社団法人日本経営士会中国支部研究会事業承継実務研究会 事業承継と会社法 株式会社 FMS 経営士 ふじしま経営サポート代表 藤島公平 753-0831 山口市平井 822-7 山大通りオフィスビル2F Tel -924 083-3936 Fax -924-3904 083 URL : http://fms9.com E-mail : keieispt@fms9.com 研究会の目的 事業承継の事例研究などを通して事業承継の実務的力量を高めて 事業承継分野での業務領域の拡大を目指すこと 事業承継の分野は特に地方では実態的には未だ手付かずの状態 承継税制や民法特例などの講演会中心 私たちが目指すのは事業承継計画を立て それを完結するためのコーディネートをする仕事 1. 事業承継とは 事業承継とは既存の事業を継続していくために 会社を親族またはその他の人や会社に託していくことで 事業で培ってきた雇用や技術 取引先等の関係や 事業家や関係者の生活をできるだけ壊さずに未来へつなげていくこと そのことで 事業家としての責任を全うすること 2. なぜ今盛んに言われるのか 中小企業は 企業数で全体の9 割以上 約 433 万雇用の約 7 割 健全な発展のための環境を整備し 未来に承継してゆくことは 日本経済が継続的に発展を続けていく為に必要不可欠 事業を後継者に承継させるに当たって 障害があると認識している経営者は全体の4 割強 引退予想年齢の平均が約 67 歳という調査 過半の中小企業が 今後 10 年程度の間にはこの問題の対応を迫られることとなる ( 事業承継ガイドラインより ) ところが まだまだ私は元気だ とか 私の一代で終わってもいい とか 承継に対して無理解 軽視が多い 企業家への啓蒙が必要な時 実務的な講演会が必要な時 成功事例や失敗事例に学ぶ時 経営者の責任として自覚する時 3. 事業承継の戦略と戦術 承継税制 民法特例適用 定款設計などは戦術重要なのは戦略 将来 誰にどのようにして どのような事業を展開させたいか その中で自分や従業員はどうありたいのか そして事業承継計画に沿って経営改善を平行して行うことがなければならない 1
将来 = 何年後 どのような状況になった時を明確に 誰に = 親族とは限らない どのように = 相続や提携や合併などの方法 どのような事業 = 既存事業とは限らない他事業との連携や転換も 自分や従業員 = 将来の家族も含めた生活保障重要な要素である 戦略を立て それを課題ごとに 時系列的に落とし込んだものが事業承継計画 4. 事業承継の形態とポイント 1 親族への承継 2 従業員等への承継 3 外部経営者の招聘 4 スポンサーの介入 5 M&A 又は事業譲渡の場合 6 法的整理に向かう場合 1 親族への承継 相続対策財産分散による経営圧迫を防止 株式関係経営者以外への支配権分散を防止民法特例の活用 定款設計早くから種類株式等の準備 税対策相続税承継税制の活用 現経営者の処遇承継への不安の払拭 後継者教育理念承継現場経験交代時期 2 従業員等への承継 相続対策経営資産分散による経営圧迫を防止 株式関係経営者以外への支配権分散を防止 定款設計早くから種類株式等の準備 負債の責任関係の整理承継への不安払拭 資産の権利関係個人資産との賃借契約 現経営者の処遇承継への不安払拭 後継者教育理念承継現場経験交代時期 他の従業員との調整 ライバル的人物の処遇 3 外部経営者の招聘 負債の責任関係の整理旧経営者の保証継続や担保関係の継続 株式関係旧経営者の支配権継続もしもの場合の交代可能に インセンティブ定時報酬と業績連動の賞与又は報酬改定契約 期間契約などの契約外部にとっては期間中は安心旧経営者にとっては交代又は延長のフリーハンド 2
