第 1 原告の求めた判決 特許庁が無効 号事件について平成 23 年 12 月 28 日に した審決を取り消す 第 2 事案の概要本件は, 被告の請求に基づき原告の本件特許を無効とした審決の取消訴訟であり, 当裁判所が取り上げる争点は, 実施可能要件及びサポート要件の充足性の

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事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

審決取消判決の拘束力

指定商品とする書換登録がされたものである ( 甲 15,17) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 4 月 21 日, 本件商標がその指定商品について, 継続して3 年以上日本国内において商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって, 不使用に

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

平成 25 年 3 月 25 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 2 月 25 日 判 決 原 告 株式会社ノバレーゼ 訴訟代理人弁理士 橘 和 之 被 告 常磐興産株式会社 訴訟代理人弁護士 工 藤 舜 達 同 前 川 紀 光

にした審決を取り消す 第 2 前提事実 1 特許庁における手続の経緯被告は, 発明の名称を レーザ加工方法, 被レーザ加工物の生産方法, およびレーザ加工装置, 並びに, レーザ加工または被レーザ加工物の生産方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納したコンピュータが読取可能な記録媒体 とする特

平成 23 年 10 月 20 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 23 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 9 月 29 日 判 決 原 告 X 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 興 治 郎 金 成 有 祐 被 告 Y 同訴訟代理人弁理士 須 田 篤

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

O-27567

4 年 7 月 31 日に登録出願され, 第 42 類 電子計算機のプログラムの設計 作成 又は保守 ( 以下 本件役務 という ) を含む商標登録原簿に記載の役務を指定役 務として, 平成 9 年 5 月 9 日に設定登録されたものである ( 甲 1,2) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

Microsoft Word 資料1 プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する審査基準の改訂についてv16

☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第24号-

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

平成 30 年 3 月 29 日判決言渡 平成 29 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 3 月 13 日 判 決 原告株式会社コーエーテクモゲームス 訴訟代理人弁護士 佐 藤 安 紘 高 橋 元 弘 吉 羽 真一郎 末 吉 亙 弁理士 鶴 谷 裕 二

1 特許庁における手続の経緯原告は, 名称を 5 角柱体状の首筋周りストレッチ枕 とする発明につき, 平成 20 年 10 月 31 日に特許出願 ( 本願 特願 号, 特開 号, 請求項の数 1) をし, 平成 25 年 6 月 19 日付けで拒絶

主文第 1 項と同旨第 2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は, 平成 24 年 6 月 14 日, 発明の名称を 遊技機 とする特許出願をし ( 特願 号 請求項数 3 ), 平成 26 年 5 月 12 日付けで拒絶理由通知 ( 甲 8 以下 本件

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

平成 25 年 7 月 17 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 5 月 29 日 判 決 原 告 株式会社ファランクス 訴訟代理人弁護士 江 森 史麻子 同 呰 真 希 被 告 有限会社サムライ 訴訟代理人弁理士 小 谷 悦

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平成 25 年 7 月 17 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 5 月 29 日 判 決 原 告 株式会社ファランクス 訴訟代理人弁護士 江 森 史麻子 同 呰 真 希 被 告 有限会社サムライ 訴訟代理人弁理士 小 谷 悦

REPORT あいぎ特許事務所 名古屋市中村区名駅 第一はせ川ビル 6 階 TEL(052) FAX(052) 作成 : 平成 27 年 4 月 10 日作成者 : 弁理士北裕介弁理士松嶋俊紀 事件名 入金端末事件 事件種別 審決取消

☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第31号-

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例 2: 組成 Aを有するピアノ線用 Fe 系合金 ピアノ線用 という記載がピアノ線に用いるのに特に適した 高張力を付与するための微細層状組織を有するという意味に解釈される場合がある このような場合は 審査官は 請求項に係る発明を このような組織を有する Fe 系合金 と認定する したがって 組成

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平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

2 被控訴人らは, 控訴人に対し, 連帯して,1000 万円及びこれに対する平成 27 年 9 月 12 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要 ( 以下, 略称及び略称の意味は, 特に断らない限り, 原判決に従う ) 1 本件は, 本件意匠の意匠権者である控訴人が

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

最高裁○○第000100号

BE874F75BE48D E002B126

1A210C11C8EC A77000EC45

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

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間延長をしますので 拒絶査定謄本送達日から 4 月 が審判請求期間となります ( 審判便覧 の 2.(2) ア ) 職権による延長ですので 期間延長請求書等の提出は不要です 2. 補正について 明細書等の補正 ( 特許 ) Q2-1: 特許の拒絶査定不服審判請求時における明細書等の補正は

で, 特許法 29 条 2 項に違反する等, としたものである 記 引用例 1 特開昭 号公報 ( 審判甲 1 本訴甲 4) 引用例 2 特開昭 号公報 ( 審判甲 2 本訴甲 5) イなお, 本件審決は, 引用例 1 には, 引用例 1 発明及び引用例 1 方法

第 1 控訴の趣旨 控訴人は, 原判決取消しとともに, 被控訴人らの請求をいずれも棄却する判決を 求めた 第 2 事案の概要 被控訴人らは日本舞踊の普及等の事業活動をしている 控訴人はその事業活動に 一般社団法人花柳流花柳会 の名称 ( 控訴人名称 ) を使用している 被控訴人ら は, 花柳流 及び

では理解できず 顕微鏡を使用しても目でみることが原理的に不可能な原子 分子又はそれらの配列 集合状態に関する概念 情報を使用しなければ理解することができないので 化学式やその化学物質固有の化学的特性を使用して 何とか当業者が理解できたつもりになれるように文章表現するしかありません しかし 発明者が世

平成  年(オ)第  号

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

最高裁○○第000100号

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7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

本件は, 商標登録取消審判請求に対する審決の取消訴訟である 争点は,1 被告又は通常実施権者による標章使用の有無及び2 使用された標章と登録商標との同一性の有無である 1 本件商標商標登録第 号商標 ( 以下, 本件商標 という ) は, 下記の構成からなり, 第 25 類 運動靴,

平成25年5月  日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

被告に対し, 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金 800 万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成 26 年 1 月 日から支払済みまで年 % の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 1 判断の基礎となる事実 ( 当事者間に争いのない事実又は後掲の各

下 本件特許 という ) の特許権者である 被告は, 平成 23 年 11 月 1 日, 特許庁に対し, 本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をした 特許庁は, 上記請求を無効 号事件として審理をした結果, 平成 25 年 9 月 3 日, 特許第 号の

平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

認められないから, 本願部分の画像は, 意匠法上の意匠を構成するとは認めら れない したがって, 本願意匠は, 意匠法 3 条 1 項柱書に規定する 工業上利用する ことができる意匠 に該当しないから, 意匠登録を受けることができない (2) 自由に肢体を動かせない者が行う, モニター等に表示される

平成 28 年 4 月 21 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 2 月 25 日 判 決 原告株式会社 C A 同訴訟代理人弁護士 竹 村 公 利 佐 藤 裕 紀 岡 本 順 一 石 塚 司 塚 松 卓

並びにそのコンサルタント業務等を営む株式会社である ⑵ 株式会社 CAは, 別紙著作物目録記載 1ないし3の映像作品 ( 以下 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の製作に発意と責任を有する映画製作者 ( 著作権法 2 条 1 項 号 ) であるところ, 本件各著作物の著

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31 日にした審決を取り消す 2 訴訟費用は被告の負担とする 第 1 原告の求めた裁判 主文同旨 事実及び理由 第 2 事案の概要 本件は, 商標登録を無効とした審決の取消訴訟である 争点は, 商標法 4 条 1 項 10 号該当性 ( 引用商標の周知性の有無 ) である 1 特許庁における手続の経

ことができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している さらに 台湾専利法第 76 条は 特許主務官庁は 無効審判を審理する際 請求によりまたは職権で 期限を指定して次の各号の事項を行うよう特許権者に通知することができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している なお

目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )(

を構成し, その結果, 本願意匠が同法 3 条 1 項柱書の 工業上利用することができる意匠 に当たるか否かである 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 27 年 3 月 16 日, 意匠法 14 条 1 項により3 年間秘密にすることを請求し, 物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠

同法 46 条 1 項 1 号により, 無効とすることはできない, というものである 第 3 当事者の主張 1 審決の取消事由に関する原告の主張 (1) 取消事由 1( 商標法 3 条 1 項柱書該当性判断の誤り ) 審決は, 本件商標に関し, 願書に記載された指定商品又は指定役務に使用していること

平成22年 月 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

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上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

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2 当事者の主張 (1) 申立人の主張の要旨 申立人は 請求を基礎づける理由として 以下のとおり主張した 1 処分の根拠等申立人は次のとおりお願い書ないし提案書を提出し 又は口頭での告発を行った ア.2018 年 3 月 23 日に被申立人資格審査担当副会長及び資格審査委員長あてに 会長の経歴詐称等

訂正情報書籍 170 頁 173 頁中の 特許電子図書館 が, 刊行後の 2015 年 3 月 20 日にサービスを終了し, 特許情報プラットフォーム ( BTmTopPage) へと模様替えされた よって,

2.2.2 外国語特許出願の場合 2.4(2) を参照 2.3 第 184 条の 5 第 1 項に規定された書面 (1) 日本語特許出願 外国語特許出願を問わず 国際特許出願の出願人は 国内書面提出期間 ( 注 ) 内に 出願人 発明者 国際出願番号等の事項を記載した書面 ( 以下この部において 国

原告が著作権を有し又はその肖像が写った写真を複製するなどして不特定多数に送信したものであるから, 同行為により原告の著作権 ( 複製権及び公衆送信権 ) 及び肖像権が侵害されたことは明らかであると主張して, 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 ( 以下 プ ロ

事件概要 1 対象物 : ノンアルコールのビールテイスト飲料 近年 需要急拡大 1 近年の健康志向の高まり 年の飲酒運転への罰則強化を含む道路交通法改正 2 当事者ビール業界の 1 位と 3 位との特許事件 ( 原告 特許権者 ) サントリーホールディングス株式会社 ( 大阪市北区堂島

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

平成  年(あ)第  号

基本的な考え方の解説 (1) 立体的形状が 商品等の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められる場合は 特段の事情のない限り 商品等の形状そのものの範囲を出ないものと判断する 解説 商品等の形状は 多くの場合 機能をより効果的に発揮させたり 美感をより優れたものとしたりするなどの目的で

争点は,1 引用例 2 記載事項の発明該当性の判断の遺脱の有無,2 同発明該当性の判断の誤り及び3 本願発明の進歩性判断の誤りの有無である 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 24 年 5 月 2 日, 名称を 放射能除染装置及び放射能除染方法 とする発明につき, 特許出願 ( 特願 201

第 2 事案の概要本件は, 原告が, 被告に対し, 氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを利用して, インターネット上の動画共有サイトに原告が著作権を有する動画のデータをアップロードした行為により原告の公衆送信権 ( 著作権法 23 条 1 項 ) が侵害されたと主張して, 特定電気

算税賦課決定 (5) 平成 20 年 1 月 1 日から同年 3 月 31 日までの課税期間分の消費税及び地方消費税の更正のうち還付消費税額 6736 万 8671 円を下回る部分及び還付地方消費税額 1684 万 2167 円を下回る部分並びに過少申告加算税賦課決定 (6) 平成 20 年 4 月

1 本件は, 別紙 2 著作物目録記載の映画の著作物 ( 以下 本件著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 以下 本件投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト FC2 動画 ( 以下 本件サイト という )

た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

平成 28 年 10 月 11 日判決言渡 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結の日平成 28 年 7 月 7 日 判 決 原 告 オーガスタナショナルインコーポレイテッド 同訴訟代理人弁護士 中 村 稔 同 松 尾 和 子 同 田 中 伸 一 郎 同訴訟代

平成 23 年 11 月 29 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 22 年 ( ワ ) 第 号特許権侵害差止等請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 10 月 4 日 判 決 広島県呉市 < 以下略 > 原 告 株 式 会 社 H D T 同訴訟代理人弁護士 稲 元 富 保 同

BA4D5EEABEB21E2A E002B12A

1 特許庁における手続の経緯等 ( 後掲証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実 ) (1) 被告は, 次の商標 ( 以下 本件商標 という ) の商標権者である ( 甲 1, 2) 登録番号第 号登録出願日平成 26 年 3 月 27 日設定登録日平成 28 年 4 月 22 日登録

平成 28 年 4 月 28 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償等請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 3 月 22 日 判 決 原 告 A 同訴訟代理人弁護士 松 村 光 晃 中 村 秀 一 屋 宮 昇 太 被告株式会社朝日新聞社 同訴訟代

実施可能要件, サポート要件の各充足性及び進歩性の判断の誤りの有無である 1 特許庁における手続の経緯被告は, 平成 26 年 8 月 13 日, 名称を 空気極材料及び固体酸化物型燃料電池 とする特許出願 ( 優先日を平成 25 年 8 月 23 日, 優先権主張国を日本国とするものであり, 以下

(イ係)

(1) 本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団である控訴人が, 被控訴人が企画, 編集した本件雑誌中に掲載された本件各記事において WDSC の表示を一審被告 A( 以下, 一審被告 A という )

(Microsoft Word \224\255\225\\\201yMSH\201z \224\273\214\210\201i\217\244\225W\201j.doc)

第 2 事案の概要本件は, 特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である 争点は,1サポート要件違反,2 実施可能要件違反,3 新規性,4 進歩性の各有無である 1 特許庁における手続の経緯被告は, 平成 17 年 3 月 2 日, 発明の名称を 鋼の連続鋳造用モールドパウダー とする発明につ

特例適用住宅 という ) が新築された場合 ( 当該取得をした者が当該土地を当該特例適用住宅の新築の時まで引き続き所有している場合又は当該特例適用住宅の新築が当該取得をした者から当該土地を取得した者により行われる場合に限る ) においては, 当該土地の取得に対して課する不動産取得税は, 当該税額から

に表現したものということはできない イ原告キャッチフレーズ1は, 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/ 英語がどんどん好きになる というものであり,17 文字の第 1 文と12 文字の第 2 文からなるものであるが, いずれもありふれた言葉の組合せであり, それぞれの文章を単独で見ても,2 文の組合

第 32 回 1 級 ( 特許専門業務 ) 実技試験 一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産教育協会 ( はじめに ) すべての問題文の条件設定において, 特に断りのない限り, 他に特殊な事情がないものとします また, 各問題の選択枝における条件設定は独立したものと考え, 同一問題内における他の選

ら退去を迫られやむを得ず転居したのであるから本件転居費用について保護費が支給されるべきであると主張して 本件処分の取消しを求めている 2 処分庁の主張 (1) 生活保護問答集について ( 平成 21 年 3 月 31 日厚生労働省社会援護局保護課長事務連絡 以下 問答集 という ) の問 13の2の

