事件概要 1 対象物 : ノンアルコールのビールテイスト飲料 近年 需要急拡大 1 近年の健康志向の高まり 年の飲酒運転への罰則強化を含む道路交通法改正 2 当事者ビール業界の 1 位と 3 位との特許事件 ( 原告 特許権者 ) サントリーホールディングス株式会社 ( 大阪市北区堂島

Similar documents
審決取消判決の拘束力

目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )(

☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第24号-

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

Microsoft Word 資料1 プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する審査基準の改訂についてv16

O-27567

1 アルゼンチン産業財産権庁 (INPI) への特許審査ハイウェイ試行プログラム (PPH) 申請に 係る要件及び手続 Ⅰ. 背景 上記組織の代表者は

☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第31号-

に表現したものということはできない イ原告キャッチフレーズ1は, 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/ 英語がどんどん好きになる というものであり,17 文字の第 1 文と12 文字の第 2 文からなるものであるが, いずれもありふれた言葉の組合せであり, それぞれの文章を単独で見ても,2 文の組合

REPORT あいぎ特許事務所 名古屋市中村区名駅 第一はせ川ビル 6 階 TEL(052) FAX(052) 作成 : 平成 27 年 4 月 10 日作成者 : 弁理士北裕介弁理士松嶋俊紀 事件名 入金端末事件 事件種別 審決取消

<4D F736F F D F93FC82E D835382CC82DD816A2E646F63>

Microsoft Word - 01.表紙、要約、目次

ことができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している さらに 台湾専利法第 76 条は 特許主務官庁は 無効審判を審理する際 請求によりまたは職権で 期限を指定して次の各号の事項を行うよう特許権者に通知することができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している なお

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

 

A-1 エキス 分 の 総 量 が0.5 重 量 % 以 上 2.0 重 量 % 以 下 であるノン アルコールのビールテイスト 飲 料 であって, A-2 phが3.0 以 上 4.5 以 下 であり, A-3 糖 質 の 含 量 が0.5g/100ml 以 下 である, B 前 記 飲 料 (3

知財セミナーテキスト

平成 23 年 10 月 20 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 23 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 9 月 29 日 判 決 原 告 X 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 興 治 郎 金 成 有 祐 被 告 Y 同訴訟代理人弁理士 須 田 篤

参加人は 異議申立人が挙げていない新たな異議申立理由を申し立てても良い (G1/94) 仮 にアピール段階で参加した参加人が 新たな異議申立理由を挙げた場合 その異議申立手続は第 一審に戻る可能性がある (G1/94) 異議申立手続中の補正 EPCにおける補正の制限は EPC 第 123 条 ⑵⑶に

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

出願人のための特許協力条約(PCT) -国際出願と優先権主張-

freee・マネーフォワード特許訴訟の解説

では理解できず 顕微鏡を使用しても目でみることが原理的に不可能な原子 分子又はそれらの配列 集合状態に関する概念 情報を使用しなければ理解することができないので 化学式やその化学物質固有の化学的特性を使用して 何とか当業者が理解できたつもりになれるように文章表現するしかありません しかし 発明者が世

第26回 知的財産権審判部☆インド特許法の基礎☆

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

指定 ( 又は選択 ) 官庁 PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 - ベトナム国家知的所有権庁 (NOIP) 国内段階に入るための要件の概要 3 頁概要 国内段階に入るための期間 PCT 第 22 条 (3) に基づく期間 : 優先日から 31 箇月 PCT 第 39 条 (1)(b)

第 32 回 1 級 ( 特許専門業務 ) 実技試験 一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産教育協会 ( はじめに ) すべての問題文の条件設定において, 特に断りのない限り, 他に特殊な事情がないものとします また, 各問題の選択枝における条件設定は独立したものと考え, 同一問題内における他の選

訂正情報書籍 170 頁 173 頁中の 特許電子図書館 が, 刊行後の 2015 年 3 月 20 日にサービスを終了し, 特許情報プラットフォーム ( BTmTopPage) へと模様替えされた よって,

PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 -MY MY 1 頁 マレーシア知的所有権公社 ( 指定官庁又は選択官庁 ) 目 次 国内段階 - 概要 国内段階の手続 附属書手数料 附属書 MY.Ⅰ 国内段階移行手数料 ( 特許様式 No.2A) 附属書 MY.Ⅱ 特許代理人の選任又は変更 ( 特

指針に関する Q&A 1 指針の内容について 2 その他 1( 特許を受ける権利の帰属について ) 3 その他 2( 相当の利益を受ける権利について ) <1 指針の内容について> ( 主体 ) Q1 公的研究機関や病院については 指針のどの項目を参照すればよいですか A1 公的研究機関や病院に限ら

Microsoft Word - 【6.5.4】特許スコア情報の活用

PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 -AL AL 1 頁 工業所有権総局 (GDIP) ( アルバニア ) ( 指定官庁又は選択官庁 ) 目 次 国内段階 - 概要 国内段階の手続 附属書手数料 附属書 AL.Ⅰ 委任状 附属書 AL.Ⅱ 略語のリスト国内官庁 : 工業所有権総局 (GD

例 2: 組成 Aを有するピアノ線用 Fe 系合金 ピアノ線用 という記載がピアノ線に用いるのに特に適した 高張力を付与するための微細層状組織を有するという意味に解釈される場合がある このような場合は 審査官は 請求項に係る発明を このような組織を有する Fe 系合金 と認定する したがって 組成

