キャッシュ フロー計算書第 1 回 : キャッシュ フロー計算書の様式 2010.09.02 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 1. キャッシュ フロー計算書とはキャッシュ フロー計算書とは 一会計期間におけるキャッシュ フローの状況を一定の活動区分別に表示した計算書です 貸借対照表 損益計算書に続く第 3 の財務諸表という位置付けで 2000 年 3 月期から開示が義務付けられています キャッシュ フローとは 企業活動によって実際に得られた収入から外部への支払いを差し引いて手元に残る資金の流れをいいます 言い換えれば キャッシュ フロー計算書は 一会計期間の企業活動により 資金がどのように生み出され 何に使われたか どのような資金調達がなされ どのような投資がなされたのかということを示す財務諸表です 2. キャッシュ フロー計算書の必要性キャッシュ フロー計算書が貸借対照表 損益計算書とならぶ第 3 の財務諸表として必要とされたのは 損益計算書が 会計期間の経営成績を明らかにするため発生主義で作成されるものであり 利益の計上が必ずしも資金の増加につながらないからです つまり 損益計算書に計上された利益に資金的な裏付けがない場合 損益は黒字を確保していても資金ショートを起こし倒産することになります いわゆる黒字倒産です 例えば 損益計算書では 商品を販売したときに代金の入金がなくても 企業間信用 ( 売掛金の計上 ) により 売上高を認識することが可能です 仮に この売上の回収資金を当てに設備投資を行ったにもかかわらず 売掛金が回収されないと資金ショートとなりますが 損益計算書では資金が不足しているという情報までは読み取れません 一方 キャッシュ フロー計算書では 資金の増加としてのキャッシュ イン フローと資金の減少としてのキャッシュ アウト フローが表示されるため 過去の一定期間の資金収支の状況が明らかになります 資金ショートの兆候は 営業キャッシュ フローがマイナスになることから読み取れます また キャッシュ フロー計算書は 損益計算書と異なり 選択した会計処理の方法の影響が キャッシュ フローには及びません キャッシュ フロー計算書 I. 営業活動によるキャッシュ フロー (1) 直接法営業収入 原材料又は商品の仕入支出 1
人件費支出 その他の営業支出 小計 利息及び配当金の受取額 利息の支払額 損害賠償金の支払額 法人税等の支払額 営業活動によるキャッシュ フロー (2) 間接法 税引前当期純利益 減価償却費 受取利息及び受取配当金 支払利息 損害賠償損失 売上債権の増加額 たな卸資産の減少額 仕入債務の減少額 小計 利息及び配当金の受取額 利息の支払額 損害賠償金の支払額 法人税等の支払額 営業活動によるキャッシュ フロー II. 投資活動によるキャッシュ フロー 有形固定資産の取得による支払 投資有価証券の取得による支払 2
貸付金の回収による収入 投資活動によるキャッシュ フロー III. 財務活動によるキャッシュ フロー 長期借入による収入 社債の発行による収入 配当金の支払額 財務活動によるキャッシュ フロー IV. 現金及び現金同等物に係る換算差額 V. 現金及び現金同等物の増加額 VI. 現金及び現金同等物の期首残高 VII. 現金及び現金同等物の期末残高 3
キャッシュ フロー計算書 第 2 回 : キャッシュ フロー計算書の構造 2010.09.08 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 3. キャッシュ フロー計算書の構造 (1) キャッシュ フロー計算書の区分と読み方キャッシュ フロー計算書は キャッシュ フローを業務の性格によって 営業活動 投資活動 財務活動の三つに分けて作成します 1 営業活動によるキャッシュ フロー 営業活動によるキャッシュ フロー の区分には 商品の販売による収入や商品の仕入による支出など営業損益計算の対象となった取引のほか 投資活動および財務活動以外の取引によるキャッシュ フローを記載します 2 投資活動によるキャッシュ フロー 投資活動によるキャッシュ フロー の区分には 固定資産の取得および売却 現金同等物に含まれない短期投資の取得および売却等によるキャッシュ フローを記載します 有形固定資産および無形固定資産の取得による支出 有形固定資産および無形固定資産の売却による収入 有価証券 ( 現金同等物を除く ) および投資有価証券の取得による支出 有価証券 ( 現金同等物を除く ) および投資有価証券の売却による収入 貸付けによる支出 貸付金の回収による収入 3 財務活動によるキャッシュ フロー 財務活動によるキャッシュ フロー には 資金の調達および返済によるキャッシュ フローを記載します 株式の発行による収入 4
