市場と経済A

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財政健全化に向けた予算制度改革

資料 1. 例年の予算編成スケジュール 7 月末 ~8 月初

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概算要求基準等の推移

総務部 企画財政課

( 注 ) 年金 医療等に係る経費については 補充費途として指定されている経費等に限る 以下同じ (2) 地方交付税交付金等地方交付税交付金及び地方特例交付金の合計額については 経済 財政再生計画 との整合性に留意しつつ 要求する (3) 義務的経費以下の ( イ ) ないし ( ホ ) 及び (

平成28年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について

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市場と経済A

独立行政法人評価制度委員会会計基準等部会において 中長期的に検討すべきとされた論点 独立行政法人会計基準に係る中長期課題検討事項一覧 1. 財務報告に関する基礎的前提論点 主要な財務報告利用者 ( 利害関係者 ) の整理 独立行政法人の財務報告の目的 機能の整理 整理された財務報告の目的と機能を踏ま

タイトル

1 制度の概要 (1) 金融機関の破綻処理に係る施策の実施体制金融庁は 預金保険法 ( 昭和 46 年法律第 34 号 以下 法 という ) 等の規定に基づき 金融機関の破綻処理等のための施策を 預金保険機構及び株式会社整理回収機構 ( 以下 整理回収機構 という ) を通じて実施してきている (2

平成 29 年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について ( 平成 28 年 8 月 2 日閣議了解 ) の骨子 平成 29 年度予算は 基本方針 2016 を踏まえ 引き続き 基本方針 2015 で示された 経済 財政再生計画 の枠組みの下 手を緩めることなく本格的な歳出改革に取り組む 歳出

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1 目 次

国会、裁判所、会計検査院、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省及び防衛省所管      東日本大震災復興特別会計歳入歳出予算補正予定額各目明細書

国会、裁判所、会計検査院、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省及び防衛省所管      東日本大震災復興特別会計歳入歳出予算補正予定額各目明細書

国会、裁判所、会計検査院、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省及び防衛省所管      東日本大震災復興特別会計歳入歳出予算補正予定額各目明細書

国会、裁判所、会計検査院、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省及び防衛省所管      東日本大震災復興特別会計歳入歳出予算補正予定額各目明細書

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P10 第 2 章主要指標の見通し 第 2 章主要指標の見通し 1 人口 世帯 1 人口 世帯 (1) 人口 (1) 人口 平成 32 年 (2020 年 ) までの人口を 国勢調査 ( 平成 7 年 ~22 年 ) による男女各歳人口をもとにコーホー 平成 32 年 (2020 年 ) までの人口

国会所管 一般会計歳出予算各目明細書

図 4-1 総額 と 純計 の違い ( 平成 30 年度当初予算 ) 総額ベース で見た場合 純計ベース で見た場合 国の財政 兆円兆 国の財政 兆円兆 A 特会 A 特会 一般会計 B 特会 X 勘定 Y 勘定 一般会計 B 特会 X 勘定 Y 勘定

1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

一般会計 特別会計を含めた国全体の財政規模 (1) 国全体の財政規模の様々な見方国の会計には 一般会計と特別会計がありますが これらの会計は相互に完全に独立しているわけではなく 一般会計から特別会計へ財源が繰り入れられているなど その歳出と歳入の多くが重複して計上されています また 各特別会計それぞ

内部統制ガイドラインについて 資料

2007財政健全化判断比率を公表いたします

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会計森林保険特別会計勘定 - 担当府省農林水産省担当部局 課室林野庁計画課作成責任者猪島康浩 設置の経緯 ( 沿革及びその後の変遷 ) 昭和 12 年森林火災国営保険法の制定に伴い森林火災保険特別会計を設置昭和 36 年気象災の追加 ( 森林火災国営保険法を森林国営保険法に改正 ) に伴い森林保険特

国会、裁判所、会計検査院、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省及び防衛省所管      東日本大震災復興特別会計歳入歳出予定額各目明細書

国会、裁判所、会計検査院、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省及び防衛省所管      東日本大震災復興特別会計歳入歳出予定額各目明細書

