図 - 1 設備関連改修工事の取組み 2. 自然エネルギーと高効率機器を利用した熱源システム 2.1 熱源システム概要熱源システムは, 自然エネルギーの有効利用 高効率 トップランナーシステムの採用 をポイントとして計画し, 電気とガス, および氷蓄熱システム ( 既設再利用 ) による夜間電力を利

Similar documents
三建設備工業つくばみらい技術センター汎用機器を用いた潜熱処理システムの運転実績

<4D F736F F F696E74202D F8EC08DDD8C9A95A B29835A B8BF392B22E >

<4D F736F F F696E74202D F8EC08DDD8C9A95A B29835A B8BF392B22E >

NHK環境報告書2008

業務用空調から産業用まで 圧倒的な効率で省エネやCO2排出量削減に 貢献するKOBELCOのヒートポンプ ラインナップ一覧 業界最高効率の高い省エネ性 シリーズ 全機種インバータを搭載し 全負荷から部分 機 種 総合COP 冷房 供給温度 暖房 熱回収 冷温同時 製氷 冷媒 ページ HEMⅡ -10

Microsoft PowerPoint - 資料7-5.ppt

3. 測定結果 床吹出し空調は 7 階会議室と 17 階幹部室で実施したが 計測結果は室用途や使用状況から若干の違いはあるものの ほぼ同様な傾向を示すことから本報告はその内容を特徴的に表す 17 階幹部室の計測データを報告する 夏期 (1) 室内温度分布 冬期 図.4 17 階幹部室温度 ( 床吹出

2011 年夏季における日建設計東京ビルの節電対策と実績 Reduction of Electric power consumption in Nikken Sekkei Tokyo building in Summer 2011 株式会社日建設計設備設計部門環境 設備技術部 NIKKEN SEKK

PowerPoint プレゼンテーション

見直し後11 基準相当1.64GJ/ m2年hh11 基準相当見直しH11 基準と見直し後の省エネ基準の比較について 住宅 建築物判断基準小委員会及び省エネルギー判断基準等小委員会平成 24 年 8 月 31 日第 2 回合同会議資料 1-1 より抜粋 設備機器の性能向上により 15~25% 程度省

真空ガラス スペーシア のご紹介 一般に使用されている一枚ガラスの約 4 倍の断熱効果を発揮!! お部屋全体を快適にします オフィスやパブリックスペースの環境は 冷房や暖房に常に取付専用グレチャン気を配らなければなりません 高断熱 Low-Eガラスしかし一方で経営者の方々にとっては節電対策も重要な項

住宅部分の外壁 窓等を通しての熱の損失の防止に関する基準及び一次エネルギー消費量に関する基準 ( 平成 28 年国土交通省告示第 266 号 ) における 同等以上の評価となるもの の確認方法について 住宅部分の外壁 窓等を通しての熱の損失の防止に関する基準及び一次エネルギー消費量に関する基準 (

環境・設備からみたLCCM住宅へのアプローチ

補足資料 1-2 運用実施 温水ボイラの空気比低減による燃料消費量の削減 (13A ガス ) 現状 問題点都市ガスボイラを使用 燃料を完全燃焼させるための空気比が大きい ( 排ガス温度 200 空気比 1.5) そのため 排ガス量が増加し 排ガス熱損失が増加している 空気比 21/{21-( 排ガス

外気カット制御 有 外気冷房制御 無 全熱交換器制御 有 ( 全熱交換効率 0.) 2 換気設備 室用途毎に基準設定換気風量 ( 換気回数 ) 基準設定全圧損失 標準的な送風機の送風機効 率 伝達効率 余裕率 モータ効率を定め これらを標準設備仕様とする 基準設定換気風量 : 設計者へのヒアリング調

azbil Technical Review 2011年1月号

【HP公表 最終版の公表前確認修正有り】 北陸取組み(個票)

1. 背景 目的 -1- CO2 排出量 の削減 地球温暖化防止 電力消費の削減と平準化 電力不足への対応 グローバルな要求事項 今後の電力供給体制への影響が大きい 地球温暖化が叫ばれる中 グローバルな要求事項として CO2 排出量の削減が求められている 加えて震災後の電力供給体制に対し 電力消費そ