4 スポンサーの介入スポンサーの動機は売買目的又は本業との相乗 効果期待 etc デューデリ財務だけでなく企業価値の調査 負債の処理金融機関と協議しスポンサー資金での弁済する計画の協議 事業計画スポンサーのために企業価値を高めるための計画 反対給付の条件スポンサーへの見返り 役員体制スポンサーの意向の反映 現経営者の処遇現経営者を交代させるのか継続させるのか退職金や報酬契約 5M&A 又は事業譲渡の場合 デューデリ相互に企業価値を調査株式の交換比率や新株の引受数に影響 反対株主対策買取交渉 定款設計株式分割や自己株式の環境作り 合併の形態事業譲渡 吸収合併 新設合併金銭か株式か 株式関係株式交換か株式移転か 新株引受か自己株式引受か第三者株式か 役員関係対等かどうかの分かれ目 6 法的整理に向かう場合 デューデリ法人や経営者個人の資産価値の調査別除権額のもととなる 反対株主対策買取交渉 定款設計どのような方向でも決定可能な環境 裁判 弁護士費用の捻出法的提起の段階で一定期間返済中止となるので捻出可能それでも捻出できない場合は破産しかない 大口取引先対策今後の取引を考え直前には内諾を得るような交渉 再生事業計画特にキャッシュフロー計画 5. 戦略にそった戦術を決める 戦略に沿った戦術を時系列的に計画するのが承継計画 1 承継税制について 2 民法特例の適用について 3 会社法の活用について会社の支配権会社の評価額会社の譲渡 分割 合併 1 承継税制について 一定の要件を満たせば 非上場株式等について後継者が先代経営者から一括で自社株式の贈与を受けた場合に 贈与前から後継者が既に保有している議決権株式等を含め 発行済議決権株式総数の 3 分の 2 に達するまでの部分についての贈与税を全額納税猶予する 非上場株式等について後継者が先代経営者から自社株式を相続した場合に 相続前から後継者が既に保有している議決権株式等を含め 発行済議決権株式総数の 3 分の 2 に達するまでの部分に係る課税価格の 80% に対応する相続税を納税猶予する 納税猶予制度の手続等と適用要件 3
2 民法特例の適用について 生前贈与株式を遺留分の対象から除外 ( 除外特例 ) 先代経営者の生前に 経済産業大臣の確認を受けた後継者が 遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けることで 先代経営者から後継者へ贈与された自社株式その他一定の財産について 遺留分算定の基礎財産から除外する 贈与株式が遺留分減殺請求の対象外となるため 相続に伴う株式分散を未然に防止することができる 事業継続に不可欠な自社株式が後継者に集中させることができる 3 会社法の活用 事業承継に係わる部分 1 様々な種類株式を発行できるようになった (108 条 ) 2 自己株式の取得制限が大幅に緩和 (156 条 ) 3 相続による株式移転の制限 (174 条 ) 4 現物出資 債務の株式化が容易に (236 条 ) 5 事業譲渡の緩和 (467 条 ) 株式交換 株式移転 会社分割 ( 五編一章 ~ 四章 ) など手法は様々 1 様々な種類株式 1) 有利優先配当株式 2) 残余財産の優先分配株式 3) 議決権制限種類株式 4) 譲渡制限種類株式 5) 取得請求権付種類株式 6) 取得条項付種類株式 7) 全部取得条項付種類株式 8) 拒否権付種類株式 ) 9) 選解任種類株式 ) 1) 剰余金の配当の活用 反対株主や議決権制限株式への交換を拒否する株主に有利配当株式として交付する懐柔策や出資への期待時に活用例 ) 株式配当の時 普通株式の配当 1 に対して有利配当株式には 1.2 の割合による配当を支払う 従来は株主平等の原則だったが 会社経営よりは配当収益に関心を持つ者はこちらを望む 3) 議決権制限種類株式 経営に直接タッチしない相続人などに議決権制限株式を交付して 議決権環境 ( 会社の支配権 ) を良くする 株主総会で希望する方向での議決がしやすくなる ただし 総株主 の中にはカウントされるので超特殊決議 ( 後に解説 ) の場合に影響する 4) 譲渡制限種類株式 中小企業の場合 株式全体への譲渡制限が普通であるが 譲渡制限の網をかけられない場合 ( 上場又は店頭公開株式 ) 発行済み株式の 50% 未満までは譲渡制限株式とすることができる 譲渡できないという訳ではなく 譲渡の場合取締役会又は株主総会の承認を要するとするもの もし承認しなかったら 新たな買い手を指名しなければならない 敵対的な者に譲渡させないという意味では意味がある 4