国会、裁判所、会計検査院、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省及び防衛省所管      東日本大震災復興特別会計歳入歳出予定額各目明細書

国会、裁判所、会計検査院、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省及び防衛省所管      東日本大震災復興特別会計歳入歳出予定額各目明細書

鳩山政権の経済政策の効果

平成21年度地域医療再生臨時特例交付金交付要綱


付加退職金の概要 退職金の額は あらかじめ額の確定している 基本退職金 と 実際の運用収入等に応じて支給される 付加退職金 の合計額として算定 付加退職金は 運用収入等の状況に応じて基本退職金に上乗せされるものであり 金利の変動に弾力的に対応することを目的として 平成 3 年度に導入 基本退職金 付

目 次 (1) 財政事情 1 (2) 一般会計税収 歳出総額及び公債発行額の推移 2 (3) 公債発行額 公債依存度の推移 3 (4) 公債残高の累増 4 (5) 国及び地方の長期債務残高 5 (6) 利払費と金利の推移 6 (7) 一般会計歳出の主要経費の推移 7 (8) 一般会計歳入の推移 8

資料 1-1 資料 1-1 平成 29 年度財政融資資金運用報告について 平成 30 年度財政融資資金運用報告について 平成令和元年 30 年 7 月 26 日財務省理財局財務省理財局

第 7 章財政運営と世代の視点 unit 26 Check 1 保有する資金が預貯金と財布中身だけだとしよう 今月のフロー ( 収支 ) は今月末のストック ( 資金残高 ) から先月末のストックを差し引いて得られる (305 頁参照 ) したがって, m 月のフロー = 今月末のストック+ 今月末

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2014(平成26)年度 予算編成方針について

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豊橋市 PPP/PFI 手法導入優先的検討方針 効率的かつ効果的な公共施設等の整備等を進めることを目的として 多様なPPP/P FI 手法導入を優先的に検討するための指針 ( 平成 27 年 12 月 15 日民間資金等活用事業推進会議決定 ) に基づき 公共施設等の整備等に多様なPPP/PFI 手


経済財政モデル の概要 経済財政モデル は マクロ経済だけでなく 国 地方の財政 社会保障を一体かつ整合的に分析を行うためのツールとして開発 人口減少下での財政や社会保障の持続可能性の検証が重要な課題となる中で 政策審議 検討に寄与することを目的とした 5~10 年程度の中長期分析用の計量モデル 短

要旨 :1. 先般政府が公表した 財政運営戦略 の内容は 次のとおり 1 財政健全化の目標として 国 地方のプライマリー収支 ( 対 GDP 比 ) を 2015 年度までに半減 2020 年度までに黒字化することが明記された 目標実現のための方策として ペイアズユーゴールールや 基礎的財政収支対象

1 検査の背景 (1) 租税特別措置の趣旨及び租税特別措置を取り巻く状況租税特別措置 ( 以下 特別措置 という ) は 租税特別措置法 ( 昭和 32 年法律第 26 号 ) に基づき 特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより 国による特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとさ

UIプロジェクトX

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全国自治体議会の運営に関する実態調査 2015 自治体議会改革フォーラム 法政大学ボアソナード記念現代法研究所自治体議会プロジェクト 議会改革および議会の状況について 議会改革について 現在 特段の態勢をとっていますか? 1/16

資料9

特別会計の改革について

目 次 (1) 財政事情 1 (2) 一般会計税収 歳出総額及び公債発行額の推移 2 (3) 公債発行額 公債依存度の推移 3 (4) 公債残高の累増 4 (5) 国及び地方の長期債務残高 5 (6) 利払費と金利の推移 6 (7) 一般会計歳出の主要経費の推移 7 (8) 一般会計歳入の推移 8

事業目的 事業概要 事業管理体制等を記載した事業申請書を提出する 2 担当部局は 在外公館等と共に 提出された事業申請書により申請内容の妥当性 を審査するなどして承認の可否を決定する 3 承認された N 連事業については貴省本省又は在外公館等が NGO と贈与契約を締 結して 本省契約については貴省

