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3 1 スコープとは 20 2 スコープの全体構成 20 3 スコープ作成のプロセス 21 4 クリニカルクエスチョンの設定 22 5 システマティックレビューに関する事項 25 6 推奨作成から最終化, 公開に関する事項 25

第 3 章 スコープ (SCOPE) 1 スコープとは スコープは, 診療ガイドラインの作成にあたり, 診療ガイドラインが取り上げる疾患トピックの基本的特徴, 診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項, システマティックレビューに関する事項, 推奨作成から最終化 (finalization), 公開に関する事項などを明確にするために作成される文書であり, 診療ガイドライン作成の企画書とも言える文書である 診療ガイドラインの作成は, 主にガイドライン作成グループとシステマティックレビューチーム (SR チーム ) によって進められるが, スコープは, 診療ガイドライン作成の開始にあたって, ガイドライン作成グループの協議によって作成する 草案を作成した段階で, 診療ガイドラインの利用が想定される医療者, 患者や, 診療ガイドラインによって影響を受ける行政, 団体など, すべての利害関係者の意見を聞くパブリックコメントのプロセスを経て最終決定する方法がとられることもある スコープは, 診療ガイドラインの作成プロセスが開始される前に作成されるものであるが, 診療ガイドライン作成の過程で変更の必要が生じた場合は, 変更の理由, 変更の承認プロセスを明記して変更を加え, 日付とバージョンを明記して改訂版であることがわかるようにする 2 スコープの全体構成 標準的なスコープへの記載項目は, 以下の テンプレート ID:3 3 スコープ S のような様式が多いが, 本書では 疾患トピックの基本的特徴 も加えて, 以下のボックス内の構成を勧める 疾患トピックの基本的特徴 1 疾患トピックの臨床的特徴 2 疾患トピックの疫学的特徴 3 疾患トピックの診療の全体的な流れ ( 以上をまとめて ) テンプレート ID:3 1 疾患トピックの基本的特徴 S *1 テンプレート ID:3 2 診療アルゴリズム ( 図 )S スコープ テンプレート ID:3 3 スコープ S 20

3 スコープ作成のプロセス スコープ作成の中で最も重要なクリニカルクエスチョン (clinical question;cq) 設定にいたるプロセスを中心に解説する 1) 疾患トピックの診療の全体的な流れ診療ガイドラインが取り上げる疾患トピックの基本的特徴として, 疾患トピックの診療の全体的な流れを整理する 診療アルゴリズムという形式で診療の全体的な流れを図示するのが効果的である 最も簡単な診療アルゴリズムの例を図 3-1 に示す 診療ガイドラインの対象疾患 X は, ステージ 1, ステージ 2 に分類されるが, ステージ 1 に対する治療としては, 手術単独療法が既に確立しているのに対して, ステージ 2 に対する治療法としては, 手術単独療法と手術 + 放射線療法の 2 種類が選択肢 (alternative care options) として考えられる例である 診療ガイドラインがエビデンス総体の評価によって推奨を作成するのは, ステージ 2 のように複数の選択肢が存在する CQ である ステージ 1 のように治療法が確立している場合には, 確立された治療法を簡単に記述するのみで十分であり, 重要臨床課題, さらには CQ として取り上げる必要は少ない 第3 章 S C O PE 21 疾患 X ステージ 1 ステージ 2 クリニカルクエスチョン : ステージ 2 に対して, 最適な治療法は手術単独, 手術 + 放射線療法のどちらか 手術 手術 手術 + 放射線療法 図 3 1 診療アルゴリズムの例 * 1: テンプレートは名称の最後に以下のように使用するドキュメントに対応した記号が付されている S: スコープに含まれるテンプレート,O: 作業用

