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身体拘束等適正化のための指針

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身体高速廃止に関する指針

身体拘束廃止に関する指針 1. 身体拘束廃止に関する理念身体拘束は 利用者の生活の自由を制限することであり 利用者の尊厳ある生活を阻むものです 当施設では 利用者の尊厳と主体性を尊重し 拘束を安易に正当化することなく 職員一人ひとりが身体的 精神的弊害を理解し 拘束廃止に向けた意識をもち 身体拘束を

また 身体拘束を行った場合は その状況についての経過を記録し 出来るだけ早期に拘束を解除すべく努力します (3) 日常ケアにおける留意事項身体拘束を行う必要性を生じさせないために 日常的に以下のことに取り組みます 1 利用者主体の行動 尊厳ある生活に努めます 2 言葉や応対等で 利用者の精神的な自由

身体的拘束等適正化のための指針 特別養護老人ホーム陽光園 1 施設における身体的拘束等の適正化に関する基本的な考え方身体拘束は 入所者 ( 利用者 ) の生活の自由を制限することであり 入所者 ( 利用者 ) の尊厳ある生活を阻むものです 当施設では 入所者 ( 利用者 ) の尊厳と主体性を尊重し

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介護における尊厳の保持 自立支援 9 時間 介護職が 利用者の尊厳のある暮らしを支える専門職であることを自覚し 自立支援 介 護予防という介護 福祉サービスを提供するにあたっての基本的視点及びやってはいけ ない行動例を理解している 1 人権と尊厳を支える介護 人権と尊厳の保持 ICF QOL ノーマ

社会福祉法人嶽暘会 身体拘束等適正化のための指針 ( 目的 ) 第 1 この指針は 身体拘束が入所者又は利用者 ( 以下 利用者等 という ) の生活の自由を制限することであり 利用者等の尊厳ある生活を阻むものであることに鑑み 利用者等の尊厳と主体性を尊重し 拘束を安易に正当化することなく職員一人ひ

巽病院介護老人保健施設 当施設における身体拘束の指針

事業者名称 ( 事業者番号 ): 地域密着型特別養護老人ホームきいと ( ) 提供サービス名 : 地域密着型介護老人福祉施設 TEL 評価年月日 :H30 年 3 月 7 日 評価結果整理表 共通項目 Ⅰ 福祉サービスの基本方針と組織 1 理念 基本方針

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医療安全管理指針

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13 Ⅱ-1-(2)-2 経営の改善や業務の実行性を高める取組に指導力を発揮している Ⅱ-2 福祉人材の確保 育成 Ⅱ-2-(1) 福祉人材の確保 育成計画 人事管理の体制が整備されている 14 Ⅱ-2-(1)-1 必要な福祉人材の確保 定着等に関する具体的な計画が確立し 取組が実施されている 15

2 食べる食べることは人にとっての楽しみ 生きがいであり 脱水予防や感染予防にもなる ひいては点滴や経管栄養も不要となる 食べることはケアの基本である 3 排泄するトイレで排泄することを基本とする オムツを使用している人は 随時交換する オムツに排泄物がついたままになっていれば気持ちが悪く オムツい

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チェック式自己評価組織マネジメント分析シート カテゴリー 1 リーダーシップと意思決定 サブカテゴリー 1 事業所が目指していることの実現に向けて一丸となっている 事業所が目指していること ( 理念 ビジョン 基本方針など ) を明示している 事業所が目指していること ( 理念 基本方針

P-2 3 自分で降りられないように ベットを柵 ( サイドレール ) で囲む 実施の有無 1 他に介護の方法がないため 2 同室者 他の利用者からの依頼 4 不穏や不安など本人の混乱を防止 5 暴力行為など他人への迷惑行為を防止の為 6 夜間以外の徘徊を防止 7 夜間の徘徊を防止 8 不随運動があ

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( 選定提案 ) は 利用者に貸与しようと福祉用具の種目の候補が決まった後で 具体的な提案品目 ( 商品名 ) を検討する際に用いる つまり ( 選定提案 ) に記載されるのは 候補となる福祉用具を利用者に対して提案 説明を行う内容である 平成 30 年度の制度改正では 提案する種目 ( 付属品含む

