障害者虐待の防止と対応

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1 計画策定の背景と趣旨 昭和 56(1981) 年の 完全参加 をテーマとする 国際障害者年 を契機に, 障害者福祉は大きく変化しました 国では, 平成 5(1993) 年 3 月に 障害者対策に関する新長期計画 が策定され, 同年 12 月には 障害者基本法 * が施行されました 以後も, 平成

高齢者虐待防止対応マニュアル別冊 6 関係機関との連携 (1) 各機関の役割 市町村や地域包括支援センター等の関係機関は それぞれ対応可能な範囲があります 範囲を超えた対応は行うことができません また 事例によって関係機関の対応を依頼する場合があります 市町村が中心となるコアメンバー会議によって 大

 

2コアメンバー会議の開催時期コアメンバー会議は 事実確認調査で得られた情報や相談 通報内容に基づき 緊急性を判断し 緊急性が高いと判断される事例については 早急に開催します 3 協議内容 虐待の事実認定情報の内容により虐待の事実の有無の判断を行います 情報の内容虐待の事実の有無の判断 高齢者の権利を

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子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律案要綱

6 児童福祉法の改正 24 年 4 月には 障害者自立支援法と児童福祉法に分かれていた障がい児 の支援体制を一元化する改正がなされ 市町村が支給決定する障がい児通所支援 と都道府県が支給決定する障がい児入所支援が創設されました 7 障害者虐待防止法の施行 24 年 10 月には 障害者虐待の防止 養

スライド 1

第3章 指導・監査等の実施

資料4_1いじめ防止対策推進法(概要)

【資料3】「児童福祉法等の一部を改正する法律」の概要(7.22現在)

鎌倉市関谷小学校いじめ防止基本方針 平成 26 年 4 月 鎌倉市立関谷小学校

宮城県福祉サービス第三者評価のご案内(宮城県)

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岐阜県手話言語の普及及び障害の特性に応じた意思疎通手段の利用の促進に関 する条例 目次前文第一章総則 ( 第一条 - 第八条 ) 第二章基本的施策の推進 ( 第九条 - 第十六条 ) 附則 ( 前文 ) 手話が言語であることは 障害者の権利に関する条約において世界的に認められており わが国においても

指定特定相談支援事業 指定障害児相談支援事業の指定に係る Q&A 注意事項事業の実施にあたっては, 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定計画相談支援の事業の人員及び運営に関する基準 や 児童福祉法に基づく指定障害児相談支援の事業の人員及び運営に関する基準 等を必ず確認

アレルギー疾患対策基本法 ( 平成二十六年六月二十七日法律第九十八号 ) 最終改正 : 平成二六年六月一三日法律第六七号 第一章総則 ( 第一条 第十条 ) 第二章アレルギー疾患対策基本指針等 ( 第十一条 第十三条 ) 第三章基本的施策第一節アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減 ( 第十四条

京都府がん対策推進条例をここに公布する 平成 23 年 3 月 18 日 京都府知事山田啓二 京都府条例第 7 号 京都府がん対策推進条例 目次 第 1 章 総則 ( 第 1 条 - 第 6 条 ) 第 2 章 がん対策に関する施策 ( 第 7 条 - 第 15 条 ) 第 3 章 がん対策の推進

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地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(第7次地方分権一括法)の概要

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●子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律案

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医療的ケア児について

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地域生活支援事業サービス提供事業者登録要綱

いる 〇また 障害者の権利に関する条約 においては 障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとされている 〇一方 成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度 ( いわゆる欠格条項 ) については いわゆるノーマライゼーションやソーシャルインクルージョン ( 社会的包摂 ) を基本理念とする成年

障害福祉計画資料 3 障害福祉サービスの目標 1 成果目標 柱 No. 事業 単位 2020 年度 解説 3 暮らしを支えるサービスの充実 3 1 福祉施設の入所者の地域生活への移行 目標値 年度末までに地域生活へ移行する施設入所者数 ( 移行率 ) 年度末時点の施設入所者数

