☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第24号-

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REPORT あいぎ特許事務所 名古屋市中村区名駅 第一はせ川ビル 6 階 TEL(052) FAX(052) 作成 : 平成 27 年 4 月 10 日作成者 : 弁理士北裕介弁理士松嶋俊紀 事件名 入金端末事件 事件種別 審決取消

審決取消判決の拘束力

主文第 1 項と同旨第 2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は, 平成 24 年 6 月 14 日, 発明の名称を 遊技機 とする特許出願をし ( 特願 号 請求項数 3 ), 平成 26 年 5 月 12 日付けで拒絶理由通知 ( 甲 8 以下 本件

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間延長をしますので 拒絶査定謄本送達日から 4 月 が審判請求期間となります ( 審判便覧 の 2.(2) ア ) 職権による延長ですので 期間延長請求書等の提出は不要です 2. 補正について 明細書等の補正 ( 特許 ) Q2-1: 特許の拒絶査定不服審判請求時における明細書等の補正は

Microsoft Word 資料1 プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する審査基準の改訂についてv16

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1 特許庁における手続の経緯原告は, 名称を 5 角柱体状の首筋周りストレッチ枕 とする発明につき, 平成 20 年 10 月 31 日に特許出願 ( 本願 特願 号, 特開 号, 請求項の数 1) をし, 平成 25 年 6 月 19 日付けで拒絶

認められないから, 本願部分の画像は, 意匠法上の意匠を構成するとは認めら れない したがって, 本願意匠は, 意匠法 3 条 1 項柱書に規定する 工業上利用する ことができる意匠 に該当しないから, 意匠登録を受けることができない (2) 自由に肢体を動かせない者が行う, モニター等に表示される

インド特許法の基礎(第35回)~審決・判例(1)~

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丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

にした審決を取り消す 第 2 前提事実 1 特許庁における手続の経緯被告は, 発明の名称を レーザ加工方法, 被レーザ加工物の生産方法, およびレーザ加工装置, 並びに, レーザ加工または被レーザ加工物の生産方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納したコンピュータが読取可能な記録媒体 とする特

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特許法29条の2の発明の同一性判断における技術常識の参酌知財高判平成18年5月31日(平成17年(行ケ)第10681号)審決取消請求事件〔多層配線基板の製造方法〕

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

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平成 23 年 10 月 20 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 23 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 9 月 29 日 判 決 原 告 X 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 興 治 郎 金 成 有 祐 被 告 Y 同訴訟代理人弁理士 須 田 篤

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freee・マネーフォワード特許訴訟の解説

Microsoft PowerPoint 平成23年(行ケ).pptx

Microsoft Word - クレームにおける使用目的に関する陳述 ☆米国特許判例紹介☆ -第105号-

事件概要 1 対象物 : ノンアルコールのビールテイスト飲料 近年 需要急拡大 1 近年の健康志向の高まり 年の飲酒運転への罰則強化を含む道路交通法改正 2 当事者ビール業界の 1 位と 3 位との特許事件 ( 原告 特許権者 ) サントリーホールディングス株式会社 ( 大阪市北区堂島

では理解できず 顕微鏡を使用しても目でみることが原理的に不可能な原子 分子又はそれらの配列 集合状態に関する概念 情報を使用しなければ理解することができないので 化学式やその化学物質固有の化学的特性を使用して 何とか当業者が理解できたつもりになれるように文章表現するしかありません しかし 発明者が世

本件は, 特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である 争点は, 進歩性の有無である 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は, 平成 23 年 10 月 7 日に特許出願をした特願 号 ( 以下 原出願 という ) の一部である, 発明の名称を 位置検出装置 と

訂正情報書籍 170 頁 173 頁中の 特許電子図書館 が, 刊行後の 2015 年 3 月 20 日にサービスを終了し, 特許情報プラットフォーム ( BTmTopPage) へと模様替えされた よって,

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目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )(

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平成 30 年 3 月 29 日判決言渡 平成 29 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 3 月 13 日 判 決 原告株式会社コーエーテクモゲームス 訴訟代理人弁護士 佐 藤 安 紘 高 橋 元 弘 吉 羽 真一郎 末 吉 亙 弁理士 鶴 谷 裕 二

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Microsoft Word - CAFC Update(112)

ことができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している さらに 台湾専利法第 76 条は 特許主務官庁は 無効審判を審理する際 請求によりまたは職権で 期限を指定して次の各号の事項を行うよう特許権者に通知することができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している なお

