事業事前評価表 ( 技術協力プロジェクト ) 1. 案件名 メキシコストリートチルドレン ( 少女 ) の社会復帰支援 Project of Rehabilitation for Female Street-Children 2. 協力概要 (1) プロジェクト目標とアウトプットを中心とした概要の記述 作成日 : 平成 16 年 11 月 12 日担当部 : 人間開発部第二グループ社会保障チーム 本プロジェクトはメキシコ市において路上生活を営む子供の保護 家族との再会支援 社会的自立に向けた教育支援を行う当国 NGO カサ アリアンサを実施機関として カサ アリアンサで保護された少女 ( 近年では半数以上が何らかの薬物に依存している ) が心身の回復と能力の開発を通じて社会的に復帰できるようになることを目標としている その目標達成のために 1) 薬物依存症からの脱却 2) 暴力的行為の削減 3) 路上生活に逆戻りしない生活能力の習得 4) 学校への復帰 5) 職業訓練を通じた社会参加能力の習得に対する支援を実施する (2) 協力期間 2004 年 11 月 ~2007 年 10 月 (3 年間 ) (3) 協力総額 ( 日本側 ) 74,740 千円 (4) 協力相手先機関 監督責任機関 : メキシコ国外務省技術科学協力局 実施機関 : カサ アリアンサ (Casa Alianza, I.A.P.)( 現地 NGO) なお 本プロジェクトのモニタリングは メキシコ事務所 ( 担当所員及びナショナルスタッフ ) がカサ アリアンサのプロジェクトマネージャーとともに行うが 本件実施および評価の際の最終責任はメキシコ国外務省にあることでメキシコ側と合意済み (5) 国内協力機関 なし (6) 裨益対象者及び規模 等 カサ アリアンサに保護されるメキシコ市で路上生活を営む 17 歳までの少女 ( 年間平均 160 名程度 ) 3. 協力の必要性 位置付け (1) 現状及び問題点 メキシコ国は 2002 年度国民総生産 (GDP) が世界第 9 位に上昇 国民 1 人あたりの GDP も 6,117 米ドルに達し 世銀融資ガイドライン上 中進国 に分類されているが 国民半数以上が貧困層であり貧富の格差は依然として大きい 貧困者数は総じて南部諸州が高いが 近年地方農村部からの貧困者層の都市部への流入により 首都メキシコ市を中心に貧困者層が増加傾向にある ストリートチルドレンに関する公的統計データは存在しないが 2002 年メキシコ中央紙レフォルマの記事によると メキシコ連邦区には 2 万人もの幼児及び青少年が路上生活
を余儀なくされている発表されている このような状況下 当国 NGO カサ アリアンサは 1988 年の設立以来 メキシコ市において路上生活を営む子供の保護 心身のケア 家族との再会支援 社会的自立に向けた教育支援に取り組んできた JICA は 2000 年 12 月から 3 年間 カサ アリアンサを実施機関として開発福祉支援事業 ストリートチルドレンの性の教育 を実施し カサ アリアンサの活動対象となったメキシコ市旧市街地で路上生活を営む青少年の性感染症並びに計画外妊娠の減少に貢献してきた しかしながら カサ アリアンサの報告によると メキシコ市のストリートチルドレンの数が増加するなか 少女の占める割合が 2002 年度に 40% に達するなど近年急増しており その少女達の 60% 近くが何らかの薬物を使用もしくは依存症の状態にある カサ アリアンサは現在路上生活を営む男子に対する保護 心身のケア 学校への通学 職業訓練等を支援する集団訓練プログラムを有しているが 少女達に対する包括的な集団訓練プログラムの早期実施が必要不可欠となっている カサ アリアンサは各専門知識と経験を有したスタッフのほか 医師 看護士 精神科医 顧問弁護士も抱えており すでに本プロジェクトの成果である少女の薬物依存症の脱却 暴力的行為の削減 学校への復帰に係る活動をある程度実施しており且つ上述した開発福祉支援事業 ストリートチルドレンの性の教育 を通して JICA 事業に対する理解も深い したがって 本プロジェクトでは すでに独自に実施している各活動の上に 成果の一つである職業訓練を通じた社会参加能力の習得に係る活動を加えて強化すると同時に 本プロジェクト目標達成のため JICA とカサ アリアンサ合同で運営管理を行うことで 