愛知県アルコール健康障害対策推進計画 の概要 Ⅰ はじめに 1 計画策定の趣旨酒類は私たちの生活に豊かさと潤いを与える一方で 多量の飲酒 未成年者や妊婦の飲酒等の不適切な飲酒は アルコール健康障害の原因となる アルコール健康障害は 本人の健康問題だけでなく 家族への深刻な影響や飲酒運転 自殺等の重大

函館市の障がい者虐待の現状について 1 養護者による障がい者虐待についての対応状況 (1) 相談 通報対応件数および相談 通報者 函館市要援護高齢者 障がい者対策協議会 平成 30 年 2 月 7 日 1 件の事例に対し複数のものから相談 通報があった場合, それぞれの該当項目に重複して計上されるた

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重症心身障害児施設の省令 ( 指定基準 ) を読む 全国重症心身障害児 ( 者 ) を守る会顧問山﨑國治 Ⅰ はじめに 平成 18 年 9 月 29 日 厚生労働省令第 178 号として 重症心身障害児施設の 人員 設備及び運営に関する基準 が厚生労働大臣から公布されました 省令のタイトルは 児童福

神奈川県立逗子高等学校いじめ防止基本方針 1 いじめの防止等に関する基本的な考え方 ( 本校のいじめ防止に関する基本的な姿勢 ) いじめは いじめを受けた生徒の教育を受ける権利を著しく侵害し その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず その生命又は身体に重大な危険を生じさせるお

I. はじめに 平成 28 年度においては 社会福祉法人制度改革の対応として 1 経営組織のガバナンス 2 事業運営の透明性 3 財務規律の強化 4 地域貢献事業に取り組んでいかなければならないと考えています 社会福祉法人は社会から期待される役割を果たすため 積極的な取り組みを進めていくことが必要で

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(3) 障害を理由とする差別障害を理由とする不当な差別的取扱いを行うこと又は合理的配慮の提供をしないことをいいます (4) 障害を理由とする不当な差別的取扱い客観的にやむを得ないと認められる特別な事情なく 障害又は障害に関連する事由により障害者を区別し 排除し 又は制限すること 障害者に障害者でない

13 Ⅱ-1-(2)-2 経営の改善や業務の実行性を高める取組に指導力を発揮している Ⅱ-2 福祉人材の確保 育成 Ⅱ-2-(1) 福祉人材の確保 育成計画 人事管理の体制が整備されている 14 Ⅱ-2-(1)-1 必要な福祉人材の確保 定着等に関する具体的な計画が確立し 取組が実施されている 15

⑤5 地方公共団体における検証等に関する調査結果

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Microsoft Word - 2_調査結果概要(訂正後)

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サービス管理責任者研修について

歯科中間報告(案)概要

広島市障害者計画 2013 ー 2017 平成 25 年 3 月 広島市

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平成 24 年 10 月から 障害者虐待防止法が始まりました 法の目的は 障害者の権利及び利益の擁護です 目的 法の名称 障害者虐待の防止 障害者の養護者に対する支援等に関する法律 障害者に対する虐待が障害者の尊厳を害するものであり 障害者の自立及び社会参加にとって障害者に対する虐待を防止することが

Microsoft Word - 表紙 雛形(保険者入り)高齢者支援課180320

施設等受給者用 Q&A 問 1 施設等 に入所している児童の児童手当は施設の設置者等に支給されるとのことですが 施設等 とは具体的にはどのような施設が含まれますか? 問 2 施設等が児童手当を申請する場合 どのような児童が支給対象となりますか? 問 3 4 月から 施設等に入所している児童の児童手当

表 1 高齢者虐待の判断件数 相談通報件数 ( 平成 26 年度対比 ) 養介護施設従事者等 ( 1) によるもの虐待判断件数相談 通報件数 ( 3) ( 4) 養護者 ( 2) によるもの虐待判断件数相談 通報件数 ( 3) ( 4) 27 年度 408 件 1,640 件 15,976 件 26

