平成 29 年 7 月 10 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長岡田清 超イオン導電特性を示す安価かつ汎用的な固体電解質材料を発見 - 全固体リチウムイオン電池の実用化を加速 - 要点 [ 用語 液体の電解質に匹敵するイオン伝導率 1] 11 mscm -1 を持つ新たな固体電解質材

Similar documents
平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

平成 26 年 8 月 25 日 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学金属材料研究所 科学技術振興機構 ( JST) 全固体リチウム 硫黄電池の開発に成功 - 錯体水素化物 を利用した高エネルギー密度型全固体電池の設計指針を開拓 - 東北大学原子分子材料科学高等研究機構の宇根

特許マップ ( 二次電池分野 ) 技術の全体概要携帯電話やノートパソコンなどのモバイル機器には 高性能蓄電池が使用されるようになり 現在では 電気容量 電気エネルギー密度の最も大きい リチウムイオン二次電池 (LIB) が広く使用されるようになっている リチウムイオン電池は主に正極 (+ 極 ) 電

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.doc

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

平成 28 年 6 月 3 日 報道機関各位 東京工業大学広報センター長 岡田 清 カラー画像と近赤外線画像を同時に撮影可能なイメージングシステムを開発 - 次世代画像センシングに向けオリンパスと共同開発 - 要点 可視光と近赤外光を同時に撮像可能な撮像素子の開発 撮像データをリアルタイムで処理する

sample リチウムイオン電池の 電気化学測定の基礎と測定 解析事例 右京良雄著 本書の購入は 下記 URL よりお願い致します 情報機構 sample

リチウムイオン電池用シリコン電極の1粒子の充電による膨張の観察に成功

Microsoft Word -

PRESS RELEASE (2013/7/24) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

平成 28 年 12 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院工学研究科 マンガンケイ化物系熱電変換材料で従来比約 2 倍の出力因子を実現 300~700 の未利用熱エネルギー有効利用に期待 概要 東北大学大学院工学研究科の宮﨑讓 ( 応用物理学専攻教授 ) 濱田陽紀 ( 同専攻博士前期

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

Gifu University Faculty of Engineering

A4パンフ

世界初! 次世代電池内部のリチウムイオンの動きを充放電中に可視化 ~ 次世代電池の実用化に向けて大きく前進 ~ 名古屋大学 パナソニック株式会社 ( 以下 パナソニック ) および一般財団法人ファインセラミックスセンター ( 以下 ファインセラミックスセンター ) は共同で 走査型透過電子顕微鏡 (

Microsoft PowerPoint - 数学教室2.pptx

JST ALCA-SPRINGおよび物質・材料研究機構における次世代蓄電池研究

基本計画

Microsoft Word - 01.docx

<4D F736F F F696E74202D208D F8E9F90A291E3838A F18E9F CC8CA48B868A4A94AD93AE8CFC82C682BB82EA82E782F08E7882A682E997B18E7189C18D488B5A8F702E >

Microsoft Word - basic_15.doc

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

Microsoft Word - 01.doc

Microsoft PowerPoint - 上田_111202講演資料.pptx

新技術説明会 様式例

Microsoft Word - プレリリース参考資料_ver8青柳(最終版)

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により


1 2

「セメントを金属に変身させることに成功」

京都大学博士 ( 工学 ) 氏名宮口克一 論文題目 塩素固定化材を用いた断面修復材と犠牲陽極材を併用した断面修復工法の鉄筋防食性能に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 塩害を受けたコンクリート構造物の対策として一般的な対策のひとつである, 断面修復工法を検討の対象とし, その耐久性をより

本研究成果は 2016 年 8 月 26 日付の Nature Energy 電子版に掲載される なお 本研究は日 本学術振興会科学研究費補助金特別推進研究 (No. 15H05701) による支援を受けて行われた 4. 発表内容 : 研究の背景 電気を蓄え 必要な時に取り出すことのできる蓄電池は

