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Transcription:

- ビットコインからみる通貨 貨幣の意義 - 1. はじめに 図表 1 Bitcoin の価値変動 Bitcoin 日本株式証券相場 300,000 250,000 280,741 200,000 円 150,000 100,000 交換レート 50,000 0 57,494 43,712 27,608 2014 年 1 月 2015 年 1 月 2016 年 1 月 2017 年 1 月年 {https://jp.investing.com/currencies/btc-jpy} BTC/JPY - ビットコイン日本円 参照世界中で注目を集めている Bitcoin は市場価値を一段と高めている 図表 1を見ると Bitcoin の誕生した 2014 年の頃と比べて 2017 年 Bitcoin の価値は爆発的に上昇していることが分かる 日本でも秋葉原のビックカメラで Bitcoin 決済が導入されるなどその存在が身近なものになってきた そういった背景がある中で Bitcoin を悪用した詐欺被害のニュースも耳にする Bitcoin を始めとした仮想通貨はどのようなものとして登場し 何を引き起こそうとしているのか 2. 先行研究仮想通貨を理解するために通貨の定義について確認しよう 教科書的な観点でみると 通貨には 価値の尺度 価値の保存 交換の手段 という三つの機能が備わっている 更に通貨の必要要素として 一般受容性 が挙げられる 一般受容性 とは 現在の円のように一般の人々に最終的な支払い手段として認められることを指す 2014 年 3 月 11 日 黒田日銀総裁は記者会見において通貨の要素として 一般受容性 に触れている 仮想通貨の代表例である Bitcoin ですら 現時点で 一般受容性 が備わっているとは言い切れない 実際 日本では仮想通貨と円を両替するための交換所であった Mt.Gox 社が破たんし ビットコインへの投資ブームは終焉を迎えていると岡田 (2014a) は述べている しかし 2017 年に入ってからビットコインの価格は上昇しており 先ほどの図表 1 をみると 2014 年 1 月およそ 43,712 円を推移していたもの 1

が 2017 年 1 月の 280,741 円と飛躍的に価値が高まっていることからも再びビットコインへの関心は高まっているといえる 岡田 (2014a 2014b) によれば 現在 流通している仮想通貨の種類として 分散型仮想通貨 引当型仮想通貨 管理型仮想通貨 の三つがある 引当型仮想通貨 とは 金などの正貨の引当てが存在することを確認する仕組みを導入したものであり 管理型仮想通貨 とは 銀行の銀行 を担当する自主的または他律的な主体を持ったものであり 現在の日本銀行が日本銀行券の発券を管理している機能を仮想通貨に採用したものと理解できる そして ビットコインは 分散型仮想通貨 に分類される 分散型仮想通貨とは ピアトゥピア技術 iを利用して中央銀行のような銀行券を発行し その通貨価値を保証する中心機関を持たないことを本質としている これまでの価値流通システムと全く異なるものとなっており 第三者を介すことなく私人間での取引で完成させる価値認証の仕組みとなっている この仕組みとして Bitcoin の取引発生の仕組みの図表 2 を参考してもらいたい 具体的に述べると 取引が行われる際に支払人から受取人にビットコインが送金されると その情報が直近のノード ii にむけてブロードキャストされ 更にノードからノードへと伝達される これは 分散型仮想通貨の特徴の一つで 仕組みに関わる全員の記憶によって支払情報の正確さを担保し 偽造などの防止につながる性質を実装したと岡田 (2014a 2014b) は記している 図表 2 Bitcoin の取引発生の仕組み 出典 : 岡田 (2014b) を基に著者作成 2

