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熱帯での積雲対流と湿度変動 熱帯対流の 3 モード 積雲 雄 積雲 積乱雲 対流活発時と不活発時とで湿度プロファイルが異なる (Johnson et al. 1999) (Brown and Zhang 1997)

湿度条件の違いによる対流雲の雲頂 度の違い Very dry period (DRY1) 雲頂温度が低い = 雲頂 度が い = 背の い積乱雲 Dry period (DRY2) Rainy period (RAINY) (Takemi et al. 2004)

相対湿度と気温減率の鉛直プロファイル DRY2 (267 ケース ) と RAINY (183 ケース ) では中 上層が湿潤 DRY1 (139 ケース ) ではかなり乾燥している RH dt/dz CAPE=1262 CAPE=2114 CAPE=663 安定度を ると 3 期間の違いは RH ほどは顕著ではない dt/dz の中層での標準偏差は 1 2 (K/km). (Takemi et al. 2004)

z(m) 数値実験 : 湿度プロファイルに対する感度 相対湿度プロファイル RAINY 実験別の凝結物質混合 の鉛直分布 DRY1 RH(%) 積雲 雄 積雲 積乱雲毎の降 の全降 量に占める割合 (Takemi et al. 2004)

インド洋熱帯海域での積雲対流の 100 m 解像度計算 数値モデル :WRF/ARW Version 3.3.1 計算領域 :4 段階ネスト (1 way), 上端 度 21 km (61 層 ) Domain 1: 4250 x 3000 km@12.5 km Domain 2: 1500 x 1500 km@2.5 km Domain 3: 300 x 300 km@500 m Domain 4: 100 x 60 km@100 m Domain 1: 51.3 E 91.7 E, 15.7 S 10.9 N Domain 2: 71.85 E 85.32 E, 11.74 S 1.65 N Domain 3: 79.08 E 81.77 E, 9.36 S 6.69 N Domain 4: 80.009 E 80.908 E, 8.282 S 7.748 S; centered at Mirai Obs. (Takemi 2015)

TKE 対流とその環境場の状態 Water vapor content Cloud water content Horizontal cross section at 4 km 00 UTC 10 Oct 2011

相対湿度と雲量 下層の湿度と中層の雲量 中層の湿度と上層の雲量 (Takemi 2015)

中緯度メソ対流系 ( スコールライン ) の発達条件 中 / 上層の湿度が同じなら 下層が湿っているほうが好都合 単純に中層のみ乾燥化すると 対流活動にはネガティブ 可降 量が多いほうが好条件 仮に可降 量が同じ条件ならば : 中層が乾燥化するとき 下層は湿っているほうが好都合 下層が乾燥化すると 中層が湿っていたとしても 好条件にはならない 乾燥した条件の場合には 対流系の持続には下層の鉛直シアーと冷気プールとの相互作 の効果がより重要となる (Takemi 2006, 2007a)

熱帯と中緯度のメソ対流系 : スコールラインの場合 熱帯 / 海洋性と中緯度 / 陸性のスコールラインの違いとは? システムの構造熱帯型 : 浅くて弱い冷気プール 弱い上昇流中緯度型 : 深くて強い冷気プール 強い上昇流浮 熱帯型 : さい浮 いLNB 中緯度型 : きい浮 低いLNB skinny 型と fat 型 (Lucas et al. 1994)

浮 プロファイルと鉛直速度 浮 鉛直速度 Mid latitude Tropics Midlatitude Midlatitude Tropics (Lucas et al. 1994) (Zipser and LeMone 1980)

スコールラインの数値実験の設定 計算領域 : 東 に めの 体領域 熱帯も対象なので上端 度も め 格 分解能 : 平 500 m 物理過程 : 雲微物理 (Goddard スキーム Tao et al.) 乱流混合 (Deardorff スキーム ) 上記以外は省略 平 様な基本場 境界条件 : 南北側 境界 : 周期条件 東 側 境界 : 放射条件 下端境界 :free slip 25 km S W E 上端境界 :no slip+rayleigh damping 層 初期擾乱 : 南北に伸びる線状の温位擾乱 (+ ランダムノイズ ) N 線状サーマル periodic シアー 300 km

