生命保険の理論と実務 ( 第 6 回 ) 法規律 生命保険商品 生命表 早稲田大学大学院会計研究科 2018 年 5 月 21 日 大塚忠義 1
保険の定義 ( 保険法 ) 生命保険 : 第 1 分野人の生死 定額給付損害保険 : 第 2 分野対象は限定せず 実損填補これらの定義は両者を補完していないので どちらにも当てはまるもの どちらにも当てはまらないものがある
第 3 分野の保険 生命保険 損害保険のどちらの定義に属さない保険種目を第 3 分野の保険という 人に関することだが 生死にかかわらない 傷害 入院 身体障害人に関わることは損害額を算定できない
第 3 分野の保険 ( 続 ) 傷害保険 入院保険 がん保険 介護保険 etc. 現在では 保険会社のドル箱商品 生命保険 損害保険どちらでも取扱うこ とが認められている
健康保険 人に関わる保険だが 生死ではない 実際にかかった医療費の一部を補填する実損保険 日本では 制度を国が管理している 国民全員が加入することを義務付けている ( 国民皆保険 ) 民間が取り扱うことを禁じている
保険者 保険契約者 被保険者 保険金受取人 保険仲介人 保険契約の当事者
保険者と保険契約者 保険者 保険金支払義務を負う者 いわゆる保険会社日本では免許性が取られている 一定規模 ( 最低資本金 ( 基金 )10 億円 ) の株式会社または相互会社に限る ( 保険業法 ) 保険契約者 保険料支払義務を負う者
生命保険の被保険者 その人の生死が保険の対象とされている人 自己の生命の保険保険契約者 = 被保険者他人の生命の保険保険契約者 被保険者保険加入には被保険者の同意が必要
損害保険の被保険者 約定の保険事故による損害発生の 可能性 (= 被保険利益 ) を持つ人 保険事故が発生した場合 保険者に 保険金の請求をする権利を持っている
相互会社 保険業法によって 保険事業にだけ許された会社組織 保険契約者が株主の代わりに 社員 である法人形態 株式会社と違って利益の獲得を目的をしない中間法人 相互扶助思想を体現するための組織
相互会社 ( 続 ) 社員 : 会社の構成員 ( 持ち主 ) 会社の意思決定権 収益の分配権を有する 生命保険会社 44 社中 7 社が相互会社 : シェアでは 70% 超 日本 第一 住友 明治安田 朝日 三井 現在は 損害保険会社はゼロ
保険事故 契約上 保険者が保険金を支払う必要のある損害を発生させる事故 担保危険ともいう 契約上とは約款で規定されている事故 免責 ( 危険 ): 事故が起こっても保険金を払う必要のない事故戦争その他の変乱を原因とする事故契約者または被保険者の故意または重大な過失による事故
被保険利益 損害の発生によって 滅失するおそれのある利益 被保険利益のない損害保険契約は無効 利得禁止の原則 実際に被った損害を超えて保険金を支払うことはできない * 例えば 火災保険に 2 件入ってはだめ
保険金受取人 保険事故が発生した場合 保険者に保険金の請求をする権利を持っている損害保険保険金受取人 = 被保険者生命保険保険金受取人 被保険者でもいい
保険仲介人 (1) 保険契約を締結する際 取引の補助を行う人保険代理商 : 保険代理店保険者の使用人 : 生命保険の営業職員保険中立人 : 保険ブローカー
保険仲介人 (2) 保険代理商 保険者の使用人保険者のために 保険者の代理人として保険契約の販売活動を行う保険中立人保険者 保険契約者のどちらからも中立の立場で 最適の保険契約を推奨する ベスト アドバイス ルール
保険仲介人 (3) 損害保険の保険仲介人申込書を受領した時点で 契約は成立する 契約締結の代理権を有する 生命保険の保険仲介人契約締結の代理権を持っていない 保険者が直接 医者による診査から判断する
生命保険 ( 第一分野 ) 保険者は 契約者または第三者の生死に関して一定の金額を支払うことを約束し 契約者は報酬 ( 保険料 ) を支払うことを約束する 一定の金額 = 定額給付 自分の命の値段をいくらにするか? 損害額 賠償額を明確に算出できる実損填補タイプとの違い 18
主要な生命保険 死亡保険 : 死亡を保険事故とする 生存保険 : 生存を保険事故とする 生死混合保険 : 死亡と生存の両方を保険事故とする 19
死亡保険 (1) 保険期間に応じて分類される定期保険 : 一定の期間内 ( 例えば 5,10,20 年 60 歳 70 歳 99 歳 ) に被保険者が死亡した場合に保険金が支払われる 保険料は他の保険に比べると安い保険金をもらうことなく満了することが多い 20
死亡保険 (2) 終身保険死亡保障が一生涯続くタイプの死亡保険保険料の支払は 60-70 歳で終了することが一般的保険料は定期保険に較べると非常に高い必ず保険金をもらうことができる 21
死亡保険 (3) 定期付終身保険終身保険 + 定期保険営業職員がもっとも勧めるタイプの保険 例えば 60 歳まで 2000 万円その後一生涯 500 万円 22
主契約と特約 (1) 主契約生命保険の基本的な契約部分 死亡保険 生存保険 生死混合保険のいずれかが主契約になることがほとんどである 特約主契約に付加して 付随的な保障 取り扱いを行う 23
主契約と特約 (2) 主契約に医療関係特約を付加することで けがや病気に対する保障 を提供している 入院特約成人病特約通院特約介護保障特約 傷害特約 24
生存保険 (1) 一定期間満了後に被保険者が生存していた場合に保険金が支払われる逆に 保険期間中に死亡した場合には何も支払われない 純粋な生存保険は商品化できない 死にそうになったら必ず全員解約する から 25