記者発表資料


報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

電子配置と価電子 P H 2He 第 4 回化学概論 3Li 4Be 5B 6C 7N 8O 9F 10Ne 周期表と元素イオン 11Na 12Mg 13Al 14Si 15P 16S 17Cl 18Ar 価電子数 陽


平成26年度 学生要覧

(2) 産業 市場の動向 a. 蓄電池の産業 市場の動向 2016 年の蓄電池の世界市場規模は約 7.9 兆円である 今後 民生用 車載用 電力貯蔵用等の各用途でプラス成長が予想され 2025 年には約 14 兆円に成長するとの予測がある 民生用の小型リチウムイオン電池については 市場規模が数千億円

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

FBテクニカルニュース No. 70号

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

_先端融合開発専攻_観音0314PDF用

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

本システムでは Web アプリケーションベー スでシステムを構築することにより PC でも携 帯機器でも場所を問わず利用できるようにする ユーザはブラウザのフォーム上で連絡先情報等 の交換を行う 将来的には携帯電話の Felica な どを使って相互の名刺情報交換が無線で短時間 に簡単にできるように

02.indd

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

< 用語解説 > *1 ソーシャルネットワーキングサービス (SNS) インターネット上の交流を通して社会的ネットワークを構築するサービス全般を指す 代表的な SNS として Twitter mixi GREE Mobage Ameba Facebook Google+ Myspace Linked

fl™‹ä1.eps

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

53nenkaiTemplate

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

表紙1

2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

記 者 発 表(予 定)

<4D F736F F F696E74202D208BE091AE8A7789EF F FAC924A816A95CF8D58>

Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students A Dissertation Submitted t

Microsoft PowerPoint 唐修正提出ーJST新技術説明会.pptx

Microsoft Word - TC-AISTプレスリリース2011_掲示用_

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発


研究報告58巻通し.indd

サーマルプリントヘッド

スライド 1

The Plasma Boundary of Magnetic Fusion Devices

科学技術1月号表1.indd

度な安全性の確保の両立が可能となる 加えて 格段の長寿命化の可能性も示されており 電気自動車やスマートグリッド用途に向けて実用に耐え得る新型二次電池開発が加速される 本研究成果は 2017 年 11 月 27 日付の英国学術雑誌 Nature Energy 電子版に掲載される なお 本研究の一部は

澤田 世界のリチウム資源開発の動向 3 軽くて高出力で かつ充電が可能な為 1993 年に量産が 産されている 6 また 一部の用途では鉱石由来のリチウ 始まって以降 携帯電話やノートパソコンなどの携帯機器 ム精鉱がそのまま使われることもある しかし 多くの化 に使われてきた これが 冒頭で述べたよ

「世界初、高出力半導体レーザーを8分の1の狭スペクトル幅で発振に成功」

FANUC i Series CNC/SERVO

2014 年電子情報通信学会総合大会ネットワークシステム B DNS ラウンドロビンと OpenFlow スイッチを用いた省電力法 Electric Power Reduc8on by DNS round- robin with OpenFlow switches 池田賢斗, 後藤滋樹

2014 年度大学入試センター試験解説 化学 Ⅰ 第 1 問物質の構成 1 問 1 a 1 g に含まれる分子 ( 分子量 M) の数は, アボガドロ定数を N A /mol とすると M N A 個 と表すことができる よって, 分子量 M が最も小さい分子の分子数が最も多い 分 子量は, 1 H

LCR標準の遠隔校正(e-trace)実証実験

<4D F736F F D20838D815B D F090E0505F8CF68A4A94C55F2E646F63>

今後の展開 開発したバーチャルテスト手法により 強度のばらつきのみならず これまで設計者を悩ませてきたサイズ依存性の評価も併せて可能となる 更に本手法は 自己治癒セラミックスや長繊維強化セラミックス複合材の設計にも活用できるため 先進セラミックスの設計および耐熱部材への実用化までの期間を大幅に短縮で