自己株式の取得による支出 配当金の支払 社債の発行および借り入れによる収入 社債の償還および借入金の返済による支出 (2) 営業 投資 財務の各キャッシュ フロー相互の関連営業活動によるキャッシュ フローは 営業能力を維持し 新規投資を行い 借入金を返済し 配当を支払うためにどの程度の資金を営業活動から獲得したかを示す重要な指標です 企業は 本業で獲得した資金を設備投資などの投資活動に振り向け事業を拡大させるわけですから 営業活動 投資活動 財務活動の各キャッシュ フローは互いに関連しています 4. 作成時期と作成方法キャッシュ フロー計算書は 連結ベースで作成します 連結財務諸表を作成 開示する会社は 個別ベースのキャッシュ フロー計算書は作成を省略できますが 連結財務諸表を作成 開示しない会社は 個別ベースのキャッシュ フロー計算書を作成します また 四半期財務報告制度においては 四半期ごとに期首から累計期間の四半期連結キャッシュ フロー計算書の作成が義務付けられます 連結キャッシュ フロー計算書の作成方法には 1 各連結会社の キャッシュ フロー計算書 を合算して必要な連結消去を行う方法 ( 原則法 ) と 2 簡便的に 連結損益計算書ならびに連結貸借対照表の期首残高と期末残高の増減額の分析およびその他の情報から作成する方法 ( 簡便法 ) の 2 通りがあります いずれの場合も 最終的に出来上がるキャッシュ フロー計算書は同じですが 1の場合は 各連結会社の キャッシュ フロー計算書 を合算した上で 連結会社間のキャッシュ フロー取引を消去しなければなりません このため 実務上は 2の簡便法を用いる企業が多いようです また 営業活動によるキャッシュ フローの表示方法には 主要取引ごとに総額表示する直接法と 税金等調整前当期純利益をベースに非資金損益項目その他を調整する間接法の 2 通りがあります 1 直接法営業収入 原材料または商品の仕入支出 人件費支出 その他の営業支出という主要な取引ごとに総額で表示します 主要な取引ごとに資金の入りと出を表示しますのでキャッシュ フローの状況が分かりやすいという長所がある反面 この方法は作成するのに大変手間がかかるという難点があります 2 間接法 損益計算書の税引前当期純利益をベースに減価償却費など非資金損益項目や営業活動に直接 5
結びつく売掛金 買掛金などの資産 負債の増減額のほか その他の調整をして営業活動によるキャッシュ フローを作成します 間接法は損益計算書の税引前当期純利益をベースに非資金損益項目や貸借対照表の資産 負債の増減額などをプラス マイナスして資金の流れを間接的に表示するため 直接法のように資金の実際の流れに即しておらず 分かりづらいという難点がありますが 損益計算書と貸借対照表から容易に作成できるという大きな長所があります そのほか利益とキャッシュ フローの結び付きを明らかにできるという直接法にない利点があります 直接法と間接法では おおむねほとんどの上場企業が間接法により開示しており 直接法は少数派です 間接法が主流を占めている理由には 間接法の方が 損益計算書および貸借対照表との関連が明確となることと 財務諸表項目からの作成が容易であることなどが考えられます 6
キャッシュ フロー計算書 第 3 回 : 資金の範囲と注記 2010.09.15 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 5. キャッシュ フロー計算書の資金の範囲についてキャッシュ フロー計算書では 対象とする資金の範囲を現金 ( 手許現金および要求払い預金 ) および現金同等物とされます 資金の範囲は 毎期継続して適用し みだりに変更してはなりません 資金の範囲を変更した場合には 会計処理の原則および手続きの変更に当たり その旨 その理由および影響額を記載しなければなりません 1 現金現金とは 手許現金および要求払預金をいいます 