羽田空港 WEATHER TOPICS 羽田空港に停滞したシアーラインについて 航空気象情報の気象庁ホームページでのインターネット提供について 春季号通巻第 70 号 2017 年 ( 平成 29 年 ) 5 月 25 日発行東京航空地方気象台 羽田空港に停滞したシアーラインについて 1. はじめに

Similar documents
No < 本号の目次 > CAVOK 通信とは ( 発刊にあたってご挨拶 ) 1 業務紹介 ( 福岡航空地方気象台の業務概要 ) 2 悪天事例報告 ( 福岡空港のマイクロバーストアラート事例の報告 ) 用語集 3-6 CAVOK 通信とは 福岡航空地方気象台では 航空機

<4D F736F F D BF382CC82B582A882E D58E9E8D E DC58F4994C5816A>

平成 2 7 年度第 1 回気象予報士試験 ( 実技 1 ) 2 XX 年 5 月 15 日から 17 日にかけての日本付近における気象の解析と予想に関する以下の問いに答えよ 予想図の初期時刻は図 12 を除き, いずれも 5 月 15 日 9 時 (00UTC) である 問 1 図 1 は地上天気

Wx Files Vol 年2月14日~15日の南岸低気圧による大雪

Wx Files Vol 年4月4日にさいたま市で発生した突風について

資料6 (気象庁提出資料)

予報時間を39時間に延長したMSMの初期時刻別統計検証


風力発電インデックスの算出方法について 1. 風力発電インデックスについて風力発電インデックスは 気象庁 GPV(RSM) 1 局地気象モデル 2 (ANEMOS:LAWEPS-1 次領域モデル ) マスコンモデル 3 により 1km メッシュの地上高 70m における 24 時間の毎時風速を予測し

WxFilesVol 年3月10日関東地方の砂嵐に関して

Microsoft PowerPoint _H30_ALISお知らせ【Java】++

Microsoft Word - 文書 1

鳥取県にかけて東西に分布している. また, ほぼ同じ領域で CONV が正 ( 収束域 ) となっており,dLFC と EL よりもシャープな線状の分布をしている.21 時には, 上記の dlfc EL CONV の領域が南下しており, 東側の一部が岡山県にかかっている.19 日 18 時と 21

はじめに 東京の観測値 として使われる気温などは 千代田区大手町 ( 気象庁本庁の構内 ) で観測 気象庁本庁の移転計画に伴い 今年 12 月に露場 ( 観測施設 ) を北の丸公園へ移転予定 天気予報で目にする 東京 の気温などの傾 向が変わるため 利 者へ 分な解説が必要 北の丸公園露場 大手町露

1. 天候の特徴 2013 年の夏は 全国で暑夏となりました 特に 西日本の夏平均気温平年差は +1.2 となり 統計を開始した 1946 年以降で最も高くなりました ( 表 1) 8 月上旬後半 ~ 中旬前半の高温ピーク時には 東 西日本太平洋側を中心に気温が著しく高くなりました ( 図 1) 特

データ同化 観測データ 解析値 数値モデル オーストラリア気象局より 気象庁 HP より 数値シミュレーションに観測データを取り組む - 陸上 船舶 航空機 衛星などによる観測 - 気圧 気温 湿度など観測情報 再解析データによる現象の再現性を向上させる -JRA-55(JMA),ERA-Inter

2018 年 12 月の天候 ( 福島県 ) 月の特徴 4 日の最高気温が記録的に高い 下旬後半の会津と中通り北部の大雪 平成 31 年 1 月 8 日福島地方気象台 1 天候経過 概況この期間 会津では低気圧や寒気の影響で曇りや雪または雨の日が多かった 中通りと浜通りでは天気は数日の周期で変わった

2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 横浜地方気象台月別累年順位更新表 横浜地方気象台冬日 夏日 真夏

