大域照明計算手法開発のためのレンダリングフレームワーク Lightmetrica: 拡張 検証に特化した研究開発のためレンダラ 図 1: Lightmetrica を用いてレンダリングした画像例 シーンは拡散反射面 光沢面を含み 複数の面光 源を用いて ピンホールカメラを用いてレンダリングを行った

Similar documents
2008 年度下期未踏 IT 人材発掘 育成事業採択案件評価書 1. 担当 PM 田中二郎 PM ( 筑波大学大学院システム情報工学研究科教授 ) 2. 採択者氏名チーフクリエータ : 矢口裕明 ( 東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻博士課程三年次学生 ) コクリエータ : なし 3.

Microsoft Word - report_public.doc

SHOBI_Portal_Manual

ライティングの基本要素ライト ( 光源 ) の位置や種類 強さを決め モデルやシーンの見せ方を決めることをライティングとよぶ また モデルの表面での光の反射の度合いを調節することで ライティングの効果を変化させることができる 今回は ライティングの基本的な要素を解説し SketchUp のライティン

Oracle SQL Developerの移行機能を使用したOracle Databaseへの移行

1. 開発ツールの概要 1.1 OSS の開発ツール本書では OSS( オープンソースソフトウェア ) の開発ツールを使用します 一般に OSS は営利企業ではない特定のグループが開発するソフトウェアで ソースコードが公開されており無償で使用できます OSS は誰でも開発に参加できますが 大規模な

コンピュータグラフィックス

XAMPP で CMS のお手軽 テスト環境を手に入れよう 2011/5/21 上村崇 1

コンピュータグラフィックス第8回

JBoss と Arquillian で実現する 究極のテスト環境 レッドハット株式会社 JBoss サービス事業部 コンサルタント 山 田義和

chapter1 Web デザインへのアプローチ chapter1 Web デザインへのアプローチ 1-1 本書の構成 Web サイト制作の流れ 本書の構成と内容 1-2 Web サイト制作業界の人材像 Web サイト制作に必要な職掌と役割 各職掌の役

事前準備マニュアル

<4D F736F F D208E96914F8F8094F5837D836A B2E646F63>

OmniTrust

5-3- 応統合開発環境に関する知識 1 独立行政法人情報処理推進機構

変更要求管理テンプレート仕様書

3D キャラクターのモデルデータを簡単に制作するシステム Maya で MikuMikuDance ができるプラグイン 1. 背景 MikuMikuDance とは 樋口優氏が開発した 3D アニメーションソフトウェアである 有志に よるモデルデータやモーションデータが配布され 初心者でも 3D ア

Team Foundation Server 2018 を使用したバージョン管理 補足資料

Using VectorCAST/C++ with Test Driven Development

TopSE並行システム はじめに

レイアウト 1

ステライメージ Ver.5 チュートリアル

J-SOX 自己点検評価プロセスの構築

Microsoft Word - ESX_Setup_R15.docx

インテル(R) Visual Fortran コンパイラ 10.0

情報連携用語彙データベースと連携するデータ設計 作成支援ツール群の試作及び試用並びに概念モデルの構築 ( 神戸市こども家庭局こども企画育成部 千葉市総務局情報経営部業務改革推進課 川口市企画財政部情報政策課 ) データ構造設計支援ツール設計書 2014 年 9 月 30 日 実施企業 : 株式会社ア

<4D F736F F D208DCC91F088C48C8F955D89BF8F915F8DA196E5504A>

Microsoft Word - (Fix)Formlabs、オートデスクが協業.docx

JP-2-Develop Websites and Components in AEM v6x_(V3_after QA)_1111

地域研究研究.indb

6. 発表内容 : 東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻の原田達也教授 日髙雅俊大学院 生 木倉悠一郎大学院生 牛久祥孝講師は 市販のパソコンやスマートフォンに標準搭載されている Web ブラウザ上で ディープニューラルネットワーク (DNN) を高速に実行できるソフ トウェアフレーム

(Microsoft PowerPoint - Java\221\3462\225\224\211\357\224\255\225\\\216\221\227\ ppt)

20th Embarcadero Developer Camp

2. 動的コンテンツとは動的コンテンツとは Web ブラウザからの要求に応じて動的に Web ページや画像などを生成する Web コンテンツのことをいいます Web で利用するサーチエンジンやアクセスカウンタ等は この仕組みを用いています 動的コンテンツは大きく次の二つに分類されます (1) Web


2008 年度上期未踏 IT 人材発掘 育成事業採択案件評価書 1. 担当 PM 田中二郎 PM( 筑波大学大学院システム情報工学研究科教授 ) 2. 採択者氏名チーフクリエータ : 北山朝也 ( 株式会社ソニー コンピュータエンタテインメントソフトウェアプラットフォーム開発部 ) コクリエータ :