Microsoft Word - モデル建物法H28_解説書_ALL_v2.1_ docx

Heading title

<4D F736F F D2088F38DFC AC28BAB8D488A778CA48B8689EF81698EAD93878C9A90DD D B A2E646F63>

<4D F736F F F696E74202D2092B788E42D C838B834D815B8C768E5A2E B8CDD8AB B83685D>

【配布資料】

店舗・オフィス用パッケージエアコン「省エネの達人プレミアム」新シリーズを発売

Excelによる非住宅建築物の一次エネルギー計算手順(空調)_

地方公共団体カーボン マネジメント強化事業 ( 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金 ) 山梨市役所本庁舎西館空調 照明設備の更新による省エネ化 二酸化炭素排出量削減事業 旧庁舎 合併後 耐震性が不足している旧庁舎から 既存工場の建物に新エネ 省エネ設備の導入を含めた コンバージョン改修を実施 西館

32 エアフローについて り 室内空気を誘引します 図5 誘引比は一 夏期の除湿モードでは 外気はと全熱交換 次空気100 /hに対し350 /hの室内空気を誘引 器で熱交換し プレクーラーで予冷し相対湿度を し 450 /hの風量として室内に吹出されます 高めます 次にデシカントローターで除湿した

平成 27 年度補正予算中小企業等の省エネ 生産性革命投資促進事業費補助金 設備別省エネルギー効果計算の手引き 省エネルギー効果計算について 平成 28 年 7 月 2.0 版

夏期節電手法のご紹介 に関する資料の見方 節電メニューの説明 節電メニューの概要について説明しています 計算例 節電効果をお客さま自身にて理解し試算できるよう, 試算条件や計算式等を記載しております ( 注 : ある条件下による試算事例であり, 各々の建物の運用状況等によって節電効果は異なります )

01 02

放射併用パーソナル空調システムの導入事例

Microsoft PowerPoint _ _挰喬表è³⁄挎(æ¡‹)H _报渖é£�åfi†.pptx

国土技術政策総合研究所 研究資料

AISIN GROUP REPORT 2011

用途別熱源の採用と 気候特性を活かした省エネ 株式会社ホテル新潟 ( ANA クラウンプラザホテル新潟 )

<4D F736F F D20335F F5A91EE835B838D C8C768E5A977697CC5F FC C8AEE8F808F808B DC58F4994C5817A5F

第一三共札幌支店ビルの空調設備


実施例 AKASAKA K-TOWER の空調設備計画 キーワード / システム COP 水蓄熱 建物負荷抑制 空気搬送動力削減 鹿島建設 建築設計本部設備設計統括グループ弘本真一 1. はじめに 赤坂 Kタワーは, 赤坂見附の都市景観の中で40 年にわたり存在感を示していた鹿島旧本社ビルのデザイン

<4D F736F F D208E9197BF315F B838D C8C768E5A977697CC5F FC C8AEE8F808F808B925F E646F63>

表紙

1. 目的 実施計画 高度なエネルギーマネジメント技術により 需要家側のエネルギーリソースを統合的に制御することで バーチャルパワープラントの構築を図る < 高度なエネルギーマネジメント技術 > 蓄熱槽を活用した DR 複数建物 DR 多彩なエネルギーリソースのアグリゲーション < 便益 > 系統安

本事業の背景 目的 2 オフィスの照明 空調等の室内環境設備の運用の最適化を行い 執務者の快適性や知的生産性を損なわず省エネを実現する制御方式を実ビルに適用し CO 2 排出量の削減を図る また 専門家が計測データに基づいて効率的 継続的に省エネチューニングを行えるクラウド型の分析環境を構築し 実ビ

章の表紙

Microsoft Word - 問題冊子 docx

5

工場など天井が高く、中・大規模な空間の効率的な空調を実現する置換換気空調用パッケージエアコンを製品化

低炭素都市づくりガイドライン(案)について

各家庭の 1 年間の出費のうち約 7% は電気 ガス 灯油といったエネルギーへの支出です 詳しくは 各制度のパンフレット W EB で 市民向け 太陽光発電 燃料電池 ( エネファーム ) HEMS ( ホームエネルギーマネジメントシステム ) 定置用蓄電 太陽熱利用 ガスエンジン木質コージェネバイ

