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記 者 発 表(予 定)

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

人工光合成の実現に大きく一歩前進 高活性光触媒材料を発見

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

背景光触媒材料として利用される二酸化チタン (TiO2) には, ルチル型とアナターゼ型がある このうちアナターゼ型はルチル型より触媒活性が高いことが知られているが, その違いを生み出す要因は不明だった 光触媒活性は, 光吸収により形成されたキャリアが結晶表面に到達して分子と相互作用する過程と, キ

新技術説明会 様式例

e - カーボンブラック Pt 触媒 プロトン導電膜 H 2 厚さ = 数 10μm H + O 2 H 2 O 拡散層 触媒層 高分子 電解質 触媒層 拡散層 マイクロポーラス層 マイクロポーラス層 ガス拡散電極バイポーラープレート ガス拡散電極バイポーラープレート 1 1~ 50nm 0.1~1

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機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

記者発表資料

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色素増感太陽電池の色素吸着構造を分子レベルで解明

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

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International Institute for Carbon-Neutral Energy Research 1 水電解による水素製造の展望 九州大学カーボンニュートラルエネルギー国際研究所 電気化学エネルギー変換研究部門 松本広重

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

2019 年度大学入試センター試験解説 化学 第 1 問問 1 a 塩化カリウムは, カリウムイオン K + と塩化物イオン Cl - のイオン結合のみを含む物質であり, 共有結合を含まない ( 答 ) 1 1 b 黒鉛の結晶中では, 各炭素原子の 4 つの価電子のうち 3 つが隣り合う他の原子との

2014 年度大学入試センター試験解説 化学 Ⅰ 第 1 問物質の構成 1 問 1 a 1 g に含まれる分子 ( 分子量 M) の数は, アボガドロ定数を N A /mol とすると M N A 個 と表すことができる よって, 分子量 M が最も小さい分子の分子数が最も多い 分 子量は, 1 H

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

研究成果報告書

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技術解説 CO2 光還元を指向した光触媒機能材料の開発 九州工業大学大学院工学研究院物質工学研究系教授 工学博士横野照尚 Teruhisa Ohno Development of photocatalysts toward photoreduction of CO 2 1. 緒言酸化チタン光触媒は

木村の理論化学小ネタ 熱化学方程式と反応熱の分類発熱反応と吸熱反応化学反応は, 反応の前後の物質のエネルギーが異なるため, エネルギーの出入りを伴い, それが, 熱 光 電気などのエネルギーの形で現れる とくに, 化学変化と熱エネルギーの関

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PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:


記 者 発 表(予 定)

リチウムイオン電池用シリコン電極の1粒子の充電による膨張の観察に成功

A4パンフ

9 燃料電池 苛性ソーダ水溶液や希硫酸に2 枚の白金電極を浸し 両電極間におよそ2V 以上の電圧を加えると電流が流れ 電位の高い方の電極 : 酸素極 ( 陽極 アノード ( 注 1)) に酸素が 低い方の電極 : 水素極 ( 陰極 カソード ) に水素ガスが発生する 外部回路から供給された電子を水素

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

< 研究の背景と経緯 > 金属イオンと有機配位子から構築される高結晶性の多孔性金属錯体は 細孔の形状 サイズ 表面特性を精密に制御することができるため 次世代の多孔性材料として注目を集め その合成と貯蔵 分離 触媒機能などの研究が世界中で精力的に行われています すでに 既存の多孔性材料の性能を超える

高価な金属錯体触媒の革新的再利用技術を確立~医薬品などの製造コストを低減~

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官能基の酸化レベルと官能基相互変換 還元 酸化 炭化水素 アルコール アルデヒド, ケトン カルボン酸 炭酸 H R R' H H R' R OH H R' R OR'' H R' R Br H R' R NH 2 H R' R SR' R" O R R' RO OR R R' アセタール RS S

Akita University 氏名 ( 本籍 ) 若林 誉 ( 三重県 ) 専攻分野の名称 博士 ( 工学 ) 学位記番号 工博甲第 209 号 学位授与の日付 平成 26 年 3 月 22 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研究科 専攻 工学資源学研究科 ( 機能物質工学