羽田空港 WEATHER TOPICS 夏季号通巻第 71 号 2017 年 ( 平成 29 年 ) 07 月 31 日発行東京航空地方気象台 目視観測 ( 雲の観測 ) について 航空気象観測は 風向風速計などの機器 ( 観測装置 ) による観測のほかに 人間が目で観測する 目視観測 も行っていま

Microsoft PowerPoint nakagawa.ppt [互換モード]


接している場所を前線という 前線面では暖かい空気が上昇し雲が発生しやすい 温帯低気圧は 暖気と寒気がぶつかり合う中緯度で発生する低気圧で しばしば前線を伴う 一般に 温帯低気圧は偏西風に乗って西から東へ移動する 温帯低気圧の典型的なライフサイクルは図のようになっている 温帯低気圧は停滞前線上で発生す

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 1.1_kion_4th_newcolor.doc

宮城県災害時気象資料平成 30 年台風第 24 号による暴風と大雨 ( 平成 30 年 9 月 29 日 ~10 月 1 日 ) 平成 30 年 10 月 3 日仙台管区気象台 < 概況 > 9 月 21 日 21 時にマリアナ諸島で発生した台風第 24 号は 25 日 00 時にはフィリピンの東で

Microsoft Word - 修正資料の解説_ _.doc

図 1 COBE-SST のオリジナル格子から JCDAS の格子に変換を行う際に用いられている海陸マスク 緑色は陸域 青色は海域 赤色は内海を表す 内海では気候値 (COBE-SST 作成時に用いられている 1951~2 年の平均値 ) が利用されている (a) (b) SST (K) SST a

(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

(添付物あり)

黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 日数 8~ 年度において長崎 松江 富山で観測された気象台黄砂日は合計で延べ 53 日である これらの日におけるの頻度分布を図 6- に示している が.4 以下は全体の約 5% であり.6 以上の

台風解析の技術 平成 21 年 10 月 29 日気象庁予報部

(00)顕著速報(表紙).xls

Microsoft Word - yougo_sakujo.doc

2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

Microsoft PowerPoint _HARU_Keisoku_LETKF.ppt [互換モード]

天気予報 防災情報への機械学習 の利 ( 概要 ) 2

仙台管区気象台における ヤマセ研究の系譜

Microsoft PowerPoint - Ikeda_ ppt [互換モード]

2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 平成 21 年 (2009 年 ) の月別累年順位更新表 ( 横浜 ) 23

Microsoft Word - 615_07k【07月】01_概況

気象庁 札幌管区気象台 資料 -6 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 平成 29 年度防災気象情報の改善 5 日先までの 警報級の可能性 について 危険度を色分けした時系列で分かりやすく提供 大雨警報 ( 浸水害 )

改版履歴 発行年月日版数適用 平成 29 年 2 月 24 日初版初版として発行

Microsoft Word - 0_0_表紙.doc

WTEN11-2_32799.pdf

また 積雪をより定量的に把握するため 14 日 6 時から 17 日 0 時にかけて 積雪の深さは と質 問し 定規で測っていただきました 全国 6,911 人の回答から アメダスの観測機器のある都市だけで なく 他にも局地的に積雪しているところがあることがわかりました 図 2 太平洋側の広い範囲で

専門.indd

WTENK8-4_65289.pdf

平成 28 年度 支笏湖特有の気象特性に対する 維持管理の検討 札幌開発建設部千歳道路事務所 新保貴広 札幌開発建設部千歳道路事務所 吉田昭幸 札幌開発建設部千歳道路事務所 樋口侯太郎 一般国道 453 号を管理する千歳道路事務所では 支笏湖の越波発生により 度々通行規制を実施している 淡水湖におけ

9 月号平成 27 年 (2015 年 ) ご利用の前にかんくうじまウェザートピックス関空島 WEATHER TOPICSEAの内容には 航空気象で利用する用語や 観測で使用する機器及びその設置場所等の略語がでてきます これらの解説を巻末に掲載していますので適宜ご利用ください 関空島の 8 月の気象