要求払預金には 例えば 当座預金 普通預金 通知預金等の 預金者が事前の通知なしまたは数日前の通知で払い戻し請求ができる期限の定めのない預金をいいます ( 同作成基準注解 ( 注 1)) 2 現金同等物現金同等物とは a) 容易に換金可能であり かつ b) 価値の変動について僅少 ( きんしょう ) なリスクしか負わない短期投資をいいます 現金同等物には 例えば 取得日から満期日または償還日までの期間が 3 カ月以内の短期投資である定期預金 譲渡性預金 コマーシャル ペーパー 売戻し条件付現先 公社債投資信託が含まれます ( 同作成基準注解 ( 注 2)) 現金同等物は 上記の a) および b) の両条件を満たす必要があり 市場性のある株式のように a) 換金が容易であっても b) 価値変動リスクが僅少 とはいえないものについては 現金同等物には含まれません また 担保に提供されている定期預金や 引き出しが制限されているような預金などは 取得日から満期日または償還日までの期間が 3 カ月であっても 実質的に a) 換金が容易と考えられず 現金同等物には含められません 現金の例示 1 手許現金 2 要求払い預金普通預金 通知預金 当座預金 現金同等物の例示 定期預金 譲渡性預金 コマーシャル ペーパー 現先 公社債投資信託 7
要求払い預金 : 預入期間の定めがない普通預金 通知預金および当座預金 定期預金は預入期間の定めがありますから 要求払い預金には該当しません 現金同等物 : 価格の変動がわずかで 元本がほぼ保証される短期的な投資 短期投資 : 取得した日から満期日または償還までが 3 カ月以内のものに限定 譲渡性預金 : 銀行が発行する無記名の預金証書 コマーシャル ペーパー : 会社が短期の資金調達のために発行する手形 6 カ月定期預金など預入期間が 3 カ月を超えるものや 株式などの価格変動リスクのあるものは該当しません また 6 カ月定期預金が 3 カ月以上経過し 満期日が 3 カ月以内になっても当初の設定期間が 3 カ月を超える定期預金は現金同等物には該当しません 6. 注記事項キャッシュ フロー計算書の注記事項は 以下のとおりです 資金の範囲に含めた現金および現金同等物の内容ならびにその期末残高の連結貸借対照表科目別の内訳現金同等物として具体的に何を含めるかについては 各企業の資金管理活動により異なると考えられており 経営者の判断に委ねられることになっています このため 資金の範囲に含めた現金および現金同等物の内容について 会計方針に記載することが求められています また 貸借対照表上の現金および預金 有価証券勘定とキャッシュ フロー計算書上の現金同等物は 必ずしも一致しないことから 連結キャッシュ フロー計算書の注記において 両者の関連性を明確にすることになっています 資金の範囲を変更した場合には その旨 その理由および影響額 株式の取得または売却により新たに連結子会社となった会社の資産 負債または連結子会 8
社でなくなった会社の資産 負債に重要性がある場合には 当該資産 負債の主な内訳連結の範囲の変動を伴う子会社株式の取得または売却に係るキャッシュ フローは 投資活動によるキャッシュ フロー の区分に独立の項目として記載します 子会社株式の取得 ( 売却 ) にかかるキャッシュ フローは 株式の取得による支出額から連結子会社になった会社の現金および現金同等物を差し引いて算定します 注記において 株式の取得により新たに連結子会社となった会社の資産および負債の内訳と その取得のための支出との関係を記載します なお 非連結子会社の重要性が増したため 新規に連結することとした場合 新規連結会社の現金および現金同等物は 投資活動によるキャッシュ フロー ではなく 新規連結子会社の現金及び現金同等物の期首残高 などとして記載します 営業の譲受または譲渡により増減した資産 負債に重要性がある場合には 当該資産 負債の主な内訳営業譲受 ( 譲渡 ) に係るキャッシュ フローも 投資活動によるキャッシュ フロー の区分に独立の項目として記載します 重要な非資金取引以下は 重要な非資金取引の例示です 1. 転換社債の転換 2. ファイナンス リースによる資産の取得 3. 株式の発行による資産の取得または合併 4. 現物出資による株式の取得または資産の交換 各表示区分の記載内容を変更した場合には その内容 9