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平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

( 全体 ) 年 1 月 8 日,2017/1/8 戸田昭彦 ( 参考 1G) 温度計の種類 1 次温度計 : 熱力学温度そのものの測定が可能な温度計 どれも熱エネルギー k B T を

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New Color Chemosensors for Monosaccharides Based on Azo Dyes

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sample リチウムイオン電池の 電気化学測定の基礎と測定 解析事例 右京良雄著 本書の購入は 下記 URL よりお願い致します 情報機構 sample

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

指導計画 評価の具体例 単元の目標 単元 1 化学変化とイオン 化学変化についての観察, 実験を通して, 水溶液の電気伝導性や中和反応について理解するとともに, これらの事物 現象をイオンのモデルと関連づけて見る見方や考え方を養い, 物質や化学変化に対する興味 関心を高め, 身のまわりの物質や事象を

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< 研究の背景と経緯 > 互いに鏡に写した関係にある鏡像異性体 ( 図 1) は 化学的な性質は似ていますが 医薬品として利用する場合 両者の効き目が全く異なることが知られています 一方の鏡像異性体が優れた効果を示し 他方が重篤な副作用を起こすリスクもあるため 有用な鏡像異性体だけを選択的に化学合成

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平成 30 年 5 月 25 日 報道機関各位 東京工業大学中央大学 可視光で働く新しい光触媒を創出 - 常識を覆す複合アニオンの新材料を発見 - 要点 酸素とフッ素を構成元素に含む可視光応答型の新しい光触媒を開発 アニオン複合化で得られる結晶構造を活用し太陽光の主成分を効率よく吸収 太陽光をエネル

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

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領域代表者 : 金井求 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 研究期間 :2017 年 7 月 ~2023 年 3 月上記研究課題では 独立した機能を持つ複数の触媒の働きを重奏的に活かしたハイブリッド触媒系を創製し 実現すれば大きなインパクトを持つものの従来は不可能であった 極めて効率の高い有機合

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< 研究の背景と経緯 > 水素は排気ガスが一切出ない次世代エネルギー源として注目されています また 水素はすぐに使用しなければならない電力と違って貯蔵 運搬が可能なエネルギーキャリアでもあり 燃料電池等を用いれば電力需要が高い時期に水素から再度電気を取り出すことが可能です 現在 水素は化石燃料と高温

木村の有機化学小ネタ セルロース系再生繊維 再生繊維セルロースなど天然高分子物質を化学的処理により溶解後, 細孔から押し出し ( 紡糸 という), 再凝固させて繊維としたもの セルロース系の再生繊維には, ビスコースレーヨン, 銅アンモニア

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1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

円筒型 SPCP オゾナイザー技術資料 T ( 株 ) 増田研究所 1. 構造株式会社増田研究所は 独自に開発したセラミックの表面に発生させる沿面放電によるプラズマ生成技術を Surface Discharge Induced Plasma Chemical P

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< 開発の社会的背景 > 化石燃料の枯渇に伴うエネルギー問題 大量のエネルギー消費による環境汚染問題を解決するため 燃焼後に水しか出ない水素がクリーンエネルギー源として期待されています 常温では気体である水素は その効率的な貯蔵 輸送技術の開発が大きな課題となってきました 常温 10 気圧程度の条件

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練習問題

無電解析出

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

2 私たちは生活の中で金属製の日用品をたくさん使用していますが 錆びるので困ります 特に錆びやすいのは包丁や鍋などの台所用品です 金属は全て 水と酸素により腐食されて錆を生じますが 台所は水を使う湿気の多い場所なので 包丁や鍋を濡れたまま放置しておくと水と空気中の酸素により腐食されて錆びるのです こ

燃料電池反応を高効率化する「助触媒」の役割を実験的に解明

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配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

平成 2 9 年 3 月 2 8 日 公立大学法人首都大学東京科学技術振興機構 (JST) 高機能な導電性ポリマーの精密合成法を開発 ~ 有機エレクトロニクスの発展に貢献する光機能材料の開発に期待 ~ ポイント π( パイ ) 共役ポリマーの特性制御には 末端に特定の官能基を導入することが重要だが