間延長をしますので 拒絶査定謄本送達日から 4 月 が審判請求期間となります ( 審判便覧 の 2.(2) ア ) 職権による延長ですので 期間延長請求書等の提出は不要です 2. 補正について 明細書等の補正 ( 特許 ) Q2-1: 特許の拒絶査定不服審判請求時における明細書等の補正は

2.2.2 外国語特許出願の場合 2.4(2) を参照 2.3 第 184 条の 5 第 1 項に規定された書面 (1) 日本語特許出願 外国語特許出願を問わず 国際特許出願の出願人は 国内書面提出期間 ( 注 ) 内に 出願人 発明者 国際出願番号等の事項を記載した書面 ( 以下この部において 国

第1回 基本的な手続きの流れと期限について ☆インド特許法の基礎☆

<4D F736F F F696E74202D E82C582E08F6F978882E98AC FA967B93C18B9692A182C582CC93C18B9692B28DB895FB B8CDD8AB B83685D>

<4D F736F F D2095BD90AC E D738FEE816A939A905C91E D862E646F63>

1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 22 年 3 月 11 日, 被告が特許権者であり, 発明の名称を 麦芽発酵飲料 とする本件特許第 号 ( 平成 20 年 6 月 11 日出願, 平成 1 6 年 12 月 10 日 ( 優先権主張平成 15 年 12 月 11 日, 平

templates

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

(Microsoft Word \224\255\225\\\201yMSH\201z \224\273\214\210\201i\217\244\225W\201j.doc)

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

同時期に 8 社に対し提起された大阪地方裁判所における判決 ( 大阪地裁平成 24 年 9 月 27 日判決 裁判所 HP) では, 間接侵害の成立に関し, 特許法 101 条 2 号の別の要件である その物の生産に用いる物 にあたるかが問題とされ, 1 特許法 2 条 3 項 1 号及び101 条

特許制度 1. 現行法令について 2001 年 8 月 1 日施行 ( 法律 14/2001 号 ) の2001 年改正特許法が適用されています 2. 特許出願時の必要書類 (1) 願書 (Request) 出願人の名称 発明者の氏名 現地代理人の氏名 優先権主張の場合にはその情報等を記載します 現

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 -SA S A 1 頁 サウジ特許庁 (SPO) ( 指定官庁又は選択官庁 ) 目 次 国内段階 - 概要 国内段階の手続 附属書手数料 附属書 SA.Ⅰ 略語のリスト国内官庁 : サウジ特許庁 (SPO) Law: 特許, 集積回路配置デザイン, 植

基本的な考え方の解説 (1) 立体的形状が 商品等の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められる場合は 特段の事情のない限り 商品等の形状そのものの範囲を出ないものと判断する 解説 商品等の形状は 多くの場合 機能をより効果的に発揮させたり 美感をより優れたものとしたりするなどの目的で

Microsoft PowerPoint - 01_職務発明制度に関する基礎的考察(飯田先生).pptx

問 2 戦略的な知的財産管理を適切に行っていくためには, 組織体制と同様に知的財産関連予算の取扱も重要である その負担部署としては知的財産部門と事業部門に分けることができる この予算負担部署について述べた (1)~(3) について,( イ ) 内在する課題 ( 問題点 ) があるかないか,( ロ )

上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

指定商品とする書換登録がされたものである ( 甲 15,17) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 4 月 21 日, 本件商標がその指定商品について, 継続して3 年以上日本国内において商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって, 不使用に

2006 年度 民事執行 保全法講義 第 4 回 関西大学法学部教授栗田隆

Microsoft Word - 一弁知的所有権研究部会2017年7月13日「商標登録無効の抗弁」(三村)

第41回 アクセプタンス期間と聴聞手続(2016年版) ☆インド特許法の基礎☆

し, 譲渡し, 貸し渡し, 輸入し, 又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない 2 被告は, 被告製品を廃棄せよ 3 被告は, 原告に対し,1 億円及びこれに対する平成 27 年 8 月 25 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要本件は, 発明の名称を 分散組

日本国特許庁の国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイ ベトナム国家知的財産庁 (IP Viet Nam) と日本国特許庁 (JPO) との間の特許審査ハイウェイ試行プログラムに関するベトナム国家知的財産庁への申請手続 ( 仮訳 ) 日本国特許庁の国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイ

淡路町知財研究会 (松宮ゼミ)

Microsoft Word - クレームにおける使用目的に関する陳述 ☆米国特許判例紹介☆ -第105号-

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

, -1463

PPTVIEW

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

Microsoft Word - T 訳文.doc

特集《ソフトウエア》 1. 方法クレームとプログラムの間接侵害

平成 27 年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 商標制度におけるコンセント制度についての 調査研究報告書 平成 28 年 2 月 株式会社サンビジネス

第 1 原告の求めた判決 特許庁が無効 号事件について平成 23 年 12 月 28 日に した審決を取り消す 第 2 事案の概要本件は, 被告の請求に基づき原告の本件特許を無効とした審決の取消訴訟であり, 当裁判所が取り上げる争点は, 実施可能要件及びサポート要件の充足性の

Microsoft Word - CAFC Update(107)

第29回 クレーム補正(2) ☆インド特許法の基礎☆

東京地方裁判所委員会 ( 第 36 回 ) 議事概要 ( 東京地方裁判所委員会事務局 ) 第 1 日時平成 27 年 10 月 22 日 ( 木 )15:00~17:00 第 2 場所東京地方裁判所第 1 会議室第 3 出席者 ( 委員 ) 貝阿彌誠, 足立哲, 大沢陽一郎, 大野正隆, 岡田ヒロミ

