2009語学会予稿

Similar documents
「外国語科目」の履修方法

6回目

共科 通目 基礎情報学コンピュータ演習 -A( 絵画 映像メディア表現を含む ) コンピュータ演習 -A( デザイン 映像メディア表現を含む ) コンピュータ演習 -B( 絵画 映像メディア表現を含む ) コンピュータ演習 -B( デザイン 映像メディア表現を含む ) コンピュータ演習 -A( 絵画

外国語学部15生~18生

表 回答科目数と回答数 前期 後期 通年 ( 合計 ) 科目数 回答数 科目数 回答数 科目数 回答数 外国語 ( 英語 ) 120 / 133 3,263 / 4, / 152 3,051 / 4, / 285 6,314 / 8,426 外国語 ( 英語以

236390恵泉女学園大学2018年度学生生活ハンドブック.indd

学生へのメッセージ パソコンを今まで操作したことがない学生にも対応できるベルから学習しますが 徐々にレベルを上げていきます 油断せずに 遅刻は厳禁です 講義開始前にコンピュータを使える状態にしておいてください

< F838A F838B815B838B81698A A2E786C7378>

(2)APM への 3 回生編入学 転入学への志願にあたって APM への 3 回生編入学 転入学を志願するにあたって 各志願者が前籍機関において学んだ内容がどの程度 APM のとして認定される見込みがあるかを踏まえた上で志願を行うことが極めて重要です 単位認定は志願者ごとの前籍機関における学修内容

教科 : 外国語科目 : コミュニケーション英語 Ⅰ 別紙 1 話すこと 学習指導要領ウ聞いたり読んだりしたこと 学んだことや経験したことに基づき 情報や考えなどについて 話し合ったり意見の交換をしたりする 都立工芸高校学力スタンダード 300~600 語程度の教科書の文章の内容を理解した後に 英語

3-2 学びの機会 グループワークやプレゼンテーション ディスカッションを取り入れた授業が 8 年間で大きく増加 この8 年間で グループワークなどの協同作業をする授業 ( よく+ある程度あった ) と回答した比率は18.1ポイント プレゼンテーションの機会を取り入れた授業 ( 同 ) は 16.0


Microsoft PowerPoint - 第3章手続き編(2013年3月15日更新2) .pptx

Présentation PowerPoint

51066_hontai.indd

習う ということで 教育を受ける側の 意味合いになると思います また 教育者とした場合 その構造は 義 ( 案 ) では この考え方に基づき 教える ことと学ぶことはダイナミックな相互作用 と捉えています 教育する 者 となると思います 看護学教育の定義を これに当てはめると 教授学習過程する者 と

マルチエージェントシステムグループの研究計画

Microsoft Word - 医療学科AP(0613修正マスタ).docx

情報技術論 教養科目 4 群 / 選択 / 前期 / 講義 / 2 単位 / 1 年次司書資格科目 / 必修 ここ数年で急速に身近な生活の中に浸透してきた情報通信技術 (ICT) の基礎知識や概念を学ぶことにより 現代の社会基盤であるインターネットやコンピュータ システムの利点 欠点 それらをふまえ

Ⅳ 電気電子工学科 1 教育研究上の目的電気電子技術に関して社会貢献できる能力と物事を総合的に判断し得る能力を養うと共に, 課題解決のためのチームワーク力と論理的思考力を身に付けることによって, 今後の社会環境の変化により生じる新たな要望に対して良識ある倫理観をもって対応でき, かつ国際的視野に立っ

2019 年度文学部 2 年生英語 III IV( 必修科目 ) Web エントリー 履修申告要領および英語インテンシブ ( 総合教育科目 ) の案内 本要領ではまず英語 III( 春学期開講 ) IV( 秋学期開講 ) を 必修外国語 として履修する学生を対象とし, 英語 III IV の Web

情報処理 Ⅰ 前期 2 単位 年 コンピューター リテラシー 担当教員 飯田千代 ( いいだちよ ) 齋藤真弓 ( さいとうまゆみ ) 宮田雅智 ( みやたまさのり ) 授業の到達目標及びテーマ コンピューターは通信技術の進歩によって 私達の生活に大きな影響を与えている 本講座は 講義と