1 指定地球温暖化対策事業者の概要 (1-2) 指定地球温暖化対策事業者及び特定テナント等事業者の氏名 指定地球温暖化対策事業者又は特定テナント等事業者の別 地球温暖化対策計画書 氏名 ( 法人にあっては名称 )

ESG 投資の普及促進に向けた認証制度のあり方について (1) 概要 働く人の健康性 快適性等に関するオフィスビルの認証制度 評価の対象 : オフィスビル ( 自社ビル 賃貸ビル )( 新築 既存 ) 申請者 : ビルオーナーによる申請を基本とする ( 区分所有者等又はビルオーナーとテナントの両者等

大成建設技術センター報第 4 号 (28) 3. 操作 制御システムの概要 3. パーソナル空調に要求される操作 制御機構パーソナル空調の個人単位の操作 制御の特徴を活かし 個人にとっては好みの操作を可能とし 2 管理側にとっては在席状況に応じて個々の吹出しユニットを ON/OFF して細やかに省エ

土壌熱容量を用いる外気負荷低減システムに関する研究

Microsoft Word 印刷ver 本編最終no1(黒字化) .doc

<819C A926E8B8589B BB91CE8DF48C7689E68F D52322E786C73>

<4D F736F F D208EAD93874B B205A454289BB89FC8F438EC08FD88E8E8CB12E646F63>

. 計画概要 - 環境負荷低減手法本計画で採用した環境負荷低減手法は大きくわけて 4 項目から成り その一覧を図 -に示す 空調計画上の主な特徴は クールビズ空調に対応した快適性と省エネ性の両立を目指した潜熱顕熱分離空調システム 日射負荷に対応した高機能なペリメータ負荷制御システムの採用であり 様々

資料1 :住宅(家庭部門)の中期の対策・施策検討

1

B.2 モニタリング実績 (1) 活動量 ( 燃料消費量 生成熱量 生産量等 ) 記号 モニタリング項目 定義 単位 分類 1 モニタリング方法 概要 頻度 実績値 モニタリング実績 計測対象期間 ( 年月日 ~ 年月日 ) 備考 F PJ,biosolid プロジェクト実施後のバイオマス固形燃料使

<4D F736F F F696E74202D208CF6955C97705F B F B5F B40945C82CC88EA82C282C582A082E9936

オフィスのエアコンの設定温度 ( 冷房時 ) は 26 が最多 (24.8%)! Q1. 夏場 あなたが勤めるオフィスの冷房の設定温度は 通常何 に設定していますか? 22 以下 1.9%( 19) %( 17) %( 57) %(163) %(2

資料8 (資源エネルギー庁提供資料)

57-62⑥新技術.eca

<93CD8F6F976C8EAE81698B4C8DDA97E1816A2E786C7378>

4 推進体制別途添付いたします 5 公表の方法等 ホームページアドレス 閲覧場所 窓口で閲覧 所在地 冊 子 閲覧可能時間 冊子名 入手方法 その他

新規文書1

01_03_特集.indd

,745 3,000 JK

新事業分野提案資料 AED(自動体外式除細動器) 提案書

また ユーザーの意識向上 光熱水費の節減を図るため 光熱水使用量をエリア毎に見える化し 建物単位毎に計量可能な計画とする ( 各設備の計画 ) 6. 電気設備 1) 電力設備 1 特高受変電設備 : 最大電力の増大に伴い用途の異なるに特別高圧受変電設備を新設し 波及事故範囲の分散及び電源供給の信頼性

2

自然熱エネルギー 未利用エネルギーを活用し 環境配慮に貢献する 配管システムのご提案 クリーンな エネルギーを 有効利用 で 様々なシーン ギー 利 用 自 然 熱 エネ ル 未利用熱回収タンクユニット ホット Reco FRP製貯湯槽 ホットレージ 熱交換槽 貯湯槽 架橋ポリエチレン管 温泉引湯

1

資料2:地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ(議論のたたき台)(案)

第二面 1. 建築物の位置 延べ面積 構造 設備及び用途並びに敷地面積に関する事項 建築物に関する事項 1. 地名地番 2. 敷地面積 m2 3. 建築面積 m2 4. 延べ面積 m2 5. 建築物の階数 地上 階 地下 階 6. 建築物の用途 一戸建ての住宅 共同住宅等 非住宅建築物 複合建築物

