Bulletin of Aichi Univ. of Education, 66(Natural Sciences), pp. 45-49, March, 2017 星博幸 理科教育講座 ( 地球科学 ) Paleomagnetic Data from the Lower Kameyama Formation of the Tokai Group in Tsu City, Mie Prefecture, Japan Hiroyuki HOSHI Department of Science Education (Geology), Aichi University of Education, Kariya 448-8542, Japan Abstract This paper presents new paleomagnetic data from the lower Kameyama Formation of the Tokai Group. Oriented cores of silt and fine tuff were collected at four stratigraphic sites that are located in a stratigraphic section between the Otani-ike and Haradagawa volcanic ash beds. Analysis of stepwise demagnetization results revealed normal-polarity paleomagnetic directions for three sites and a reverse-polarity direction for one site. I conclude that the stratigraphic section between the two ash beds was deposited during Chron C2An (Gauss Chron: 3.596 2.581 Ma). A possible marine invasion event just before the deposition of the Otani-ike volcanic ash bed (Mori et al., Diatom, 30, 75 85, 2014) occurred during Chron C2An.3n (3.596 3.330 Ma). 1. はじめに伊勢湾周辺に分布する東海層群には, 後期中新世以降 ( 主に鮮新世 ~ 更新世 ) の古環境と古生物の変遷に関する地質学的情報が記録されている 三重県津市とその周辺に分布する東海層群亀山層については近年, ゾウ足跡化石調査 ( 亀山市史編さん自然部会地質グループ編, 2009; 三重県立博物館編, 2010, 2013) や三重県総合博物館建設 ( 三重県立博物館 新博物館整備推進室編, 2011; 中川編, 2014) などに関連して地質学的 古生物学的調査が精力的に行われた 筆者もそうした調査に携わり, 主に古地磁気学的手法による地層の年代決定を行ってきた ( 星, 2010, 2013, 2016; 星ほか, 2013, 2014, 2015) 小論で筆者は, 三重県総合博物館建設地で発見された化石密集層 ( 中川編, 2014) とその層序的上下の地層の年代を明らかにするために行った古地磁気調査の結果を報告する 博物館建設地の化石密集層の古地磁気年代については既に報告したので ( 星, 2016), ここでは建設地以外の地点から得られた亀山層下部の古地磁気データを報告する 今回得られたデータ ( 特に古地磁気極性 ) は基本的に中山 吉川 (1990) および Nakayama et al.(1995) が示した東海層群の古地磁気層 序と整合的であり, 従来の年代解釈に大きな変更を求めるものではない そのため小論はデータ記載を中心とし, 若干の考察を加えるものとする 2. 試料と方法今回の調査では4 地点から堆積岩試料を採取した 試料採取地点を図 1に示す 地点 A1, A2 この2 地点 ( 図 1a) は同一露頭にあるが, そのなかの2 層準から試料を採取したため2 地点として扱う この露頭は三重県庁本庁舎から約 50 m 北側の県庁北駐車場進入路の切り通りにあり, 森ほか (2014) が海生珪藻化石の産出を報告した露頭である 東海層群からは中新世の海生珪藻化石が誘導化石 ( 二次化石 ) として産出することはあるが ( 木村 原, 1988), この露頭から産出した海生珪藻化石は誘導化石ではなく, 東海層群の堆積場 ( 主に河川や湿地, 湖沼 ) に何らかの原因で海水が流入したことを示唆すると解釈されている ( 森ほか, 2014) そうした興味深い露頭であるため, 森勇一氏から古地磁気極性を調べてほしいという要請を受けて今回調査した 図 2 に示すように, この露頭の地層の層準は大谷池火山灰層の約 4 ~ 5 m 下位である ( 森ほか, 2014) 地層は砂とシルト 45