第41回 アクセプタンス期間と聴聞手続(2016年版) ☆インド特許法の基礎☆

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

特許無効審判の審判請求書における補正の要旨変更についての一考察審判請求後の無効理由の主張及び証拠の追加等に関する裁判例の検討

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資料 4 平成 26 年度特許庁実施庁目標 参考資料 2014 年 3 月 28 日

審判制度の概要と最近の動向

Microsoft Word - 【6.5.4】特許スコア情報の活用

Ⅰ. はじめに 近年 企業のグローバル化や事業形態の多様化にともない 企業では事業戦略上 知的財産を群として取得し活用することが重要になってきています このような状況において 各企業の事業戦略を支援していくためには 1 事業に関連した広範な出願群を対象とした審査 2 事業展開に合わせたタイミングでの

下 本件特許 という ) の特許権者である 被告は, 平成 23 年 11 月 1 日, 特許庁に対し, 本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をした 特許庁は, 上記請求を無効 号事件として審理をした結果, 平成 25 年 9 月 3 日, 特許第 号の

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第 1 原告の求めた判決 特許庁が無効 号事件について平成 23 年 12 月 28 日に した審決を取り消す 第 2 事案の概要本件は, 被告の請求に基づき原告の本件特許を無効とした審決の取消訴訟であり, 当裁判所が取り上げる争点は, 実施可能要件及びサポート要件の充足性の

1 アルゼンチン産業財産権庁 (INPI) への特許審査ハイウェイ試行プログラム (PPH) 申請に 係る要件及び手続 Ⅰ. 背景 上記組織の代表者は

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

平成 27 年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 商標制度におけるコンセント制度についての 調査研究報告書 平成 28 年 2 月 株式会社サンビジネス

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上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

を構成し, その結果, 本願意匠が同法 3 条 1 項柱書の 工業上利用することができる意匠 に当たるか否かである 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 27 年 3 月 16 日, 意匠法 14 条 1 項により3 年間秘密にすることを請求し, 物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠

第 32 回 1 級 ( 特許専門業務 ) 実技試験 一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産教育協会 ( はじめに ) すべての問題文の条件設定において, 特に断りのない限り, 他に特殊な事情がないものとします また, 各問題の選択枝における条件設定は独立したものと考え, 同一問題内における他の選

特許出願の審査過程で 審査官が出願人と連絡を取る必要があると考えた場合 審査官は出願人との非公式な通信を行うことができる 審査官が非公式な通信を行う時期は 見解書が発行される前または見解書に対する応答書が提出された後のいずれかである 審査官からの通信に対して出願人が応答する場合の応答期間は通常 1

実施可能要件を肯定した審決が取り消された事例

KSR判決のその後

参加人は 異議申立人が挙げていない新たな異議申立理由を申し立てても良い (G1/94) 仮 にアピール段階で参加した参加人が 新たな異議申立理由を挙げた場合 その異議申立手続は第 一審に戻る可能性がある (G1/94) 異議申立手続中の補正 EPCにおける補正の制限は EPC 第 123 条 ⑵⑶に

第26回 知的財産権審判部☆インド特許法の基礎☆

2018 年 2 月 8 日第一東京弁護士会総合法律研究所知的所有権法部会担当 : 弁護士佐竹希 バカラ電子カードシュー 事件 知財高裁平成 29 年 9 月 27 日判決 ( 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 号 ) I. 事案の概要原告 ( エンゼルプレイングカード株式会社 : カー

指針に関する Q&A 1 指針の内容について 2 その他 1( 特許を受ける権利の帰属について ) 3 その他 2( 相当の利益を受ける権利について ) <1 指針の内容について> ( 主体 ) Q1 公的研究機関や病院については 指針のどの項目を参照すればよいですか A1 公的研究機関や病院に限ら

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「特許にならないビジネス方法発明の事例」(対外向け)の類型案

審査の品質管理において取り組むべき事項 ( 平成 27 年度 ) 平成 27 年 4 月 28 日 特許庁 特許 Ⅰ. 質の高い審査を実現するための方針 手続 体制の整備 審査の質を向上させるためには 審査体制の充実が欠かせません そこで 審査の効率性を考慮しつつ 主要国と遜色のない審査実施体制の確