内部統制ガイドラインについて 資料

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身体拘束廃止に関する指針

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JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

コピー身体的拘束等の適正化のための指針

目次 4. 組織 4.1 組織及びその状況の理解 利害関係者のニーズ 適用範囲 環境活動の仕組み 3 5. リーダーシップ 5.1 経営者の責務 環境方針 役割 責任及び権限 5 6. 計画 6.1 リスクへの取り組み 環境目標

説明項目 1. 審査で注目すべき要求事項の変化点 2. 変化点に対応した審査はどうあるべきか 文書化した情報 外部 内部の課題の特定 リスク 機会 利害関係者の特定 QMS 適用範囲 3. ISO 9001:2015への移行 リーダーシップ パフォーマンス 組織の知識 その他 ( 考慮する 必要に応

身体拘束廃止に関する指針

A-2-(1)-1 利用者の自律 自立生活のための支援を行っている A-2-(1)-2 利用者の心身の状況に応じたコミュニケーション手段の確保と必要な支援を行っている A-2-(1)-3 利用者の意思を尊重する支援としての相談等を適切に行っている A-2-(1)-4 個別支援計画にもとづく日中活動と

揖斐川町デイサービスセンター運営規程

施設内で発生した身体的拘束等の報告方法等のための方策に関する基本方針 介護保険指定基準の身体的拘束禁止規定 サービスの提供にあたっては 当該入所者 ( 利用者 ) 又は他の入所者 ( 利用者 ) 等の生 命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き 身体的拘束その他入所者 ( 利用 者 ) の

社会福祉法人福知山学園リスクマネジメント指針 社会福祉法人福知山学園 1. 主旨社会福祉法人福知山学園法人理念に基づき ご利用者の生命と尊厳を守り 安全 安心で心と心が通い合う支援 介護サービスの提供を目指し 支援 介護サービス場面における事故防止対策に関する指針として 福知山学園リスクマネジメント

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計画の今後の方向性

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このような現状を踏まえると これからの介護予防は 機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく 生活環境の調整や 地域の中に生きがい 役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど 高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた バランスのとれたアプローチが重要である このような効果的

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特定個人情報の取扱いの対応について

4 研修について考慮する事項 1. 研修の対象者 a. 職種横断的な研修か 限定した職種への研修か b. 部署 部門を横断する研修か 部署及び部門別か c. 職種別の研修か 2. 研修内容とプログラム a. 研修の企画においては 対象者や研修内容に応じて開催時刻を考慮する b. 全員への周知が必要な

説明項目 1. 審査で注目すべき要求事項の変化点 2. 変化点に対応した審査はどうあるべきか 文書化した情報 外部 内部の課題の特定 リスク 機会 関連する利害関係者の特定 プロセスの計画 実施 3. ISO 14001:2015への移行 EMS 適用範囲 リーダーシップ パフォーマンス その他 (

介護保険制度改正の全体図 2 総合事業のあり方の検討における基本的な考え方本市における総合事業のあり方を検討するに当たりましては 現在 予防給付として介護保険サービスを受けている対象者の状況や 本市におけるボランティア NPO 等の社会資源の状況などを踏まえるとともに 以下の事項に留意しながら検討を

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スライド 1


リハビリテーションマネジメント加算 計画の進捗状況を定期的に評価し 必要に応じ見直しを実施 ( 初回評価は約 2 週間以内 その後は約 3 月毎に実施 ) 介護支援専門員を通じ その他サービス事業者に 利用者の日常生活の留意点や介護の工夫等の情報を伝達 利用者の興味 関心 身体の状況 家屋の状況 家

( 横浜市解釈 ) 事業者向け放課後等デイサービス自己評価表 及び 保護者等向け放課後等デイサービス評価表 について 別添 評価表の内容を他事業所と競うことを想定したものではなく あくまで 研鑚のツールとして有効活 すること さらに質の い 援を提供していける事業所が増えていくことを期待しています