使用する前に

中継サーバを用いたセキュアな遠隔支援システム

<4D F736F F D F815B B E96914F92B28DB8955B>

IM-SecureSignOn

スキル領域 職種 : ソフトウェアデベロップメント スキル領域と SWD 経済産業省, 独立行政法人情報処理推進機構

大規模災害等に備えたバックアップや通信回線の考慮 庁舎内への保存等の構成について示すこと 1.5. 事業継続 事業者もしくは構成企業 製品製造元等の破綻等により サービスの継続が困難となった場合において それぞれのパターン毎に 具体的な対策を示すこと 事業者の破綻時には第三者へサービスの提供を引き継

利用者

目次 1. はじめに 本書対象者 PALRO のアプリケーションについて Ubuntu 8.04LTS の入手について Linux 上での開発環境の構築 事前準備 Ubuntu のインストール..

Microsoft Word - ESX_Restore_R15.docx

V8_教育テキスト.dot

延命セキュリティ製品 製品名お客様の想定対象 OS McAfee Embedded Control 特定の業務で利用する物理 PC 仮想 PC や Server 2003 Server 2003 ホワイトリスト型 Trend Micro Safe Lock 特定の業務で利用するスタンドアロン PC

スライド 1

SimLab Plugins for SketchUp 評価版インストールおよびアクティベート方法 注意事項 評価版をお使い頂くには 評価用ライセンスでのアクティベートが必要です 評価用ライセンスファイルの取得を行い 手動でアクティベートする必要があります 各 SimLab プラグインは 評価用とし

Contents 概要 利用イメージ 運用シーン 制限事項 / 補足事項 2

プロダクトオーナー研修についてのご紹介

平成22年度「技報」原稿の執筆について

ETOS 画面の Web 化 / 帳票印刷のオープン化体験お試し変換サービスのご紹介 ACOS-4 システムの業務改善提案

isai indd

Silk Central Connect 15.5 リリースノート

事前準備マニュアル

製品概要

1-1- 基 OSS 概要に関する知識 ソフトウェアの新たな開発手法となりソフトウェア業界で大きな影響力を持つようになったオープンソースについて学習する 本カリキュラム Ⅰ. 概要では オープンソースの登場から現在に至る発展の経緯や代表的なソフトウェアの特徴を理解する 講義の後半では実際にソフトウェ

コンピュータグラフィックス第6回

クラス図とシーケンス図の整合性確保 マニュアル

表紙2017

SketchUp2017 以上のバージョンからプラグインのインストールや管理を行うための 拡張機能マネージャー が追加され Ruby ファイル (*.rbz) の管理が簡単に行えるようになりました SketchUp2016 以下のバージョンは環境設定の 拡張機能 (Extensions) メニューよ

目次 はじめに... 3 仮想化環境上の仮想マシン保護方法... 4 ( 参考 )Agent for Virtual Machines での仮想マシンのバックアップ... 8 まとめ 改訂履歴 2011/04 初版リリース 2012/10 第 2 版リリース このドキュメントに含まれる特

12680 情報科学Ⅲ 情報メディア演習 情報機器の操作 [a] 担 当 者 加藤 周一 授 業 形 態 講義 コンピュータはハードウェアとソフトウェアがあって初めて我々に役に 立つ機器となる ハードウェアの原理 ソフトウェアのアルゴリズムに ついて述べる アルゴリズムについては実際に

(2)【講義】

ハード・ソフト協調検証サービス

コンピュータグラフィックス特論Ⅱ

iStorage NSシリーズ 管理者ガイド

Microsoft PowerPoint プレス発表_(森川).pptx

Microsoft Word - XOOPS インストールマニュアルv12.doc

KLCシリーズ インストール/セットアップ・ガイド

OneDrive for Businessのご紹介

セミナータイトル    ~サブタイトル~

IBM i ユーザーの課題 モバイルや IOT に対応した新しい開発案件への対応 RPG COBOL など既存アプリのメンテナンス 要員の確保 属人化しない運用 管理体制 2

1. はじめに (1) 本書は 厚生年金基金ネットサービス を既にご利用されている基金様に向けて ウェブブラウザを Internet Explorer( 以下 IE)11 にアップグレードする手順をご案内するものです (2) 項目 2 から 5 までの全手順を実施願います ( 所要時間 : 約 30

