答申第 6 4 号 答 申 第 1 審査会の結論沖縄県知事 ( 以下 実施機関 という ) は 本件異議申立ての対象となった公文書について部分開示とした決定を取り消し 全部開示すべきである 第 2 諮問の概要 1 公文書の開示請求異議申立人 ( 以下 申立人 という ) は 平成 23 年 12 月 15 日 沖縄県情報公開条例 ( 平成 13 年沖縄県条例第 37 号 以下 条例 という ) 第 6 条第 1 項の規定に基づき 実施機関に対し 工事件名 3 4 8 号パイプライン線街路改良工事 ( H 2 3-1 ) の金額入り内訳明細書及び単価表の全て について開示請求 ( 以下 本件開示請求 という ) を行った 2 実施機関の決定実施機関は 対象公文書を 3 4 8 号パイプライン線街路改良工事 ( H 2 3-1 ) ( 以下 本件公文書 という ) と特定した上 条例第 7 条第 3 号及び第 7 号に該当する情報であることを理由に公文書部分開示決定 ( 以下 本件処分 という ) を行い 平成 23 年 12 月 19 日付け土道第 10156 号により 申立人に通知した 1 法人に関する情報であって 当該法人の利益を害するおそれがあるため 2 入札事務に関する情報であって 今後の公正かつ適正な当該事務又は事業の実施に支障を及ぼすおそれのある情報であるため 3 異議申立て申立人は 平成 23 年 12 月 27 日 本件処分を不服として 行政不服審査法 ( 昭和 37 年法律第 160 号 ) 第 6 条の規定により 実施機関に対し異議申立てを行った 4 諮問実施機関は 平成 24 年 12 月 10 日 条例第 20 条の規定により 沖縄県情報公開審査会 ( 以下 審査会 という ) に本件公文書の開示可否の決定について諮問した - 1 -
第 3 異議申立ての内容 1 異議申立ての趣旨開示しない部分とした 本工事費内訳書の細別 一次単価表 二次単価表 三次単価表 の開示 2 異議申立ての理由 (1) 開示しないこととする理由 1 に関しては一次単価表 二次単価表 三次単価表に記載されている産業廃棄物業者や材料業者名と思われるが これらは一次単価表 二次単価表 三次単価表に記載されているものではなく 1 の理由に該当する部分を黒塗りにすることで開示できる情報であり 開示しない理由とはならない (2) 開示しないこととする理由 2 に対して 一次単価表 二次単価表 三次単価表に含まれる単価は沖縄県土木建築部実施単価表として公表しているものであり その他の資材単価は財団法人建設物価調査会及び財団法人経済調査会により書籍等で公に開示されている 機械損料に関しては社団法人建設機械協会から建設機械等損料算定表として公に開示されている また 歩掛りに関しては土木工事標準積算基準書として財団法人建設物価調査会が公に開示している情報であり 既に情報は周知されているものであるため 入札事務に関し 公正かつ適正な当該事務の実施に障害は及ぼさないため 開示しないこととする理由とはならない 3 理由説明に対する意見 (1) 理由説明書には 一次単価表 二次単価表 及び 三次単価表 ( 以下設計単価表 ) には 財団法人建設物価調査会 財団法人経済調査会及び社団法人建設機械化協会の発刊する図書の単価が含まれているとあるが 設計単価表には定期刊行物そのままの単価を使用しているわけではなく 沖縄県が加工し使用しているはずである それらの単価を開示することにより 刊行物等の販売量の減少等 経済的不利益をこうむるおそれがあるとしているが 単価を公表したとしても 公表された時点の設計単価表はすでに過去のものであるため それ以降の入札に利用できる単価はほとんどない よって定期刊行物の販売量の減少等の経済的不利益は公表しないことの理由とはならない また 設計単価表には見積もりに基づき積算した内容も含まれており 公にすることで法人の権利 競争上の地位等を害するおそれがあるとしているが 設計単価表に法人名が記載されている部分を黒塗りにすることで回避できるため 公表しない理由とはならない (2) 工事の実施段階で請負業者が行う実際の取引価格を誘導することを - 2 -
否定できないとあるが 民間の建設業者へ民間の土木積算ソフトが導入されており 例え設計単価表が公表されたとしても設計単価を類推することは可能であり 実際の取引価格を誘導することにはならない また 今後予定される同種工事の入札段階で予定価格の類推が容易となる等 公平な競争や適正な事業の推進に支障が生じるおそれがあるとしているが 土木工事に同じ工事は存在せず 例え同じ路線であったとしても設計条件が異なるため 同じような予定価格になることは少ない さらに 前述のとおり 積算ソフトを利用することで 設計単価は類推することが可能であるため 公平な競争や適正な事業の推進に支障が生ずるおそれはない (3) コンピュータが普及していない時代であればまだしも 現在はコンピュータを保有していない民間建設業者は無い また 公共土木工事の入札に参加している建設業者で積算ソフトを導入していない会社もほとんどない このような時代に設計単価を公表することで 公正な競争や適正な事業の推進に支障が生じるとは考えにくい 