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平成 28 年度第 3 回弘前市ケアマネジャー研修会 1. ケアプランの軽微な変更の内容について ( ケアプランの作成 ) 最新情報 vol.155 p.3 参照 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準について( 平成 11 年 7 月 29 日老企 22 号厚生省老人保健福祉局企画課長

介護における尊厳の保持 自立支援 9 時間 介護職が 利用者の尊厳のある暮らしを支える専門職であることを自覚し 自立支援 介 護予防という介護 福祉サービスを提供するにあたっての基本的視点及びやってはいけ ない行動例を理解している 1 人権と尊厳を支える介護 人権と尊厳の保持 ICF QOL ノーマ

このような現状を踏まえると これからの介護予防は 機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく 生活環境の調整や 地域の中に生きがい 役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど 高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた バランスのとれたアプローチが重要である このような効果的

Ⅱ いじめ防止等のための具体的取組 1 いじめの未然防止 (1) 基礎 基本的事項の習得とすべての児童が参加 活躍できる授業をめざし わかる授業づくりをすすめる (2) 道徳教育の充実を図り 特別活動を通して規範意識や集団の在り方等についての理解と実践的態度の育成に努める (3) 月に 1 度 担任

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別添 事業者向け放課後等デイサービス自己評価表 及び 保護者等向け放課後等デイサービス評価表 について 放課後等デイサービスガイドライン ( 以下 ガイドライン ) は 放課後等デイサービス事業所における自己評価に活用されることを想定して作成されたものですが 各事業所で簡易に自己評価を行うことができ

第28回介護福祉士国家試験 試験問題「社会の理解」

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●アレルギー疾患対策基本法案

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第 4 章施策の展開 1 到達目標障害のある方の自立支援の観点から 地域生活への移行や就労支援などの主要な課題に対応するため 国の基本指針 11 に示された見込量の確保に係る目標事項について 本市における障害福祉計画 ( 第 4 期 ) 期間中の実績等を踏まえ 到達目標 12 を設定します 一覧 (

( 県 p9) (5) 私立学校におけるいじめに対する対応県の私立学校主管部局において 重大事態があった場合等に適切に対応できるよう 体制を整備する ( 国 p20 31) (5) 私立学校におけるいじめに対する対応県の私立学校主管部局において 所管する学校における定期的なアンケート調査 個人面談の

に養育されるよう また 児童を家庭及び当該養育環境において養育することが適当でない場合は 児童ができる限り 良好な家庭的環境 において養育されるよう 必要な措置を講ずることとする ( 同法第 3 条の2) なお 家庭 とは 実父母や親族等を養育者とする環境を 家庭における養育環境と同様の養育環境 と

児童虐待防止対策体制総合強化プラン 平成 30 年 12 月 18 日 児童虐待防止対策に関する関係府省庁連絡会議決定 1. 目的 2016 年 5 月に全会一致で成立した児童福祉法等の一部を改正する法律 ( 平成 28 年法律第 63 号 以下 平成 28 年改正法 という ) においては 子ども

平成17年度社会福祉法人多花楽会事業計画(案)

Ⅰ いじめ問題に関する基本的な考え方 はじめにいじめは, 決して許されてはならない行為です しかし, いじめはどの学校のどの児童にも起こりうる問題であり, 本校についても例外ではありません これまでも, 各学級において生徒指導上の問題として担任をはじめ学校全体で問題の解決に取り組んできました そのよ

○ 被害児童生徒・保護者の意向を的確に把握し、調査方法を工夫しながら調査を進めること。

出時に必要な援助を行うことに関する知識及び技術を習得することを目的として行われる研修であって 別表第四又は別表第五に定める内容以上のものをいう 以下同じ ) の課程を修了し 当該研修の事業を行った者から当該研修の課程を修了した旨の証明書の交付を受けた者五行動援護従業者養成研修 ( 知的障害又は精神障