により容易に認められる事実 ) (1) 当事者等ア原告は,Aの子である イ Aは, 大正 年 月 日生まれの男性であり, 厚生年金保険の被保険者であったが, 平成 年 月 日, 死亡した ( 甲 1) (2) 老齢通算年金の受給 Aは, 昭和 年 月に60 歳に達し, 国民年金の納付済期間である18

政令で定める障害の程度に該当するものであるときは, その者の請求に基づき, 公害健康被害認定審査会の意見を聴いて, その障害の程度に応じた支給をする旨を定めている (2) 公健法 13 条 1 項は, 補償給付を受けることができる者に対し, 同一の事由について, 損害の塡補がされた場合 ( 同法 1

(1) 被告は, 次の商標 ( 以下 本件商標 という ) に係る商標権 ( 以下 本件商標権 という ) を有している ( 甲 25) 商標登録第 号商標の構成千鳥屋 ( 標準文字 ) 登録出願日平成 23 年 12 月 21 日設定登録日平成 25 年 2 月 8 日指定商品第

平成年月日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和元年 5 月 30 日判決言渡 平成 30 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 31 年 4 月 23 日 判 決 原告ジー エス エフ ケー シー ピー株式会社 被告ケーシーピーヘビーインダスト リーズカンパニーリミテッド 訴訟代理人弁護士 小 林 幸 夫

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である旨の証券取引等監視委員会の指導を受け, 過年度の会計処理の訂正をした 本件は, 本件事業年度の法人税について, 控訴人が, 上記のとおり, その前提とした会計処理を訂正したことにより, 同年度の法人税の確定申告 ( 以下 本件確定申告 という ) に係る確定申告書の提出により納付すべき税額が過

号 以下 本願 という ) をしたが, 平成 23 年 10 月 26 日付けで拒絶査定を受けたので, 平成 24 年 1 月 31 日, これに対する不服の審判を請求するとともに, 手続補正書を提出した ( 以下 本件補正 という ) 特許庁は, この審判を, 不服 号事件とし

Transcription:

平成 25 年 1 月 31 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 10052 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 1 月 17 日 判 決 原告リスパック株式会社 訴訟代理人弁護士 上 山 浩 井 上 拓 弁理士 小 林 徳 夫 中 嶋 恭 久 被告株式会社エフピコ 訴訟代理人弁護士 三 村 量 一 中 島 慧 弁理士 藤 本 昇 中 谷 寛 昭 上 田 雅 子 訴訟復代理人弁護士 東 崎 賢 治 主 文 原告の請求を棄却する 訴訟費用は原告の負担とする 事実及び理由 - 1 -

第 1 原告の求めた判決 特許庁が無効 2008-800258 号事件について平成 23 年 12 月 28 日に した審決を取り消す 第 2 事案の概要本件は, 被告の請求に基づき原告の本件特許を無効とした審決の取消訴訟であり, 当裁判所が取り上げる争点は, 実施可能要件及びサポート要件の充足性の有無である 1 特許庁における手続の経緯原告は, 本件特許第 3803823 号 ( 発明の名称 光沢黒色系の包装用容器, 平成 13 年 6 月 26 日出願, 平成 18 年 5 月 19 日特許登録, 特許公報は甲 1, 請求項の数 2) の特許権者である 被告は, 平成 20 年 11 月 18 日に本件特許について無効審判請求をした ( 無効 2008-800258 号 ) 原告はその手続中の平成 21 年 2 月 5 日付けで訂正請求をしたが, 特許庁は, 平成 21 年 8 月 20 日, 上記訂正を拒絶すべきものとした上, 特許第 3803823 号の請求項 1 及び2に係る発明についての特許を無効とする 旨の審決 ( 第 1 次審決 ) をした 原告により, 第 1 次審決の取消訴訟 ( 知財高裁平成 21 年 ( 行ケ ) 第 10304 号 ) が提起され, 平成 22 年 7 月 28 日, 第 1 次審決を取り消すとの判決 ( 第 1 次判決 ) があり, 確定した その後の審判手続において, 原告は, 上記の訂正請求を取り下げ, 特許庁は, 平成 23 年 12 月 28 日に, 特許第 3803823 号の請求項 1 及び2に係る発明についての特許を無効とする との審決 ( 第 2 次審決 以下, 単に 審決 という場合は, この審決を指す ) をし, その謄本は平成 24 年 1 月 11 日に原告に送達された 2 本件発明の要旨 - 2 -

本件特許の請求項 1 及び2( 本件発明 1 及び2) は, 次のとおりである 請求項 1 カーボンを0.3 重量 % から10 重量 % 含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が0.55 以上のシートからなり, 前記シートの熱分析器の測定された昇温結晶化温度が128 度以上, 且つ, 結晶化熱量が20mJ/mg 以上のシートを用いた光沢黒色系の包装用容器 請求項 2 カーボンを0.3 重量 % から10 重量 % 含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が0.55 以上のシートからなり, 前記シートの熱分析器の測定された昇温結晶化温度が128 度以上, 且つ, 結晶化熱量が20mJ/mg 以上のシート層と, 前記シート層の少なくとも一方に層の厚みが5μm 以上のポリエチレンテレフタレートを主成分とする外層のシートを用いた多層の光沢黒色系の包装用容器 3 審判における原告主張の無効理由 (1) 無効理由 1( 特許法 29 条 1 項 3 号 ) 本件発明 1は, 特開平 5-295132 号公報 ( 甲 2), 特公平 8-9673 号公報 ( 甲 3) 又は特開平 2-229025 号公報 ( 甲 4) に記載された発明である (2) 無効理由 2( 特許法 29 条 2 項 ) 本件発明 1 及び2は, 甲 2 公報, 甲 3 公報又は甲 4 公報に記載された発明と, 特開平 8-318606 号公報 ( 甲 5), 特開平 8-208855 号公報 ( 甲 8), 特開平 10-204272 号公報 ( 甲 9) に記載された発明又は周知技術に基づいて, 当業者が容易に発明をすることができたものである (3) 無効理由 3( 特許法 29 条 2 項 ) 本件発明 1 及び2は, 特開平 10-250015 号公報 ( 甲 6) に記載された発明と周知技術に基づいて, 当業者が容易に発明をすることができたものである (4) 無効理由 4( 特許法 36 条 6 項 1 号 ) - 3 -

本件発明 1のシートを単層で用いた包装用容器は, 本件明細書に記載されていない 本件発明 2は, カーボンを含有するシート層と外層を有するシートを用いた包装用容器であって, このうちシート層について固有粘度, 昇温結晶化温度, 結晶化熱量の数値を規定するなどしたものであるが, そのようなシートを用いた包装用容器は, 本件明細書に記載されていない 本件発明 2の昇温結晶化温度及び結晶化熱量は, 包装用容器が成形される前のシート層の物性値を規定するものであるが, 本件明細書には, 容器切り出し片を測定対象とするものが記載されているだけである 容器切り出し片は, 成形により熱履歴を受け, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の値が大きく低下することから, 成形前のものと同等とみることはできない (5) 無効理由 5( 特許法 36 条 6 項 2 号 ) 本件発明 1の シートを用いた光沢黒色系の包装用容器 と, 本件発明 2の シートを用いた多層の光沢黒色系の包装用容器 は, そこにいう シート が, 包装用容器の構造物であるのか, あるいは, 包装用容器を形作るために供されるシート材であるのか明確でない (6) 無効理由 6( 平成 14 年法律第 24 号による改正前の特許法 36 条 4 項 ) 本件発明 1のシートや本件発明 2のシート層は, 昇温結晶化温度, 結晶化熱量の数値が規定されたものであるが, 本件明細書には, それらのシートやシート層を獲得する手段が, 実施可能に記載されていない 本件発明 2の昇温結晶化温度及び結晶化熱量は, 包装用容器が成形される前のシート層の物性値を規定するものであるが, 本件明細書には, 容器切り出し片を測定対象とするものが記載されているだけである 容器切り出し片は, 成形により熱履歴を受け, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の値が大きく低下することから, 成形前のものと同等とみることはできない 本件発明 1のシートや本件発明 2のシート層について, 規定された固有粘度, 昇温結晶化温度, 結晶化熱量の数値を測定する際の条件が, 本件明細書には, 実施可能に記載されていない また, 本件発明 1のシートや本件発明 2のシート層につい - 4 -

