テキスト
まえがき このテキストは 通商産業省が金属鉱業事業団に委託した平成 7 年度金属鉱業経営資源活用対策事業の一環として 技術者研修用に映像 ( ビデオ ) と共に作成されたものです 独立行政法人石油天然ガス 金属鉱物資源機構に無断で複製品を作成することと 技術研修以外の目的に使用することを禁止します 日本政府は世界の色々な地域で 政府開発援助いわゆる ODA 事業を行っています 金属鉱業事業団は 国際協力事業団 (JICA) の委託を受けて 世界各地において 技術協力事業を行っています まず 資源保有の発展途上国から現地の日本大使館を通じて 日本政府に調査の協力を要請してきます これに対して日本政府は その実施を国際協力事業団と金属鉱業事業団に委託します 金属鉱業事業團は これを受けて要請国の調査実施機関と資源開発協力基礎調査に関するスコープオブワークを結びます このスコープオブワークに基づいて金属鉱業事業団は 現地調査を実施するために要請国に調査団を派遣します 一方 要請国の調査機関もカウンターパートとして技術者を派遣し 日本側調査団と要請国側カウンターパートとの密接な協力の下に基礎調査が実施されます 成果は 調査報告書として要請国に提供され また 調査に用いた技術もカウンターパートを通じて要請国に移転されます 調査に参加したカウンターパートは 調査終了後に来日し 日本の様々な技術を研修することが準備されています それでは 実際に調査 開発が進められたメキシコのティサパ鉱山の例を紹介します 第 1 図 G/G 調査系統図
第 2 図ティサパ鉱山位置図 調査の経緯 メキシコ合衆国のティサパ鉱山は 1994 年に開発された新しい鉱山です この鉱山は 日本政府の資源開発協力基礎調査事業によって詳しく調査され日本の鉱山会社とメキシコの鉱山会社の合弁企業によって開発されました 第 3 図ティサパ鉱山 ティサパ地区は 首都メキシコシティの西方約 100km のところにあります メキシコシティからメキシコ州の州都トルーカ市 メキシコの有名な保養地バジェデブラボ 近隣の町サカソナパンを経て ティサパ地区まで 車で約 4 時間の距離です メキシコ合衆国のエネルギー 鉱山国営企業省鉱物資源局は 1977 年から 1982 年にかけてメキシコ中部の新期火山帯と呼ばれる鉱床生成区に衛星画像解析などを用いて広域調査を実施し いくつかの鉱徴地を発見していました
第 4 図調査地域図 調査協力要請 この結果を基に メキシコ政府は 鉱山開発の可能性についての調査を日本国政府に要請してきました これを受けて 金属鉱業事業団は ティサパ地区からアルセリア地区を含む広範な地域の調査を実施することとし 1987 年に鉱物資源局との間にスコープオブワークを締結しました 調査実施 第 5 図 S/W 調印風景 そして 1987 年から 4 年間 調査団を現地に派遣し 最初ティサパ地区周辺の広い地域について地質調査を行いました この結果 鉱床の存在する可能性の高い場所を確定することができました そして 鉱石は銅 鉛 亜鉛 金 銀などを含む 高品位の塊状硫化鉱として世界的に知られている日本の黒鉱によく似た鉱石であると考えられました
第 6 図地質調査風景 第 7 図物理探査風景 この場所については 地表から電磁探査を行いました この結果 地下深部に鉱床が存在し 広く連続して分布する可能性が高いことが把握されました これらの結果に基づいて ティサパ台地から坑外試錘探査を行いました その結果 最大厚さ 17m の鉛 亜鉛などが濃集した鉱石に着鉱し 鉱床の分布範囲の概略が把握されました 4
第 8 図坑外試錘探査風景 坑外試錘探査で把握された鉱床に対していよいよ探査坑道が開削され この坑道では優良な鉱石が存在することを直接確認することができました 第 9 図坑道開削 また 坑道開削と並行して坑内からも試錘探査を実施し 最大厚さ 32 m の鉱石を確認するとともに 鉱床の全体像を把握できたのです
