椊物とイオンの関係

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植物とイオンの関係 青木慶和田代裕慶野口俊介指導教諭千葉先生 Ⅰ 動機と目的私たちは まずスポーツドリンクに含まれる様々なイオンが 体にどのような影響を与えるかに興味を持った さらに先輩たちが行った メダカの耐塩性の研究 を読んでイオンが生物に対して与える影響についてより興味を持ち調べることにした そこで私たちは研究の材料に植物を選んだ 植物は動物と異なり無機塩類を無機イオンとして根から吸収し栄養とすることができるため イオンの影響を調べる対象として適当であると思った 植物に対する無機栄養の研究は農業の肥料として古くから行われてきており 特定元素の過剰症や欠乏症は詳しく調べられている しかし定量的な記載がほとんどないことがわかった そこで私たちは イオンが植物の成長に対してどのような影響を与えるかを定量的に調べることにした Ⅱ 概要植物を栽培するのに土壌を使用すると そこに含まれる無機塩類の種類と量を把握することが困難なため定量的な実験ができない 今回行った水耕栽培は使用する培地に含まれる無機塩類の種類と量を調整することが可能であり 私たちの研究の目的に適していると考えた インターネットで水耕栽培の方法を調べてみるといくつかの方法があるが 私たちは一度になるべく大量のデータを集める必要があったので 目的に合った水耕栽培装置の開発 ( 実験 Ⅰ) を行った 次に自作の水耕栽培装置を利用して無機塩類 ( 無機イオン ) が植物の成長にどのような影響を与えるか調べることにした 水耕栽培でイオンは液体の培地に含まれるため 私たちはまず液体培地を何にするのかを検討した 一般的に水耕栽培には市販の液体肥料が用いられるが その組成は企業秘密でわからない そこで私たちは組成がわかっている MS 培地に注目した しかし MS 培地は植物の組織培養に用いられる培地であり 水耕栽培に利用できるかは不明であった そこで MS 培地と その組成を変えた MS 培地を用いた水耕栽培を行い MS 培地が私たちの研究に利用できるか確認した ( 実験 Ⅱ) 高等植物の多量必須元素は 炭素 水素 酸素 窒素 リン 硫黄 カリウム カルシウム マグネシウムがあり それ以外に鉄やマンガンといった微量必須元素が必要であることがわかっている 実験 Ⅱの水耕栽培に用いる 組成を変えた MS 培地 については 上記の必須元素のうち 組成が変わることでなるべく影響が大きく表れるものを予想し調整を行った 今回は以下の理由でリンとマグネシウムを選んだ P( リン ) と Mg( マグネシウム ) に着目した理由 植物が育つのに必要な三大栄養素のひとつが P で 成長に大きくの影響を与えると考えた Mg は植物のクロロフィルの生成に必要なので 光合成に影響することで成長にも影響を与えると考えた 実験 Ⅱ を行ってみるとリンに関しては濃度によって成長に差が生じたのでさらにいろいろな濃度での成長に対する影響を調べた ( 実験 Ⅳ) また MS 培地の組成の差 は葉の成長以外にも 葉の色の違いとして観察されたのでそのことに関する実験を行った ( 実験 Ⅲ) 最後に今回の実験は秋以降に行ったので対象とする植物は以下の理由で野沢菜を用いた 野沢菜を選んだ理由 木曽地方では秋以降に種をまき栽培する植物であったから 2-1

Ⅲ 実験内容 実験 Ⅰ 水耕栽培装置の製作 私たちは 植物の成長には個体差があるので 1 つの培地につき大量のデータを集める必要があると考えた 目的に合った水耕栽培の方法をインターネットで調べてみると ペットボトルを加工する 水槽に循環用ポンプを取り付けて行なう等の方法があったが これらは簡単かつ大量のデータを取るのに適しておらず そのような性質を備えた装置を製作する必要があった そこで私たちは卵パックを使って 装置を製作することにした 材料 卵パックスポンジ野沢菜の種バーミキュライトハイポニカ ( 協和株式会社 ) 方法 卵パックを用意し 上部の一部をカッターで切り取り もう片方の切り取っていないパックと重ね合わせる 切り取ったところに発芽後 1 週間たった野沢菜が乗っているスポンジを差し込む ( 左写真 ) そして下部を液体培地で満たす 最後に野沢菜が倒れないようにバーミキュライトで支えた ( 右写真 ) 結果 市販の液肥であるハイポニカで栽培した野沢菜の種が従来通り成長したため この装置が使えることが証明された 卵パックとスポンジで作った上の写真のような装置を以下の実験で使用する場合これを 水耕栽培装置 とよぶ 2-2