て, 昇温結晶化温度や結晶化熱量の数値を規定することの技術的意義を当業者が理解するために必要な事項が記載されていない 4 審決の理由の要点 (1) 第 1 次判決の拘束力第 1 次判決は, 次の点で審決を拘束する ア本件発明 2について, 固有粘度, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各数値は, シート層 ( 外層シートは含まない ) を規定するものである イ実施例における固有粘度, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各数値が ( シート層と外層シートからなる ) 多層シートについて測定されたものであっても, それらの数値は, シート層単独で測定された場合と近似した数値になる蓋然性が高いといえるから, 多層シートについて測定されたことをもって, 本件発明 2が本件明細書に記載されていないとまではいえない (2) 無効理由 4,6について本件発明 1 及び2は, 次のとおり, 平成 14 年法律第 24 号による改正前の特許法 36 条 4 項, 特許法 36 条 6 項 1 号に規定する要件を満たしていない 本件発明 1は, カーボンを所定量含有するポリエチレンテレフタレート ( 以下 P ET ともいう ) を主成分とする固有粘度, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量が所定値のシートを用いた包装用容器であり, 本件発明 2は, 本件発明 1の上記シートをシート層として, これに外層を加えた多層シートを用いた包装用容器の発明である ここで, 包装用容器は器としての形状や構造を有する包装用物品であり, シートは二次元的に広がりを有する物品であって, その形状や構造に違いがある 本件発明 2の多層シートは, 包装用容器を形作るために供されるシート材であり, 固有粘度, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各物性値も, シート材の状態, すなわち包装用容器を形成する前の状態での物性値と解するのが相当である 本件明細書の記載によれば, 本件発明 2は, 優れた光沢の外観を有する黒色系の包装用容器を得ることを課題とする 本件明細書の実施例の記載によれば, そこに - 5 -

記載された昇温結晶化温度と結晶化熱量は, 包装用容器に形作られた後の多層シートの物性値であり, また, 昇温結晶化温度 ( 度 ) が130,132,136の各値をとり, 結晶化熱量 (mj/mg) が25,31,33の各値をとる実施例 1,2, 3では, 容器全体に光沢あり との効果が得られたとする一方, 昇温結晶化温度 ( 度 ) が126,127の各値をとり, 結晶化熱量 (mj/mg) が18,19の各値をとる比較例 1,2では, それぞれ 容器側面及び底面の一部に光沢なし, 容器側面に光沢なし との結果になったことが示されている 本件発明 2で特定される昇温結晶化温度及び結晶化熱量は, 優れた光沢の外観を有する黒色系の包装用容器を得る との課題を解決するために重要な役割を担っていると考えられるところ, これらの物性が所定の値であることにより, 所望の効果が得られること, すなわち上記課題が解決されることが, 発明の詳細な説明によって裏付けられていなければならない ところが, 本件発明 2で特定される昇温結晶化温度 (128 度以上 ) 及び結晶化熱量 (20mJ/mg 以上 ) は, 外層とともに多層シートを構成するシート層が有する物性値であって, かつ, 包装用容器を形成する前における状態での物性値であるのに対して, 実施例 1,2,3における昇温結晶化温度 (130,132,136) 及び結晶化熱量 (25,31,33) は, 包装用容器に形作られた後の多層シートの物性値であるから, 両者は, シート層が有する物性値か多層シートが有する物性値かの点の他に, 包装用容器を形成する前の物性値か包装用容器に形作られた後の物性値かの点においても相違する 当事者双方の提出に係る実験結果を記載した証拠によれば, 容器に成形する前と容器に成形した後で昇温結晶化温度及び結晶化熱量を比較した場合, これらは低下する場合もあれば, ほとんど変わらない場合もあるのであって, 包装用容器を形成する前における状態で, 昇温結晶化温度が128 度以上, 結晶化熱量が20mJ/ mg 以上あったとしても, 包装用容器に形作られた後は, 昇温結晶化温度が128 度を下回ったり, 結晶化熱量が20mJ/mgを下回る場合があり, 所望の効果が得られない上記比較例 1,2と同程度の物性値になる場合があるといわざるを得な - 6 -

い そして, このように一定の結果が得られないのは, 容器に成形する際の成形方法や温度, 時間等の成形条件が異なるためと考えられるところ, 本件明細書には, 容器への成形前後で同等な昇温結晶化温度及び結晶化熱量が得られるために必要な条件が記載されていない したがって, 本件発明 2のように, 容器に成形する前のシート層の昇温結晶化温度を128 度以上, 結晶化熱量を20mJ/mg 以上とすることによって, 優れた光沢の外観を有する黒色系の包装用容器を得る との課題が解決できることは, 発明の詳細な説明によって裏付けられているとはいえず, 本件発明 2の実施例が本件明細書に記載されているとはいえない 本件発明 1は, 本件発明 2のシート層のみを用いた単層の包装用容器であるということができ, 本件発明 1で特定される昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値も, 容器形成前のものである したがって, 本件発明 2についての実施可能要件とサポート要件の判断は, そのまま本件発明 1についてもあてはまる (3) 無効理由 2についてア本件発明 2について甲 3 公報に記載された甲 3 第二発明, 本件発明 2と甲 3 第二発明との一致点及び相違点は次のとおりである 甲 3 第二発明 エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする固有粘度 0.65 以上のポリエステル100 重量部と, エチレン及び無水マレイン酸を共重合せしめたポリプロピレン1ないし30 重量部とを混合せしめた樹脂組成物 (I) よりなるシートと, 樹脂組成物 (I) に, カーボンブラックからなる結晶核剤を, ポリエステル100 重量部に対して,0.1ないし2 重量部含有せしめた樹脂組成物 (II) よりなるシートとを積層した多層シートを熱成形して得られる食品用容器 一致点 カーボンを0.3 重量 % から2 重量 % 含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする固有粘度が0.55 以上のシートからなるシート層と, 前記シート層の - 7 -

少なくとも一方にポリエチレンテレフタレートを主成分とする外層のシートを用いた多層の光沢黒色系の包装用容器 相違点 1 本件発明 2のシート層は, シートを熱分析器で測定した昇温結晶化温度が128 度以上, かつ, 結晶化熱量が20mJ/mg 以上であるのに対して, 甲 3 第二発明の樹脂組成物 (II) よりなるシートは, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量が明らかでない点 相違点 2 本件発明 2の外層のシートは, 厚みが5μm 以上であるのに対して, 甲 3 第二発明の樹脂組成物 (I) よりなるシートは, 厚さが明らかでない点 相違点 3 本件発明 2の包装用容器は光沢を有するのに対して, 甲 3 第二発明の食品用容器が光沢を有することは必ずしも明らかでない点 なお, 本件発明 2におけるカーボンの含有量は 0.3 重量 % から10 重量 % であるが, 本件発明 2と甲 3 第二発明が数値範囲の一部 (0.3 重量 % から2 重量 %) で一致している以上, 本件発明 2におけるカーボンの含有量の上限 (10 重量 %) が甲 3 第二発明におけるカーボンブラックの含有量の上限 (2 重量 %) と異なることは, 実質的な相違点とはいえない 相違点 1について, 甲 5 公報, 甲 8 公報, 甲 9 公報の記載によれば,PETを主成分とする樹脂組成物のシートやその成形品について, 昇温結晶化温度を130 度以上とすることや, 結晶化熱量を15mJ/mg 以上とすることは, 従来から普通に採用されている技術的事項にすぎない したがって, 甲 3 第二発明の樹脂組成物 (II) よりなるシートについて, 昇温結晶化温度が128 度以上で, 結晶化熱量が20mJ/mg 以上のものとすることは, 当業者が容易になし得た程度の事項である 相違点 2 及び3について, 本件明細書の記載によれば, 厚みが5μm 以上の外層 - 8 -

