mm, 32 mm, and 23 mm, respectively, to 16 mm, 9 mm, and 9 mm, respectively, 6 months after surgery. Both patients were satisfied with the cosmetic outcome. We report these cases with a review of the literature. Key words:rectus diastasis,laparoscopic,postpartum 157