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研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

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4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

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学位論文の要約

統合失調症といった精神疾患では シナプス形成やシナプス機能の調節の異常が発症の原因の一つであると考えられています これまでの研究で シナプスの形を作り出す細胞骨格系のタンパク質 細胞同士をつないでシナプス形成に関与する細胞接着分子群 あるいはグルタミン酸やドーパミン 2 系分子といったシナプス伝達を

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

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生物 第39講~第47講 テキスト

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2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

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M波H波解説

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生物時計の安定性の秘密を解明

ただし 対象となることを希望されないご連絡が 2016 年 5 月 31 日以降にな った場合には 研究に使用される可能性があることをご了承ください 研究期間 研究を行う期間は医学部長承認日より 2019 年 3 月 31 日までです 研究に用いる試料 情報の項目群馬大学医学部附属病院産科婦人科で行

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す しかし 日本での検討はいまだに少なく 比較的小規模の参加者での検討や 個別の要因との関連を報告したものが殆どでした 本研究では うつ病患者と対照者を含む 1 万人以上の日本人を対象とした大規模ウェブ調査で うつ病と体格 メタボリック症候群 生活習慣の関連について総合的に検討しました 研究の内容

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別添 1 抗不安薬 睡眠薬の処方実態についての報告 平成 23 年 11 月 1 日厚生労働省社会 援護局障害保健福祉部精神 障害保健課 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究 ( 研究代表者 : 中川敦夫国立精神 神経医療研究センタートラン

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

第2章マウスを用いた動物モデルに関する研究

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素


別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

第三問 : 認知症の主な症状にどのようなものがあるか 下枠に二つ記入してください 例 ) 同じことを何度も言うなど ( 答えはたくさんあります ) 例 ) ささいなことで怒るなど ( 答えはたくさんあります ) 第四問 : 次の認知症に関する基礎知識について正しいものには を 間違っているものには

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統合失調症におけるグルタミン酸系神経伝達異常の一端を解明 1. 発表者 : 笠井清登 ( 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻 / 東京大学医学部附属病院精神神経科教授 ) 橋本謙二 ( 千葉大学社会精神保健教育研究センター教授 ) 2. 発表のポイント : 統合失調症を主とする初発精神病群で N-メチル-D-アスパラギン酸 (NMDA) 受容体 ( 注 1) 機能を反映する脳波指標であるミスマッチ陰性電位 (mismatch negativity;mmn 注 2) の有意な低下と 血漿グルタミン酸濃度の有意な上昇を見出しました 血漿グルタミン酸濃度が高いほど MMN が小さいという有意な相関を示す報告は世界でも初めてです 本研究成果は 統合失調症を主とする初発精神病の一群において NMDA 受容体機能低下などのグルタミン酸系神経伝達異常が生じていることを示唆します 3. 発表概要 : 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻の笠井清登教授 千葉大学社会精神保健教育研究センターの橋本謙二教授らの研究グループは 統合失調症を主とする初発精神病群において NMDA 受容体機能を反映する MMN が有意に小さく 血漿グルタミン酸濃度が有意に高いことを見出しました また 血漿グルタミン酸濃度が高いほど MMN が小さいという有意な相関を世界で初めて報告しました 本研究成果は 初発精神病の一群において NMDA 受容体機能低下などのグルタミン酸系神経伝達の変化を示唆するものであり 統合失調症を主とする精神病性障害の病態解明の一助となることが期待されます なお本研究は 日本医療研究開発機構 (AMED) 革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト および日本学術振興会 科学研究費補助金の助成により行われ 国際的な学術誌 Scientific Reports( オンライン版 ) にて日本時間 5 月 23 日 ( 火 ) に掲載されました 4. 発表内容 : (1) 研究の背景統合失調症において 音に対する自動的注意を反映する脳波指標である MMN の振幅低下は最も有用な生物学的指標の候補の 1 つであり MMN は NMDA 受容体機能を反映すると考えられています この MMN 振幅低下は早期および慢性の統合失調症で認められ グルタミン酸仮説 ( 注 3) に合致します 末梢血グルタミン酸濃度の上昇も統合失調症で認められ グルタミン酸仮説に矛盾しません MMN のグルタミン酸系神経伝達異常の指標としての妥当性をさらに高めるために 末梢血グルタミン酸濃度との相関を調べる必要がありますが これまでそうした報告はありませんでした

