法整備支援事業の違い ~ 評価制度からの検討 ~ 慶應義塾大学 今西ユリ亜小林航安井晴香 1
目次 Ⅰ 本発表の目的 Ⅱ JICA Ⅲ 世界銀行 Ⅳ 結論 2
Ⅰ 本発表の目的 1 日本と世界の法整備支援 2 より良い法整備支援をするには? 3 そもそも事業評価とは? 3
1-1 日本と世界の法整備支援 日本 (JICA) 欧米諸国 国際援助機関 ( 世界銀行 ) 法整備支援 4
1-2 日本と世界の法整備支援 JICA 支援対象国の主体性 自主性の尊重 中長期的視点に立った活動 世界銀行 経済関係法の分野で立法モデルを提示 既存の基盤や社会の実情が法案起草の過程で考慮されにくい 香川孝三 金子由芳編著 法整備支援論 - 制度構築の国際協力入門 - (2007) ミネルヴァ書房 5
2 より良い法整備支援をするには? 改善していくことが大切!! 事業評価 6
3 そもそも事業評価とは? 日本において 法制度整備支援の性格上, 定量的な指標で成果を計ることの困難さはある一方, 事業成果についての説明責任が強く求められている 現地のニーズや事業に対する評価をきめ細かく聴取することで, より事前 事後の評価に意を用いる ¹ 事業のさらなる改善と国民への説明責任を果たすために実施される! 1 政府開発援助 ODA ホームページ 法制度整備支援に関する基本方針 ( 改訂版 ) 平成 25 年 5 月 7
Ⅱ JICA 1 上位目標 2 評価目的 3 評価制度 4 ケーススタディ 5 評価制度の考察 8
1 上位目標 - 日本 - 開発協力大綱 とは? 法の支配の確立 グッドガバナンスの実現 民主化の促進 定着 女性の権利を含む基本的人権の尊重等は 効果的 効率的かつ安定した経済社会活動の基礎をなし 経済社会開発を支えるものであると同時に 格差の是正を始め 公正で包摂的な社会を実現するための鍵 実定法の整備や法曹 矯正 更生保護を含む司法関係者の育成等の法制度整備支援 法制度整備支援に関する基本方針 ( 改訂版 ) 法制度整備支援は 良い統治 ( グッド ガバナンス ) に基づく開発途上国の自助努力を支援開発途上国が持続的成長を実現するために不可欠な基盤づくりの支援 平成 4 年に閣議決定され 平成 15 年に改訂された ODA 大綱が 平成 27 年に改訂され 開発協力大綱が改められた 外務省が法整備支援関係省庁の協議の上で策定した 9
日本の法整備支援の目的とは? 普遍的価値の共有 という究極的な目標のもと 開発途上国が自身の力で困難を解決し成長していくことができるように支援し 持続的成長を実現すること 普遍的価値の共有 公正で包摂的な社会を実現 効果的 効率的かつ安定した経済社会活動 法の支配の確立グッドガバナンスの実現民主化の促進 定着女性の権利を含む基本的人権の尊重 発表者作成 10
2 評価目的 - 日本 - JICA は日本の ODA 担う主要な実施機関 援助をより良くし 国民への説明責任が求められている 1 事業運営管理の手段として活用する 事業評価の目的 2 より効果的な事業実施のために 援助関係者 組織の学習効果を高める 3JICA における説明責任の確保のために広く情報を公開する JICA 事業評価ガイドライン
3 評価制度 - 日本 - DAC(Development Assistance Committee; 開発援助委員会 ) 評価 5 項目 ( 経済協力開発機構 / 開発援助委員会 (OECD-DAC) 妥当性 プロジェクトに投入された資源が効果的に使われているかを検証する視点 効率性 援助プロジェクトの正当性 必要性を問う視点 有効性 プロジェクトの実施が本当に便益をもたらしているのかを問う視点 プロジェクト実施による影響をみる視点 インパクト 持続性 プロジェクトで発現した効果の援助終了後の持続性を問う視点で プロジェクト実施の価値を総合的に評価する基準 JICA 事業評価ガイドライン 12