(2) ベースラインエネルギー使用量 それぞれの排出起源のベースラインエネルギー使用量の算定方法は以下のとおり 1) 発電電力起源 EL BL = EL ( 式 1) 記号定義単位 ELBL ベースライン電力使用量 kwh/ 年 EL 事業実施後のコージェネレーションによる発電量 kwh/ 年 2)

Microsoft Word - testing_method_desiccant_ docx

発売の狙い 昨今の電力事情から節電に対する関心は高く 業務用エアコンにおいてもより一層の省エネ 節電を強く求められています また エネルギー効率が高い製品の使用を促進するために 省エネルギー法で 2015 年度に具体的に達成すべき基準値が定められています 当社は今回 機器本体の省エネ性の向上を図り

Microsoft PowerPoint - ANNEX40報告会_ _尹先生

<4D F736F F D208AC28BAB8D488A778CA48B865F938C8AD6938C8E E646F6378>

公開用_ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の定義と評価方法(150629)

発売の狙い 地球温暖化抑制に向け 店舗 事務所用エアコンには省エネ性向上が求められており 冷暖房ムラの解消や立ち上がり時間の短縮 風あたり感の解消など さらなる気流制御の改善が求められています 当社は今回 店舗 事務所用パッケージエアコン 4 方向天井カセット形において業界初 1 となる左右風向調整

目次 ~2017 年度冬版 L2-Tech 認証製品一覧 Ver.1.00 産業 業務 ( 業種共通 ) 技術体系設備 機器等ページ番号技術体系設備 機器等ページ番号空調機 ( ヒートポ 1~15 産業 業務窓三層 Low-E 複層ガラス (LE3+Ar11+FL3+Ar11+LE3) 143 (

1省エネ法の概要等.indd

<4D F736F F F696E74202D D8E9197BF82522D82535F8CA982A682E989BB90AC89CA95F18D EE93638AC28BAB8CA48B868F8A817A2E707

小児科 小児歯科 屋上庭園 手術室 施 施 施 施 施 個室診療室 MRI 室 CT 室受付図 -1 診療棟構成 配置 ( 広島大学病院 News) 歯科診療室 4. 設備概要 4-1 空調設備 空調方式検査室, 診察室等における空調方式は, 導入外気処理空調機と水熱源マルチエアコン (

(Microsoft PowerPoint - \201\237\216\221\227\277\202R-\207A.ppt [\214\335\212\267\203\202\201[\203h])

アジェンダ 1. 市場動向 2. ハイブリッド給湯機とは 3. 省エネ性 4. 経済性 5. 環境性 6. 快適性 7. 当社製品の特 2

(2) ベースラインエネルギー使用量 それぞれの排出起源のベースラインエネルギー使用量の算定方法は以下のとおり 1) 発電電力起源 EL BL = EL ( 式 1) 記号定義単位 ELBL ベースライン電力使用量 kwh/ 年 EL 事業実施後のコージェネレーションによる発電量 kwh/ 年 2)

事例8_ホール素子

資料1:地球温暖化対策基本法案(環境大臣案の概要)

01盤用熱対策機器_coolcabi.indd

住宅・建築物の 着実な省エネルギー設計への誘導

東芝ライテック株式会社 照明器具個別制御システム T/Flecs ティーフレックス 2014年4月 T/Flecsは 照明器具を1台ごとにコントロールする照明制御シス きめ細かい制御で快適な視環境と省エネを実現します T/Flecs システムでは 照明器具ごとに通信機能を持たせることで それぞれの明

<4D F736F F D2089C692EB BF B C838C815B CC AF834B E2895BD90AC E368C8E29>

公益社団法人関西経済連合会様主催 省エネ実践セミナー 補助金を活用した空調設備の 省エネ改修事例のご紹介 平成 25 年 1 月 22 日 ( 火 ) ダイキン工業株式会社 0

1 平成 22 年度の取組み結果 平成 22 年度の取り組み結果は 下記のとおりです 温室効果ガスの総排出量 平成 22 年度 温室効果ガス総排出量 (t-co2) 26,876 27, % 具体的取り組み 平成 22 年度 電気使用量 (kwh) 37,334,706 38,665,4

技術名

建築物エネルギー消費量調査 第35報

Transcription:

リニューアルの動向 2013 特集 2. オフィスのリニューアル事例 新菱冷熱工業本社ビルにおける省エネ改修 福井雅英 MASAHIDE FUKUI ( 新菱冷熱工業 中央研究所サステナブルエネルギーシステムグループ ) はじめに 1970 年の竣工から40 年が経過した新菱冷熱本社ビル ( 以下, 本社ビルとよぶ ) は, 基本設備は竣工当初のものであり, 老朽化に対する対応が求められていた また, 近年, 建築物における省エネルギー化への要求と建築物の改修におけるストック & リノベーションへの期待が高まっている このような背景から, 本社ビルにおいて, 既設の躯体を利用しながら省エネルギー化を図る計画を策定し, 改修工事を行った 改修工事は,2011 年 9 月に竣工し, その後, 省エネルギー効果の検証および継続的な省エネルギー強化対策と運用改善に取り組んでいる 本稿では, 改修工事の概要を示すとともに, 改修後初年度である2012 年 4 月 ~2013 年 3 月の運用実績を報告する 1. 改修工事の概要 1.1 コンセプト省エネルギーだけでなく建物利用者の健康, 知的生産性向上の観点から, 省エネルギーと快適性の両立 を本改修工事のコンセプトとした これを実現するために, 1) ハードウエアによる省エネルギー化の追求 2) 快適性を向上させる空調システムの構築 3) 建物利用者に省エネルギーと快適性を意識させるソフトウエアの 3 項目を柱として改修計画を検討した また, 以下に示す目標を定めた 1 エネルギー削減率初年度 32%( 最終目標 40%) 2 CO 2 排出量削減率初年度 28%( 最終目標 37%) 3 CASBEE- 改修 Sランクの取得 1.2 建物概要本社ビルの外観写真を写真 - 1 に, 建築概要を表 - 1 に示す 1 階から 8 階を主に執務エリアとして利用し, 執務室は北 西 南面が外壁に面する配置となっている 1.3 設備関連改修内容改修前の本社ビルでは, 設備の老朽化のみならず, 部分改修による空調設備の複雑化, サーバー室エネルギー量の増大, 夏期クールビズ環境下における除湿不十分に 写真 - 1 本社ビル外観 表 - 1 本社ビルの建築概要名称新菱冷熱工業 本社ビル所在地東京都新宿区四谷 2-4 規模 ( 建築面積 )1,196m 2 ( 延床面積 )6,816m 2 ( 階数 ) 地下 1 階, 地上 8 階, 塔屋 2 階構造 SRC 造 ( 一部 S 造 ) よる快適性の低下などの問題点が指摘されていた これらの問題点への対策を前述のコンセプトに基づき検討し, 改修計画を策定した 設備, 外皮および運用技術の改修項目を図 - 1 と表 - 2 に示す 空調用の熱源設備としてソーラークーリングシステム, 空冷ターボヒートポンプチラー ( 以下, 空冷 HPとよぶ ) を採用し, 二次側空調設備に氷蓄熱システム ザ 自由雪計 R を利用した除湿 冷却分離空調システム, スパンごと個別制御型空調システムなどを採用した また, 執務室に調光制御を導入し, 照明電力と冷房負荷の削減を図った 外皮負荷の削減策として, 日射調整フィルム貼付, 窓の二重サッシ化, 外壁の断熱強化などを行った さらに, スパンごとのエネルギーの見える化と個別の寒暑感, 明暗感申請に対応する機能を備えたソフトウエアを開発し導入した また, 設計完了後, 本社ビルは,CASBEE- 改修のSランク認証を取得した なお, 本社ビルの総合改修計画では, 改修工事の完了後も運用方法の検討やサーバーの集約による電力消費量と空調負荷の削減などにより継続的に運用を改善する省エネルギー対策を行っている 12 建築設備士 2013 10