競走馬の馬名に「パブリシティ権」を認めた事例

<4D F736F F D2095BD90AC E D738CC2816A939A905C91E D862E646F63>

第10回 出願公開 ☆インド特許法の基礎☆

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

主文第 1 項と同旨第 2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は, 平成 24 年 6 月 14 日, 発明の名称を 遊技機 とする特許出願をし ( 特願 号 請求項数 3 ), 平成 26 年 5 月 12 日付けで拒絶理由通知 ( 甲 8 以下 本件

CAFC Update(135)

なって審査の諸側面の検討や評価が行われ 関係者による面接が開始されることも ある ベトナム知的財産法に 特許審査官と出願人またはその特許代理人 ( 弁理士 ) の間で行われる面接を直接定めた条文は存在しない しかしながら 審査官は 対象となる発明の性質を理解し 保護の対象を特定するために面接を設定す

Microsoft Word - CAFC Update(112)

特許出願の審査過程で 審査官が出願人と連絡を取る必要があると考えた場合 審査官は出願人との非公式な通信を行うことができる 審査官が非公式な通信を行う時期は 見解書が発行される前または見解書に対する応答書が提出された後のいずれかである 審査官からの通信に対して出願人が応答する場合の応答期間は通常 1

2 控訴費用は, 控訴人らの負担とする 事実及び理由第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人株式会社バイオセレンタック, 同 Y1 及び同 Y2は, 控訴人コスメディ製薬株式会社に対し, 各自 2200 万円及びこれに対する平成 27 年 12 月 1 日から支払済みまで年 5 分の割

諮問庁 : 国立大学法人長岡技術科学大学諮問日 : 平成 30 年 10 月 29 日 ( 平成 30 年 ( 独情 ) 諮問第 62 号 ) 答申日 : 平成 31 年 1 月 28 日 ( 平成 30 年度 ( 独情 ) 答申第 61 号 ) 事件名 : 特定期間に開催された特定学部教授会の音声

〔問 1〕 抵当権に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,誤っているものはどれか

4 年 7 月 31 日に登録出願され, 第 42 類 電子計算機のプログラムの設計 作成 又は保守 ( 以下 本件役務 という ) を含む商標登録原簿に記載の役務を指定役 務として, 平成 9 年 5 月 9 日に設定登録されたものである ( 甲 1,2) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平

<4D F736F F D2089EF8ED096408CA48B8689EF8E9197BF E7189BB A2E646F63>

Ⅰ. はじめに 近年 企業のグローバル化や事業形態の多様化にともない 企業では事業戦略上 知的財産を群として取得し活用することが重要になってきています このような状況において 各企業の事業戦略を支援していくためには 1 事業に関連した広範な出願群を対象とした審査 2 事業展開に合わせたタイミングでの

平成 28 年 4 月 28 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償等請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 3 月 22 日 判 決 原 告 A 同訴訟代理人弁護士 松 村 光 晃 中 村 秀 一 屋 宮 昇 太 被告株式会社朝日新聞社 同訴訟代

イ特許専門業務特許戦略 法務 情報 調査 特許戦略に関し 次に掲げる事項について専門的な知識を有すること (1) 特許出願戦略 ( ポートフォリオ戦略等 ) (2) 研究開発戦略と特許戦略の関係 (3) 事業戦略と特許戦略の関係 (4) 標準化戦略 法務に関し 次に掲げる事項について専門的な知識を有

発信者情報開示関係WGガイドライン

(1) 本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団である控訴人が, 被控訴人が企画, 編集した本件雑誌中に掲載された本件各記事において WDSC の表示を一審被告 A( 以下, 一審被告 A という )

平成 25 年 3 月 25 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 2 月 25 日 判 決 原 告 株式会社ノバレーゼ 訴訟代理人弁理士 橘 和 之 被 告 常磐興産株式会社 訴訟代理人弁護士 工 藤 舜 達 同 前 川 紀 光

弁理士試験短答 逐条読込 演習講座 ( 読込編 ) 平成 29 年 6 月第 1 回 目次 平成 29 年度短答本試験問題 関連条文 論文対策 出題傾向分析 特実法 編集後記 受講生のみなさん こんにちは 弁理士の桐生です 6 月となりましたね 平成 29 年度の短答試験は先月終了しました 気持ちも

特許無効審判の審判請求書における補正の要旨変更についての一考察審判請求後の無効理由の主張及び証拠の追加等に関する裁判例の検討

優先権意見及び回答

経済産業省 受託調査 ASEAN 主要国における司法動向調査 2016 年 3 月 日本貿易振興機構 (JETRO) バンコク事務所知的財産部

資料 4 平成 26 年度特許庁実施庁目標 参考資料 2014 年 3 月 28 日

民事訴訟法

業務委託基本契約書

スライド 1

Transcription:

ノンアルコールビール事件に見る特許権侵害事件の裏表 ~ 特許の攻めと守り / 恐ろしい特許の疵 ~ 弁理士笠原英俊 笠原特許商標事務所 お願い 本資料には 真偽不明の情報が含まれ 事実と異なる情報が存在する可能性があります 本資料の内容は 特許制度研究の仮想事例とご理解いただき 本資料に含まれる情報はここでの研究目的以外に使用しないで下さい 弁理士笠原英俊 / 笠原特許商標事務所 700-0971 岡山市北区野田 2 丁目 7-12( プチブル野田 2 階 ) TEL(086)245-0440 fax(086)246-0776 E-MAIL office@kasapat.com HP http://www.kasapat.com ( 1/17 )