国土交通省中国地方整備局や北海道開発局はホームページ等で 契約が終了した工事の金額入り設計書を公表している また 東京都をはじめとしたほとんどの地方自治体でも金額入り設計書を公表している 第 4 実施機関の説明要旨 1 本件処分の具体的理由 (1) 本工事の 一次単価表 二次単価表 及び 三次単価表 ( 以下 設計単価表 という ) には 財団法人建設物価調査会 財団法人経済調査会及び社団法人建設機械化協会の発行する図書の単価が使用されている その単価は定期刊行物等 ( 有償 ) に掲載され その著作権は当該法人が保有していることから これらの単価を開示することは 刊行物等の販売量の減少等 経済的不利益をこうむることや著作権法に抵触するおそれがあるため不開示としている また 設計単価表には 見積に基づき積算した内容も含まれており 公にすることにより 法人の権利 競争上の地位を害するおそれがあることから不開示としている ( 2) 本工事費内訳書の細別は設計単価表から構成されており 設計単価表は特定の工種に対して 特定の歩掛を適用し 特定の材料により算出されるものであり これを開示することによって パイプライン線の工 - 3 -
事の実施段階で請負業者が行う実際の取引価格を誘導することが否定できないことや 今後予定される同種工事の入札段階で予定価格の類推が容易となる等 公平な競争や適正な事業の遂行に支障が生ずるおそれがあることから不開示としている 2 その他類似の工事の予定価格が類推されることにより 落札価格が高止まりする可能性があり また 入札談合が行われるおそれがある 積算努力をしない業者がでてくるのも困る 第 5 審査会の判断理由本件対象公文書は 3 4 8 号パイプライン線街路改良工事 ( H 2 3-1 ) で 本工事設計内訳書 一次単価表 二次単価表 三次単価表から構成されており 工事区分 工種 種別 細別ごとの規格 数量 単価 金額等が記載されている 本件公文書は 予定価格を設定するための工事費積算書類で 予定価格は契約を締結する際の上限価格であり 落札金額を決定する基準となる価格である 実施機関は これらのうち細別及び一次単価表 二次単価表 三次単価表に係る単価 金額について 条例第 7 条第 3 号及び条例第 7 条第 7 号に該当すると主張するので以下検討する 1 基本的な考え方について条例は その第 1 条にあるように 地方自治の本旨に即した県政を推進する上で 県民の知る権利を尊重し 県政の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにすることが重要であるとの認識に立ち 公文書の開示を請求する権利を明らかにするとともに 情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより 県政に対する県民の理解と信頼を深め もって県民の参加と監視の下に公正で開かれた県政の推進に資することを目的として制定されたものである また 第 3 条においては 実施機関は 公文書の開示を請求する県民の権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し 及び運用するものとしている 審査に当たっては これらの趣旨を十分に尊重し 関係条項を解釈し 判断するものである 2 条例第 7 条第 3 号該当性について本号は 法人等に関する情報の不開示要件を定めたもので 不開示 - 4 -
情報としては 生産技術や販売のノウハウ 信用上不利益を与える情報 経理 人事等の情報等で 通常 営業上の秘密とされているもの等が該当し 公にすることにより競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを指し 出版 報道等により既に公にされている情報は基本的には含まれないものと考えられる なお おそれについては それが現実的なものであることまでは要しないものの 主観的なものでは足りず 客観的なものでなけれならないと解されている 本件公文書には 一般財団法人建設物価調査会 一般財団法人経済調査会 一般社団法人日本建設機械施工協会 ( 以下 財団法人等 という ) の刊行物 建設物価 及び 積算資料 ( 以下 物価資料 という ) 建設機械等損料 に記載された単価及び複数の業者から徴収した見積り単価が引用されており 実施機関の説明によれば 物価資料は月 1 回 建設機械等損料は概ね 2 年に 1 回発行されるものである したがって 本件情報は出版物として既に公開されている情報で誰もが入手し得るものであり 不開示情報には当たらない 加えて 実施機関は 財団法人等の刊行物の単価を開示することは 刊行物の販売量の減少等 経済的不利益をこうむるおそれがあると主張するが 販売量減少のおそれについての具体的な根拠は示されなかった 当審査会は 物価資料等から本件公文書に引用された単価はその内容のごく一部に過ぎず 沖縄県土木建築部における資材単価の決定要領 ( 以下 決定要領 という ) によれば 物価資料を引用して単価決定をするに際しては その平均値を用いることとされているため建設物価及び積算資料の各単価は公開されず また 刊行物はそれぞれ月 1 回 年 1 回の発行でその都度内容が更新されることなどから 本件公文書を開示したとしても物価資料等の販売量が減少する可能性は低いと考えるものである また 実施機関は 見積りに基づいて積算した内容についても 公にすることにより 法人の権利 競争上の地位を害するおそれがあると主張しているが 決定要領によると 見積りによる単価決定に際しては 3 社以上の業者の見積書の平均値を採用することが原則とされており 見積りによる単価を開示しても 3 社の平均値が示されるのみで 特定の法人の情報が明らかとなるものではないから 実施機関の主張 - 5 -