総務省独立行政法人評価委員会議事規則 総務省独立行政法人評価委員会令 ( 平成十二年政令第三百十八号 以下 委員会令 という ) 第十条の規定に基づき 総務省独立行政法人評価委員会議事規則を次のように定める 平成十三年二月二十七日総務省独立行政法人評価委員会委員長 ( 目的 ) 第一条総務省独立行政

内閣府及び厚生労働省所管 特別会計歳入歳出暫定予算予定額各目明細書

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

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共同事業体協定書ひな形 ( 名称 ) 第 1 条この機関は 共同事業体 ( 以下 機関 という ) と称する ここでいう 機関 は 応募要領の参加資格に示した共同事業体のことであるが 協定書等において必ず 共同事業体 という名称を用いなければならない ということはない ( 目的 ) 第 2 条機関は

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

平成 27 年度高浜町の健全化判断比率及び資金不足比率 地方公共団体の財政の健全化に関する法律 が平成 21 年 4 月から全面施行され この法律により地方公共団体は 4 つの健全化判断比率 ( 実質赤字比率 連結実質赤字比率 実質公債費比率 将来負担比率 ) と公営企業ごとの資金不足比率を議会に報

PowerPoint プレゼンテーション

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PrimoPDF, Job 20

短期均衡(2) IS-LMモデル

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平成28年度子どものための教育・保育給付災害臨時特例補助金交付要綱

道州制基本法案(骨子)

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報告事項     平成14年度市町村の決算概要について

平成 28 年度予算編成方針 我が国の経済は 景気は引き続き緩やかな回復基調を維持しているが その影響が地方経済にまで十分に行き渡っているとは言えず 我々地方の行財政運営の基本となる税等一般財源を確保するためには 臨時財政対策債に頼らざるを得ない状況が続くものと考える また 税制改正も予測されること

スライド 1

Microsoft Word _【再々修正】公表資料<厚生年金・国民年金の平成28年度収支決算の概要>

1 検査の背景 (1) 日本年金機構における個人情報 情報システム及び情報セキュリティ対策の概要厚生労働省及び日本年金機構 ( 以下 機構 という ) は 厚生年金保険等の被保険者等の基礎年金番号 氏名 保険料の納付状況等の個人情報 ( 以下 年金個人情報 という ) について 社会保険オンラインシ

市場と経済A

ための手段を 指名 報酬委員会の設置に限定する必要はない 仮に 現状では 独立社外取締役の適切な関与 助言 が得られてないという指摘があるのならば まず 委員会を設置していない会社において 独立社外取締役の適切な関与 助言 が十分得られていないのか 事実を検証すべきである (2) また 東証一部上場

02_公表資料<厚生年金・国民年金の平成27年度収支決算の概要>

1★⑥H26決算概要公表

資料 2-2 財政制度等審議会財政投融資分科会 編成上の論点 地方公共団体 平成 26 年 11 月 28 日財務省理財局

新設 拡充又は延長を必要とする理地方公共団体の実施する一定の地方創生事業に対して企業が寄附を行うことを促すことにより 地方創生に取り組む地方を応援することを目的とする ⑴ 政策目的 ⑵ 施策の必要性 少子高齢化に歯止めをかけ 地域の人口減少と地域経済の縮小を克服するため 国及び地方公共団体は まち

2012(平成24)年度 予算編成方針について

健全化比率及び資金不足比率の状況について 地方公共団体の財政の健全化に関する法律 により 藤枝市の健全化判断比率及び資金不足比率につい て 以下のとおり算定しました これは 平成 19 年 6 月に公布された上記法律に基づき 毎年度 監査委 員の審査に付した上で 議会に報告及び公表するものです 本市

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

資料 1 税財政制度を通じた論点 Ⅰ 現状と課題 1. 地方財政の財政の概要 地方財政の平成 23 年度決算は 歳入約 兆円 歳出 97.0 兆円となっている なお 借入金残高は約 兆円と依然と高い水準にある 国と地方における最終支出ベースにおける比率は 42:58 となって