Taro-40-11[15号p86-84]気候変動

統計トピックスNo.92急増するネットショッピングの実態を探る

平成 30 年 2 月の気象概況 2 月は 中旬まで冬型の気圧配置が多く 強い寒気の影響を受け雪や雨の日があった 下旬は短い周期で天気が変化した 県内アメタ スの月降水量は 18.5~88.5 ミリ ( 平年比 29~106%) で 大分 佐賀関 臼杵 竹田 県南部で平年並の他は少ないかかなり少なか

正誤表 ( 抜粋版 ) 気象庁訳 (2015 年 7 月 1 日版 ) 注意 この資料は IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書の正誤表を 日本語訳版に関連する部分について抜粋して翻訳 作成したものである この翻訳は IPCC ホームページに掲載された正誤表 (2015 年 4 月 1

福島第1原子力発電所事故に伴う 131 Iと 137 Csの大気放出量に関する試算(II)

<4D F736F F D F193B994AD955C8E9197BF816A89C482A982E78F4882C982A982AF82C482CC92AA88CA2E646F63>

目次 第 1 章序論 研究背景 研究方法 本論文の構成... 3 第 2 章低視程障害現象とは 低視程障害現象をもたらす気象現象 欠航要因としての低視程障害と日本の地理的制約... 4 第 3 章低視程障害現象

(40_10)615_04_1【4月上旬】01-06

WTENK5-6_26265.pdf

III

されており 日本国内の低気圧に伴う降雪を扱った本研究でも整合的な結果が 得られました 3 月 27 日の大雪においても閉塞段階の南岸低気圧とその西側で発達した低気圧が関東の南東海上を通過しており これら二つの低気圧に伴う雲が一体化し 閉塞段階の低気圧の特徴を持つ雲システムが那須に大雪をもたらしていま

JAXA航空シンポジウム2015「気象を予測し安全かつ効率的な離着陸を実現する技術」

3 大気の安定度 (1) 3.1 乾燥大気の安定度 大気中を空気塊が上昇すると 周囲の気圧が低下する このとき 空気塊は 高断熱膨張 (adiabatic expansion) するので 周りの空気に対して仕事をした分だ け熱エネルギーが減少し 空気塊の温度は低下する 逆に 空気塊が下降する 高と断

平成10年度 ヒートアイランド現象に関する対策手法検討調査報告書

火山活動解説資料平成 31 年 4 月 14 日 17 時 50 分発表 阿蘇山の火山活動解説資料 福岡管区気象台地域火山監視 警報センター < 噴火警戒レベルを1( 活火山であることに留意 ) から2( 火口周辺規制 ) に引上げ> 阿蘇山では 火山性微動の振幅が 3 月 15 日以降 小さい状態

02論文-05/高咲_4C.indd

金沢地方気象台対象地域石川県 平成 30 年台風第 21 号に関する石川県気象速報 目 次 1 気象概況 2 気象の状況 3 気象官署と地域気象観測所の極値更新状況 4 特別警報 警報 注意報 気象情報等の発表状況 5 石川県の被害状況等 6 金沢地方気象台の対応状況等 平成 30 年 9 月 7

三重県の気象概況 ( 平成 30 年 9 月 ) 表紙 目次気象概況 1P 旬別気象表 2P 気象経過図 5P 気象分布図 8P 資料の説明 9P 情報の閲覧 検索のご案内 10P 津地方気象台 2018 年本資料は津地方気象台ホームページ利用規約 (

Taro-40-09[15号p77-81]PM25高濃

表 2-2 北海道地方における年平均風速データベース作成に関する仕様 計算領域計算期間水平解像度時間解像度 20 年間 365 日 水平解像度 500m 1991 年 ~2010 年 24 時間 =175,200 メッシュ以下の詳北海道電力供給管内の詳細メッシュの時間分のデータを細メッシュの風況風況

