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PRESS RELEASE (2017/7/28) 北海道大学総務企画部広報課 060-0808 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL 011-706-2610 FAX 011-706-2092 E-mail: kouhou@jimu.hokudai.ac.jp URL: http://www.hokudai.ac.jp モンゴルで新種のオルニトミムス類恐竜を発見 命名 研究成果のポイント 新種のオルニトミムス類恐竜を発見し, エピオルニトミムス トゥグルギネンシス (Aepyornithomimus tugrikinensis) と命名 *1 獣脚類恐竜の系統解析により, オルニトミムス類の初期進化の過程を解明 オルニトミムス類の生態や当時の環境に関する新たな知見を得た 研究成果の概要モンゴル ゴビ砂漠のトゥグルギンシレに分布するジャドクタ層 (3,350~7,060 万年前であるカンパニアン期の地層 ) から初めてオルニトミムス類の恐竜を発見し, 良好な保存状態の足の化石に基づき, エピオルニトミムス トゥグルギネンシスと命名しました また, 系統解析の結果, エピオルニトミムスはオルニトミムス科に属することが判明しました この恐竜の発見によりアジアのオルニトミムス類の進化史のギャップが埋まり, オルニトミムス類の初期進化過程が明らかとなりました 加えて, オルニトミムス類が乾燥した環境にも適応し, 生息していたことが判明しました 論文発表の概要研究論文名 : First Ornithomimid (Theropoda, Ornithomimosauria) from the Upper Cretaceous Djadokhta Formation of Tögrögiin Shiree, Mongolia( モンゴルトゥグルギンシレ上部白亜紀ジャドクタ層から発見された初めてのオルニトミムス科 ( 獣脚類, オルニトミムス類 )) 著者 :Tsogtbaatar Chinzorig( 北海道大学大学院理学院, モンゴル古生物 地質研究機関 ), 小林快次 ( 北海道大学総合博物館 ),Khishigjav Tsogtbaatar( モンゴル古生物 地質研究機関 ), フィリップ カリー ( カナダ アルバート大学 ), 渡部真人 ( 早稲田大学国際教養学部 ),Rinchen Barsbold( モンゴル古生物 地質研究機関 ). 公表雑誌 :Scientific Reports 公表日 : 英国時間 2017 年 7 月 19 日 ( 水 )( オンライン公開 )

研究成果の概要 ( 背景 ) モンゴル ゴビ砂漠の白亜紀後期 (1 億年 ~6,600 万年前 ) の地層からは, 多くのオルニトミムス類恐竜の化石が見つかっており, 特にバインシレ層 (Garudimimus) やネメグト層 (Anserimimus, Deinocheirus, Gallimimus) からは, 非常に多くの種 個体が見つかっています しかし, カンパニアン期 (3,350~7,060 万年前 ) の地層であるジャドクタ層からオルニトミムス類の化石が見つかることは非常に稀で, これまでに二つの化石が知られるのみでした これらの二つの化石は部分的なものであり, 分類群の推定に用いられる形態的特徴がないことから, ジャドクタ層におけるオルニトミムス類の特徴や進化過程, 環境との関係性は不明とされていました 今回, モンゴルの首都ウランバートルから約 600km 南西に位置するトゥグルギンシレ ( 図 1) のジャドクタ層から, 初めてオルニトミムス類の化石が発見されました これは, ジャドクタ層としては 3 例目のオルニトミムス類化石となります 前出の 2 例と比べても非常に保存状態がよく, 完全な左足と部分的な かかと の骨が残っています ( 図 2) このように保存状態のよい化石が発見されたことから, 初めてジャドクタ層のオルニトミムス科の進化史や環境との関係性を検証することが可能となりました そこで本研究では, 新たに発見されたオルニトミムス類化石と, 北米など他の地域のオルニトミムス類との関係性を解明し, アジアにおけるオルニトミムス類の進化史解明を目的としました 図 1. エピオルニトミムスの産出地点 ( 研究手法と結果 ) 新たに発見されたオルニトミムス類化石と他のオルニトミムス類との系統関係 ( 生物進化における先祖と子孫の関係性 ) を明らかにするため, オルニトミムス類を含む獣脚類恐竜 99 種と, 568 個の骨学的特徴 ( うち 30 個の特徴が今回発見された化石で有効 ) に基づいて比較 解析を行いました 比較の結果, 今回発見された化石は複数の固有の特徴を持つ新種の恐竜であることが明らかとなり, Aepyornithomimus tugrikinensis ( エピオルニトミムストゥグルギネンシス ) と名付けました この恐竜は, 白亜紀後期のモンゴルゴビ砂漠から見つかったものとしては約 30 年ぶりとなる新種のオルニトミムス類恐竜で図 2. 足の骨 ( 左 ) と かかと の骨す