患者学講座第1講「医療と社会」

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2 経口移行加算の充実 経口移行加算については 経管栄養により食事を摂取している入所者の摂食 嚥 下機能を踏まえた経口移行支援を充実させる 経口移行加算 (1 日につき ) 28 単位 (1 日につき ) 28 単位 算定要件等 ( 変更点のみ ) 経口移行計画に従い 医師の指示を受けた管理栄養士又

2. 経口移行 ( 経口維持 ) 加算 経口移行 ( 経口維持 ) 計画に相当する内容を各サービスにおけるサービス計画の中に記載する場合は その記載をもって経口移行 ( 経口維持 ) 計画の作成に代えることができる 従来どおり経口移行 ( 経口維持 ) 計画を別に作成してよい 口腔機能向上加算 口腔

第三者評価結果表 施設名救護施設下関梅花園 評価対象 Ⅰ 福祉サービスの基本方針と組織 評価項目 a b c Na 判断の理由 1 理念 基本方針 (1) 理念 基本方針が確立されている 1 理念が明文化されている 理念は明文化され 法人の中長期計画や事業団ホームページ上にも記 載されており その内

9(1) 介護の基本的な考え方 9() 介護に関するこころのしくみの基礎的理解 9() 介護に関するからだのしくみの基礎的理解 9(4) 生活と家事 5 9(5) 快適な居住環境整備と介護 9(6) 整容に関連したこころとからだのしくみと自立に向けた介護 4 4 理論と法的根拠に基づき介護を行うこと

安全管理規程

点検項目 点検事項 点検結果 リハビリテーションマネジメント加算 Ⅰ 計画の定期的評価 見直し 約 3 月毎に実施 リハビリテーションマネジメント加算 Ⅱ ( リハビリテーションマネジメント加算 Ⅰ の要件に加え ) 居宅介護支援事業者を通じて他のサービス事業者への情報伝達 利用者の興味 関心 身体


技術流出防止指針公表用.PDF

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平成 28 年度第 3 回弘前市ケアマネジャー研修会 1. ケアプランの軽微な変更の内容について ( ケアプランの作成 ) 最新情報 vol.155 p.3 参照 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準について( 平成 11 年 7 月 29 日老企 22 号厚生省老人保健福祉局企画課長

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13 (参考資料4-5)松下参考人資料(三菱総研)

5. 文書類に関する要求事項はどのように変わりましたか? 文書化された手順に関する特定の記述はなくなりました プロセスの運用を支援するための文書化した情報を維持し これらのプロセスが計画通りに実行されたと確信するために必要な文書化した情報を保持することは 組織の責任です 必要な文書類の程度は 事業の

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上越地域医療センター病院 医療安全管理指針

保監第   号 

重症心身障害児施設の省令 ( 指定基準 ) を読む 全国重症心身障害児 ( 者 ) を守る会顧問山﨑國治 Ⅰ はじめに 平成 18 年 9 月 29 日 厚生労働省令第 178 号として 重症心身障害児施設の 人員 設備及び運営に関する基準 が厚生労働大臣から公布されました 省令のタイトルは 児童福

身体的拘束等適正化に関する指針 社会福祉法人やすらぎ会 特別養護老人ホームやすらぎ園 グループホーム ケアハウス むつみあい やすらぎ 平成 30 年 6 月 27 日策定

出時に必要な援助を行うことに関する知識及び技術を習得することを目的として行われる研修であって 別表第四又は別表第五に定める内容以上のものをいう 以下同じ ) の課程を修了し 当該研修の事業を行った者から当該研修の課程を修了した旨の証明書の交付を受けた者五行動援護従業者養成研修 ( 知的障害又は精神障

改定事項 基本報酬 1 入居者の医療ニーズへの対応 2 生活機能向上連携加算の創設 3 機能訓練指導員の確保の促進 4 若年性認知症入居者受入加算の創設 5 口腔衛生管理の充実 6 栄養改善の取組の推進 7 短期利用特定施設入居者生活介護の利用者数の上限の見直し 8 身体的拘束等の適正化 9 運営推

