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平成 30 年 9 月 12 日 自閉スペクトラム症と統合失調症 : 2 つの精神疾患における発症メカニズムのオーバーラップを発見! 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 精神医学の尾崎紀夫 ( おざきの りお ) 教授 同大高等研究院 ( 院長 周藤芳幸 ) の久島周 ( くしまいたる ) 特任助教ら の研究グループは 国内の研究機関と共同で 自閉スペクトラム症 (ASD 1 ) と統合失調症 2 の患者を対象にゲノムコピー数変異 (copy number variation; CNV 3 ) を全ゲノムで解析した結果 発症に関与する病的意義をもつ CNV( 病的 CNV) と生物学的なメカニズムに関して 両疾患に 重複 ( オーバーラップ ) する部分が存在することを明らかにしました ASD と統合失調症は 精神症状による精神医学的な診断基準により 異なる疾患として区別 されていますが 最近の疫学研究からは 両疾患の病因 病態はオーバーラップしている可能 性が示唆されています 本研究グループは ASD と統合失調症の日本人患者および健常者 ( 全 体で 5500 名以上 ) を対象に ゲノム全体で CNV を詳しく解析しました その結果 両疾患の 患者の各々約 8% で既知の病的 CNV が見つかりました 両疾患に共通する変異も 29 のゲノム領 域で見つかり リスク変異のオーバーラップが存在することを確認しました また 病的 CNV をもつ患者の臨床症状の解析から 知的能力障害の合併率が高いという特徴も見出しました さらに 個々の CNV データに基づいて抽出した生物学的な発症メカニズムにおいても 両疾患 はオーバーラップすることを確認し その中には酸化ストレス応答 4 ゲノム安定性 脂質代 謝など 新しく確認されたものも含まれていました また 情報科学的な手法を用いて 大規 模 CNV に含まれる複数遺伝子の中から 病態に関連した遺伝子の候補も同定しました 以上の研究成果は ASD と統合失調症のゲノム変異に基づく診断の開発や病態の解明 将来 的には新規治療薬の開発に役立つ可能性があります さらに臨床症状によって区別される ASD と統合失調症に病因 病態上のオーバーラップの存在が示唆されたことから 現在の疾患概念 に影響を与える可能性があります 本研究は日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究推進 プログラム ( 発達障害 統合失調症等の克服に関する研究 ) の支援を受けて実施されました 本研究成果は 米国の科学雑誌 Cell Reports ( 2018 年 9 月 11 日付けの電子版 : 日本時間 9 月 12 日 0 時 ) に掲載されました ~ ゲノム医療への展開に期待 ~

自閉スペクトラム症と統合失調症 : 2 つの精神疾患における変異と発症メカニズムのオーバーラップを発見! ~ ゲノム医療への展開に期待 ~ ポイント 自閉スペクトラム症と統合失調症の日本人患者を対象に ゲノムコピー数変異の大規模か つ直接的に比較する解析を実施した 両疾患の患者の各々約 8% で病的な意義をもつゲノムコピー数変異を確認し 両疾患で変 異の重複 ( オーバーラップ ) する部分があることを確認した 両疾患の生物学的な発症メカニズムにおいても広範なオーバーラップを認めた 病的なゲノムコピー数変異をもつ患者は知的能力障害を合併しやすい特徴を見出した 情報科学的な手法を用いて 大規模 CNV(22q11.2 欠失 3q29 欠失など ) に含まれる複 数の遺伝子の中から 病態に関連した遺伝子の候補も同定した 1. 背景統合失調症と ASD は 精神症状による精神医学的な診断基準により 異なる精神疾患として区別されていますが 最近の疫学研究から この 2 疾患の病因 病態はオーバーラップしている可能性が示唆されています 欧米人を対象にした最近の遺伝学研究からも ASD と統合失調症の両方の発症に関与する CNV が同定されています しかし 日本人を含む他の民族の研究報告は乏しく 更に世界的に見ても両疾患で CNV を直接比較した大規模な研究もほとんどありませんでした したがって ASD と統合失調症の日本人患者を対象に CNV の観点から直接比較解析することは 病因 病態の解明や 2 疾患の関係性を深く理解するうえで重要です 2. 