C33 MeSH Terms 再索引に関する調査と考察 : MeSH 2014 年版に追加された Levofloxacin に関して 井上彰 1) 一般財団法人日本医薬情報センター 1) 150-0002 東京都渋谷区渋谷 2-12-15 長井記念館 5 階 Tel: 03-5466-1821 FAX: 03-5466-1836 E-mail: a-inoue@japic.or.jp MeSH Terms re-indexing on the investigation and study.: Relation to Levofloxacin was added to 2014 MeSH. INOUE Akira 1) Japan Pharmaceutical Information Center(JAPIC) 1) 2-12-15 Nagai-kinenkan 5F, Shibuya, Shibuya-ku, Tokyo 150-0002 Japan Phone: +81-3-5466-1821 Fax: +81-3-5466-1836 E-mail: a-inoue@japic.or.jp 発表概要 医学や薬学を中心としたライフサイエンス分野の情報を調査する上で MEDLINE は重要な書誌データベースの一つである MEDLINE に登録されている文献情報には 書誌事項や著者抄録といった論文そのものの情報の他に MEDLINE を作成 管理する米国国立医学図書館の索引作業者により論文全文中から 論文の主題要素に注目した索引用語 MeSH(Medical Subject Headings) が付与されている よって書誌事項や著者抄録に記載のない項目であっても 論文が主題とするテーマについて検索が可能となっている また同義語などの用語の揺らぎを吸収する役割もある MeSH は通常毎年更新され 9 月頃に次年の MeSH が公開され 年末までに最新の MeSH への反映作業 ( リロード ) が行われる MeSH を利用した検索を行う際には MeSH の更新は重要な要素となる 今回 2014 年版 MeSH に新規追加された Levofloxacin とリロードによる挙動について興味深い現象に遭遇したので 調査した内容を報告する キーワード MeSH,MEDLINE,PubMed,Year-End-Processing, リロード, 再索引, 文献検索 173
1. はじめに MEDLINE の索引用語 MeSH (Medical Subject Headings) は 現在は毎年改訂され更新されている MEDLINE を対象に MeSH を用いて検索する際には MeSH の経時的な変更内容は質の高い検索を実施するために 極めて重要である 今回 MeSH の 2014 年改訂に伴い追加された用語 Levofloxacin について MEDLINE の文献検索を試行していた際に遭遇した予期せぬ結果件数から MeSH の再索引実施の方法について調査内容をまとめ考察した 2. 背景と経緯 2.1. Levofloxacin と MeSH Levofloxacin は 日本で開発されたキノロン系抗菌薬の一つである 1993 年に承認されて以来 内服薬 点滴用注射薬 点眼薬の形で種々の細菌性感染症の治療を目的に 現在では本邦だけに限らず欧米 アジア諸国で広く使用されている [ 1 ] Levofloxacin は Ofloxacin という抗菌薬のうち抗菌活性を有する光学異性 S- 体の化合物である Ofloxacin はラセミ体となる Levofloxacin は MeSH の 2014 年版 ( 以下 MeSH2014) に新規登録された用語 [ 2 ] で それ以前の MeSH では Ofloxacin の MeSH の同義語 (Entry Term) に含まれていた よって Levofloxacin に関する内容を主題とした学術論文に対して 2013 年版 MeSH 以前に索引された場合には Ofloxacin の MeSH が付与されていた [ 3 ] 2.2. MeSH の年次更新 MeSH の年次更新では 新規用語の追加 既存用語の変更 既存用語の削除 シソーラスの構造の追加 変更などが行われる これら変更内容は 通常 11 月から 12 月にかけて実施される MEDLINE の年末作業にあたる Year-End-Processing(YEP) の後に 反映される [ 4 ] この作業により過去に索引された MeSH のうち変更があった用語は 最新の MeSH に置き換わり 過去に MeSH を索引された文献であっても常に最新の MeSH 用語を用いて検索できるようになる この作業はリロードとしても知られている また MEDLINE の索引には MeSH の他に医薬品 化合物名などを補完する Supplementary Concept Records (SCR) がある SCR は MeSH とは異なり毎週更新されているが MeSH の年次更新の際には SCR から MeSH に格上げされる場合がある 今回報告する Levofloxacin では前述のとおり 2013 年以前の MeSH では Ofloxacin の同義語であり SCR には存在しない用語であった 2.3. MeSH の再索引 MEDLINE では基本的に過去に登録した文献について再度 MeSH を付与する作業は行わないとされている [ 5 ] 過去から蓄積した膨大な文献情報に対して 索引作業をやり直す事が非現実的な作業であることは 容易に想像できる よって新規に追加された MeSH では 索引が付与され始めた当初の段階では殆どヒットしない事が予想される ところが 2014 年 2 月に Levofloxacin の MeSH を対象に PubMed を検索した際に 検索結果件数は 2,000 件を超えた Levofloxacin は世界的に使用されている医薬品ではあるが MeSH2014 の索引開始から数ヶ月しかない限られた期間で 2,000 件もの索引が実施され検 174