Akita University 自律学習を促進するための学習支援システムの開発 総合情報処理センター 吉崎弘一 1. はじめに 学習を効果的にするためのソフトウェアや Web サービスが, 学習の内容や手法に応じて既に数多く提案されている 特に自学における学習の情報化では, 近年のスマートフォンと

生活設計レジメ

44 4 I (1) ( ) (10 15 ) ( 17 ) ( 3 1 ) (2)

I II III 28 29


5. 政治経済学部 ( 政治行政学科 経済経営学科 ) (1) 学部学科の特色政治経済学部は 政治 経済の各分野を広く俯瞰し 各分野における豊かな専門的知識 理論に裏打ちされた実学的 実践的視点を育成する ことを教育の目標としており 政治 経済の各分野を広く見渡す視点 そして 実践につながる知識理論


<4D F736F F F696E74202D2090B B689BB8DE097F08E6A8A7789C8979A8F4391CC8C6E907D2E B8CDD8AB B83685D>

2016 年度シラバス科目名 Communication Skills V (CALL) 担当者高橋妙子免許 資格受講要件 開講学科等 英語コミュニケーション学科 授業形態 演習 開講時期 後期 配当学年 2 単 位 数 2 必修 選択 選択必修 授業概要と方法ロマンティックコメディ映画を教材化した

untitled

社会系(地理歴史)カリキュラム デザイン論発表

人間科学部専攻科目 スポーツ行政学 の一部において オリンピックに関する講義を行った 我が国の体育 スポーツ行政の仕組みとスポーツ振興施策について スポーツ基本法 や スポーツ基本計画 等をもとに理解を深めるとともに 国民のスポーツ実施状況やスポーツ施設の現状等についてスポーツ行政の在り方について理

クラスや受講者数の少ないクラスではこの限りではありません また 英語 B2( 英語 B2-1/B2-2) の成績評価は 授業に関する成績と大学内で実施する TOEFL ITP テスト ( 受験料不要 ) の成績を加味して決定されます 今年度の TOEFL ITP テストは 平成 29 年 12 月

経営学リテラシー 共通シラバス (2018 年度 ) 授業の目的経営学部では 大学生活のみならず卒業後のキャリアにおいて必要とされる能力の育成を目指しています 本科目では 経営に関連する最近のトピックやゲストスピーカーによる講演を題材に そうした能力の礎となるスキルや知識の修得を目指すとともに ビジ

スライド 1

<4D F736F F D AA90CD E7792E88D5A82CC8FF38BB5816A819A819B2E646F63>

高経大生ポータルサイトの使い方

経済履修案内-H25.indd

授業科目名英語科教育基礎論 a (Basics of English Language Education a) 科目番号 授業形態講義単位数 1 単位標準履修年次 2 年次実施学期春 AB 曜時限水曜 2 時限対象学群 学類担当教員 ( 連絡先 ) 斉田智里 ( 非常勤講師 ) オ

<4D F736F F D20906C8AD489C88A778CA48B8689C881408BB38A77979D944F82C6906C8DDE88E790AC96DA95572E646F6378>

教養教育科目の小計 () () () () () 外国語科目 外国語科目の小計 (2) (2) (2) (2) (2) 初期教育科目門科目商学部卒業所要単位 ( 留学生教育プログラム ) 科目区分 養教育科目第 1 群 ~ 第 10 群およびの任意科目 学科経営国際ビジネス会計 コース 経営 経営情

授業概要と課題 第 1 回 オリエンテェーション 授業内容の説明と予定 指定された幼児さんびか 聖書絵本について事後学習する 第 2 回 宗教教育について 宗教と教育の関係を考える 次回の授業内容を事前学習し 聖書劇で扱う絵本を選択する 第 3 回 キリスト教保育とは 1 キリスト教保育の理念と目的

科目の履修について 履修にあたって いくつか注意すべき点があります 第一は 心理 コミュニケーション学科コミュニケーション専攻の 7 科目が必修であるというこ とです ( 第二言語習得基礎論 A B は 心理 コミュニケーション学科と国際英語学科の共有 ) 第二は 必修科目が段階履修になっていること