研究成果本研究グループは ASD と統合失調症の日本人患者および健常者 ( 全体で 5500 名以上 ) を対象に アレイ CGH という手法を用いてゲノム全体の CNV を詳しく解析し 2 つの患者群でデータの比較解析を行いました その結果 両疾患の患者の各々約 8% で既知の病的 CNV が見つかりました これらの変異は 染色体上に広く分布しますが 両疾患に共通するものも 29 のゲノム領域 (ASTN2 MBD5 7q11.23 16p11.2 等 ) で見つかり リスク変異がオーバーラップすることを確認しました 個々の CNV では 22q11.2 重複と自閉スペクトラム症 また 22q11.2 欠失 1q21.1 欠失 47,XXY/47,XXX と統合失調症の関連が統計学的にも有意であることを見出しました また ASD と統合失調症の発症に関与する日本人特有の CNV を 12 遺伝子で同定しました 病的 CNV をもつ患者の臨床症状の解析から ASD と統合失調症の両患者群において知的能力障害の合併率が高いという特徴も見出しました 次に 個々の病的 CNV によって影響を受ける遺伝子が どのような生物学的発症メカニズム ( パスウェイ ) に集積しているかを遺伝子セット解析という統計学的な手法を用いて調べた結果 ASD と統合失調症の病態に関与するパスウェイの知見も得られました パスウェイのレベルでも両疾患のオーバーラップを認め その中には既に指摘されているシナプス 5 低分子量 G タンパク質シグナル 遺伝子発現制御に加えて 酸化ストレス応答 ゲノム安定性 脂質代謝などの新規パスウェイも含まれていました 最後に ASD や統合失調症との関連が確立した 8 つの大規模 CNV (22q11.2 欠失 3q29 欠失など ) は多数の遺伝子を含むため どの遺伝子が病態に関与するか特定

するのが困難でした しかし 本研究では同定したパスウェイの知見を利用したバイオインフォマ 6 ティクス解析により 大規模 CNV に含まれる複数遺伝子の中から 病態に関連した遺伝子の候補も同定しました 以上の研究成果は ゲノム変異に基づく診断法の開発や病因 病態の解明に役立つと考えられます さらに 精神症状に基づく精神医学的な診断基準により 区別されている ASD と統合失調症は 病因 病態上ではオーバーラップしていることが示唆されたことから 現在の疾患概念や診断体系に影響を与える可能性があります 3. 今後の展開 ASD と統合失調症の患者の各々 8% で発症に関連した CNV が特定できたことから この知見を患者の診断 治療に利用するゲノム医療への展開が期待できます 病的 CNV の1つ 22q11.2 欠失では そのような取り組みが既に始まっています また 病的 CNV をもつ患者から人工多能性幹細胞 (ips 細胞 ) を作り出し 神経細胞に分化誘導して疾患モデル細胞として活用することにより 病態研究や創薬開発に活用する展開も考えられます さらに 病的 CNV に基づいたモデル動物の作製 解析も盛んになっていくと考えられます ips 細胞やモデル動物の解析は 精神疾患の病態に関連した分子ネットワークや神経回路異常を明らかにするうえで役立つと考えられます 一方で 同一の病的 CNV から異なる精神疾患が起こるメカニズムについては不明であるため さらに研究を続ける必要があります

4. 用語説明 ( 1) 自閉スペクトラム症 (ASD) 社会的コミュニケーションや対人関係の障害 パターン化した興味や活動といった特徴をもつ神経発達症 有病率は約 1% と報告され 男女比は 4:1 で男性に多い 多くの患者は幼少期に診断されるが 成人になって初めて診断されるケースもある 患者は知的能力障害 ADHD などの他の神経発達症を合併していることも多い 発症には遺伝要因が強く関与していることが明らかになっており 病態の解明には遺伝学的解析が重要な役割を担っている ( 2) 統合失調症陽性症状 ( 幻覚や妄想など ) 陰性症状( 意欲低下など ) 認知機能障害を主症状とし 社会機能の低下 高い自殺率を呈する疾患 有病率は約 1% と報告され 本邦だけで 患者は 80 万人に達する 抗精神病薬で治療されるが 精神症状の改善が得られない患者は長期入院を余儀なくされており 有効性の高い治療薬の開発が望まれている ASD と同様に 本疾患の発症も遺伝要因が強く関与し遺伝学的解析による病態解明が期待されている ( 3) ゲノムコピー数変異 (CNV) 染色体上の一部のゲノム領域のコピー数が通常 2 コピーのところ 1 コピー以下 ( 欠失 ) あるいは 3 コピー以上 ( 重複 ) になる変化をいう この変化によって CNV の領域に含まれる遺伝子の発現や機能に影響が生じる 最近の研究からヒトゲノム上の CNV の分布や頻度について詳細に明らかになった 健康な人でも多数の CNV を有しているが 一部の CNV は疾患の発症に関与し その代表例が統合失調症や ASD などの精神疾患である ( 4) 酸化ストレス応答私たちは大気中の酸素を体に取り込んで 生命の維持に利用するが 酸素の一部は不安定で多くの物質と反応しやすい活性酸素やフリーラジカルに変化する 酸化ストレスが亢進すると 活性酸素やフリーラジカルが細胞を傷つけ 老化 癌 動脈硬化の原因となる 一方 体内には酸化ストレスの害を防御する抗酸化作用が備わっており 酸化ストレスが亢進した場合に これに応答して ( 酸化ストレス応答 ) 酸化ストレスと抗酸化作用のバランスがとられている ( 5) シナプス神経細胞と神経細胞の間の接合部のこと シナプスでは 一方の神経細胞から化学伝達物質が放出され もう片方の神経細胞がそれを受け取り 神経細胞間の情報伝達が行われている ASD や統合失調症の発症には シナプスの形成や機能の障害が関与していることがこれまでの研究から示唆されている ( 6) バイオインフォマティクス解析 DNA や RNA タンパク質の構造などの生命科学で得られたデータを 情報科学や統計学の手法を用いて解析することを指す 本研究では 5000 名以上の被験者から得られた膨大な DNA のデータ (CNV) についてスーバーコンピューターを用いて統計学的な解析を行い 発症リスクや発症機序との関連を調べた 5. 発表雑誌 雑誌名 :Cell Reports

