マスコミへの訃報送信における注意事項

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参考資料

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

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天気の科学ー8

風力発電インデックスの算出方法について 1. 風力発電インデックスについて風力発電インデックスは 気象庁 GPV(RSM) 1 局地気象モデル 2 (ANEMOS:LAWEPS-1 次領域モデル ) マスコンモデル 3 により 1km メッシュの地上高 70m における 24 時間の毎時風速を予測し

データ同化 観測データ 解析値 数値モデル オーストラリア気象局より 気象庁 HP より 数値シミュレーションに観測データを取り組む - 陸上 船舶 航空機 衛星などによる観測 - 気圧 気温 湿度など観測情報 再解析データによる現象の再現性を向上させる -JRA-55(JMA),ERA-Inter

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電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

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平成10年度 ヒートアイランド現象に関する対策手法検討調査報告書

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橡Ⅰ.企業の天候リスクマネジメントと中長期気象情

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プラズマ バブルの到達高度に関する研究 西岡未知 齊藤昭則 ( 京都大学理学研究科 ) 概要 TIMED 衛星搭載の GUVI によって観測された赤道異常のピーク位置と 地上 GPS 受信機網によって観測されたプラズマ バブルの出現率や到達率の関係を調べた 高太陽活動時と低太陽活動時について アジア


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Executive summary

プレスリリース 2018 年 10 月 31 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 台風の急激な構造変化のメカニズムを解明 - 台風の強度予報の精度を飛躍的に向上できる可能性 - 慶應義塾大学の宮本佳明環境情報学部専任講師 杉本憲彦法学部准教授らの研究チームは 長年の謎であった台風の構造が急激に変化する

気象学入門:イントロダクション

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日本の海氷 降雪 積雪と温暖化 高野清治 気象庁地球環境 海洋部 気候情報課

する距離を一定に保ち温度を変化させた場合のセンサーのカウント ( センサーが計測した距離 ) の変化を調べた ( 図 4) 実験で得られたセンサーの温度変化とカウント変化の一例をグラフ 1 に載せる グラフにおいて赤いデータ点がセンサーのカウント値である 計測距離一定で実験を行ったので理想的にはカウ

研究成果報告書(一部基金分)

MU レーダーから PANSY へ 東京大学大学院理学系研究科佐藤薫 私は料理が好きだ 特に菓子作りには自信がある ゼリー液を氷水に入れてかき混ぜながら だいぶ粘性が高くなってきたなとつぶやいていたりする 菜箸をツーと走らせて渦のできる様子を観察し ついレイノルズ数を推定したりしてしまう 最近京大の

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結果を用いて首都圏での雪雲の動態を解析することができました ( 詳しい解説 は別添 ) こうした観測事例を蓄積し 首都圏降雪現象の理解を進め 将来的に は予測の改善に繋げていきたいと考えています 今回の研究成果は 科学的に興味深く 新しい観測研究のあり方を提案するものとして 日本雪氷学会の科学誌 雪

2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

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委 44-4 TRMM の最近の成果と これからの展望について 第 44 回宇宙開発委員会平成 14 年 11 月 20 日 ( 水 ) 宇宙開発事業団独立行政法人通信総合研究所

暴風雪災害から身を守るために~雪氷災害の減災技術に関する研究~

7 渦度方程式 総観規模あるいは全球規模の大気の運動を考える このような大きな空間スケールでの大気の運動においては 鉛直方向の運動よりも水平方向の運動のほうがずっと大きい しかも 水平方向の運動の中でも 収束 発散成分は相対的に小さく 低気圧や高気圧などで見られるような渦 つまり回転成分のほうが卓越

IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書概要 ( 気象庁訳 ) 正誤表 (2015 年 12 月 1 日修正 ) 第 10 章気候変動の検出と原因特定 : 地球全体から地域まで 41 ページ気候システムの特性第 1 パラグラフ 15 行目 ( 誤 ) 平衡気候感度が 1 以下である可能性