星 博幸 図 1 調査地の位置 試料を採取した各地点 A1, A2, B, C の緯度 経度は表 1 を参照 国土地理院 電子国土 Web からダ ウンロードした地図を使用 図2 亀山層下部の柱状図 森ほか, 2014 の Fig. 2 に加筆 地点 A2 は森ほか 2014 の KOT-4 と同一層準 46
の互層からなる 地点 A1 はやや粘土化した黄灰色シルト, 地点 A2 は細かな炭質物を含む濃茶色シルトからなり, これらの層位間隔は約 1.8 mである 地層はほ ぼ東西の走向を示し, 北に 6 で傾斜している 地点 B かわげ この地点は津市河芸町北黒田集落の北西約 1 kmに位置し,1955 年にミエゾウ (Stegodon miensis) の頭骨の一部や下顎骨, 大腿骨の一部などがまとまって発見された露頭である ( 角田, 1982) その化石産出層準の約 3 m 上位から試料を採取した 採取層準の岩相は塊状無層理の灰茶色砂質シルトである 吉田 (1987) によると, この露頭の層準は野村火山灰層の約 40 m 上位である ( 図 2) 露頭で層理面が認められず走向 傾斜を測定できなかったが, 吉田 (1987) の地質図からはこの露頭付近の地層がNW 走向で北東に4 前後で傾斜していることが読み取れる 地点 C この地点は津市河芸町北黒田集落の南約 400 mに位置し, 厚さ約 20 cmの野村火山灰層 ( 図 2) とその上下のシルトが見られる露頭である この露頭の野村火山灰層は乳白色ガラス質細粒凝灰岩からなり, 下半部は塊状で, 上半部には平行ラミナが発達している 試料は下半部から採取した 火山灰層の走向 傾斜は N62 W, 2 Nである 試料採取では, 露頭表面の風化部をつるはしで除去した後, 充電式ドリルを用いて直径 25 mmの岩石コアを 1 地点につき 4 ~ 6 本採取した コアの定方位付けには磁気コンパスを用いた 定方位付けの精度を高めるために, 長さ5 cm 以上 ( 多くの場合 10 cm 以上 ) のコア抜きを行った コアを愛知教育大学の実験室に持ち帰り, 岩石カッターを用いて高さ22 mm の円筒状試料を切り出した 残留磁化測定では, まず各地点で任意に選んだ1 個の試料について自然残留磁化 (NRM; natural remanent magnetization) を測定し, その後段階交流消磁法による消磁実験を行った 残留磁化測定には愛知教育大学古地磁気実験室に設置されている夏原技研スピナー磁力計 (ASPIN) を, 交流消磁には夏原技研 DEM-95Cと Schonstedt GSD-5 を組み合わせたタンブラー型装置をそれぞれ使用した 段階交流消磁は10 ステップで最高 100 mtまで行った 消磁結果を直交投影図 (Zijderveld, 1967) と等積投影図にプロットし, 残留磁化方位を決定できそうかどうか検討した すべての地点で方位を決定可能と判断できたため, 残りの試料に対しても段階交流消磁を適用した 測定終了後, 消磁データの主成分解析 (Kirschvink, 1980) を行い, 直交投影図上で原点に向かう固有残留磁化 (ChRM; characteristic remanent magnetization) 成分の分離とその方位決定を試みた その際,maximum angular deviation(mad; Kirschvink, 1980) が15 未満の結果を採用した このようにして得られた試料の ChRM 方位を用いて各地点の残留磁化方位を決定した 3. 結果と考察 各地点の代表的な段階交流消磁結果を図 3 に示す ほとんどの試料に小さな二次磁化成分が付着してい たが, それらは 10 mt 以下で完全に消磁された すべ ての地点で ChRM が認定された 地点 A1 と A2 の残留 磁化は段階交流消磁に対してほぼ同様の挙動を示し, 70 mt または 80 mt の消磁で NRM の 10% 以下に減衰 した 両地点とも ChRM は正極性であった 地点 B の 磁化の挙動は地点 A1, A2 に比べやや不安定で,80 mt 消磁後でも NRM の 20% 程度の磁化が残った この地 点の ChRM も正極性であった 一方, 地点 C では逆極 性の ChRM が認められた この地点の試料は 100 mt 消磁後でも NRM の 30% 程度の磁化が残り, 保磁力の やや高い強磁性鉱物によって磁化が担われていると考 えられる 試料の ChRM 