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障害者虐待防止法の目的は 虐待を防止することによって障害者の権利及び利益を擁護することです この法律においては 障害者虐待 を虐待の主体に着目して以下の 3 つに分類しています 1 養護者 ( 障害者をお世話しているご家族など ) による障害者虐待 2 障害者福祉施設従事者等 ( 障害者施設や障害福

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社会福祉法人春栄会個人情報保護規程 ( 目的 ) 第 1 条社会福祉法人春栄会 ( 以下 本会 という ) は 基本理念のもと 個人情報の適正な取り扱いに関して 個人情報の保護に関する法律 及びその他の関連法令等を遵守し 個人情報保護に努める ( 利用目的の特定 ) 第 2 条本会が個人情報を取り扱

平成20年度春の家居宅介護支援事業所事業計画

揖斐川町デイサービスセンター運営規程

計画の策定にあたって 今回策定する あま市障がい者計画及び障がい福祉計画 は 現行の 障害者基本法 に定める 障害者計画 と 現行の 障害者自立支援法 に定める 障害福祉計画 を一体のものとしてとらえ 今後の制度改正を踏まえた あま市総合計画 を上位計画とする障がいのある人に対する支援活動や障がい者

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る行為 ( インターネットを通じて行われるものを含む ) であって 当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう 個々の行為が いじめ に当たるか否かの判断は 表面的 形式的にすることなく いじめられた児童生徒の立場に立つことが必要である この際 いじめには 多様な態様があることに

計画の今後の方向性

周南市版地域ケア会議 運用マニュアル 1 地域ケア会議の定義 地域ケア会議は 地域包括支援センターまたは市町村が主催し 設置 運営する 行政職員をはじめ 地域の関係者から構成される会議体 と定義されています 地域ケア会議の構成員は 会議の目的に応じ 行政職員 センター職員 介護支援専門員 介護サービ

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も少なくありません こうした状況に鑑み 舞鶴市は 言語としての手話の普及及び障害の特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進を図ることにより 全ての市民が障害の有無によって分け隔てられることなく 自分らしく安心して暮らすことができる地域社会を実現するため この条例を制定するものです 2. 条例の

重大事態が疑われる事案が発生した時に、その原因がいじめにあるかを判定する。

(頭紙)公布通知

身体拘束廃止に関する指針 社会福祉法人掛川社会福祉事業会 平成 30 年 5 月 23 日改定

平成29年度 障害者白書(PDF版)

事務連絡 平成 31 年 4 月 23 日 各都道府県障害保健福祉主管課御中 厚生労働省社会 援護局障害保健福祉部 障害福祉課地域生活支援推進室 サービス管理責任者等研修の見直しに関する Q&A 等について 平素より障害保健福祉行政の推進に御尽力いただき厚く御礼申し上げます サービス管理責任者及び児

(2) 総合的な窓口の設置 1 各行政機関は 当該行政機関における職員等からの通報を受け付ける窓口 ( 以下 通報窓口 という ) を 全部局の総合調整を行う部局又はコンプライアンスを所掌する部局等に設置する この場合 各行政機関は 当該行政機関内部の通報窓口に加えて 外部に弁護士等を配置した窓口を

福利厚生基本計画

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粕屋町重度障害者医療費の支給に関する条例

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害者 万人 精神障害者 万人となっている 複数の障害を併せ持つ者もいるため 単純な合計にはならないものの 国民のおよそ7.4% が何らかの障害を有している 障害福祉サービスの利用者数は 国民健康保険団体連合会へ支払いを委託する自立支援給付の支払いに関するデータによれば 平成

Transcription:

モジュール 12 障害者虐待の防止と対応 このモジュールでは 障害者虐待の定義 その防止と対応等について取り扱います 1

の成立と障害者虐待の定義 の成立 障害者虐待の定義 障害者 障害者虐待 障害者虐待の類型 1 養護者による障害者虐待 2 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待 3 使用者による障害者虐待 1 身体的虐待 2 性的虐待ト 3 心理的虐待 4 放棄 放置 ( ネグレクト ) 5 経済的虐待 ( の成立 ) 障害者虐待の防止 障害者の養護者に対する支援等に関する法律 いわゆるは 障害者虐待の防止や養護者に対する支援等に関する施策を推進するため 平成 23 年 6 月 17 日に議員立法により可決 成立し 平成 24 年 10 月 1 日から施行されることになりました ( 障害者虐待の定義 ) 1 障害者 とは 身体 知的 精神障害その他の心身の機能の障害がある者であって 障害及び社会的障壁により継続的に日常生活 社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいいます ( 改正後障害者基本法第 2 条 1 号 ) 2 障害者虐待 とは 1 養護者による障害者虐待 2 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待 3 使用者による障害者虐待をいいます ただし 18 歳未満の障害児に対する養護者による虐待は のうち 総則などの全般的な規定や養護者の支援についての規定の適用を受けますが 通報や通報に対する虐待対応については 児童虐待防止法が適用されます 3 障害者虐待の虐待行為は 1 身体的虐待 2 性的虐待 3 心理的虐待 4 放棄 放置 ( ネグレクト ) 5 経済的虐待の 5 つ としています なお 518 歳未満の障害児に対する養護者虐待は 通報や通報に対する虐待対応については 児童虐待防止法が適用されるため 5 経済的虐待は通報等の対象から外れています 2

障害者虐待における虐待防止法制の対象範囲 福祉施設 年齢 所在場所 在宅 ( 養護者 ( 保護者等 ) < 障害者自立支援法 > 障害福祉サービス事業所入所系 日中系 訪問系 GH 等含む 一般相談支援事業所又は特定相談支援事業所 < 介護保険法 > 高齢者施設 障害児通所支援事業所児童発達支援 放課後等デイ等 < 児童福祉法 > 障害児入所施設等 ( 注 1) 障害児相談支援事業所 企業 学校病院保育所 18 歳未満 18 歳以上 65 歳未満 児童虐待防止法 被虐待者支援 ( 都道府県 ) 被虐待者支援は も適用 被虐待者支援 ( 市町村 ) 高齢者虐待防止法 ( 省令 ) 20 歳まで ( 省令 ) ( 注 2) 児童福祉法 適切な権限行使 ( 都道府県 ) 20 歳まで 児童福祉法 適切な権限行使 ( 都道府県 ) ( 省令 ) 適切な権限行使 ( 都道府県労働局 ) 間接的防止措置 ( 施設長 ) 65 歳以上 高齢者虐待防止法 被虐待者支援 ( 市町村 ) 特定疾病 40 歳以上の若年高齢者含む ( 注 1) 里親 乳児院 児童養護施設 障害児入所施設 情緒障害児短期治療施設 児童自立支援施設 ( 注 2) 放課後等デイサービスのみ ここで 障害者虐待防止の対象範囲について確認しておきましょう 1 養護者 ( 保護者等 ) による障害者虐待 2( 障害者 ) 福祉施設従事者等による障害者虐待 3 使用者 ( 企業 ) による障害者虐待 と 3 つの障害者虐待に分類しています また 学校 保育所等 ( 認定子ども園を含む ) においては において 関係者に対する研修の実施及び普及啓発 就学する障害者に対する虐待に関する相談に係る体制の整備 就学する障害者に対する虐待に対処するための措置その他の当該学校等に就学する者に対する虐待を防止するために必要な措置を講ずることとなっています 繰り返しになりますが 18 歳未満の障害児に対する養護者による虐待は のうち 総則などの全般的な規定や養護者の支援についての規定の適用を受けますが 通報や通報に対する虐待対応については 児童虐待防止法が適用されます また 福祉施設のうち 障害児福祉施設については 改正児童福祉法の適用を受けることを留意する必要があります 児童福祉法第 2 章第 7 節 被措置児童等虐待の防止等 ( 第 33 条の 10 から第 33 条の 17 まで )