Microsoft Word _#36SES-proceedings_shimada.docx

スライド 1

J-STAGE 記事登載時の入力データのチェック強化について

八戸工大ドリームゲート16p.indd

<4D F736F F F696E74202D A E90B6979D89C8816B91E63195AA96EC816C82DC82C682DF8D758DC03189BB8A7795CF89BB82C68CB48E AA8E E9197BF2E >

<4D F736F F F696E74202D2094BC93B191CC82CC D B322E >

e - カーボンブラック Pt 触媒 プロトン導電膜 H 2 厚さ = 数 10μm H + O 2 H 2 O 拡散層 触媒層 高分子 電解質 触媒層 拡散層 マイクロポーラス層 マイクロポーラス層 ガス拡散電極バイポーラープレート ガス拡散電極バイポーラープレート 1 1~ 50nm 0.1~1

POCO 社の EDM グラファイト電極材料は 長年の技術と実績があり成形性や被加工性が良好で その構造ならびに物性の制御が比較的に容易であることから 今後ますます需要が伸びる材料です POCO 社では あらゆる工業製品に対応するため 各種の電極材料を多数用意しました EDM-1 EDM-3 EDM

FB テクニカルニュース No. 67 号( )

untitled

指導計画 評価の具体例 単元の目標 単元 1 化学変化とイオン 化学変化についての観察, 実験を通して, 水溶液の電気伝導性や中和反応について理解するとともに, これらの事物 現象をイオンのモデルと関連づけて見る見方や考え方を養い, 物質や化学変化に対する興味 関心を高め, 身のまわりの物質や事象を

ドイツで大規模ハイブリッド蓄電池システム実証事業を開始へ

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

平成 3 0 年 9 月 6 日 科学技術振興機構 (JST) 大阪大学 2 段階の熱処理で高品質のビスマス系薄膜 ~ 光応答性能を向上 次世代太陽電池開発に期待 ~ ポイント 光電変換素子の材料探索は それぞれの材料に最適な成膜プロセスの開発と同時に進める必要があり 1 つの材料でも数年を要してい

スライド 0

RGR22737_6150.pdf

発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

日本における燃料電池の開発 Fuel Cell RD & D in Japan 2017 since 1986 一般社団法人 燃料電池開発情報センター Fuel Cell Development Information Center

CERT化学2013前期_問題

Microsoft Word - 【6.5.4】特許スコア情報の活用

鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

Transcription:

平成 29 年 7 月 10 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長岡田清 超イオン導電特性を示す安価かつ汎用的な固体電解質材料を発見 - 全固体リチウムイオン電池の実用化を加速 - 要点 [ 用語 液体の電解質に匹敵するイオン伝導率 1] 11 mscm -1 を持つ新たな固体電解質材料を発見 高価なゲルマニウムを使う既発見の固体電解質に比べ 安価かつ汎用的なスズとケイ素を組み合わせて組成 [ 用語 様々な用途に応じた全固体リチウムイオン電池開発 2] の選択肢が広がり実用化を加速 概要 東京工業大学物質理工学院応用化学系の菅野了次教授らの研究グループは 全固体リチウムイオン電池 ( 以下 全固体電池 ) の実用化を加速させる新たな固体電解質を発見した 菅野グループでは 2011 年にイオン伝導率が高い固体電解質である LGPS [ 用語物質系 3] を発見し 2016 年にはその派生の固体電解質材料を発見している しかし これらは高価な元素であるゲルマニウム (Ge) を用いたり 塩素 (Cl) などを用いた特異な組成に限られており 電気化学的な不安定性も課題であった 新電解質は スズ (Sn) やケイ素 (Si) という単独では十分な性能を発揮できない元素を組み合わせて組成し 液体の電解質に匹敵する 11 mscm -1 [ 用語を持つイオン伝導率を示す超イオン伝導体 4] である 新電解質の発見に際しては 擬似三成分系と呼ばれる手法で材料探索を行うことにより 十分な性能を持つ電解質の開発が可能であり その組み合わせによって既存材料の課題を解決するさらなる電解質の発見もあり得ることを提示した 全固体電池のキーテクノロジーとなる固体電解質の物質群の多様性を拡大することで 全固体電池設計の幅も大きく広がり 実用化が加速すると期待される これらの成果は 米国科学誌 Chemistry of Materials に 2017 年 7 月 10 日掲載されます