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

0 月 22 日現在, 通帳紛失の総合口座記号番号 特定番号 A-B~C 担保定額貯金 4 件 ( 特定金額 A): 平成 15 年 1 月 ~ 平成 16 年 3 月 : 特定郵便局 A 預入が証明されている 調査結果の回答書 の原本の写しの請求と, 特定年月日 Aの 改姓届 ( 開示請求者本人

Ⅰ. 勤怠 交通費管理機能 1. 勤怠 交通費入力 (1) レコーダー (Android 端末 NFC 機能有り ) で行う場合 1 勤怠と交通費を同時に読み込む P. 1 2 交通費のみを読み込む P. 2 3 勤怠のみを読み込む P. 3 4 徹夜モードを利用する P. 4 (2)kincone

指定商品とする書換登録がされたものである ( 甲 15,17) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 4 月 21 日, 本件商標がその指定商品について, 継続して3 年以上日本国内において商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって, 不使用に

争点は,1 引用例 2 記載事項の発明該当性の判断の遺脱の有無,2 同発明該当性の判断の誤り及び3 本願発明の進歩性判断の誤りの有無である 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 24 年 5 月 2 日, 名称を 放射能除染装置及び放射能除染方法 とする発明につき, 特許出願 ( 特願 201

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4 年 7 月 31 日に登録出願され, 第 42 類 電子計算機のプログラムの設計 作成 又は保守 ( 以下 本件役務 という ) を含む商標登録原簿に記載の役務を指定役 務として, 平成 9 年 5 月 9 日に設定登録されたものである ( 甲 1,2) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平

事件名

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第1回 基本的な手続きの流れと期限について ☆インド特許法の基礎☆

た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

出願人のための特許協力条約(PCT) -国際出願と優先権主張-

平成 30 年 3 月 28 日判決言渡 平成 29 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 3 月 14 日 判 決 原告株式会社 K A L B A S 同訴訟代理人弁護士 櫻 林 正 己 同訴訟代理人弁理士 後 呂 和 男 寺 尾 泰 一 中 山 英

理由群 Ⅰ ア拒絶理由が通知された際の補正は意見書においてすることができるので, 手続補正書の提出は不要であるためイ意見書は必ず提出しなければならないというわけではないためウ拒絶理由が通知された際の補正には, 必ず意見書の提出が必要であるため 問 3 発言 2について, 適切と考えられる場合は を,

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

欧州特許出願における同一カテゴリーの複数の独立クレーム

第20回 特許要件(1)☆インド特許法の基礎☆

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

なって審査の諸側面の検討や評価が行われ 関係者による面接が開始されることも ある ベトナム知的財産法に 特許審査官と出願人またはその特許代理人 ( 弁理士 ) の間で行われる面接を直接定めた条文は存在しない しかしながら 審査官は 対象となる発明の性質を理解し 保護の対象を特定するために面接を設定す

第 2 前提となる事実 1 特許庁における手続の経緯被告は, 発明の名称を サーバ, 利用者装置, プログラム, 及び, 指標処理方法 とする特許第 号 ( 以下 本件特許 という ) の特許権者である 本件特許は, 平成 13 年 9 月 18 日に出願した特願

特許制度 1. 現行法令について 2001 年 8 月 1 日施行 ( 法律 14/2001 号 ) の2001 年改正特許法が適用されています 2. 特許出願時の必要書類 (1) 願書 (Request) 出願人の名称 発明者の氏名 現地代理人の氏名 優先権主張の場合にはその情報等を記載します 現

7 平成 28 年 10 月 3 日 処分庁は 法第 73 条の2 第 1 項及び条例第 43 条第 1 項の規定により 本件不動産の取得について審査請求人に対し 本件処分を行った 8 平成 28 年 11 月 25 日 審査請求人は 審査庁に対し 本件処分の取消しを求める審査請求を行った 第 4

第 2 事案の概要 1 本件は, 名称を 人脈関係登録システム, 人脈関係登録方法と装置, 人脈関係登録プログラムと当該プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体 とする二つの特許権 ( 第 号及び第 号 ) を有する原告が, 被告の提供するサービスにおいて使

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2.1 提供方法 提供形態 登録されたサービス利用者に発行される ID パスワードによりアクセス できるダウンロードサイトから オンラインで提供される 提供周期 新規発生分 / 更新処理分のデータは 日次及び週次で提供される ただし 週次データにおいて期間内に更新又は削除が複