索結果件数が得られるとは考えにくい そこで Levofloxacin では 過去の文献について再索引が行われたのではないかと考え調査した 3. 索引期間による件数の調査毎年更新される MeSH について 各年版の MeSH を付与していた期間は NLM の Web サイト [ 6 ] で公開されている また MeSH2014 の索引開始日は YEP 完了報告にて公開されている [ 7 ] そこで MeSH2014 索引以後と以前とを設定し検索を実施した 検索式と検索結果件数は表 1 である には 第一条件として Ofloxacin の MeSH を含む文献情報と考えた そこで MeSH2014 以前の索引データである 2,103 件について Ofloxacin の MeSH が付与されているかを確認した なお Levofloxacin は Ofloxacin の下位語の位置関係にあるため MeSH を検索する際にシソーラスの下位語を含まないよう設定し検索した結果が表 2 である 表 2. 再索引されたと考えられる件数 表 1. 索引期間による件数 索引期間毎の検索結果件数より Levofloxacin の全索引件数は 2,239 件 MeSH2014 で索引が実施された件数は 136 件と 差し引いた 2,103 件は MeSH2014 の付与開始以前に MeSH が付与されていた事を確認できた 続いて再索引の方法を検討する 再索引の実施に当たって 膨大な文献情報について再度目視で作業することは非現実的と考えられる そこで 書誌データベース上で利用可能な何かしらの情報をもとに 機械的に処理を行ったと予想し 次の検討を行った 4. 再索引対象の検討 2013 年までの MeSH では Levofloxacin に関する内容を含む場合には MeSH は Ofloxacin を索引していた よって Levofloxacin の再索引の際 結果 再索引された事を予想した全 2,103 件が Ofloxacin の MeSH の索引を有する事が確認できた MeSH2014 の索引開始以降では Levofloxacin の索引が付与された 136 件中 9 件のみに Ofloxacin が索引されていた事からも MeSH2014 以降では Levofloxacin の索引があるからといって Ofloxacin が必ず索引される訳ではない事も確認できた 次に Ofloxacin の MeSH を持つ文献情報に対して Levofloxacin に関する文献である事を確認するために利用可能な情報を考える MEDLINE で検索可能な情報は 標題や著者抄録 書誌事項など論文全文に比べると限られた情報となる そのうち標題や著者抄録は 論文の内容を判断する際には最も参考となる情報と考えられる 標題や著者抄録中に Levofloxacin を含む場合には Levofloxacin に関する検討を実施している可能性がある 再索引が予想される 2,103 件に Levofloxacin を標題または著者抄録に 175
含まれている条件で検索した結果 2,101 件とほぼ全件が一致した結果となった 5. 一致しない情報の確認標題と著者抄録を対象として Levofloxacin で絞り込んだ結果 殆ど全件がヒットしたが 2 件はヒットしていない そこで 一致しなかった残存の文献の情報を確認するため NOT 検索で抽出し内容を確認した 2 件の文献は 標題や著者抄録中に Levaquin というキーワードを含んでいた これは Levofloxacin の Entry Term の一つである よって Levofloxacin の再索引の実施に使用された情報は Levofloxacin に由来する Entry Term を判定条件にしたのではないかと考えられた つまり Levofloxacin の再索引の条件としては Ofloxacin の MeSH 索引 Levofloxacin の MeSH または EntryTerm を標題または著者抄録に持つの 2 条件となり この条件を満たした文献について Levofloxacin の MeSH が再索引されたのではないかと推測した Levofloxacin の各 Entry Term でのヒット件数を表 3 に示す 表 3. 各 Entry Term でのヒット状況 Levofloxacin Anhydrous で検索結果件数が 0 件であった理由としてはこの Entry Term が 2014 年 4 月に追加された用語であり 再索引に使用されなかったためと考えられる Levofloxacin の再索引の条件の仮説を検証するため Ofloxacin の MeSH があり Levofloxacin の MeSH が付与されていない文献について 標題や抄録中に Levofloxacin の Entry Term を含む文献が存在するかも検討した結果 件数は仮説を裏付けるように表 4 のとおり 0 件であった 表 4.Levofloxacin 再索引の判定基準の確認 よって Levofloxacin 再索引の 2 条件に該当した文献に対して Levofloxacin が再索引されたという仮説を支持する結果が得られた 6. Entry Term にない用語の検索 Entry Term は MeSH の同義語を含むと同時に MeSH2013 年版までの Ofloxacin と Levofloxacin の様な完全な同義語ではないにせよ深く関連する用語なども持っている なおいずれの場合にしても全ての同義語や関連した用語を網羅している訳ではない 例えば Levofloxacin は名称を LVFX と略して記載する事が多いが Entry Term には含まれていない また 商品名としても 日本国内で販売されている商品名 Cravit は Levofloxacin の MeSH の Entry Term には含まれていないが これらを標題や著者抄録に含む 176