障害者虐待の防止と対応のポイント 障害者虐待防止と対応の目的 : 障害者を虐待という権利侵害から守り 尊厳を保持しながら安定した生活を送ることができるように支援すること ア虐待を未然に防ぐための積極的なアプローチ イ虐待の早期発見 早期対応 ウ障害者の安全確保を最優先する エ障害者の自己決定の支援と養護者の支援 オ関係機関の連携 協力による対応と体制 障害者虐待防止と対応の目的は 障害者を虐待という権利侵害から守り 尊厳を保持しながら安定した生活を送ることができるように支援することです 障害者に対する虐待の発生予防から 虐待を受けた障害者が安定した生活を送れるようになるまでの各段階において 障害者の権利擁護を基本に置いた切れ目ない支援体制を構築することが必要です ア虐待を未然に防ぐための積極的なアプローチ虐待は被虐待者の尊厳を著しく傷つけるものであることから 虐待が発生してからの対応よりも虐待を未然に防止することが最も重要です このため まず 住民やあらゆる関係者に対し の周知のほか 障害者の権利擁護についての啓発 障害や障害者虐待に関する正しい理解の普及を図ることが必要です また 障害者やその家族などが孤立することのないよう 地域における支援ネットワークを構築するとともに 必要な福祉サービスの利用を促進するなど養護者の負担軽減を積極的に図ります それぞれの地域において 自立支援協議会などの場を活用して このようにリスク要因を低減させるための積極的な取組みを行うことが重要です イ虐待の早期発見 早期対応障害者虐待への対応は 問題が深刻化する前に早期に発見し障害者や養護者等に対する支援を開始することが重要です このため まずは法に規定された通報義務を周知していくことが必要です また では 国 地方公共団体のほか ( 第 6 条第 1 項 ) 教育 保健 医療 福祉 労働等の関係者も虐待の早期発見に努めることとされています ( 第 6 条第 2 項 ) これら関係者は 虐待問題に対する意識を高く持たねばなりません さらに 地域組織との協力連携 ネットワークの構築などによって 虐待を早期に発見し対応できる仕組みを整えることが必要です ウ障害者の安全確保を最優先する障害者虐待に関する通報等の中には 障害者の生命に関わるような緊急的な事態もあると考えられ そのような状況下での対応は一刻を争うことが予想されます また 障害者本人の自己決定が難しいときや養護者との信頼関係を築くことができないときでも 障害者の安全確保を最優先するために入院や措置入所などの緊急保護を必要とする場合が必要があります ただし このような緊急的な保護を実施した場合には 養護者に対し特にその後の丁寧なフォローアップが必要となることに留意が必要です エ障害者の自己決定の支援と養護者の支援虐待を受けた障害者は 本来持っている生きる力や自信を失っている場合も多くみられます 障害者が主体的に生きられるよう 生活全体への支援を意識しながら 障害者が本来持っている力を引き出す関わりを行い ( エンパワメント ) 本人の自己決定を支援する視点が重要です 法が目指すのは 障害者が地域において自立した生活を円滑に営めるようにすることです ( 法第 41 条 ) 一方 在宅の虐待事案では 虐待している養護者を加害者としてのみ捉えてしまいがちですが 養護者自身が何らかの支援を必要としている場合も少なくありません 障害者の安全確保を最優先としつつ 養護者支援を意識することが必要です これら障害者支援や養護者支援の取組みは 関係者による積極的な働きかけや仲介によって信頼関係を構築しながら 時間をかけて行うことが必要です オ関係機関の連携 協力による対応と体制障害者虐待の発生には 家庭内での長年の人間関係や介護疲れ 障害に対する理解不足 金銭的要因など様々な要因が複雑に影響している場合も多く 支援にあたっては障害者や養護者の生活を支援するためのさまざまな制度の活用や知識が必要となります そのため 支援の各段階において 複数の関係機関が連携を取りながら障害者や養護者の生活を支援できる体制を構築し チームとして対応することが必要です 4