PowerPoint プレゼンテーション

コンピュータグラフィックス特論Ⅱ

プロジェクトを成功させる見積りモデルの構築と維持・改善 ~CoBRA法による見積りモデル構築とその活用方法について~

PowerPoint プレゼンテーション

2016 年 4 月 4 日 Parallels Mac Management version 4.5 リリースで Microsoft System Center Configuration Manager 上での Mac 管理がさらに簡易で使いやすく クロスプラットフォームソリューションにおけるリ

contents 01

7th CodeGear Developer Camp

CDM Studio

PNopenseminar_2011_開発stack

6-2- 応ネットワークセキュリティに関する知識 1 独立行政法人情報処理推進機構

NSW キャリア採用募集職種一覧 2018/8/16 現在 求人番号 職種対象業務必要とするスキル 経験 資格等勤務地 1 営業スペシャリスト金融 ( 損保 生保 クレジット ) 業でのソリューション営業 IT 業界での営業経験 金融業界 IT 業界での人脈がある方尚可 渋谷 2 プロジェクトマネー

1. 検証概要 目的及びテスト方法 1.1 検証概要 Micro Focus Server Express 5.1 J の Enterprise Server が提供する J2EE Connector 機能は JCA 仕様準拠のコンテナとして多くの J2EE 準拠アプリケーションサーバーについて動作

Microsoft Word - winscp-LINUX-SCPを使用したファイル転送方法について

Sample 本テキストの作成環境は 次のとおりです Windows 7 Home Premium Microsoft Excel 2010( テキスト内では Excel と記述します ) 画面の設定( 解像度 ) ピクセル 本テキストは 次の環境でも利用可能です Windows

PowerPoint プレゼンテーション

PCL6115-EV 取扱説明書

不正送金対策 フィッシング対策ソフト PhishWall( フィッシュウォール ) プレミアム のご案内 広島県信用組合では インターネットバンキングを安心してご利用いただくため 不正送金 フィッシング対策ソフト PhishWall( フィッシュウォール ) プレミアム を導入しました 無料でご利用

Azure 活用シナリオ PHP ホームページを移行 1

Microsoft Visual Studio 2010 Professional Data Sheet

いるが それら Wiki 上でのデータは構造化されておらず 上記で述べた複雑さによ る問題がある 本プロトタイプではこの問題を解決する いくつかの解を提示してい る 図 1 スナップショット : ニーズを満たす結果の推薦 サービス対象をモンスターハンターに絞ったことにより 各行動に対応する述語に対し

レビューとディスカッション 機能ガイド

WSUS Quick Package

QW-3414


01_06.indd

Transcription:

大域照明計算手法開発のためのレンダリングフレームワーク Lightmetrica: 拡張 検証に特化した研究開発のためレンダラ 図 1: Lightmetrica を用いてレンダリングした画像例 シーンは拡散反射面 光沢面を含み 複数の面光 源を用いて ピンホールカメラを用いてレンダリングを行った モデルとして外部から読み込んだ三角形メ ッシュを用いた このように Lightmetrica はレンダラとして写実的な画像を生成する十分な実力を有する 1. 背景計算によって画像の生成を行うレンダリングは映画等で用いられる写実的な画像を生成するために広く用いられる手法であり コンピュータグラフィックスにおいて重要な要素の一つである レンダリングの研究では一般的に 今まで計算によって表現できなかった表現を可能にし 高速で効率のよい手法の開発を行うことを目的とする レンダリング手法研究を行う研究者の役割として アーティスト向けのツールを制作する開発者の参照となるような新手法を開発することが挙げられる 一般にレンダリングの研究開発において 新たに開発した手法は既存手法との比較検証が求められる 効率のよい研究プロセスを実現するには 素早く 正確に新手法を実装し 既存手法に対する検証を行うことが重要である それゆえ研究開発のために必要なレンダリングを行うためのソフトウェア すなわちレンダラは 拡張が柔軟 容易に可能であること 検証がなされていることが必要であると考える 拡張が柔軟 容易であることで 様々な手法を一つのフレームワークに実装でき 手法間の比較が容易になり 共通部分の再実装の手間を省くことができる また検証がなされていることでバグの発生を抑制し 検証済みレンダラの構成要素として安心して使用できるようになる しかしながら ある手法に最適化された手法や アーティストにとっての使い勝手に特化したアーティスト向けのレンダラでは これらの研究開発に必要な要件を満たすことはできない また既存の研究に用いられているレンダラは拡張 検証の面で十分だとは言 1 / 5