気温減率に対する感度実験 :CAPE をコントロール tr 343, 348, 353, 358 静的安定度 : ( 下層 q v を調整し CAPE を固定 ) 圏界 度を安定度に係わらず 12 km と固定 速シアー : 下層 2.5 kmに5 m/sあるいは15 m/sの東 シアー 相対湿度は下層約 1.5 km 以外では同 K 中緯度型 熱帯型 (Takemi 2007b; Takemi 2010)

数値実験のリスト Tropopause temp changed PBL moisture changed CAPE fixed CAPE=1700 CAPE=1000 CAPE=2600 それぞれの CASE において強弱 2 通りのシアーを設定 (Takemi 2007b; Takemi 2010)

CAPE1700/ 弱いシアーの場合の 平断 : 度 5 km T=4 hour tr 343 C17T43 C17T48 tr 348 tr 353 C17T53 C17T58 tr 358 Contour: vertical velocity (C.I.=1 m/s) Dashed line: gust front (Takemi 2007b)

CAPE1700/ 弱いシアーの場合の上昇流 : 強さと 積 w 1 m/s の上昇速度の領域平均値 最 値および占有 積率 C17T53 C17T58 C17T43 C17T48 実線 : 平均値ダッシュ : 最 値 (Takemi 2007b)

静的安定度 : 対流不安定な層における気温減率 Tz( ) T e min z( e max ) z( e min ) z( e max ) 静的安定度への依存性 SL による平均降 強度 弱いシアー 強いシアー (Takemi 2007b)

静的安定度, 降 強度,CAPE の鉛直分布 SLによる平均降 強度 CAPEの鉛直分布 CAPE=1700 CAPE=1000 CAPE=2600 (Takemi 2007b) (Takemi 2010)

気温減率 湿度プロファイルに対する感度 スコールラインの構造や強度は 対流不安定層の気温減率に依存する きな気温減率 ( 中層が低温 ; 中緯度型 ) の場合 強い降 広域の降 となる さな気温減率 ( 中層が 温 ; 熱帯型 ) の場合 最 降 強度が強くなる 気温減率が同程度の場合 可降 量が多いほど CAPE が きいほど SL の発達に好都合 同程度の可降 量の場合 CAPE が きいプロファイルのほうが降 系の発達には好都合 同程度の CAPE の場合 可降 量が多くても降 系の発達度が いわけではない

感度実験 : 熱帯と中緯度のプロファイルの違い Exp series Temperature 相対湿度 初期擾乱 TROPICS W 熱帯型 熱帯型 サーマル TROPICS C 熱帯型 熱帯型 冷気プール MIDLATD W 中緯度型 中緯度型 乾燥 サーマル MIDLATD C 中緯度型 中緯度型 乾燥 冷気プール MIDLATM W 中緯度型 中緯度型 湿潤 サーマル TROPICSとMIDLATDとで浮 の鉛直分布 CAPEの鉛直分布が同程度になるように設定 温位 相対湿度 CAPE の鉛直分布 (Takemi 2014)

様々なシアー条件での平均降 強度と最 降 強度 平均降 強度 最 降 強度 (Takemi 2014)

様々なシアー条件での最 上昇流 (Takemi 2014)

上昇流の強さと占有 積 鉛直シアー :10 m/s / 0 5 km (Takemi 2014)

まとめ : 積雲対流と安定度 蒸気量との関係 平均降 強度 上昇速度は 気温減率が きくなるほど強くなる CAPE( 地上気塊に対する ) が同程度でも気温減率が異なる場合 = 浮 プロファイルが異なる 浮 が きい 強い上昇流 混合を受けにくい 広い上昇流域 強い系 浮 が さい 弱い上昇流 混合を受けやすい 狭い上昇流域 弱い系 気温減率が同じならば CAPE の鉛直分布の違いによって降 特性が決まる CAPE の鉛直分布が同程度ならば 気温減率が きいほうが強い系 強い降 が発達する 湿潤環境ならば 初期擾乱に対する感度は顕著ではなくなる

今後 より現実的な問題設定による数値実験 変化陸上 vs 海上 平 向の不均 性外的強制 規模場の擾乱地形超 解像度実験 Large eddy simulation