Microsoft Word doc

第 9 章 外国語 第 1 教科目標, 評価の観点及びその趣旨等 1 教科目標外国語を通じて, 言語や文化に対する理解を深め, 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り, 聞くこと, 話すこと, 読むこと, 書くことなどのコミュニケーション能力の基礎を養う 2 評価の観点及びその趣旨

Microsoft Word doc

Microsoft PowerPoint - WebClassの使い方.ppt [互換モード]

授業改善アンケート と 授業評価 の違いについて A. 授業改善アンケート システムとは? 授業改善アンケート システムは 受講生と担当教員のみの双方向コミュニケーションツールとしてその仕組みを提供しています 1) 担当教員により該当科目の開講学期期間中に随時アンケートを実施することができます また

スライド 1

教科名 学習目標 英語科目名コミュニケーション英語 Ⅲ 履修学年高校 年... 組 宮岡高尾金岡 アップリフト英語長文読解入試演習 WORDNAVI00 英文の文章構造を論理的に理解し かつ設問に的確に解答できる力を身につけることを主眼とする 同時に 評論文読解に必要な背景知識を会得させる 最終的に

東邦大学理学部情報科学科 2014 年度 卒業研究論文 コラッツ予想の変形について 提出日 2015 年 1 月 30 日 ( 金 ) 指導教員白柳潔 提出者 山中陽子

論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

56 語学教育研究所紀要 Vol.10 上記項目を前年度と比較すると, 数値はほとんど変わらない データの分析及び考察は別稿にゆずることにし, ここでは前年度と大きく異なる点は自由記載が多くなったことであることを指摘したい 回収回答者の半数近くが自由記載に積極的だった 昨年度は教師に対する感謝の言葉

(2) 国語科 国語 A 国語 A においては 平均正答率が平均を上回っている 国語 A の正答数の分布では 平均に比べ 中位層が薄く 上位層 下位層が厚い傾向が見られる 漢字を読む 漢字を書く 設問において 平均正答率が平均を下回っている 国語 B 国語 B においては 平均正答率が平均を上回って

WEB履修登録について

兵庫大学経済情報学部履修規程改正案

2 授業科目の区分等 健康 スポ - ツ科学 共通専門基礎科目 ( 対象学部のみ ) 実習 講義 数学 実験科目以外 数学科目 配当年次の学生 登録方法 再履修の学生 初回授業時に履修者を選抜 抽選登録 履修登録 履修登録 抽選登録または履修登録 抽選登録または履修登録 実験科目履修登録受講許可 備

回答者のうち 68% がこの一年間にクラウドソーシングを利用したと回答しており クラウドソーシングがかなり普及していることがわかる ( 表 2) また 利用したと回答した人(34 人 ) のうち 59%(20 人 ) が前年に比べて発注件数を増やすとともに 利用したことのない人 (11 人 ) のう

「標準的な研修プログラム《

日本大学 文理学部

Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students A Dissertation Submitted t

高合格率目標達成のためのノウハウを満載! 情報処理試験合格へのパスポートシリーズ ポイント 1 他社テキストにはない重要用語の穴埋め方式 流れ図の穴埋めを採用している他社テキストはあるが, シリーズとして重要用語の穴埋めの採 用 ( 問題集は除く ) はパスポートシリーズだけです なぜ, 重要用語の

10SS

1 高等学校学習指導要領との整合性 高等学校学習指導要領との整合性 ( 試験名 : 実用英語技能検定 ( 英検 )2 級 ) ⅰ) 試験の目的 出題方針について < 目的 > 英検 2 級は 4 技能における英語運用能力 (CEFR の B1 レベル ) を測定するテストである テスト課題においては

(Microsoft Word - \207U\202P.doc)

booklet_B.xlsx

<4D F736F F F696E74202D208E9197BF B8BB38EF690E096BE8E9197BF2E707074>

9.H H H FD 企画特別講義 統計学をナゼ学ぶのか,FD 講演会 統計教育 tips ( 講師 : 狩野裕大阪大学大学院教授 ) 教員 20 名参加 平成 25 年度キャリア教育報告会 教職員約 10 人参加 平成 25 年度パイロッ