論文の内容の要旨

(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

て高度 10km までのエアロゾル観測とサンプルリターンに成功しました ( 文献 ) フェニックス 3 号機は九州大学が無人航空機の開発と運用を 福岡大学が小型のエアロゾル観測機器の開発と観測をそれぞれ担当しました このときに採取されたサンプルからは 対流圏に 中緯度の海洋上から運ばれ

測量士補 重要事項 はじめに GNSS測量の基礎

平成 2 7 年度第 1 回気象予報士試験 ( 実技 1 ) 2 XX 年 5 月 15 日から 17 日にかけての日本付近における気象の解析と予想に関する以下の問いに答えよ 予想図の初期時刻は図 12 を除き, いずれも 5 月 15 日 9 時 (00UTC) である 問 1 図 1 は地上天気

IPCC 第1作業部会 第5次評価報告書 政策決定者のためのサマリー

南極地域観測事業に必要な経費

417-01

Wx Files Vol 年4月4日にさいたま市で発生した突風について

資料1-5 5GHz帯におけるレーダーの概要


1. 天候の特徴 2013 年の夏は 全国で暑夏となりました 特に 西日本の夏平均気温平年差は +1.2 となり 統計を開始した 1946 年以降で最も高くなりました ( 表 1) 8 月上旬後半 ~ 中旬前半の高温ピーク時には 東 西日本太平洋側を中心に気温が著しく高くなりました ( 図 1) 特

また 積雪をより定量的に把握するため 14 日 6 時から 17 日 0 時にかけて 積雪の深さは と質 問し 定規で測っていただきました 全国 6,911 人の回答から アメダスの観測機器のある都市だけで なく 他にも局地的に積雪しているところがあることがわかりました 図 2 太平洋側の広い範囲で

12 源泰拓 が異常となり, 復旧しなかったため, 機材を国内に持ち帰った. この異常の原因は, 遮蔽板を接地するためにモータ回転軸に使用した接点ブラシが磨耗した結果出た金属粉が原因と考えられ,46 次隊ではセンサーの接点に水銀を使用したものに改造して昭和基地に持ち込んだところ正常に動作した ( 高

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火星大気循環の解明 ~ ダストデビルの内部調査 ~ Team TOMATO CPS 探査ミッション立案スクール 2016/08/26

Kumamoto University Center for Multimedia and Information Technologies Lab. 熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI 宮崎県美郷

Update of JaLC

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() 実験 Ⅱ. 太陽の寿命を計算する 秒あたりに太陽が放出している全エネルギー量を計測データをもとに求める 太陽の放出エネルギーの起源は, 水素の原子核 4 個が核融合しヘリウムになるときのエネルギーと仮定し, 質量とエネルギーの等価性から 回の核融合で放出される全放射エネルギーを求める 3.から

極スペシャル 南沢奈央と語る 地球温暖化とオゾンホールの今 地球温暖化が進む中で 気温の上昇をどうしたら抑えられるかが世界的な問題 になっています 一方 30 年前に問題になったオゾンホールは 今どうなっ ているのでしょうか? 環境問題の今を 女優で NHK E テレの サイエンス ZERO のナビ

1

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研究成果報告書

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水循環観測

熊谷地方気象台対象地域埼玉県 平成 26 年 2 月 8 日から 9 日にかけての大雪に関する 埼玉県気象速報 1 資料作成の目的 2 気象の状況 3 警報等の発表状況 4 災害の状況 平成 26 年 2 月 10 日 熊谷地方気象台 この資料は速報として取り急ぎまとめたもので 後日内容の一部訂正や

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図 1 COBE-SST のオリジナル格子から JCDAS の格子に変換を行う際に用いられている海陸マスク 緑色は陸域 青色は海域 赤色は内海を表す 内海では気候値 (COBE-SST 作成時に用いられている 1951~2 年の平均値 ) が利用されている (a) (b) SST (K) SST a

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スライド 1

資料6 (気象庁提出資料)

正誤表 ( 抜粋版 ) 気象庁訳 (2015 年 7 月 1 日版 ) 注意 この資料は IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書の正誤表を 日本語訳版に関連する部分について抜粋して翻訳 作成したものである この翻訳は IPCC ホームページに掲載された正誤表 (2015 年 4 月 1

