総務省消防庁が有する自損行為による救急搬送事例に関する分析 ー全国および都道府県別ー 平成 25 年 12 月 ( 独 ) 国立精神 神経医療研究センター 精神保健研究所自殺予防総合対策センター
研究の背景 政府が推進すべき自殺対策の指針 自殺総合対策大綱 では 自殺未遂者やその家族が必要に応じて精神科医療や生活再建の支援が受けられる体制の整備など 自殺未遂者対策の推進が大きな課題として謳われている 自損行為による救急搬送事例には 自殺既遂事例とともに自殺未遂 自傷行為事例が含まれる よって これらの事例を分析することで 地域における自殺未遂を含めた自殺企図の実態を把握できると考えられる 自殺既遂事例については 人口動態統計や警察庁の自殺統計により 全国および小地域別の動向を把握できる その一方で 全国を対象とした自損行為による救急搬送事例の詳細な分析は行われていない 2
研究目的 1. 総務省消防庁が保有する全国の自損行為による救急搬送 データを分析し わが国における自殺未遂も含めた自損行 為の実態を明らかにする 2. 地域別の自損行為の実態を把握し 地域の実情に応じた 自殺対策を推進するための基礎資料とする 3
研究方法 (1) 分析対象 2007~2011 年の 5 年間に救急搬送に至った傷病事例 全 20,411,885 例のうち 事故種別が 自損行為 であった事例 224,706 例 ( 約 1.1%) 分析項目 発生地域 ( 都道府県 消防本部 ) 発生年月日 現場到着時刻 年齢区分 居住地 ( 管内 管外 ) 性別 発生場所 搬送機関 ( 告示別 管内 管外 ) 初診医による重症度評価 ( 死亡を含む ) 分析項目 ( 提供項目 ) には 個人の氏名 住所 生年月日 電話番号等に関する情報は一切含まれない 4
研究方法 (2) 統計解析 基本集計とともに 母集団人口と対応付けて自損行為発生率 ( 人口 10 万対 ) を算出 母集団人口 ( 年次別 ) 全国 : 総務省人口推計 ( 各歳別 ) 都道府県 : 住民基本台帳に基づく人口 人口動態及び世帯数調査 (5 歳階級別 ) 統計解析パッケージ :SAS version 9.4 R version 2.15.2 倫理的配慮 本研究は ( 独 ) 国立精神 神経医療研究センター倫理委員会による承認を得て実施した 5
分析結果の解釈に際しての留意点 ウツタイン報告該当事案以外では報告が必須でないことから 性別 年齢 ( 各歳 ) 情報に欠損が多い そのため 男女別の分析結果の解釈には注意を要するとともに 年齢に関しては 年齢区分 ( 少年 [7~17 歳 ] 成人 [18~64 歳 ] 高齢者 [65 歳 ~]) を採用している 分析対象者は医療機関に搬送された自損行為事例のみである 分析対象者は救急隊が自損行為と判断した事例のみである また 自殺の意図の確認は行われていない 同一人物による複数回の搬送事例が含まれており 自損行為の 実人数 とは異なる 初診医による重症度評価 はあくまで医療機関搬送時点のものであり 搬送後の転帰については追跡されていないため 情報バイアスの影響が考えられる 一部地域のデータが含まれていない ウツタイン報告とは 院外心肺機能停止症例を対象とした統一された記録方法であり 国際的なガイドラインとして推奨されている ( 日本救急医学会ホームページ :http://www.jaam.jp/html/dictionary/dictionary/word/0919.htm) 6
分析結果
自損行為による救急搬送事例数 事例総数は 2009 年をピークに緩やかな減少傾向にある ( 事例数 ) 50,000 45,000 40,000 35,000 39,777 33,400 45,283 38,009 47,297 46,637 39,599 38,572 45,259 37,182 30,000 25,000 20,000 15,000 少年成人高齢者総数 (7 歳以上 ) 10,000 5,000 0 4,864 5,713 6,158 6,517 6,510 1,513 1,561 1,540 1,548 1,567 2007 2008 2009 2010 2011 年次 8
自損行為による救急搬送率 ( 人口 10 万対 ) 成人の搬送率が高いが 近年は減少傾向がうかがえる ( 人口 10 万対の事例数 ) 60.0 50.0 48.3 50.8 49.4 47.8 42.1 40.0 33.1 37.7 39.4 38.7 37.6 30.0 20.0 17.7 20.2 21.2 22.1 21.9 少年成人高齢者総数 (7 歳以上 ) 10.0 0.0 11.5 11.9 11.8 11.9 12.1 2007 2008 2009 2010 2011 年次 9