Ⅰ. 事実の概要 本件は, 発明の名称を ピリミジン誘導体 とする特許 ( 第 号 ) の無効審判請求 ( 無効 ) を不成立とした審決の取消訴訟である 本件特許は, 被告特許権者等が販売する高コレステロール血症治療薬 クレストール の有効成分の物質特許である

平成 25 年 3 月 25 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 2 月 25 日 判 決 原 告 株式会社ノバレーゼ 訴訟代理人弁理士 橘 和 之 被 告 常磐興産株式会社 訴訟代理人弁護士 工 藤 舜 達 同 前 川 紀 光

第 1 原告の求めた判決 主文同旨 事実及び理由 第 2 事案の概要本件は, 特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である 争点は, 特許法 36 条 1 項 ( サポート要件 ) 適合性, 進歩性, である 1 特許庁における手続の経緯被告 ( 脱退 ) は, 発明の名称を 印刷物 とする特

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号 以下 本願 という ) をしたが, 平成 23 年 10 月 26 日付けで拒絶査定を受けたので, 平成 24 年 1 月 31 日, これに対する不服の審判を請求するとともに, 手続補正書を提出した ( 以下 本件補正 という ) 特許庁は, この審判を, 不服 号事件とし

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

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Transcription:

ソフトウェア関連発明特許に係る判例紹介 ~ 相違点に係る構成を採用する動機付けはないとして進歩性が肯定された裁判例 ~ 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 10220 号原告 : フリー株式会社被告 : 特許庁長官 2017 年 11 月 20 日 執筆者弁理士田中伸次 1. 概要原告は, 発明の名称を 給与計算方法及び給与計算プログラム とする発明について, 特許出願 ( 特願 2014-217202 号 : 本願 ) をしたが, 平成 27 年 11 月 4 日付けで拒絶査定を受けた これに対して, 拒絶査定不服審判を請求したが, 特許庁の審判合議体は, 本件審判の請求は成り立たない との審決( 本件審決 ) をした 原告はこれを不服として, 知財高裁に審決取消訴訟 ( 本件訴訟 ) を提起した 知財高裁は, 審判合議体が本審決において, 主引例に記載の発明に, 相違点 5に係る構成を採用することは当業者であれば容易であると判断したことは誤りであるとして, 本件審決を取り消す旨の判決をし, その後確定した 審判合議体は審理を再開し審理中である 本原稿執筆時点 1で,J-PlatPatの経過情報の最新更新日 2017 年 10 月 10 日である 経過情報によれば, 審判合議体より拒絶理由通知がされ, それに対して出願人が意見書及び補正書を提出し, 再度の審理を待っている状況である 2. 特許請求の範囲の記載 1) 本願に係る発明本願の審判請求時の特許請求の範囲の請求項 1の記載は, 次のとおりである 請求項 1 企業にクラウドコンピューティングによる給与計算を提供するための給与計算方法であって, サーバが, 前記企業の給与規定を含む企業情報及び前記企業の各従業員に関連する従業員情報を記録しておき, 前記サーバが, 前記企業情報及び前記従業員情報を用いて, 該当月の各従業員の給与計算を行い, 前記サーバが, 前記給与計算の計算結果の少なくとも一部を, 前記計算結果の確定ボタンとともに前記企業の経理担当者端末のウェブブラウザ上に表示させ, 1 2017 年 11 月 14 日時点 1

前記確定ボタンがクリック又はタップされると, 前記サーバが, 前記クリック又はタップのみに基づいて該当月の各従業員の前記計算結果を確定させ, 前記従業員情報は, 各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力された, 給与計算を変動させる従業員入力情報を含む ( 下線筆者 以下同様 ) ことを特徴とする給与計算方法 本願請求項 1に係る発明 ( 本件発明 ) は, 従業員情報は 各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力された, 給与計算を変動させる従業員入力情報を含む ことを特徴とする 図 1では, 従業者が 通勤手当 1ヶ月あたり, 扶養者数 を変更可能なことを示している 本件発明は, 給与計算を変動させる従業員入力情報 を 従業員 自らに, 従業員端末 を用いて入力させるので, 給与計算担当者の負担を軽減可能とするものである 図 1( 本願の図 4(b)) 2) 経過 本件特許に係る特許出願 ( 以下, 本願 と記す ) の経過は, 以下のとおりである 2