Ⅰ 平成 24 年度高鍋町財務書類の公表について 平成 18 年 6 月に成立した 簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律 を契機に 地方の資産 債務改革の一環として 新地方公会計制度の整備 が位置づけられました これにより 新地方公会計制度研究会報告書 で示された 基準モデル

平成30年公認会計士試験

豊橋市公金管理指針 第 1 総則 1 趣旨この指針は 本市の公金の適正な管理に関し必要な事項を定めるものとする 2 定義この指針において 公金 とは 歳計現金 歳入歳出外現金 基金に属する現金 公営企業会計 ( 水道事業会計 下水道事業会計及び病院事業会計をいう 以下同じ ) に属する現金及び一時借

平成 27 年地方分権改革に関する提案募集要項 内閣府地方分権改革推進室 1 趣旨内閣府地方分権改革推進室では 地方分権改革に関する提案募集の実施方針 ( 平成 26 年 4 月 30 日地方分権改革推進本部決定 ) に基づき 地方分権改革に関する全国的な制度改正に係る提案を募集します 2 提案の主

活動指標及び 活動指標標準仕様書 導入手順書策定数 ( 改定を含む ) 活動見込 31 活動見込 2 活動指標及び 活動指標 RPA 補助事業の完了数 活動見込 31 活動見込 5 活動指標及び AI 実証地域の完了数 活動指標 活動見込 31 活動見

一次評価 担当課による自己評価 必要性 効率性 有効性 市民や社会のニーズを的確に捉えた事業か 民間事業者や市民が自ら実施することのできない事業か 目的 目標の達成手段として適切で 優先度の高い事業か 受益者との負担関係やは妥当な水準か 他の手段や方法とのコスト比較は十分行われているか コスト削減や

Microsoft Word 新基金・通知

おしえて!熊野市の予算の仕組み ~ー市の予算ができるまでー~

Transcription:

財政学 Ⅰ 1 第 5 回予算 (3) 予算過程と予算制度改革 2015 年 5 月 8 日 ( 金 ) 担当 : 天羽正継 ( 経済学部経済学科准教授 )

2 予算循環 (1) 予算は単年度主義の原則に従って毎年度作成されるが 一つの予算が運営される過程は少なくとも 3 年度以上にわたる この過程は予算循環と呼ばれる 予算循環は大きく三つの過程から構成される 編成過程 : 行政府 ( 官僚組織 ) が予算案を準備する立案過程と 議会で予算案を審議し 予算を成立させる決定過程からなる 執行過程 : 成立した予算に基づいて行政府が財政を運営していく過程 決算過程 : 行政府が執行した予算の結果を議会に報告し 執行責任を議論する過程 予算循環の三つの過程は それぞれが少なくとも 1 年間を要するため 予算循環のサイクルは 3 年間にわたる ある会計年度においては 前年度予算の決算 当該年度予算の執行 次年度予算の編成が同時に行われている ( スライド 3)

3 予算循環 (2) 2012 年度 2011 年度予算決算 2013 年度 2012 年度予算執行決算 2014 年度 2013 年度予算編成執行決算 2015 年度 2014 年度予算編成執行決算 2015 年度予算編成執行 2016 年度予算編成 神野直彦 財政学改訂版 122 頁に一部修正

4 予算の編成過程 (1) 日本の国家予算の編成は内閣が行い 国会に提出する ( 日本国憲法第 86 条 ) 実際には財務大臣が予算を作成するとされているため ( 財政法第 21 条 ) 予算の立案過程は財務省の主導の下に行われる 議員立法のように 議員が予算案を提出する制度はない 予算の立案過程には マクロの予算編成とミクロの予算編成の二つの側面がある マクロの予算編成 : 予算全体の規模を決め その財源を確保するために税制や公債発行を検討する トップダウンで実施される 上からの 予算編成 ミクロの予算編成 : 各省庁からの概算要求を個別に査定して積み上げていく ボトムアップで実施される 下からの 予算編成 マクロの予算編成は財務省の専権事項 税収を見積もる権限は財務省の主税局が有し 公債発行に関する権限は財務省の理財局が有する 財務省の主計局は税収の見積額に基づき マクロの予算編成とミクロの予算編成を整合させながら 財務省原案と呼ばれる予算原案を作成していく