新技術説明会 様式例

「セメントを金属に変身させることに成功」

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

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令和元年 6 月 4 日 科学技術振興機構 (JST) 北 海 道 大 学 名 古 屋 大 学 東 京 理 科 大 学 電力使用量を調整する経済的価値を明らかに ~ 発電コストの時間変動に着目した解析 制御技術を開発 ~ ポイント 電力需要ピーク時に電力使用量を調整するデマンドレスポンスは その経済

Gifu University Faculty of Engineering

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研究の背景 世界のエネルギー消費量は年々増加傾向にあり, 地球規模のエネルギー不足が懸念さ れています このため, 発電により生み出したエネルギー ( 電力 ) の利用の更なる高効 率化が求められており, その鍵は電力制御を担っているパワーデバイス ( 6) が握っ ています 現在主流である Si(

化学 1( 応用生物 生命健康科 現代教育学部 ) ( 解答番号 1 ~ 29 ) Ⅰ 化学結合に関する ⑴~⑶ の文章を読み, 下の問い ( 問 1~5) に答えよ ⑴ 塩化ナトリウム中では, ナトリウムイオン Na + と塩化物イオン Cl - が静電気的な引力で結び ついている このような陽イ

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有機薄膜太陽電池用材料の新しい合成法を開発

本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 戦略的創造研究推進事業総括実施型研究 (ERATO) 研究プロジェクト : 伊丹分子ナノカーボンプロジェクト 研究総括 : 伊丹健一郎 ( 名古屋大学大学院理学研究科 / トランスフォーマティブ生命分子研究所拠点長 / 教授 ) 研究期間

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発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

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PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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Transcription:

News Release 報道関係各位 www.kitakyu-u.ac.jp 2019 年 1 月 25 日 公立大学法人北九州市立大学 メタンをエタンと水素に変換する可視光反応プロセスを開発 ~ 豊富な炭素資源からの化成品原料製造に期待 ~ 北九州市立大学国際環境工学部の天野史章 ( あまのふみあき ) 准教授らの研究グループは 科学技術振興機構 (JST) の戦略的創造研究推進事業で 室温においてエネルギーの小さな可視光を利用してメタン (CH 4) を一段階でエタン (C 2H 6) と水素 (H 2) に変換できる光電気化学反応プロセスを世界で初めて開発しました 豊富な天然資源であるメタンを材料とすることで 石油に頼らない新しいガス化学産業の創出が期待されます 共同プレスリリースとして 別添のとおりお知らせします なお 別添資料はJSTにより 日本時間 2019 年 1 月 23 日午後 3 時に文部科学記者会及び科学記者会に発表されています この件に関する報道関係者からのお問い合わせ先 研究内容について 北九州市立大学国際環境工学部エネルギー循環化学科准教授天野史章電話 093-695-3372 E メール amano@kitakyu-u.ac.jp 取材申込みについて 北九州市立大学企画管理課企画 研究支援係中村 敷田電話 093-695-3311 広報入試課広報係中願寺 野路電話 093-964-4196

