主な物質 : セレン 亜セレン酸 亜セレン酸ナトリウム セレン化水素 六フッ化セレン 二硫化セレン セレン PRTR 政令番号 :1-242 ( 旧政令番号 :1-178) CAS 番号 :7782-49-2 組成式 : 亜セレン酸 PRTR 政令番号 :1-242 ( 旧政令番号 :1-178) CAS 番号 :7783-00-8 組成式 : 亜セレン酸ナトリウム PRTR 政令番号 :1-242 ( 旧政令番号 :1-178) CAS 番号 :10102-18-8 組成式 : セレン化水素 PRTR 政令番号 :1-242 ( 旧政令番号 :1-178) CAS 番号 :7783-07-5 組成式 : 六フッ化セレン PRTR 政令番号 :1-242 ( 旧政令番号 :1-178) CAS 番号 :7783-79-1 組成式 : 二硫化セレン PRTR 政令番号 :1-242 ( 旧政令番号 :1-178) CAS 番号 :7488-56-4 組成式 : セレンは コピー機の感光ドラム 整流器 ガラスの着色剤 消色剤などに使われています セレンの化合物には多くの種類があり 試薬 顔料 ガラスの着色剤 消色剤や電気絶縁体などに使われています 2010 年度の PRTR データでは 環境中への排出量は約 23 トンでした すべてが事業所から排出されたもので 事業所内で埋立処分されたほか 河川や海などへ排出されたり 大気中へ排出されました 用途セレンは 常温で赤褐色から暗灰色の固体です わが国では セレンは銅精錬やコピー機感光ドラムのスクラップ精錬に伴って生産され その生産量は世界の約 25% にのぼり 最大の生産国になっています セレンは光を受けると電気を流す性質があるため コピー機の感光ドラムや太陽電池に使われています また ガラスや陶磁器などの赤 ピンク 橙黄色の着色剤や顔料 ガラスに含まれる不純物の色を吸収する消色剤 合金の添加剤として用いられるほか セレンが欠乏している地域の土壌改良剤にも使われています セレンの化合物には 亜セレン酸 亜セレン酸ナトリウムやセレン化水素など 多くの種類があります 亜セレン酸は 常温で無色または白色の固体です 試薬 酸化剤や顔料などに使われています 亜セレン酸ナトリウムは 常温で白色の固体で 吸湿性があります ガラスの着色剤や消色剤 682
顔料 軽金属のメッキ処理剤や動物用飼料などに使われています セレン化水素は 常温で無色の気体で ニンニク臭があります 半導体を製造する工程で使われています 六フッ化セレンも 常温で無色の気体です 電気絶縁体や半導体に使われています 二硫化セレンは 常温で赤黄色の固体です ふけ取りシャンプーの原料や動物用医薬品などに使われています 排出 移動 2010 年度の PRTR データによれば わが国では 1 年間に約 23 トンが環境中へ排出されたと見積もられています すべてが非鉄金属製造業や下水道などの事業所から排出されたもので 事業所内において埋立処分されたほか 河川や海などへ排出されたり 大気中へ排出されました この他 電気機械器具製造業や鉄鋼業などの事業所から廃棄物として約 8.8 トン 下水道へ約 0.001 トンが移動されました 環境中での動きセレンは地殻の表層部には重量比で 0.00001% 程度存在し クラーク数で 70 番目に多い元素です セレン及びその化合物の環境中への排出は 人為的な排出のほか セレンを含む岩石の風化による土壌への浸出や火山の噴火など 天然由来によるものが考えられます 1 ) セレンが大気中へ排出された場合 大部分は粉じんの沈降や降雨などによって地表へ降下すると考えられます 1 ) また セレン化水素が大気中へ排出された場合 化学反応によって 3~6 時間でセレン化水素としては半分の濃度になると推定されています 1 ) 土壌中でのセレンの動きについては ph と土層の酸化還元状態が重要な要素とされています 1 ) セレンの植物への吸収性についても 土壌の型や ph に影響されると考えられています 1 ) 一般的には セレン濃度が高い土壌は乾燥地域 低い土壌は湿潤地域に分布するとされています 1 ) 健康影響毒性セレンは人にとって必須元素とされ 過酸化水素や遊離過酸化物を還元する酵素を構成する物質です 1 ) セレンの欠乏が原因と疑われる疾患として中国東北部の克山病( 心筋障害の一種 ) があげられています 1 ) また 家畜の筋ジストロフィーや成長阻害に対して セレンを与えることで予防できた事例も報告されています 2 ) 一方 過剰なセレンの摂取は 人や家畜の健康に影響を与えます このため セレンの食事摂取基準は 例えば30~49 歳の場合 推奨量が男性で1 日当たり0.03 mg 女性で0.025 mg 耐容上限量( 健康障害をもたらす危険がないとみなされる習慣的な摂取量の上限 ) が男性で1 日当たり0.3 mg 女性で0.23 mgとされています 3 ) また 0.24 mg( 体重 1 kg 当たり 1 日 0.004 mg に相当 ) のセレンを食物から摂取した場合 人に毒性は認められませんでした 4 ) この報告から NOAEL( 無毒性量 ) を体重 1 kg 当たり 1 日 0.004 mg 以下と推定し これに基づいて水道水質基準や水質環境基準が設定されています 4)5) なお ラットに体重 1 kg 当たり1 日 15 mgの硫化セレンを103 週間 口から与えた実験で 肝細胞がんの増加が報告されています 1 ) 国際がん研究機関(IARC) はセレン及びその化合物をグループ3( 人に対する発がん性については分類できない ) に分類しています 683
