リサーチ中国 2005 年 4 月号 Vol.56 No.669 より転載 地域木材の利用促進を図る産地証明への取り組み 渡里司 ( 社団法人中国地方総合研究センター副主任研究員 ) 本稿では 地域木材の利用促進を図るための方策である全国の住宅助成制度 産地証明制度 認証制度の現状を考察するとともに 広島県森林組合連合会からの平成 16 年度受託事業である広島県産材産地証明推進事業で構築された広島県産材産地証明制度の概要をご紹介します はじめに 今日 水源のかん養や土砂災害の防止といった公益的な機能 温室効果ガスである二酸化炭素を吸収する機能等 多様な機能を持つ森林を維持 保全するとともに 木材 エネルギー等での循環的な資源として利用することにより循環型社会の構築を図ろうとする考えは広く認識されつつあり 国産材の流通促進に対する一層 積極的な取り組みが必要となっている 各都道府県では 地域木材の活用を行うため 都道府県で実施される治山 治水等の土木事業 公共建築物の建築の際 仕様書内に 地域木材を使用すること という要件が記載されている場合も増してきており 木材の産地証明の必要性も高まってきている 1. 地域木材の利用促進と住宅助成制度 公共土木事業等での地域木材の使用が進められる一方で 住民に対する身近な地域木材使用へのインセンティブを創出するため 地域木材を使用して建築された住宅に対する助成制度を設けている都道府県が多い 助成制度は 1 利子補給 2 融資 3 補助金 4 無償での木材提供といった4つのパターンで実施されている ( 図 1) 1
図 1 地域木材利用住宅への助成制度の実施状況 凡例融資利子補給補助金木材の無償提供 ( 注 1) 平成 17 年 4 月 1 日現在 ( 注 2) 制度運用が県単位で確認できたものをあげている ( 資料 ) ホームページにより中国総研作成 助成制度県名県産材比率融資利率 金額上限 利率適用期間 融資 秋田 70% 1.95% 1,000 万円 10 年 融資 栃木 50% 公庫 1% 600 万円 5 年 融資 埼玉 60% 市中 1% 1,000 万円 10 年 融資 新潟 m2当たり 0.07m 3 1% 1,000 万円 10 年 融資 富山 10m 3 以上 2.55% 500 万円 10 年 融資 三重 65% 公庫 0.5% 750 万円 10 年 融資 京都 50% 2.5~2.7% 900 万円 25 年 融資 兵庫 50% 2% 1,500 万円 25 年 融資 徳島 50% 公庫 0.4% 2,000 万円 10 年 助成制度 県名 県産材比率 補給利率 金額期間上限上限 利子補給 山形 60% 1% 2,500 万円 5 年 利子補給 茨城 40% 最大 2% 400 万円 10 年 利子補給 群馬 60% 1.1% 650 万円 5 年 利子補給 岐阜 10m 3 以上 最大 1.5% 1,520 万円 5 年 利子補給 愛媛 50% 1% 800 万円 5 年 利子補給 佐賀 50% 1% 1,290 万円 5 年 利子補給 熊本 70% 1% - 5 年 利子補給 宮崎 一戸建て従来軸組工法 0.5% 建設費用 5 年 助成制度 県名 県産材比率 補助金 青森 60% 補助金 岩手 10m 3 以上 補助金 福島 指定無し 補助金 石川 75% 補助金 福井 50% 補助金 長野 50% 補助金 静岡 45% 補助金 和歌山 - 補助金 鳥取 50% 補助金 島根 50% 補助金 岡山 90% 補助金 徳島 50% 補助金 高知 50% 補助金 福岡 70% 補助金 大分 80% 補助金 鹿児島 60% 助成制度 県名 木材無償提供 群馬 木材無償提供木材無償提供木材無償提供 愛知滋賀徳島 補助金額 20 万円 2 万円 / 県産材 1m 3 (40 万円まで ) 設計費用の1/2 かつ10 万円以内 40 万円又は 80 万円 50 万円 2 万円 / 県産材 1m 3 (20 万円まで ) 60 万円 50 万円 15~60 万円m2当たり 1,500 円 上限 134m2m2当たり 1,017 円 又は 2,034 円 37 万円上限 15 万円又は 20 万円内容 1 戸当たり 110 本以内 1 戸当たり 12 万円の値引き 1 戸当たり最高 100 本の柱材 1 戸当たり 20 万円を上限とする数量の部材 内容として 融資では概ね市中金利より 0.5%~1% 程度の優遇がなされている 利子補給については 補給利率は融資の場合とほぼ同程度であり 1% としている県が多い 利子補給では補給金が毎年支払われるため 施主にとっては融資よりもメリットが大きく感じられる また 補助金は初年度に一括して支払われる形であるが 金額で 15 万円 ~80 万円と 県によって開きがみられる 無償での木材の提供では 概ね1 戸当たり 100 本前後の木材が支給されている 各自治体では年度ごとに助成内容を変える等の工夫を行い 住民の地域木材使用のインセンティブ創出を模索している 2