大雪の際のドライブプランの検討に役立つ新たな情報提供を行います 高速道路会社が共同で 株式会社ウェザーニューズと連携した 新たな 高速道路の情報提供サイト を立ち上げます 大雪の際には情報提供サイトをご確認いただき 大雪地域へのご旅行等の見合わせや広域の迂回など ご協力をお願いします タイムライン

気候変化レポート2015 -関東甲信・北陸・東海地方- 第1章第4節

天気予報 防災情報への機械学習 の利 ( 概要 ) 2

Taro-40-11[15号p86-84]気候変動


from TRMM to GPM

概論 : 人工の爆発と自然地震の違い ~ 波形の違いを調べる前に ~ 人為起源の爆発が起こり得ない場所がある 震源決定の結果から 人為起源の爆発ではない事象が ある程度ふるい分けられる 1 深い場所 ( 深さ約 2km 以上での爆発は困難 ) 2 海底下 ( 海底下での爆発は技術的に困難 ) 海中や

受信機時計誤差項の が残ったままであるが これをも消去するのが 重位相差である. 重位相差ある時刻に 衛星 から送られてくる搬送波位相データを 台の受信機 でそれぞれ測定する このとき各受信機で測定された衛星 からの搬送波位相データを Φ Φ とし 同様に衛星 からの搬送波位相データを Φ Φ とす

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3 大気の安定度 (1) 3.1 乾燥大気の安定度 大気中を空気塊が上昇すると 周囲の気圧が低下する このとき 空気塊は 高断熱膨張 (adiabatic expansion) するので 周りの空気に対して仕事をした分だ け熱エネルギーが減少し 空気塊の温度は低下する 逆に 空気塊が下降する 高と断


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31608 要旨 ルミノール発光 3513 後藤唯花 3612 熊﨑なつみ 3617 新野彩乃 3619 鈴木梨那 私たちは ルミノール反応で起こる化学発光が強い光で長時間続く条件について興味をもち 研究を行った まず触媒の濃度に着目し 1~9% の値で実験を行ったところ触媒濃度が低いほど強い光で長

北極陸域から発生するダストが雲での氷晶形成を誘発する とうぼう国立極地研究所の當房 おおはた地球環境研究所の大畑 しょう祥 ゆたか豊 あだち助教 気象研究所の足立 こいけ助教 東京大学の小池 まこと真 こうじ光司 主任研究官 名古屋大学宇宙 准教授らによって構成される国際共同 研究グループは 北極圏

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種にふくまれているものは何か 2001,6,5(火) 4校時

配付資料10~12

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Wx Files Vol 年2月14日~15日の南岸低気圧による大雪

火山活動解説資料平成 31 年 4 月 19 日 19 時 40 分発表 阿蘇山の火山活動解説資料 福岡管区気象台地域火山監視 警報センター < 噴火警戒レベル2( 火口周辺規制 ) が継続 > 中岳第一火口では 16 日にごく小規模な噴火が発生しました その後 本日 (19 日 )08 時 24

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コマンド入力による操作1(ロード、プロット、画像ファイル出力等)

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火山活動解説資料 ( 令和元年 5 月 ) 栗駒山の火山活動解説資料 ( 令和元年 5 月 ) 仙台管区気象台地域火山監視 警報センター 火山活動に特段の変化はなく 静穏に経過しており 噴火の兆候は認められません 30 日の噴火警戒レベル運用開始に伴い 噴火予報 ( 噴火警戒レベル 1 活火山である

( 第 1 章 はじめに ) などの総称 ) の信頼性自体は現在気候の再現性を評価することで確認できるが 将来気候における 数年から数十年周期の自然変動の影響に伴う不確実性は定量的に評価することができなかった こ の不確実性は 降水量の将来変化において特に顕著である ( 詳細は 1.4 節を参照 )

