東日本大震災のインターネット公開 映像を用いた震災アーカイブの構 築 岩手大学人文社会科学部情報科学研究室遠藤教昭岩手大学人文社会科学部植物生態学研究室竹原明秀 1
1. 本研究の目的 (1) 震災情報 東日本大震災などの震災情報に関する被災地住民の関心は 震災直後は 自身の居住地や近隣の被災状況がどうであるか 救援や生活のために移動は可能であるか などであると思われる 2
またある程度状況が落ち着いたあとは その震災を後世にどのように伝え 防災にどのように生かしていくかであると思われる もちろん これらのことは被災地の住民のみならず 日本全体 あるいは世界全体の市民の関心事でもある そこで研究では まず上記のうち後者に着目し 東北地方太平洋沖地震による津波被害を震災記録として後世に伝えるための方法に関して検討した 3
(2) ネット公開映像を地理データと してアップグレード 報道機関の映像も重要な情報であるが 東日本大震災では インターネットの公開映像に有用なものが多い ただ それらに関しては震災情報としての価値が高いものが多い反面 位置属性がおおまかな撮影地情報のみで 地理データ 空間データとしての価値は低い 1) 4
そこで本研究では 公開映像に撮影ルート情報を付加し 地理データとしての価値を上げ それらを蓄積して震災アーカイブの作成を行った 特に地域の経済活動や住民の移動のために重要である道路およびその周辺を研究の対象地域とし アーカイブの防災教育への利用に考慮した 5
2. 研究方法 前報 1) で作成した第一期システム 2) と 本研究で作成した第二期システムを対比して述べる 6
A 第一期システムの研究方法 (1) 対象区域 八戸市の震災津波浸水区域のうち 館鼻公園 白銀町から鮫町にかけての港湾区域 7
(2) 資料 1) 現地撮影のビデオデータ 著者が撮影したもの ( 2011/03/30) のほか インターネットで公開されているものを著作権者の許諾を得て使用 2) 2500 分の 1 グレードのデジタル地図 3) 高解像度衛星画像 震災前後の 50cm 解像度画像を購入し パンシャープン画像を作成して使用 8
(3) 使用システム 1) コンテンツ公開用サーバ ハード :PC サーバ ソフト : OS として Linux WWW サーバソフトとして Apache HTTP server 2) コンテンツ作成用クライアント ハード : PC ソフト : 文書編集にメモ帳 閲覧用に WWW ブラウザ 9
B 第二期システムの研究方法 Web サービスの一種 Yahoo! JavaScript マップ API 3) を 地図表示ソフト開発プラットホームとして採用 システムは第一期に比べ大幅に簡略化され かつ高機能化 10
(1) 対象区域 第一期システムと同じ (2) 資料 1) 現地撮影のビデオデータ 第一期システムと同じ ただし 第一期で必要だった 2) デジタル地図と 3) 高解像度衛星画像は Web サービスで提供されている 11
(3) 使用システム 第一期システムと同じ ただし 前記のように 2) デジタル地図と 3) 高解像度衛星画像は格納の必要はなく HTML 文書 ASX ファイル ビデオデータの格納だけに用いる 12
(4) Web サービス 第二期システムでは新たに 地図表示に関する部分の開発プラットホームとして Yahoo! JavaScript マップ API 3) を採用 したがって開発言語は JavaScript 13
3. アーカイブの作成法と結果 現地撮影のビデオデータと地図データを 簡易撮影ルート情報を作成してリンクすることにより 津波被害を容易にブラウズできるように工夫した 14
(1) 映像の撮影ルートを特定する 方法 前述のように 東日本大震災のインターネット公開映像の位置属性は おおまかな撮影地情報のみなので まず公開映像の撮影ルートを特定した 具体的には ビデオ撮影時の開始点 ( 開始ノード ) 撮影ルート ( 複数の中間ノード ) 終了点 ( 終了ノード ) を明らかにした 15
建物名の掲載された詳細地図を参照しながらビデオを閲覧し ビデオに映った建物の看板などからルートを判定した そのルート情報を公開映像の属性情報として記録した この作業によって公開映像の地理データとしての価値が上がる 16
図 : 探索した撮影ルートの例 ( 八戸市白銀町 ) 調査によって判明したビデオの撮影ルートが 折れ線で表示されている ( ノード 1 から 6) 表示されている各ノードをマウスでポイントすると ノード番号が地図の左下に表示される 17
