放射線の基礎と建設機械等の汚染管理 - 正しく知って正しく怖がろう - 第一部第二部 放射線の基礎建設機械等の汚染管理 2011 年 12 月 5 日日本原子力研究開発機構福島技術本部復旧技術部技術主席兼遠隔操作技術室長川妻伸二 1
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出典 : 原子力図面集 3
出典 : 原子力図面集 4
出典 : 原子力図面集 5
出典 : 原子力図面集 6
出典 : 原子力図面集 7
出典 : 原子力図面集 8
放射線被ばくの影響 確定的影響数 100~1000mSv 以上の急性被ばくの場合に 下痢 下血 白血球減少 脱毛などの特有な症状が出る 100mSv での臨床例はない 確率的影響慢性被ばくの結果 累積被ばく線量 100mSv あたり がん罹患やがんによる死亡率のリスク ( 発がん率 ) が 0.5% 程度増加すること言われている 100mSv 以下の低線量被ばくに関する疫学的データは殆ど無い 9
低線量被ばくによる確率的影響 低線量被ばくの影響はデータが少なく 直線仮説のほか 閾値があるとする説 むしろ低線量被ばくは免疫を活性化するホルミシス効果があるとする説もある 発がん率(%)1000 発mSv がん率(%)発がん率(%)1000 msv 1000 msv 5 5 5 直線仮説閾値ある場合ホルミシス効果ある場合 10
低線量被ばくによる確率的影響 直線仮説は科学的に解明されたものではないが 安全側であるために放射線管理に用いられているもの 国際放射線防護委員会 (ICRP) は 直線仮説は放射線管理の目的のためにのみ用いるべきであり すでに起こったわずかな線量の被曝についてのリスクを評価するために用いるのは適切ではない としている (http://www.denken.or.jp/jp/ldrc/study/topics/lnt.html) チェルノブイリ事故 (1986 年 4 月 26 日 ) で 多くの住民が放射性セシウム (Cs137) で内部被ばくしたが がん全体の発生率上昇や 死亡率上昇 非腫瘍性疾患罹患率上昇等は 25 年たっても認められていない ( 国連科学委員会報告書より ) 25 年では未だ分からないという考えもある インド ケララ地方 ( 年間平均 4mSv, 最大 70mSv) での疫学調査では他の地域に比しても発がんリスクの上昇が認められない 三朝温泉 ( ラドン温泉 ) 地区の疫学調査では 発がんリスクは全国平均の 0.46~ 0.54 と低いとの報告もある 温泉に含まれる炭酸が胃がんの発生を抑制しているとの学説もある 11
慢性被ばく 10000 7000 急性被ばく 100% の人が死亡 5000 3000 50% の人が死亡 発がんがん率が 5% 程度上昇 緊急時の放射線従事者の線量限度 (100-250) 1000 500 100 末梢血中のリンパ球の減少 臨床例が確認されず 100mSv 平常時の放射線従事者の線量限度 (20-50) 緊急時の一般公衆の線量限度 (20) 航空機搭乗員の線量限度 (5) 我が国の環境放射線環境放射線によるによる平均的平均的な線量 ( 年間 ) 平常時の一般公衆の線量限度 (1) *1Gy=1Sv で換算した 50 6.9 5 2.6 1.1 1 0.6 0.2 0.05 0.01 ミリシーベルト 胸部 X 線コンピュータ断層撮影検査 (1 回 ) 胃の X 線集団検診 (1 回 ) 東京 - ニューヨーク航空機旅行 ( 往復 ) 胸の X 線集団検診 (1 回 ) 12
一般公衆と放射線従事者の放射線防護 一般公衆 放射線従事者 線量限度 ( 緊急時 ) 1 msv/ 年 (20 msv/ 年 ) 50mSv/ 年 -100mSv/5 年 (100-250mSv/ 年 ) 管理方法 管理区域 周辺監視区域 敷地等 ( 警戒区域 計画的避難区域 ) への立入り制限 管理区域 ( 警戒区域等 ) への立入りに際し 放射線防護教育 個人被ばく管理 電離放射線健康診断 放射線モニタリング 等