SE法の基礎

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されており 日本国内の低気圧に伴う降雪を扱った本研究でも整合的な結果が 得られました 3 月 27 日の大雪においても閉塞段階の南岸低気圧とその西側で発達した低気圧が関東の南東海上を通過しており これら二つの低気圧に伴う雲が一体化し 閉塞段階の低気圧の特徴を持つ雲システムが那須に大雪をもたらしていま

Transcription:

PANSY レーダーが南極最大の大気レーダーとして本格観測開始 1. 発表者 : 佐藤薫東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授 (PANSY プロジェクトリーダー ) 堤雅基国立極地研究所研究教育系准教授 (PANSY プロジェクトサブリーダー 第 52 次南極地域観測隊越冬副隊長 ) 佐藤亨京都大学大学院情報学研究科通信情報システム専攻教授 ( 研究科長 第 53 次南極地域観測隊 ) 2. 発表のポイント : どのような成果を出したのか 南極昭和基地大型大気レーダーは 全体の 1/4 にあたるシステムの調整を終え 稼働に成功 し 南極最大のレーダーとなった 現在対流圏 成層圏の観測を継続中である 新規性 ( 何が新しいのか ) オーストラリア Davis 基地の中型の大気レーダーを超えて南極最大の大型大気レーダーとなったこと 社会的意義 / 将来の展望環境が苛酷であるため他の緯度帯に比べて遅れがちだった南極大気の観測的研究に大きな進歩がもたらされること これにより気候の将来予測の精度向上に結びつくこと 3. 発表概要 : 南極昭和基地大型大気レーダー (PANSY レーダー )(PANSY:Program of the Antarctic Syowa MST/IS radar 東京大学大学院理学系研究科佐藤薫教授代表) は 2012 年 5 月初めに 第 53 次南極地域観測隊により全体の 1/4 にあたるシステムの調整を終え オーストラリア Davis 基地の中型の大気レーダーを超えて 南極最大の大型大気レーダーとしての本格観測を開始した これによってブリザードをもたらす極域低気圧の物理的解明や オゾンホールにも関係する対流圏界面の時間変動などの研究が可能となる 現在 きわめて良好なデータが得られており 対流圏と成層圏の空気交換の様子がわかってきた PANSY レーダーは 第 52 次南極地域観測隊により 2011 年 2 月に南極昭和基地に建設された世界初の南極大気レーダーである 国立極地研究所堤雅基准教授を中心とする作業チームにより同年 3 月に部分稼動による初期観測に成功したが その後の記録的な大雪被害のため 観測を中断していた 第 53 次隊では 18 年ぶりの南極観測船 しらせ の接岸断念という非常事態となったが 京都大学大学院情報学研究科佐藤亨教授を中心とする作業チームはこれを乗り越え 2011 年 12 月下旬からの約 1 か月半の夏期間に 予定されていたアンテナの大移設作業を完遂した そして 越冬中に予定されていた 1/4 のシステム調整を本年 5 月に終え 対流圏 下部成層圏の本格観測を開始した 2012 年 11 月出発予定の第 54 次隊では PANSY レーダーフルシステムを稼働させる予定 これによってさらに上空の中間圏や電離圏での大気現象の解明にも取り組む 環境が苛酷である

