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火災原因調査シリーズ (86) 壁掛け扇風機火災 壁掛け扇風機から出火した火災事例 浜松市消防局予防課 1 はじめに本事案は 壁掛け扇風機 ( 以下 扇風機 という ) から出火し 扇風機のほか天井 床を焼損した建物火災で 製造メーカー等の立会いにより 鑑識見分を実施し 製造メーカーが類似火災防止のため安全対策を講じたものである 2 火災概要覚知日時平成 26 年 7 月 ( 事後聞知 ) 出火日時平成 26 年 7 月 ( 覚知の約 1 時間前 ) 出火場所浜松市内福祉施設気象状況晴れ 気温 27 度 相対湿度 98% 焼損程度ぼや り災状況鉄筋コンクリート造 2 階建て 建物 1 階入居者の居室の天井 床若干焼損及び扇風機焼損 3 関係者の供述 ( 発見者 ) 午前 8 時 30 分ごろ 1 階の支援室 ( 職員の待機所 ) で業務の打ち合わせをしていたところ 焦げ臭さを感じたので職員 3 人で廊下に出ると 1 階の入居者の居室の壁掛け扇風機の首振り部分から火が出ているのを発見したため 建物内の粉末消火器で 初期消火を行った その際 扇風機はまだ動いており 本体のひもを引っ張ってスイッチを 切 にしたとのことであり スプリンクラー設備や自動火災報知設備は 扇風機の焼損状況 -56-

作動していない この扇風機は平成 22 年 7 月に購入し 他の部屋にも同型品が13 台設置してあり 日常の操作は入居者又は職員がしているが 異常は発生していない 4 現場見分状況焼損が認められるのは 扇風機と 扇風機付近の天井及び床が若干焼損しているのみである 扇風機は 壁面にスタンド部分を残し モーター 羽根及びガードは床に落下している 首振り部分周囲及びモーター付近に焼損が認められる 電源コードは壁面のコンセントに差された状態で 電源コードに焼損はなく コンセントの差し刃 受け刃にも焼損は認められない 現場で原因が判定できなかったため 建物関係者の承諾を得て扇風機を収去し 管轄消防署で鑑識見分を実施することとした 5 消防署での見分状況製造メーカーに焼損した扇風機の照会をしたところ 同型品の提供及び鑑識への立会い可能との回答を得たため 覚知から8 日後 製造メーカー 建物関係者及び独立行政法人製品評価技術基盤機構 (nite) の立会いで鑑識見分を実施した 扇風機について ( 製造メーカーからの情報 ) 消費電力弱 (17.9W) 中 (25.7W) 強 (40.9W) 製造期間 2005 年 4 月から現在 (2014 年 6 月 ) も生産継続中出荷台数 224,389 台 (2014 年 6 月末時点 ) 同型品からの出火 事故事例は過去に3 件発生している 1 件目の原因 :2009 年 7 月 高温多湿の温室内で24 時間連続運転と製品寿命を超える使用をしたため 配線内部が首振りによる繰り返し屈曲で断線し 短絡時のスパークで出火したもの 2 件目の原因 :2011 年 7 月 モーターが回転しないので修理を依頼したが 不適切な修理だったため 使用中のモーターから出火したもの 3 件目の原因 :2013 年 5 月 放火の可能性も含め出火原因の特定には至らない 130 2017( 秋季 ) -57-

扇風機をスタンド部分 羽根 ( プロペラ ) 部分 モーター部分 配線の 4 部分に分割して見分した ⑴ スタンド部分についてスタンド部分は合成樹脂製で 下部から首振り調整ひもと風量調整ひもが出ている いずれのひもにも焼けは確認できない 前面は切り替えスイッチが付いている 壁面取り付け側となる底板は消火器の粉が付 着しているが焼損や変形はない 前面 ( 切 弱 中 強の操作面 ) は底板同様 消火器の粉が付着しているが 焼損や変形はない しかし スタンド部分と羽根 ( プロペラ ) 部分の接続箇所 ( 首振り部分 ) は合成樹脂が溶融し黒く変色している -58-