障害者虐待の判断に当たってのポイント 虐待かどうかの判断が難しい場合も虐待でないことが確認できるまでは虐待事案として対応することが必要 ア虐待をしているという 自覚 は問わない イ障害者本人の 自覚 は問わない ウ親や家族の意向が障害者本人のニーズと異なる場合がある エ虐待の判断はチームで行う 虐待であるかどうかの判断に当たっては 以下のようなポイントに留意します このとき 虐待かどうかの判断が難しい場合もありますが 虐待でないことが確認できるまでは虐待事案として対応することが必要です ア虐待をしているという 自覚 は問わない虐待事案においては 虐待をしているという自覚のある場合だけでなく 自分がやっていることが虐待に当たると気付いていない場合もあります また しつけ 指導 療育の名の下に不適切な行為が続けられている事案もあるほか 自傷 他害があるから仕方ない ということが一方的な言い訳となっている場合もあります 虐待している側の自覚は問いません 自覚がなくても 障害者は苦痛を感じたり 生活上困難な状況に置かれていたりすることがあります 虐待しているという自覚がない場合には その行為が虐待に当たるということを適切な方法で気付かせ 虐待の解消に向けて取り組む必要があります イ障害者本人の 自覚 は問わない障害の特性から 自分のされていることが虐待だと認識できない場合があります また 長期間にわたって虐待を受けた場合などでは 障害者が無力感から諦めてしまっていることがあります このように障害者本人から訴えの無いケースでは 周囲がより積極的に介入しないと 虐待が長期化したり深刻化したりする危険があります ウ親や家族の意向が障害者本人のニーズと異なる場合がある施設や就労現場で発生した虐待の場合 障害者の家族への事実確認で これくらいのことは仕方がない と虐待する側を擁護したり虐待の事実を否定したりすることがあります これは 障害者を預かって貰っているという家族の気持ちや 他に行き場がないという状況がそういう態度を取らせているとも考えられます 家族からの訴えがない場合であっても 虐待の客観的事実を確認して 障害者本人の支援を中心に考える必要があります エ虐待の判断はチームで行う障害者虐待の事案に対する判断は 担当者一人で行うことを避け組織的に行うことが必要です その前提として それぞれの組織の管理職が虐待問題への感度を高め 虐待への厳しい姿勢を打ち出すことが重要です そのため 相談や通報 届出を受けた市町村や都道府県の職員は 速やかに上司に報告し また個別ケース会議などを活用して緊急性の有無 事実確認の方法 援助の方向などについて組織的に判断していくこととなっています 学校においても一人の教職員への過度の負担を避け また客観性を確保する観点から 複数の教職員で対応することが重要です 5

障害者虐待の防止等に対する各主体の責務 国及び地方公共団体の責務 市町村の役割と責務 都道府県の役割の責務 障害者虐待防止対策支援事業 国民の責務 学校等関係者の責務 ( 障害者虐待の防止等に対する各主体の責務 ) 障害者虐待の防止等について それぞれの役割と責務について解説します まず においては 国及び地方公共団体は 障害者虐待の防止 障害者虐待を受けた障害者の迅速かつ適切な保護及び適切な養護者に対する支援等を行うため 以下の責務が規定されています 1 関係機関の連携強化 支援などの体制整備 ( 第 4 条第 1 項 ) 2 人材の確保と資質向上のための研修等 ( 第 4 条第 2 項 ) 3 通報義務 救済制度に関する広報 啓発 ( 第 4 条第 3 項 ) 4 障害者虐待の防止等に関する調査研究 ( 第 42 条 ) 5 成年後見制度の利用の促進 ( 第 44 条 ) もあります また 市町村の役割としては 市町村障害者虐待防止センターを設置又は委託し その周知を図るとともに 養護者 障害者福祉施設従事者等 使用者による障害者虐待についての通報又は届出を受けた場合の速やかな障害者の安全確認 通報等に係る事実確認 障害者虐待対応協力者との対応に関する協議等を行うこととなっています さらに 都道府県の役割としては 都道府県障害者権利擁護センターを設置又は委託し その周知を図るとともに 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待についての監督権限等の適切な行使 虐待の状況等の公表等 使用者による障害者虐待についての通報又は届出を受けた場合の都道府県労働局への報告等を行うこととなっています これら虐待の未然防止や早期発見 迅速な対応 その後の適切な支援を行うため 地域の関係機関との協力体制の整備や支援体制の強化を図るための事業 障害者虐待防止対策支援事業が平成 22 年度より 厚生労働省 都道府県 市町村の福祉部局において実施されています 次に 国民の責務として 第 5 条において 国民は 障害者虐待の防止等に関する理解を深めるとともに 国又は地方公共団体が講ずる施策に協力するよう努めなければならないとされています 次に 第 6 条において 学校関係者は 保健 医療 福祉等の関係者とともに 障害者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し 障害者虐待の早期発見に努めなければならないとされています ( 第 6 条第 2 項 ) これらの関係者は 国及び地方公共団体が講ずる施策に協力するよう努めなければならないとされています ( 第 6 条第 3 項 ) さらに 学校 認定子ども園の長については 教職員 児童 生徒 学生その他の関係者に対する研修の実施及び普及啓発 就学する障害者に対する虐待に関する相談に係る体制の整備 就学する障害者に対する虐待に対処するための措置その他の当該学校等に就学する者に対する虐待を防止するために必要な措置を講ずることとなっています ( 学校については第 29 条 認定子ども園に着いては 保育所等として第 30 条 ) 6