のシートを設けるのは, 表面の凹凸をなくして鏡面とするためと解されるところ, 周知例として提出された特開平 5-38787 号公報 ( 甲 10) に, 多層プラスチック容器の外側表面層として,60 度鏡面光沢度が80% 以上で, 飽和ポリエステル等からなる, 厚みが20μmないし200μmの光沢性樹脂層を設けることが記載されているように, 容器に鏡面光沢を持たせることは, 用途に応じて適宜行われることであり, 甲 3 第二発明の樹脂組成物 (I) よりなるシートを, 所定の鏡面光沢度を有する, 厚みが20μm 以上の光沢性樹脂層とすること, すなわち, 相違点 2 及び相違点 3に係る本件発明 2に係る構成とすることは, 甲 10 公報を参酌することにより, 当業者が容易に想到し得たことである したがって, 本件発明 2は, 甲 3 公報, 甲 5 公報, 甲 8 公報, 甲 9 公報及び甲 1 0 公報に記載された発明に基づいて, 当業者が容易に発明をすることができた イ本件発明 1について上記アと同様の理由から, 甲 3 公報に記載された甲 3 第一発明, 本件発明 1と甲 3 第一発明との一致点は次のとおりであり, 相違点は, 上記アの相違点 1 及び3のとおりであるところ, 相違点 1 及び3が容易想到であることは, 上記アのとおりであるから, 本件発明 1は, 甲 3 公報, 甲 5 公報, 甲 8 公報, 甲 9 公報及び甲 10 公報に記載された発明に基づいて, 当業者が容易に発明をすることができた 甲 3 第一発明 エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする固有粘度 0.65 以上のポリエステル100 重量部と, エチレン及び無水マレイン酸を共重合せしめたポリプロピレン1ないし30 重量部とを混合せしめた樹脂組成物 (I) に, カーボンブラックからなる結晶核剤を, ポリエステル100 重量部に対して,0.1ないし2 重量部含有せしめた樹脂組成物 (II) よりなるシートを熱成形して得られる食品用容器 一致点 カーボンを0.3 重量 % から10 重量 % 含有するポリエチレンテレフタレートを - 9 -

主成分とする固有粘度が 0.55 以上のシートを用いた黒色系の包装用容器 第 3 原告主張の審決取消事由 1 サポート要件及び実施可能要件の充足性の有無に関する判断の誤り (1) 審決は, 原告提出の実験結果報告書 ( 甲 37の1~4,38の1~4) を根拠に, 容器成形前後で昇温結晶化温度及び結晶化熱量がほとんど変わらない場合があるとし, 他方で, 被告提出の実験結果報告書 ( 甲 14) を根拠に, 容器成形前後で昇温結晶化温度及び結晶化熱量が低下し, 所望の効果が得られない場合もあるとした上で, そうだとすれば, 容器成形前後で同等な昇温結晶化温度及び結晶化熱量が得られるために必要な条件が本件明細書に記載される必要があるところ, 本件明細書にはそのような記載がないから, 本件発明 2は, 実施可能要件及びサポート要件を満たさないと判断した 審決の考え方を要約すると, 特許請求の範囲に記載された数値に関して異なる実験結果が得られた場合は, 明細書に記載された実験条件が不十分であることを意味し, 実施可能要件又はサポート要件を欠くということになる しかしながら, 細部の実験条件が異なれば結果が異なることは当然のことであるし, 実験条件の細部を適宜調整することで異なる実験結果を得ることが困難でないことも, 自明であるといえる 第三者が所望の結果を得ることを意図して恣意的に細部の実験条件を選択するような場合まで想定して, 実験結果に影響を与える可能性のある全ての条件を抽出した上で, 出願段階で明細書に網羅的に記載することを要求することは, 事実上不可能といい得る過大な負担を出願人に負わせるものであって, 妥当でない 発明の詳細な説明にどの程度詳しく記載すべきかは, 規範的評価であり, 明細書の記載に基づいて, 第三者 ( 当業者 ) が, 当業者に期待し得る程度を超えた過度な試行錯誤を強いられることのない範囲で, 特許請求の範囲に記載された事項を再現することが可能な程度に明細書に実験方法等が記載されていれば, 実施可能要件又はサポート要件を欠くことはないというべきである - 10 -

しかるに, 審決は, 甲 14( 実験結果報告書 ) の実験に係る実験条件を詳細に検討することもなく, 単に原告提出の実験結果と被告提出の実験結果が異なるということだけを理由に, これらの要件を欠くと判断している 原告提出の実験結果は, 原告とは独立の組織の第三者機関が, 本件明細書の記載を参考にして実施したものであり, これによれば, 容器成形前後で昇温結晶化温度及び結晶化熱量がほとんど変わらないのであるから, 本件明細書に開示された情報の範囲内でこの種の物性値を測定する手法として一般的なものを用いれば, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量がほとんど変化しない結果を得ることができる これに対し, 甲 14の実験結果報告書に記載された実験は, 本件特許の無効を主張する被告の内部で実施されたものであり, 原告の実験結果とは異なる結果が示されていることは当然といえる したがって, 甲 14の実験結果報告書の記載に基づいて判断をした審決には誤りがある (2) PETシートに熱を加えて成形する場合, 成形時間を長く設定すると, 結晶化温度及び結晶化熱量の値が大きく低下する場合がある 他方, 成形時間を短く設定すると, 成形前後でこれらの値はほとんど変化しない 包装用容器の生産の効率性の観点からは, 個々の容器の生産時間を不必要に長くなるような条件が採用されることはあり得ず, それゆえ, 熱成形は可能な範囲で短時間に設定される このように, 通常採用される成形条件では, 成形前後の昇温結晶化温度及び結晶化熱量の値は同等である また,PETは, 結晶化が遅い ( 進みにくい ), すなわち, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量が下がりにくい樹脂であり,PETシートを熱成形する際のシートの温度は約 70~100 度が適温である このことは, 技術常識であり, 当業者にとっては自明の事項である 本件発明 2のシートは, 熱成形前の昇温結晶化温度が12 8 度以上であるから, シート温度が100 度前後となる熱成形では, 結晶化はほとんど進まず, 熱成形の前後において, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量は同等である (3) 甲 14の実験結果報告書に記載された実験結果のように, 容器成形前後で - 11 -