背景電気自動車やスマートフォンなどを駆動するリチウムイオン電池の電解質には液体が使われており容量 コスト 安全性などが課題となっている このため 固体の電解質を開発し 高容量かつ高出力で安全性に優れた全固体型リチウムイオン電池を実現することが急務である 固体の電解質は液体の電解質に比べて電気の伝導率 ( イオン伝導率 ) が低く その結果 固体電池は液系電池と比べて出力が低いことが課題とされていた 2011 年に発見された固体電解質 Li 10 GeP 2 S 12 (LGPS=リチウム ゲルマニウム リン 硫黄 ) はイオン伝導率 12 mscm -1 と液体電解質に匹敵する伝導率を示し 2016 年に発見した LiSiPSCl( リチウム ケイ素 リン 硫黄 塩素 ) はイオン伝導率 25 mscm -1 を示す超イオン伝導体である しかし これらの固体電解質は レアメタルであるゲルマニウムが必要であったり 特異な組成が必要であり 4 種類の材料のみに限られていた また 電気的安定性にも課題があり 固体電解質のさらなる開拓により材料の多様性を確保する必要があった 研究成果本研究ではLGPS 系物質においてゲルマニウム系を凌駕するイオン伝導率の実現を目指した スズ (Sn) およびケイ素 (Si) を組成し それぞれ単独では達成出来なかった11 m Scm -1 を持つイオン伝導率を示す超イオン伝導体 Li-Sn-Si-P-S(LSSPS): Li 10.35 [Sn 0.27 Si 1.08 ]P 1.65 S 12 (Li 3.45 [Sn 0.09 Si 0.36 ]P 0.55 S 4 ) を発見した 今回の超イオン伝導体の長所は 合成しやすく 熱安定性が高い点である また 大気下での安定性が高いこと 柔らかく 加工しやすいこと 電気化学的な安定性が高いことなどの長所を備えている さらに スズとケイ素を組み合わせることで 広いLGPS 相生成組成域を実現したため 新たな材料の発見も期待できる すなわち 合成過程で組成がずれても安定して超イオン伝導体であるLGPS 型固体電解質ができるので 品質のばらつきが生じにくい 組成のチューニングが可能で 今後 全固体電池の様々な用途の拡大とともに明らかになる様々な固体電解質の要求性能に対応しやすい といった特徴がある このように スズ ケイ素の系は超イオン導電特性を示す新しい固体電解質として有望である また Li 3 PS 4 -Li 4 SiS 4 - Li 4 SnS 4 擬似三成分系で材料探索を行い 今後とも優れた固体電解質材料の種類を拡大できる

( 参考図表 ) ( 図表の解説 ) Li 3 PS 4 -Li 4 SnS 4 -Li 4 SiS 4 擬似三成分相図中で新規材料探索を行い Li10GeP 2 S 12 (LGPS) 型の生成領域が明らかになった Sn 系 Si 系と比べて広い組成範囲でLGPS 型相が形成し 組成最適化により 11m Scm -1 のイオン伝導率を示す新材料が見出された 高価なGe 含有系 Li-Si-P-S-Clの特異的な組成に加えて 安価なSn-Siからなる新しい超イオン導電体は 全固体リチウム電池の実現に向けた有力な電解質材料の候補として期待できる 研究の経緯同研究グループは 全固体電池が 既存のリチウム電池に比較して 優れた特性を有することを示すため 優れた特性をもつ固体電解質を探し 電解質と電極材料の組み合わせを最適化することで全固体電池の高出力特性等を実証してきた 今回 超イオン伝導体として高いイオン伝導率を期待できる硫黄物系で さらに新規物質の探索を行った結果 スズ ケイ素を含む固溶体からなる高性能の固体電解質を見出した 今後の展開本研究で得た Li-Sn-Si-P-S 系の LGPS 物質群は安価な構成元素からなる新材料で 固溶域も広く 最大で 10 mscm -1 を超える超イオン導電性能を示す これにより 高価な Ge 系や 緻密な組成制御が必要な Li-Si-P-S-Cl 系から 超イオン導電体の多様性を大きく広げた 四価カチオンの組み合わせにより 固溶領域が広がり イオン伝導率も向上することは 組み合わせの最適化により既存の LGPS 材料に含まれる元素を用いた開発の余地が充分に残されていることを提示している また Sn 系硫化物は大気安定性に優