また 作業環境においてはセレンを吸い込むことによって 眼や呼吸器への刺激などが認められています 1 ) 体内への吸収と排出人がセレンを体内に取り込む可能性があるのは 食物や飲み水 呼吸によると考えられます 体内に取り込まれた場合は 肝臓や腎臓をはじめ全身に分布し 代謝物に変化し 主に尿に含まれて排せつされます 1 ) 影響日本人のセレン摂取量は平均で 1 日約 0.1 mg といわれています 6 ) また 水道水からは水道水質基準を超える濃度のセレンは検出されていません 最近の測定では 河川や地下水からも 環境基準を超える濃度のセレンは検出されていません 汚染された水を長期間飲用するような場合を除いて 飲み水などを通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます また セレンは大気中から検出されていますが 呼吸によって取り込んだ場合の人の健康への影響を評価できる情報も現在のところ報告されていません 生態影響セレン及びその化合物は 亜セレン酸ナトリウムによる魚類に対する有害性からも PRTR 制度の対象物質に選定されていますが 現在のところ わが国では水生生物に対する信頼できる PNEC ( 予測無影響濃度 ) は算定されていません なお ( 独 ) 製品評価技術基盤機構及び ( 財 ) 化学物質評価研究機構の 化学物質の初期リスク評価書 では ミジンコの死亡を指標として 河川水中濃度の実測値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており 現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことが示唆されるとして セレンを詳細な調査や評価などを行う必要がある候補物質としています 1) 性状生産量 7) (2010 年 ) セレン : 赤褐色から暗灰色の固体亜セレン酸 : 無色または白色の固体亜セレン酸ナトリウム : 白色の固体セレン化水素 : 無色の気体六フッ化セレン : 無色の気体二硫化セレン : 赤黄色の固体 セレン 国内生産量 : 約 750 トン ( 金属セレン ) 輸入量 : 約 8.2 トン輸出量 : 約 660 トン 亜セレン酸ナトリウム 国内生産量 : 約 1 トン輸出量 : 約 0.7 トン 二硫化セレン 国内生産量 : 約 0.05 トン 684
排出 移動量 (2010 年度 PRTR データ ) 環境排出量 : 約 23 トン 排出源の内訳 [ 推計値 ](%) 排出先の内訳 [ 推計値 ](%) 事業所 ( 届出 ) 84 大気 17 事業所 ( 届出外 ) 16 公共用水域 24 非対象業種 - 土壌 - 移動体 - 埋立 59 家庭 - ( 届出以外の排出量も含む ) 事業所 ( 届出 ) における排出量 : 約 19 トン事業所 ( 届出 ) における移動量 : 約 8.8 トン 業種別構成比 ( 上位 5 業種 %) 非鉄金属製造業 83 下水道業 11 窯業 土石製品製造業 3 産業廃棄物処分業 ( 特別管理産業廃棄物処分業を含む ) 2 鉄鋼業 1 移動先の内訳 (%) 廃棄物への移動 100 下水道への移動 0 業種別構成比 ( 上位 5 業種 %) 電気機械器具製造業 38 鉄鋼業 23 非鉄金属製造業 17 一般機械器具製造業 15 化学工業 7 PRTR 対象選定理由 環境データ 発がん性, 経口慢性毒性, 作業環境許容濃度, 生態毒性 ( 亜セレン酸ナトリウム : 魚類 ) 大気 有害大気汚染物質モニタリング調査( 一般環境大気 ); 測定地点数 1 地点, 検体数 12 検体, 最小濃度 0.00000019 mg/m 3, 最大濃度 0.0000021 mg/m 3 ;[2009 年度, 環境省 ] 8) 水道水 原水 浄水水質試験: 水道水質基準超過数 ; 原水 0/5210 地点, 浄水 0/5368 地点 ; [2009 年度, 日本水道協会 ] 9)10) 公共用水域 公共用水域水質測定( セレンとして測定 ): 環境基準超過数 0/3482 地点 ;[2010 年度, 環境省 ] 11) 地下水 地下水質測定( セレンとして測定 ): 環境基準超過数 ; 概況調査 0/2965 本, 汚染井戸周辺地区調査 0/21 本, 継続監視調査 0/81 本 ;[2009 年度, 環境省 ] 12) 土壌 土壌汚染調査: 環境基準超過数 (1991~2009 年度累積 )162 事例 /10251 調査事例 ; [2009 年度, 環境省 ] 13) 685