平成 30 年度入学生カリキュラム学科 専攻名国際英語学科 ( グローバルコース ) ミッション ( 育目標 ) 到達目標 到達目標に対応する授業科目 組織のミッション到達目標 ( 綱 ) 到達目標 2( 細 ) 科目区分 科目区分 2 科目区分 3 総合的英語実践 年次から 2 年次春にかけて養っ

外国語WEB履修登録手引き

PowerPoint プレゼンテーション

目次 はじめに 1 調査結果 1. 教育機関のプロフィール 教育機関分類 学科カテゴリー 学年あたりの学生数 3 2 建築情報教育の実践 授業名称による授業分類 必修 / 選択による授業分類 履修年次

指導内容科目国語総合の具体的な指導目標評価の観点 方法 読むこと 書くこと 対象を的確に説明したり描写したりするなど 適切な表現の下かを考えて読む 常用漢字の大体を読み 書くことができ 文や文章の中で使うことができる 与えられた題材に即して 自分が体験したことや考えたこと 身の回りのことなどから 相

授業計画 第 1 回ガイダンス ; 簡単な挨拶をするキーワード / 文字, 発音, 挨拶の表現 習 / 特になし習 / 文字と発音の関係の理解 第 2 回職業や国籍をいう (Ⅰ) キーワード / 名詞の性と数, 主語代名詞, 動詞 être の現在形, 否定文 習 / 教科書の文法解説の概観習 /

商業科 ( 情報類型 ) で学習する商業科目 学年 単位 科目名 ( 単位数 ) 1 11 ビジネス基礎 (2) 簿記(3) 情報処理(3) ビジネス情報(2) 長商デパート(1) 財務会計 Ⅰ(2) 原価計算(2) ビジネス情報(2) マーケティング(2) 9 2 長商デパート (1) 3 プログ

M28_回答結果集計(生徒質問紙<グラフ>)(全国(地域規模別)-生徒(公立)).xlsx

untitled

(4) ものごとを最後までやりとげて, うれしかったことがありますか (5) 自分には, よいところがあると思いますか

<4D F736F F D E93788EF68BC6955D89BF B836782CC CF68A4A F578C76955C88C88A4F816A2E646F6378>

<4D F736F F D CBB91E E A B A7789C88BB388E789DB92F682C982C282A282C D E646F6378>

インドネシアの高等教育における日本語教育現状と課題

Microsoft Word 年度 学術交流支援資金報告書(藁谷).docx

平成23年度全国学力・学習状況調査問題を活用した結果の分析   資料

別紙様式7

2 Web ページの文字のサイズを変更するには 以下を実行します Alt + P キーを押して [ ページ ] メニューを選択します X キーを押して [ 文字のサイズ ] を選択します 方向キーを押して 文字のサイズを [ 最大 ] [ 大 ] [ 中 ] [ 小 ] [ 最小 ] から選択します

どのような便益があり得るか? より重要な ( ハイリスクの ) プロセス及びそれらのアウトプットに焦点が当たる 相互に依存するプロセスについての理解 定義及び統合が改善される プロセス及びマネジメントシステム全体の計画策定 実施 確認及び改善の体系的なマネジメント 資源の有効利用及び説明責任の強化

授業改善アンケート と 授業評価 の違いについて A. 授業改善アンケート システムとは? 授業改善アンケート システムは 受講生と担当教員のみの双方向コミュニケーションツールとしてその仕組みを提供しています 1) 担当教員により該当科目の開講学期期間中に随時アンケートを実施することができます また

Microsoft Word - 理ABP2.doc

Microsoft PowerPoint - ???????