2. 産地証明制度 認証制度 旧来からの国産材の流通においても新たなサービスを付加していくことで 国産材の幅広い活用が図られている 産地証明制度や木材認証制度の構築は 地域木材に対する需要者の信頼性を高めるための木材流通における付加サービスであり 前述の公共土木事業等の実施や住宅助成制度の活用の場合にも地域木材を使用しているという証明書が必要となる 今日ではこうした制度は多くの都道府県で実施されてきている ( 図 2) 全国の県産材産地証明書発行の実態をみると 木材流通の主体ごとに産地証明書を発行していく方法と流通履歴を記載した証明書を発行する方法の2 通りがあり 産地証明書の発行は各地域のかつてからの地域木材流通事情を反映した形で行われている 図 2 産地証明制度 認証制度の実施状況 凡例創設済み 構築を検討中 ( 注 1) 平成 17 年 4 月 1 日現在 ( 注 2) 本稿における産地証明制度とは, 木材の産地証明を証明するため, 各流通主体が共通のフォーマットに基づき, 証明を行う制度とし, 認証制度とは, 第三者の認証機関がその産地を産地を認証する制度と考えるものとする ( 注 3) 産地証明書の発行は, 多くの都道府県で森林組合連合会, 木材組合連合会等が中心となって実施されており,1 都道府県内で地域限定の取り組みも行われている ( 注 4) 制度運用が県単位で確認できたものをあげている ( 資料 ) 電話, ホームページにより中国総研調査 3. 広島県産材産地証明制度の構築 こうした取り組みが全国で展開される中 広島県では原木市場が中心となり 平成 17 年 3 月 28 日から 広島県産材産地証明制度 の運用が始まった 3
広島県での取り組みの特徴は次の通りである 1 原木市場を起点とした産地証明書産地証明書の一次票を発行するのは原木市場であり 一つのフォーマットに従い 木材流通の各主体が流通履歴を記載していく方法をとっている ( 図 3) 地域木材の証明は 原木市場が中心となり設立した広島県産材産地証明協議会が行う 協議会では 今後 木材流通において証明書発行に全面的に協力する流通主体を積極的にメンバーとして加え 制度の定着 普及を目指す考えである 図 3 広島県産材産地証明制度 4
2インターネットを活用した産地証明書の発行発行を容易にするため 県内の3つの原木市場 ( 広島林産中市協同組合 広島県森林組合連合会三原久井木材共販所 広島県森林組合連合会三次木材共販所 ) において落札された原木については 原木市場のホームページ ひろしまウッドプレイス (http://www.hirolog.com/) からの産地証明書の発行が可能となっている 製材 加工業者は随時 コンピューターのある場所であれば 取得したID パスワードを入力することにより 原木の産地流域 原木市場からの購入履歴 ( 日時 樹種 材積 ) が記載された証明書を取得することができる また これは原木市場における証明書発行作業の簡素化を図ることに成功している 以上のように 広島県での県産材産地証明制度は 木材流通の上流部に位置する原木市場を起点とし 原木産地の特定に配慮するとともに インターネットの活用により証明書を適宜 発行できるという点で まずは産地証明制度の普及に重点をおいた制度となっている 4. 県産材の利用促進を目指して 広島県内の製品市場である中国合同木材市場では平成 13 年からインターネット上での製品のオークション販売を進めており 一昨年には期間限定でオークション参加者にポイントを付与し 一定のポイントが累積すると 商品券に交換できるサービスの実施も試みている 広島県産材産地証明制度の普及には 多くの木材流通における各主体の協力が必要となる 今後は中国合同木材市場のようなサービスの充実も念頭に置き 上流から下流までの各主体ができる限り 簡易な方法で証明書を発行できるようにデータ連携していくことが望まれる また 住宅建築の際 施主は建材として国産材とほかの建材を比較し 価格が高いというイメージを持っている場合が多い 環境の世紀であり 京都議定書の発効もなされた今日において 地域木材の活用は地域の森林の多面的な機能を維持し 地域木材を活用した住宅を建築することにより 住民自身が環境保全に積極的に貢献しているのだという価値観の形成が必要である このため今後は 住宅産業等と一体となったインセンティブ創出への取り組みも必要であると考えられる 広島県においても県産材を使用した木造住宅建築の場合の助成制度の創設が期待されるとともに これまで以上に 木材流通における各主体がサービスを充実させ 買い方や施主の魅力 利便性を引き出すことが重要となってくる 5