5 概算要求の作成 予算の編成過程 (2) 各省庁が次年度の予算として財務省に要求する額を策定 5 月頃に各省庁の課レベルで 6 月頃に局レベルで開始 その後 省庁レベルの概算要求がシーリングをにらみつつ 7 月から 2 か月間かけて作成される シーリング : 概算要求を作成する際の基準で 財務省が策定し 8 月上旬までに閣議了解される 正式名称は 概算要求に当たっての基本的な方針 作成された各省庁の概算要求は 8 月末を期限に財務省に提出される 財務省原案の作成 主計局は 9 月以降 各省庁から提出された概算要求を査定 また それに先立って 4,5 月頃から 主税局や理財局 他の省庁とも連絡をとりつつ マクロの予算編成の作業を開始 経済財政諮問会議は 6 月に経済財政運営等に関する基本方針 ( 骨太方針 ) を示すとともに 予算編成の基本方針 の原案を作成 予算編成の基本方針 は 12 月上旬までに閣議決定される 予算編成の最終段階で基本方針が決定されるという 転倒 1951 年度の予算編成方針が 7 月に決定されたのを最後に 12 月に決定されるのが慣例となる 経済財政諮問会議 : 経済財政政策に関する重要事項について調査審議するために内閣府に設置された機関 内閣総理大臣 財務大臣 総務大臣 経済産業大臣 日銀総裁 民間議員等から構成される 12 月中旬に財務省原案がまとめられ 閣議に報告される その後 各省庁に内示 ただし 財務省原案は 2010 年度予算以降 公表されないことに

6 予算の編成過程 (3) 復活折衝 : 各省庁は財務省原案の内示を受け 概算要求から減額あるいは拒絶 ( ゼロ査定 ) されたもののうち どれを再度要求するかを検討 事務折衝 : 各省庁と財務省の事務レベルで調整 大臣折衝 : 事務折衝で決着がつかなかった場合に 各省の大臣と財務大臣の間で調整 復活折衝終了後 予算は閣議決定されて政府予算案となり 通常は 1 月下旬に国会に提出 財政法第 27 条 内閣は 毎会計年度の予算を 前年度の一月中に 国会に提出するのを常例とする 下院優先の原則 に基づき 予算はまず衆議院に提出 ( 日本国憲法第 60 条 ) 衆議院では財務大臣による財政演説が行われる 財政演説に対して代表質問が行われた後 予算は予算委員会に付託され 審議される 予算委員会で採決されると その結果が衆議院本会議で報告され 議決される 衆議院で可決後 予算は参議院に送付され 同様の過程をたどる 参議院が予算を受け取ってから 30 日以内に議決しない場合 予算は自然成立する ( 日本国憲法第 60 条第 2 項 ) 立案過程は 10 か月の長期にわたるのに対して 決定過程は 2 か月という短期 予算をめぐる利害調整は議会で行われる前に 主として行政府の内部で 政権与党と密接な連携をとりつつ行われる

7 予算の執行 決算過程 執行過程 予算が成立すると 内閣に予算の執行権限が付与される 内閣は予算を各省庁に配賦し それを受けた各省庁は 財務大臣の承認を得た支払計画に基づいて支出を行う 決算過程 実際の支出はすべて 国庫金を管理する日本銀行が行う 部局等 あるいは 項 の間で資金を融通する 移用 は あらかじめ国会の議決を経た場合に限り 財務大臣の承認を得て行うことができる これに対して 目 の間で資金を融通する 流用 は 財務大臣の承認が得られれば認められる ( 財政法第 33 条 ) 予算の執行が終わると 各省庁の長は歳入歳出の結果を決算報告書にまとめ 7 月末までに財務大臣に送付 財務大臣は決算報告書に基づいて決算を作成し 作成された決算は閣議決定を経て 11 月末までに会計検査院に送付される 会計検査院 : 内閣から独立した検査機関 しかし あくまで国の行政府の一部であり 国会の機関ではない 会計検査院の検査を終えた決算は 検査報告を添えて国会に提出される ( 日本国憲法第 90 条 ) 歳入額が歳出額を上回り 歳計剰余金が生じた場合は 使途が確定した分を控除して純剰余金を求めた上で その 2 分の 1 以上を国債の償還財源に充当する