平成 26 年 10 月 24 日出願平成 27 年 7 月 14 日審査請求, 早期審査申出平成 27 年 8 月 6 日拒絶理由通知平成 27 年 8 月 18 日応対記録平成 27 年 8 月 20 日意見書, 手続補正書提出平成 27 年 11 月 4 日拒絶査定平成 27 年 12 月 3 日拒絶査定不服審判請求平成 28 年 2 月 4 日前置移管平成 28 年 4 月 8 日前置解除平成 28 年 5 月 16 日早期審理申出平成 28 年 7 月 25 日面接記録平成 28 年 9 月 7 日審決送達平成 28 年 10 月 5 日審決取消訴訟提起 3. 訴訟での争点訴訟で争点となったのは, 以下の4 点である (1) 引用発明の認定の誤り (2) 相違点 1 及び2に係る容易想到性の判断の誤り (3) 相違点 3の認定及び容易想到性の判断の誤り (4) 相違点 5に係る容易想到性の判断の誤り裁判所は (1) 及び (4) について判断した 4. 引用発明 ( 甲 4: 特開 2009-26060 号公報 ) 引用発明の目的は, 複数の事業者と, 税理士や社会保険労務士のような専門知識を持った複数の専門家が, 給与計算やその他の処理を円滑に行うことができるようにするものである 引用発明は, 複数の事業者端末と, 複数の専門家端末と, 給与データベースを有するサーバ装置とが情報ネットワークを通じて接続された給与計算システムである 事業者端末には従業員の勤怠項目の情報をサーバ装置の給与データベースに登録する手段が設けられ, サーバ装置には給与データベースに登録された勤怠項目に従い給与計算を行って計算結果を給与データベースに登録し, 且つ計算結果を事業者端末に送信するソフトウェアが設けられている 給与データベースは事業者端末ごとに分割されると共に, サーバ装置には事業者端末によって分割される給与データベースごとに専門家端末からの閲覧を制限する手段が設けられ, 専門家端末には分割された給与データベースの閲覧を可能にするか否かを設定するための設定手段が設けられると共に, 給与データベースに登録された情報を閲覧する手段が設けられる 3

図 2( 甲 4 の図 1) 5. 裁判所の判断 (1) 引用発明の認定について原告は, 本件審決は, 合理的な理由を示すことなく, 引用例の図 1に明示された社労士端末及び税理士端末から目を背け, 引用発明を誤って認定したと主張した それに対し裁判所は, 確かに, 引用例には, 発明の目的は, 複数の事業者と, 税理士や社会保険労務士のような専門知識を持った複数の専門家が, 給与計算やその他の処理を円滑に行うことができるようにするものであり, 複数の事業者と, 税理士や社会保険労務士のような専門知識を持った複数の専門家を, 情報ネットワークを通じて相互に接続することによって, 給与計算やその他の処理を円滑に行うことができることが記載され, 実施の形態には, 専門家が専門家端末を介して給与データベースを閲 4

覧し, 社会保険手続や年末調整の処理を行うことができるとする構成が記載されていると認めた しかし, 裁判所は 引用文献が公開公報等の特許文献である場合, 当該文献から認定される発明は, 特許請求の範囲に記載された発明に限られるものではなく, 発明の詳細な説明に記載された技術的内容全体が引用の対象となり得るものである と述べ, 審決の認定に誤りはないと判断した (2) 相違点 5の容易想到性について (2 1) 周知技術の認定について相違点 5は, 本願発明の従業員情報は, 各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力された, 給与計算を変動させる従業員入力情報を含んでいるのに対し, 引用発明の従業員情報は, 従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力されたものを含んでいない点 である 本件審決は, 従業員の給与支払機能を提供するアプリケーションサーバを有するシステムにおいて, 企業の給与締め日や給与支給日等を含む企業情報及び従業員情報を入力可能な利用企業端末のほかに, 従業員情報の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること は, 本願出願日前に周知の技術 ( 周知例 2 例示周知技術 ) であると認定した しかし, 裁判所は,1 従業員の取引金融機関, 口座, メールアドレス及び支給日前希望日払いの要求情報 ( 周知例 2),2 従業員の勤怠データ ( 甲 7),3 従業員の出勤時間及び退勤時間の情報 ( 乙 9) 及び4 従業員の勤怠情報 ( 例えば, 出社の時間, 退社の時間, 有給休暇等 )( 乙 10) の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること が開示されていることは認められるが, これらを上位概念化した 上記利用企業端末のほかに, およそ従業員に関連する情報 ( 従業員情報 ) 全般の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること や, 上記利用企業端末のほかに, 従業員入力情報 ( 扶養者情報 ) の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること が開示されているものではなく, それを示唆するものもないとし, 審決の周知技術の認定は誤りであるとした (2 2) 動機付けについて裁判所は, 相違点 5に係る構成を引用発明に組み合わせる動機付けについて, 以下のように判断した 裁判所は, 本願発明において, 各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて, 同端末から扶養者情報等の給与計算を変動させる従業員情報を入力させることにしたのは, 扶養者数等の従業員固有の 5