れると言う報告もあり LGPS 材料の不安定性を解決するような材料設計が提案できる可能性がある 元素組み合わせや 組成比の最適化にはマテリアルズインフォマティクス [ 用語 5] によるアプローチも適しており 全く新しい材料発見にいたる可能性もある 本研究は 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) の先端的低酸素化技術開発事業 (ALCA) の ALCA 次世代蓄電池 (ALCA-SPRING:ALCA-Specially Promoted Research for Innovative Next Generation Batteries) の一環として 実施されたものである 論文情報雑誌名 :Chemistry of Materials 論文名 :Superionic Conductors: Li 10+δ [Sn y Si 1 y ] 1+δ P 2 δ S 12 with a Li 10 GeP 2 S 12 -type Structure in the Li 3 PS 4 -Li 4 SnS 4 -Li 4 SiS 4 Quasi-ternary System 著者名 :Yulong Sun, a Kota Suzuki, a, b Satoshi Hori, b Masaaki Hirayama, a, b and Ryoji Kanno a, b, * 所属 : a Department of Electronic Chemistry, Interdisciplinary Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta, Midori-ku, Yokohama 226-8502, Japan b Department of Chemical Science and Engineering, School of Materials and Chemical Technology, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta, Midori-ku, Yokohama 226-8502, Japan DOI: http://dx.doi.org/10.1021/acs.chemmater.7b00886 用語説明 [ 用語 1] イオン伝導率 :10 ms cm -1 (1 センチメートル当たり 10 ミリジーメンス ジーメンスは抵抗の単位 Ωの逆数で 電流の流れやすさを示す 現在のリチウムイオン電池の液体電解質のイオン伝導率は 10m Scm -1 程度 [ 用語 2] 全固体型リチウムイオン電池 : 電池の構成部材である正極 電解質 負極をすべて固体で構成した電池 [ 用語 3] LGPS 物質系 : リチウム ゲルマニウム リン 硫黄で構成される材料 Li 10 GeP 2 S 12 は 12 mscm -1 程度のイオン伝導率 これから派生して 硫化物系の物質として LiSiPSCl は 25mS cm -1 のイオン伝導率

[ 用語 4] 超イオン伝導体 : 固体中をイオンがあたかも液体のように動き回る物質 銀 銅イオン伝導体では 0.5 Scm-1 程度 リチウムイオン伝導体では 1 ms cm -1 程度の値が最高のイオン伝導率とされてきた 特に 高エネルギー密度電池として期待されているリチウム超イオン伝導体で イオン伝導率と安定性を兼ね備えた物質の開発が望まれていた ポリマー 無機結晶 無機非晶質などの様々な分野で物質開拓が行われており その開発は 1960 年代から始まり 現在も引き続き行われている [ 用語 5] マテリアルズ インフォマティクス : 計算科学 データ科学 合成 評価実験及びこれらの連携手法により膨大な数の物質の評価を行い その結果に基づいて新物質や新機能を開拓することを目指したアプローチの総称 問い合わせ先 東京工業大学物質理工学院応用化学系菅野了次教授 TEL: 045-924-5401 FAX: 045-924-5401 E-mail: kanno@echem.titech.ac.jp 取材に関するお問合せ 東京工業大学広報 社会連携本部広報 地域連携部門 TEL:03-5734-2975 FAX:03-5734-3661 E-mail:media@jim.titech.ac.jp