4 ケーススタディ ベトナム 一党独裁制の社会主義国 1986 年ドイモイ ( 刷新 ) 政策が採択 市場経済を支える新たな法制度の整備が必要となり 日本に対し法整備支援が要請された 法整備支援プロジェクト 1994 年 ~2007 年 法整備支援プロジェクト 2007 年 ~2015 年 法 司法制度改革支援プロジェクト 2015 年 ~2020 年 2020 年を目標とする法 司法改革支援プロジェクト 13
2007 年 4 月 ~2011 年 3 月に行われたフェーズ 1 について検討 1994 年 ~2007 年 法整備支援プロジェクト フェーズ 1 フェーズ 2 ~2003 年 フェーズ 3 2003 年 ~ 2007 年 2007 年 ~2015 年 法 司法制度改革支援プロジェクト フェーズ 1 2007 年 ~ 2011 年 フェーズ 2 2011 年 ~ 2015 年 2015 年 ~2020 年 2020 年を目標とする法 司法改革支援プロジェクト 14
法 司法制度改革支援プロジェクト ( 2007/04~2011/03 ) プロジェクト概要 実務の改善に向けた中央当局からの支援体制の整備と関連法令の改正 起草支援 法曹養成支援を包括的に取り込んだ支援を行うプロジェクト 上位目標 ベトナム全土で 裁判が 公平かつ説得力があり 透明で適切かつ一貫性のあるものとなる パイロット地区であるバクニン省において 司法機関の業務及び法曹の能力の改善を集中的に支援することで ベトナム全体レベルでの実務及び人材育成の改善を目指す 報告書 事前 中間 終了時評価表が公開されている 15
5-1 評価制度の考察 1. 全体的に評価が高すぎるのではないか? 理由付け ( 因果関係 ) が不明瞭 ex 参考資料の 効率性 国民への説明責任を負っている以上 低く評価することは難しい? 2. 報告書がすべて公開されていない 事後評価が公開されていない 本当に 4 段階の評価が行われているのか? 16
5-2 評価制度の考察 2 メリット どんな事業の評価にも取り入れやすい 明確な単位を持たない 日本の法整備支援の特徴に合致している! 日本の法整備支援は支援対象国の主体性 自主性を尊重している DAC 評価 5 項目は多様な解釈が可能 柔軟性 が共通 デメリット 曖昧になってしまう 明確な単位を持たない 17
Ⅲ 世界銀行 1 上位目標 2 評価目的 3 評価制度 4 ケーススタディ 5 評価制度の考察 18
1 上位目標ー世界銀行ー 1. 極度の貧困撲滅 : 1 日 1.90 ドル未満で暮らす人々の割合を 2030 年までに 3% 以下に減らす 絶対的貧困 2. 繁栄の共有 : 各国の所得の下位 40% の人々の所得を引き上げる 本発表では世界銀行グループの中でも IDA(International Bank for Reconstruction and Development) に絞る http://www.worldbank.org/ 19
2 評価目的ー世界銀行ー 国別資金配分額を決定するため 国際協力機構 指標から国を見るマクロ経済指標 貧困指標 ガバナンス指標の見方 (2008) 20
3 評価制度 - 世界銀行 - 実績配分制度 (Performance-Based Allocation 制度 : PBA 制度 ) 国際協力機構 指標から国を見るマクロ経済指標 貧困指標 ガバナンス指標の見方 (2008) 21
評価指標 : 国別制度 政策評価 (Country Policy and Institutional Assessment:CPIA) 国際協力機構 指標から国を見るマクロ経済指標 貧困指標 ガバナンス指標の見方 (2008) 22
CPIA 評価 16 項目 Pick up! 国際協力機構 指標から国を見るマクロ経済指標 貧困指標 ガバナンス指標の見方 (2008) 23
4 ケーススタディ - 世界銀行 - < ベトナムの資金配分指標 (CPIA 評点を表にしたもの )> 3.5>3.1 ベトナムの方が高い 左 ベトナム 右 IDA 支援国から構成される世界平均値 http://ida.worldbank.org/financing/ida-resource-allocation-index 24