スタンド部分の焼損状況 ⑵ 羽根 ( プロペラ ) 部分について羽根 ( プロペラ ) 部分は 5 枚の羽根と羽根をカバーする金属製の前ガード及び後ガードがある 前ガードに焼損はない 後ガードの中央取付け穴上部は 一部黒く変色しているが 変形はない モーターと後ガードを接続する合成樹脂製の円板は 上部が黒く変色しているのみであるのに対し 下部は一部溶融している 羽根 ( プロペラ ) は破損しているが 焼損はない ⑶ モーター部分についてモーターを覆う合成樹脂製のカバーの上部 ( 天井側 ) は消火器の粉のみが付着しているの に対し 下部 ( 床側 ) は溶融し焼失している 合成樹脂製のカバーを外し モーターを見分すると 外観は全体的に茶褐色に変色している モーターを分解し内部を確認する モーター部分は ヨーク ヨーク芯棒 ステーター ローターシャフト ターミナル ギヤケース ギヤボックスカバーで構成されている モーターコイルが巻かれたステーターは 部分的に黒く変色しているが 短絡の痕跡はない ギヤケースは溶融し 内部のギヤボックスカバーは黒く変色している ターミナルの接続部分に焼損は認められない ターミナルには 温度ヒューズ (115 2 A) 及びコンデンサーが設けられている 温度ヒューズをテスターで計測すると導通はない モーター内部 モーターカバーの焼損状況 モーター内部の焼損状況 130 2017( 秋季 ) -59-

コンデンサーは 表面に煤が付着しているが 割れや膨張はない ⑷ 配線についてスタンド上部からのびる2mの電源コードに焼損はない スタンド内部からは モーターのターミナルへ 黒色の塩化ビニル製絶縁被覆のモーターリードが接続されているが 断線し被覆に焼損が認められる モーターリードの中は 電源コードからのびる黒の配線 スタンド前面にある切り替えスイッチからのびる白 青及び黄の4 本の配線がある モーターリード 切り替えスイッチ ターミナル 青 モーターリード 黄 黒 白 モーターリードの焼損状況 4 本の配線の焼損状況 -60-

モーターリードを見分すると モーターのターミナル先端からスタンド方向へ約 17cm から22cm の位置で 断線している 断線部分は モーターリードの絶縁被覆が溶融し固着しているため モーターリードの絶縁被覆を剥ぎ仔細に見分すると 黒 白 青 黄の4 本 の配線があり 断線部分は被覆がなく芯線が露出している 4 本の配線のうち 白と青の2 本の配線は 先端に溶融痕は認められない 黄と黒の2 本の配線は 先端を拡大観察すると 溶融痕が確認できる 黒 白 青 黄 断線部分の状況 黒 ( モーター側 ) 白 ( モーター側 ) 青 ( モーター側 ) 黄 ( モーター側 ) 黒 ( スタンド側 ) 白 ( スタンド側 ) 青 ( スタンド側 ) 黄 ( スタンド側 ) 130 2017( 秋季 ) -61-