Q なぜ線量限度に平常時と緊急時とあるの? 緊急時の線量限度でも大丈夫? 一般公衆の線量限度 : 平常時 1mSv/y 緊急時 20mSv 放射線従事者の線量限度平常時 100mSv/5y~50mSv/y 緊急時 100mSv/y~250mSv/y 年間 100mSv 以下なら 発ガン等リスクは極めて少ない ICRP は勧告ではないが 生涯一般公衆の線量を 1000mSv としている 家計収支みたいなもの 本来 支出は収入以下にすべきもの マイホームを買ったり 病気で医療費がかかった年は収入以上に支出することもある
Q 管理区域の設定基準は 空間線量 : 1.3Sv/3 月 ( 50mSv/ 年 ( 従事者線量限度 ) 1/10( 安全係数 ) 1/4(3 月 / 年 )) (1.3mSv/3 月 500h/3 月 =2.6μSv/h) (50mSv/ 年 1/10( 安全係数 ) 2000h/y=2.5μSv/y) 今回は管理区域等ではなく警戒区域等 準拠法令も放射線障害防止法や原子炉等規制法ではなく原子力災害対策法 15
Q スクリーニングしたものはしたものは安全安全なの? (QAD 計算例 by JAEA) ( 条件 )1 表面汚染密度 :40Bq/cm**2(13kCPM 相当 ) 2 汚染核種は Cs その組成比は Cs134:Cs137=0.8:1.0 と仮定 (3/15 の核種分析結果 Cs134:Cs137=1.1:1 から 11/15 の組成比を計算 ) 3 線源の厚さは 0.5mm と仮定 空間線量率 (μsv/h) 50cm 1cm 1m 3m 汚染面積 1m 0.5mH ( ロボット相当 ) 汚染面積 5m 2mH ( 建機相当 ) 1cm ( 手先 ) 50cm ( 体幹部 ) 1m ( 体幹部 ) 3m ( 体幹部 ) 2.4 0.16 0.048 0.0058 4.0 0.80 0.43 0.095 スクリーニングレベル以下以下の機器機器によるによる体幹部体幹部へのへの被ばく量 ( 実効線量 ) は管理区域設定基準管理区域設定基準よりもよりも極めてめて低い
被ばく低減の基本 と 汚染管理 の重要性 被ばく低減の基本 建設機械やロボット等の汚染管理の重要性 建設機械やロボット等の汚染が増えれば 建設機械やロボット等の操作員や保守点検を行う作業員の二次的な放射線被ばく量も増える 汚染管理 ( 除染 ) により これら操作員や作業員の二次的な被ばくを低減できる 出典 : 原子力図面集 17
放射線基礎 のまとめ 日常生活でも放射線を浴びている 低線量被ばくの影響はデータが少なく分からないことも多いが 平常時の放射線従事者の線量限度 ( 50mSv/y ないし 100mSv/5y) 以下ならリスクは極めて少ない 建設機械やロボット等の操作員や作業員の二次的な放射線被ばくを低減するため 放射線防護三原則 ( 遮へい 距離 時間 ) に加え 建設機械やロボット等の汚染管理 ( 除染 ) が重要 18
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ロホ ットコントロール車 1,2 号 (RC-1,2) の汚染測定事例 タイヤや泥除けが車体と比べ汚染が高い傾向 (1- 数 kcpm 前後 ) 運転席座席が数 kcpm 程度の汚染にとどまったのに対し 床カーペット ( 起毛マット ) 上は数十 ~100kcpm と非常に高い値を示した マットを剥いだら BG レベルに下がった ( 他機関の例ではタイヤハウスの汚染の影響だったとも聞いている ) 荷台内部は 1~3kcpm 程度の汚染であったが 水拭きしても計測値に有意な変化は落ちなかった バックグラウンドが同程度のため その影響か? 20
遠隔重機 (BROKK90 及び 800D) の調査 除染事例 (1/2) 作業に使われた無人遠隔重機を修理するため高圧水洗浄による除染を行ったにもかかわらず 汚染検査においてスクリーニングレベル (100kcpm) を上回るケースがあったことから 状況確認と測定等を実施 クローラー スプロケット ツール部 重機底部の線量が高かった クエン酸によるキムタオルへの付着は有意ではなく 除染効果は少なかった 線量が高い部位の中でも 油汚れが付着している部位 赤錆が発生している部位 狭隘部や機器裏側 ( ざらざらしていた ) の線量は特に高かった 21