著者 : Itaru Kushima M.D., Branko Aleksic M.D., Masahiro Nakatochi Ph.D., Teppei Shimamura Ph.D., Takashi Okada M.D., Yota Uno M.D., Mako Morikawa M.D., Kanako Ishizuka M.D., Tomoko Shiino Ph.D., Hiroki Kimura M.D., Yuko Arioka Ph.D., Akira Yoshimi Ph.D., Yuto Takasaki M.D., Yanjie Yu M.D., Yukako Nakamura Ph.D., Maeri Yamamoto M.D., Tetsuya Iidaka M.D., Shuji Iritani M.D., Toshiya Inada M.D., Nanayo Ogawa M.A., Emiko Shishido Ph.D., Youta Torii M.D., Naoko Kawano Ph.D., Yutaka Omura M.D., Toru Yoshikawa M.D., Tokio Uchiyama M.D., Toshimichi Yamamoto Ph.D., Masashi Ikeda M.D., Ryota Hashimoto M.D., Hidenaga Yamamori M.D., Yuka Yasuda M.D., Toshiyuki Someya M.D., Yuichiro Watanabe M.D., Jun Egawa M.D., Ayako Nunokawa M.D., Masanari Itokawa M.D., Makoto Arai Ph.D., Mitsuhiro Miyashita M.D., Akiko Kobori Ph.D., Michio Suzuki M.D., Tsutomu Takahashi M.D., Masahide Usami M.D., Masaki Kodaira M.D., Kyota Watanabe M.D., Tsukasa Sasaki M.D., Hitoshi Kuwabara M.D., Mamoru Tochigi M.D., Fumichika Nishimura M.D., Hidenori Yamasue M.D., Yosuke Eriguchi M.D., Seico Benner Ph.D., Masaki Kojima M.D., Walid Yassin MMedSc, Toshio Munesue M.D., Shigeru Yokoyama M.D., Ryo Kimura M.D., Yasuko Funabiki M.D., Hirotaka Kosaka M.D., Makoto Ishitobi M.D., Tetsuro Ohmori M.D., Shusuke Numata M.D., Takeo Yoshikawa M.D., Tomoko Toyota M.D., Kazuhiro Yamakawa Ph.D., Toshimitsu Suzuki Ph.D., Yushi Inoue M.D., Kentaro Nakaoka M.D., Yu-ichi Goto M.D., Masumi Inagaki M.D., Naoki Hashimoto M.D., Ichiro Kusumi M.D., Shuraku Son M.D., Toshiya Murai M.D., Tempei Ikegame M.D., Naohiro Okada M.D., Kiyoto Kasai M.D., Shohko Kunimoto Ph.D., Daisuke Mori Ph.D., Nakao Iwata M.D., Norio Ozaki M.D. 論文タイトル :Comparative Analyses of Copy Number Variation in Autism Spectrum Disorder and Schizophrenia Reveal Etiological Overlap and Biological Insights DOI:10.1016/j.celrep.2018.08.022 English ver. https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_e/research/pdf/cell_r_20180912en.pdf