昇温結晶化温度及び結晶化熱量が低下するとしても, 低下が予想される分だけ昇温結晶化温度が高く, 結晶化熱量が大きい多層シートを用いて容器を形成すればよく, 当業者は, 過度の試行錯誤をすることなく, 容易に本件発明 2の数値範囲の包装容器を作ることができる 以上のとおりで, 本件発明 2が実施可能要件又はサポート要件を欠くことはない (4) 審決は, 本件発明 1についても, 本件発明 2についての判断が当てはまるとしているが, 上記のとおり本件発明 2に関する審決の判断に誤りがある以上, 本件発明 1に関する審決の判断も誤っている 2 容易推考性の存否に関する判断の誤り (1) 本件発明 2についてア一致点認定の誤り審決は, 容器が光沢を有する点を一致点に含めているが, 甲 3 第二発明は光沢を有する食品用容器についての発明ではないから, 審決の上記認定には誤りがある イ相違点 3の判断の誤り ( ア ) 審決は, 相違点 3について, 甲 3 第二発明の樹脂組成物 (Ⅰ) よりなるシートを, 所定の鏡面光沢度を有する 光沢性樹脂層とすること, すなわち, 相違点 3に係る本件発明 2の構成とすることは, 甲 10 公報 ( 特開平 5-387 87 号 ) を参酌することにより, 当業者が容易に想到し得たことである と判断した この判断からすると, 審決は, 容器の光沢は外層 ( 光沢性樹脂層 ) を設けることによってもたらされるもので, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値は重要ではないと考えたものと思われる しかしながら, 本件明細書には, 昇温結晶化温度は,PETの結晶する温度であり, 光沢を出す為には非常に重要な温度であり, 低い温度では, 包装用容器における光沢がなくなってしまう ( 段落 0009 ) との記載や, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量が所定の数値範囲内でなければ, 優れた光沢を得られない場合がある - 12 -

ことを示す記載 ( 段落 0027 の 表 2 の比較例 1 及び2) があるように, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値が, 光沢を得るための重要な要素であることが明示的に記載されている また, 光沢黒色系の包装用容器に係る発明である本件発明 1も, 外層シートを必要としていない 甲 65( 実験結果報告書 ) に記載された実験結果も, 光沢を得るために重要なのは, 外層の存在ではなく, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値であることを裏付けるものである 以上のとおり, 光沢を得るために重要なのは外層の存在ではなく, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値である しかるに, 審決は, 光沢を得るために重要なのは外層の存在であることを前提として判断したため, 誤った結論に至っている 甲 10 公報には, 外層に光沢性樹脂層を設ける方法の記載しかなく, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量を所定の数値範囲内とすることでより優れた光沢を得る手法は開示されていない したがって, 甲 3 第二発明に甲 10 公報で開示された技術的事項を組み合わせても, 本件発明 2の 光沢 を得ることはできず, 相違点 3に係る本件発明 2の構成が容易に想到し得るとはいえない ( イ ) 甲 3 公報 ( 特公平 8-9673 号 ) に記載された課題は, 耐衝撃性の低下であるのに対し, 甲 10 公報に記載された課題は, ガラス容器, 陶磁器容器の質感は得られていないことである このように, 甲 3 第二発明と甲 10 公報に開示された技術的事項とでは, 課題の共通性がなく, 他にもこれらを組み合わせる動機付けを認めることもできないから, これらを組み合わせることは容易ではない ウ相違点 1の判断の誤り審決は, 甲 5 公報 ( 特開平 8-318606 号 ), 甲 8 公報 ( 特開平 8-208 855 号 ) 及び甲 9 公報 ( 特開平 10-204272 号 ) からすると, 甲 3 第二発明について, 相違点 1に係る本件発明 2の構成とすることは容易であると判断した しかしながら, 本件発明 2の課題は, 優れた光沢の外観を有する黒色系の包装用容器を得ること であるところ, 上記イで主張したとおり, この課題を解決するため - 13 -

の手段は, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量を本件発明 2の数値範囲内とすることである しかるに, 甲 3 公報, 甲 5 公報, 甲 8 公報及び甲 9 公報のいずれにも, 黒色系包装容器について光沢を有するようにするという課題の開示や示唆はなく, そのような課題の解決手段として昇温結晶化温度及び結晶化熱量を所定の数値範囲内に制御することについても開示や示唆はない また, 結晶化熱量について開示されているのは甲 5 公報のみであるところ, 甲 5 公報に記載された課題は保香性であるのに対し, 甲 3 公報には保香性に関する記載はない したがって, 甲 3 公報, 甲 5 公報, 甲 8 公報及び甲 9 公報に記載された発明から本件発明 2が容易に想到し得たということはできない (2) 本件発明 1についてア一致点認定の誤り審決は, 甲 3 第一発明におけるカーボンブラックの上限を2 重量 % と認定しているにもかかわらず, 本件発明 1との一致点ではその上限を10 重量 % としており, 一致点の認定に誤りがある イ相違点の判断の誤り審決は, 本件発明 1と甲 3 第一発明との間の相違点 1 及び3について, 本件発明 2に関する判断を引用しているから, 本件発明 2の相違点に関して上記 (1) イ, ウで主張したのと同様に, 審決の本件発明 1に関する判断は誤りである 第 4 被告の反論 1 取消事由 1に対し (1) 本件発明 2は, 容器に成形する前の昇温結晶化温度が128 度以上であり, 結晶化熱量が20mJ/mg 以上であるシート層を用いた包装用容器であるにもかかわらず, 本件明細書の実施例 1~3 並びに比較例 1 及び2には, 容器に成形した後の容器切り出し片の昇温結晶化温度及び結晶化熱量と外観 ( 光沢 ) との関係 - 14 -

しか記載されておらず, 包装用容器を形成する前の物性値か包装用容器に形作られた後の物性値かという点において齟齬がある 特許請求の範囲に記載された数値条件を満たす物が, その数値条件を満たさない物に比してどのような有利な点があるのかが, 発明の詳細な説明に記載されていなければ, サポート要件を満たさない 本件発明 2の特許請求の範囲では容器成形前のシート層の昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値を限定したのに対し, 本件明細書の実施例 1~3 及び比較例 1 及び2においては容器成形後の容器切り出し片の数値を記載するのみであるという齟齬があったとしても, 容器成形の前後でこれらの数値がほとんど変わらないか, 容器成形の前後で同等な昇温結晶化温度及び結晶化熱量が得られるために必要な成形方法 成形条件が本件明細書に記載されているのであれば, 例外的にサポート要件を満たす余地がある しかしながら, 本件発明 2 のように, 主成分がPETであるシート層の成形は, 一般に, シートを加熱して軟化させ, シートを金型に密着させて成形し, 冷却することにより行われるところ, シートを加熱したり延伸したりすると, 結晶化が進行し, それによって, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量は低下する また, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量がどの程度低下するのかは, 成形方法や成形条件 ( 成形温度, 成形時間, 成形品の深さやシートの厚みによる影響等 ) によって異なる このことは当業者の技術常識であり, 実験結果によっても裏付けられている しかるに, 本件明細書には, 容器に成形する際の成形方法や温度, 時間等の成形条件は特に限定されていない旨が記載され ( 段落 0013 ), 実施例 1~3 並びに比較例 1 及び2についても, 三和興業( 株 ) 製 PLAVAC 型式 FE-36FC 容器成形機を用いて, 底部直径 =10cm, 深さ=4cmの円筒形容器を成形した ( 段落 0022 ) と記載されているのみであるから, 容器成形の前後で同等な昇温結晶化温度及び結晶化熱量が得られるために必要な成形方法 成形条件が記載されているとはいえず, 例外的にサポート要件を満たすものではない (2) 上記 (1) のとおり, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量がどの程度低下するの - 15 -