事件概要 1 対象物 : ノンアルコールのビールテイスト飲料 近年 需要急拡大 1 近年の健康志向の高まり 2 2002 年の飲酒運転への罰則強化を含む道路交通法改正 2 当事者ビール業界の 1 位と 3 位との特許事件 ( 原告 特許権者 ) サントリーホールディングス株式会社 ( 大阪市北区堂島浜 2-1-40) 以下 サントリー ( 被告 ) アサヒビール株式会社 ( 東京都墨田区吾妻橋 1-23-1) 以下 アサヒ 3 対象の特許権 ( 本件特許権 ) 特許権者: サントリー 特許番号: 第 5382754 号 原出願日: 平成 24 年 11 月 19 日 出願日: 平成 25 年 5 月 27 日 ( 特願 2013-110731) 優先日: 平成 23 年 11 月 22 日 特許性の判断基準日 登録日: 平成 25 年 10 月 11 日 4 訴訟の対象製品 製造販売者 : アサヒ 販売開始 : 平成 25 年 9 月上旬 ~ 製品名称 : ドライゼロ 5 特許権侵害訴訟等 (1) 第 1 審 ( 東京地裁 ): 販売差止及び廃棄 請求棄却 ( 平成 27 年 1 月提訴 平成 27 年 10 月 29 日判決 ) 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められ 原告は被告に対して本件特許権を行使することができない (2) 第 2 審 ( 知財高裁 ): 和解 ( 平成 28 年 7 月 20 日 ) 1 ドライゼロを製造販売継続 2 被告が本件特許に請求した無効審判を取り下げ 和解による円満解決 ( 2/17 )

原告 ( サントリー ) 特許庁 裁判所 被告 ( アサヒ ) H22.8.3 H22.8.3 オールフリー 発売 ダブルゼロ 発売 ( 公然実施発明 1) ( 公然実施発明 2) エキス分 0.39 重量 % 違い糖質 0.9g/100ml H23.1122 特許出願 1 優先権 H24.11.19 PCT 出願 2 特許取得手続 H25.9 月 H26.6.20 H25.10.11 特許 ドライゼロ 発売 訂正審判 訂正容認 特許ポイント ノンアルコールの ビールテイスト飲料 1 エキス分総量 0.5~2.0 重量 % H27.1 月提訴 違いドライゼロの 2PH 3.0~4.5 3 糖質 0.5g/100ml 以下 東京地裁 譲渡等差止廃棄 H27.10.29 棄却判決 控訴 知財高裁 H28.7.20 和解 ( 3/17 )

特許の成立過程 * 特許庁 平成 28 年度知的財産権制度説明会 ( 初心者向け ) テキスト より引用 実体審査の内容 特許を受けることができない発明 拒絶査定 * ただし それに先立ち拒絶理由通知がされ 出願人の意見をきく 特許を受けることができる発明 特許査定 * 特許庁 中小 ベンチャー企業マニュアル より引用 知的財産戦略 ( 4/17 )

特許権とは 特許権者が 特許を受けている発明( 特許発明 ) を 業として 実施をする独占的な権利 正当な権原のない特許権者以外の者が特許発明の 実施 をすれば 特許権の侵害成立 1 特許発明 * 特許庁 平成 28 年度知的財産権制度説明会 ( 初心者向け ) テキスト より引用 ( 原則的な判断基準 ) 特許請求の範囲 ( 請求項 ) に記載された文言全てを 侵害製品が満たすか否か 本件請求範囲 エキス分の総量が0.5 重量 % 以上 2.0 重量 % 以下であるノンアルコールのビールテイスト飲料であって phが3.0 以上 4.5 以下であり 糖質の含量が0.5g/100ml 以下である 前記飲料 * 本件では 争われていない ( 5/17 )

2 実施 * 特許庁 平成 28 年度知的財産権制度説明会 ( 初心者向け ) テキスト より引用 今回 : 特許された飲料の発明 物の発明 実施 とは その飲料の生産や譲渡 ( 販売を含む ) 等 原告 ( サントリー : 特許権者 ) は a) 特許を受けている飲料 ( 特許発明 ) を b) 業として c) 実施 ( 例えば 生産や譲渡 ) する独占的な権利を持っている ( 侵害成否 ) 被告 ( アサヒ ) が a b c の全てを満たせば 侵害成立 a) 下の 123 を満たすノンアルコールのビールテイスト飲料を 1 エキス分の総量が 0.5 重量 % 以上 2.0 重量 % 以下 2pH が 3.0 以上 4.5 以下 3 糖質の含量が 0.5g/100ml 以下 b) 業として c) 生産や譲渡 ( 販売を含む ) 等しているか ( 6/17 )