ポイント 1 平成 31 年 1 月 2 3 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: 03-5214-8404( 広報課 ) 北九州市立大学 Tel:093-695-3311 ( 企画管理課 ) メタンをエタンと水素に変換する可視光反応プロセスを開発 ~ 豊富な炭素資源からの化成品原料製造に期待 ~ メタンを有用化学品へ変換できる省エネルギーな化学プロセスの開発が脱石油社会に向けて期待 気相のメタン分子を活性化できる光電気化学反応プロセスを独自に開発し 投入エネルギーの小さな可視光を利用して室温においてメタンをエタンに変換できることを世界で初めて実証 クリーンかつ安価で豊富な天然炭素資源であるメタンを水素や化成品原料に変換するガス化学産業の創出に向けた新しい反応プロセスの提案 JST 戦略的創造研究推進事業において 北九州市立大学国際環境工学部の天野史章准教授らの研究グループは 室温においてエネルギーの低い可視光を利用してメタン (CH 4 ) を一段階でエタン (C 2 H 6 ) と水素 (H 2 ) に変換できる新しい光電気化学反応プロセスを開発しました 従来のメタン変換反応は多段階のエネルギー多消費型プロセスであることが問題であり メタンを有用化学品へと直接変換する化学プロセスの開発が望まれていました しかしながら 化学的な反応性に乏しいメタン分子の安定なC-H 結合を熱触媒的に活性化するには高温が必要であり 選択性の制御は困難でした 一方 光触媒を利用すれば注室温でメタンをメチルラジカル 1) ( CH 3 ) に活性化できることが知られていました しかし 紫外光のようなエネルギーの高い光の利用が必要であり 吸収した光子が反応に利用される効率 ( 量子効率 ) が著しく低いという問題がありました 研究グループは 可視光を利用して低温でメタンをエタンと水素へと変換することを注 2) 目的として 気相分子を活性化するための光電気化学反応プロセスを独自に開発しました 酸化タングステン (WO 3 ) 電極を用いたときに 青色の可視光照射下でメタン注のホモカップリング反応 3) が進行し 全生成物のうち50% 以上の選択率で目的とするエタンが生成されることを見いだしました 電場の印加によって光励起電子と正孔の再結合が抑制された結果 従来の光触媒反応プロセスと比較して量子効率が大幅に向上注しました さらにプロトン交換膜 4) で仕切られた対極では水素を製造することができ注ました 熱力学的に高温が必要とされるメタンの水蒸気改質 5) による水素製造を室温で可視光エネルギーを使って世界で初めて成功したともいえます 本研究は 九州工業大学の横野照尚教授 および同志社大学の竹中壮教授の協力を得て行いました 本研究成果は 2019 年 1 月 22 日 ( 米国東部時間 ) に米国科学誌 ACS Ene rgy Letters のオンライン版で公開されました 本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました JST 戦略的創造研究推進事業個人型研究 ( さきがけ ) 研究領域 : 革新的触媒の科学と創製 ( 研究総括 : 北川宏京都大学教授 ) 研究課題名 : 光電気化学的メタンカップリング 研究者 : 天野史章 ( 北九州市立大学准教授 ) 研究実施場所 : 北九州市立大学研究期間 : 平成 27 年 12 月 ~ 平成 31 年 3 月