Microsoft Word - 02_小栗章_教育_v019e.doc

Microsoft Word - 農ABP2.doc

1

教科 大学入試センター試験の利用教科 科目名個別学力検査等 科目名等教科等科目名等 前期国国語国現代文 古典人文学類地歴世 A, 世 B, 日 A, 日 B, 地理 A, 地理 B 地歴世 B, 日 B, 地理 B 人文 文化公民現社, 倫, 政経, 倫 政経公民倫 学 群 数 数 Ⅰ 数 A 外

i


Wide Scanner TWAIN Source ユーザーズガイド

Microsoft Word - 123 26 第2章 単位と卒業要件 docx

第14回情報プロフェッショナルシンポジウム予稿集

Transcription:

外国語教育において機械翻訳はどのように扱うべきか村上公一 早稲田大学日本中国語学会第 59 回全国大会予稿 (2009.10.25 北海道大学 ) 0. はじめに数年先に予想される実用的な自動翻訳システムや携帯自動翻訳機器の登場は 大きな衝撃を外国語教育の現場に与えるだろう 中国語教育の現場に携わる私達は機械翻訳と今後どのように付き合っていくべきだろうか 機械翻訳の時代における異言語間のコミュニケーションは 以下の 4 形態が並立する形をとることが予想される (1) 機械翻訳のみによるコミュニケーション (2) 機械翻訳の不備を外国語知識で補う形でのコミュニケーション (3) 外国語能力の不備を機械翻訳で補う形でのコミュニケーション (4) 外国語能力のみによるコミュニケーション (1)(2) は既に外国語によるコミュニケーションではなく機械翻訳を介した異言語間コミュニケーションととらえるべきであろう 発表者は (4) を目指す学習の一環としての機械翻訳の利用が (3) に結びつくのではないかとの考えにもとづき 中国語読解教育への機械翻訳の一部利用を試みている 本発表では中国語読解教育への機械翻訳利用の具体的な方法と それにより学習者の中国語読解にどのような変化が生じるのかについて報告する 1. 機械翻訳をとりまく環境 2007 年 6 月 1 日に閣議決定された イノベーション 25 は 2025 年の日本の姿について 自動翻訳機の普及等により 誰もがあらゆる国の人々とコミュニケーションを行うことができ 相互理解が深化している と記す そこに到る科学技術の実用化は インターネット上の自動言語翻訳機能の向上により インターネット上の多言語にわたる情報を特定言語で容易に検索可能になり 必要な情報を瞬時に世界中から引き出すことのできる知識の体系的保存システム が 2010 年 ~2015 年 音声入出力の身体装着型自動翻訳装置 が 2013 年 ~2020 年 言語の同時翻訳機能が付加された電話の一般化 が 2017 年 ~2025 年とされている ( イノベーション 25 中間とりまとめ ) 2025 年を待つまでもなく 2009 年 9 月時点でも 翻訳ソフトは既に市場にあふれ YAHOO! Google など主要なポータルサイトはことごとく機械翻訳サービスを提供しており 日本語以外の言語で書かれた Web ページの日本語による検索や日本語による閲覧が可能になっている もちろん 100% には程遠い翻訳精度ではあるが 機械翻訳の利用者は年々増加している 携帯電話においても すでに日 英 日 中 日 韓の携帯翻訳サービスが始まっている ポータルサイトでの機械翻訳サービスは徐々に人々に認知されはじめ 大学生の機械翻訳利用もここ数年で大きく進んでいる 発表者が早稲田大学の学生を対象に 2004 年 7 月に行なった調査では 74.8%(131 名中 98 名 ) が機械翻訳を利用したことがあり 13% は