効率的且つ効果的に路上生活から脱却し心身そして能力ともに社会的に復帰できるようになる少女の数を増やすことが可能となるであろう (2) 相手国政府国家政策上の位置付け メキシコ国家開発計画 (Plan Nacional de Desarrollo 2001-2006) における大項目 人間と社会の開発 の中で 人間の能力開発 収入向上 家族の絆の構築等を通じた 貧困の克服 並びに幼児 青少年の保護と能力開発等を通じた 社会的弱者支援 を重要政策としてあげていることから 本プロジェクトの協力分野との整合性が高いと言える (3) 我が国援助政策との関連 JICA 国別事業実施計画上の位置付け ( プログラムにおける位置付け ) 中南米地域に対する我が国の援助政策の重点は次の 5 点とされている :1) 民主化及び経済改革支援 2) 環境保全支援 3) 貧困問題の緩和支援 4) 経済 社会インフラ整備支援 5) 広域的な協力推進 本プロジェクトの協力はこれらのうち 貧困問題の緩和支援 に含まれるものであるといえる また ODA タスクフォースの議論を踏まえ現在策定中の対メキシコ国別事業実施計画では 1) 貧困削減と社会的格差の是正 2) 中小企業の育成振興 3) 環境対策と自然環境保全を重点分野としている 上述のとおり本プロジェクトのターゲットは路上生活を余儀なくされている少女であることから 対メキシコ国別事業実施計画の重点分野の一つである 貧困削減と社会的格差の是正 との整合性が確保されている 4. 協力の枠組み 主な項目 (1) 協力の目標 ( アウトカム ) (1) 協力終了時の達成目標 ( プロジェクト目標 ) と指標 目標値 プロジェクト目標 : 薬物を使用または依存している少女が心身の回復及び一般社会への復帰に必要な基礎的能力 ( 仕事への心構え 人との付き合い方など ) を獲得するようになる
指標 目標値 : カサ アリアンサが提供するリハビリプログラムに参加する全少女のうち 薬物の使用を止め家族との再会または自立した生活ができる能力を身につけた少女の数が現在の 40% からプロジェクト終了時には 75% に増加する (2) 協力終了後に達成が期待される目標 ( 上位目標 ) と指標 目標値 上位目標 : 薬物を使用または依存している少女が家族の元に戻るかまたは社会復帰できるようになる 指標 目標値 : カサ アリアンサが提供するリハビリプログラムに参加する全少女のうち 家族との再会を果たすかまたは一般社会の中で自立した生活を送ることができるようになる少女の数が現在の 30% からプロジェクト終了後 5 年の時点で 60% へ増加する (2) 活動及びその成果 ( アウトプット ) (1) 活動 そのアウトプットと指標 目標値 活動 1: 1) 薬物の使用または依存している各少女に対し個別で薬物からのリハビリテーションを行う 2) 薬物の使用または依存している各少女に対しグループで薬物からのリハビリテーションを行う 3) リハビリテーションを受けた少女達の薬物依存症からの回復状態についてモニタリングを行う 成果 1: 少女達が薬物を使用しない一定の観察期間をクリアする 指標 目標値 1: リハビリテーションに参加した全少女のうち 65% の少女達が一ヶ月の観察期間中薬物を使用しない (2) 活動 そのアウトプットと指標 目標値 活動 2: 1) カサ アリアンサのスタッフと少女達の間で精神的な信頼関係を構築する 2) 少女達にカサ アリアンサの精神及び規則を紹介する 3) カサ アリアンサ内で生活を送る上で適用される規則の順守について監督する 4) カサ アリアンサの規則及び価値観についてのワークショップを実施する 5) 暴力的行為を止めるためのワークショップを実施する 成果 2: 少女達が暴力的な行為をおさえるようになる 指標 目標値 2: リハビリテーションに参加した全少女のうち 1 ヶ月後 80% の少女達が暴力的行為を止めるようになる (3) 活動 そのアウトプットと指標 目標値