(2) 研究内容統合失調症を主とする初発精神病患者 19 名 ( 以下 精神病群 ) 精神病超ハイリスク者 21 名 ( 以下 リスク群 ) 健常者 16 名 ( 以下 健常群 ) が本研究に参加しました 研究参加者には イヤフォンを通じて特定の長さ ( 持続時間 ) と高さ ( 周波数 ) を有する音刺激を連続して聞いてもらいますが 同時に無音の映画をみてもらい 音刺激に意識的な注意を向けないようにします 音刺激は ごく稀に持続時間が長くなったり 周波数が高くなったりします 連続的に聞こえてくる標準音のなかで 稀に出現する逸脱音に対する脳波反応を MMN と呼び 持続時間の変化に対する MMN である duration MMN(dMMN 注 4) 周波数の変化に対する MMN である frequency MMN(fMMN 注 5) という二種類の MMN を測定し グルタミン酸系アミノ酸の血漿濃度として グルタミン酸 グルタミン グリシン D-セリン L-セリンを測定しました まず dmmn 振幅は 健常群に比し 精神病群とリスク群で有意に低下していました ( 図 1 左 ) fmmn 振幅は 3 群間で有意差はありませんでした ( 図 1 右 ) 精神病群とリスク群で dmmn 振幅が低下し fmmn 振幅が低下しないことは 先行研究と同様でした dmmn 振幅は精神病性障害の早期から低下し fmmn 振幅は慢性期に低下する傾向があることがわかっています 次に 血漿グルタミン酸濃度は 健常群に比し 精神病群で有意に上昇していました ( 図 2) 先行研究では慢性期の統合失調症で末梢血グルタミン酸濃度が上昇することはわかっていましたが 今回の研究で早期の段階でも末梢血グルタミン酸濃度が上昇することがわかりました なお グルタミン グリシン D-セリン L-セリンの血漿濃度は 3 群間で有意差はなく 先行研究と同様でした これらの結果から 精神病群と健常群において 血漿グルタミン酸濃度が高いほど dmmn 振幅が小さいという有意な相関が世界で初めて認められました ( 図 3) (3) 社会的意義 今後の予定本研究では 精神病群で dmmn 振幅の低下や血漿グルタミン酸濃度の上昇が認められましたが こうした変化は全ての精神病で認められたわけではありません ( 図 2 および 3) これは 精神病群の中でも NMDA 受容体機能低下がある一群とそうでない群があることを示唆します つまり dmmn と血漿グルタミン酸濃度を用いることによって 精神病の中でも NMDA 受容体機能低下がある一群を見出すことができると言えます 先行研究によると 統合失調症の新規薬剤候補としての NMDA 受容体モジュレータ ( 注 6) は 症状や認知機能の改善に芳しい効果が出ていません しかし dmmn と血漿グルタミン酸濃度を用いて NMDA 受容体機能低下がある一群を同定し その一群に NMDA 受容体モジュレータを投与すれば 症状や認知機能がより改善する可能性があると考えられ 今後の研究が期待されます 5. 発表雑誌 : 雑誌名 :Scientific Reports( オンライン版 :5 月 23 日 ) 論文タイトル : Reduced mismatch negativity is associated with increased plasma level of glutamate in first-episode psychosis 著者 : Tatsuya Nagai, Kenji Kirihara, Mariko Tada, Daisuke Koshiyama, Shinsuke Koike, Motomu Suga, Tsuyoshi Araki, Kenji Hashimoto, Kiyoto Kasai* DOI 番号 : 10.1038/s41598-017-02267-1 アブストラクト URL: https://www.nature.com/articles/s41598-017-02267-1

6. 問い合わせ先 : 研究に関する問い合わせ先 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻 / 東京大学医学部附属病院精神神経科教授笠井清登 ( かさいきよと ) 電話 :03-5800-8919/FAX:03-5800-9162 E-mail:kasaik-tky@umin.net 取材に関する問い合わせ先 東京大学医学部附属病院パブリック リレーションセンター担当 : 小岩井 渡部電話 :03-5800-9188 FAX:03-5800-9193 E-mail:pr@adm.h.u-tokyo.ac.jp 千葉大学医学部国際戦略 広報担当担当 : 袖山電話 :043-226-2841 FAX:043-226-2005 E-mail:med-international@chiba-u.jp AMED 事業に関する問い合わせ先 日本医療研究開発機構戦略推進部脳と心の研究課 100-0004 東京都千代田区大手町 1-7-1 読売新聞ビル22F 電話 :03-6870-2222 FAX:03-6870-2244 E-mail:brain-pm@amed.go.jp 7. 用語解説 : ( 注 1)N-メチル-D- アスパラギン酸 (NMDA) 受容体脳など中枢神経系を主とした細胞に分布しており 記憶や学習に関わります また 脳内の電気信号 ( 主に錐体細胞によるグルタミン酸放出 ) が過剰にならないように抑制をしている細胞 ( 介在ニューロン ) で重要な役割を果たしています ( 注 2) ミスマッチ陰性電位 (MMN) MMN は事象関連電位の 1 つです 事象関連電位とは 何らかの刺激を加えた直後に生じる脳波をいいます 本研究では聴覚性の MMN(dMMN fmmn) を用いています ( 注 3) グルタミン酸仮説何らかの原因によって NMDA 受容体機能が低下することで 脳内の電気信号 ( 主に錐体細胞によるグルタミン酸放出 ) が過剰になったり ドパミンの放出が過剰になったりすることにより 統合失調症のような精神病状態が生じるとする仮説です

( 注 4)duration MMN(dMMN) 連続した標準刺激 ( ピ ピ ピ という連続音 ) を聞いてもらい 一定の割合で標準刺激より長い音の逸脱刺激 ( ピーという長い音 ) を入れることで生じる脳活動を頭皮上から脳波計で計測したものを dmmn と言います ( 注 5)frequency MMN(fMMN) 連続した標準刺激 ( ピ ピ ピ という連続音 ) を聞いてもらい 一定の割合で標準刺激より高い音の逸脱刺激 ( ピッという高い音 ) を入れることで生じる MMN を fmmn と言います ( 注 6)NMDA 受容体モジュレータ NMDA 受容体の機能を高める薬剤および物質のことで D-セリン D-サイクロセリン グリシントランスポータ阻害薬などがあります 9. 添付資料 : 図 1. FCz( 頭頂部 ) 電極における dmmn 振幅 ( 図左 ) と fmmn 振幅 ( 図右 ) (FEP は精神病群 UHR はリスク群 HC は健常群 )

図 2. 血漿グルタミン酸濃度 (FEP は精神病群 UHR はリスク群 HC は健常群 ) 図 3. 血漿グルタミン酸濃度と FCz( 頭頂部 ) 電極における dmmn 振幅の相関 ( 図左は精神病群 図中はリスク群 図右は健常群 )