火山ガスの状況( 図 8-5 図 9-4) 12 日 18 日 25 日 27 日に実施した現地調査では 火山ガス ( 二酸化硫黄 ) の1 日あたりの放出量は 900~1,600 トン (11 月 :700~1,800 トン ) と 増減を繰り返しながら概ねやや多い状態で経過しました 地殻変動の状

< F2D81798B438FDB817A95BD90AC E93788EC090D1955D89BF>

長野県農業気象速報(旬報) 平成27年9月上旬

<4D F736F F D DC58F4994C5817A89D495B28C588CFC82DC82C682DF>

1 気象状況 (1) 概況 2 月 28 日から 3 月 1 日にかけて 低気圧が急速に発達しながら日本海を北東に進んだ このため 福井県内では 2 月 28 日夜から 3 月 1 日夜遅くかけて強風となり 最大風速は 福井で西南西 14.9m/s(1 日 08 時 12 分 ) 敦賀で北西 16.

第 2 学年理科学習指導案 日時平成 28 年 月 日 ( ) 第 校時対象第 2 学年 組 コース 名学校名 立 中学校 1 単元名 天気とその変化 ( 使用教科書 : 新しい科学 2 年東京書籍 ) 2 単元の目標 身近な気象の観察 観測を通して 気象要素と天気の変化の関係を見いだすとともに 気

3 航空機動態情報の管制機関における活用 (EN-12, OI-27 関連 ) ~ 航空機動態情報の把握による監視能力の向上 ~ 2 気象予測の高度化等 (EN-5,6,13 関連 ) ~ 気象予測の高度化による高精度な時間管理の実現 ~ 4SBAS 性能の検討 (EN-7 関連 ) 5GBAS を

2019 年1月3日熊本県熊本地方の地震の評価(平成31年2月12日公表)

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F D DC58F4994C5817A C8E89D495B294F28E558C588CFC82DC82C682DF8251>

平成 27 年度 新潟県たにはま海水浴場流況調査 報告書 平成 27 年 6 月調査 第九管区海上保安本部

風速 ^2 ((m/s)^2) 気圧 (hpa) 観測項目の経時変化 図 2 に各観測項目の時系列を示した. なお, 風速の縦軸は風速の 2 乗 ( 風速 ^2) であり, 項目名末尾のアルファベットは各地点 ( 三宅島 : M, 大島 :

Microsoft Word - 【10年報】セントレアの気象_ _Ver4.docx

An ensemble downscaling prediction experiment of summertime cool weather caused by Yamase

7 学校桟橋における強風の特徴 二村彰 * 蛭間拓也 ** 向井利夫 *** 栗本裕和 *** Characteristics of Strong Wind at School Pier Akira FUTAMURA*, Takuya HIRUMA**, Toshio MUKAI*** and Hi

津波警報等の留意事項津波警報等の利用にあたっては 以下の点に留意する必要があります 沿岸に近い海域で大きな地震が発生した場合 津波警報等の発表が津波の襲来に間に合わない場合があります 沿岸部で大きな揺れを感じた場合は 津波警報等の発表を待たず 直ちに避難行動を起こす必要があります 津波警報等は 最新

火山ガスの状況( 図 8-5 図 9-4) 1 日 6 日 8 日 14 日 20 日 22 日に実施した現地調査では 火山ガス ( 二酸化硫黄 ) の1 日あたりの放出量は700~1,800 トン (10 月 :500~1,70 トン ) と増減しながら 概ねやや多い状態で経過しました 地殻変動の

電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

1 気象概況 5 月 6 日は日本の上空 5500 メートルにおいて 氷点下 21 度以下の強い寒気が流れ込んだ (9 時の高層天気図 ) 一方 12 時には日本海に低気圧があって 東日本から東北地方の太平洋側を中心に この低気圧に向かって暖かく湿った空気が流れ込んだ (12 時の天気図 ) さらに

