世界の地熱開発の動向 (WGC の発表から ) 地熱部特別顧問 當舎利行

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世界の地熱開発の動向 (WGC の発表から ) 地熱部特別顧問 當舎利行

はじめに 1 WGC(World Geothermal Congress: 世界地熱会議 ) は 5 年ごとに開催される国際会議であり これまでは以下のような国で開催された 1995: フィレンツェ ( イタリア ) 2: 別府 盛岡 ( 日本 ) 25: アンタリア ( トルコ ) 21: バリ ( インドネシア ) 215: メルボルン ( オーストラリア ) 最新の WGC は本年 4 月にオーストラリアで開催された この国際会議での各国の発表から 主な地熱資源開発国や開発の著しく進展している国などを中心として 現在の地熱の動向について紹介を行う 本発表では 以下の論文を参照した : BERTANI, R. "Geothermal Power Generation in the World 21 215 Update Report, Proc. WGC215, 11, Melbourne, Australia, 215. CAREY, B., DUNSTALL, M., MCCLINTOCK, S., WHITE, B., BIGNALL, G., LUKETINA, K., ROBSON, B., ZARROUK, S. and SEWARD, A. "215 New Zealand Country Update, Proc. WGC215, 152, Melbourne, Australia, 215. DARMA, S., TISNALDI and GUNAWAN "Country Update: Geothermal Energy Use and Development in Indonesia, Proc. WGC215, 138, Melbourne, Australia, 215. RAGNARSSON, A. "Geothermal Development in Iceland 21-214" Proc. WGC215, 177, Melbourne, Australia, 215. OMENDA, P. and SIMIYU, S. "Country Update Report for Kenya 21-215" Proc. WGC215, 119, Melbourne, Australia, 215. MERTOGLU, O., SIMSEK, S. and BASARIR, N. "Geothermal Country Update Report of Turkey (21-215)" Proc. WGC215, 146, Melbourne, Australia, 215.

世界的な傾向 2 (after Bertani, 215 and IEA, 214) 世界の地熱発電は 全発電容量の増加に比例して伸びて来ている ( 総発電量の約.3% 前後 )

MW 主要な国別の発電設備容量の増加 3 4 35 3 25 2 15 1 5 1995 2 25 21 215 (Bertani, 215) 1995 年では 我が国の発電設備容量は 米国 フィリピン メキシコ イタリアについで第 5 位であったものが 21 年では インドネシア ニュージーランド アイスランドに抜かされて第 8 位となっていたが 215 年にはケニアにも抜かされて第 9 位となっている

各国の動向 (1) ニュージーランド 4 地熱発電が急速に伸びており 1 年間の伸び率は 2% 以上世界最大の地熱発電機 (14MW) が Nga Awa Purua に導入 ( 富士電機製 ) 214 年の地熱発電の発電量は 7GWh で全発電量の約 16% 再生エネルギは電力需要の 75% であり 225 年までには 9% を目標 我が国の年間地熱発電量 (@213 年度 ) (Carey et al., 215) 地熱発電量の伸び ( 年間発電量 )

各国の動向 (2) アイスランド 5 地熱発電は 電力需要の 68%(@214 年 ) Theistareykir 地熱発電所 (214 年建設 ) は 45 MW の設備容量 ( 生産井 7 本 ) 最終的には 2 MW( 生産井 4 本 ) 我が国の年間地熱発電量 (@213 年度 ) (Ragnarsson, 215)

MW GWh 各国の動向 (3) ケニア 6 地熱発電設備容量は 573MW で 21 年から比べると 243% の増加量 ( 我が国の設備容量を超えている ) 将来的には既存の Olkaria や Menengai( 現在 JICA が技術協力 ) の増強だけでなく Baringo-Silali や Suswa 等の新たなフィールドの探査も実施 KENYA 設備容量 (MW) 9, 15 Installed Capacity Produced Energy 15 3 8, 7, 1 5 2 594 1 22 129 45 45 1995 2 25 21 215 22 Year (Bertani, 215) 6, 5, 4, 3, 2, 1, 215 217.5 22 RE Hydro Fossil ケニアの電力設備容量の伸び Geothermal 215 年と 22 年の中間地点は すでに建設が始まっているか ないしは 費用の見通しが立っている発電設備を表している (after Omenda and Simiyu, 215)