< 研究の背景と経緯 > 天然ガスの主成分であるメタンは 非在来型のシェールガスやメタンハイドレートとしての資源量も豊富であり 石油にかわるエネルギー資源として化学産業利用が期待されています また 下水処理場などからメタン発酵によって発生する未利用のバイオガスは再生可能資源として注目されています メタンをメタノールやC2 炭化水素 ( エタンやエチレン ) などの有用な化成品に直接変換することができれば低炭素化および経済性の両面で社会的なインパクトがあります 等方的な分子構造のメタンは炭化水素の中で最もC-H 結合の解離エネルギーが大きく反応性が乏しい分子です 現在のメタン変換技術は 高温 (750 以上 ) での水蒸気改質による合成ガス ( 一酸化炭素と水素 ) への変換を伴うエネルギー多消費型の多段階反応プロセスです これまでにメタンを化成品に直接変換するための反応プロセスの開発が試みられてきましたが メタンの過剰酸化による二酸化炭素生成などの逐次反応を抑えることは困難でした 選択性を制御するためには 逐次反応の生じにくい低温でメタンを活性化する新しい反応プロセスの開発が必要と考えられます 酸化チタンに代表される酸化物半導体ナノ粒子は 光エネルギーを吸収して化学反応を注 6) 誘起する光触媒作用を示します この半導体光触媒を用いることで 室温でメタンの変換反応を誘起できることが知られていました しかしながら 光触媒の励起には高エネルギーの深紫外光 ( 波長 300ナノメートル (nm) 以下 ) や紫外光 ( 波長 400nm 以下 ) が必要でした さらに 照射した光子の利用効率を示す量子効率が低いことも大きな問題でした < 研究の内容 > 北九州市立大学の天野准教授は メタンを直接変換する新しい反応プロセスの開発を目的として 紫外光に比べて投入エネルギーが小さくなる可視光 ( 波長 400nm 以上 ) を利用しながら 高い量子効率を達成することを目指しました バンドギャップが小さな酸化物半導体は可視光を吸収できますが その多くは光誘起キャリアの再結合が早かったり 光励起電子の還元力が弱かったりするため光触媒作用を示しません 一方 外部から電場を印加する光電気化学反応であれば バンドギャップが小さな酸化物半導体であっても 光誘起キャリアの再結合を抑制し 還元力を高められるため 可視光を利用した光触媒反応を駆動できます このような光電気化学反応では 空間的に離れた電極上で酸化反応と還元反応が別々に進行するため 酸化生成物と還元生成物を膜分離することもできます これまでにメタンの活性化に光電気化学反応を応用した研究はほとんどありませんでした また 光電気化学反応は一般的には電解質水溶液中で行われます しかしながら 疎水性のメタン分子は水への溶解度が低いため 水溶液中では高い反応速度を期待できません そこで 気相のメタン分子を直接活性化できる全固体型の光電気化学セル ( 図 a) の開発に取り組みました 電解質には室温付近で良好なイオン伝導性を示すプロトン交換膜を使用しました さらに 膜方向へのイオン伝導性や反応物であるメタンの拡散性を妨げないよう多孔質化された構造のWO 3 ナノ粒子電極 ( 図 b) を開発しました この多孔質構造のナノ粒子電極をプロトン伝導性の高分子薄膜で被覆したところ 反応ガス雰囲気下における光電気化学反応の量子効率が大幅に増加することを見いだしました 気相の光電注 7) 気化学反応で律速段階となりうるプロトン共役電子移動が 気体と電解質と半導体が隣接する三相界面において促進されたためと考えられます ( 図 c) 2

WO 3 ナノ粒子電極にメタンを供給し青色の可視光 ( 波長 450nm) を照射したところ 電圧 1.2Vにおいて量子効率 11% で光電流が発生しました また 生成物の分析の結果 炭素基準の選択率 50% でエタンを生成しました このことから エネルギーの低い可視光を使ってもメタンのホモカップリング反応を誘起できることが実証されました これは 可視光によって生成した正孔がメタンを一電子酸化し 生成したメチルラジカルのカップリングによってエタンを生成する反応機構を示唆しています また 対極では1 注 00% の電流効率 8) で水素が発生しました メタン由来のプロトンがプロトン交換膜を経由して対極へと移動し 外部回路を経由した励起電子によって還元されていると考えられます 光電気化学反応を用いてメタンから水素を製造した世界初の報告例であるとともに 投入するエネルギーを小さくできる可視光でこれを達成していることから革新的な研究成果といえます ( 特許出願済み : 特願 2018-011496) < 今後の展開 > 本研究によって 可視光のようなエネルギーの低い光を利用してもメタンからエタンと水素を製造できることが世界で初めて実証されました 今後は エタン選択率のさらなる向上が実用化に向けての課題となります 反応の選択性を向上するためには 光電極表面上の触媒活性サイトの設計が重要になると考えられます そのためには 光電気化学反応における表面反応機構を微視的に明らかにすることを目的とした動作環境下における ( オペランド ) 分光観察や理論計算を行う必要があります 光電極や触媒の材料開発によって反応の選択性を向上させることができれば 豊富な天然資源であるメタンを水素や化成品原料に変換する新しいガス化学産業の創出が期待されます < 参考図 > (a) (b) (c) 100 µm 400 nm 2e 2CH 光 4 C 2 H 6 2H + 2e H 2 光 h + e CH 4 CH 3 H + CH 4 光 CH 3 H + e 全固体型光電気化学セル ガス拡散性 WO 3 電極 光電気化学的な三相界面 図 (a) 可視光照射下でメタンをエタンと水素に変換するために全固体型光電気化学セル を開発した (b) 気体分子およびプロトンの拡散を促進するために金属繊維を担体とした 3

