日印原子力協定と 1 インドへの原発輸出 1.31.2017 松久保肇 (NPO 法人原子力資料情報室研究員 )
2 2016 年 11 月 11 日 日印政府は原子力協力協定に調印 今国会において協定の審議が行われる見込み 日印原子力協力協定は多くの問題を有する 特に重要と思われるのは 本協定が 現状を追認する形で形成されているという点 現状追認 1: インドがNPT CTBTに加盟しない核兵器保有国であること 現状追認 2: 使用済み燃料の再処理とウランの濃縮 現状追認 3:IAEA 保障措置への依存 現状追認 4: 協力停止の無意味性
3 Q. 協定が締結されたらどうなる?
4 A. インドで多くの輸入原発建設計画が 進むことが予想される
5 これまでインドの輸入原発建設計画が進まなかった理由 : 1 インド原賠法 ( 原子力事故時に損害を原発メーカーに求償 ) 2 保障措置スキームが不明確 3 日本製原子力資機材が輸入できない 原発向け大型鍛鋼品での世界シェアは日本製鋼所が 80% 東芝子会社のウェスティングハウスは原子燃料製造もおこなっており 米 GNF-A を保有する Global Nuclear Fuel(GNF) は GE 日立 東芝の合弁
6 インドの輸入原発計画 コバーダ :WEC AP1000*6 当初 GE 日立が建設する予定だったが 同社は原賠法が修正されないかぎり輸出しないとし 東芝子会社の WEC に再割当て ミティビルディ :WEC AP1000*6 地元住民の反対運動により 計画停止中 ジャイタプール :AREVA EPR*6 ( 日本製鋼所製原子炉圧力容器?) クダンクラム :Rosatom VVER1000*6
7 A. インドの核兵器国としての地位が向 上する
8 現状 : インドは NPT に加盟しない核兵器保有国 核軍縮も核不拡散の義務も負わない NPT 加盟国は 核軍縮 核不拡散の義務と原子力平和利用の権利を持つ インドの核兵器国としての地位向上 被爆国日本の承認によるインドの核兵器国として地位の向上 1974 年の核実験後成立した原子力供給国グループへのインド参加の後押し 2015 年 NPT 運用検討会議が合意を見ず 核兵器禁止条約交渉開始決議で 核兵器禁止を求める国と核兵器に依存する国の亀裂が大きくなった状況で締結することの意味
現状追認 1: 9 インドが NPT CTBT に加盟しない核兵器保有 国であること
10 仮にインドが核実験を行った場合には 日本からの協力を停止します この協定は 原子力の平和利用についてインドが責任ある行動をとることを確保するものであり このことは インドを国際的な不拡散体制に実質的に参加させることにつながります これは 核兵器のない世界を目指し 不拡散を推進する日本の立場に合致するものであります 安倍晋三首相 2016 年 1 月 6 日衆議院本会議にて
11 日印原子力協力協定 14 条協力の停止終了 非核兵器国との原子力協力協定では 核爆発装置を爆発させる場合 協力を停止 終了させる権利がある旨を明記 核兵器国との原子力協力協定では 日本が核爆発装置を爆発させる場合 協力を停止する ( 日米 日露 ) / 核爆発の記載がないもの ( 日英 日仏 日中 ) がある 日印原子力協力協定では 移転核物質等の軍事転用禁止規定はあるが 核爆発の記載無し 核兵器国並みの記載 協力を満期前に停止する場合は 安全保障上の環境変化への重大な懸念 もしくは他国の同様の行為に対する対応かを考慮 (14 条 2) することが求められる 米印原子力協力協定でも同様の記載 これは何を意味しているのか?
12 見解及び了解に関する公文と 9 月 5 日の声明 日 日印原子力協力協定と同時に調印した両国の見解の記録 2008 年 9 月 5 日声明が原子力協力の基礎 基礎に変更があった場合は協定を停止する権利があるという認識 声明の違反の場合 再処理は停止 インド核実験後 国際的な原子力協力から除外してきた原子力供給国グループが インドを例外化する際にインドが出した声明 自発的かつ一方的な核実験に関するモラトリアム 核軍備競争を含むいかなる軍備競争への不参加 核兵器の先制不使用 印 9 月 5 日声明を再確認 などが記載 パキスタン核実験時 対抗的にインドが核実験を行う時 それは自発的なものか 安全保障上の重大な懸念に対応するものか?