5) 取得請求権付種類株式 株主の請求により配当優先株式や議決権制限株式が普通株式に転換することになる これにより 将来の制約なく株主が出資できるため 会社の資金調達の多様化が図られることになります つまり優良資金提供者を呼び込む手法として活用できる 一方 その株主が将来敵対側に廻れば怖いことになる可能性もある 6) 取得請求権付種類株式 強制償還株式や強制転換条項付株式をいう (1) 普通株式を強制的に議決権制限株式に転換 (2) 議決権制限株式を強制的に普通株式に転換 (1) は一定の事由が生じた時に議決権を行使させたくない場合 (2) は一定の事由が生じた時に議決権を行使させたい場合に有効なパターン一定の事由とは定款で定める 事業譲渡を決するする場合 取締役会で議決された場合 etc 取得の手続は取締役会決議で決めることができる 7) 全部取得条項付種類株式 その1つの種類株式の全部を株主総会の特別決議で取得可能な定款の定めがある種類の株式普通株式に全部取得条項を付けるためには 1) 定款変更株主総会特別決議且つ 2) 全部取得条項の種類株主総会の特別決議且つ 3) 取得請求権付株式及び取得条項付株式の種類株主総会の特別決議が必要となります 当該種類株主総会の決議に反対した株主には 利益保護の為 株式買取請求権が付与される取得条項付株式との違いは一定の事由で会社が 株主の同意なしにその株式を取得できること 8) 拒否権付種類株式 一定の事由が生じた場合 そのことを拒否権付種類株式総会の議決で議決されない限り効果が生じないというもの いわゆる 黄金株 といわれ 必ず味方となる者に交付する これによって敵対的な買収や事業譲渡の要求などを拒絶できる 9) 選解任種類株式 これは拒否権付種類株式に似ていて 役員に敵対的と思われる人物を排除するためのもので 絶対的に信頼できる者に交付する これも 黄金株 の一種 2 自己株式の取得制限が緩和 自己株式とは会社が自社株を買取りした株式金庫株ともいう 従来は定時総会時のみ自己株式の取得方法を議決しておかなければならなかった 会社法では臨時株主総会でも可能となり 譲渡人を指定しなくてもよく取締役会に時期 譲渡人 譲渡価格などを委任できる 自社株で株式交換や株式移転の際の交付する株式として活用可能 5
3 会社の支配権 309 条 普通決議 ( 取締役の選任 解任 決算の承認等 ) 定款に定める場合を除き 総株主の議決権の過半数を有する株主の出席で出席株主の議決権の過半数の賛成により成立特別決議 ( 定款変更 合併等 自己株式の取得 新株発行 相続人への売渡請求 会社または指定買取人による買取決議 事業譲渡および解散 役員の責任免除等 ) 定款に定める場合 ( 総議決権の 3 分の 1 以上 ) を除き 総議決権の過半数を有する株主の出席 で出席株主の議決権の 3 分の 2 以上の賛成により成立 特殊決議 ( 株式譲渡制限のための定款変更等 ) 議決権を有する株主の過半数 ( これを上回る割合を定款で決めた場合はその割合以上 ) の出席で出席株主の議決権の 3 分の 2 以上 ( それ以上の割合を定款で決めた場合はそれ以上 ) の賛成により成立人的種類株式に関する決議 ( 超特殊決議 ) 総株主の過半数 ( これを上回る割合を定款で決めた場合はその割合以上 ) の出席で 総株主の議決権の 4 分の 3 以上 ( これを上回る割合を定款で決めた場合はその割合以上 ) の賛成により成立従って 株主環境の良いうちに定款設計を行う必要がある 4 会社の評価額 会社の評価額は株式価格 発行株式数 ( 自己株式を除く ) 株式価額は純資産額 発行株式数 ( 自己株式を除く ) により 同じことの裏返しの様で意味が異なる 5 会社の譲渡 分割 合併 株式交換による子会社化 株式価格は市場性があるものは実価とは限らない 株式価額は株式買取 交換の場合の目安 株式移転による子会社化 会社分割の 3 つのパターン 吸収分割 [ 分割前 ] (1) 分社型の吸収分割 6
新設分割 [ 分割前 ] (2) 分社型の新設分割 (3) 分社型分割 + 剰余金配当 ( 分割型分割 ) 会社分割と事業承継 抜け殻方式 の手法 ( イ ) 後継者が新会社を設立し 後継者が新会社の社長に就任する ( ロ ) 高収益部門を新会社に営業譲渡する ( ハ ) 旧会社は 収益性が低くなる現経営者の持株価値が下がる相続がし易くなる 事業承継関係法を熟知し実践に応用しましょう 次回から MPP 方式で事例とテーマを用意し 各自の知識と経験で実践的に訓練していきます おわり 7