18 定期的にモニタリンク を行い 放課後等ディサービス計画の見直しの必要性を判断しているか 19 カ イト ラインの総則の基本活動を複数組み合わせて支援を行っているか 20 障害児相談支援事業所のサービス担当者会議にその子どもの状況に精通した最もふさわしい者が参画しているか 関係機関や保護者との連

居宅介護支援事業者向け説明会

障害者虐待防止法の目的は 虐待を防止することによって障害者の権利及び利益を擁護することです この法律においては 障害者虐待 を虐待の主体に着目して以下の 3 つに分類しています 1 養護者 ( 障害者をお世話しているご家族など ) による障害者虐待 2 障害者福祉施設従事者等 ( 障害者施設や障害福

ISO9001:2015規格要求事項解説テキスト(サンプル) 株式会社ハピネックス提供資料

1 発達とそのメカニズム 7/21 幼児教育 保育に関する理解を深め 適切 (1) 幼児教育 保育の意義 2 幼児教育 保育の役割と機能及び現状と課題 8/21 12/15 2/13 3 幼児教育 保育と児童福祉の関係性 12/19 な環境を構成し 個々 1 幼児期にふさわしい生活 7/21 12/

Transcription:

平成 24 年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金 ( 老人保健健康増進等事業分 ) 特別養護老人ホームにおける 介護事故予防ガイドライン 平成 25(2013) 年 3 月 株式会社三菱総合研究所

目次 はじめに... 1 1 介護事故予防体制構築のための理念 考え方... 3 1) 特別養護老人ホームにおける介護事故予防の取組の基本的な考え方... 3 (1) 介護事故予防とケアの質向上... 3 (2) 介護事故の特性と対応... 4 (3) 自ら学び改善する組織 を目指して... 6 (4) 利用者の重度化に対応した介護事故予防... 8 2) 介護事故予防の必要性... 9 (1) 特別養護老人ホームの事故防止体制等の基準について... 9 (2) 施設に求められる義務と責任... 10 2 事故予防のための体制整備のあり方... 11 1) 組織の基盤づくり... 11 (1) 施設管理者主導のリスクマネジメント体制づくり... 11 (2) 職員の自律性の向上... 11 2) 指針 業務手順書の整備... 13 (1) 指針 業務手順書の意義... 13 (2) 指針 業務手順書の作成と運用上の工夫... 13 3) 介護事故発生予防のための委員会の設置... 15 (1) 委員会の意義... 15 (2) 委員会運用上の工夫... 15 4) 事故の報告と活用... 17 (1) 事故の報告と活用の意義... 17 (2) 報告制度運用上の工夫... 17 (3) 報告と活用の仕組みの発達段階... 21 5) 研修の実施... 22 (1) 安全のための研修の意義... 22 (2) 研修運用上の工夫... 22 (3) 研修に関する発達段階... 23 6) 関係者との連携... 24 (1) 家族との連携... 24 (2) 行政との連携... 25 (3) 理事会との連携... 26 7) 事故発生時の対応... 27

(1) 基本の対応手順... 27 (2) 利用者 家族への対応... 28 (3) 行政への連絡... 28 (4) 職員への対応... 29 (5) 医療機関との関係... 29 8) その他の留意事項... 30 (1) 特別養護老人ホームに併設されているショートステイ利用者のリスク管理... 30 (2) 保険への加入... 30 3 事故予防のための対策 介護技術... 31 1) 転倒... 31 2) 転落... 34 3) 誤嚥... 36 4) 誤薬... 38 5) 内出血 皮膚はく離... 40 付録 1: 指定介護老人福祉施設の人員 施設及び運営に関する基準について ( 平成 12 年老企 第 43 号 )( 抜粋 ) 付録 2: 社会福祉法に記載された福祉サービスのありかたに関する記述