8 古典的予算原則の限界 多元的な利害を充足する必要性 予算制度改革の試み (1) 古典的予算原則は 同質的な利害を代表する議会が行政府をコントロールするために作られた しかし 同質的な利害を有し 財産と教養 のある一部の市民しか政治に参加しない時代から 大衆も政治に参加する時代になると 議会には様々な利益代表者が送り込まれ それらの多元的な利害を充足する必要性が発生 そのために議会は 行政府の活動を規制するよりもむしろ拡大することで 多元的な利害を充足することを求めるように 景気変動に対応するためには 弾力的で機能的な財政運営の必要性 しかし 予算の編成過程が長期にわたるため こうした運営には限界 単年度主義を厳守していては 長期的な視点に立った財政計画を作成することは困難 以上のような理由から 予算原則に例外が生じるとともに 財政運営上の裁量性が行政府に認められることに その結果 結果責任 という観点から効率性が重視されることに その一方で 議会の地位は相対的に低下し 財政民主主義は脆弱化 予算制度改革の方向性 予算の結果が国民経済にどのような効果をもたらすのかを明らかにする国民経済計算 政府が実施する政策を評価する手段としての予算 長期にわたる財政計画の作成

9 予算制度改革の試み (2) 事業別予算 : 予算を行政責任の単位である所管別にではなく 機能別に分類し 費用 便益分析 (costbenefit analysis) を行った上で 費用に比べて便益が最大となるような事業を選択する しかし 費用や便益を正確に見積もることは 恣意性も入り 極めて困難 PPBS(Planning-Programming-Budgeting-System): 事業別予算をさらに発展させ アメリカで 1961 年に導入 個々の事業目標を数量化するなどして長期計画を作成する planning( 目標計画立案 ) それを実施するために様々な案の中から最適なものを費用 便益分析により選択する programming( 実施計画策定 ) それを単年度予算に具体化していく budgeting( 予算編成 ) から構成される しかし 実施困難などの理由により 導入の 10 年後に廃止 ゼロベース予算 : 前年度予算の実績にかかわらず 新たに政策をゼロから策定し直し それらを比較検討して予算配分を行う 伝統的な漸増主義 (incrementalism) に基づく予算編成では 前年度実績を基準に予算額の増減を行うため 予算の内容が硬直的になるという批判に対する対応 アメリカで導入が試みられるも 策定に膨大な時間と費用がかかるため 失敗に終わる サンセット方式 : 予算の肥大化を防ぐため 事業の執行に期限を付けておき 期限が過ぎた場合はその継続が正当化されない限り 自動的に歳出計画が終了する アメリカのいくつかの州政府で採用

10 予算制度改革の試み (3) 財政計画の役割 単年度主義に基づく予算では明らかにならない後年度負担や事後的費用を明確化するとともに 予算が国民経済にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする しかし 長期の財政計画は 単年度主義に基づく予算のような法的拘束力は備えておらず あくまで予算の参考資料という性格にとどまる 日本における中期財政フレームの作成 1976 年 2 月に 財政収支試算 (1976~80 年度 ) を発表 1981 年度以降 後年度負担を推計した 財政の中期展望 を発表 2002 年度以降は 後年度歳入 歳出への影響試算 に名称変更 経済財政諮問会議 2002~06 年 : 構造改革と経済財政の中期展望 を発表 2007~08 年 : 経済財政改革の基本方針 を発表 2009 年 : 経済財政の中長期方針と 10 年展望 を発表 2013 年 : 当面の財政健全化に向けた取組等について 中期財政計画 を発表 現代の財政運営においては 財政民主主義を重視する 古典的予算原則 と裁量性や効率性との間で どのようにバランスをとっていくかが大きな課題に