図 - 1 設備関連改修工事の取組み 2. 自然エネルギーと高効率機器を利用した熱源システム 2.1 熱源システム概要熱源システムは, 自然エネルギーの有効利用 高効率 トップランナーシステムの採用 をポイントとして計画し, 電気とガス, および氷蓄熱システム ( 既設再利用 ) による夜間電力を利用する環境負荷低減 節電に配慮したシステムを構築した 熱源システムの構成を図 - 2 に示す 自然エネルギーを有効に活用する設備として, 太陽熱エネルギーを温水に変換し, エネルギー源として冷房 暖房に利用するソーラークーリングシステムを導入した ソーラークーリングシステムは, 集熱ソーラーパネル, 空調設備熱源設備 : 空調方式 : 表 - 2 設備関連改修工事の概要 ソーラークーリングシステム 集熱ソーラーパネル 1.48kW/ 枚 30 枚 排熱吸収式冷温水機冷房 :281kW 暖房 :186kW 1 台 コージェネレーションシステム排熱 :52.5kW 1 台 暖房用温水熱交換器 98.5kW 1 台空冷ターボヒートポンプチラー冷房 :528kW 暖房 :425kW 1 台氷蓄熱システム ザ 自由雪計 R 蓄熱:300RTh( 継続利用 ) 除湿 冷却分離空調システム 外調機 + 各階ドライコイルユニットスパン毎個別制御型空調システム 配管設備 : 冷温水 2 管方式 ( 冷暖切替, 冷水 t= 8 温水 t= 8 ) 自動制御 : 各階空調変風量制御 ( 送風機インバータ制御 ) CO 2 濃度制御 外気冷房制御の併用冷温水変流量制御 ( ポンプインバータ制御 ) 電気 照明設備 LED 照明 高効率 Hf 照明 人感 照度センサによる調光制御 太陽光発電システムその他 自席 PCからの寒暑感 明暗感申請アプリケーション エネルギーの見える化 排熱吸収式冷温水機 ( 以下, 冷温水機とよぶ ), コージェネレーションシステム ( 以下,CGSとよぶ), 暖房用温水熱交換器などにより構成される熱源設備である 集熱ソーラーパネルでは太陽熱を集めて熱源水が作られる 冷房時には, 熱源水 (65~85 ) を冷温水機に供給して冷水を作り冷房に利用し, 暖房時には熱源水 (65 程度 ) を暖房用温水熱交換器を介して暖房に利用するシステムである さらに, 最新鋭の高効率機器である空冷 HPを導入した ソーラークーリングシステム系統と空冷 HP 系統は 図 - 2 熱源システムの構成 2013 10 建築設備士 13

図 - 3 月別冷熱製造熱量 図 - 5 スパン分割 図 - 4 月別温熱製造熱量 ネットワーク配管を介して統合し, さらに中央監視システムにて連携 制御させ, 熱負荷 日射量 機器運転効率などから総合的に判断して高効率なシステム運用を図ることとした 2.2 熱源システム全体の運用実績機器別の冷熱製造熱量 (2012 年 4 月 ~2013 年 3 月 ) を図 - 3 に示す 冷熱製造においては, 空冷 HPがベース運転となり, 期間全体の製造熱量の71% を占めた 冷温水機でこれを補う運用を行い,CGS 排熱温水利用による製造熱量は全体の 8 %, ガス焚が 6 %, ソーラー集熱温水利用が 3 % であった また, 除湿用の熱媒体として利用する氷蓄熱システムの製造熱量は全体の12% であった 機器別の温熱製造熱量 (2012 年 4 月 ~2013 年 3 月 ) を図 - 4 に示す 温熱製造においては, 冷温水機ガス焚の製造熱量が期間全体の43%,CGS 排熱温水利用量は45 %, ソーラー集熱温水利用量は10% であった 温熱需要の大きい空調立上げ時などには空冷 HPで補う運用とし, 空冷 HPの製造熱量は期間全体の 2 % であった 熱源エネルギー全体に占める太陽熱エネルギーの割合は, 冷熱製造において 3 %, 温熱製造において10% であった 3. 快適な執務空間と省エネルギーの両立を実現する空調システム 3.1 システム概要本館の基準階の空調システムは, 執務環境の快適性確保と省エネルギーの両立 を目指し, 除湿 冷却分離空調システムおよび個別制御型空調システムを採用した 除湿冷却分離空調システムは, 冷房運転時, 外気を十分 図 - 6 3 階平面温度分布表 - 3 フロア中央の温熱環境測定結果 フロア 日時 空気温度グローブ温度相対湿度風速 PMV( ) [ ] [ ] [% RH] [m/s] [-] 7/18( 水 )11:00 28.0 27.9 49.9 0.14 0.88 1 階 7/18( 水 )14:00 27.8 28.0 48.7 0.09 0.99 7/25( 水 )14:00 27.0 27.2 47.2 0.02 0.75 7/18( 水 )11:00 27.1 27.7 47.1 0.22 0.64 2 階 7/18( 水 )14:00 27.7 27.7 43.7 0.05 0.91 7/25( 水 )14:00 27.2 27.4 42.7 0.04 0.79 7/18( 水 )11:00 27.3 27.3 47.3 0.02 0.82 3 階 7/18( 水 )14:00 27.8 27.1 43.1 0.10 0.70 7/25( 水 )14:00 27.2 26.9 41.6 0.02 0.68 7/18( 水 )11:00 27.3 27.0 42.2 0.02 0.72 6 階 7/18( 水 )14:00 27.7 27.3 40.5 0.03 0.81 7/25( 水 )14:00 27.1 26.8 39.8 0.09 0.59 ( ) 着衣量 :0.5[clo] 活動量:1.2[met] として算出 に除湿し, クールビズ空調により室内温度を高く設定した環境下においても, 除湿不足による不快感の解消を図ることが可能なシステムである また, 空調制御システムは, スパンごとの熱負荷に応じて吹出風量を制御する個別制御型空調システムとした スパンごとの制御により, 温度ムラの解消を図るとともに, 変風量制御により搬送動力の削減を図った なお, 本建物では, 図 - 5 に示すように 1 フロアあたり12~ 13スパン ( 1 スパン= 約 36m 2 ) に分割した 3.2 運用実績夏期の3 階執務室内における各所の温度変化 (2012 年 7 月 27 日測定 ) を図 - 6 に示す 空調時間帯においては, 平面的な温度差は1.5~2.0 程度と小さく, スパン単位での温度制御によって, 温度ムラの少ない環境が実現できている 14 建築設備士 2013 10