かは, 成形方法や成形条件 ( 成形温度, 成形時間, 成形品の深さやシートの厚みによる影響等 ) によって異なるところ, 本件明細書に, 包装用容器について, 真空成形法, プラグアシスト成形法等を採用して製造することができる ( 段落 0 013 ) と記載され, 他の文献 ( 甲 36) にも, 主な熱成形法として 真空 圧空 及び 熱板圧空 の3 種類が紹介されるように, 包装用容器を工業的に熱成形する方法や条件には多様な選択肢が存在する また, 同じ真空成形を行う場合であっても, 包装用容器を工業的に生産する当業者は, 容器ごとに成形時間やヒーターとシートの距離などを適宜変更して成形を行っているのであって ( 例えば, 成形する容器の深さが深くなるほど, 成形時間は長くなる ), 通常採用される成形条件が限定されるかのような原告の主張は, 事実に反する 原告は,PETは結晶化が遅いと主張するが, 結晶化が速いか遅いかにかかわらず, 加熱 延伸した場合に結晶化が進行することに変わりはない また, 原告は, PETシートを熱成形する際のシートの温度について, 約 70~100 度が適温であることは技術常識であると主張する しかしながら, 原告の主張するような技術常識は, 実際には存在せず, むしろ,128 度以上で成形することも普通に行われている (3) 原告は, 容器成形前後で昇温結晶化温度及び結晶化熱量が低下するとしても, 低下が予想される分だけ昇温結晶化温度が高く, 結晶化熱量が大きい多層シートを用いて容器を形成すればよく, 当業者は, 過度の試行錯誤をすることなく, 容易に本件発明 2の数値範囲の包装容器を作ることができると主張する しかしながら, 審決は, 本件発明 2の数値範囲内の包装容器を製造することが当業者にとって容易でないと判断したものではなく, 上記のように, 本件発明 2について, 特許請求の範囲の物性値と本件明細書の物性値との間に齟齬が存在するために, 特許請求の範囲に記載された数値範囲, すなわち, 容器に成形する前のシート層の昇温結晶化温度を128 度以上, 結晶化熱量を20mJ/mg 以上とすることにより, 優れた光沢の外観を有する黒色系の包装用容器を得る との課題が解決できることが, - 16 -

発明の詳細な説明によって裏付けられているとはいえないと判断したものであって, 原告の上記主張は, 審決を正解しない主張である (4) 本件発明 1について, 原告は, 本件発明 2に係る審決の判断が誤っているから, これを前提とする本件発明 1についての判断も誤っていると主張するが, 上記 (1)~(3) のとおり, 本件発明 2についての審決の判断に誤りはない 2 取消事由 2に対し (1) 本件発明 2についてア一致点認定の誤りに対し審決は, 本件発明 2の包装用容器は光沢を有するのに対して, 甲 3 第二発明の食品用容器が光沢を有することは必ずしも明らかでない点 を相違点 3として, その容易想到性を判断しているから, 容器が光沢を有する点を一致点として認定したとしても, その点は, 審決の結論に影響を及ぼすものではなく, 取消事由に該当しない イ相違点 3の判断の誤りに対し ( ア ) 請求項 2には, 容器の光沢が, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値を所定の範囲内のものとすることによって得られる ことは規定されておらず, 容器の光沢が, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値を所定の範囲内のものとすることによって得られる場合であれ, 外層 ( 光沢性樹脂層 ) を設けることによって得られる場合であれ, そのような光沢を有する容器が本件発明 2の技術的範囲に含まれることに変わりはない そして, 甲 10 公報 ( 特開平 5-38787 号 ) には光沢性樹脂層を設けることが記載されており, 容器に鏡面光沢を持たせることは用途に応じて適宜行われることであるから, 相違点 3に係る審決の判断に誤りはない なお, 本件発明 2に規定された昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値範囲内であっても, 包装用容器が光沢を有するとは限らない ( イ ) 容器に鏡面光沢を持たせることは用途に応じて適宜行われることであるから, 多層プラスチック容器に関するという点で甲 3 第二発明と共通する甲 1-17 -

0 公報の記載を考慮し, 甲 3 第二発明の容器について, 甲 10 公報に開示された光沢性樹脂層を設けることは, 当業者が容易に想到し得た ウ相違点 1の判断の誤りに対し相違点 1についても, 容器の光沢と, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量を所定の範囲内とすることとは無関係であり, 鏡面光沢度を有する光沢性樹脂層を外層として用いるなどすることにより光沢を生じれば, 他の構成要件をも充足する限り, その容器は本件発明 2の技術的範囲に含まれるのである そうすると,PETを主成分とする樹脂組成物のシートやその成形品について, 昇温結晶化温度を130 度以上とすることや, 結晶化熱量を15mJ/mg 以上とすることが, 従来から普通に採用されている技術的事項にすぎない以上, そのような技術的事項がいかなる目的で採用されたものであろうが, 相違点 1に係る本件発明 2の数値範囲を採用することが容易であることに変わりはない そして, 甲 3 公報 ( 特公平 8-9673 号 ) に耐衝撃性に関する記載があるように,PET 製容器について耐衝撃性の確保は, 当業者に周知の技術的課題であり, 甲 5 公報 ( 特開平 8-318606 号 ), 甲 8 公報 ( 特開平 8-208855 号 ) 及び甲 9 公報 ( 特開平 10-204272 号 ) にも, 強度の低下, 耐衝撃性の低下, 耐衝撃性の改良効果などの記載がある このような課題の共通性の観点からして, 甲 3 第二発明につき, 甲 5 公報, 甲 8 公報, 甲 9 公報の記載を参酌して, 相違点 1 に係る本件発明 2の構成とすることは, 当業者が容易になし得た程度の事項である (2) 本件発明 1についてア一致点認定の誤りに対し審決は, 数値範囲の一部 (0.3 重量 % から2 重量 %) で一致している以上, 含有量の上限が異なることは, 実質的な相違点ではないと判断しているのであるから, 原告が主張する点は, 審決の結論に影響を及ぼすものではなく, 取消事由に該当しない イ相違点の判断の誤りに対し - 18 -

原告は, 本件発明 2 についての審決の判断が誤っているから, これを前提とする 本件発明 1 についての判断も誤っていると主張するが, 上記 (1) イ, ウのとおり, 本 件発明 2 についての審決の判断に誤りはない 第 5 当裁判所の判断審決は, 第 1 次判決の拘束力が及ばない構成に関するサポート要件及び実施可能要件の充足性の有無を判断したので, この判断の違法をいう取消事由 1について検討する 1 本件明細書 ( 甲 1) には, 本件発明 1 及び2の課題や昇温結晶化温度及び結晶化熱量に関して, 次の記載がある 本発明の目的は,A-PETの有する優れた機械的強度, 耐油性等を要求される包装用容器に適し, 且つ, 優れた光沢を有する黒色系の包装用容器を提供することにある ( 段落 0004 ) 上記シートを用いた包装用容器の成形による包装用容器における熱分析器 での測定で, 昇温結晶化温度は128 度以上, 好ましくは130 度以上, 且つ, 結晶化熱量は20m J/mg, 好ましくは25mJ/mg 以上である 昇温結晶化温度は,PETの結晶する温度であり, 光沢を出す為には非常に重要な温度であり, 低い温度では, 包装用容器における光沢がなくなってしまう ( 段落 0009 ) カーボンを混入したシートの表面は, 微細な凹凸が生じるものである よって, このシートの一方に,5μm 以上のPETを主成分とする層を形成するのが好ましい この層を形成することによって, 印刷を行なう表面が, 境面になり, 美しい印刷が行なえるものである 又, シートの物性が安定し, 安定して包装用容器を成形することができる この層の肉厚を,5μm 以上, 好ましくは10μm 以上にする この層の肉厚を5μm 以下の場合は, 外層の均一化が困難であり実用上の不具合をきたす ( 段落 0010 ) 本発明におけるシートを用いる包装用容器も公知技術で製造することができる 例えば, 一般的に行われている真空成形法, プラグアシスト成形法等を採用して製造することができる ( 段落 0013 ) (2) 昇温結晶化温度容器切り出し片をDSC-220( セイコー電子 ( 株 ) 製 ) で昇温速度 20 度 /minで測定した ( 段落 0017 ) (3) 結晶化熱量 - 19 -