6 出火箇所の判定この火災で焼損が認められるのは 扇風機と 扇風機の上方の天井及び直下の床が若干焼損しているのみである 焼損した扇風機はスタンド部分を壁面に残し モーター 羽根及びガードは床に落下しており モーターを覆う首振り箇所の後カバーが一部溶融 配線被覆が一部焼損していることから 扇風機から出火したと判定する 7 出火原因の判定本火災の出火箇所や時間帯から放火は考えられない また 扇風機の電源コードに焼損はない よって 扇風機のモーター及び首振り箇所の配線 ( モーターリード ) について検討する ⑴ モーターについてモーターは全体的に茶褐色に変色しているものの 内部を見分すると ステーター内部のモーターコイル ( 銅線 ) に短絡は認められない コンデンサーの表面には煤が付着しているが 割れや膨張はなく 出火の痕跡は認められない 以上のことから コイルの層間短絡 コンデンサーの絶縁劣化等による出火はないと考えられる ⑵ モーターリード ( 配線 ) についてモーターリードは4 本 ( 白 黒 青 黄 ) を被覆で覆ってあり 途中で断線している 断線した箇所のモーターリードは被覆が焼失し 芯線が露出している その芯線からは4 本の配線が確認でき 黒及び黄の配線の断線部には溶融痕がある 断線位置は壁掛け扇風機の首振り部分で 本体のヨーク芯棒ブッシュとネックピース部付近にあたる 以上のことから 何らかの原因でモーターリードが短絡し スパークが発生したためネックピースの ABS 樹脂に着火したと考えられる 8-1 製造メーカーの調査鑑識実施後に製造メーカーは 建物関係者から扇風機を預かり 製造メーカーのみで再度見分を行っている 以下は 製造メーカーによる調査の結果である 今回 消防署で見分した扇風機について再度メーカーにて調査した結果 モーターリードが4 本すべて断線し モーターリード黄と黒に溶融痕が見られる以外 他に異常は認められなかった よって今回の火災は以下のメカニズムにより発生したものと推察している ⑴ 製造時にモーターを押さえながら左右に動かし固定するため ヨーク芯棒ブッシュとネックピースに挟まれたモーターリードがストレスを受けることにより モーターリードの黄または黒のいずれか若しくは両方が半断線状態で当該製品を首振り動作で使用 ⑵ 半断線状態のモーターリードが内部で不完全接触となり そのジュール熱によりモーターリードの塩化ビニル製絶縁被覆が徐々に炭化 ⑶ 塩化ビニル製絶縁被覆が炭化して最終的にモーターリード黄と黒 ( 異極 ) の芯線が接触 ( 短絡 ) ⑷ 異極間の短絡のため短絡時に大きなスパークが発生し 炭化した塩化ビニル製絶縁被覆から本体ネックピース部に延焼 ( 製造メーカーとしての結論 ) 今回の原因は モーターリード黄と黒に溶融痕が見られ 他には特に異常が見られないことから 製造上の不具合 ( モーター取付け工程にてモーターリードを挟み込 -62-

む ) によるものと推定 この施設で使用している当社全ての扇風機 (2006 年製から2011 年製の13 台 ) を回収し 首振り部分に位置するモーターリードをX 線撮影した結果 芯線に破損及び断線は見分されなかった とのことである 8-2 製造メーカーの対策消防側から今後の具体的な安全対策及び火災予防対策について 類似火災防止のた めの対策を製造メーカーに求めた結果 以下のとおり回答があった ⑴ 製造時にモーターリードを挟み込まないよう作業手順を変更するとともに作業指導票を改定して製造管理を徹底する ⑵ ネックピース部は ABS 樹脂を使用しているが 扇風機で使用している樹脂の中では一番着火しやすい素材であるため 今後は スパークが発生しても延焼に至らないようネックピース部を UL94 規格で難燃性の高い UL94V -0に変更する ヨーク芯棒ブッシュ ネックピース部 モーターリードが首振り部分で断線している状況 ヨーク芯棒ブッシュ ネックピース部 モーターリード 同型品のモーターリードの状況 130 2017( 秋季 ) -63-

9 おわりに本事案は 機器の焼損が少なかったため 製品のメーカー 型式まで特定することができた 製造メーカー立ち会いの下で鑑識を実施し 資料等の提供にもより モーターリードが短絡してスパークが発生し ネックピースの ABS 樹脂に着火したと出火原因を導くことができた しかし 今回の調査において 短絡に至った原因が 製造メーカーの見解のように ネックピース部のモーターリードの素線が断線し ジュール熱の増加により被覆が炭化し最終的に異極間で短絡したのか モーターリードの黒色の塩化ビニル 製絶縁被覆及びモーターリードの中の配線被覆に亀裂が入り異極間で短絡したのかまでの特定には至らなかった だが 消防から製造メーカーへ今後の具体的な安全対策及び火災予防対策について求めたところ 類似火災防止のため製造管理の徹底と一部素材変更に繋がった事案である また この時点においては リコールまでには至らなかったが 平成 28 年に当事案と類似する火災が2 件発生 製造メーカーが発火は単発的な事象ではないと判断し リコールの実施を決定している -64-