図 - 7 室内湿度に対する評価 図 - 9 Smart Eco Office Controller 基本画面 図 - 8 改修前後の執務環境の居心地に対する評価 また, 夏期の各フロア中央付近の空気温度, グローブ 温度, 相対湿度, 風速の測定結果と PMV を表 - 3 に示 す PMV 算出時の着衣量は0.5clo, 活動量は1.2metとした なお, 各フロアの室内温度設定値は28.0 ( 服装はクールビズ対応を推奨 ) をベースとし, 極力省エネルギー性を損なわない運用を実施した 各フロアとも27.0~ 28.0,40.0~50.0% RH 程度に制御され,PMVは0.5 ~1.0( 不満足者数は25% 以下 ) の範囲であった 一方, 夏期の室内温熱環境に関して各階の執務者を対象としたアンケート調査 (2012 年 8 月実施, 回答率 56%) を実施し, システムの効果を確認した その結果, 室内湿度について, 約 6 割が 適当 と回答しており, 湿度制御により室内設定温度が28.0 の環境下であっても除湿不足の不快感が軽減されていることが確認できた ( 図 -7) また, 夏期の執務環境に関する改修前後の執務室の居心地に対するアンケート調査では, 肯定的な意見 ( 変わらない を含む) が全体の約 9 割占め, 除湿 冷却分離空調システムと本節の個別制御型空調システムを併用したシステムに対する評価が高かった ( 図 - 8 ) ただし, 一部のフロアでは 良くなった やや良くなった が半数を下回るなど意見のバラつきが見られる これは, 日射負荷, 人員密度, 執務内容などが影響していると考えられ, 原因の特定と改善が今後の課題である 4. 快適性と省エネルギーをサポートする運用管理システム 4.1 Smart Eco Office Controller 建物利用者に省エネルギーと快適性を意識させるソフトウエア を実現するため, 設備の運用に執務者の意思を反映することができ, かつ, 執務者の省エネルギー意識の啓発を図ることができるWebアプリケーション Smart Eco Office Controller ( 以下,S.E.O.C. とよぶ ) 図 -10 寒暑感申請の全フロア合計図 -11 申請に対する応答性に関する評価 を開発した S.E.O.C. の基本画面を図 - 9 に示す 主な内容は, 執務環境 ( 温度, 湿度, 照度,CO 2 濃度など ) の表示, 申請機能 ( 寒暑感申請, 明暗感申請, 空調運転延長申請など ), 空調 照明 コンセントのエネルギー使用量の見える化, 省エネルギー啓発機能 ( 省エネルギー達成率, ブラインド開閉のナビゲーションなど ), 申請履歴の表示である 寒暑感申請に対しては, 所定の時間だけ空調の設定温度を変更することができる一方, 申請回数に上限を定めている さらに, 申請履歴表示により操作をためらわせ, 省エネルギーに寄与する効果を期待している また, 全スパンのエネルギー使用量を, 日付を指定してグラフ表示することができる 4.2 寒暑感申請の実績月別の寒暑感申請回数の全フロア合計 (2012 年 4 月 ~ 2013 年 3 月 ) を図 -10に示す 夏期( 7 月 ~10 月 ) の とても涼しく 申請回数が圧倒的に多いことがわかる 一方, 図 -11 示す空調の申請に対する設備の応答性に関するアンケート調査結果では, 空調が要求に応えて 2013 10 建築設備士 15