容器切り出し片をDSC-220( セイコー電子 ( 株 ) 製 ) で昇温速度 20 度 /minで測定した ( 段落 0018 ) 実施例 1,2,3 及び比較例 1,2 上記の各樹脂を用いて自家製多層シート押出機 ( タツチロール方式 ) でシート成形を行い厚み0.4mmシートを得た 次に, 三和興業 ( 株 ) 製 PLAVAC 型式 FE-36FC 容器成形機を用いて, 底部直径 =10cm, 深さ=4cmの円筒形容器を成形した ( 段落 0022 ) 実施例 1,2,3 及び比較例 1,2 表 1 の実施例 1,2,3 及び比較例 1,2のシートを用いた容器側面部切り出し片でのDSC 測定結果及び容器の光沢 ( 容器外観観察 ) の評価結果を 表 2 に示す ( 段落 0023 ) 表 2 より明かなごとく, 本発明の包装用容器は, 容器全体に優れた光沢のある外観を示している ( 段落 0024 ) 表 1 ( 段落 0026 ) - 20 -

表 2 ( 段落 0027 ) 2 本件発明 2の特許請求の範囲において, 昇温結晶化温度が128 度以上, かつ, 結晶化熱量が20mJ/mg 以上という数値範囲は, いずれもシート層, すなわち, 容器成形前の状態における物性値を規定したものと認められる これに対し, 本件明細書においては, 上記 1で認定したとおり, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値は, いずれも容器成形後の容器切り出し片を対象として測定されたものであり, 明細書において, 特許請求の範囲に記載された容器成形前のシート層に関する記載は認められない このように, 本件明細書には, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量について, 特許請求の範囲に記載された シート層 の数値範囲を満たすことによって課題の解決が可能であることを示す直接的な実施例等の記載がなく, これとは異なる測定対象に係る数値しか記載されていないところ, 本件明細書の比較例 2( 上記 1の 表 2 ) には, 容器成形後の容器切り出し片について, 昇温結晶化温度が127 度, 結晶化熱量が19mJ/mgの場合であっても容器側面の光沢がないと記載されている, すなわち, 特許請求の範囲で構成する数値範囲から, 容器成形によって, 昇温結晶化温度が 1 度, 結晶化熱量が1mJ/mg 外れただけでも課題が解決できないことになるのであるから, 本件発明 2が本件明細書に記載されている, あるいは, 本件発明 2の 光沢 黒色系容器が本件明細書に実施可能に記載されているというためには, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量の物性値について, 容器成形前のシート層と - 21 -

容器成形後の容器切り出し片との間で, 当業者が通常採用する条件であればこれらの物性値が不変であるか, 当業者が通常なし得る操作によりこれらの物性値の変化を正確に制御し得るか, あるいは, これらの物性値が変化しないような成形方法や条件が本件明細書に記載される必要があるというべきである そこで検討するに,PETを主成分とするシートから容器を成形するには, 本件明細書の段落 0013 にも記載されるように, 一般的に熱成形法が用いられるところ, 原告提出に係る実験結果報告書には, 成形前後で昇温結晶化温度及び結晶化熱量の物性値が全く変化しないものもある ( 甲 37の1 及び3,38の2 及び4 ただし, この報告書では成形条件は明らかにされていない ) これに対し, 原告提出に係る実験結果報告書であっても, 成形前後で結晶化熱量が1mJ/mg 低下するもの ( 甲 37の2 及び4) や, 昇温結晶化温度が1 度上昇し, 結晶化熱量も2 mj/mg 上昇するもの ( 甲 38の1 及び3) もあるし, 被告提出に係る実験結果報告書 ( 甲 14,15,20,22) には, 成形前後で, 昇温結晶化温度が5 度以上低下, 結晶化熱量も5mJ/mg 以上低下するものが複数記載されている これらの記載を総合すると, 成形前後で昇温結晶化温度及び結晶化熱量の物性値がほとんど変化しない場合もあれば, 成形後に大きく低下する場合もあると認めるのが相当であり, 当業者が通常採用する成形条件の下において, これらの物性値が不変であるとは認められない これに加えて, 加熱時間が長くなるほどこれらの物性値がより大きく低下することを示す実験結果報告書の記載 ( 甲 65,68) や, 容器深さが深くなるほどこれらの物性値がより大きく低下する傾向を示す実験結果報告書の記載 ( 甲 22) に照らすと, 成形温度のみならず, 成形時間や延伸の程度によっても, 上記の物性値は変化するものと認められるのであって, 当業者であっても, それらの物性値の変化を正確に予測したり, 制御したりすることは容易ではないと認められる さらに, 上記の物性値が変化しないような成形方法や条件について, 本件明細書には記載も示唆も認めない 以上のとおりであるから, 本件発明 2は, 技術常識を参酌しても, 発明の詳細な - 22 -

説明によりサポートされているとは認められず, 特許法 36 条 6 項 1 号の要件を満たさない また, 本件明細書に, 成形条件による上記の物性値の制御について記載や示唆がないことからすると, 当業者といえども, 本件発明 2に係る光沢黒色系の包装用容器を製造することは容易ではないというべきであるから, 本件発明 2は, 平成 14 年法律第 24 号による改正前の特許法 36 条 4 項の要件を満たさない 3 原告は, 熱成形の際に, 成形時間を短時間に設定すること, あるいは, シートの温度を約 70~100 度とすることは技術常識であり, そうであれば, 成形前後において, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量は同等である旨主張する しかしながら, 原告主張の技術常識を認めるに足りるに的確な証拠はなく, また, 原告の知財チーム作成に係る甲 68の実験結果報告書において, 加熱時間 4 秒間で, シート表面温度が98 度の場合に, 結晶化熱量が2mJ/mg 上昇する旨の実験結果の記載があることに照らすと, 原告主張の成形条件が採用されているからといって, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量が不変であるとまでは認められない 原告は, 昇温結晶化温度及び結晶化熱量が成形により低下するとすれば, 低下が予想される分だけ昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値が大きい多層シートを用いて容器を形成すればよく, 本件発明 2はサポート要件と実施可能要件を充足する旨主張する このような原告の主張は, 当業者がこれらの物性値の変化を正確に予測したり, 制御したりすることができることを前提とするものというべきところ, 当業者であっても, そのような予測や制御が容易でないことは, 上記 2で説示したとおりであるから, 原告の上記主張は採用することができない 4 本件発明 1についての原告の主張は, 本件発明 2に係る主張を引用するものであるから, 上記 1~3で説示したのと同様の理由により, 原告の主張は理由がない 以上のとおりで, 取消事由 1は理由がない - 23 -

第 6 結論取消事由 1で説示した理由から, 本件発明 1 及び2につきサポート要件及び実施可能要件の違反が存する以上, 容易推考性の存否に係る取消事由 2について判断するまでもなく, 本件発明 1 及び2を無効とした審決の結論に誤りはない よって, 原告の請求を棄却することとして, 主文のとおり判決する 知的財産高等裁判所第 2 部 裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 池下朗 裁判官 古谷健二郎 - 24 -