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CHIBA KOGYO BANK REPORT Contents Profile 01 CHIBA KOGYO BANK REPORT 2016

数値目標 平成 29 年 オープンカフェ新規参加店舗数 58 店 6 店 6 店 オリオン市民広場集客数 1,500 人 3,000 人 3,000 人 センターコア歩行者 自転車通行量 ( 平日 ) 1,700 人 1,700 人 1,700 人 5 地域再生を図るために行う事業 5-1 全体の概

目次 1. 市街化調整区域の土地利用方針について... 1 (1) 策定の目的... 1 (2) 方針の位置付け 市街化調整区域の課題 土地利用の方針... 3 (1) 土地利用の基本的な方針... 3 (2) 地区ごとの土地利用方針 開発計画等の調整


Transcription:

2016 年度 CSIS 共同研究報告書 研究題目 : 都市観光地における観光地マネジメントの課題解決と再構築に向けた地域 観光動態研究 研究番号 : 2685 研究代表者 : 杉本興運 ( 首都大学東京都市環境学部 ) 概要 : 本研究プロジェクトでは 東京都市圏にある都市観光地において現在の観光地マネジメントの課題解決や今後の再構築を進める上での戦略立案に資する地域 観光動態に関する総合的研究を実施する そのための重要な調査として 地理情報システムを応用した対象地の社会 経済 自然 都市環境および観光客の行動動態の時空間分析や地理的視覚化を実施する 加えて フィールドワークでの緻密な地域調査や組織調査を実施し 多角的な側面から対象とする観光地の望ましいあり方を検討していく 本年度は東京 上野地域を対象地とし 江戸時代から現代までの商業集積地の空間特性や変化を中心に調査 分析を実施した 本報告書は 以下 1~3に示す CSIS 全国共同利用研究発表大会 (CSIS DAYS) および日本地理学会学術大会に提出した発表要旨を基に 加筆 修正を加えて作成したものである 1. 太田慧 杉本興運 菊地俊夫 (2016): 東京 上野地域における商店街の特性, CSIS DAYS 2016. 2. 太田慧 杉本興運 菊地俊夫 (2016): 東京 上野地域における商業集積地の変容, 2016 年度日本地理学会秋季学術大会. 3. 洪明真 杉本興運 菊地俊夫 (2016): 江戸期の寺社地における商業活動と観光空間の復原 - 文献史料と歴史 GIS を組み合わせた空間分析を通じて-, CSIS DAYS 2016. 1

1. 東京 上野地域における商店街の特性 (1) 背景と目的 : 東京 上野駅および御徒町駅周辺には 17 の商店街が集積している これらの商店街の中にはアメヤ横丁のように東京の下町の雰囲気を残す商店街もあり 日本国内や海外からも多くの観光客を集めている ( 太田ほか 2016) 本研究は上野地域における商店街の業種構成を分析することにより 各商店街の特性を明らかにするとともに商店街を単位とした上野地域の商業集積地の空間特性を明らかにすることを目的とする (2) 方法 : Zmap TOWN II の街区データと台東区の商店街調査の資料を利用し 道路構成線からから 10 m のバッファを発生させ 商店街ごとのポリゴンを作成した さらに 各商店街のポリゴン上に位置する座標付テレポイントデータを上野地域を代表する 5 つの業種に再集計することで 商店街ごとの店舗の業種構成を把握した ( 図 1) 以上の各商店街とその業種構成のデータをもとにコレスポンデンス分析を行い それぞれの商店街の特性を図化した ( 図 2) (3) 結果 : コレスポンデンス分析の結果 ショッピング型 フード型 飲み屋型 ショッピング フード複合型 ビジネス型 の 5 つの特性が抽出された ( 図 2) ショッピング型 の商店街は装身具類 小物 食品を扱う店舗との関連がみられ アメヤ横丁が分類された また 飲食店に関連する フード型 には上野中央通りや御徒町通りなどの上野駅や御徒町駅に近接する大通り沿いの商店街が分類された 酒場やバーと関連する 飲み屋型 は 上野駅に隣接する小規模な酒場が集積する上野駅一番街が該当した 飲み屋型 は上野公園の南に位置する池之端仲町通り商店街や上野二丁目仲町通り商店街も分類されたが これはかつての花街の名残である 金融機関 事務所 工場との関連がみられる ビジネス型 の商店街は 昭和通りなどの大通り沿いの商店街が該当した 以上のことから 上野地域における商店街は観光の中心となっているアメヤ横丁から離れると 観光客があまり利用しない ビジネス型 としての性格がより強くなる傾向が明らかになった (4) 参考文献 : 太田慧 杉本興運 菊地俊夫 (2016): 東京 上野地域における商業集積地の土地利用と空間特性. 日本地理学会発表要旨集,89(11),79. 図 1 各商店街の業種構成 図 2 各商店街の特性とその分布 2

