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5. 数値解析 5.2. サンゴ浮遊幼生ネットワークモデルの検討

目 次 5.2. サンゴ浮遊幼生ネットワークモデルの検討 V-5-2-15 1) 追跡計算の概要 V-5-2-15 2) 追跡手法 V-5-2-16 3) 追跡モデル 追跡手法の妥当性確認 V-5-2-17 (1) 慶良間列島 ~ 沖縄本島西岸 V-5-2-17 (2) 石西礁湖 ~ 沖縄本島 V-5-2-18 4) 追跡計算結果 V-5-2-19 (1) 各海域への供給パターンと供給経路 V-5-2-19 (2) 追跡計算結果と実際のサンゴ幼生供給状況の比較 V-5-2-23 5) まとめ 今後の課題 V-5-2-25 (1) まとめ V-5-2-25 (2) 今後の課題 V-5-2-25

5.2. サンゴ浮遊幼生ネットワークモデルの検討 先島諸島 ~ 沖縄本島 ~ 九州南岸にかけてのサンゴ幼生のネットワークを解明するために サンゴ幼生を想定した粒子の追跡計算を実施した 1) 追跡計算の概要表 -Ⅴ.5.2.1 に追跡計算の概要を示す 対象範囲を先島諸島 ~ 沖縄諸島 ~ 九州南岸とし 流況場に JCOPE (Miyazawa and Yamagata, 2003) による表層の流速結果を用いた サンゴ幼生の発生位置を石西礁湖 宮古島 慶良間列島の 3 海域 ( 図 -V.5.2.1) とし 対象時期を 2001 年 ~2011 年の 11 カ年の幼生発生時期である 5 月 6 月とした また 1 回あたりの追跡期間は サンゴ幼生が生存可能な 3 週間とした 表 -Ⅴ.5.2.1 広域粒子追跡計算の概要項目内容対象範囲先島諸島 ~ 沖縄諸島 ~ 九州南岸追跡手法オイラー ラグランジュ法流速データ JCOPE による表層流速データ幼生発生位置先島諸島周辺 ( 石西礁湖 ) 慶良間列島周辺計算時期 2001 年 ~2011 年の 5 月 6 月 1 回あたりの追跡期間 3 週間 ( サンゴ幼生が生存可能な期間 ) JCOPE(Japan Coastal Ocean Predictability Experiment) Miyazawa, Y., and T. Yamagata, 2003 : The JCOPE ocean forecast system, First ARGO Science Workshop, November 12-14, 2003, Tokyo, Japan. http://www.jamstec.go.jp/frsgc/jcope/htdo cs/topics/topics031112/poster031112.pdf 粒子初期投入箇所 慶良間列島 石西礁湖周辺 宮古島周辺 表 -Ⅴ.5.2.1 サンゴ幼生の発生位置 ( 粒子初期投入箇所 ) V-5-2-1

今回の追跡計算では 幼生は 3 海域とも同時に発生すると仮定し 粒子投入期日 ( 幼生発生日 ) を 5 月 6 月の満月から 5 日後とした 表 -Ⅴ.5.2.2 に 各年の粒子投入期日 ( 幼生発生日 ) を示す 表 -Ⅴ.5.2.2 広域粒子追跡計算における粒子初期投入期日 年次 投入月日 年次 投入月日 2001 5.11 2007 6.5 2002 5.30 2008 5.24 2003 5.20 2009 5.13 2004 6.7 2010 6.1 2005 5.28 2011 5.21 2006 5.17 2) 追跡手法粒子の追跡は JCOPE の計算結果による表層流速を用いたオイラー ラグランジュ法 ( 下式 ) によって行う X t t X t U t 1 2 U t 2 U U t ここで X t t は時刻後 t における粒子の位置を示し U は JCOPE による流速ベクトル (u,v) である なお JCOPE の水平格子間隔は 1/12 ( およそ 10km) であるが 任意時刻の位置 X の粒子を囲む流速を面積補間することで流速ベクトルに空間的な連続性を持たせる v の面積補間範囲 1/12 u の面積補間範囲 JCOPE による流速粒子の任意時刻の位置 X X における u X における v 1/12 図 -Ⅴ.5.2.2 粒子位置の流速の面積補間の模式図 V-5-2-2