実験 Ⅱ イオンが植物の成長に与える影響 純水 液体肥料のハイポニカ ( 濃度が通常 通常の 10 分の 1 の濃度 通常の 10 倍の濃度 ) MS 培地 ( 通常の組成 Mg を含まない組成 Mg を通常の 10 倍含む組成 P を含まない組成 P を通常の 10 倍含む組成 ) 計 9 つの培地で 10 個体ずつ育て 植物の成長を葉の成長として測定し 培地の組成の差による植物の成長の差を観察する 仮説 (MS 標準の成長を基準にして ) 純水 : 枯れる 成長が遅い ( 無機栄養が無いから ) MS(P なし ): 育ちが悪い ( 三大栄養素のうちのひとつが欠けているから ) MS(P10 倍 ): 育ちが良い (P が大量に含まれているから ) MS(Mg なし ): 育たない :( クロロフィルが作れなくなるから ) MS(Mg10 倍 ): 育ちが良い ( クロロフィルを大量に作れるから ) ハイポニカ : 育ちがよい ( 実証されているから ) ハイポニカ (1/10): 育たない ( 薄いから ) ハイポニカ (10 倍 ): 枯れる ( 浸透圧の影響 ) 材料 純水 MS 培地ハイポニカ野沢菜の種バーミキュライト水耕栽培装置 方法 1MS 培地 MS 培地を調整するために貯蔵液 1~5を作る その時 MgSO 4 7H 2 O を 10 倍加えた貯蔵液 3(Mg10 倍用 ) KH 2 PO 4 除いた貯蔵液 1(P なし用 ) KH 2 PO 4 を 10 倍加えた貯蔵液 1(P10 倍用 ) も作る (Mg 無しは 貯蔵液 3の代わりに純水を加え調整した ) MS 培地の組成組成量 貯蔵液 1 1 NH 4 NO 3 2 KNO 3 3 KH 2 PO 4 4 H 3 BO 3 5 MnSO 4 4H 2 O 6 ZnSO 4 4H 2 O 7 KI 8 Na 2 MoO 4 2H 2 O 9 CuSO 4 5H 2 O 10 CoCl 2 6H 2 O 82.5g 95g 8.5g 310mg 1.115mg 430mg 41.5mg 12.5mg 1.25mg 1.25mg 貯蔵液 2 11 CaCl 2 2H 2 O 44g 貯蔵液 3 12 MgSO 4 7H 2 O 37g 貯蔵液 4 貯蔵液 5 13 FeSO 4 7H 2 O 14 Na 2 -EDTA 15 ミオイノシトール 16 ニコチン酸 17 塩酸ピリドキシン 18 塩酸チアミン 19 グリシン 2.78g 3.78g 0.19g 19mg 19mg 0.19mg 76mg 2-3

各培地の調整を行う貯蔵液 Ⅰ20 ml 貯蔵液 Ⅱ10 ml 貯蔵液 Ⅲ10 ml 貯蔵液 Ⅳ10 ml 貯蔵液 Ⅴ5 ml に純水を加え 1l にする PHを 5.8 に調整したのちオートクレーブで 120 で 15 分間滅菌し使用する 2 ハイポニカ ハイポニカは基準の濃度 ( メーカー推奨濃度 ) と 10 倍に薄めたものと 10 倍に濃くしたものを用意し使用する 3 種まきと植え替え バットに純水を含ませたスポンジを入れ その上に野沢菜の種をまく 発芽後 1 週間経ったものを水耕栽培装置に 10 株ずつ植え替える 4 測定 1 週間ごとに葉の長さを測り 平均値を出す 葉の長さの測定部分 結果 葉の大きさ ( 最終測定時 )(cm) 葉の色 純水 2.02 緑 MS 4.08 黄色みがかっている MS(P なし ) 3.2 黄色みがかっている MS(P 10) 4.36 濃い緑 MS(Mg なし ) 3.71 黄色 MS(Mg 10) 4.32 緑 ハイポニカ 6.64 緑 ハイポニカ (1/10) 4.45 緑 ハイポニカ ( 10) 6 濃い緑 2-4