2. 東京 上野地域における商業集積地の変容 (1) 背景と目的 : 東京都心周辺地域に位置する東京都台東区上野地域は 北関東 東北 信越 北陸地方へのターミナル駅である上野駅を中心に東京を代表する主要な商業集積地として発展している また 上野地域は 世界文化遺産に登録された美術館や博物館 動物園などの文化施設とともに アメヤ横丁に代表されるような東京の下町の風情を感じられる商業集積地が隣接しており それらの文化施設との近接が上野地域における商業集積地の魅力の一つとなっている 本研究では 東京都台東区の上野地域を研究対象とし そこの商業集積地の変容とその要因を明らかにすることを研究目的とする (2) 方法 : 本研究では 上野地域における商業集積地の特徴をとらえるために 商店街の業種構成の変化と土地利用の関連をみた 商店街の業種構成については 1956 年に発足した上野地域を代表する商店が加盟している上野のれん会の加盟店の業種構成の変化を分析した ( 図 1) 上野のれん会は 1956 年の発足当時から毎月継続してタウン誌 うえの を発行しており 上野地域の歴史と商業集積地の変容をとらえるのに適している 本研究は タウン誌 うえの の記載内容を分析するとともに 店舗分布の地図化 ( 図 2) と上野地域の店舗に対する聞き取り調査を実施した また 商店街の変容に伴う土地利用の高度化や景観変化を把握するための一調査として 2014 年および 1986 年のフロア数情報を基に 3D 景観モデルを作成し比較した 前者には ZmapTOWNⅡを使用し 後者にはゼンリン住宅地図を基に作成した空間データを使用した ( 図 3) (3) 結果 : 上野地域における商業集積地の業種構成の推移によると 1959 年から 2016 年にかけて加盟店の数は漸減傾向にあるが 業種としては飲食店の数が最も多く 衣料品 靴 鞄を扱うファッション関連の業種がそれに続く これは 太田ほか (2016) が示した上野地域の店舗構成の現状と同様の傾向であり 上野地域が 1950 年代より飲食店を中心に発展してきたことがわかる また 1970 年代以降からファッション関連の店舗が減少傾向にあるが これは洋装生地などの服飾素材を扱う店舗の減少によるものである その一方で 靴や鞄を扱う店舗は残存しており これらの革製品を扱う店舗の多さが上野地域の商業集積地の特徴となっている また 2000 年を前後に上野のれん会に加盟する老舗の飲食店がテナントビルに建て替えることで 不動産業に転換する事例が相次いでみられるようになった このような上野地域における商業集積地のテナントビル化の要因は 地価の下落と店舗の後継者問題である 以上のような商業集積地の変容は 土地利用の高度化を促進するとともに 上野地域の景観に変化を与えるものとなっていた (4) 参考文献 : 太田慧 杉本興運 菊地俊夫 (2016): 東京 上野地域における商業集積地の土地利用と空間特性. 日本地理学会発表要旨集,89(11),79. 3

図 1 上野のれん会加盟店の業種構成の推移 図 2 (a)1959 年 1959 年時点での上野のれん会加盟店の分布 (b)2016 年 (a) 1986 年 図 3 上野地域の 3D 景観モデル (b) 2014 年 4

3. 江戸期の寺社地における商業活動と観光空間の復原 (1) 背景と目的 : 従来 江戸の寺社地に関しては 江戸城下町の成立に基づいた町割と地割 あるいは 都市空間の構造に着目した研究が多くなされてきた 近年では 江戸の寺社地の土地利用変化 ( 田中 2010) 江戸期に刊行された 2 つの買物案内書に記載されている飲食店を比較し 江戸期の食生活を検討した研究 ( 蟻川 2006) がある しかし 江戸の商業活動のなかで一部の業種を取り上げていること その空間的な分析による地域の商業活動の特徴は明らかにされていない 従って 商業活動を空間的に分析することで 江戸期の人々の観光 ( 消費 ) 行動を類推する さらに 江戸期の下谷と浅草地域における空間構造の地域差を比較 検討する (2) アプローチ : 絵図と史料に基づき 過去の地域と景観の復原を重要なテーマとする歴史地理学の研究手法に準拠した ( 菊地 1984) 江戸期に刊行された 江戸買物独案内 と 江戸名物酒飯手引草 の 2 つの買物案内書を主な史料とし 下谷と浅草地域における商業活動および地理的情報をデータ化し GIS を通じて可視化する さらに 商業活動の業種内容を 衣 食 住 のカテゴリに区分し その空間的な分布の分析を行い 江戸期の下谷の商業 観光空間の特徴について議論する (3) 意義 : 本研究の意義は 江戸期の文献史料と GIS を組み合わせて過去の地域の商業空間や観光空間を復原する方法を提案することである それを通じて江戸期の都市空間やそこで生活する人々の観光 ( 消費 ) 行動の特徴を明らかにする (4) 特徴 : 下谷の商店の所在地を文献史料から抽出し 現在の空間データと一致させるため古地図と町史から昔と現在の町名変遷を行った その後 文献史料から 下谷に位置している商店の所在地 商人名 業種 店名を抽出し 表データにまとめた そして 国土地理院の基盤地図情報から現代の対象地域の空間データを入手し ArcGIS 上で表示させた さらに ジオリファレンス機能によって昔の古地図を重ね合わせ 江戸期の町の空間データを作成した 最後に 町目別の商店数を集計し 属性結合した後 商店の分布図を作成した ( 図 1) (6) 参考文献 : 蟻川トモ子 (2006): 江戸名物酒飯手引草 に見る江戸の食文化圏を 江戸買物独案内 と比較して, 生活文化史 (50), 88-102. 菊地利夫 (1984): 日本歴史地理概説, 古今書院. 田中麻衣 古田悦造 (2010): 明暦大火前後における江戸の土地利用変化, 東京学芸大学紀要人文社会科学系 Ⅱ(61), 61-77. 5

図 1 江戸期の下谷地域における商店の分布 6