3) 追跡モデル 追跡手法の妥当性確認 (1) 慶良間列島 ~ 沖縄本島西岸慶良間列島から沖縄本島西岸における 追跡モデルおよび追跡手法の妥当性確認として 灘岡ら (2002) による漂流ブイモニタリング結果との比較を行った 灘岡ら (2002) によると 2001 年 6 月 8 日に慶良間列島に投入された 10 基の漂流ブイのうち 5 基が 4~5 日後に沖縄本島西岸に達した ( 図 -Ⅴ.5.2.3) 図 -Ⅴ.5.2.4 は 本調査による追跡手法によって 同じ日時に慶良間列島周辺に粒子を投入した場合の計算結果である 投入された粒子は北東方向に輸送され 5 日後に沖縄本島西岸に達しており 灘岡ら (2002) によるモニタリング結果と一致している 小型漂流ブイ観測および幼生定着実験によるリーフ間広域サンゴ幼生供給仮定の解明, 海岸工学論文集 (2002), 第 49 巻,pp.366-370. 灘岡ら (2002) ブイNo.8 6.12 9:12 ブイNo.3 6.12 9:29 ブイNo.9 6.12 10:12 ブイNo.2 6.12 7:55 ブイNo.6 6.11 8:08 2001.6.8 16:00 ブイNo.1 ブイ10 個投入 6.10 11:20 図 -Ⅴ.5.2.3 灘岡ら (2002) による漂流ブイモニタリング結果 6.8 16:00 6.9 10:00 6.10 10:00 6.13 10:00 6.12 10:00 6.11 10:00 2012/2/2 図 -Ⅴ.5.2.4 漂流ブイを想定した粒子追跡計算結果 7 V-5-2-3

(2) 石西礁湖 ~ 沖縄本島石西礁湖から沖縄本島における 追跡モデルと手法の妥当性確認として 高橋ら (2011) による漂流ブイモニタリング結果との比較を行った 高橋ら (2011) によると 2011 年 6 月 12 日に石西礁湖に投入された 3 基の漂流ブイのうち 2 基は石垣島周辺を滞留し 1 基は黒潮に乗り およそ 2 週間後に沖縄本島西方を通過した ( 図 -Ⅴ.5.2.5) 図 -Ⅴ.5.2.6 は 本調査による追跡手法によって 同じ日時に石西礁湖周辺に粒子を投入した場合の計算結果である 結果によると 石垣島周辺に滞留する粒子と黒潮に乗る粒子があり 黒潮に乗った粒子はおよそ 2 週間後に沖縄本島西方を通過している これらの挙動は高橋ら (2011) によるモニタリング結果と一致している 漂流ブイ観測による石西礁湖から琉球諸島下流域に広がるサンゴ卵輸送の研究, 2011 年度日本サンゴ礁学会 高橋ら (2011) ブイ1 個約 2 週間後に沖縄本島西方を通過 奄美 沖縄本島 2011.6.12 18:00 石西礁湖北部にブイ 3 個投入 先島諸島 ブイ 2 個石垣島の周りを時計回りに漂流 図 -Ⅴ.5.2.5 高橋ら (2011) による漂流ブイモニタリング結果 6.12 18:00 6.15 18:00 6.19 18:00 2012/2/2 6.30 18:00 6.26 18:00 図 -Ⅴ.5.2.6 漂流ブイを想定した粒子追跡計算結果 8 V-5-2-4

4) 追跡計算結果 (1) 各海域への供給パターンと供給経路前節において 追跡モデルおよび追跡手法の妥当性が確認できたので 先島諸島 ~ 九州南岸を対象海域とした サンゴ幼生を想定した粒子追跡計算を実施した 2001 年 ~2011 年の 11 カ年の計算を実施した結果 各海域に投入された粒子は 流れによって輸送された サンゴ幼生の各海域への供給経路は以下に示す 慶良間列島 沖縄本島 石西礁湖 宮古島 石西礁湖 石西礁湖 ( 石西礁湖に留まる ) 宮古島 石西礁湖 宮古島 慶良間列島の 5 パターンであり 各海域への供給が少ないパターンを合わせると 計 6 パターンに分類された 今回の追跡計算では 石西礁湖や宮古島から直接沖縄本島に到達する粒子はみられなかった 石西礁湖から沖縄本島への輸送は 宮古島 慶良間列島を経由して 複数年かけて行われているものと考えられる それぞれのパターンの代表的な年次の結果を 追跡開始から 1 週間後 2 週間後 3 週間後について示す 1 各海域への供給が少ないパターン (2004 年 ) 1 週間後 2 週間後 3 週間後 2012/2/2 10 図 -Ⅴ.5.2.7(1) 粒子追跡計算結果 (2004 年 ) V-5-2-5

2 慶良間列島 沖縄本島のパターン (2006 年 ) 1 週間後 2 週間後 3 週間後 2012/2/2 11 図 -Ⅴ.5.2.7(2) 粒子追跡計算結果 (2006 年 ) 3 石西礁湖 宮古島のパターン (2008 年 ) 1 週間後 2 週間後 3 週間後 2012/2/2 12 図 -Ⅴ.5.2.7(3) 粒子追跡計算結果 (2008 年 ) V-5-2-6

4 石西礁湖 石西礁湖のパターン ( 石西礁湖周辺に留まるパターン )(2011 年 ) 1 週間後 2 週間後 3 週間後 図 -Ⅴ.5.2.7(4) 粒子追跡計算結果 (2011 年 ) 5 宮古島 石西礁湖のパターン (2003 年 ) 1 週間後 2 週間後 3 週間後 図 -Ⅴ.5.2.7(5) 粒子追跡計算結果 (2003 年 ) V-5-2-7