方位を使って求めた各地点の平均磁化 方位を表 1 に示す すべての地点で 95% 信頼限界 (α 95 ) が 10 以下, 集中度パラメーター (k) が 100 程度かそ れ以上の, 精度の高い平均方位が決定された 方位の 傾動補正には表 1 の脚注に記載した走向 傾斜を用い た 傾動補正後の方位を図 4 に示す 地点 A1, A2, B で は類似した方位が決定された これらの正極性方位は ほぼ北向きで, 伏角が地心軸双極子磁場の値 ( 調査地 図 3 各地点の代表的な段階交流消磁結果 ( 直交投影図 ) a) 地点 A1;b) 地点 A2;c) 地点 B;d) 地点 C は 残留磁化ベクトルの水平面投影で, 横軸 N S, 縦軸 E W は鉛直面投影で, 横軸 N S, 縦軸 Up Down 印の数字はピーク磁場強度 ( 単位 mt) カッコ内の 数値は自然残留磁化強度 (10 8 Am 2 ) 47
星博幸 表 1 古地磁気データ 図 4 傾動補正後の地点平均磁化方位 方位のまわりの楕円は 95% 信頼限界 ( 半径 α 95 ) 域の緯度では54.2 ) よりも15 程度浅い 層準が異なるのに類似した方位が得られたことは, これら3 地点の方位がいずれも地磁気永年変化をある程度平均化したものであることを示唆する 伏角が浅いのは堆積物の圧密に伴う伏角浅化 (inclination shallowing) が起こったためと推察される 地点 C の逆極性方位は偏角が約 200 で, 伏角 (-52.3 ) は逆磁極期の地心軸双極子磁場 (-54.2 ) の値と統計的に区別できない 偏角が南からやや西に偏向しているのは地磁気方位の永年変化の影響と考えられる シルトの3 地点と異なり地点 C の方位が地磁気永年変化の影響を受けているのは, 火山灰の堆積速度がシルトよりも桁違いに大きかったためと考えられる 亀山層下部の古地磁気極性を層序的に見てみよう 図 5 には大谷池火山灰層から原田川火山灰層までの柱状図 ( 吉田, 1990 の第 5 図に基づく ) を示し, 今回決定された古地磁気極性と先行研究 ( 中山 吉川, 1990; 星, 2016) によって報告された極性も示してある このなかで極性が決定された最も下位の層準は今回測定した 地点 A2 で正極性, その上位の地点 A1 も正極性である ( 図 5 ではA1 と A2 をまとめてAと表示してある ) 地点 A2 の上位の大谷池火山灰層も正極性 ( 中山 吉川, 1990), 大谷池火山灰層の上位 50 m 付近にある三重県総合博物館建設地の層準も正極性である ( 星, 2016) 地点 C の野村火山灰層は逆極性 ( この火山灰層については中山 吉川, 1990も逆極性を報告 ), その上位の地点 B の層準は正極性である そしてこの柱状図の最上部にある原田川火山灰層は正極性である ( 中山 吉川, 1990) このように大谷池火山灰層から原田川火山灰層までの区間では上位に向かって極性が正, 逆, 正と変化する この極性変化はすでに中山 吉川 (1990) が明らかにしており, 今回の測定結果は中山 吉川 (1990) が示した古地磁気層序をやや精密化したにすぎない 大谷池火山灰層と野村火山灰層のフィッション トラック年代 ( 吉田, 2000; 田中, 2009), および原田川火山灰層よりも上位の亀山層の古地磁気層序 ( 中山 吉川, 1990; 星ほか, 2013) を考慮すると, この正, 逆, 正の古地磁気層序は星 (2016) が示したようにガウス正磁極期 (Gauss Chron) に対比される 今回得られた新たな知見の一つは, 森ほか (2014) によって海生珪藻化石が報告された三重県庁北側 ( 地点 A1, A2) の層準がガウス正磁極期の下限年代 (3.596 Ma) よりも若いことが明らかになったことである この海生珪藻化石産出層準の年代はChron C2An.3n(3.596 ~3.330 Ma) に含まれる 4. 謝辞試料採取でお世話になった森勇一氏 ( 金城学院大学 ), 宇佐美徹氏 ( 愛知県立杏和高等学校 ), 田中里志氏 ( 京都教育大学 ), 中川良平氏 ( 三重県総合博物館 ), 津村善博氏 ( 三重県総合博物館 ) に感謝します 本研究の一部には科研費 (no. 26400488) を使用した 48