いつも利用している と答えている 2009 年 4 月に同じく早稲田大学の学生を対象に行なった調査では 利用したことのある学生の比率はさらに増加し 86.7%(69 名中 60 名 ) にまで達している 現在の大学生にとって機械翻訳は私たちが想像する以上に身近な 日常的に利用するものになっているようである ただ 現時点での機械翻訳の精度については必ずしも満足していない 2009 年 4 月のアンケートでは機械翻訳を利用した際の感想を自由記述してもらったが 以下のような不満が多く記されていた 大意をつかむのには良いと思う( 情報をインプットする ) 個人的に使うぶんには問題ないけど 機械翻訳に 100% 頼って外へアウトプットするのは不安 便利ではあるが 質は微妙だという印象 ドイツ語やフランス語においては 機械翻訳に頼るしかない場合もあるが 英語のような既習言語においては 正確さを求めるのであれば 自分で辞書などを引きながら読んだ方が良いと思う 2. 機械翻訳時代の 4 形態のコミュニケーション 機械翻訳の時代における異言語間のコミュニケーションは 以下の 4 形態が並立する形 をとることが予想される (1) 機械翻訳のみによるコミュニケーション (2) 機械翻訳の不備を外国語知識で補う形でのコミュニケーション (3) 外国語能力の不備を機械翻訳で補う形でのコミュニケーション (4) 外国語能力のみによるコミュニケーション 発表者は 2004 年 7 月に機械翻訳を利用した中国語の読解について実験を行なった 同 一の読解問題について [ 原文のみ ] と [ 原文 + 機械翻訳 ] の2 種類の形式で出題したものを学 生に解かせ その結果を比較しものである (A) 全問 [ 原文 + 機械翻 問題 (A) 問題 (B)(C) 訳 ] (B) 奇数大問 [ 原文 + 機械翻訳 ] 偶数大問[ 原文のみ ] (C) 奇数大問 [ 原文のみ ] 偶数大問 [ 原文 + 機械 機械翻訳を全く参考にしなかった / あまり参考にしな 原文機械翻訳と原文を半々ぐらいに参考にした (19 名 ) 機械翻訳に完全に頼った / かなり頼った (38 名 ) 全体 (75 名 ) 中国語未習者 (10 名 ) 原文のみ (B:30 名 / C:26 名 ) *2 年次中国語科目履修者 翻訳つき (B:30 名 / C:26 名 ) *2 年次中国語科目履修者 翻訳 ] い (18 名 ) 平均正答率 (%) 65.0 68.6 67.1 66.1 65.5 38.8 69.5 *(A):2 年 ~4 年の学生 中国語のレベルは HSK7 級取得者から未習者まで混在 *(B)(C):2 年 ~4 年の学生 全員 2 年次の中国語科目を履修中 * 問題 :TECC 第 11 回 第 8 部 読解問題 翻訳ソフト :J 北京 V4( 高電社 ) この実験については村上 (2007) で詳細な分析を行なっている ここでは機械翻訳が中 国語読解の補助ツールとして極めて有用であるという点だけを再確認しておく さて この実験で行なわれた読解行為を上記 4 形態のコミュニケーションに当てはめる と 以下のようになる (A) 群の 機械翻訳に完全に頼った が (1) かなり頼った

が (2) あまり参考にしなかった が (3) 機械翻訳を全く参考にしなかった が (4) のコミュニケーションに相当し 機械翻訳と原文を半々ぐらいに参考にした は (2)(3) のいずれかということになる また (B)(C) 群の 原文のみ は (4) 翻訳つき は (2)(3) のいずれかであろう (A) 群の 中国語未習者 は外国語教育としての中国語は学んでいないが 中国語の文字 語彙 語法等についての基礎的な講義を数回にわたり受けているので (2) のカテゴリに入る (B)(C) 群の被験者 56 名が機械翻訳をどの程度参考にしたかについては 42 名が 機械翻訳に完全に頼った / かなり頼った と答え 14 名が 機械翻訳と原文を半々ぐらいに参考にした と答えている 機械翻訳を全く参考にしない / あまり参考にしなかった と答えた学生はいない つまり (B)(C) 群の被験者は中国語を 1 年以上学んでいるにもかかわらず ほとんどの学生が機械翻訳にたよって読解していることが分かる (A) 群の 機械翻訳を全く参考にしなかった/ あまり参考にしなかった 18 名の多くは 中国語を 2 年以上学んでいるか 専門科目として学んでいる学生であり 中国語能力 学習動機ともに他の学生とは異なっていた このことから容易に想像できるのは いわゆる第二外国語として必ずしも強い学習動機を持たずに中国語を1 2 年間学習した学生が 履修期間が終了した後 あるいは卒業後に中国語で書かれた文書を読もうとしたとき 間違いなく (3) ではなく (2) のコミュニケーションを選択するであろうということである 3. 外国語能力を中心としたコミュニケーションのための機械翻訳利用私たちが いわゆる第二外国語として1 2 年間のみ中国語を学習する学生に修得してほしい能力は ( 中国語知識で補いながら ) 機械翻訳でコミュニケーションする力 なのか それとも ( 機械翻訳で補いながら ) 中国語でコミュニケーションする力 なのか 前者であれば外国語教育とは全く別の理念 方法から新たな教育を組み立てなおさなければなるまい 後者であれば これまでの外国語教育の中に機械翻訳をどのように組み込んでいくのかという問題になる 発表者の本務校 ( 早稲田大学教育学部 ) の外国語カリキュラムは以下のようになっている いわゆる第二外国語としての履修 ( 必修 ) は 学科によって異なるが 最も多い学科で 外国語の基礎 (1 年次に履修 ) 中国語のコミュニケーションの基礎 (1 年次または 2 年次で履修 ) 中国語演習 I(1 または 2) (2 年次に履修 ) の 8 単位である 外国語修得にも力を入れている複合文化学科では ツールとしての中国語 V 以外の 26 単位が原則必修となっている 4 年前期 *( ) 内の数字は単位数ツールとしての中国語 V(2) 3 年後期中国語演習 IV(2) ツールとしての中国語 IV(2) 3 年前期中国語演習 III(2) ツールとしての中国語 III(2) 2 年後期中国語演習 II1(2) 中国語演習 II2(2) ツールとしての中国語 II(2) 2 年前期中国語演習 I1(2) 中国語演習 I2(2) ツールとしての中国語 I(2) 1 年通年中国語の基礎 ( 週 2 コマ )(4) 中国語のコミュニケーションの基礎 (2) 発表者が機械翻訳を組み込むことを試みた 中国語演習 I1 は第二外国語として履修し