梅雨 秋雨の対比とそのモデル再現性 将来変化 西井和晃, 中村尚 ( 東大先端研 ) 1. はじめに Sampe and Xie (2010) は, 梅雨降水帯に沿って存在する, 対流圏中層の水平暖気移流の梅雨に対する重要性を指摘した. すなわち,(i) 初夏に形成されるチベット高現上の高温な空気塊


気候変化レポート2015 -関東甲信・北陸・東海地方- 第1章第4節

火山活動解説資料平成 31 年 4 月 19 日 19 時 40 分発表 阿蘇山の火山活動解説資料 福岡管区気象台地域火山監視 警報センター < 噴火警戒レベル2( 火口周辺規制 ) が継続 > 中岳第一火口では 16 日にごく小規模な噴火が発生しました その後 本日 (19 日 )08 時 24

<4D F736F F F696E74202D E93788CA48B8694AD955C89EF5F4E6F30325F D AC48E8B8CA48B865F53438FBC

Microsoft PowerPoint - 02.pptx


第 41 巻 21 号 大分県農業気象速報令和元年 7 月下旬 大分県大分地方気象台令和元年 8 月 1 日

<4D F736F F D2091E6358FCD31328B438FDB A5182F08ADC82DE816A2E646F6378>

参考資料

第 12 章環境影響評価の結果 12.1 調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果

WTENK1-3_62242.pdf

Transcription:

羽田空港 WEATHER TOPICS 羽田空港に停滞したシアーラインについて 航空気象情報の気象庁ホームページでのインターネット提供について 春季号通巻第 70 号 2017 年 ( 平成 29 年 ) 5 月 25 日発行東京航空地方気象台 羽田空港に停滞したシアーラインについて 1. はじめに羽田空港では 一日あたり 1,200 便を越える航空機が発着するため 航空交通の円滑な流れを確保しつつ運用滑走路を変更するには時間的な余裕を持って行うことが必要です このため シアーライン ( 以下 シアー ) 通過など風向風速が急変する際には 管制機関への早めのブリーフィングを心がけています しかし 数値予報資料などでもシアーの通過を 10 分単位で予想することは難しいことが多く 風向風速の急変の予想には大変気を使っています シアーには短時間で通過するものがある一方で 空港内に停滞するものがあります 停滞するシアーは 航空機にとって 南北どちらから進入しても追い風となる上 いつシアーが移動を始めるのか予想しにくい現象です そこで今回は 羽田空港内に停滞したシアーの特徴について紹介します 2. シアーの停滞時間別の発生回数の統計的特徴 (1) 調査の方法と期間期間 :2013 年 1 月から 2015 年 12 月の 3 年間 調査資料 : 羽田の各風向風速計 ( 配置は 第 1 図のとおり ) の風向 ( 真方位 ) と風速の 10 分平均値 (10 分毎に前 10 分平均を求める ; 以下 10 分値 ) シアー停滞の抽出条件 :10 分値の風向風速において RWY16L( 代表風 ) と RWY05 の風向差が 90 度以上 かつ RWY16L または RWY05 のいずれかの風速が 10kt 以上 停滞時間 : 一連の現象で抽出条件を満たすデータの個数 10( 分 ) 羽田空港の風向変化は 海陸風や前線の通過によるものなど 様々な要因でほぼ毎日発生しています 上記の抽出条件により 海陸風のような時間 空間的に緩やかな変化を除き その停滞時間で分類することで 対象現象を絞り込むことができます (2) 停滞時間別の統計的特徴調査期間内で羽田空港内に停滞したシアーの事例数は 189 例ありました シアー停滞の月別発生回数 ( 第 2 図 ) によれば 冬から春 (12 月 ~5 月 ) は シアー停滞事例が他の季節に比べて多くなっています 時刻別 ( 第 3 図 ) では 日中に多く 特に 04UTC~10UTC の時間帯に多くなっています 第 1 図羽田空港風向風速計等配置図