第 3 章 スコープ (SCOPE) 2) 重要臨床課題診療ガイドラインが取り上げる臨床上の課題を重要臨床課題 (key clinical issues) として検討し決定する 重要臨床課題としては, 診断プロセスとして侵襲性の高い検査を実施するか否か, 最適な治療方法として何を選択すべきかなど, 患者への介入に関して, 患者と医療者が行う意思決定の重要ポイントの中で, 患者アウトカムの改善が強く期待できる重要な臨床課題を重点的に取り上げるべきである 具体的には, 新しい治療方法が登場して患者アウトカムの大きな改善が見込まれる課題, あるいは, 長年の慣行によって複数の治療方法が混在し, 患者アウトカムに無視できない格差が存在する課題などが重要な候補となる 4 章 p.32 に示すように, スコーピングサーチを行って国内外の診療ガイドライン, 主要文献を検索して現状把握を行う方法がとられることもある 4 クリニカルクエスチョンの設定 1) クリニカルクエスチョンとはスコープで取り上げるべき重要臨床課題が決定したら, それをもとにして CQ を設定する ここでは,CQ の定義を スコープで取り上げることが決まった重要臨床課題 (key clinical issues) に基づいて, 診療ガイドラインで答えるべき疑問の構成要素を抽出し, ひとつの疑問文で表現したもの とする ひとつの重要臨床課題から設定される CQ の数は, ひとつのこともあれば, 複数の場合もある わが国では, 疾患専門家主体で診療ガイドラインが作成されるので, それぞれの CQ が臨床のプロセスのどこで生じるかについては十分認識されていることが多い 反面, 専門家の視点に偏りがちになるので, 積極的に患者アウトカムを拾い上げる努力が必要である CQ の構成要素は, システマティックレビューのために行われる網羅的なエビデンス検索にとって重要である (4 章 2,p.32 参照 ) また, 構成要素を明瞭に設定することでエビデンスの非直接性の評価に役立つ (4 章 3,p.36 参照 ) さらに, CQ 設定時点で介入の益と害とに関するアウトカムを明確に定め, 患者にとっての重要性を点数化しておくことは, 推奨を作成する際に必要となる (5 章 2,p.52 参照 ) テンプレート ID:3 4 クリニカルクエスチョンの設定 O 22

第3 章2) クリニカルクエスチョンの構成要素の抽出 CQ の構成要素として一般的に,PICO(P:patients, problem, population, I:interventions, C:comparisons, controls, comparators, O:outcomes) が用いられる P(patients, problem, population) 介入の対象となる患者特性( 性別や年齢など ) を明確にする 疾患や病態, 症状などを詳細に設定する 特定の地理的要件などがあればここに加える I/C(interventions/comparisons, controls, comparators) P に対して行うことを推奨するかどうか検討したい介入をリストアップする I と C は別々に設定されることもあるが,2 つの介入を比較する際にどちらを I としてどちらを C とするべきか判断できない場合や,3 つ以上の介入を同列に検討したい場合もあり得るため, ここでは I と C を特に明確には分けずに,I/C としてその選択肢をリストアップする方法を紹介する 介入の期間, 用量, 投与方法などの要素も考慮する プラセボか, 標準的治療群かなど, 比較する群を明確にする S C O PE 23 O(outcomes) どの介入が最も推奨されるか判断するための基準となるアウトカムを網羅的にリストアップする 患者にとって望ましい効果 すなわち, 益 のアウトカム: 死亡率の低下,QOL (quality of life) の向上, 入院の減少など, 望ましくない効果 ( すなわち, 害 のアウトカム : 副作用, 有害事象の発現など ) の両方を取り上げる 可能な限り 代替アウトカム ではなく, 患者にとって重要なアウトカム を取り上げる 代替アウトカムとは, 検査値の変化など, 臨床医が重視するかもしれない代理, 代替, 生理学的アウトカムである 患者にとって重要なアウトカムとは, 生死や症状,QOL の変化など, 患者自身が重視するであろう直接的なアウトカムである 3) 抽出したアウトカムの相対的な重要性の評価それぞれのアウトカムが 介入を受ける患者にとってどの程度重要と考えられるか を評価する 点数は 1~9 点とし, 得点が高いほどそのアウトカムは患者にとって重要性が高いとする方法を, 本書では紹介する 点数の判定は, ガイドライン作成グループの経験や既存の研究結果に関する予備知識などに基づいて主観的かつ相対的に行う また, 評価には患者の視点を取り入れることが望まれる 付与した点数からアウトカムを選択する方法としては,1~3 点は 重要ではない (not impor