ている学生にとっては履修しなければならない最後の科目である ここで ( 機械翻訳で補いながら ) 中国語でコミュニケーションする 側に履修者をとどまらせる何らかの対策がなければ 2004 年の (B)(C) 群の学生と同じように ( 中国語知識で補いながら ) 機械翻訳でコミュニケーションする 側に行ってしまうことになる 2009 年前期に 中国語演習 I1 を履修している学生が 1 年次で履修した 中国語の基礎 は使用テキスト 授業方法ともに 2004 年の (B)(C) 群の学生と同じである 中国語演習 I1 ( 半期 15 回 ) の授業はもともと大きく三段階に分けた学習を行っていた 分かち書きのない中国語の文章を 辞書の力を借りつつも自分自身の力で読み進めるための能力を身に付けること またこの授業で大学での中国語学習を全て終了する学生がいることを踏まえ その後も自分自身で中国語の文書から情報を得ていくことができる最低限の知識と方法を身につけることを目的としたプログラムである 第一段階(2 回程度 ) 授業 :[ 単語スラッシュ切り ] [ 意味の想像 ] [ 辞書引き ] [ 訳文完成 ] ( 読解学習の流れの確認と授業中での実践 ) 第二段階](10 回程度 ) 予習 :[ 単語スラッシュ切り ] [ 意味の想像 ] [ 辞書引き ] [ 訳文完成 ](Web サイトでの提出 ) 授業 : 学生の提出済み訳文をもとに 語彙 語法 背景知識を中心に課題文章の解説 第三段階](2 回程度 ) 授業 :[ 中国語 e-mail 受信 発信 ][ 中国語 Web ページ探索 ] 分かち書きのない中国語の文章を読むためには 単語あるいは語句といったまとまりが見えてこなければならない そのためのスラッシュ切りをまず行う はじめは辞書を使用せず これまでに獲得している知識や想像力をフル動員して一次読解を行う その後で不明個所については辞書等を参考にしながら二次読解を行う 最初の2 回の授業では授業中に指示をしながら一連の作業を行わせ その後は予習としてこれらを行わせる 授業は事前に Web サイトで提出された個々の学生の二次読解の結果に目を通した上で 学生と相互コミュニケーションをとりながら必要な解説を行うという形で進む 最後の2 回の授業は中国語 e-mail 受信 発信及び中国語 Web ページ探索にあてている 現在の学生が中国語で書かれた文書に出会う場はインターネット上が最も一般的であり それは卒業後においても同じであろう であるならば 中国語による e-mail 受信 発信の方法や中国語 Web ページを見るための方法の学習は不可欠であろう さて この学習プログラムの中に機械翻訳を組み込んだのが以下の形である 第一段階(2 回程度 ) 授業 :[ 単語スラッシュ切り ] [ 意味の想像 ] [ 辞書引き ] [ 訳文完成 ] ( 読解学習の流れの確認と授業中での実践 ) 第二段階](4 回程度 ) 予習 :[ 単語スラッシュ切り ] [ 意味の想像 ] [ 辞書引き ] [ 訳文完成 ](Web サイトでの提出 ) 授業 : 学生の提出済み訳文をもとに 語彙 語法 背景知識を中心に課題文章の解説 第三段階(2 回程度 ) 授業 :[ 機械翻訳の誤訳分析 ]( 原文と機械翻訳文を対照し 誤訳個所を探し その理由を考える )