ため他の緯度帯に比べて遅れがちであった南極大気の観測的研究に大きな進歩がもたらされ 気候の将来予測の精度向上などが期待される 4. 発表内容 : 2011 年 3 月に部分稼動により初期観測に成功した南極昭和基地大型大気レーダー (PANSY レーダー :Program of the Antarctic Syowa MST/IS radar) は 第 52 次南極地域観測隊が越冬期間中の 2011 年 4 月以降に記録的な大雪に見舞われ アンテナエリアにも被害が出たため観測を中断し 周囲の比較的標高の高い場所へのアンテナ移設を検討していました そして 53 次隊を中心に 2011 年 12 月下旬から約 1 か月半にわたり移設工事を行いました 53 次隊は現在まですでに数回のブリザードに見舞われていますが 移設先のアンテナにはほとんど積雪は見られていません 第 53 次隊では 南極観測船 しらせ の昭和基地接岸断念という 18 年ぶりの非常事態となり 輸送が大幅に制限されました PANSY 計画も 2012 年に予定されていた世界初の中間圏乱流観測を断念し 予定の 1/2 システム稼働から 1/4 システム稼働へと目標を変更せざるを得ませんでした しかし PANSY 計画は 越冬成立 に次ぐ優先プロジェクトとして位置づけられていたため 移設に必要な建設機材 および 第 54 次隊で計画しているフルシステム稼働につなげるための屋内制御機器の全ての搬入ができました 2012 年 1 月には 除雪後 52 次隊で導入したシステムを立ち上げ 極中間圏雲に関連する強いエコーである PMSE(Polar Mesosphere Summer Echo) の観測にも成功しています 2012 年 2 月下旬に夏隊が基地を出発した後は 越冬隊によりシステム調整が行われていました そして 5 月初めにほぼ終了し 対流圏と下部成層圏の観測が開始されました 図 1は 5 月初旬の鉛直ビームを用いて観測されたエコー強度の時間高度断面図です きわめて良好なデータが得られています 図には 気象庁の 1 日 2 回の高層気象観測により得られた対流圏界面の高度を重ねてあります 対流圏界面付近で散乱エコー強度が大きくなっており それが時間的にダイナミックに変動している様子がわかります これは オゾンや水蒸気の量が大きく異なる対流圏と成層圏の空気の交換が盛んになされていることを示唆しています 今後 大型大気レーダーでのみ観測可能な鉛直風の推定等を行い物質交換に関する定量的解明を進めるとともに ブリザードをもたらす極域低気圧や オゾンホールに関連する極成層圏雲などの極域固有の現象に関する研究テーマに取り組んでいく予定です 2012 年 11 月出発予定の第 54 次隊では 海氷の状況等が平年どおりであれば アンテナ全数を使用した PANSY レーダーのフルシステムを稼働させる予定です フルシステムによって地上 1km から 500km の対流圏 成層圏 中間圏 熱圏 / 電離圏の観測が可能となり 環境が苛酷であるため他の緯度帯に比べて遅れがちであった南極大気の観測的研究に大きな進歩がもたらされることが期待されます これによって 地球気候における極域の位置づけがより明確になり 気候の将来予測の精度向上に結びついていくことになります ホームページ :http://pansy.eps.s.u-tokyo.ac.jp 5. 発表雑誌 : 本成果は 2012 年 5 月に行われた日本地球惑星科学連合の連合大会 日本気象学会春季大会で発表されました

6. 注意事項 : 解禁の制限はございません 7. 問い合わせ先 : ( 研究に関すること ) 東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 教授 ( 国立極地研究所 客員教授 ) 佐藤薫 TEL:03-5841-4668 E-mail:kaoru@eps.s.u-tokyo.ac.jp ( 報道に関すること ) 東京大学大学院理学系研究科広報室副室長 / 科学コミュニケーション准教授横山広美 TEL:03-5841-7585 E-mail:kouhou@adm.s.u-tokyo.ac.jp 情報 システム研究機構国立極地研究所広報室川久保守 TEL: 042-512-0655 Mobile:080-1361-6119( 川久保 ) E-mail:kofositu@nipr.ac.jp 8. 用語解説 : 大気レーダー大気中には風に乗って動く微弱な乱流が常に存在する 大気中に強い電波を発射すると 乱流から電波が散乱される ( これを散乱エコーと呼ぶ ) 大気レーダーは 大気乱流からの散乱エコーを受信し その周波数のドップラー偏移を調べることで風を推定する 雨粒からの散乱エコーを受信する気象レーダーとは区別される 大気レーダーは大気中の物質や運動量輸送を研究するのに必要な風の鉛直成分を直接推定できる唯一の観測器である PANSY レーダーは特に大型であり フルシステム稼働によって中間圏の乱流散乱を受信できる感度も持つのが最大の特徴 現在の PANSY レーダーは 1/4 システムであるため中間圏の乱流散乱は検出できない 電子密度 電子温度 イオン温度等の推定に必要な電離圏散乱エコー観測もフルシステム稼働により初めて実現される 対流圏 成層圏 中間圏 熱圏 電離圏平均的な気温の鉛直勾配の正負によって分類される大気領域の名前 成層圏と中間圏の境である成層圏界面は温度が極大となっている この温度極大は 中低緯度および夏の極域では太陽の紫外線をオゾン層が吸収し大気を加熱しているためであるが 冬の極域は 大気波動が駆動する大気大循環によって維持されており 時間的に大きく変動する 電離圏は大気が電離している大気領域であり 中間圏 ~ 熱圏に広がるが その広がりや電離の強さは季節や時刻による たとえば 中低緯度の電離圏は 1 日変化が顕著であるが 極域では夏は白夜 ( 太陽が 1 日中沈まない状態 ) となるため強い電離が長期間継続し 冬は極夜 ( 太陽が 1 日中沈んだ状態 ) となるため電離が弱い状態が続くといった固有の特徴がある ブリザード強い吹雪と強い地吹雪の総称 降雪がなくても積雪が舞い上がり吹雪となるのが地吹雪 風の強さや視程 ( 目視可能な距離 ) 継続時間によって 強いほうから A 級ブリザード B 級ブリザード C 級ブリザードに分類される 基準は国によって異なる ブリザードは猛烈な低気圧の接近に伴うことが多いが その精密な観測はまだ行われておらず PANSY レーダーの観測に期待がかかる オゾンホール