図 -12 S.E.O.C. による省エネルギー意識向上に関する評価 図 -15 2013 年度以降の年間一次エネルギー消費量の削減目標値 図 -13 建物全体の年間一次エネルギー消費量 る省エネルギー性能の向上と執務環境の改善を目指す その上で最終目標であるエネルギー削減率 40%( 図 - 15) およびCO 2 排出量削減率 37% を目指す計画である おわりに 図 -14 建物全体の年間 CO 2 排出量 いると感じるか という問いに対して, 十分感じる および やや感じる という回答が約 70% と高い結果になった これより, 申請機能によって執務者にとって快適な温熱環境をおおむね構築できていると考えられる また,S.E.O.C. による省エネルギー意識の向上に関するアンケート調査結果を図 -12に示す 向上している やや向上している との回答が83% と高くなっており,S.E.O.C. が省エネルギー啓発に効果があるという回答が多数を占めた 5. エネルギー消費実績改修前 (2009 年 4 月 ~2010 年 3 月 ) および改修後 (2012 年 4 月 ~2013 年 3 月 ) の建物全体の年間一次エネルギー消費量を図 -13に, 建物全体のCO 2 排出量を図 -14に示す 一次エネルギー換算係数は9.76MJ/kWh( 電力 ) および45MJ/m 3 ( ガス ),CO2 換算係数は,0.000386t/ kwh( 電力 ) および0.0023085t/m 3 ( ガス ) とした 改修後の年間の一次エネルギー消費量は,10,600GJ/ 年 (1,555MJ/m 2 年 ) であり, 改修前の15,792GJ/ 年 (2,317MJ/m 2 年) から約 33% 削減された また, 改修後の年間のCO 2 排出量は,433t/ 年であり, 改修前の 639 t/ 年から約 32% 削減された 今後, 継続的な検証および運用改善を実施し, さらな 本社ビルにおいて, ストックを有効に利用し, 省エネルギーと快適性の両立 をコンセプトとした省エネ改修工事を行った 竣工当初は様々な不具合に悩まされながらの運用であったが, 調整期間を経て, 各種設備を有効に機能させることができ, 改修後初年度は, 改修前に比べてエネルギー削減率 33%,CO 2 排出量削減率 32% となり, それぞれ初年度の目標を達成した また, 運用実績の分析 評価により個々の技術に関する課題や改善点を確認した 今後これらの課題や改善点への対策, 継続的な検証および改善を実施し, さらなる省エネルギー性能の向上と執務環境の改善を目指す 今後の主な対策を以下に示して結びとする 熱源運転パターンの継続的な見直し 熱源送水温度の最適制御 床吹出空調フロアの吹出し温度最適制御 Smart Eco Office Controllerを用いた室内設定温度の最適制御 サーバー集約による電力消費と負荷削減 既設利用熱源機器の更新 窓面の断熱強化 ( 平成 25 年 7 月 3 日原稿受理 ) 自己学習型(CPD) について この原稿は,JABMEE CPDの対象原稿です 52 頁の設問に解答してバーコードシールを JABMERR CPD 手帳 に貼っていただくと自己学習型で 1 単位 となります 16 建築設備士 2013 10