はじめに 特別養護老人ホームにおける利用者の生命 身体等に関する安全の問題が注目されています これは 介護事故が増えているというより 施設が提供する介護サービスの内容や質について国民の関心が高まってきたことを反映していると思われます 平成 18 年度には施設におけるサービスの質の向上を図る一環として 特別養護老人ホームの施設基準 ( 特別養護老人ホームの人員 設備および運営に関する基準 ( 平成 11 年 3 月 31 日厚生省令第 46 号 )) において 施設における体制整備により介護事故予防を図ることが義務づけられました その根底には 介護事故予防体制を整備して事故を防止するだけでなく 介護事故予防を通じて特別養護老人ホームのサービスの 質の向上 を指向する体制をつくるべきという考え方があります 特別養護老人ホームにおいて介護事故が発生しないよう予防策を講じるべきであることは当然ですが 不幸にも事故が起きてしまった場合にはその原因を明らかにし 介護サービスの改善やサービスの質向上につなげること そして同時にその取組を利用者 家族にも理解いただくことが大切です 特別養護老人ホームでは 介護サービス提供に関わる事故の防止を目的として 施設としての体制整備 ( 委員会設置 事故報告制度の運用 研修の実施等 ) をはじめ さまざまな対策が進められてきています しかしながら 近年 利用者の重度化や認知症を有する利用者の増加などにより事故の傾向が変化しつつあり 変化への対応が課題として認識されています また 事故防止の取組については施設間の差があることや 施設によってはこうした事故防止のための取組の実効性が確保されにくい等の課題が指摘されています こうした背景から このたび 平成 18 年度に作成された 介護事故予防ガイドライン の見直しを行いました 1 サービスの質の向上を目指した介護事故予防体制の構築という基本的な考え方はそのままに 利用者の重度化をはじめとする施設のケア環境の変化を鑑み 利用者を事故から守り QOL を向上させるケアの提供を促進することを目的としています このガイドラインを活用する施設 職員の方々がこれを参考にして介護事故予防の方策 取組をさらに進めていただき 利用者の生活の質の向上と介護技術の向上につなげていかれることを期待しています 本ガイドラインが 利用者が安心して特別養護老人ホームでの生活を継続し 職員がその専門性を発揮しながら 利用者の日々の生活の支援ができるようなサービスの質向上を指向した体制作りに役立てていただきたいと思います 1 介護事故予防ガイドライン ( 平成 18 年度 ) をベースとして 介護施設における介護サービスに関連する事故防止体制の整備に関する調査研究事業 ( 平成 23 年度 ) において作成された事例集からも一部 引用 転載しています 1

本ガイドラインが想定する読者 本ガイドラインは 特別養護老人ホームにおける管理者ならびにリスクマネジメント担当者 さらには現場の職員の方々など 事故防止に携わるすべての方々に活用していただくことを想定しています 本ガイドラインの構成 本ガイドラインは3 部構成で 第 1 章に介護事故予防の基本的な考え方 第 2 章に介護事故予防のための施設内の仕組みの意義や運用上の留意点 第 3 章に介護事故予防の観点から推奨されるケアの具体的技術について解説しています 章第 1 章第 2 章第 3 章 内容介護事故予防体制構築のための理念 考え方事故予防のための体制整備のあり方事故予防のための手順 介護技術 本ガイドラインで使用する用語の定義 介護事故 2 : 施設内および職員が同行した外出時において 利用者の生命 身体等に実害があ った または実害がある可能性があって観察を要した事例 ( 施設側の責任の有無 過誤か否かは問わない ) 自傷 行方不明 チューブ抜去など利用者自身が起こした怪我や事故 ( 自損事故 ) 利用者同士のトラブル 経済的 精神的被害の事故等を含みます 職員の被害 ( 労災 ) は含みません ヒヤリ ハット 3 : 介護事故に至る危険性があったが 利用者に実害はなかった事例 事故の再発防止 : 発生した事故の要因を分析して対策を講じることにより 同様の事故が再 発することを防ぐことを指します 事故の予防 : 発生する可能性のある事故を未然に防ぐことを指します あらゆる事故を予測 することは困難ですが 本ガイドラインでは 利用者の安全 安心な生活を守る ために施設として目指すべき ケアの質の向上 と 事故の予防 を一体的な取 組と位置づけています 2 ここでの 介護事故 の定義には 被害者本人に起因する自損事故や 防ぐことが困難な事故も含まれています 全ての 介護事故 について施設側に過誤 過失があるわけではありませんが 起きてしまったあるいは起こりえる介護事故情報に基づいてケアの質を向上させるという立場に立てば 施設としては 利用者が被る可能性のあるリスクについて事前に十分把握しておく必要があります この観点から 本ガイドラインでは 施設側の過失の有無にかかわらず 利用者に被害があったかどうか という視点で 介護事故 かどうかを判断する 利用者側に立った定義を用いることとしました なお 本ガイドラインでは 施設内の報告制度においてもこのような定義を用いることを前提としています 3 施設における事故やヒヤリ ハットは 必ずしも介護行為に伴って発生するものではなく 転倒 転落のように職員の目の届かない場所で発生することが多くあります 2