活動 3: 1) 自立生活に係るワークショップを実施する 2) リハビリテーションを継続し路上生活から離れた別の生き方を見つけるよう指導する 成果 3: 少女達が路上生活から離れた別の生き方を選択するようになる 指標 目標値 3: リハビリテーションに参加した全少女のうち 55% の少女達が路上生活に戻ることなく 2 ヶ月以上カサ アリアンサのリハビリテーションプログラムにとどまるようになる (4) 活動 そのアウトプットと指標 目標値 活動 4: 1)12 歳から17 歳までの少女達を学校に再入学させる 2) 学校に通い始めた少女達の出席状況と学習状況についてモニタリングを行う 3) 学校関係者とのコミュニケーションを維持する 4) 少女達の学習能力向上支援プログラムを構築する 成果 4: 少女達が学校へ恒常的に通うようになる 指標 目標値 4: リハビリテーションに参加した通学対象年齢の少女のうち 一ヶ月後 50% の少女達がカサ アリアンサの奨学システムを利用して通学するようになる (5) 活動 そのアウトプットと指標 目標値 活動 5: 1) 就労可能な14 歳から17 歳までの希望する少女達を外部の企業 団体が提供する職場体験プログラムに参加させる 2) 上記職場体験プログラムに参加した少女達の知識の習得状況についてモニタリングを行う 3) 手工芸等 少女達のニーズに応じた分野で職業訓練を実施する 4) 上記活動を通じて製作された製品の展示会を実施する 5) 就職準備に係るワークショップを実施する 成果 5: 就労可能な 14 歳から 17 歳までの少女達が仕事を将来行う上で必要な経験と基礎知識を習得する 指標 目標値 5: 職業訓練に参加した少女達のうち 60% の少女達が職業訓練を通じた生産活動に 1 日の一定時間を費やすようになる [ 主要な活動及びそのアウトプットにつき 指標 目標値とともに順次記載する ]
(3) 投入 ( インプット ) (1) 日本側 ( 総額 74,740 千円 ) H16 年度 (2004 年 11 月 ~2005 年 3 月 ) ローカル NGO 活用現地業務費 :5,000 千円 ( 傭人費 資機材購入費 研修セミナー開催費等 ) H17 年度 (2005 年 4 月 ~2006 年 3 月 ) ローカル NGO 活用現地業務費 :16,600 千円 ( 傭人費 資機材購入費 研修セミナー開催費等 ) 青年海外協力隊員派遣 ( 手工芸 )1 名 /12 ヶ月 :11,200 千円短期専門家派遣 ( 健康教育 )1 名 /1 ヶ月 :1,500 千円 (1,500 千円 / 人月 ) 活動 3 の自立生活支援を 健康教育の観点から指導する予定 H18 年度 (2006 年 4 月 ~2007 年 3 月 ) ローカル NGO 活用現地業務費 :16,600 千円 ( 傭人費 資機材購入費 研修セミナー開催費等 ) 青年海外協力隊員派遣 ( 手工芸 )1 名 /12 ヶ月 :11,200 千円短期専門家派遣 ( 健康教育 )1 名 /1 ヶ月 :1,500 千円 (1,500 千円 / 人月 ) H19 年度 (2007 年 4 月 ~2007 年 10 月 ) ローカル NGO 活用現地業務費 :11,140 千円 ( 傭人費 資機材購入費 研修セミナー開催費等 ) (2) メキシコ国側 活動 1,2,4 を行うカウンターパート人件費 旅費 資機材購入費 教材作成費等 施設 土地手配 その他日本側が負担できない経費 (4) 外部要因 ( 満たされるべき外部条件 ) (1) メキシコ国において貧困や雇用に深刻な影響を与えるような経済的危機が起こらない (2) メキシコ国の一般社会においてストリートチルドレンに対する偏見や差別が増幅しない (3) メキシコ市内で少女を巻き込む路上犯罪が増加しない (4) リハビリテーションプログラム参加中の少女が妊娠して同プログラムを放棄しない (5) メキシコ市内でストリートチルドレンに薬物がさらに入手しやすくなる環境にならない (6) 学校関係者 企業 周辺住民がカサ アリアンサの活動に理解をしめす 5. 評価 5 項目による評価結果 (1) 妥当性 本プロジェクトは 両親による虐待 育児放棄など貧困家庭内の問題から路上での生活を余儀なくされたストリートチルドレンの少女をターゲットにしており 心身ともに傷を受けた少女達の健康回復そして家族との再会支援もしくは自立して一般社会で生きていくために必要な知識と経験を得るための職業訓練支援に対して協力を行うものである したがって 本プロジェクトの協力内容およびターゲットは 我が国の援助政策並びに国別事業実施計画であげられた援助重点分野 貧困削減と社会的格差の是正 との整合性が高い 同時に メキシコ国家開発計画において 貧困の克服 と 社会的弱者支援 を重要課題の一つとしており 相手国のニーズとも一致している また 近年地方農村部からの都市部への移民の流入に伴い 都市部