この分散型仮想通貨の可能性を論証した Nakamoto 論文 iii の第一の特徴は 仮想通貨 の取引記録を公開鍵と秘密鍵で電子署名をするという方法をとったことにある 具体 的には 電子署名と取引履歴の連鎖構造が図表 3 に示すような入子構造で提案された この構造を要約すると 署名をする暗号 ( 秘密鍵 ) とその署名を確認するための暗号 ( 公 開鍵 ) によって取引の正しさを担保する そして 入子構造の電子署名が連続的につな がることによって 改ざんの可能性が飛躍的に減少すると岡田 (2014a 2014b) は述べ ている 図表 3 Nakamoto 論文が提案する電子署名と取引履歴の連鎖構造 1 所有者 1 の公開鍵 Hash 所有者 0 の電子署名 署名検証 所有者所有者 2の公開鍵 Hash 署名検証現所有者 1 の電子署名 所有者 3 の公開鍵 Hash 所有者 2 の電子署名 次の受取人所有者 1 の秘密鍵 署名 現所有者の秘密鍵 署名 所有者 3 の秘密鍵 出典 : 岡田 (2014b) を基に著者作成 電子マネーの歴史においても 分散型仮想通貨のような転々流通型は稀である 現在日本で広く利用されている FeliCa 技術による非接触型 IC カードを活用した電子マネーがあるが これらとの大きな違いは電子的な価値流通の設計思想にあると岡田 (2014b) は述べている 非接触型 IC カードの電子マネーは 一回の取引ごとにサーバにおいて対応する価値を消し込むクローズドループの構成となっている クローズドループ型では 中心となるサーバにすべて取引記録が残るため 現金同様の匿名性を保つための法制度などの技術外手法が必要とされる これに対して オープンループ型は 現金と同様に転々流通している匿名性の高いものとなっている 具体的には図表 4をみていただきたい クローズドループ型においては 一般的に使用されている Pasmo や Suica を考えてもらえれば理解しやすい 一回の取引ごとに価値を格納 ( チャージ ) していた分から利 3

用できる チャージ分がなくなれば 新たに外部から価値を格納することで再利用できる つまりは 価値を保証するモノの媒体といえる 一方でオープンループ型は 図ではコインに取引が記録され 媒体を使わずに利用できる 先ほど説明した分散型仮想通貨はこの形式となっており さらに一歩進んで発行主体を持たず 取引情報が縦横無尽に駆け巡るオープンループ型の構成となっている 岡田 (2014b) は 匿名性の高いオープンループ型の電子マネーを構築することは長年の難題であったと述べ 分散型仮想通貨はこの構築に近しいものであり 高い匿名性を確保できる可能性があるとしている 図表 4 価値流通の違い 出典 : 著者作成 分散型仮想通貨を提唱した Nakamoto 論文の第二の特徴は 通貨の発行にあたる作業と取引の承認にあたる作業を兼ねるエコシステム iv を発見したことである Bitcoin の場合であると 新しく生成されたブロック v と前のブロックをつなげるために一定の個数の 0が並ぶハッシュ値 viを得る必要がある この取引の承認に必要な計算を行って最初に回答を発見したプレーヤーには 報酬として Bitcoin が発生する この計算をマイニング ( 採掘する ) という このとき 発生する Bitcoin は誰かから送金されるわけではなく 新たに生成されたブロックに一定数の Bitcoin を発生させるための 現所有者の存在しない取引が格納されることで獲得できる 発行主体を持たない分散型仮想通貨は P2P というネットワークの全体が自然人または法人格としての意志を持つ主体とはなり得ないので 政府からのコントロールを受けない独立性を保つことができると岡田 (2014b) は述べている 現在流通している通 4