1 介護事故予防体制構築のための理念 考え方 1) 特別養護老人ホームにおける介護事故予防の取組の基本的な考え方 (1) 介護事故予防とケアの質向上介護の基本理念は 自立支援 尊厳の尊重 自己決定の尊重 と言われます 施設ケアにおいても 利用者一人ひとりに対してこの基本理念を実現し よりよいケアを提供するため さまざまな取組が日々行われることが必要です こうした目的で行われる 施設設備の整備 職員教育 ケア技術の向上 といった取組は 介護事故の予防のための取組とも共通しています 施設における介護事故予防の取組は ケアの質の改善を実現するための仕組みとして位置づけることができます 図表 1 介護事故予防とケアの質の向上 施設ケアの基本理念 : 自立した生活の実現への支援個人の尊厳の尊重自己決定の尊重 基本理念の実現に向けた取組 ~ より質の高いケアを目指して 施設設備の 職員 教育 ケア 技術 施設では よりよいケアの提供に向けて さまざまな観点からの取組が行われています 介護事故予防はその一部を構成し 他の各要素と互いに関連しあっています 整備 介護事故予防の取組 特別養護老人ホーム等施設における介護事故予防の取組は 施設全体のマネジメントの一要素として推進することが肝要です 介護事故予防に直接関連する体制整備ばかりではなく 体系的な職員教育 人事査定 評価 労務管理 設備投資などといったことも密接に関連するため 組織全体を意識したバランスの取れた視点が欠かせません 介護事故予防は 施設におけるリスクマネジメントの取組を通じて 利用者 家族への質の高いサービスを提供することを目指して実施します 介護事故予防の取組を通したケアの質向上のためには 日常的な 事故予防対策 とともに 事故発生時の適切な対応 および 防止策の検討 が必要不可欠です 3

日々の事故予防においては 職員の意識を高めるための体制整備やサービスの標準化 さらには個々の利用者に対するアセスメントおよびそれに基づく適切なケアの提供が求められます また 事故発生時の対応として報告制度や苦情 相談体制を整備しておくこと 事故の要因分析手法や再発防止策の検討 周知方法を確立しておくことも重要です このガイドラインでは 介護事故予防のための体制整備 指針 マニュアルの策定 教育 研修 報告制度に関する具体的取組 および発生時の対応や各種の事故を防止するための方策を示します 図表 2 介護事故予防の取組を通したケアの質向上のプロセス 利用者 家族とのコミュニケーション 2 6)(1) 家族との連携 2 3) 委員会の設置体指制針整策備定 事故予防 業務マニュ アル作成 2 5) 研修の実施 教 育 研 修 リスク の把握 個別対応 アセス メント ケアプ ラン作成 ケア提供 事苦故情 ヒヤ等のリ発ハッ生ト 発生時の対応 再発防止 事故 ヒヤリハット報告 ( 苦情対応 ) 対策立案 改善 2 2) 指針 手順書の整備 2 4) 事故の報告と活用 施設長のリーダーシップ 2 1) 組織の基盤づくり 継続的な質の向上 図中の吹出しは 対応する章 節番号を示しています (2) 介護事故の特性と対応特別養護老人ホームは 介護を必要とする高齢者が自分らしく毎日を過ごす 生活の場 です 高齢者の自立した生活を支えるという観点からは 事故防止を目的として日常の行動を過度に抑制したり制限したりすることは望ましくありません 同様に 身体拘束 4 も 個人の尊厳を尊重するという基本理念の観点から原則として禁止されています 例えば 高齢者の多くは身体的機能および認知的機能の低下が進み 危機回避のための ( 反射 ) 行動も低下するため 住み慣れた自宅における日常生活の中であっても 転倒等のリスクが高くなります 高齢者の生活の場である特別養護老人ホームにおける生活の場面で 事故が起こりうることを認識する必要があります 4 利用者の危険な行為や事故を防ぐことを目的として利用者の動作や行動を制限する行為であり ベッドや椅子 車いすに身体を固定する ベッドを柵で囲む 車いすや椅子から自力で立ち上がれないようにする 手指の機能を制限するミトン型の手袋をつける 介護服 ( つなぎ服 ) を着せる 自分で開けることのできない居室に隔離することなどが身体拘束禁止の対象となっています 例外的な緊急対応措置として行う場合には 切迫性 ( 本人または他の利用者の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高い ) 非代替性 ( 他に代替する介護方法がない ) 一時性 の 3 要件を満たす必要があり 1 つでも満たさない場合には指定基準違反となります 4