における貧困層の増加が問題となっているが 都市部におけるメキシコ政府の貧困対策並びに他ドナーの援助が地方農村部に比べて遅れていることから 我が国が都市部のストリートチルドレンに対する支援を行うことについて必要性が高い (2) 有効性 本プロジェクトの PDM0 は 活動が成果に 成果がプロジェクト目標に さらにプロジェクト目標が上位目標に無理なく結びつく形となっており 計画の論理性は高いと思われる また 本プロジェクトの各成果と目標は これまでストリートチルドレンに対する支援活動を行ってきた実施機関の有するデータと同機関の経験値をもとに各指標 目標値が定量的に示されていることから 3 年間という短い協力期間であるがプロジェクト目標は達成可能である (3) 効率性 本プロジェクトの先方実施機関は組織 人員 財政的において他のローカル NGO と比べてしっかりしており 且つ開発福祉支援事業 ストリートチルドレンの性の教育 を通して JICA 事業に対する理解も深い したがって すでに先方実施機関が独自に実施してきた各活動に JICA の協力を新たに加えることで 短期間で路上生活から脱却し心身そして能力ともに社会的に復帰できるようになる少女の数を増やすことが可能となるであろう また 先方実施機関の人員 ノウハウ 施設を最大限活用することで日本側の投入規模が低く抑えられており ターゲットとなる少女達の将来のフォーマルセクターにおける生産活動を考慮すると 費用対効果の観点からも効率性が高いと言える (4) インパクト 本プロジェクトの対象地域はメキシコ市内における先方実施機関の活動地区に限定されているが 本プロジェクトが成功裏に終了した場合 メキシコ市同様にストリートチルドレンの問題を抱える他の大都市に対し一つの解決モデルとなる可能性があり プロジェクト終了後 地理的にも広く社会的インパクトを与える可能性がある (5) 自立発展性 先方実施機関は上述したとおり組織 人員 財政面で比較的強固な基盤を有しており プログラムの活動資金に対する国内大企業 国内外の財団等 ( 海外ドナーを含む ) からの財政援助のほか 本年度よりメキシコ連邦区社会統合支援基金プログラムに加入しメキシコ社会開発省の基金を通じてストリートチルドレンの一時避難所や宿泊施設の土地建物の貸与などハード面での支援も受けることが可能となっている したがって 本プロジェクトはメキシコ連邦政府 カサ アリアンサ JICA の相互補完的な協力を通じて効率性の高い案件となる可能性があるばかりでなく 終了後も先方実施機関がプロジェクトの成果を活用しながら独自に事業を継続できる素地があることから 特に組織 財政面において自立発展性があると言える 6. 貧困 ジェンダー 環境等への配慮 本プロジェクトは 両親による虐待 育児放棄など貧困家庭内の問題から路上での生活を余儀なくされたストリートチルドレンの中でも少女をターゲットとしており 貧困 ジェンダーへの配慮から協力を行うものである 7. 過去の類似案件からの教訓の活用 2003 年 12 月まで実施された開発福祉支援事業 ストリートチルドレンの性の教育 において 先方実施機関カサ アリアンサは数多くのストリートチルドレンにアプローチし 避難所への誘導 医療施設への搬送 個別健康相談 性の健康をテーマにした研修会を活発に行った実績があるが 目標 成果の数値目標がなかったこと 同事業の運営管理が適切になされなかったことなどにより 活動によって得られたであろう成果の把握及びターゲットグループの裨益人数の正確な把握ができなかったという反省点がある したがって 本プロジェクトでは計画段階から PCM 参加型ワークショップをカサ アリアンサにて行い JICA とカサ アリアンサが共同してプロジェクトの運営
管理にあたるべく且つ評価可能な数値目標を入れることを意識しながら本プロジェクトの計画立案を行った 8. 今後の評価計画 (1) 今後の評価に使う指標 上位目標 プロジェクト目標 成果の指標は上述したとおりである これらの指標を中間 終了時 事後評価の際に確認する (2) 評価スケジュール 実施期間中 ( モニタリングを随時実施 ) 終了時 (2007 年 9 月 ) および終了後 (2012 年 9 月 ) に評価を実施予定