は採用できない 以上のことから 本件情報は 条例第 7 条第 3 号に該当するとは認められない なお 実施機関は 著作権法に抵触するおそれについても述べているが 著作権法第 42 条の 2 は 情報公開条例の規定により著作物を公衆に提供等することを目的とする場合には 情報公開条例で定める方法により開示するために必要と認められる限度において著作物を利用することができるとしており 実施機関の主張は失当である 3 条例第 7 条第 7 号該当性について本号は 事務又は事業に関する情報の不開示の要件を定めたもので 県等が行う事務又は事業に関する情報であって 公にすることにより 当該事務又は事業の性質上 当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を不開示情報としている 当該事務又は事業の性質上とは 当該事務又は事業の性質に照らして保護する必要がある場合のみ不開示とすることができることとする趣旨で 当該事務又は事業には 同種の事務又は事業が反復される場合の将来の事務又は事業も含まれる 適正な遂行に支障を及ぼすおそれとは 実施機関に広範な裁量権限を与える趣旨ではないので 各規定の要件の該当性を客観的に判断する必要があり 支障の程度については 名目的なものでは足りず実質的なものが要求される おそれの程度については 上記 2 で記したとおりである 実施機関は 単価表を開示することによって請負業者が行う実際の取引価格を誘導することが否定できないと主張するが そのことが 事業の適正な遂行に具体的にどのような支障を及ぼすおそれがあるのか実施機関からは明らかにされず かつ 物価資料等や実施機関が公表している実施設計単価表等を用いて積算すれば 請負業者等においても実施機関が決定する単価の近似値を求めることは可能であり 本件公文書を開示したとしても単に単価が明らかになったのみで実際の取引価格を誘導するおそれがあるとまではいえず 事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められない また 実施機関は 今後予定される同種工事の入札段階で予定価格の類推が容易となることや 落札価格が高止まりする可能性 入札談合が行われるおそれ 積算努力をしない業者が出てくる等の主張をしている - 6 -
が 同種工事にどの程度の類似性があり 具体的にどのような支障が生ずるのかは明らかにされなかった 一般的に 公共工事は工事の構造 仕様 材質 時期的 地域的条件など各個別の特殊性があり 予定価格積算の基礎となる本件公文書に記載された単価についても 今後の物価の変動 技術の進歩 工事を取巻く環境の変化等の事情に伴って同種の工事であっても違いが生ずるものと考えられる したがって 過去の単価等から将来の予定価格等を類推することには一定の限界があると考えられ 過去の単価を開示することにより 将来の予定価格等の類推にどの程度役立ちうるのか明らかではない 予定価格や最低制限価格の事後公表などに加えて設計単価表等は従前から年間をとおして公表されるなど 現在でも公共工事の積算の仕方はかなりの部分が公開されており 業者はこのような情報をもとに予定価格等をある程度推測することができるのであるが 単価等を開示しても工事内容の違いから将来の同種工事における予定価格や最低制限価格を正確に類推することが必ずしも可能になるわけではない 以上の事情を考慮すると 本件公文書の開示により 条例第 7 条第 7 号に規定する 当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものとは認められない よって 第 1 審査会の結論 のとおり判断した - 7 -
本案件を審議した沖縄県情報公開審査会委員 五十音順 氏名役職名等備考 池田修弁護士 上江洲純子沖縄国際大学准教授 植松孝則弁護士 徳田博人琉球大学教授会長 宮尾尚子弁護士会長職務代理 審査会の処理経過 年月日内容 平成 24 年 12 月 11 日 諮問書受理 平成 25 年 5 月 28 日審議 ( 第 233 回 ) 平成 25 年 6 月 20 日 実施機関から理由説明書受理 平成 25 年 6 月 25 日審議 ( 第 234 回 ) 平成 25 年 7 月 1 日 異議申立人から意見書受理 平成 25 年 7 月 23 日審議 ( 第 235 回 ) 平成 25 年 8 月 22 日審議 ( 第 236 回 ) 平成 25 年 9 月 20 日審議 ( 第 237 回 ) - 8 -