転帰別
初診医による自損行為の重症度の評価 (2007-2011 年 ) 高齢者では自損事例全体に占める死亡 重症例の割合が高く 64 歳以下では中等症 軽症例の割合が高い傾向がうかがえる 高齢者 (n = 29,760) 成人 (n = 186,746) 少年 (n = 7,729) 死亡重篤重症中等症軽症その他 0% 20% 40% 60% 80% 100% 11
月 時間帯別
1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 ( 事例数 ) 160 年次 月別に見た自損行為事例数 (1 日当たり ) 初夏 ~ 初秋にかけて多く 冬に少ないという季節周期性がうかがえる また 2011 年 5 月に前月比 前年同月比ともに急増している 140 120 100 80 60 40 20 0 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 13
月別の自損行為事例数 (1 日当たり ; 2007-2011 年 ) ( 事例数 ) 120 100 80 60 40 少年 成人 高齢者 20 0 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 14
時間帯別の自損行為事例数の構成割合 (2007-2011 年 ) 64 歳以下では夜間 ~ 深夜 早朝が多く 高齢者では午前 ~ 午後が多いことがうかがえる 高齢者 成人 深夜 早朝午前午後夜間 少年 0% 20% 40% 60% 80% 100% 入電時刻 ( 通信回線等が消防機関に接続した時刻 ) に欠損が多いため 現場到着時刻 を用いた 15
場所別
居住地 発生場所別の自損行為事例数の構成割合 (2007-2011 年 ) 居住地 発生場所 高齢者 高齢者 成人 成人 少年 少年 0% 50% 100% 管内管外その他 0% 50% 100% 住宅公衆出入場所職場道路その他 17
搬送機関別の自損行為事例数の構成割合 (2007-2011 年 ) 告示別 管内 外別 高齢者 高齢者 成人 成人 少年 少年 0% 50% 100% 告示 告示外 0% 50% 100% 管内 管外 18
性 年齢区分別 事例総数の約 14.8% で性別情報が把握できておらず 男女別の分析結果の解釈には注意を要する
性別の自損事例数の構成割合 (2007-2011 年 ) 高齢者 (n = 29,762) 成人 (n = 186,762) 男性 女性 不明 少年 (n = 7,729) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 20
自損行為による救急搬送事例数 ( 性 年次別 ) ( 事例数 ) 男 ( 事例数 ) 女 30,000 30,000 25,000 25,000 21,047 23,929 20,512 25,639 25,384 25,132 21,936 21,411 21,098 20,000 20,000 18,073 15,000 10,000 11,946 9,596 13,883 11,126 14,912 14,866 14,265 11,890 11,774 11,157 15,000 10,000 5,000 2,037 2,420 2,685 2,764 2,751 5,000 2,026 2,451 2,693 2,964 3,039 0 313 337 337 328 357 2007 2008 2009 2010 2011 0 948 966 1,010 1,009 995 2007 2008 2009 2010 2011 年次 年次 少年 成人 少年 成人 高齢者総数 (7 歳以上 ) 高齢者総数 (7 歳以上 ) 21
自損行為による救急搬送率 ( 人口 10 万対 ) ( 人口 10 万対の事例数 ) 60.0 男 ( 人口 10 万対の事例数 ) 60.0 52.4 女 56.6 55.2 54.6 50.0 50.0 45.8 40.0 30.0 20.0 10.0 24.1 17.4 20.5 28.1 20.1 23.8 30.4 30.0 28.5 25.6 25.4 24.4 21.7 22.0 21.7 40.0 30.0 20.0 10.0 41.6 40.9 40.5 38.8 34.1 15.2 16.2 17.5 17.8 12.9 14.7 15.1 15.9 15.9 15.8 0.0 4.6 5.0 5.0 4.9 5.4 2007 2008 2009 2010 2011 年次 0.0 2007 2008 2009 2010 2011 年次 少年 成人 高齢者 総数 (7 歳以上 ) 少年 成人 高齢者 総数 (7 歳以上 ) 分子 ( 自損事例数 ) は性別情報欠損者が除外されており 率は実際よりも過小となる 22