30 回 25 20 15 10 60 分 30~50 分 20 分 25 回 20 15 10 60 分 30~50 分 20 分 5 5 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月 第 2 図シアー月別 停滞時間別発生回数 停滞時間の割合は 10 分間で通過 解消したのは 51% 20 分以内は 73% 60 分以上停滞した事例は 7% でした 停滞時間 60 分以上の事例も日中及び冬から春に比較的多く見られます 停滞時の風速は RWY16L( 北より 北西 ~ 北東の風 ) より RWY05( 南より 南東 ~ 南西の風 ) が強い事が多く全事例の 66% を占めています ( 図略 ) 3. 事例紹介 (2014 年 1 月 25 日北風から南風への変化 ) 個別の事例として シアー停滞が 60 分と長かった 2014 年 1 月 25 日の事例を紹介します 事例の概要は 関東平野に 地表面に接する低温層( 北風 ) があって そこに南から暖かい空気が吹き込む 暖気と寒気の境目( シアー ) が羽田空港内に形成される 暖気が低温層の上に吹き上げて 大気が安定した状態となるため シアーがなかなか移動 解消せず 停滞する 12UTC の地上天気図では 前線を伴った低気圧が日本海を北東進しています また 日本の南には高気圧があり南高北低の気圧配置となっています ( 第 4 図 ) 第 4 図地上天気図 2014 年 1 月 25 日 12UTC 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 UTC 第 3 図シアー時刻別 停滞時間別発生回数 第 5 図アメダス実況図 (2014 年 1 月 25 日左図 :13UTC 右図 15UTC 黒線 : 等圧線赤破線 : シアー : 羽田 : 辻堂 )

アメダス実況図 ( 第 5 図 ) から 1300UTC には千葉県北西部から神奈川県西部は南よりの風が 12~18kt 東京から埼玉は北よりの弱風となっており 千葉から神奈川にかけて北東 ~ 南西走行のシアーが解析されています 気温はシアーの南側では 12~14 北側では 2~4 とシアーを挟み 気温差が大きくなっています 第 6 図は羽田および周辺の気象データを 10 分毎に示したものです 第 6 図羽田および周辺データ時系列 (2014 年 1 月 25 日風矢羽 kt 黒 :RWY16L 赤 :RWY05 : シアー停滞期間 ) 第 7 図ライダードップラー速度 (2014 年 1 月 25 日上 : 平面図下 : 距離高度 :RWY05 :RWY16L)

1300UTC 前は RWY05 では南西の風 8kt 程度 RWY16L では北よりの弱風となっていました RWY05 では南西風が次第に強まり 1330UTC には 18kt 程度となり D-RWY の北に停滞していたシアーは 1340UTC から急速に北上し 1410UTC には RWY16L も南西の風に変わりました 羽田の気温は RWY16L が北風の時には 8 程度で 南風となっている辻堂 ( 神奈川県藤沢市 ) との気温差は 6 程度ありましたが 南西風に変わると 13 程度まで上昇し 辻堂との気温差はなくなりました 第 8 図羽田付近国内航空機自動観測データ (2014 年 1 月 25 日赤破線 :θ285k 青破線 : 風速 10kt) * 日本航空 ( 株 ) 全日本空輸( 株 ) の航空機自動観測データを利用させていただきました 館山 羽田 熊谷の海面気圧は 1300UTC で館山の気圧が最も高く 羽田 熊谷は同程度でした 館山 - 羽田の気圧差は 1hPa 程度から次第に大きくなり シアー北上時には約 3hPa と羽田から見て南側が高い傾向が強まりました 一方 羽田 - 熊谷の気圧差はほとんどありませんでしたが シアー北上後には約 -1hPa と羽田から見て北側が高い傾向となりました 第 7 図はシアー停滞時のドップラーライダー 2 号機 ( 以下 ライダー ) のドップラー速度を示したものです 1310UTC の平面図では南西風が RWY05 付近に達していますが 空港の北側では西 ~ 北西の風となっています 距離高度表示では空港の南西側 (229 方向 ) は 20kt 以上の南西風を示す濃い緑色が下層まで見られますが ライダーの南西側 2km 付近の地上から高度 100ft 付近までは 南西の弱風 ( 薄い緑 ) となっています 一方 ライダーの北東側のごく下層でもライダーへ近づく風 ( 北よりの風 第 7 図赤破線 ) を示す緑色となっています その後 強い南西風は急速に北上し 1400UTC には羽田空港の北に達しました 第 8 図の国内航空機自動観測データ (ACARS) * では 1200UTC に温位 285K( 赤破線 ) が 500ft 付近に解析され また その付近には南西の風 10kt( 青破線 ) が対応しています 温位 285K は 上下変動しながら第 9 図 LFM 初期値解析風向風速温位 (2014 年 1 月 25 日 1300UTC 1340UTC 頃に左 : 地上平面図右 : 断面図赤丸 : 羽田赤破線 : シアー ) は地上に達しました