障害者虐待を発見した際の対応 障害者虐待を実際に発見した際の対応について見ていきます ( 養護者による障害者虐待 ) まず 養護者による障害者虐待については それを受けたと思われる障害者 (18 歳未満の障害者において行われるものを除く ) を発見した者は 速やかに これを市町村に通報しなければならないこととなっています ( 第 7 条 ) この場合の窓口は 市町村障害者虐待防止センターとなります 通報を受け 市町村は立入調査等による事実確認を行うとともに 一時保護や後見審判請求といった措置を行います なお 虐待防止と対応のため 市町村は 相談等の体制整備 短期間施設に入所させるなどの居室の確保 関係機関との連携協力体制の構築しておくことなどが重要となってきます また 18 歳未満の障害児に対する養護者による虐待は のうち 総則などの全般的な規定や養護者の支援についての規定の適用を受けますが 通報や通報に対する虐待対応については 児童虐待防止法が適用されます ( 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待 ) 次に 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待については それを受けたと思われる障害者を発見した者は 速やかに これを市町村に通報しなければならないこととなっています ( 第 16 条 ) この場合の窓口も 市町村障害者虐待防止センターとなります 通報を受け 市町村は事実確認等を行うとともに 都道府県 ( 都道府県権利擁護センター ) に報告を行います また 市町村又は都道府県は 障害者総合支援法等に基づく権限の行使を行います さらに 都道府県は 毎年度 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の状況等を公表することとなっています なお 虐待防止と対応のため 各施設においては 研修等の職員の資質向上等の虐待防止等のための措置の実施が必要となります また 都道府県 市町村が関係者向けの研修に取り組むことが期待されています ( 使用者による障害者虐待 ) 次に 使用者による障害者虐待については それを受けたと思われる障害者を発見した者は 速やかに これを市町村又は都道府県に通報しなければならないこととなっています ( 第 22 条 ) この場合の窓口も 市町村障害者虐待防止センター 都道府県権利擁護センターとなります 通報を受け 市町村及び都道府県は必要に応じ事実確認等を行うとともに 市町村は都道府県に対して通知を行い 都道府県は 事業所所在地の都道府県労働局に報告を行います 都道府県労働局は 障害者の雇用の促進等に関する法律 労働基準法等に基づく権限の行使を行います また 都道府県労働局は 毎年度 使用者による障害者虐待の状況等を公表することとなっています なお 虐待防止と対応のため 各企業等においては 職員が障害者の人権や障害者虐待についての理解を深め 障害者への接し方などを学ぶことが必要であり 研修等の虐待防止等のための措置の実施が必要となります 7