6 宮古島 慶良間列島のパターン (2009 年 ) 1 週間後 2 週間後 3 週間後 2012/2/2 13 図 -Ⅴ.5.2.7(6) 粒子追跡計算結果 (2009 年 ) 表 -Ⅴ.5.2.3 に 11 カ年の粒子追跡計算による サンゴ幼生の各年次にみられた供給パターンおよび各供給パターンの年次を集計したものを示す 各海域への供給は毎年ではなく 数年に一度の頻度であることがわかる 供給経路や供給先はサンゴ幼生が発生した時期の流況場に大きく依存する 表 -Ⅴ.5.2.3(1) 各年次の供給パターン 年次 供給パターン 2001 石西礁湖 宮古島石西礁湖 石西礁湖 石西礁湖 宮古島 2002 石西礁湖 石西礁湖 慶良間列島 沖縄本島 2003 宮古島 石西礁湖 2004 他海域への供給が少ない 2005 宮古島 石西礁湖 2006 慶良間列島 沖縄本島 2007 他海域への供給が少ない 2008 石西礁湖 宮古島 2009 宮古島 慶良間列島 2010 宮古島 慶良間列島 2011 石西礁湖 石西礁湖慶良間列島 沖縄本島 表 -Ⅴ.5.2.3(2) 供給パターンの年次集計 供給パターン 年次 他海域への供給が少ない 2004, 2007 慶良間列島 沖縄本島 2002, 2006, 2011 石西礁湖 宮古島 2001, 2002, 2008 石西礁湖 石西礁湖 2001, 2002, 2011 宮古島 石西礁湖 2003, 2005 宮古島 慶良間列島 2009, 2010 石西礁湖 石西礁湖のパターンは 多少なりとも毎年みられる傾向があった 表中に示した年次は 石西礁湖周辺に留まる粒子がとくに明瞭な年を示した V-5-2-8

(2) 追跡計算結果と実際のサンゴ幼生供給状況の比較 1 石垣島現地調査によると 2011 年と 2010 年の石垣島のサンゴ幼生加入量を比較すると 2011 年の方が顕著に多かったことが判明している 今回の追跡計算における 2010 年と 2011 年の結果を示す 2010 年では 石西礁湖周辺に投入した粒子はすぐに外洋に出て行っているのに対し 2011 年は 渦に捕捉され そのまま滞留する粒子が明らかに多いことがわかる 2010 年 1 週間後 2010 年 2 週間後 2011 年 1 週間後 2011 年 2 週間後 図 -Ⅴ.5.2.8 2010 年 2011 年の粒子追跡計算結果 V-5-2-9

2 宮古島 2010 年の宮古島の現地観測において 2 歳程度の稚サンゴが多く観察されている これは 2008 年に宮古島へのサンゴ幼生の供給が多かったことを示唆している 今回の追跡計算による 2008 年の結果をみると 石西礁湖から宮古島への供給量が多いことがわかる 2008 年 1 週間後 2008 年 2 週間後 石西礁湖から宮古島への供給が多い 図 -Ⅴ.5.2.9 2010 年 2011 年の粒子追跡計算結果 以上の 2 つの事実と比較しても 今回の追跡計算結果は一致しており 再現性が高いことが伺える V-5-2-10

5) まとめ 今後の課題 (1) まとめ JCOPE (Miyazawa and Yamagata, 2003) による表層の流速結果を用いて 先島諸島から沖縄本島 九州南岸にかけて 2001 年から 2011 年までの 11 カ年の粒子追跡計算を実施した JCOPE(Japan Coastal Ocean Predictability Experiment) Miyazawa, Y., and T. Yamagata, 2003 : The JCOPE ocean forecast system, First ARGO Science Workshop, November 12-14, 2003, Tokyo, Japan. http://www.jamstec.go.jp/frsgc/jcope /htdocs/topics/topics031112/poster03 1112.pdf 発生箇所を 石西礁湖 宮古島 慶良間列島の 3 箇所とし 発生時期は 5 月 6 月の満月の 5 日後とした 追跡期間は サンゴ幼生が生存可能な 3 週間とした 追跡計算によってみられた各海域のサンゴ幼生ネットワークは 石西礁湖 宮古島石西礁湖 石西礁湖 ( 石西礁湖周辺に留まる ) 宮古島 慶良間列島慶良間列島 沖縄本島のパターンであった 各海域への供給は毎年ではなく 数年に一度の頻度であることがわかった 石西礁湖から沖縄本島に直接供給されるパターンは今回の追跡計算ではみられなかった 石西礁湖から沖縄本島への輸送は 宮古島 慶良間列島を経由して 複数年かけて行われているものと考えられる (2) 今後の課題 サンゴ幼生の発生時期の情報を収集し 粒子投入日をより正確にする必要がある ( 今回の設定日が実際の発生日と大きく違う場合 輸送経路が変わる可能性がある ) 今回の追跡計算で用いた JCOPE の水平格子間隔は 1/12 ( およそ 10km) であり 空間スケールの小さい沿岸部 ( 例えば 慶良間列島の阿嘉島や沖縄本島の湾など ) の地形解像度は低い 多領域結合計算法を用いることで より詳細な追跡計算が可能になる V-5-2-11