一方 職員によるケアの提供に伴う介護事故 ( 過誤 ) は ケアの専門家として発生させてはならない事故です これらに対しては 施設 設備面の改善 手順の見直し ケア技術の向上といった方策により 根絶を目指した努力が必要です 介護事故の発生をゼロにすることは困難であるとはいえ 職員は介護の専門職として あらかじめ起こりうる事故を予想し 予想されるリスクに対して 備える ことが可能です この場合の 備え とは 事故を起こさないようにする 事故発生防止 のための手立てに加え 万一事故が発生したとしても利用者の日常生活に支障をきたすような大きな怪我にならないようにする 被害の最小化 のための対策も含まれます 施設は 高齢者への個別ケアや生活支援を行う際に あらかじめその人が持つリスクを予見し必要な対策を講じ それについて利用者 家族に対して十分な説明を行うことが必要です 利用者 家族はそのリスクと対策について理解 納得した上で 予想される範囲のリスクを受け入れて入所を決めるかどうかを選択します 例えば 経管栄養を行っている利用者に対し 施設として経口摂取を再度試みるという方針を決定したら そのことを本人 家族に説明しましょう その際には 経口摂取を行うと誤嚥が発生する可能性があること さらには肺炎などにつながるリスクもあることを事前に十分に説明します このことは施設側の責任逃れを意味するのではありません 誤嚥が起こったら迅速に吸引を行うことや そのための教育訓練を定期的に職員が受けていることなども合わせて説明します なお 認知症などで適切な理解 判断が困難な利用者に対しては 説明しても分からな いから何も説明しないというのではなく ケアの専門家として その方の権利や尊厳が尊 重されるよう十分に配慮することが必要です 利用者の活動 図表 3 介護事故の特性 入浴 食事 利用者の生活に 自宅でも起こりうる 排泄 会話 伴う介護事故 利用者の行動を全て制約 睡眠 散歩 することは適切でない 被害の最小化を目指した環境整備 ケア提供 会話など 職員のケア行為 の関わり合い ケア提供に伴う 自宅では起こりにくい ケアプランに沿ったケア 介護事故 プロとして起こしてはならない 施設で定められた手順等に沿ったケア 発生ゼロを目指し た介護技術向上 5

