老後の年金格差とその是正 社会福祉論 ( 都市と福祉 ) 第 11 回 ( 前半 ) presented by どんどこ森 (http://harlock.web.fc2.com)
本日の講義要旨 雇用形態による待遇格差は 現役労働者の期間だけでなく 老後の生活にも格差をもたらします この理由は 非正規雇用者の所得水準が低いことだけではなく そもそもわが国の公的年金制度が職種毎に分立して構築されているからです このために年金制度の一元化が叫ばれ 実際 徐々に進めれてきましたが 問題の本質は生活保護制度と基礎年金 ( 最低生活水準を保障することを目的とした年金 ) との整合性がうまく取れていないことにあるようです
年金給付の種類 表 6-4 に示したように公的年金制度は 主に三種類の目的の給付を行っています (p150 下から 5 行目 ) 表 6-4. 年金の給付原因別の種類 種類 説 明 老齢年金 加齢による稼得の喪失または減少に備えた年金保険であり 一定の年齢に達すると受給資格を得る 障害年金 病気やケガが原因で一定の障害状態になり 稼得が喪失または減少する場合に備えた年金保険である 世帯にあって年金保険の被保険者または受給者として 遺族年金 生計を維持する者が死亡し 残された遺族が生活に困窮 する場合に備えた保険給付である
老齢年金はなぜ必要か 人のライフサイクルを考えるとき大多数の人は学校教育終了後直ちに就職し 60 歳ないしは 65 歳で定年退職します (p151 7 行目 ) 平均寿命は男性が概ね 80 歳 女性が 86 歳です (p151 8 行目 ) 仮に 22 歳から働き始めて 65 歳で定年退職を迎えるとしても就労期間は 40 年以上にも及び その後に男性は 15 年 女性は 20 年の退職期間 ( いわゆる老後 ) が存在することになります
年金保険の運営原理 年金保険の運営原理は大きく分けて二つあります 積立方式と賦課方式です (p152 年金保険の運営原理 の下 1 行目 ) このうち公的年金制度は主に賦課方式を採用し 民間の年金保険の場合には原理的に積立方式しか採用できません 積立方式では 集められた年金保険料は株式市場や債券市場 場合によっては証券化された不動産投資などによって基金で運用し 配当金や利子収入など運用収益を得ながら回収します (p152 年金保険の運営原理 の下 7 行目 )
年金保険の運営原理 2 賦課方式の運営では 集められた年金保険料は基金で運用されずに その時点で退職期にある人々に年金給付してしまいます (p152 下から 7 行目 ) 稼得期にある労働者から見れば 自分たちが支払った年金保険料は前世代への所得移転として使われてしまい残りませんが 自分たちが退職期に入れば その時点で稼得期にある労働者から同様な所得移転を受けることができますので 結果的に積立方式の年金運営と同様の年金給付を受けることができる
年金保険の運営原理 3 賦課方式の運営を積立方式と比較すると 1 賦課方式の年金運営の方が 運用リスクが小さい 2 急な制度の変更 ( 例えば給付額の引き上げ ) にも対応しやすい 3 物価変動の影響を受けにくい 4 経済成長によって現役労働者の稼得水準が高まると その果実を年金給付額に反映させることも容易 (p153 1 行目 ) などの特徴があります
年金保険の運営原理 4 他方 賦課方式の欠点としては 1 他世代との所得移転 すなわち世代間扶養の原理であるために世代間の人口変動の影響を受けやすい 2 次世代の労働者が必ず年金制度に加入する必要があり 強制加入が可能な公的年金制度のみが採用できる (p153 6 行目 ) などが挙げられます
国民皆年金 わが国は昭和 36(1961) 年以来 国民全員が公的年金制度に加入する権利と義務をもつ国民皆年金体制と呼ばれる制度が構築されています (p153 下から 3 行目 ) 国民皆年金は 労働者の職種ごとに異なる年金制度を用意し それらを組み合わせることによって実現されました (p153 下から 2 行目 )
国民年金 国民年金は職業の有無や職種に関係なく日本に在住する 20 歳以上の者 ( 日本に長期間滞在する外国人を含む ) を対象とした年金保険です (p154 下から 4 行目 ) 被保険者期間は 20 歳から 60 歳までの 40 年間が強制適用期間で 60 歳から 65 歳 ( 平成 29 年 8 月からは資格期間が 10 年未満の者は 70 歳 ) までが任意加入期間です (p154 下から 2 行目 )
国民年金 2 国民年金の被保険者には 第 1 号被保険者 第 2 号被保険者 および第 3 号被保険者の三種類の区分があります (p155 1 行目 ) 第 1 号被保険者とは 第 2 号被保険者でも第 3 号被保険者でもない適用者がすべて含まれます 第 2 号被保険者とは 厚生年金保険や共済年金などに加入する被用者です 故に彼らは被用者年金と国民年金の 2 つの制度に加入することになります 第 3 号被保険者は 第 2 号被保険者の被扶養配偶者が対象になります これはいわゆるサラリーマンの専業主婦 ( 夫 ) ですが 年間収入が 130 万円以上あり 健康保険の扶養となれない者は第 1 号被保険者となります