第 3 章 スコープ (SCOPE) tant),4~6 点は 重要 (important),7~9 点は 重大 (critical) として分類して( 図 3 2), 実際にシステマティックレビューを行うアウトカムは, 重要 なものと 重大 なものを採用するなどの方法がとられる 各アウトカムの重要性の点数は, デルファイ (Delphi) 法などを用いて, 専門家や患者代表で構成されたガイドライン作成グループ内で合意を形成して決定する 重大 または 重要 に分類されたアウトカムの数が多い場合は, 必要に応じてアウトカムの絞り込みを行う 採用するアウトカムの数はシステマティックレビューを行うメンバーの経験やスキル, 診療ガイドライン作成にかけられる時間を考慮して決定する ひとつの目安として, 重大 または 重要 に分類されたアウトカムのうち, 重要性の得点が高いものから最大 7 個程度を上限として採用することが多い アウトカムの重要性 1 2 3 4 5 6 7 8 9 重要ではない 重要 重大 図 3 2 アウトカムの重要性の点数化 4) 抽出した構成要素を用いたクリニカルクエスチョンの表現上記のプロセスで抽出した構成要素 (P,I,C,O) を用いて CQ をひとつの疑問文で表現する 2 つの介入を比較検討する CQ をひとつの文で表現する例として P において,I と C( または I 1 とI 2 ) のどちらを用いることが推奨されるか などが考えられる 推奨されるか という表現のほかには, 有用か などの表現が用いられることもある 5) クリニカルクエスチョンの絞り込み日常診療において医療行為を選択する意思決定の場面が数多くあるが, 診療ガイドラインでそのすべてを取り上げることは不可能である システマティックレビューの実施にも多くの労力を要する 診断のために侵襲性の高い検査を実施するか否か, 複数のオプションから治療方針を決定する場合など, 患者アウトカムを左右する重要ポイントで, 患者と医療者による意思決定の対象となる問題を厳選して CQ として取り上げてシステマティックレビューの対象とすることが望ましい 24

5 システマティックレビューに関する事項 1) エビデンスの検索と選定基準 エビデンスタイプとして,1 個別研究論文 ランダム化比較試験 (RCT), 非ラン ダム化比較試験 (non-rct), 観察研究など,2 システマティックレビュー,3 既存の診療ガイドラインのどれを検索対象とするか決定する 6 2) エビデンスの評価と統合の方法エビデンス総体の評価方法, エビデンス総体の強さの表現方法, エビデンスの統合方法を決定する 推奨作成から最終化, 公開に関する事項 第3 章 S C O PE 25 推奨作成, 最終化, 外部評価, 公開について決定する

第 3 章 スコープ (SCOPE) 3 1 S 臨床的特徴診療ガイドラインの推奨を理解し, 診療で活用するために必要な臨床的事項を記載する 病態生理, 臨床分類, 歴史的事項など 疫学的特徴 診療ガイドラインの推奨を理解し, 診療で活用するために必要な疫学的事項を記載する 罹患率, 死亡率, 受療率, 生存率などの現状, 経年変化, 地域特性など 診療の全体的な流れ実地で行われている診療の全体的な流れについて, 解説する 例えば, 当該疾患がステージ 1, ステージ 2 に臨床分類される場合ステージ 1: 手術療法が標準的治療として確立されている ステージ 2: 手術療法, 手術 + 放射線療法が並立しており, クリニカルクエスチョンとしての評価が必要 ( 本ガイドラインで推奨作成 ) 3 2 S 診療アルゴリズム ( 図 ) 解説の理解を助けるために, 診療アルゴリズムの図を追加することが望ましい 上述の例でのステージ 2 のように, スコープ作成の段階ではクリニカルクエスチョンとして推奨作成の対象となっている場合は, スコープの段階では クリニカルクエスチョン (CQ 番号 ) として推奨作成 と記述しておき, 推奨作成が完了した後に, 推奨内容を追記して診療アルゴリズムとして完成する (6 章 ) 26