文献は Levofloxacin を主要な要素として扱った可能性があると考えられる Ofloxacin の索引があり Levofloxacin の Entry Term に該当する用語を標題や著者抄録に持たない文献データに対して LVFX や Cravit で検索を実施した結果が表 5 である 表 5.Entry Term 以外でのヒット状況 Cravit ではヒットはしなかったが LVFX では 4 件のヒットを確認した 一部は Levofloxacin を主題として取り扱った文献であることが推測された 再索引により 多くの文献が MeSH で検索可能となる一方で 主題要素であっても再索引漏れにより MeSH で検索ができない事例があることが確認できた 7. 再索引によるノイズヒットの可能性これまでに推測した Levofloxacin の再索引では Ofloxacin の MeSH 索引がキー情報となる しかし Ofloxacin の MeSH 索引は Levofloxacin が主題でなくても Ofloxacin を主題として取り扱った文献でも使用される 推測した再索引方法では 主題要素ではない場合でも Levofloxacin の Entry Term を含む場合には 条件に該当する可能性がある 実際に Levofloxacin が再索引された文献において内容の一部を確認した所 明らかなノイズと想定されるような文 献は見当たらなかった 8. 再索引方式で引き継がれる情報 Levofloxacin の再索引は Ofloxacin の MeSH を参照したと考えられる MeSH 索引には MeSH に対して内容の詳細化を行う副標目 SubHeadings や 論文の中心テーマであることを示す MajorTopics などの情報が付与され 情報を検索する際に 目的や内容に応じた詳細な検索が可能となる 再索引の際にこれらの情報がどのように取り扱われたかを調査した SubHeadings では Ofloxacin にどのような SubHeadings が付与されていた場合でも Levofloxacin の MeSH には付与はされていなかった 再索引分を検索する場合に SubHeadings を指定した検索を実施することで検索漏れに繋がる可能性が判明した Major Topics フラグは Ofloxacin で付与されている場合には Levofloxacin でも全件が Major Topics に該当していた 9. おわりに MEDLINE や MeSH の情報は NLM の Web サイト等を通じて広く公開されているものの 再索引の詳細な挙動については殆ど情報がない 今回 偶然に再索引が実施されたと考えられる Levofloxacin での再索引の挙動を調査し得た MeSH の用語の更新は多様なキーワードにわたるため 追加や変更の行われた用語の全てについて同様の処理が行われるか今回は検討していないため判断できない より精度高く検索を実施するために 個々の検索用語について History Note などの経年変化情報だけに限らず 再索引の挙動についても確認した方が良い場合が存在すると考えた 177
10. 参考文献 [1] 第一三共株式会社. クラビット錠医薬品インタビューフォーム. 第 11 版, 2014 年. [2] National Library of Medicine. Levofloxacin. MeSH Browser (2014 MeSH). http://www.nlm.nih.gov/cgi/mesh/20 14/MB_cgi?mode=&term=Levofloxa cin&field=entry, (accessed 2014-10-01). [3] National Library of Medicine. Ofloxacin. MeSH Browser (2013 MeSH). http://www.nlm.nih.gov/cgi/mesh/20 13/MB_cgi?mode=&term=Ofloxacin &field=entry, (accessed 2014-10-01). [4] National Library of Medicine. Annual MEDLINE /PubMed Year-End Processing (YEP):Background Information: U.S.. National Library of Medicine. http://www.nlm.nih.gov/bsd/policy/y ep_background.html#definition, (accessed 2014-10-01). [5] シソーラス研究会. MeSH 入門. 情報科学技術協会, 2013, 56p., ISBN978-4-88951-050-8. [6] National Library of Medicine. What are the date ranges for past MeSH Indexing years?. National Library of Medicine. http://www.nlm.nih.gov/bsd/mesh_i ndexing_date_range.html, (accessed 2014-10-01). [7] Newly Maintained MEDLINE for 2014 MeSH Now Available in PubMed. NLM Tech Bull. 2013 Nov-Dec, (395), b4. http://www.nlm.nih.gov/pubs/techbu ll/nd13/brief/nd13_new_system.html, (cited 2013-12-6). 178