(cm) 7 6 5 4 3 2 1 0 純水 MS P なし P 10 10 10 分の 1 ハイポニカ Mg 10 Mg なし 葉の大きさ (cm) 培地の組成の差は 葉の大きさ以外に 葉の色にも影響した 水耕栽培の培地として期待していた MS 培地は ハイポニカには及ばないものの 純水に比べるとよく成長した ( しかし葉の色は黄色みがかっていた ) P の濃度を変えた場合 入れなかったものは成長も悪かった 10 倍にしたものは育ちが良く 大きな違いが出た Mg に関しては P ほど成長に影響がなかったが Mg を含まない培地では葉の色が黄色に変化した ハイポニカは 通常の濃度のものが一番成長し 10 分の 1 や 10 倍のものは枯れたり 成長しなかった 考察 MS 培地は純水に比べ葉の大きさが約 2 倍になっている 葉の色はやや黄色みがかっているものの私たちが普段目にする畑で栽培された野沢菜に比べ形態的に大きな差はなく MS 倍地が水耕栽培の培地として利用できると考えられる 葉の色が黄色みがかったことについては MS 培地を実験 Ⅳ でもう一度使用し 葉を観察したところ緑色であった 実験 Ⅱ で葉が黄色くなった理由は 生物教室で水耕栽培を行ったため 培地にカビが生えて 根腐りしたためではないかと思われる 実験 Ⅳ は人工気象機内で育て カビの発生や根腐りは起きなかったと思われる MS 培地の水耕栽培への利用の可能性についてさらにサンプルを増やし検討をする必要があるが 私たちは 根腐りなどに気をつけて使用すれば水耕栽培にも利用できると考えた P が入っているものといないものでは成長に差があり P は植物の成長を促進するものと考えられる Mg が不足しているものは 葉の大きさよりも葉の色の違いとして影響がでた 葉が黄色いことは葉におけるクロロフィル量が尐なくなっているのではないかと考えられる 2-5

実験 Ⅲ クロロフィル量の測定 実験 Ⅱ の結果 水耕栽培の培地に含まれる無機塩類の組成は 植物の葉の成長以外に葉の色に影響することが分かった そこで各サンプルに含まれるクロロフィルの量を分光光度計を使用し 数式に基づいて求めることにした 仮説 実験 Ⅱ から葉の色が黄色みがかっているものは クロロフィルの量が尐なく 逆に濃い緑のものは クロロフィルの量が多いと考えられる 材料 実験 Ⅱ の葉のサンプルジメチルホルムアミド [HCON(CH 3 ) 2 ] 方法 実験 Ⅱ で採取した葉 (3.3g) を ジメチルホルムアミド (1.5ml) に入れて 冷蔵庫に一晩入れてクロロフィルの抽出を行う 分光光度計で抽出したサンプルの 663.8nm と 646.8nm の吸光度を測定し 出てきた数値を基に数式を使ってクロロフィル a クロロフィル b の量を求める 数式は以下の通りである 数式 Ⅰ:a=12,00 663.8 の数値 -3,11 646.8 の数値 Ⅱ:b=20,78 646.8 の数値 -4,88 663.8 の数値 結果 646.8nm での吸光度 663.8nm での吸光度 クロロフィル a (μ g/ml) クロロフィル b (μ g/ml) 水 0.368 0.773 8.13152 3.8748 MS 0.203 0.271 2.62067 2.89586 P なし 0.729 0.991 9.62481 10.31254 P 10 0.905 1.581 16.15745 11.09062 Mg なし 0.491 0.676 6.58499 6.9041 Mg 10 0.534 0.941 9.63126 6.50444 ハイポ 0.779 1.565 16.35731 8.55042 ハイポ 1/10 0.847 1.166 11.35783 11.91058 ハイポ 10 0.601 1.701 18.54289 4.1879 2-6