MW GWh 各国の動向 (4) トルコ 7 西アナトリアにある Menderes, Gediz, Simav の各渓谷に新しい 14 ユニットの発電機が導入される ( 設備容量 約 3 MW) また Çanakkale にも小規模の発電設備が導入される TURKEY Installed Capacity Produced Energy 6 6 6 4 2 397 4 2 我が国の年間地熱発電量 (@213 年度 ) 91 21 2 2 1995 2 25 21 215 22 (Mertoglu et al., 215) Year (Bertani, 215)

MW GWh 各国の動向 (5) インドネシア 8 インドネシアでの地熱ポテンシャルは 米国についで第 2 位 (312 地点 28,MW) であり 22 年にかけて大幅な設備容量の増加を目指している 地熱発電所は 214 年時点で 1 か所あり 設備容量は 1,341MW となっている (1 カ所あたり平均 13 万 kw) また 22 年の設備容量の目標値は 35MW であるが 225 年には 6,638MW の導入を目指している 新しい地熱発電所が Ulumbu( フローレス島 ) Sulawesi( マタロカ島 ) Lehendong( スラウェシ島 ) Ulu Belu( スマトラ島 ) などで建設がされている INDONESIA Installed Capacity Produced Energy 6 12 4 35 8 2 31 59 797 1197 134 4 1995 2 25 21 215 22 Year (Bertani, 215)

MW GWh 各国の動向 (5) イタリア 日本 9 A new unit in Bagnore (4 MW); the first italian binary unit; the first hybrid project geothermal-biomasses. ITALY Installed Capacity Produced Energy 12 6 1 8 785 791 843 916 4 632 4 2 1995 2 25 21 215 22 Year ( 火原協会 215) より (Bertani, 215)

世界の地熱地帯 ( ベスト 12) 1 世界の大規模な地熱地帯は アメリカから中米に至る西海岸 インドネシア フィリピンに分布している 我が国は それらに続く地熱地帯がありながら 生かし切れていない The Geysers, 1 California, USA 1585 MW 1 st Salton Sea, 8 California, USA 388 MW 5 th Coso, 11 Olkaria, 5 Kenya 592 MW Mak -Ban 6 Philippines 458 MW California, USA 292 MW Hellisheidi, 1 Iceland 33 MW Tongonan 3 Philippines 726 MW 3 rd Cerro Prieto, 2 2 nd México 727 MW Larderello, 4 Italy 595 MW 4 th Salak 9 Indonesia 377 MW Darajat 12 Indonesia 26 MW Wairakei 7 New Zealand 399 MW (Bertani, 215)

おわりに 11 世界の地熱発電は 全発電の増加に比例して伸びて来ている ( 総発電量の約.3% 前後 ) また 22 年の出力予測では 215 年に比べて 169% になることが予測される このような大幅な伸びに対して Be Exponential との合い言葉が提唱された 地熱発電の伸びは 特にケニヤやトルコで著しい 世界第一位に発電設備容量を有する 米国は加速的な伸びは予想されていないが EGS 技術などによる発電容量の増大が見込まれている 我が国では 5kW 以下の小規模地熱発電設備は FIT の導入以降積極的に進められてきたが 1kW を超える設備は長らく建設されていなかった 本年 (215 年 )6 月末に 大分県九重町菅原地区に 5kW のバイナリー サイクル発電機による地熱発電所が JOGMEC の支援を受けて建設され 運転を開始した 今後 42,kW の設備容量で 219 年運転開始予定の山葵沢 ( 仮称 ) 地熱発電所が建設され運転を開始するなど 23 年頃に設備容量が 3 以上となる努力が進められている