南極の春に現れる成層圏のオゾン層が極度に薄くなった状態 南極を中心にオゾン層に穴があいたようにみえるためオゾンホールと呼ぶ 以前冷蔵庫などの冷媒 スプレーなどに使用されていたフロンを起源とする物質がかかわる光化学反応によりオゾン層が破壊されてオゾンホールが発生する オゾン層破壊物質は 極成層圏雲と呼ばれる高度 20km 付近の極域固有の雲の表面で起こる反応によって生成されるので 中低緯度にはオゾンホールは出現しない また 夏になると 中緯度のオゾン層のオゾンが極域に流れ込みオゾンホールは消滅する このとき極域のオゾンが薄い空気が中低緯度に流れ出すので中緯度のオゾン層も薄くなる 現在の気候モデルではこのようなオゾンホールの季節変化を正確に予測できておらず PANSY レーダーによる研究観測の成果が待たれている フロンの使用は禁止されているが フロンの寿命は長いのでオゾンホールは今世紀後半まで出現し続けると考えられている 北極の成層圏は南極よりも気温が高いため極成層圏雲が少なく 南極ほどのオゾン破壊が起こらないと考えられていたが 2011 年の 3 月には南極オゾンホールに匹敵するオゾン破壊が起こり注目されている 越冬成立冬期間に必要な食糧や燃料 観測機材などが昭和基地に到着し 越冬できる状態になること 53 次隊ではしらせの接岸断念等のため輸送が大幅に制限され 昭和基地の備蓄燃料はあまり余裕のない状況である 夏隊 越冬隊南極観測船しらせは 1 年に 1 度南極昭和基地と日本の間を往復する つまり 11 月中旬に日本を出発し 12 月中 ~ 下旬に昭和基地に付近に到着 翌年 2 月中旬には昭和基地付近を出発して 4 月中旬に日本に到着する 12 月下旬から 2 月中旬の夏期間のみ南極で活動し 帰国するのが夏隊 1 年間南極で長い冬を過ごし 出発の翌々年に帰国するのが越冬隊である 過去の PANSY のプレスリリースの用語解説も参考にしてください 昭和基地に世界初の南極大型大気レーダーを設置 http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2010/43.html 南極大型大気レーダー初観測に成功 http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2011/09.html 9. 添付資料 :

図 1 2012 年 5 月 5~8 日に観測された大気散乱エコー強度の時間高度断面図 オレンジの は昭和基地における気象庁のラジオゾンデ観測により得られた対流圏界面の位置 対流圏界面ではエコー強度が強くなっており 時間的に大きく変動していることが明瞭にとらえられている