生存保険 (2) 年金保険 こども保険が生存保険の範疇に入る保険期間中に死亡した場合には 既に払い込んだ保険料程度の死亡給付金が支払われるつまり 死亡給付金 解約返戻金となるように設計する 26
個人年金保険 (1) 被保険者が所定の年齢 (eg. 60 歳 ) に達すると毎年一定額の年金が約定した期間支払われる生存保険年金支払開始日前に死亡した場合には 既に払い込んだ保険料程度の死亡給付金が支払われる低金利のため 現在特殊なタイプ ( 変額年金 外貨建て年金 ) を除くとほとんど売れていない 27
個人年金保険 (2) 終身年金 : 被保険者が生存している限り年金を受取れる 保障期間付終身年金 : 保障期間中は被保険者の生死に関わりなく その後は生存している限り年金を受取れる 確定年金 : 契約時に定めた一定期間は 被保険者の生死に関わりなく年金を受取れる 年金支払期間は 10,15,20 年が多い その後は年金の支払はない 28
養老保険 生死混合保険 典型的な生死混合保険いまだにこの名称!? 一定期間 (= 保険期間 eg. 30 年 ) 中に死亡したら死亡保険金 期間経過時に生存していたら満期保険金 かっては 販売商品の 8 割を占めてい た主力保険 29
けがと病気の保険 誰もがさらされているもっとも普遍的なリスク国が社会保険によってカバーしている 健康保険 介護保険しかし 足らないかも
けがと病気の保険 公的保障分野民間保険会社にとっては ; 第 3 分野の保険生命保険 損害保険のどちらにも属さない または両方に属する
公的保障の補完 健康保険からの給付を超える費用 自己負担分 ( 実費の30%) 差額ベッドなど入院費用 休業補償部分 海外でのけが 病気
損保が多く扱う保険 傷害保険 交通事故傷害保険この組合せで つり保険 ゴルフ保険 登山保険 etc.. 旅行傷害保険実損填補の色合いが強い 所得補償保険
医療保険 がん保険 生保が多く扱う保険 定額給付入院日数比例 病気に対する保障
死亡率と生命表 死亡率 : 人口学において 一定人口に対する その年の死亡者数の割合生命表 : ある期間における死亡状況が今後変化しないと仮定したときに 各年齢の者が 1 年以内に死亡する確率や平均してあと何年生きられるかという期待値などを死亡率や平均余命などの指標 ( 生命関数 ) によって表したもの 35
調査 行政人口動態統計 : 戸籍に基づき市区町村ごとに調査 ( 毎年実施 ) 国勢調査 :5 年に一度市区町村ごとに任命された国勢調査員が各戸を国勢調査票に記入を依頼し集計する民間保険会社等が自社の契約を調査 36
行政による調査 人口動態統計 : http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jin kou/kakutei12/index.html 国勢調査 : http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/g aiyou.htm#mokuteki_1 政府統計ポータルサイト :e-stat http://www.estat.go.jp/sg1/estat/estattopportal.do 37
調査と生命表の距離 XX 歳の死亡率 :XX 歳の誕生日を迎えた人がその日から 1 年間の間に死亡する確率 調査期間 1 年では調査対象者の誕生日から 1 年間を観測することはできない 生年別の死亡率 :2014 年調査の 0 歳の死亡率は 2013,14 年生まれの人の死亡率 50 歳の死亡率は 1963,64 年生まれの死亡率平均寿命の定義と実際の差異 コーホート生命表 38
行政 生命表 (1) 完全生命表 (5 年ごと ) http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/lif e/21th/index.html 簡易生命表 ( 毎年 ) 民間 保険会社等が自社の契約を調査アクチュアリー会標準死亡率調査部会 http://www.actuaries.jp/lib/standard-lifetable/index.html 39
生命表 (2) 国民表行政の調査によるもの調査年度 地域および死因で分類 各年齢の死亡率 q を得たら生命表を作成できる l 0 d = 100,000 x x x x+ 1 x x x l q l = l d q = + p = 1 x x 40
生命表 (3) 生命表の仮定 : 閉集団 : 新規加入がない ある1 日に10 万人誕生する 10 万人がゼロになるまで 継続するこのもとで各年経過後の誕生日における生存者数 その日から1 年間の死亡者数を示した表 41
生命表 (4) 定常人口空間 : 別の見方 : 開集団 : 新規加入を仮定する ただし 毎年同月同日に10 万人誕生する 誕生以外の新規加入はなく 死亡以外の脱退はない 最初に誕生した10 万人がゼロになるまで 継続する死亡者数の合計は10 万人となり人口は一定で不変である 42
生命表 (5) 生命表は各年 (= 各年齢 ) の誕生日における生存者数 各年の誕生日から 1 年間の死亡者数を示した表 このような仮定は現実にはありえない 現実の開集団では 毎年の誕生数は異なる 死亡率は年齢と生年に依存する 死亡以外の集団からの脱退がある保険集団では 解約 > 死亡 43
生命表 (6) 経験表 保険加入者の死亡経験を調査したもの 調査年度 地域 性 ( 死因 ) の他に 保険年度 ( 契約締結時から期間 ) によって異 なる q q x t x t + + + 0 44
Question? お疲れ様でした 45