ところが 肝心の特許権に大きな疵 ( きず ) があることも 特許審査も人間が行うこと ( 場合によっては誤りの可能性もあり ) 特許されるべきでないものが 間違いで特許されることも ( 他人の迷惑 ) 間違いで特許された場合の他人の対抗策 (1) 特許異議申立異議が認められれば 特許は取り消される ( 遡及消滅 ) (2) 特許無効審判審判請求が認められれば 特許は無効にされる ( 遡及消滅 ) (3) 特許権侵害の裁判において 特許に無効理由が存在することが明らかになれば 当該特許権に基づく権利行使は 通常 権利濫用に当たり許されない ( 最判平成 12 年 4 月 11 日 その後 同様の特許法 104 条の 3 加入 ) 本件の第 1 審 1 通常の特許権侵害裁判では 大きな争点となることが多い 被告製品が特許権範囲に含まれるか否か は争われず * 被告 ( アサヒ ) の製品 ( ドライゼロ ) が 下の a を満たすかどうか a) 下の 123 を満たすノンアルコールのビールテイスト飲料 1 エキス分の総量が 0.5 重量 % 以上 2.0 重量 % 以下 2pH が 3.0 以上 4.5 以下 3 糖質の含量が 0.5g/100ml 以下 2 無効理由存否が争われた なお 第 2 審 ( 控訴審 ) と並行して無効審判も請求された ( 7/17 )

本特許の手続概要 ( 抜粋 ) 1) 特許願 : 差出日 ( 平 25.5.27) 2) 手続補正書 : 差出日 ( 平 25.5.27) 今回の訴訟には 大きな影響を与えない内容 3) 出願審査請求書 : 差出日 ( 平 25.8.5): 早期審査請求付き 4) 手続補正書 : 差出日 ( 平 25.8.5) 請求項 1 エキス分の総量が 0.5 重量 % 以上 2.0 重量 % 以下であるビールテイスト飲料であって ph が 3.0 以上 4.5 以下であり 糖質の含量が 0.5g/100ml 以下である 前記飲料 ( 請求項 2 以降は略 ) 5) 拒絶理由通知書 : 起案日 ( 平 25.9.2) 発送日 ( 平 25.9.4) 特許請求範囲の記載不備 この頃 被告はドライゼロ 6) 手続補正書 : 差出日 ( 平 25.9.4) 発売開始 上記 5) の内容を修正 7) 特許査定 : 起案日 ( 平 25.9.19) 8) 特許成立 ( 平成 25 年 10 月 11 日 ) 9) 訂正審判平成 26 年 6 月 20 日請求 平成 26 年 8 月 7 日審決確定 ビールテイスト飲料 ノンアルコールのビールテイスト飲料 に訂正 訂正後 請求項 1 エキス分の総量が 0.5 重量 % 以上 2.0 重量 % 以下であるノンアルコールのビールテイスト飲料であって ph が 3.0 以上 4.5 以下であり 糖質の含量が 0.5g/ 100ml 以下である 前記飲料 ( 請求項 2 以降は略 ) ( 8/17 )

( 第 1 審 ) 東京地方裁判所 平成 27 年 ( ワ ) 第 1025 号 特許権侵害差止請求事件 原告 サントリーホールディングス株式会社 被告 アサヒビール株式会社 原告の請求被告による被告製品 ドライゼロ の製造等の行為が 原告所有の特許第 5382754 号に係る特許権の侵害に当たるので (1) 被告製品 ドライゼロ を製造 譲渡 譲渡の申出をしてはならない (2) 被告製品 ドライゼロ を廃棄せよ 争点 (1) 被告は 被告製品 ドライゼロ が本特許発明の技術的範囲に属することを争っていない (2) 被告は 本特許が特許無効審判により無効にされるべきものとして原告が本件特許権を行使することができないと主張している ( 特許法 104 条の 3 第 1 項 ) 無効の理由は 次の通り 1 サポート要件 ( 特許法 36 条 6 項 1 号 ) 違反 2 実施可能要件 ( 同条 4 項 1 号 ) 違反 3 補正要件 ( 同法 17 条の 2 第 3 項 ) 違反 4 進歩性欠如 a) 原告製品 オールフリー ( 公然実施発明 1) に基づく b) 被告製品 ダブルゼロ ( 公然実施発明 2) に基づく c) その他 ( 米国特許第 3717471 号公報 優先権主張無効 ) 5 拡大先願違反 ( 特開 2013-21944 号公報に基づく ) 判決 a) 原告製品 オールフリー ( 公然実施発明 1) に基づく進歩性欠如 b) 被告製品 ダブルゼロ ( 公然実施発明 2) に基づく進歩性欠如原告特許は無効審判により無効とされるべき 権利行使不可 ( 原告敗訴 ) ( 9/17 )

無効理由の存否 :4 進歩性欠如 :a) オールフリー ( 公然実施発明 1) に基づく 被告主張オールフリーが本件特許の優先日前に発売されたことにより, オールフリーに係る発明 ( 公然実施発明 1) は日本国内において公然実施をされた発明となった 原告製品 オールフリー ( 公然実施発明 1) 1 エキス分の総量が 0.39 重量 % であるノンアルコールのビールテイスト飲料 2 ph は 3.78 である, 3 糖質の含量は 0.5g/100ml 未満である ( 本件発明と公然実施発明 1 との相違点 ) 本件発明 : エキス分総量 0.5 重量 % 以上 2.0 重量 % 以下公然実施発明 1: エキス分総量 0.39 重量 % ( 相違点の容易想到性 ) ビールに関してエキス分を測定することは当業者では当然の事項となっている ビールとノンアルコールビールとは同じ技術分野に属するので, ビールの分析項目であるエキス分につきノンアルコールビールでも測定することが当業者では常識となっている このように, エキス分は, 本件特許の優先日前において当業者に広く知られた技術事項であり, ビールテイスト飲料を調整するに当たっては, 当然に着目する事項である 本件特許の優先日前においては, アルコールの有無にかかわらず, 飲料中のエキス分が低い場合に, 風味, ボディ感, コク味ないし味の厚みに欠けることは当業者に広く知られていた さらに, ノンアルコールビールテイスト飲料に限ってみても, エキス分を増やせば飲み応えが付与されることは当業者における技術常識であった そして, オールフリーについては, 多くの消費者から, コクがない, 味が薄い 等の厳しい評価を受けており, コク ( 飲み応え ) に乏しいことが当業者に認識されていた そうすると, 公然実施発明 1 及びこれに関する評価を見た当業者において, 飲み応えを出すためにエキス分を増やそうとする動機付けや示唆があったことは明らかである したがって, 公然実施発明 1 において, 飲み応えを高めるためにエキス分を 0.5 重量 % 以上まで増加させることは, 容易に想到できたものである ( 10/17 )