(μ g/ml) 20 15 10 5 0 水 MS P なし ハイポ Mg 10 Mg なし P 10 10 分の 1 ハイポ 10 a b 考察 緑色に見えていた 水 で栽培したサンプルのクロロフィル量に比べ 黄色に見えていた P なし や Mg なし のサンプルのクロロフィル量のほうが多かった 私たちは葉が黄色いものはクロロフィル量が尐ないとためと考えていたが 緑色の濃さとクロロフィル量は単純な比例の関係ではないことが分かった また黄色いサンプルではクロロフィル a の量に対してクロロフィル b の量が多く 見た目の色はクロロフィルの量とクロロフィル a b の比によって決まっているのではないかと考えた 実験 Ⅳ リンが植物の成長に与える影響 実験 Ⅱ において P の濃度を変えた場合 P を入れなかったものと 10 倍にしたものでは成長に大きな違いが出た よって私たちは P が植物の成長を促進させると考え P の濃度をさらに細かく設定し実験を行うことにした 仮説 MS 培地において P の濃度を 10 倍 20 倍 にしていくと ある濃度までは葉の成長を促進する しかし ある濃度を超えると 浸透圧の影響で 通常より育たない あるいは枯れてしまうと考えた さらに 私達はその枯れてしまう濃度は 30 倍であると仮定した 材料 MS 培地野沢菜の種バーミキュライト水耕栽培装置 方法 実験 Ⅱ と同様に行った 培地は標準の MS 培地以外に P の濃度を 10 倍 20 倍 30 倍にした培地を調整し使用した 野沢菜を同様の手順で育て 葉の長さを測定する この実験は 12 月末に行ったため 生物教室の室温が野沢菜の生育には低すぎると考え 人工気象機を 24 に設定しその中で育てた 2-7

結果 葉の大きさの平均値 ( 最終測定時 ) (cm) 生存数 MS 7.73 5 MS( 通常の P の 10 倍 ) 8.93 5 MS( 通常の P の 20 倍 ) 4.2 3 MS( 通常の P の 30 倍 ) 4.06 5 (cm) 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 MS P 10 P 20 P 30 葉の大きさ (cm) 考察 リンはある範囲の濃度で植物の成長を促進することが分かり その範囲は標準の MS 培地に含まれる量が 10 倍の前後で さらに細かく濃度を変えた時にピークが現れると考えた 20 倍以上で成長が阻害されているが 原因が浸透圧なのかそれ以外の理由なのか今回の実験では分からない Ⅳ すべての実験を通してのまとめ 今回私たちは 水耕栽培で一度にたくさんのデータを得るための装置を作成した ( 実験 Ⅰ) 植物に対して無機塩類がどのような影響を与えるかを調べた実験 Ⅱ では 無機塩類の組成の差を 葉の成長 葉の色 の差として観察することができた 三大栄養素の 1 つであるリンについては予想通り成長を促進することを確認したが 予想外に葉の色に対しても影響することがわかった 実験 Ⅲ でクロロフィルの量を測定してみると リンの量の違いはクロロフィル a 量の差として現れた このことはクロロフィル a の生合成経路に材料としてのマグネシウムは当然であるが リンが何らかの形で働いていることを予想させる 以上のことから 私たちは 植物中の無機イオンは 単独ではなく相互に影響しあって成長をはじめとする様々な生命現象に関与している と考えた 実験 Ⅳ ではリンの濃度にのみ注目し成長促進について調べたが リンとそれ以外の無機塩類の組み合わせで成長を観察しても面白いのではないかと思う Ⅴ 反省 植物観察 測定時に 測定方法が研究者でそれぞれ違っており さらに そのことに気付くのが遅れてしまったために データを平均値で出さざるを得なくなり 細かなデータを取得し 研究に使うことができなかった 秋以降に植物を材料として実験を行ったので すべての実験で十分なデータを得ることができなかった そのため目的としていた定量的な議論ができなかった 2-8

Ⅵ 参考文献 URL ( 参考文献 ) 藤原俊六郎 安西徹郎 小川吉雄 加藤哲郎 新版土壌肥料用語事典 農文協 2005 吉川仁朗 鎌田博 中野優 前川孝昭 三位正洋 図解植物バイオテクノロジー 実教出版 2007 横田明穂 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科植物系全教員 植物分子生理学入門 学会出版センター 1999 桜井英博 柴岡弘郎 清水碩 植物生理学入門 培風館 ( 参考 URL) 光合成の森 www.photosynthesis.jp/index.html 2-9