生物 ( 鳥 ) 化学物質環境実態調査( セレンとして測定 ): 検出数 8/8 検体, 最大濃度 0.69 mg/kg; [1980 年度, 環境省 ] 14) 生物 ( 貝 ) 化学物質環境実態調査( セレンとして測定 ): 検出数 15/15 検体, 最大濃度 0.56 mg/kg;[1979 年度, 環境省 ] 14) 生物 ( 魚 ) 化学物質環境実態調査( セレンとして測定 ): 検出数 40/40 検体, 最大濃度 1.58 mg/kg; [1979 年度, 環境省 ] 14) 適用法令等 大気汚染防止法: 特定物質 ( 二酸化セレン ) 水道法: 水道水質基準値 0.01 mg/l 以下 水質環境基準( 健康項目 ):0.01 mg/l 以下 地下水環境基準:0.01 mg/l 以下 水質汚濁防止法: 有害物質, 排水基準 0.1 mg/l 以下 ( セレン及びその化合物 ) 土壌環境基準:0.01 mg/l 以下 土壌汚染対策法: 特定有害物質, 土壌溶出量基準 0.01 mg/l 以下, 土壌含有量基準 150 mg/kg 以下 廃棄物処理法: 特定有害産業廃棄物, 金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準 ( 汚泥 )0.3 mg/l 以下 日本産業衛生学会勧告: 作業環境許容濃度 0.1 mg/m 3 ( セレン化水素 六フッ化セレンを除く ) 注 ) 排出 移動量の項目中 - は排出量がないこと 0 は排出量はあるが少ないことを表しています 引用 参考文献 1)( 独 ) 製品評価技術基盤機構 ( 財 ) 化学物質評価研究機構 化学物質の初期リスク評価書 Ver.1.0 (( 独 ) 新エネルギー 産業技術総合開発機構委託事業 2008 年公表 ) http://www.safe.nite.go.jp/risk/files/pdf_hyoukasyo/178riskdoc.pdf 2)( 財 ) 日本食品分析センター JFRL ニュース セレン (Se) の話 http://www.jfrl.or.jp/jfrlnews/mineral/no27.html 3) 厚生労働省 日本人の食事摂取基準 (2010 年版 ) http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/s0529-4.html 4) 厚生労働省 水質基準値案の根拠資料について ( 参考 ) セレン http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/konkyo.html 5) 環境省 環境基準項目等の設定根拠等 http://www.env.go.jp/council/09water/y095-05/mat05.pdf 6) 厚生労働省 日本人の食事摂取基準 (2010 年版 ): セレン http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4am.pdf 7) 化学工業日報社 16112 の化学商品 (2012 年 1 月発行 ) 8) 環境省 平成 21 年度大気汚染状況について ( 有害大気汚染物質モニタリング調査結果 )( 資料編 ) その他の物質 http://www.env.go.jp/air/osen/monitoring/mon_h21/data.html 9)( 社 ) 日本水道協会 水道水質データベース 平成 21 年 (2009 年 ) 水質分布表 原水 686
http://www.jwwa.or.jp/mizu/pdf/2009-b-01gen-02avg.pdf 10)( 社 ) 日本水道協会 水道水質データベース 平成 21 年 (2009 年 ) 水質分布表 浄水 ( 給水栓水等 ) http://www.jwwa.or.jp/mizu/pdf/2009-b-04jyo-02avg.pdf 11) 環境省 平成 22 年度公共用水域水質測定結果 ( 表 2) セレン http://www.env.go.jp/water/suiiki/h22/full.pdf 12) 環境省 平成 21 年度地下水質測定結果 ( 表 2 3 4) 11) 環境省 平成 21 年度地下水質測定結果 ( 表 2 3 4) http://www.env.go.jp/water/report/h22-01/01.pdf 13) 環境省 平成 21 年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査 対策事例等に関する調査結果の 概要 Ⅱ. 調査結果 ;(1) 年度別の土壌汚染調査 対策事例数 ; (2) 物質別の超過事例数 http://www.env.go.jp/water/report/h22-02/02.pdf 14) 環境省 平成 22 年度版 (2010 年度版 ) 化学物質と環境 ( 化学物質環境実態調査 ) 化学物質環境調 査結果概要一覧表 http://www.env.go.jp/chemi/kurohon/2010/shosai/4_2.xls 用途に関する参考文献 ( 独 ) 製品評価技術基盤機構 ( 財 ) 化学物質評価研究機構 化学物質の初期リスク評価書 Ver.1.0 (( 独 ) 新エネルギー 産業技術総合開発機構委託事業 2008 年公表 ) http://www.safe.nite.go.jp/risk/files/pdf_hyoukasyo/178riskdoc.pdf ( 財 ) 化学物質評価研究機構 化学物質安全性 ( ハザード ) 評価シート 亜セレン酸 http://qsar.cerij.or.jp/sheet/f2001_39_2.pdf ( 独 ) 石油天然ガス 金属鉱物資源機構 鉱物資源マテリアルフロー セレン http://www.jogmec.go.jp/mric_web/jouhou/material/2004/se.pdf 化学工業日報社 16112 の化学商品 ( 2012 年 1 月発行 ) 687