国民年金 3 国民年金の保険料の納付形態は被保険者区分ごとに異なります (p155 10 行目 ) 第 1 号被保険者は定額保険料を徴収されます 平成 24(2012) 年度は一人月額 14,980 円でした (p155 10 行目 ) 第 2 号被保険者と第 3 号被保険者の保険料は第 2 号被保険が加入する被用者年金制度からまとめて国民年金制度に支払われますので 別途保険料を納付する必要はありません (p155 12 行目 )
国民年金 4 国民年金の給付には基礎年金導入以前から続くものを含めて多くの種類がありますが ここでは主要な年金給付だけを説明します (p155 下から 10 行目 ) 表 6-5 には老齢基礎年金 障害基礎年金 遺族基礎年金の三つの給付を掲載しています (p155 下から 9 行目 )
国民年金 5 老齢基礎年金は 適用対象者が第 1 号被保険者 第 2 号被保険者 あるいは第 3 号被保険者のいずれかの区分で保険料を 25 年間 ( 平成 29 年 8 月からは 10 年間 ) 以上拠出すると受給資格が発生し 原則 65 歳から支給されます (p155 下から 7 行目 ) ただし 被保険者が失業などのために保険料の免除期間があれば その間はカラ期間として受給資格期間に数えられます
国民年金 6 老齢基礎年金の給付額は 表 6-5 に示したように 40 年間の保険料納付を満額とした定額単価額が支給されます (p155 下から 2 行目 ) 保険料納付済期間が 40 年間を下回れば減額され カラ期間も減額対象となります (p155 下から 1 行目 ) 老齢基礎年金は支給開始年齢を 60 歳から 70 歳の範囲内で繰り上げたり 繰り下げたりすることが可能です (p156 2 行目 )
国民年金 7 障害基礎年金は 障害認定された翌月からそれまでの加入期間の長さと関係なく 被保険者に老齢基礎年金満額分の 1.25 倍 (1 級 ) または 1 倍 (2 級 ) を支給します (p157 6 行目 ) 国民年金の遺族基礎年金は 被保険者や老齢基礎年金の受給権者等が死亡したとき その者によって生計を維持されていた 1) 子 (18 歳未満 障害のある子の場合には 20 歳未満 ) のある妻 および 2) 子どもを対象に支給されます (p157 厚生年金保険 の上 5 行目 )
厚生年金保険 厚生年金保険は民間企業の被用者を対象とした報酬比例型の年金保険です (p157 厚生年金保険 の下 1 行目 ) 厚生年金保険の適用は事業所に対してなされます 故に 適用事業所に常時使用される 70 歳未満の者は国籍や性別 年金の受給の有無にかかわらず 一部の者を除いてすべて厚生年金保険の被保険者となります (p157 下から 7 行目 )
厚生年金保険 2 適用事業所の従業員で被保険者とならないのは (p158 4 行目 ) 1 日の所定労働時間数や 1 ヶ月の勤務日数が正規社員 正規職員の四分の三に満たない者 日雇労働者 (1 ヶ月以内 ) や季節的労働者 (4 ヶ月以内 ) 臨時的な事業 (6 ヶ月以内 ) 部門に雇用される労働者などがあります
厚生年金保険 3 厚生年金保険の保険料は 標準報酬額と呼ばれる労働者の所得額に一定割合を乗じた額を労使折半負担で拠出します (p158 8 行目 ) 標準報酬額には標準報酬月額と標準賞与額とがあり 前者は年 4 回以上支給される基本給や残業手当など月々の給料額を指し 後者は年 3 回以内しか支給されない賞与額を指し いわゆるボーナスや見舞金 報奨金などがこれに当たります (p158 9 行目 )
厚生年金保険 4 結果的に 厚生年金保険の保険料は 標準報酬月額と標準賞与額の両方から拠出されるので 年俸に対して課金される総報酬制を敷いていることになります (p158 14 行目 ) なお平成 24(2012) 年度における保険料率は千分の 167.66 でした (p158 下から 11 行目 )
厚生年金保険 5 厚生年金保険の給付も非常に多くの種類があります (p158 下から 10 行目 ) 表 6-6 には 老齢厚生年金 障害厚生年金 および遺族基礎年金の三つが示してあります (p156 下から 6 行目 ) 老齢厚生年金は 厚生年金保険の被保険者期間が 1 ヶ月以上ある者で 老齢基礎年金の受給資格のある者が 65 歳になったときに 老齢基礎年金に上乗せして給付されます (p156 下から 5 行目 )
厚生年金保険 6 給付額は表 6-6 にある複数ある算式にもとづいて計算されますが 大雑把に言って被保険者期間中の平均標準報酬額と被保険者期間の長さに比例して決定されます (p158 下から 3 行目 ) ここで標準報酬額とは標準報酬月額に標準賞与額の十二分の一を加えた額で 平均標準報酬額とはその生涯を通じた平均額で 過去の標準報酬額の記録を所得スライドした上で算定されます
厚生年金保険 7 障害厚生年金は 厚生年金保険の被保険者期間中に障害の原因となる傷病を発症し 障害認定された場合にその翌月から支給されます (p160 10 行目 ) 遺族厚生年金は 被保険者や老齢厚生年金 障害厚生年金の受給権者等が死亡したとき その者によって生計を維持されていた遺族に支給されます (p160 下から 9 行目 )