図 5 地磁気年代尺度と古地磁気調査層準の対応関係 層序は吉田 (1990) による 緑色の A, B, C は今回調査した地点の層準 (A は A1 と A2 の両方 ) *1 = 中山 吉川 (1990); *2 = 本研究 ;*3 = 星 (2016); *4 = 田中 (2009); *5 = 吉田 (2000) 5. 文献 星博幸,2010, 御幣川火山灰層の古地磁気. 三重県立博物館編, 御幣川ゾウ足跡化石発掘調査報告書 (Ⅰ),20 23. 星博幸,2013, 鈴鹿市御幣川流域に分布する東海層群の古地磁気. 三重県立博物館編, 鈴鹿市御幣川流域の地層 化石総合調査報告書, 三重県環境生活部,39 45. 星博幸,2016, 三重県総合博物館建設地で発見された東海層群化石密集層の古地磁気年代. 三重県総合博物館研究紀要, 2,1 6. 星博幸 服部憲児 田中里志 宇佐美徹 中川良平 津村善博 小竹一之 森勇一,2013, 三重県亀山地域に分布する東海層群のガウス 松山古地磁気極性境界. 地質学雑誌, 119,679 692. 星博幸 田中里志 宇佐美徹 中川良平 津村善博 小竹一之,2014, 岩石磁気 古地磁気測定から示唆される東海層群のガウス 松山逆転層準. 地質学雑誌,120,313 323. 星博幸 田中里志 宇佐美徹 中川良平 津村善博 小竹一之,2015, 東海層群, ガウス 松山境界直上の亀山層上部から得られた古地磁気測定結果. 愛知教育大学研究報告 ( 自然科学編 ),64,31 35. 角田保,1982, 伊勢湾周辺における旧象化石の分布. 三重短期大学家政研究,no. 30, 105 143. 亀山市史編さん自然部会地質グループ編,2009, 亀山市鈴鹿川河床の鮮新世化石群発掘調査報告書. 亀山市歴史博物館, 亀山,88 p. 木村一朗 原学,1988, 東海層群の海生珪藻. 愛知教育大学研究報告 ( 自然科学編 ),37,77 88. Kirschvink, J. L., 1980, The least squares lines and plane and the analysis of palaeomagnetic data. Geophysical Journal of the Royal Astronomical Society, 62, 699 718. 三重県立博物館編,2010, 御幣川ゾウ足跡化石発掘調査報告書 (Ⅰ). 三重県立博物館, 津,70 p. 三重県立博物館編,2013, 鈴鹿市御幣川流域の地層 化石総合調査報告書. 三重県立博物館, 津,109 p. 三重県立博物館 新博物館整備推進室編,2011, 化石がでたゾ! みんなでしらべた新県立博物館建設地. 三重県立博物館 新博物館整備推進室, 津,18 p. 森勇一 宇佐美徹 齋藤めぐみ,2014, 三重県津市の東海層群亀山層から得られた海生珪藻化石と高海水準期イベント. Diatom, 30, 75 85. 中川良平編,2014, でかいぞミエゾウ! ~ 化石が語る巨大ゾウの世界 ~. 三重県総合博物館, 津,108 p. 中山勝博 吉川周作,1990, 東海層群の古地磁気層序. 地質学雑誌,96,967 976. Nakayama, K., Yoshikawa, S. and Ito, T., 1995, Magnetostratigraphy of the Late Cenozoic Tokai Group in central Japan and its sedimentologic implications. Journal of Southeast Asian Earth Sciences, 12, 95 104. Ogg, J. G., 2012, Geomagnetic polarity time scale. In Gradstein, F. M., Ogg, J. G., Schmitz, M. D. and Ogg, G. M., eds., The Geologic Time Scale 2012, Elsevier, Oxford, 85 113. 田中里志,2009, 東海層群亀山累層, 野村火山灰層のフィッション トラック年代. 亀山市史編さん自然部会地質グループ編, 亀山市鈴鹿川河床の鮮新世化石群発掘調査報告書, 亀山市歴史博物館, 亀山,83 86. 吉田史郎,1987, 津東部地域の地質. 地域地質研究報告 5 万分の 1 図幅, 地質調査所,72 p. 吉田史郎,1990, 東海層群の層序と東海湖盆の古地理変遷. 地質調査所月報,41,303 340. 吉田史郎,2000, 伊勢湾周辺の東海層群の年代と対比. 日本地質学会 107 年大会演旨,230. Zijderveld, J. D. A., 1967, A. C. demagnetization of rocks: analysis of results. In Collinson, D. W., Creer, K. M. and Runcorn, S. K., eds., Methods in Palaeomagnetism, Elsevier, Amsterdam, 254 286. (2016 年 8 月 17 日受理 ) 49