初診医による自損行為の重症度の評価 (2007-2011 年 ) 男 女 高齢者 (n = 12,656) 高齢者 (n = 13,172) 成人 (n = 55,535) 成人 (n = 103,027) 少年 (n = 1,672) 少年 (n = 4,928) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 死亡死亡以外その他 0% 20% 40% 60% 80% 100% 死亡死亡以外その他 死亡以外 には医療機関搬送時点での重篤 重症 中等症および軽症例が含まれる 23
都道府県別 住民基本台帳年齢別人口においては 都道府県別では 5 歳階級別人口しか提供されていないため 64 歳以下または 65 歳以上という年齢区分を採用している
自損行為による救急搬送率 ( 人口 10 万対 ; 2007-2011 年 ; 総数 ) 北海道 53.2 青森県 26.7 岩手県 35.2 宮城県 40.3 秋田県 32.3 山形県 30.1 福島県 32.6 茨城県 36.6 栃木県 40.9 群馬県 35.4 埼玉県 45.2 千葉県 39.9 東京都 神奈川県 40.8 新潟県 38.2 富山県 25.7 石川県 30.5 福井県 26.1 山梨県 43.0 長野県 31.1 岐阜県 31.4 静岡県 34.2 愛知県 37.8 三重県 32.2 滋賀県 36.0 京都府 46.0 大阪府 50.0 兵庫県 39.7 奈良県 39.4 和歌山県 46.9 鳥取県 33.0 島根県 34.7 岡山県 34.3 広島県 35.3 山口県 36.9 徳島県 28.9 香川県 36.0 愛媛県 41.7 高知県 41.7 福岡県 35.7 佐賀県 32.1 長崎県 30.1 熊本県 39.4 大分県 31.3 宮崎県 36.5 鹿児島県 34.6 沖縄県 47.1 25
自損行為による救急搬送率 ( 人口 10 万対 ; 2007-2011 年 ; 64 歳以下 ) 北海道 61.5 青森県 29.4 岩手県 37.9 宮城県 45.5 秋田県 32.7 山形県 31.7 福島県 35.9 茨城県 40.2 栃木県 44.1 群馬県 38.0 埼玉県 49.6 千葉県 44.3 東京都 神奈川県 45.1 新潟県 40.3 富山県 27.2 石川県 33.7 福井県 28.2 山梨県 48.8 長野県 34.9 岐阜県 33.1 静岡県 38.2 愛知県 41.3 三重県 36.3 滋賀県 39.7 京都府 52.5 大阪府 56.8 兵庫県 44.6 奈良県 44.7 和歌山県 52.6 鳥取県 37.9 島根県 38.4 岡山県 39.5 広島県 39.9 山口県 42.9 徳島県 33.1 香川県 42.1 愛媛県 48.6 高知県 47.7 福岡県 39.6 佐賀県 34.8 長崎県 33.2 熊本県 44.5 大分県 35.0 宮崎県 39.4 鹿児島県 39.5 沖縄県 51.0 26
自損行為による救急搬送率 ( 人口 10 万対 ; 2007-2011 年 ; 65 歳以上 ) 北海道 26.4 青森県 18.5 岩手県 27.5 宮城県 21.5 秋田県 31.1 山形県 25.7 福島県 22.2 茨城県 23.6 栃木県 28.8 群馬県 26.5 埼玉県 26.5 千葉県 22.2 東京都 神奈川県 23.0 新潟県 32.0 富山県 21.2 石川県 19.7 福井県 19.4 山梨県 24.3 長野県 20.1 岐阜県 25.7 静岡県 20.7 愛知県 23.2 三重県 18.6 滋賀県 21.2 京都府 23.9 大阪府 24.5 兵庫県 22.1 奈良県 21.2 和歌山県 30.5 鳥取県 18.6 島根県 25.2 岡山県 18.0 広島県 19.4 山口県 20.5 徳島県 16.6 香川県 17.2 愛媛県 21.7 高知県 25.8 福岡県 21.5 佐賀県 23.2 長崎県 20.9 熊本県 24.0 大分県 20.7 宮崎県 27.7 鹿児島県 20.5 沖縄県 27.5 27
謝辞 本研究で用いた自損行為による救急搬送データは 総務省 消防庁救急企画室より提供されたものである 本研究は 厚生労働科学研究費補助金 ( 障害者対策総合 ( 精神障害分野 ) 研究事業 ) 自殺総合対策大綱に関する自殺の要因分析や支援方法等に関する研究 ( 研究代表者 : 福田祐典 研究分担者 : 竹島正 ) の助成を受けて実施された 28