18
19
20
21
22
23
(2) 各ノードからビデオへのリンクを 作成 図 ノード番号のクリックで そのノードから次のノードまでの映像が再生されるように ASX ファイルを設定 第一期システムでは HTML のクリッカブルマップ機能を用いることによって 地図画像と ASX ファイルをリンク 第二期システムでは Web サービスの機能を用いて JavaScript 言語で地図画像と ASX ファイルをリンク 24
(3) ASX ファイルとは Windows Media メタファイルの一種で Web ページから サーバ上の Windows Media ベースのコンテンツ (WMV ファイル ) へのリンクとして機能するテキストファイルである 25
StartTime タグ Duration タグを使用することによって WMV ビデオの再生開始ポイントや 再生時間を指定できる Web ページ上で WMV の再生をコントロール可能 これにより 1 本のビデオに複数の再生パターンを設定できる 地理情報 ( ルート情報 ) の付与されていないビデオに 簡易的な地理情報を付与 26
(4) 衛星画像へのリンク作成 図 1 第一期システムでは 地図上の各ノード付近の衛星画像をキャプチャしておき 各ノード番号をクリックするとその衛星画像が表示されるようにして ビデオと画像を両方閲覧できるようにした これにより 複数の視点から被災状況を把握できるようにした 27
本論文の第二期システムでは 衛星画像は Web サービスのコンテンツにもともと含まれているので 開発者が衛星画像を用意する必要はない ブラウザ画面右上に設定した 写真 ボタンをクリックすると 画面全体が衛星画像に切り替わるように JavaScript アプリケーションを作成した また震災後の衛星写真や空中写真も ボタン切り替えで表示されるように設定した 28
(5) カレンダービューの表示 収録映像の撮影年月日が 直感的にわかると映像が探しやすい そこで本研究の第二期システムでは システムのトップページにカレンダービューを表示し ( 撮影年および月 ) そこに撮影地の地図をリンクして ビデオを閲覧できるようにした 29
(6) 震災アーカイブの構築 以上のようなデータを蓄積して震災アーカイブの作成を行う 現在は映像が少ないため特にデータベースシステムは用いていないが 今後は収録映像を増やし Linux のデータベースシステム MySQL にデータを登録して 必要な映像がすぐに検索できるようにする予定 30
4. 考察 本研究では地図表示のために Web サービスを用いることによって 経済的かつ効率的に東日本大震災の公開映像を用いた震災アーカイブの試作を行うことができた しかし この Web サービスが長期にわたって存在するかは定かではなく ごく近い将来にサービスが終了する可能性さえあろう 31
またアーカイブの構築には Web サービスの地図のアップデートが逆に災いする 震災映像の撮影時期に同期した地図が必要だからである 結論的には Web サービスは高機能で便利だが 地図表示のためにも早期に独自システムの構築が必要であると考えるのが妥当であろう 32
謝辞 東日本大震災に関する貴重な震災映像をご提供いただいた皆様 また有用なフリーソフトウェアをご提供くださっている皆様に深く感謝の意を表します 33
参考文献 1) 遠藤教昭 竹原明秀 : 高解像度衛星画像を用いた東日本大震災による八戸地区の津波被災状況の評価, 地理情報システム学会講演論文集, Vol.20,CD-ROM(4 pages), 2011. http://www.hss.iwateu.ac.jp/endo/presen/2011/gisa-2011-shinsairev.pdf 34
2) 遠藤教昭 竹原明秀 : 高解像度衛星画像を用いた東日本大震災による八戸地区の津波被災状況の評価, 地理情報システム学会 第 20 回研究発表大会, 鹿児島大学, 2011 年 10 月 15 日 ( 土 )~16 日 ( 日 ). http://www.hss.iwate- u.ac.jp/endo/presen/2011/gisa-2011- shinsai.ppt 3)http://developer.yahoo.co.jp/webapi/map/ openlocalplatform/v1/js/ 35