無効理由の存否 :4 進歩性欠如 :a) オールフリー ( 公然実施発明 1) に基づく 原告主張 ( 公然実施発明 1) 被告がオールフリーを分析した結果 ( 乙 1,41 の 1) を見ると, 数十に及ぶ分析項目が存在する 多数の分析項目の中からエキス分の総量,pH 及び糖質の含量の 3 つの成分のみを抜き出すことは本件発明の解決手段ないし解決結果を踏まえなければ不可能である すなわち, 被告が主張する構成は事後分析的な後知恵に基づくものというべきであるから, これを公然実施発明 1 の構成とすることはできない ( 本件発明と公然実施発明 1 との相違点 ) 本件発明 : エキス分の総量を 0.5 重量 % 以上 2.0 重量 % 以下,pH を 3.0 以上 4. 5 以下, 糖質の含量を 0.5g/100ml 以下公然実施発明 1: その分析結果における各成分及び含有量としている ( 相違点の容易想到性 ) オールフリーは市場での販売金額上位 10 品目のランキングで 1 位を占めており, 消費者の満足度は極めて高く, 飲み応えの課題があったとは想定し難い そうすると, 公然実施発明 1 から本件発明の解決課題 ( エキス分の総量が低いノンアルコールのビールテイスト飲料であっても飲み応え感が付与された飲料を提供すること ) を容易に認識し得ないから, 相違点に係る構成に至ることが容易であったとはいえない また, 飲み応え感を付与するという課題を認識できたとしても, アルコール飲料において飲み応え感を付与するためには, エキス分を増やすのではなく, 各種添加剤の種類や量を検討してみることが一般的であったから, エキス分の総量,pH 及び糖質の含量のみに着目する示唆や動機付けは一切ない さらに, オールフリーの商品コンセプトは, トリプルゼロ ( アルコール, カロリー, 糖質のゼロ ) であり, エキス分が薄い飲料であることを特徴としてそれが消費者に受け入れられていたのであるから, このコンセプトを破壊するようなエキス分の総量を増やす行為は, オールフリーそのものを否定することであり, 設計事項としてなし得ない 本件発明の技術的意義は,pH 調整による技術的意義としての高さと絶対量としての飲み応え感の高さとはトレードオフの関係にあるという新規な発見の中で, 双方を両立させた範囲としてエキス分の総量を 0.5~2.0 重量 % とした点にあり, 低糖質 (0.5g/100ml 以下 ) であっても所定の ph 範囲であればこの技術的意義を維持できることが特徴である 本件発明の効果は, このような技術的意義に裏打ちされたものであり, 公然実施発明 1 からは全く予測できない顕著なものであった ( 11/17 )

無効理由の存否 :4 進歩性欠如 :a) オールフリー ( 公然実施発明 1) に基づく 判決 ( 本件発明と公然実施発明 1との相違点の認定 ) オールフリーは本件特許の優先日前である平成 22 年 8 月 3 日に原告が販売を開始したものであり, その成分等を分析することが格別困難であるとはうかがわれないから, オールフリーに係る発明 ( 公然実施発明 1) は日本国内において公然実施をされた発明 ( 特許法 29 条 1 項 2 号 ) に当たる 原告は, 本件発明はエキス分の総量,pH 及び糖質の含量の各数値範囲と飲み応え感及び適度な酸味付与という効果の関連性を見いだしたことを技術思想とするものであり, 公然実施発明 1はこのような技術思想を開示するものではないから, オールフリーの多数の分析項目の中からエキス分の総量,pH 及び糖質の含量のみを抜き出して公然実施発明 1を特定することは許されず, エキス分の総量,pH 及び糖質の含量をひとまとまりの構成として相違点を認定すべきである旨主張する 本件発明は, 特許請求の範囲の記載上, エキス分の総量,pH 及び糖質の含量につき数値範囲を限定しているが, 各数値がそれぞれ当該範囲内にあれば足りるのであり, これらが相互に特定の相関関係を有することは規定されていない また, 本件明細書の発明の詳細な説明の欄をみても, 例えば, エキス分の総量が0.5 重量 % であるときはpHをどの範囲とし, これが2.0 重量 % であるときはpHをどの範囲とするのが望ましいなどといった記載は見当たらず, 要は, エキス分の総量,pH 及び糖質の含量がそれぞれ数値範囲内にあれば足りるとされている エキス分の総量,pH 及び糖質はノンアルコールのビールテイスト飲料の性状を特定する上でごくありふれた項目であり, 当業者であれば当然に着目する事項とみることができる さらに, 本件発明は, 特許請求の範囲の記載上, エキス分又は糖質として具体的にどのような物質をいかなる量含有するか,pHの数値をどのように規制するかを特定するものでなく, また, 他の成分の存否や測定値につき触れるところもない 本件明細書 ( 甲 2) の発明の詳細な説明の記載をみても, エキス分の具体的成分及び総量を規制する手段,pH 調整剤の種類及び使用方法, 糖質の種類, その他の添加物の有無等に格別の限定はされていない ( 段落 0 020, 0021, 0024 ~ 0027, 0030, 0033 ) そうすると, 別紙 1-1~3に示された公然実施発明 1の多数の分析項目のうちエキス分の総量,pH 及び糖質以外の成分等の分析結果は, 本件発明の進歩性を検討するに当たり考慮する必要はないと考えられる 以上によれば, 本件発明の進歩性を判断する前提として公然実施発明 1との相違点を認定するに当たっては, エキス分の総量,pH 及び糖質の各数値をみれば足りると解すべきであるから, 原告の上記主張を採用することはできない ( 12/17 )