(3) 自ら学び改善する組織 を目指してこれからの特別養護老人ホームが介護事故の予防の観点で目指すべき 理想的でかつ実現性のある姿とはどのようなものでしょうか 本ガイドラインでは よりよいサービスを継続的に提供するために 特別養護老人ホームが目指すべき理想像を 自ら学び改善する組織 としました 現在の状態で満足するのではなく 日々の業務においても個々の職員が改善のための気づきを得て学習 成長につなげていくという 自律性 や 継続性 を重視した考え方に基づいています 自ら学び改善する組織を志向する施設の運営管理においては 計画 (Plan) 実行(Do) 点検 (Check) 見直し(Act) というPDCAの考え方に則ったサイクル 5 により 継続的に改善していく仕組みが有効です このようなプロセスを施設内に構築し このプロセスを繰り返すことが 施設における介護事故防止策 そしてケアの質の向上につながります 特別養護老人ホームにおけるケアの改善プロセスは 施設全体のPDCAサイクルと利用者個人についてのPDCAサイクルが車の両輪のように並行して進み それを通じて施設ケアの基本理念が実現されることになります < 施設レベルの PDCA サイクルの構築 > エラーを防止するのは組織の責任です 事故の原因が施設面や職員の側にある場合は 同様の事故が再発する可能性があるため 組織として施設改修やケア手順の見直しなどの対策を講じる必要があります この場合 前述の PDCA サイクルが有効です 施設内のリスク情報を収集する仕組みとして 介護事故報告 ヒヤリ ハット報告 職員からの業務提案 利用者 家族からの意見 クレームの受け付けといったものが代表的です 情報を集約することで 個別事例だけ見ていただけでは分からない施設の特性やリスクが見えてきます 組織的な介護事故予防の取組を推進するためには 施設が抱えるリスクに関する情報を一元的に集約して分析する必要があります そのため 施設管理者には情報収集のための効果的な方法を整備することが求められます 職員は 自分が発見した事象を積極的に報告するよう心がけましょう また 施設内の介護事故やヒヤリ ハットだけでなく 他の施設で発生した事例を参考にして自分たちの施設の取組の改善を図る視点も重要といえます 収集された施設全体の情報は 事故防止検討委員会 ( 以下 委員会 とする ) などで集約 分析評価を行い 対応策や改善策を検討します 対応策や改善策は職員に周知徹底し 実践します さらに対応策導入による改善の効果も把握し 対応策や改善策の妥当性について委員会において検証を行います 5 PDCA とは Plan( 計画 )-Do( 実行 )-Check( 点検 )-Act( 見直し ) の循環的改善プロセスを指し ISO9000 などの品質管理の考え方にも広く取り入れられています 6

< 利用者個人レベルの PDCA サイクルの実施 > 個々の利用者について予想されるリスクへの 備え としての対応策は ケアプランに反映させ 個別に日常のケアに盛り込む必要があります プランに沿ったケアがうまくいかない場合や 利用者の生活に支障をきたしている場合 介護事故やヒヤリ ハットの発生があれば その原因を明らかにし 必要に応じて再アセスメントしプランを見直します これが 利用者個人レベルの PDCA サイクルです アセスメントに基づいてケアプランを策定する ( 計画 ) ケアプランに沿ったケアを提供する( 実行 ) モニタリングする( 点検 ) 再アセスメントして課題と対応策を検討する ( 見直し ) の全プロセスにおいて 職種を問わず関係する職員全員が利用者の情報を共有しましょう リスク評価に関しては アセスメントツールなどの様式を使用することも有効です 個々の利用者に対して個別のケアプランを作成し リスク評価や再評価をすることにより 多数に共通するリスクが浮き彫りになることがあります 図表 4 施設レベルおよび利用者レベルの PDCA サイクル 施設ケアの基本理念 : 自立した生活の実現への支援個人の尊厳の尊重自己決定の尊重 利用者一人ひとりの PDCA Plan アセスメントに基づいてケアプランを策定する 基本理念の実現に向けた取組 Do ケアプランに沿ったケアを提供する Act 再アセスメントして課題と対応策を検討する Check モニタリングする 施設全体の PDCA Plan 計画を定める ( 例 : 研修計画の立案 ) 個別ケアへの適用 Do 計画を実行する ( 例 : 職員研修の実施 ) 個別事例から全体の問題に一般化 Act 評価に基づき改善する ( 例 : 研修方法の見直し ) Check 結果を評価する ( 例 : アンケート等による研修成果の測定 ) 7