第 10 図坑内試錘探査 しかし一方 鉱石は微細な鉱物の集合体であり 含まれる銅 鉛 亜鉛の鉱物の分離は困難ではないかと考えられました そこで 試錘探査や坑道探査で得られた鉱石の試料で選鉱試験を行いました その結果 鉱石に含まれる銅 鉛 亜鉛の鉱物は それぞれ精鉱に分離することができると判断されました 調査評価 第 11 図選鉱試験 これら 4 年間の調査を通じて金属鉱業事業団は 対象地域 24,700km 2 に対して 既存資料の解析 地質精査 30km 2 物理探査 4km 2 坑内外試錘探査 55 孔 総延長 7,129 m 坑道探鉱 総延長 742 m その他 選考基礎試験を始め 各種の室内試験を行いました この調査に参加した調査団は 日本側延 34 名 メキシコ側 12 名 合計 46 名です これらの調査を通じて ティサパ鉱床の全体像を解明するとともに 約 460 万トンの鉱量を推定することができました 金属鉱業事業団は これらの調査結果をメキシコ政府に対して報告するとともに ティサパ鉱床は鉱山開発が可能であることを提言しました
第 12 図鉱床主要断面図 第 13 図鉱山資源局 7
開発会社選定 日本政府の報告を受けて メキシコ政府は 1992 年 2 月 ティサパ鉱山の開発権を国際競争入札にかけました 数社応募する中で 日本側は同和鉱業株式会社とメキシコ ペニョーレス社の共同企業体が応募しました 1992 年 3 月 同和 - ペニョーレス共同企業体は ティサパ鉱山の開発権を落札しました 第 14 図落札公表風景 これを受けて 同和鉱業とメキシコ ペニョーレス社は 1992 年 5 月共同出資の現地開発会社ミネラ ティサパ社を設立し 同年 8 月には 住友商事の資本参加を得て開発活動を開始することになりました これに伴って 金属鉱業事業団は 同和鉱業の出資の一部に対して債務保証を行いました 開発計画 第 15 図開発計画図 開発の基本構想は 鉱床の下盤に斜坑を開削し 坑内の各種施設を設置するほか 鉱床に対しては サカソナパン坑道から立て入れ坑道を開削し 鉱床を水平分層採掘する方式としました 8
開発着工 ミネラ ティサパ社は 1992 年7月 サカソナパン町民の歓迎と協力を受ける中で いよいよ鉱山の開発に着 工しました 第 16 図選鉱場建設風景 完成 操業 ティサパ鉱山の建設は 1994 年5月 約2年の歳月をかえて完成しました ティサパ鉱山は 上向充填採掘法を採用しています まず 立入れ坑道から鉱床を水平に採掘し 採掘跡は坑内 で発生する廃石で埋め戻します その後 その充填を足場として一段上の鉱石を採掘し その後再び充填します このようにして鉱床を順次 上向きに分層採掘していきます 坑内では 大型削岩機 ホイルローダーなどの坑内積み込み機械 そしてダンプトラックなどの運搬機械を導入 して 高度に機械化され 安全で効率的に鉱石を採掘しています 坑内からは月産 25,000 トンの鉱石を生産しています 第 17 図坑内作業風景
選鉱場に送られた これらの鉱石は破砕 摩鉱工程を経て浮遊選鉱工程に送られます 浮遊選鉱では 鉛精鉱と 亜鉛精鉱に分離され 鉛精鉱は月産 1,250 トン 亜鉛精鉱は月産 3,200 トン生産されます このうち 亜鉛 精鉱は日本の製錬所へ送られます 第 18 図選鉱場内風景 初荷 船出 本操業開始に伴って ティサパ鉱山は 1994 年 11 月 精鉱を初出荷し 亜鉛精鉱はメキシコの太平洋岸の港 ラサロカルデナス港から 日本に向けて 同年 12 月に船出しました 第 19 図海外プロジェクト図 このように ティサパ鉱山の開発は 探鉱段階から開発段階まで 金属鉱業事業団が総合的に支援したODA事 業の成功例の一つとして数えられ メキシコ合衆国の経済発展に大きく寄与することはもとより 世界および我 が国における非鉄金属資源の安定供給をもたらすものと評価されます 金属鉱業事業団は 1994 年現在まで 世界の 48 ヵ国で 138 の資源開発技術協力プロジェクトを実施してきて おり 多大な成果をあげると共に資源保有国の発展のために大きく貢献しています 10
テキスト 日本語版ティサパ鉱山の調査と開発 ODA 事業の成功例 1995 年制作 2005 年 4 月改訂 企画 : 神奈川県川崎市幸区大宮町 1310 番ミューザ川崎セントラルタワー 212-8554 Tel:044-520-8600 Fax:044-520-8710 URL:htt://www.jogmec.go.jp 制作 : 日本鉱業協会 改訂 :( 株 ) ルキオ 11