第四段階(4 回程度 ) 予習 :[ 単語スラッシュ切り ] [ 意味の想像 ] [ 機械翻訳参照 ] [ 訳文完成 ](Web サイトでの提出 ) 授業 : 学生の提出済み訳文をもとに 語彙 語法 背景知識を中心に課題文章の解説 第五段階(2 回程度 ) 授業 :[ 中国語 e-mail 受信 発信 ][ 中国語 Web ページ探索 ] 第三段階 第四段階 に機械翻訳を利用した学習が組み込まれている 最初に原文と機械翻訳文を配布し 誤訳個所を探し その理由を考える作業を行う 機械翻訳の誤訳は基本的に 多義性を持つ語彙 フレーズ 文の解釈において何らかの理由で誤った解釈がなされていることによる 機械翻訳の誤訳の特性を理解することで機械翻訳利用の前提知識を得ると同時に 多義性の視点から中国語の語彙 語法について知識の再確認を行うことになる その後の学習は それまで第二段階として行ってきた学習の [ 辞書引き ] を [ 機械翻訳参照 ] に置き換えただけである この方法は実は辞書が機械翻訳に置き換わっただけで 従来の外国語読解力をつけるための学習となんら変わらない まず自分自身の持つ知識や想像力で解釈し 足りない部分を辞書引きで補うという読解学習を何度も繰り返すことによって ( 辞書引きで補いながら ) 中国語でコミュニケーションする力 を獲得していくことが可能であれば 同様にまず自分自身の持つ知識や想像力で解釈し 足りない部分を機械翻訳で補うという読解学習を何度も繰り返すことによって ( 機械翻訳で補いながら ) 中国語でコミュニケーションする力 を獲得していくのも可能であろう 4. おわりに機械翻訳の時代は 私達にとって未知の時代である それはインターネット時代以前の段階においてインターネットの時代が未知であったのと同様である しかし一旦機械翻訳の時代が到来すれば 瞬く間に外国語教育は時代の波に翻弄されることになる 本格的な機械翻訳の時代が来る前の段階において 機械翻訳の時代の外国語教育のあり方について様々な模索が行われることは決して無駄なことではあるまい 本発表はその模索の一つである [ 参考文献 ] 2009 茂木良治 村上公一 神尾達之 後藤雄介 福田育弘 丸川誠司 外国語教育におけるブレンディッドラーニングの実践報告 ( 早稲田教育評論 23-1) 2008 村上公一 神尾達之 丸川誠司 福田育弘 後藤雄介 英語以外の外国語教育の情報化 2 ( 早稲田教育評論 22-1) 2007 村上公一 中日機器翻訳与中文閲読教学 ( 第八届国際漢語教学討論会論文選, 高等教育出版社 ) 2006 村上公一 丸川誠司 後藤雄介 英語以外の外国語教育の情報化 ( 早稲田教育評論 20-1) 2004 村上公一 コンピュータ インターネット 機械翻訳 - 中国語 CALL の現状と展望 ( 平井勝利教授退官記念中国学 日本語学論文集, 白帝社 ) 2000 村上公一 Web ページ探索を中心とした中国語講読授業 - 自己学習能力の獲得を目指して- ( 学術研究 48- 外国語外国文学編 -) 2007 閣議決定 長期戦略指針 イノベーション 25 http://www.cao.go.jp/innovation/action/conference/minutes/minute_cabinet/kakugi1.pdf