多孔質の WO 3 ナノ粒子電極を調製し プロトン伝導性の高分子薄膜で WO 3 ナノ粒子を被覆することによって 気相分子の活性化が可能となる (c) 気体と電解質と固体の三相の接触界面積が増大した結果 メタンからのプロトン共役電子移動が促進されたと考えられる < 用語解説 > 注 1) メチルラジカルメチル基 (-CH 3 ) が一電子を失って遊離した状態 不対電子を有する化合物を一般にフリーラジカル ( 遊離基 ) と呼ぶ 反応性が高くて寿命が短く メタンの C-H 結合の均等開裂によって生成する 不対電子をドットで示して CH 3 と表記する 注 2) 光電気化学半導体電極を使って 光エネルギーを化学エネルギーや電気エネルギーに変換する電気化学の一分野 溶液中の n 型半導体電極にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると 価電子帯にある電子 (e - ) が伝導帯に励起され 価電子帯に生成した正孔 (h + ) によって溶液中の還元体が酸化され 励起電子は光電流として流れる 注 3) ホモカップリング反応同一の物質が連結する化学反応 メチルラジカル同士は結合してエタンになる 注 4) プロトン交換膜陽イオン交換膜のうちプロトンの交換能を持つ スルホン酸基を持つフッ素高分子の N afion 膜は 水和状態において良好なプロトン伝導性を示すことから燃料電池の固体高分子電解質として使用される 注 5) メタンの水蒸気改質水素または合成ガスを工業的に製造する方法 750 以上の高温でメタンと水蒸気をニッケル触媒上で反応させ 水素と一酸化炭素の混合物を製造する 反応式は CH 4 + H 2 O CO+3H 2 で表される 注 6) 光触媒作用光を吸収することで触媒作用を示す物質 光吸収によって形成された励起状態が他の物質にエネルギーを与えたり 酸化還元反応を引き起こしたりする 酸化チタンなどの酸化物半導体は 水分解による水素製造 有機物分解による環境浄化 光誘起超親水性によるセルフクリーニング効果などの光触媒作用を示す 注 7) プロトン共役電子移動 PCET(Proton-coupled electron transfer) 電子移動と同時にプロトン移動が生じることによって 電子移動反応の活性化エネルギーが低下する 電子とプロトンが水素原子として一緒に動くのではなく 異なる軌道の電子とプロトンが移動する CPET(Concerted proton-electron t ransfer) とも呼ばれる 4

注 8) 電流効率電気化学反応において 通過電気量から計算される理論生成量に対する目的生成物量の実測値の割合 ファラデーの法則より 電気化学反応による生成物の量は 通過電気量と電気化学当量で決まるが 目的とする電気化学反応だけが進行するわけではない < 論文タイトル > タイトル : Photoelectrochemical Homocoupling of Methane under Blue Light Irradiation 著者名 :Fumiaki Amano, Ayami Shintani, Kenyou Tsurui, Hyosuke Mukohara, Teruhisa Ohno, Sakae Takenaka DOI:10.1021/acsenergylett.8b02436 < お問い合わせ先 > < 研究に関すること > 天野史章 ( アマノフミアキ ) 北九州市立大学国際環境工学部准教授 808-0135 北九州市若松区ひびきの 1-1 Tel:093-695-3372 E-mail:amano@kitakyu-u.ac.jp <JST 事業に関すること > 中村幹 ( ナカムラツヨシ ) 科学技術振興機構戦略研究推進部グリーンイノベーショングループ 102-0076 東京都千代田区五番町 7 K s 五番町 Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2067 E-mail:presto@jst.go.jp < 報道担当 > 科学技術振興機構広報課 102-8666 東京都千代田区四番町 5 番地 3 Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432 E-mail:jstkoho@jst.go.jp 北九州市立大学企画管理課企画 研究支援係 808-0135 北九州市若松区ひびきの 1-1 Tel:093-695-3311 E-mail:kikaku@kitakyu-u.ac.jp 5