13 核軍備競争を含むいかなる軍備競争への不参加? インドのプルトニウム 高濃縮ウラン 核弾頭数保有量 Global 軍事用プルトニ 追加的戦略備 民生用プル 高濃縮ウラ 核弾頭数 参考 : パキス Fissile ウム ( トン ) 蓄プルトニウ トニウム ( ト ン ( トン ) タンの核弾 Material ム ( トン ) ン ) 頭数 report 2007 年版 0.7 6.8 0.2 40-50 <50 2015 年版 0.4 5.1 0.59 3.2 110 120 120-130
現状追認 2 14 使用済み燃料の再処理とウラン濃縮の容認
15 日印原子力協力協定で再処理が問題になる理由 協力の停止後 輸出国には返還要求権がある (14 条 4 項 ) 原子炉圧力容器や蒸気発生器などの原発向け大型鍛鋼品 : 日本製鋼所が世界シェア 80% 燃料製造 : 米ウェスティングハウスは東芝子会社 米 GNF も GE 日立 東芝の合弁会社
16 なぜ現状追認か? 何が問題か? 日本政府は インドはすでに使用済み燃料の再処理やウラン濃縮を実施しているから認めるという プルトニウムや濃縮ウランは核兵器の原材料 かつてインドは低品質 低産出の国産ウランを軍事 民生に配分 インドは輸入した核物質や技術は民生用にのみ使用 しかし かつて軍事 民生に分けなければならなかった国産ウランはすべて軍事用に振り分け可能に 日本が再処理や濃縮を容認することは 核物質の増産 ひいては 核軍拡競争において一方だけに肩入れすることになる
17 さらなる現状追認 2 つの新規再処理施設と それ以上の再処理施設の建設を認める 2 つの新規施設とは 場所は不明だが Kovvada と Mithi Virdi で原発に隣接して建設といわれる が Mithi Virdi の原発建設計画は凍結中 計画が策定された時点で実質的な審査を行うべき 少なくとも 米印協定同様 代表団によるコンサルテーション訪問を 施設追加及び 数年に一度程度はおこなえるようにするべき
現状追認 3 18 IAEA 保障措置への依存
19 IAEA 保障措置 インドの IAEA 追加議定書 (INFCIRC754) It does not even go as far as the AP s for Russia and China, the weakest among NWS( この追加議定書はロシアや中国のものにも及ばない 核兵器国の中で最も弱いものだ ) Gregory L. Schulte 米 IAEA 大使 ( 当時 )2009 年 2 月 27 日付公電 (Wikileaks より ) 他国との原子力協力協定でも IAEA 保障措置は協力の前提となっているが インドの場合は 民生用施設への選択的適用であり 転用リスクも他の締結国とは比較にならない IAEA 保障措置に依存した軍事転用の制約は不十分
20 計量制度 協定の対象となる核物質量の情報はすべてインドが IAEA に報告する情報であり それ以上の追加情報はない しかし IAEA 保障措置では 施設ごとの核物質しか確認されず 国別の協定対象核物質の量は報告されない (5 条 2) どのようにして日本は協定対象の核物質量を検証するのか 他の協定では 協定の適用を受ける核物質 資材 設備及び施設の最新の在庫目録を一年単位で交換する ( 日中原子力協力協定より ) 核兵器国の中国も合意した情報をインド側が提示できない理由は何か
現状追認 4 21 協力停止の無意味性
22 輸出した核物質等は回収できるか? そのあとは? 設備 は回収できるか? 原子炉や原子炉容器など 原発を解体がなければ取り出せない設備が多く存在 日本政府は原発の解体を要求できるのか? 設備 をどう処分するのか? 浜岡 1/2 号機の場合 解体廃棄物総量 :52 万トン 設備 を国内で処分できるか?
23 輸出した核物質等は回収できるか? 回収できたとしてそのあとは? 使用済み燃料は取り出し後 数年は冷却が必要 返ってこないリスクはないのか? 6 基の AP1000 が 12 年間稼働後 協力停止された場合 使用済み燃料は 157 体 *6 基 *(12 年 /3 年 ) 約 3,800 体 日本に置き場はあるのか? 電力会社に受け入れる義務はあるのか? 使用済み燃料が再処理していた場合 プルトニウムが分離されている 分離プルトニウムは日本が引き受けるのか? どうやって輸送するのか?
24 まとめ 現状追認では 核兵器廃絶は達成できない 唯一の戦争被爆国として, 核兵器のない世界 の実現に向け, 国際社会による核軍縮 不拡散の議論を主導してき た日本が NPT CTBT に加盟しない核兵器保有国インドと原子力協力を行うことの意味 福島第一原発事故を引き起こした日本が 安全 な原発を輸出することの意味