無効理由の存否 :4 進歩性欠如 :a) オールフリー ( 公然実施発明 1) に基づく 判決 ( 公然実施発明 1 に関する相違点の容易想到性 ) 公然実施発明 1 は, 本件特許の優先日当時, 我が国におけるノンアルコールのビールテイスト飲料の中で販売金額が最も大きかったが, その一方で, 消費者から, コク ( 飲み応え ) がない, 物足りない, 味が薄いといった評価を受けていた ( 乙 10,34~36) ノンアルコールのビールテイスト飲料については, 本件特許の優先日以前から, 濃厚感, 旨味感, モルト感, ボリューム感やコク感を欠くという問題点が指摘されており, これらを解消して飲み応えを向上させるため, 穀物の摩砕物にプロテアーゼ処理を施して得られる風味付与剤, 麦芽溶液を抽出して得られる香味改善剤又は香料組成物, 植物性タンパク分解物や麦芽抽出物, 麦芽エキス, 清酒由来のエキスを用いる風味向上剤, 茶葉の水又はエタノール抽出物といった添加物を用いる技術が周知となっていた ( 乙 14~16,2 5~27) 本件明細書におけるエキス分の総量とは, アルコール度数が 0.0 05% 未満の飲料の場合, 脱ガスしたサンプルをビール酒造組合国際技術委員会 (BOC J) が定めるビール分析法に従って測定したエキス値 ( 重量 %) をいう ( 段落 0022 ) 上記 ( イ ) の風味付与剤等は いずれもこの方法の測定対象となるエキス分に当たる ( 甲 2, 乙 2) 公然実施発明 1 に接した当業者において飲み応えが乏しいとの問題があると認識することが明らかであり, これを改善するための手段として, エキス分の添加という方法を採用することは容易であったと認められる そして, その添加によりエキス分の総量は当然に増加するところ, 公然実施発明 1 の 0.39 重量 % を 0.5 重量 % 以上とすることが困難であるとはうかがわれない そうすると, 相違点に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである なお, 飲料中のエキス分の総量を増加させた場合には ph 及び糖質の含量が変化すると考えられるが, エキス分には糖質由来のものとそれ以外のものがあり ( 本件明細書の段落 0 020, 0033 参照 ),ph にも多様のものがあると解されることに照らすと, 公然実施発明 1 にエキス分を適宜 ( 例えば, 非糖質由来で酸性又は中性のものを ) 加えてその総量を 0.5 重量以上としつつ,pH 及び糖質の含量を公然実施発明 1 と同程度のもの ( 本件発明の特許請求の範囲に記載の各数値範囲を超えないもの ) とすることに困難性はないと解される ( 13/17 )

無効理由の存否 :4 進歩性欠如 :b) ダブルゼロ ( 公然実施発明 2) に基づく 被告主張ダブルゼロが本件特許の優先日前に発売されたことにより, ダブルゼロに係る発明 ( 公然実施発明 2) は日本国内において公然実施をされた発明となった 被告製品 ダブルゼロ ( 公然実施発明 2) 1 エキス分の総量が 1.07 重量 % であるノンアルコールのビールテイスト飲料 2pH は 3.05 3 糖質の含量は 0.9g/100ml である ( 本件発明と公然実施発明 2との相違点 ) 本件発明 : 糖質含量 0.5g/100ml 以下公然実施発明 2: 糖質含量 0.9g/100ml ( 相違点の容易想到性 ) 糖質の含量は, ビールテイスト飲料を調整するに当たって当然に着目する事項である 同基準は, 糖質が 0.5g/100ml 未満であれば食品に 糖質 0( ゼロ ) と表示することができる旨定めているところ, 糖質ゼロ のビールテイスト飲料に対して健康志向の強い消費者の関心が高まっており, 糖質の含量を 0.5g/ 100ml 未満に下げる強い動機付けがあった したがって, 糖質の含量を下げることは一般的な課題にすぎず, 当業者であれば容易に想到できたものである 本件明細書では, 糖質の含量を 0.5g/100ml 以下にすることで, これを 0.5g/100ml より高くした例と比べて, 飲み応えや酸味が格段に改善されたということは何ら示されておらず, 糖質の含量を 0.5g/100ml 以下にすることに技術的意義はない また, 本件発明の特許出願時の特許請求の範囲の請求項 1 には糖質の含量について何ら限定されていなかったが, 本件補正により糖質の含量を 0.5g/100ml 以下と限定されたところ, これは公然実施発明 2 を回避するために行ったものであるから, 従来技術である公然実施発明 2 と比べて何らの技術的貢献をもたらすものではない したがって, 本件発明は, 公然実施発明 2 に基づいて容易に発明をすることができたものであるから, 進歩性を欠く ( 特許法 29 条 2 項 ) ( 14/17 )