えない それらのレンダラは拡張を前提としていない設計であったり または拡張に多く の手間が必要であったりする またテストを用いたレンダラの構成要素に対する検証を 行っている研究用レンダラは存在しない 2. 目的本プロジェクトでは研究開発向けレンダラとして必要な 拡張性 検証に特化したレンダラを開発することを目的とする これによって レンダリング研究の活性化 ひいてはレンダリング産業 レンダリングによって可能な表現の発展に寄与することを目指す 3. 開発の内容研究開発のためのレンダラ Lightmetrica を開発した 開発言語は C++ 言語で 拡張を含めてすべて C++ 言語を用いて行う マルチプラットフォームライブラリとして設計を行い Windows, Mac OS X, Linux 環境で使用することが可能である 研究開発向けのレンダラであるが レンダラとして十分な機能を備えており 図 1 のような写実的な画像をレンダリングすることができる (a) 手法 1 (path tracing) (b) 手法 2 (bidirectional path tracing) 図 2: プラグインとして実装された異なるレンダリング手法を用いてレンダリングを行った例 ( 同一サンプル数 ) Lightmetrica を用いることで 異なるレンダリング手法を用いる場合でも同一のシーンファイルやマテリアルの実装等を用いることができ 共通部分の実装コストを削減することができる 柔軟な拡張レンダラを構成するほとんどの要素を拡張可能であり 新手法を作成した際の手間を省くことができる また拡張をサポートするための新たなシーンフォーマットの設計 実装も行った 拡張可能な構成要素として 例えば次のようなものがある 2 / 5

- レンダリング手法 - 交差判定 - マテリアル - 光源モデル - センサモデル - テクスチャ - メッシュ レンダラとして拡張可能な機能として様々なレンダラの構成要素の実装を行った 図 2,3,4 はレンダリング手法 マテリアル 光源モデルのそれぞれの構成要素に対してプラグインとして実装を行った例である このように 様々な種類のレンダラの構成要素を同一の枠組みで柔軟に扱うことができる 図 3: プラグインとして実装された様々なマテリアル 主に拡散反射 ( 中央 ) 鏡面反射 ( 右 ) 光沢反射 ( 左 ) のマテリアルを扱うことができる またこれらのマテリアルの実装によって他の手法の実装 ( 例えばレ ンダリング手法の実装 ) に影響を与えることはない すなわち 同一の実装を用いることができる シンプルな拡張また拡張を行う際の手順もシンプルに行えるように設計を心がけた プラグインはヘッダファイルのみのライブラリを用いて作成することができる またビルドスクリプトを極力使用しないでプラグインのビルドが可能である テストによる検証検証に関して レンダラの様々な構成要素に対してテストを行った 例えば 実装された様々な手法で交差判定の処理が同じ正しい結果を返しているか 等の検証を自動的に行うことができる 3 / 5

(a) 面光源 (b) 点光源 (c) 方向光源 図 4: プラグインとして実装された様々な光源によって照らされたシーン このように Lightmetrica では種 類の違いにかかわらず 様々な光源モデルを扱うことができ プラグインとしての拡張が可能である ユーザ支援研究者向けという専門的な内容のため ユーザ支援にも力を入れた lightmetria.org というサイトを作成し ドキュメントやチュートリアルの内容を充実させた ( 図 5) ドキュメントは英語 日本語双方で作成し またチュートリアルはレンダリング入門からプラグインによる拡張までの内容に対応する レンダリング未経験者の方にもできるだけ理解ができるようにするため 未経験者の方々からのフィードバックを集めて改善を行った 図 5: 作成した Web サイト (lightmetrica.org) 左 : トップページ, 右 : ページ例 専門性の高いレンダリング 研究をサポートするために レンダラとしての機能を解説するドキュメントの他 レンダリング入門からプラ グインよる拡張までを解説するチュートリアルも用意した 4. 従来の技術 ( または機能 ) との相違既存の研究開発に用いられるレンダラと比較して 拡張の柔軟性 拡張のシンプルさの点で優位である また テストを用いてレンダラの構成要素に対する検証を行った点でも優位性がある 4 / 5

- 拡張の柔軟性 o レンダラのほとんどの構成要素に対して拡張が可能である - 拡張のシンプルさ o 簡単に使用可能なヘッダファイルのみのライブラリでプラグインを作成でき ビルドも簡易である - テストによる検証 o レンダラを構成する様々な要素に対するテストを行った 5. 期待される効果レンダリング研究の活発化 またはレンダリング研究に関するリテラシーの向上を通じてレンダリング業界の活性化 ひいてはレンダリングによって可能となる表現の発展に貢献することが期待される 6. 普及 ( または活用 ) の見通し本プロジェクトはオープンソースプロジェクトとして開発を行っている 今後も開発を継続していくことで 最新のレンダリング手法の研究で実際に使用されるデファクトスタンダードのレンダラとなるようなものを目指す 7. クリエータ名 ( 所属 ) 大津久平 ( 東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻 ) ( 参考 ) 関連 URL Lightmetrica 公式サイト :http://lightmetrica.org 5 / 5