3 3 S 1. 診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項 診療ガイドラインのタイトルを記載する 改訂版の場合は, 改訂版であることがタイトル (1) タイトルからわかることが望ましい (2) 目的診療ガイドラインが全体として取り組む患者アウトカムの改善を目的として記載する 診療ガイドラインが取り上げるテーマを記述する 疾患全体を取り上げる場合は 疾患 (3) トピック名, 疾患全体ではなく, 例えば, 治療のみを取り上げる場合は, 小児急性中耳炎の治療 のような組み合わせで, 取り上げるトピックを明記する (4) 想定される利用者, 診療ガイドラインの活用が想定される施設, 医療者などを明記する 利用施設 (5) 既存ガイドラインとの関係 (6) 重要臨床課題 (7) ガイドラインが カバーする範囲 (8) クリニカルクエスチョン ( C Q ) リスト 改訂版の場合は, どの診療ガイドラインの改訂版であるかを明示する また, 改訂版ではないが, 関連する診療ガイドラインがある場合は, 関係を明示する 診療ガイドラインが取り上げる課題を重要臨床課題 (key clinical issues) として記述する 重要臨床課題を記述するに当たって, 予備的な文献検索を実施して, 課題の概略を把握する 重要臨床課題 1: 重要臨床課題 2: 重要臨床課題 3: 診療ガイドラインが取り上げるトピックについて, より詳細な定義を行う 診療ガイドラインがカバーする範囲とカバーしない範囲を整理して記述する 重要臨床課題 で取り上げられた課題を基に, 患者にとって重要なアウトカムを改善するために必要な問題を CQ として設定する スコープでは, 設定された CQ を一覧表としてリストにする CQ1: CQ2: CQ3: 2. システマティックレビューに関する事項 (1) 実施スケジュールシステマティックレビューの実施スケジュールを記述する エビデンスタイプとして,1 個別研究論文 ランダム化比較試験 (RCT), 非ランダム化比較試験 (non-rct), 観察研究など,2システマティックレビュー(SR) 論文,3 既存の診療ガイドラインの中で, どれを検索対象とするかを記載し, 検索の優先順位を明確にす (2) エビデンスの検索る また, 個別研究論文については,RCT,non-RCT, 観察研究などの研究タイプの中で, 検索対象に含める研究タイプを記載する 検索式を決定する際の基本方針を記載する 検索の対象とするデータベースをエビデンスタイプごとに記載する 検索対象期間は, データベースごとに, 検索範囲となる期間を年月日で記載する (3) 文献の選択基準, 除外基準 (4) エビデンスの評価と統合の方法 複数の論文が存在する場合に, 既存の診療ガイドライン,SR 論文,RCT,non-RCT, 観察研究をどのように選出し統合するか, 優先順位と採用条件の基本方針を記載する 選出された論文からなるエビデンスの評価方法を記載する また, エビデンス総体の強さの表現方法を記載する エビデンス総体の質的統合と量的統合に対する基本的な考え方を記載する 3. 推奨作成から最終化, 公開までに関する事項 (1) 推奨作成の 基本方針 コンセンサス形成の具体的方法, 推奨作成の際に考慮する因子, 推奨を文章で表現する際に準拠するルール, 推奨の強さを表現する基準をあらかじめ決めて記述する (2) 最終化完成した診療ガイドラインのドラフトを最終決定するための手続きを記載する (3) 外部評価の 具体的方法 外部評価として実施する方法を記載する 例えば, 外部評価委員による評価, パブリックコメントの実施, 一部の医療施設での試行など (4) 公開の予定公開の予定期日, 公開の方法などを記載する 第3 章 S C O PE 27

第 3 章 スコープ (SCOPE) 3 4 O スコープで取り上げた重要臨床課題 (key clinical issue) スコープで取り上げることに決まった重要臨床課題 (key clinical issues) のひとつを書き入れる CQ の構成要素 P(patients, problem, population) 性別 ( 指定なし 男性 女性 ) 年齢 ( 指定なし ) 疾患 病態 地理的要件 取り上げた重要臨床課題から,CQ の構成要素 (P,I/C,) を抽出して記載する その他 I(interventions)/C(comparisons, controls, comparators) のリスト O(outcomes) のリスト outcome の内容 益か害か 重要度 採用可否 O 1 ( 益 害 ) 点 O 2 ( 益 害 ) 点 O 3 ( 益 害 ) 点 O 4 ( 益 害 ) 点 O 5 ( 益 害 ) 点益と害に関する O(outcomes) を設定し, 患者にとっての重要性 O 6 を評価する ( 益 害 ) 点 O 7 合議のうえ, 各 outcome を採用するか〇, を採用可否に記入 ( 益 害 ) 点 O 8 ( 益 害 ) 点 O 9 ( 益 害 ) 点 O 10 ( 益 害 ) 点 O 11 ( 益 害 ) 点 O 12 ( 益 害 ) 点 O 13 ( 益 害 ) 点 O 14 ( 益 害 ) 点 O 15 ( 益 害 ) 点 作成した CQ 上で抽出した PICO を用いて CQ を一文で表現し, 記載する 28