日本の地形 地盤デジタル マップと表層地盤特性 松岡昌志 防災科学技術研究所地震防災フロンティア研究センター 1
巨大地震の想定震源域 東南海地震 (M J 8.1) 南海地震 (M J 8.4) 東海地震 (M J 8.0) ( 内閣府中央防災会議 ) 0 200 km 南海トラフ 2
推定震度分布 ( 内閣府中央防災会議 ) 3
地震動予測地図 ( 確率論的地震動予測地図 ) ( 地震調査研究推進本部 ) 4
表層地盤の ゆれやすさ 全国マップ ( 内閣府中央防災会議 ) 5
背景 巨大地震の被害想定や強震動予測地図などの作成に際して, 行政区域を越えた広い地域における面的な地盤データベースが必要 国土数値情報の地形分類などの既存デジタルデータの利用 6
問題点 1. 地域ごとに分類基準や名称が異なる. 表層の地盤条件と対応していない. 2. メッシュ解像度が粗い 7
既存のデータベースの問題点 国土数値情報 ( 原データ1/20 万 ): 全国数値地質図 (1/100 万 ): 全国土地分類基本調査 (1/5 万 ): 9 都道府県土地条件図 (1/2.5 万 ): 主要地域 自治体が作成 : 横浜市など ( 消防研等で数値化 ) 地域ごとに分類基準や名称が異なる表層の地盤条件と対応していない 8
日本全国地形 地盤分類メッシュマップの構築 ( 日本の地形 地盤デジタルマップ 東大出版会 ) 対象地域 : 日本全域 データ構成 : 地形分類, 地質時代区分, 傾斜, 起伏量 メッシュ数 :1km メッシュ ( 基準地域メッシュ ) 約 38 万 ファイル形式 : MapInfo, ESRI-Shape, テキスト形式, ビットマップ画像 9
日本全国地形 地盤分類メッシュマップの特長 工学的地形分類の標準化 ( 統一規格 ) を提案 地盤特性を反映した分類 空間分解能 ( 地形境界の精度 ) の向上 10
メッシュマップによる地形分類基準 分 類 定義 特徴 1 山 地 1km メッシュにおける起伏量 ( 最高点と最低点の標高差 ) が概ね 200m 以上で, 先第四系 ( 第三紀以前の岩石 ) からなる標高の高い土地. 2 山麓地 先第四系山地に接し, 土石流堆積物 崖錐堆積物など山地から供給された堆積物等よりなる比較的平滑な緩傾斜地. 3 丘 陵 標高が比較的小さく,1km メッシュにおける起伏量が概ね 200m 以下の斜面からなる土地. 4 火 山 第四系火山噴出物よりなり, 標高 起伏量の大きなもの. 5 火山山麓地 火山地の周縁に分布する緩傾斜地で, 火砕流堆積地や溶岩流堆積地, 火山体の開析により形成される火山麓扇状地 泥流堆積地などを含む. 6 火山性丘陵 火砕流堆積地のうち侵食が進み平坦面が残っていないもの, または小面積で孤立するもの. 7 岩石台地 河岸段丘または海岸段丘で表層の堆積物が約 5m 以下のもの, 隆起サンゴ礁の石灰岩台地を含む. 8 砂礫質台地 河岸段丘または海岸段丘で表層に約 5m 以上の段丘堆積物 ( 砂礫層, 砂質土層 ) をもつもの. 9 ローム台地 河岸段丘または海岸段丘で表層が約 5m 以上のローム層 ( 火山灰質粘性土 ) からなるもの. 10 谷底低地 山地 火山地 丘陵地 台地に分布する川沿いの幅の狭い沖積低地. 表層堆積物は山間地の場合は砂礫が多く, 台地 丘陵地 海岸付近では粘性土や泥炭質土のこともある. 11 扇状地 河川が山地から沖積低地に出る所に形成される砂礫よりなる半円錐状の堆積地. 勾配は概ね 1/1000 以上. 12 自然堤防 河川により運搬された土砂のうち粗粒土 ( 主に砂質土 ) が河道沿いに細長く堆積して形成された微高地. 13 後背湿地 扇状地の下流側または三角州の上流側に分布する沖積低地で自然堤防以外の低湿な平坦地. 軟弱な粘性土, 泥炭, 腐植質土からなる. 砂丘 砂州の内陸側や山地 丘陵地 台地等に囲まれたポケット状の低地で粘性土, 泥炭, 腐植質土が堆積する部分を含む. 14 旧河道 過去の河川の流路で, 低地一般面より 0.5~1m 低い帯状の凹地. 15 三角州 海岸低地 三角州は河川河口部の沖積低地で, 低平で主として砂ないし粘性土よりなるもの. 海岸低地は汀線付近の堆積物よりなる浅海底が陸化した部分で, 砂州や砂丘などの微高地以外の低平なもの. 海岸 湖岸の小規模低地を含む. 16 砂州 砂礫州 波や潮流の作用により汀線沿いに形成された中密ないし密な砂または砂礫よりなる微高地. 過去の海岸沿いに形成され, 現在は内陸部に存在するものも含む. 17 砂 丘 風により運搬され堆積した細砂ないし中砂からなる波状の地形. 一般に砂州上に形成されるが, 台地上に形成されたものを含む. 18 干拓地 浅海底や湖底部分を沖合の築堤と排水により陸化させたもの. 標高は水面よりも低い. 浅海底や湖底部分を沖合の築堤と排水により陸化させたもの. 標高は水面よりも低い. 11 19 埋立地 水面下の部分を盛土により陸化させたもの. 標高は水面よりも高い.