無効理由の存否 :4 進歩性欠如 :b) ダブルゼロ ( 公然実施発明 2) に基づく 原告主張 ( 公然実施発明 2) 上記と同様の理由により, 被告が主張する構成を公然実施発明 2 の構成とすることはできない 別紙 2-1~5 の分析結果における各成分及び含有量であるノンアルコールのビールテイスト飲料 ( 本件発明と公然実施発明 2 との相違点 ) 本件発明 : エキス分の総量を 0.5 重量 % 以上 2.0 重量 % 以下,pH を 3.0 以上 4. 5 以下, 糖質の含量を 0.5g/100ml 以下公然実施発明 2: その分析結果における各成分及び含有量としている ( 相違点の容易想到性 ) 本件特許の優先日当時, ダブルゼロは相応の売上げを達成していた商品であり, 飲み応えに課題があったとは認められない そうすると, 公然実施発明 2 から本件発明の解決課題を容易に認識し得ないから, 相違点に係る構成に至ることが容易であったとはいえない また, 公然実施発明 2 の各種成分のうち, 糖質の含量に着目する動機付けはなく, 糖質の含量は本件発明の課題ないし効果 ( 飲み応え感の付与効果 ) とは全く異質なものであるから, 公然実施発明 2 から相違点に係る構成に至ることは容易でない さらに, ダブルゼロは麦芽エキスを使用することを特徴としているところ, 麦芽エキスの主成分は糖質であるから, 糖質の含量を少なくすることは, 麦芽エキスを少なくすることに等しく, ダブルゼロの製造目的に反することになるので, 公然実施発明 2 について糖質の含量を少なくするとの課題ないし動機付けは生じない 現に, 被告は, 平成 24 年 2 月 21 日にダブルゼロの後継商品 ( 初代 ドライゼロ ) を発売しているところ, この商品は糖質を 3. 4g/100ml も含むものであるから, 公然実施発明 2 の糖質含量 0.9g/100m l を更に引き下げるという技術的課題は認識されていなかったというべきである 公然実施発明 1 についてと同様の理由により, 本件発明の効果は公然実施発明 2 からは全く予測できない顕著なものであった したがって, 本件発明は, 公然実施発明 2 に対して十分に進歩性を有するものである ( 15/17 )

無効理由の存否 :4 進歩性欠如 :b) ダブルゼロ ( 公然実施発明 2) に基づく 判決 ( 公然実施発明 2 に関する相違点の容易想到性 ) ダブルゼロは本件特許の優先日前に被告が販売を開始したものであり, その成分等を分析することが格別困難であるとはうかがわれないから, ダブルゼロに係る発明 ( 公然実施発明 2) は日本国内において公然実施をされた発明 ( 特許法 29 条 1 項 2 号 ) に当たる 原告は, ダブルゼロの多数の分析項目の中からエキス分の総量,pH 及び糖質の含量のみを抜き出して公然実施発明 2 を特定し, 相違点を認定することは許されない旨主張するが 同様の理由により, これを採用することはできない 本件特許の優先日当時, 健康志向の高まりを受けて, ノンアルコールのビールテイスト飲料の分野では 糖質ゼロ との表示のある商品が消費者から支持されていたこと, 栄養表示基準 ( 平成 15 年 4 月 24 日厚生労働省告示第 176 号 ) においては, 糖質を 100m l 当たり 0.5g 未満とすれば糖質を含まない旨の表示をすることができることが認められる 上記事実関係によれば, 公然実施発明 2 に接した当業者においては, 糖質の含量を 100ml 当たり 0.5g 未満に減少させることに強い動機付けがあったことが明らかであり, また, 糖質の含量を減少させることは容易であるということができる そうすると, 相違点に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである なお, 飲料中の糖質の含量を減少させた場合にはエキス分の総量が減り,pH が変化すると考えられるが, エキス分には糖質由来のものとそれ以外のものがあり ( 本件明細書の段落 0020, 0033 参照 ), その ph にも多様のものがあると解されることに照らすと, 公然実施発明 2 の糖質の含量を減少させてこれを 0.5g/100ml 以下としつつ, 糖質に由来しないエキス分であって, 酸性又は中性のものを増加させるなどして, エキス分の総量及び ph を公然実施発明 2 と同程度のもの ( 本件発明の特許請求の範囲記載の各数値範囲を超えないもの ) とすることに困難性はないと解される 以上によれば, 本件発明は公然実施発明 2 に基づいて容易に想到することができたから, 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められる ( 16/17 )

第 1 審判決結論 以上の次第で, 原告は被告に対して本件特許権を行使することができないから ( 特許法 104 条の 3 第 1 項 ), その余の点を判断するまでもなく, 原告の請求はいずれも理由がない よって, 原告の請求をいずれも棄却する a) 原告製品 オールフリー ( 公然実施発明 1) に基づく進歩性欠如 b) 被告製品 ダブルゼロ ( 公然実施発明 2) に基づく進歩性欠如原告特許は無効審判により無効とされるべき 権利行使不可 ( 原告敗訴 ) 原告敗訴を受け 原告平成 27 年 11 月 知的財産高等裁判所へ控訴 被告平成 28 年 4 月 14 日付 原告特許の無効審判請求 ( 無効 2016-800049) 第 2 審 ( 知的財産高等裁判所 ) 平成 28 年 7 月 20 日 和解成立 原告 被告 侵害訴訟取り下げ 無効審判取り下げ ( 17/17 )