情報 ( 扶養者数のほか, 生年月日, 入社日, 勤怠情報 ) に基づき変動する給与計算を自動化し, 給与計算担当者を煩雑な作業から解放するためであると認定した 一方, 裁判所は, 引用例に記載された発明は, 複数の事業者端末と, 複数の専門家端末と, 給与データベースを有するサーバ装置とが情報ネットワークを通じて接続された給与システムとし, 専門家端末で給与計算サーバ装置にアクセスし, 給与計算を行うための固定項目や変動項目のデータを登録するマスター登録を行うことなどにより, 複数の事業者と, 税理士や社会保険労務士のような専門知識を持った複数の専門家が, 給与計算やその他の処理を円滑に行うことができるようにしたものであると認定した したがって, 引用例に接した当業者は, 本願発明の具体的な課題を示唆されることはなく, 専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて, 各従業員の従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより, 相違点 5に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難いと, 裁判所は判断した さらに, 給与担当者における給与計算の負担を削減し, これを円滑に行うということが, 被告の主張するように自明の課題であったとしても, その課題を解決するために, 上記構成に代えて, 勤怠データを従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力させる構成とすることにより, 相違点 5に係る本願発明の構成を採用する動機付けもないと, 裁判所は判断した 6. 結論 裁判所は, 相違点 5 の容易想到性の判断には誤りがあるから, 審決を取り消す旨の判 決をした 7. 考察本件判決は, 特許文献が引用文献である場合に, 当該文献から認定可能な発明は特許請求の範囲に記載された発明に限らないことが判示された この点に, 異論を挟む余地はないと考える 引用例 ( 甲 4) には, 本発明の目的は, 複数の事業者と, 税理士や社会保険労務士のような専門知識を持った複数の専門家が, 給与計算やその他の処理を円滑に行うことができるようにするものである ( 0005 ) と記載されていることから, 社労士端末や税理士端末に係る事項を含まない, 給与計算に係る発明が記載されていると認定することは, 不自然にも思える しかし, 上位概念, 下位概念の考え方を採用すれば, 社労士端末や税理士端末に係る事項を含む, 給与計算に係る発明は下位概念の発明となり, 社労士端末や税理士端末に係る事項を含まない, 給与計算に係る発明は上位概念の発明となる 下位概念の発明から上位概念念である発明を認定することは可能であるから, 審判合議体の認定に異議を挟む余地はない 6

一方, 相違点 5に係る判断では, 周知技術の組み合わせ容易性について判断された 審査において, 周知技術であれば動機付けもなく組み合わせ容易と判断されることは, 少なくないと考える しかしそれが許されるのは, 発明の目的等に照らして新たな効果を奏するものではない場合のみとすべきと考える この点は,29 条の2の実質同一の考え方と類似である 例え, 相違点に係る構成が周知技術であって, 当該周知技術を主引例に記載の発明と組み合わせることに技術的困難性がなくとも, 主引例が想定していない新たな効果を当該周知技術が生み出すのであれば, 何らかの動機付けがなければ, 主引例に記載の発明に当該周知技術を組み合わせることを, 当業者は容易に想到できたとは言えないと考えるべきである 本件では主引例に記載の発明を上位概念で捉えたがために, 下位概念である本願発明との相違点が認定された 相違点 5に係る構成は主引例における下位概念の発明では必要な構成ではなかった そのため, 相違点 5に係る構成を主引例に組み合わせるには, 動機付けが必要であると判断されたのだと考える 以上のように, 進歩性の拒絶理由通知を検討する場合には, 相違点に係る構成を主引例に記載の発明に組み合わせる動機付けがあるのか, 検討すべきである 特に, 組み合わせる構成が周知技術の場合, 審査官は拒絶理由通知において動機付けについて述べていないこともあるので, 注意が必要であると考える 以上 7