ベトナム > ラオス 参考 実際の資金配分額は 内側 IDA 支援国から構成される世界平均値 外側 ベトナム 内側 IDA 支援国から構成される世界平均値 外側 ラオス http://ida.worldbank.org/financing/ida-resource-allocation-index 25
年間国別資金配分額 ( IBRD の資金配分も含んでいる ) 21 億 7400 万 $ 2500 2000 1500 この差が生まれる 1000 500 3000 万 $ 0 ベトナム ラオス 2012 2013 2014 2015 2016 http://www.worldbank.org/en/country 参考発表者作成 26
5-1 PBA 制度についての考察 PBA 制度の特徴を振り返る 1 世界中の国々の政策 制度環境を画一的に評価する 2 パフォーマンスの高い国に対しては その分多額の援助が可能になる 3 過程は評価せず 結果重視である 27
5-2 PBA 制度についての考察 1 政治的 制度的状況は国によって違う 画一的な評価によって政策 制度環境のパフォーマンスを一概に決めることはできるのか 2 本当に援助を必要としている国はそもそもパフォーマンスが低い国なのではないのか PBA 制度はパフォーマンスの高い国に多額の資金援助を可能にするものだったが 上位目標 ( 極度の貧困撲滅 繁栄の共有 ) と矛盾しているのではないか 3 インセンティブを向上させるような指標を含むべきではないのか 28
Ⅳ 結論 29
上位目標 JICA 普遍的価値の共有持続的成長の実現 世界銀行 極度の貧困撲滅繫栄の共有 評価目的 事業改善説明責任 国別資金配分額の決定 評価制度 DAC 評価 5 項目 PBA 制度 (CPIA 指標 ) 問題点 評価プロセスの曖昧さ評価結果の曖昧さ 画一的な評価への疑問上位目標との整合性結果重視の評価制度 発表者作成 30
以上から それぞれの上位目標と評価制度が合致していることが重要 さらに法整備支援事業には多くのドナーがそれぞれ別々の目的をもって別々のやり方で支援をし 別々の方法で評価をしている 法整備支援事業は型のあるものではない 色んな評価制度があってもいいのでは? 31
参考文献 香川孝三 金子由芳編著 法整備支援論 - 制度構築の国際協力入門 - (2007) ミネルヴァ書房 国際協力機構企画評価部評価管理室編集 プロジェクト評価の実践的手法 JICA 事業評価ガイドライン改訂版 (2004) 国際協力出版会 小山田和彦 開発途上国と財政ガバナンス改革 (2012) 国際協力機構 指標から国を見るマクロ経済指標 貧困指標 ガバナンス指標の見方 (2008) 目黒克幸 IDA における国別政策 制度評価 (CPIA) と Performance-Based Allocation 制度 大村敦志 民法総論 (2001) 武藤司郎 ベトナム司法省駐在体験記 (2002) 政府開発援助 ODA ホームページ 法制度整備支援に関する基本方針 ( 改訂版 ) 平成 25 年 5 月 近藤正規 (2003) ガバナンスと開発援助 - 主要ドナーの援助政策と指標構築の試み - 国際協力事業団国際協力総合研究所 開発協力大綱 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000072774.pdf JICA ナレッジサイト http://gwweb.jica.go.jp/ 法務省ホームページ http://www.moj.go.jp/ 世界銀行ホームページ http://www.worldbank.org/ IDA ホームページ http://ida.worldbank.org/ CPIA 2015 Criteria 株式会社三菱総合研究所 [ 平成 26 年度外務省 ODA 評価 ] 法制度整備支援の評価 ( 第三者評価 ) 報告書 平成 27 年 2 月 33