地形分類 12
表層地質 13
傾斜 14
起伏量 15
国土数値情報 との違い 国土数値情報 メッシュマップ 16
メッシュマップの空間精度原図となる地形分類図の縮尺と精度に依存 国土数値情報縮尺 1/20 万 本研究縮尺 1/5 万 本研究では 印のメッシュで分類精度が向上 17
洪水ハザード の評価 18
液状化危険度の評価 19
山地の侵食 速度ポテン シャルの評価 20
問題点 1. 地域ごとに分類基準や名称が異なる. 表層の地盤条件と対応していない. 2. メッシュ解像度が粗い 21
250m メッシュマップ完成地域 (2005 年 5 月現在 ) 22
首都圏の地形 地盤分類 250m メッシュマップ 23
東京 23 区中心部 250m メッシュ 1km メッシュ 24
メッシュマップの地震動評価 への適用 25
サイスミックゾーニングのための地盤分類指標 表層地質 地形 地盤種別 表層地盤の S 波速度 (Borcherdt and Gibss, 1976, Shima, 1978) 深さ 30m までの地盤の平均 S 波速度, Vs30 ( 翠川, 1987; Joyner and Fumal, 1988; Borcherdt et al., 1991) NEHRP(National Earthquake Hazard Reduction Program) の基準 (BSSC, 1997) 26
深さ 30m までの地盤の平均 S 波速度 (Vs30) S 波の伝播時間で重みをつける v 1 d 1 v 2 d 2 30 m v n d n Vs30 = 30 n Σ d i / v i i=1 [m/s] 27
Vs30 と PGV 増幅度との関係 1987 年千葉県東方沖地震の強震記録による解析からは, 最新のデータに基づく解析からは, log Amp = 2.367-0.852 log Vs30 ± 0.166 ( 藤本 翠川, 2005) (Midorikawa, S. et al., 1994) 28
検討に用いた PS 検層データ K-data (K-NET) 1001 地点 509 地点 H-data (KiK-net) 495 地点 435 地点 Y-data ( 横浜市データ ) 150 地点 87 地点 M-data ( 松岡 翠川 1993) 539 地点 425 地点 F-data ( 藤本 翠川 2003) 71 地点 66 地点 T-data ( 藤本 翠川 2003) 650 地点 415 地点 合計 1937 地点 29
微地形区分と Vs30 の関係 Vs30 30
他の地理的指標 標高 : 河川の上流下流での堆積物の変化 河川からの距離 : 河川氾濫に起因して形成 傾斜 : 勾配によって堆積物が変化 海岸線からの距離 : 堆積層の厚さとの関連 山地 丘陵からの距離 : 岩盤までの深さとの関連 多変量回帰分析により Vs30 の推定式を求める 31
Vs30 の推定式と係数 log Vs30= a + b log Ev + c log Sp + d log Dm ±σ Ev: 標高 (m),sp: 傾斜,Dm: 山地 丘陵からの距離 (km) 32
回帰式の考察 標高が高いほど, 傾斜が大きいほど, 山地 丘陵からの距離が近いほど, Vs30 の値が大きくなる 河川上流部 ( 標高が高く, 傾斜が大きい地域 ) では堆積物の粒径が大きい, 山地や丘陵に近いほど岩盤までの深さが浅い 回帰係数の傾向は微地形の堆積環境と矛盾がない 33
首都圏 250m マップによる Vs30 分布 34
1km マップによる Vs30 分布 35
推定した Vs30 と実際の Vs30 の比較 250m メッシュから抽出 1km メッシュから抽出 (0.72-1.39 倍 ) (0.70-1.43 倍 ) 36
Vs30 から推定される増幅度分布 log Amp = 2.367-0.852 log Vs30 ± 0.166 ( 藤本 翠川, 2006) 37
関東地震での建物 被害分布との比較 ( 諸井 武村, 2002) PGV 増幅度 38
まとめ 本研究は, 日本全国を統一化した工学的地形分類基準に従って構築した 日本全国地形 地盤分類メッシュマップ ( 日本の地形 地盤デジタルマップ ) の高解像度版である 250m メッシュマップを紹介した. メッシュマップの微地形区分や標高, 傾斜, 古い時代に形成された山地 丘陵からの距離に基づき,Vs30 の分布を簡便に推定できることを示した. メッシュマップにより, 強震動予測が従来よりもより高解像度に推定できる可能性があることを示した. 39