LFM 初期値解析 ( 第 9 図 ) の 1300UTC の地上は東京湾奥と陸上との間に明瞭な温位の集中帯があり その南側の東京湾内では南西の風 20kt 陸上では弱い南西の風が解析できます 断面図では 温位 285K が羽田の北東 ~ 南西にかけての 975hPa 以下のごく下層に解析されました 下層風は南西の風 20~25kt で揃っていますが 1000hPa では南西の風 5kt 前後を解析しています その後の 1400UTC には温位の低いエリアは北西方向に移動しました ( 図略 ) 予想資料では 0900UTC にはやや強い南風を予想していましたが 実況はその流入が遅れました これらのことからこの事例では 下層は南西風が卓越している場で冷気層内の北よりの弱風との間でシアーが発生 冷気層が解消 移動し下層の南西の風が全域に流入し 羽田空港内のシアーが解消したと考えられます 4. シアーの移動 解消を予想する手がかりシアーの移動 解消を予想する手がかりについて シアーを挟んだ南北の空気密度 気圧について調べました 対象は RWY16L が北風から南風へ変化し シアー停滞時間が 60 分以上の事例としました まず 横浜 羽田 大手町の空気密度 ρ=p/{r(t+273.15)} の変化とシアーの動向について調べましたが 関連は見られませんでした ( 図略 ) 第 10 図羽田周辺気圧 (2014 年 1 月 25 日 ) 第 11 図シアー停滞時間別辻堂 - 羽田気温差 次いで羽田空港周辺の気圧との比較 ( 第 10 図 ) では シアー停滞時の 1330UTC までは 横浜から大手町までの気圧差はほとんど有りませんが RWY16L に南風が達し シアーが北上 解消する直前の 1350UTC には 気圧は横浜が羽田より高まり わずかながら気圧の南高傾向となりました このような気圧変化は対象 8 事例中 7 事例で見られ これらの事例における横浜 - 羽田の気圧差の平均はシアー停滞時が 0.0hPa シアー解消後の気圧差は 0.3 hpa でした 一方 シアー停滞が 20 分以下の事例では 横浜 - 羽田の気圧差はシアー停滞前 停滞中 解消後ともに横浜が高い事が多く (25 例中 17 事例 ) その平均は停滞中 解消後ともに 0.2hPa でした 北風から南風への変化する際 冷気層の有無がシアー停滞時間と関連していると考えられます やや大規模な南風が流入する場合に南風が進入している辻堂と代表風が北よりの風の羽田との気温差をシアーの停滞時間 (20 分以下または 60 分以上 ) 別に比較しました ( 第 11 図 ) 停滞時間 20 分以下の全 36 事例中 26 例で気温差は 2 未満となっています