貨は 中央銀行が通貨の価値を維持する役割を担う しかし 歴史からみても政府の意志によってハイパーインフレーションを誘導し 結果的に通貨価値が損なわれるという例があった vii 分散型仮想通貨は 独立性を保つことでハイパーインフレーションを起こすような意図的な操作は防げるが 政府が行う金融政策の効果も減殺し 財政政策の実効性を失わせる 分散型仮想通貨は構造的に政府の発行者規制を受けることが困難であるように設計されていると岡田 (2014b) は述べている 3. 論文にむけて Nakamoto 論文から読み取れるアイディアは どこにも中心が存在しないフラットな社会であり P2P ネットワークのどこにも中心となるプレーヤーが出現しないことが望ましいとされている Bitcoin の実装においても 誰もが支払人であり 誰もが受取人であり 誰もが発行者なることができる構成であった しかし 世界中で Bitcoin の利用価値が高まった現在 その様相は決してフラットな P2P ネットワークではない ビットコインの新規発行はその 40% 近くを特定の発行者が寡占する viii に至っており 論文が前提とする分散性はおびやかされつつある さらに法定通貨との交換を行うための取引所が 中立的な仲介役というスタンスを越えて中心機関として P2P ネットワークの取引の大半を扱うようになっており もはや取引所を頂点とする管理型の構造に近づきつつあり 無数の取引がフラットに流通する前提が崩れようとしていると岡田 (2014b) は述べている そして現在問題となっている Bitcoin 分裂危機 ixなど問題は山積みである 私は 今後 Bitcoin が通貨としてどう変容していくのか そして 貨幣はいかにあるべきかを論文で研究していきたい 4. 参考文献岡田仁志 (2014a) 仮想通貨の登場が国家 社会 経済に与える影響 電子情報通信学会基礎 境界ソサイエティ Fundamentals Review Vol. 8 No. 3 p.183-192. 岡田仁志 (2014b) ビットコインの構造と制度的課題 - 分散型仮想通貨の提起する論点とは- 情報処理 / 情報処理学会 55(5) p.440-443 {http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/649202.html} 岡田仁志 (2014c) 仮想通貨ビットコインの復元力 : 分散化の本質と集中化の弊害 月刊金融ジャーナル / 金融ジャーナル社 55(5) p. 34-37 藁品和寿 (2016) 幅広い産業分野で注目の集まる ブロックチェーン 技術 : 社会へ変革をもたらすインフラに変貌していく可能性も 信金中金月報 / 信金中央金庫地域 中小企業研究所 15(14)p. 73-82 Michael J.Casey Paul Vigna (2015) The age of CRYPTOCURRENCY. St Martins Pr. 5

Satoshi Nakamoto (2009)Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System {www.bitcoin.co.jp} (2017 年 7 月 17 日参照 ) ビットコイン(Bitcoin) 価格 相場 チャート {https://bitflyer.jp/ja/bitcoin-chart}7 月 9 日参照 ビットコイン分裂の危機 8 月 1 日に何が起きるのか? {https://bittimes.net/news/20170615-2.html}7 月 18 日参照 i 複数の端末間で通信を行う際の構造のひとつで 対等の者 (Peer ピア) 同士が通信をすることを特徴とする通信方式 システム ii 活動 組織などの中心点 集合点 iii Nakamoto, S.: Bitcoin : A Peer-to-Peer Electronic Cash System, [https://bitcoin.org/bitcoin.pdf(the Bitcoin Foundation の公認する団体が公開する論文 著者の実在性については未確認とされている ) iv 経済 分野においては 循環の中で効率的に収益を上げる構造 ここでは 取引の承認と通貨の発行を循環作業の中で同時に行えることを意味する v 個々の取引をまとめて1セットにして そのセット毎にデータベースに記録したも の vi 元の数値や文字列から固定長の疑似乱数を作るハッシュ関数で算出される値 vii 第一次世界大戦後のドイツの通貨 マルク や 2008 年のジンバブエの通貨 ジンバブエドル が挙げられる viii Bitcoin のマイニングの作業を Chainalysis が支配しているといわれている 実質的には 4つの中国企業が Bitcoin の採掘者として 7 割近いシェアを持っているそうだ ニューヨーク タイムズ参照 https://www.nytimes.com/2016/07/03/business/dealbook/bitcoin-china.html ix ブロックサイズ問題 から生じるもの 詳しくは https://bittimes.net/news/20170615-2.html 参照 6