エピオルニトミムスに固有の骨学的特徴は, 以下のとおりです ( 図 3) (1) 遠位足根骨 III( かかと の骨の三番目 ) の前面に不均一に発達したくぼみが存在すること (2) 第二中足骨 ( かかと と指の間の骨の二番目, 人差し指と関節するもの ) の指との関節部位が非常に大きく発達していること (3) 指骨 IV-1( 薬指の付け根の骨 ) の付け根が曲線状となっていること (4) 長い第四指 (5) 第 IV-1 指骨 ( 薬指の付け根の骨 ) の内側面の強い傾斜 (6) 長く伸長した足の末節骨 ( 爪 ) 図 3. エピオルニトミムス固有の骨学的特徴 系統解析の結果, エピオルニトミムスはオルニトミムス類の中でもオルニトミムス科に属することが判明しました ( 図 4) 得られた系統樹により, 原始的なオルニトミムス類は連続的に進化を遂げた一方, 派生的なオルニトミムス類は三つの大きな分類群 ( オルニトミムス科, デイノケイルス科, Archaeornithomimus とBissekty ornithomimid のグループ ) に分かれたことが判明しました 3 本の中足骨のプロポーションをオルニトミムス類の種毎に比較したところ, オルニトミムス科, デイノケイルス科, そして基盤的なオルニトミムス類 (Nqwebasaurus と Harpymimus) はそれぞれに異なる中足骨のプロポーションを持つことが判明しました ( 図 5) 一方, エピオルニトミムスは派生的なオルニトミムス科に属する中で, 基盤的な Nqwebasaurus や Harpymimus に近いプロポーションを持っている点が特徴的です

エピオルニトミムス 図 5. オルニトミムス類の足根骨長比北米の派生的なオルニトミムス科 (Ornithomimus, Rativates, Struthiomimus) の多くはエピオルニトミムスと同じカンパニアン期 ( 約 3,350~7,060 万年前 ) から発見されており, この時代のオルニトミムス類の多様性が高かったことを示唆します 一方で, モンゴルの派生的なオルニトミムス類 (Anserimimus,Deinocheirus,Gallimimus) はより新しい時代の地層であるネメグト層 ( マーストリヒチアン期 : 約 7,060~6,650 万年前 ) に多く見られ, カンパニアン期のオルニトミムス類はモンゴルでは非常に希です 本研究で得られた系統樹からは, オルニトミムス類は二度にわたって北米とアジアを行き来していたことが示されます 一度目はアジアから北米にベーリング陸橋を通じて移動したもの, 二度目はカンパニアン期にエピオルニトミムスの祖先種が北米からアジアに移動したものです これまでモンゴルのオルニトミムス類は河川層 ( ネメグト層 ) や湖成層 ( バインシレ層 ) などの湿潤な環境下から見つかっていまし図 4. エピオルニトミムスの系統位置た 一方で, 今回エピオルニトミムスが見つ ( 赤枠部分が今回の新種 ) かったジャドクタ層は乾燥した環境であったとされており, 恒常的に水がある河川などの水系はなかったと考えられています このような環境下からエピオルニトミムスが発見されたことは, オルニトミムス類は乾燥した環境を含む, これまで知られていたよりも多くの環境に適応していたことを示唆します

また, エピオルニトミムスはアジアにおける最古のオルニトミムス科恐竜であり, 北半球において最も東端から見つかったカンパニアン期のオルニトミムス科恐竜です この恐竜はアジアのオルニトミムス類の進化史におけるギャップを埋め, 北米とアジアの間で二度のオルニトミムス類の交流があったことと, オルニトミムス類が乾燥した環境下にも適応していたことを示します ( 今後への期待 ) 今回発見されたエピオルニトミムスの化石は足の部分のみだったため, 詳細な系統位置の特定は困難です 今後の発掘で追加標本を発見することにより, このモンゴルでは唯一のカンパニアン期に生息していたオルニトミムスについて, 系統関係や生態に関する詳細が解明されることが期待されます 図 6. エピオルニトミムスの復元画 ( 服部雅人氏提供 ) お問い合わせ先 北海道大学総合博物館准教授小林快次 ( こばやしよしつぐ ) TEL:011-706-4730 FAX:011-706-4730 E-mail:ykobayashi@museum.hokudai.ac.jp 用語解説 *1 系統 生物の種類を分類したもの