また 停滞時間 60 分以上の全 8 事例中 5 例は 気温差が 2 以上です 気温差 2 が停滞時間の長短を判断する大まかな目安に見えます それらの例外となる停滞時間 60 分以上 かつ気温差が 2 未満の 3 事例 ( 赤破線丸 ) は 気圧が横浜より大手町が高く 狭い範囲で北高型となり南風の入りにくい状況であったためと考えられます 更に 停滞時間 20 分以下で気温差が 2 以上となったのは 10 例 ( 青破線丸 ) で その内 8 事例は日中で 7 事例は日照が十分あったと推定され RWY16L の風向は東より (50~100 ) で風速は 3~8kt でした ライダーから見ると安定層はごく地上付近のみでかつ不明瞭で南風が強まると空港内でシアーは停滞することなく代表風も南風に変わりました このことは 空港の東側に位置する露場 ( 第 1 図参照 ) 付近では 気温が低く冷気層が存在していても 空港内の他の領域では 日照により気温は露場より上昇していたため 安定層の存在が狭い範囲に限られ 南風がスムーズに流入したためではないかと考えられます 最後に当台予報課では シアーの動きの的確な予測めざして 引き続き 調査を進めていきす

航空気象情報の気象庁ホームページでのインターネット提供について 1. はじめに航空機の安全な運航には 飛行場や空域の気象情報を知ることが重要です 気象庁ホームページにおいて 2016 年 12 月から 航空気象情報 ページを作成し 下層悪天予想図並びに既存の数値予報天気図等へのリンクを掲載しています 更に 2017 年 3 月には拡充を行い 飛行場時系列予報 飛行場時系列情報や国内悪天予想図等を提供しておりますので 是非ご利用願います 2. アクセス方法 航空気象情報 ページの URL は http://www.data.jma.go.jp/airinfo/index.html になります 気象庁ホームページのホームから進む場合は 各種データ 資料 の中の 航空気象情報 を選択して下さい 1 3 2 4 5 3. 提供情報の種類 1 空港の情報 (1) 飛行場時系列予報 飛行場時系列情報 (2) 飛行場気象解説情報 ( 定時 / 臨時 ) (3) 全国航空気象解説報 ( 飛行場 ): 1 日 2 回 0700UTC 1900UTC に 概ね 18 時間先までを重点的に 30 時間先までの飛行場予報に関する要点を解説する 2 空域の情報 (1) 国内悪天予想図 第 1 図気象庁ホームページの 航空気象情報 ページ 第 2 図飛行場時系列予報 飛行場時系列情報

(2) 下層悪天予想図 :1 日 8 回 00 03 06 09 12 15 18 21UTC に 下層の悪天予想をLFM を元に算出し 3 6 9 時間後の図を表示する (3) シグメット情報 (4) 全国航空気象解説報 ( 福岡 FIR): 1 日 2 回 0715UTC 頃 1930UTC 頃に 上に当日または翌日の12UTC 下にそれに続く00 UTCの福岡 FIR 悪天予想解説図を掲載し 対象期間における悪天域の発生 消滅 強度変化 原因第 3 図下層悪天予想図等について吹き出しによりコメントする (5) 全国航空気象解説報 ( 国内空域 ): 1 日 1 回 1915UTC に向こう12 時間以内の国内空域の悪天域について 翌日 00UTC 予想と06UTC 予想を図示して 着目点をコメントする その他に以下の情報ページのリンクも掲載しております 3 実況 解析情報 4 航空路火山灰情報 5 数値予報天気図 6 高層天気図 4. まとめ気象庁ホームページでの航空気象情報の提供を開始し インターネット環境があれば どなたでも航空気象情報を見ることが出来るようになりました 主に小型航空機パイロットへの提供を目的に作成されましたが 航空関係者も自宅等でいつでも航空気象情報を閲覧出来ますので 是非ご活用下さい ( 東京航空地方気象台予報課 ) 発行東京航空地方気象台 144-0041 東京都大田区羽田空港 3-3-1