遠隔重機 (BROKK90 及び 800D) の調査 除染事例 (2/2) 汚染形態は化学的なものではなく汚染微粉 (Cs が微粉の塵挨やコンクリート粉に吸着したもの ) が表面の凹凸やスキマに入り込んだ状態 ) によるものが主と推測 ( 爆発以前からあったものは化学的による可能性もある ) 高圧水洗浄が十分にあたらない狭隘部や機器裏側の部位 汚染微粉が油汚れとともに付着している部位 汚染微粉が赤錆内に取り込まれている部位の除染が重要 22
遠隔重機 (BROKK330D) の調査 除染事例 水洗浄 ワイヤブラシやサンダーによる金属表面の研磨 さび落としにより 100kcpm 以上あった表面汚染密度が数 10kcpm に低下 除染場所の空間線量率は 88μSv/h 地面の表面汚染密度は 85kcpm と高い 除染水がかからない場所の地面の表面汚染密度は 35kcpm ラジエター部は当初 100kcpm 以上と線量 ( 汚染 ) が高く また高圧スプレイでは変形してしまうので 除染には低圧での水プレイや薬剤使用等が必要 電気部品も当初は 100kcpm 以上と高く フォーミング薬剤等による除染が必要 GM 管に鉛シート 1mm を巻いたサーベイメータを使用したことにより 10kcpm 程度の測定は可能 23
建設機械等の汚染管理 のまとめ (1/2) 事故発生 ( 爆発 ) 後投入した建設機械等の汚染は 放射性セシウムが微細な塵挨 コンクリート粉 土壌等の粉体に吸着したものが付着したもの ( 粉体汚染 ) が主と推測され 粉体と接触する部位 ( タイヤ クローラー 泥除け 底部 ) 等が高い傾向にある 事故発生 ( 爆発 ) 前からサイト内にあった建設機械等は 上記の他放射性セシウムが塗装面に吸着した ( 化学的汚染 ) 可能性もある 油汚れや 赤さび部には汚染が特に高いものがある シートやカーペットには操作員の衣服や靴等で運ばれた粉体が取り込まれていて線量が高い 24
建設機械等の汚染管理 のまとめ (2/2) 建設機械等の除染は高圧スプレーも有効 狭隘部や底部等はブラシや拭き取りが有効 ( ラジエター部は高圧スプレイで変形するので要注意 ) シートやカーペットは撤去または ( 事前の ) ビニール養生等が必要 油汚れ部や赤さび部の除染は 洗剤や ( ブラシ サンダー グラインダー等 ) 機械的除染が有効 汚染廃液の飛散により雰囲気線量が上昇するので 廃液の回収処理方策の検討が必要 バックグラウンド (BG) レベルによっては 汚染 ( サーベイ ) 検査が困難 検査場所の確保または工夫 ( サーヘ イメータの鉛遮へい等 ) が必要 25
最後に 現時点での知見は限定的 現時点での知見を活用して汚染管理 ( 除染 ) するとともに 知見の蓄積と公開が重要 皆さまのごさまのご協力協力をおをお願いしますいします 26
謝辞 建設機械等 ( 遠隔重機 車両 ロボット等含む ) の汚染調査 除染試験に際し 大成建設株式会社ならびに東京電力株式会社にご協力頂いたことに感謝いたします 27
東電 HP より 28
参考 三朝温泉の例 ラドン濃度 水中 135.5~481.5 Bq/l 空気中 100 ~ 530 Bq/ m3 温泉地区大気中 26 Bq/ m3 がん死亡率 三朝地区 / 全国平均 0.54( 男 ) 0.46( 女 ) 周辺地区 / 全国平均 0.8 ( 柳澤 自然治癒の力放射能泉について Vol.53 No.6 および 10 より ) 29
ラジウム ( ラドン ) 温泉 の効能メカニズム 参考 ラドンガスの吸入 肺を経由経由してして血流血流によりにより 肝臓肝臓 腎臓 脳等 ( 脂質の多い臓器 ) に沈着 新陳代謝促進による免疫力の活性化 スーパーオキシドシムラーゼ カタラーゼの生成 ( 抗酸化物 ) β エンドルフィン ( 脳内ホルモン ) の生成 Rn ラドン Ra ラジウム 出典 :( 柳澤 自然治癒の力放射能泉について Vol.53 No.12) 中川ら ラドン吸入試作装置によるマウス諸臓器中の抗酸化機能の亢進に関する研究 /RADIOISOTOPES VOL.57,NO.4,Aplil2008 30